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2019年9月28日 (土)

今週の読書は話題のラグビーの200年史を振り返る歴史書など計6冊!!!

今週はいろいろと忙しかったんですが、それでも硬軟あわせて6冊の以下の通りの読書です。ワールドカップが始まったラグビー200年史を振り返るボリュームたっぷりの歴史書もあります。今週もすでに図書館回りを終えており、来週も数冊の読書になりそうなんですが、何分、かなり忙しいので時間が取れないかもしれません。

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まず、杉本和行『デジタル時代の競争政策』(日本経済新聞出版社) です。著者は、財務省の事務次官経験者であり、現在は2期目の公正取引委員会委員長を務めています。もう70歳近いんでしょうが、私と同じ公務員でも出世するとここまで職が保証されるんだと、我と我が身を振り返って忸怩たる思いがあります。ということで、本書はタイトルこそ華々しいんですが、何ということのないフツーの競争政策、すなわち、公正取引委員会の通常業務がほとんど80パーセントくらいを占めます。160ページほどのボリュームのうち、第3章のタイトルが書籍と同じ「デジタル時代の競争政策」となっていいて、この第3章がメインなんでしょうが、中身は100ページ目から始まり、その第1節はグローバル化に割かれていますので、経済のデジタル化に即した内容になるのは118ページまで待たねばなりません。ただ、ここに至るまでの、いわば、前置き部分も私のような専門外のエコノミストには、競争政策をとてもコンパクトに取りまとめつつも、実際の違反事例や大企業の合併の事例などが実名入りで豊富に取り上げられており、それなりに勉強にはなりそうな気もします。そういった専門分野の方には公正取引委員会の競争政策の重点などが透けて読み取れるようになっているのかもしれません。今年2019年の6月22日付けの読書感想文で取り上げた森信茂樹『デジタル経済と税』は、同じように財務省で出世された公務員OBのご著書ながら、ほとんどデジタル経済とは何の関係もなく、国境をまたいだ移転価格操作という多国籍企業の税制に終始していたのに比べれば、それなりに、本書ではデジタル経済のプラットフォーム企業に対する競争政策や、デジタル経済に限定されないながらも、企業の自由な活動とそこから生み出されるイノベーションに対して阻害することなく、それでも、消費者の利益となる競争政策の在り方につき、示唆するところは大いにあります。SNSや検索エンジンなどを無料で提供する企業に集積されたデータのロックイン効果の防止やフリーランサーの競争促進など、基本編ながら、しっかりした内容の良書だと思います。

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次に、ターリ・シャーロット『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』(白揚社) です。著者は、英国の認知神経科学の研究者ですが、英米間を行き来しているようです。英語の原題は The Influential Mind であり、2017年の出版です。また、2018年にイギリス心理学会賞を授賞されています。認知神経学というのは聞き慣れない学問分野ですが、人間は脳であり、ニューロンの発火によって生み出される、と本書で著者は断言しています。ただ、エコノミストの目から見て、経済学における選択の問題、特に、行動経済学との関係もとても深いんではないかと、本書を読んでいて私は感じられました。言及はされていませんが、ポストトゥルースのように、客観的な事実や真実に基づいて論理や知性に訴えるのではなく、その場の雰囲気とか感情を含めたすべての感受性に訴えるのがポストトゥルースですから、本書冒頭のワクチンに関する議論なども含めて、現在の言論界や政治を理解するのには非常に適した書物です。ただ、邦訳タイトルよりも現代の英語タイトルの方が内容を理解しやすく、要するに、何が人の意見や行動に影響を及ぼすか、ということを考察しています。当然、ポストトゥルースのネット社会におけるエコー・チェンバーやフィルター・バブルの現象がワンサと満載です。そして、エコノミスト的な行動経済学や実験経済学と違って、ヒト以外の生物や、あるいは、ヒトであっても現代的な社会性がかなりの程度に欠けている文明前期的な社会や子供にすらなっていない生後間もない赤ん坊の行動なども対象にして分析を進めています。加えて、実践的、というか、何というか、邦訳タイトルのように事実で説得できないとすれば、果たしてどうすればいいのか、についても実験と実践を進めています。すなわち、何かの行動に結びつけたいのであれば、ポジティブなご褒美を用意し、逆に、何かを思いとどまらせたいのであれば、ネガティブなペナルティを示す、といった例です。もちろん、逆に、他人を説得しようとするときに陥りがちな罠と、それを避ける方法も紹介されています。それらが、それほど判りやすくないイラストとともに示されています。本書もいい読書だった気がします。

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次に、ニケシュ・シュクラ[編]『よい移民』(創元社) です。編者は、ロンドン生まれの英国の小説家・脚本家であり、インドにルーツを持っています。本書では編者も含めて計21人の「よい移民」、すなわち、演劇や文学などの芸術面で一定の成功を成し遂げたり、あるいは、名声を得たりしたアーティスト・クリエイターがエッセイを連ねています。英語の原題は The Good Immigrant であり、2016年の出版です。邦訳タイトルはそのままの直訳のようですが、単数形である点は着目しておきたいと思います。ということで、タイトルとは裏腹に、有色人種の移民として差別に遭遇した経験などの恨みつらみが集められている気もします。移民、特にアジアにルーツを持つ有色人種の移民としてのアイデンティティ、もちろん、英国社会の大きな偏見や差別や無知などを、ある時は否定的に、ある時はユーモアを交えて、繊細かつ巧妙にさまざまな表現力でもって語りかけるエッセイです。かつては、大英帝国として世界の覇権を握り、世界中に植民地を有する「日の没することのない帝国」を築き上げた英国では、もちろん、我が国と同じ島国ながら植民地などから大量の移民が流れ込んでいますが、その中で、移民の人々は「よい移民」、すなわち、お行儀のよく社会に溶け込み同化するモデル・マイノリティであることが、ほぼ強制的に要請されているような気がしますが、それに反発を覚えて、ルーツを強調する移民も少なくありません。そういった移民の視点から英国の白人社会を冷静に分析し、その根本にある何か生理的に嫌なもの、あるいは、緊張感とか、悲哀のようなものが読み取れた気がします。ただ、そういったネガな感情が底流に流れているとしても、移民はヤメにして民族国家の中で生きていくのがベスト、とは私も思わないわけで、こういったいろんな移民のいろんな視点を提供してくれる情報源は歓迎すべきと受け止めています。

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次に、周燕飛『貧困専業主婦』(新潮選書) です。著者は、労働関係の国立研究機関の研究員で、私はこの著者と同じ国立研究機関に在籍していたことがあり、著者と面識があるんではないかと記憶しているんですが、著者近影のお写真では確認できませんでした。学習院大学の鈴木旦教授の奥さまです。ということで、日本の雇用や家族のシステムの中で、本書でも指摘しているように、専業主婦とはダグラス・有澤の法則に従って、比較的所得の豊かな階層に多く見られる形態だと私も考えていましたが、実はそうではないという事実を突きつけています。すなわち、貧困であるにもかかわらず専業主婦として働きに行かないわけです。日本の貧困層の場合、典型的には3類型あり、それは高齢・疾病・母子家庭です。専業主婦ですから、亭主が働きに行っているという理解の下、母子家庭ではないとしても、疾病が多くを占めそうな気もするところ、実は、うつなどの疾病とともに、子育てに注力したい母親が決して少なくないことは初めて知りました。そして、本書の著者は、そういった家族のあり方に関する思考ですから、決してリバタリアン的な新自由主義に基づく個人の裁量に任せるのでもなく、国家が家族のあり方にパターナリスティックに介入するわけでもなく、行動経済学的なナッジを持って方向づけすることを示唆しています。まあ、そうなんでしょうね。でも、本格的に貧困問題に取り組むとすれば、すなわち、家族のあり方をリバタリアン的に個人裁量に任せつつ貧困を解消しようとすれば、ベーシックインカムの導入を真剣に考慮することが必要という気もします。我が家のカミさんはほとんど専業主婦でしたが、さすがに、私はキャリアの国家公務員ですから、一家4人を養うに足るお給料はもらっていました。日本の雇用システムは、何度か書きましたが、亭主が組織のために忠誠を誓って企業スペシフィックな能力をOJTで身につけ、無限定に長時間労働に勤しむ一方で、これまた、主婦は無限定に家庭を支える、という構造になっていました。しかし、高度成長期を終えて雇用の拡大から剰余価値生産を増加させることが困難になり、従って、企業が亭主に十分な支払いをできなくなったため、主婦を雇用に引っ張り出そうとしているわけです。それに対して、共働きをしないと貧困に陥ることを警告する本書は、私から見て少し視点がおかしいような気がします。子供を保育園に出して集団生活をさせれば粗暴でなくなるなんて研究成果を引用したりするんではなく、専業主婦でも貧困でない生活を送れるようなお給料の必要性を主張すべきです。このような企業サイドにベッタリ寄り添った主張は聞き飽きてしまいました。

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次に、トニー・コリンズ『ラグビーの世界史』(白水社) です。著者は、英国の歴史研究者であり、英国スポーツ史学会会長も経験しています。私よりも年下なんですが、デ・モントフォート大学名誉教授だったりします。英語の原題は The Oval World であり、2015年の出版ですが、前回のラグビーのワルードカップ開催前でしたので、我が日本が南アフリカのボクススプリングを破った快挙が盛り込まれておらず、従って、日本ラグビーの比重がやや小さいんではないか、という恨みはあります。ということで、邦訳タイトル通りに、ラグビー200年史を膨大なボリュームでつづっています。かなり大判の書物である上に、注や索引も含めれば軽く500ページを超えるボリュームです。書店で目にした瞬間に諦める向きもあるかもしれませんが、邦訳がとても出来がよくてスラスラと読めます。先週のジョージ・ギルダー『グーグルが消える日』の邦訳とはかなり違いがあります。ということで、ラグビー200年史というのは、ほとんど伝説として、スポーツ競技のラグビーが英国パブリックスクールのラグビー校で1823年にエリス少年がサッカーのボールを手でもって走り出したことに由来する、とされていますので、ほぼ200年ということになります。ただ、本書では、この故事を明確に否定しており、村の祝祭の時に両チーム合わせて100人超の人数で、きわめて無秩序に始まった協議であり、徐々にルールが整備され、パブリックスクールでのスポーツ教育として取り入れられ、ほかに所得の道を有する上流ないし中産階級におるアマチュアのスポーツとして始まり、少しずつ大衆化して労働者階級の選手が休業補償的な支払いを要求して、アマチュア15人制のユニオンからプロフェッショナル13人制のリーグが分裂し、それ以降、英国、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドから大英帝国の版図に従って世界に広まり、1987年にユニオン方式のラグビーで第1回のワールドカップが開催される歴史が跡付けられています。私はラグビーに詳しくないので、人名やチーム名などに馴染みありませんが、我が国で開催中のワールドカップの参考書として、もっとも読んでおくべき書物の1冊ではなかろうか、という気がします。

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最後に、広尾晃『球数制限』(ビジネス社) です。著者は、野球を中心とするスポーツ・ライターです。タイトルそのままに、高校生を中心とする野球における選手の健康維持のため、特に投手の投球数制限を論じています。ただ、ありがちな両論併記ではなく、圧倒的に投球数制限を支持し、早期に取り入れるべき、との意見を鮮明に打ち出しています。出版時期から、今夏の高校野球の岩手県決勝における大船渡高校の佐々木投手の登板回避は取り上げられていませんが、本書の精神からすれば、国保監督の英断を高く評価していたんだろうと、私は想像します。私は野球の経験はありませんが、中学高校と運動部に所属していましたので、HNK大河ドラマの「いだてん」を見ていても、昔の精神主義的なスポーツの捉え方は世代的にも実体験として知っていますし、非合理的だとも考えています。ですから、私自身も本書で展開されている投球数制限には大賛成です。ビジネス界では、目先の利益という短期的な視点ではなく、長期的な取引を重視する傾向の強い日本で、高校野球だけが勝利至上主義で短期的な選手起用に陥っているのは、理解に苦しむところもあります。例えば、本書にもある通り、正しいフォームで投げていればケガしないというのは正しくなく、本書の例を引けば、スクワットを100回出来る人はいても、無制限にスクワットを続けられるアスリートはいないわけで、野球の投手の投球も同じことだと思います。特に、10代で肉体的に完成していない高校生が、しかも、来年のオリンピックでも「暑さ対策」が声高に叫ばれている中で、真夏のグラウンドで野球するというのは、正気の沙汰ではありません。高校野球の場合、サッカーの国立競技場とは比べ物にならないくらいの存在感を示す甲子園という野球の聖地を目指して、真夏の競技をするわけで、学業との兼ね合いから夏休みに設定するという季節性の問題もあります。本書でも、米国をはじめとする野球先進国における投球数制限についてリポートされており、勝利を最優先にして甲子園を目指す高校野球のアナクロな指導者の目を覚まし、高野連における議論の活性化、というより、即時の結論を願って止みません。

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