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2019年10月19日 (土)

今週の読書はいろんな分野の経済書など計4冊!!!

今週と来週の読書はかなりペースダウンします。今週は短編ミステリのアンソロジーも含めて計4冊。来週は同じくらいか、もっと少なくなるかもしれません。でも、週3~4冊というのは、私の従来ペースからすればやや少ない気がするものの、日本人の平均的な読書ペースからすると、まずまず読んでいる方なのかもしれません。

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まず、アレックス・ローゼンブラット『ウーバーランド』(青土社) です。著者は、テクノロシジー・エスノグラファーであり、データ・アントド・ソサエティ研究所の研究者、とあるんですが、これだけでは何のことやら、私にはサッパリ判りません。英語の原題も Uberland であり、2018年の出版です。少し前のCEOのスキャンダルで揺れたウーバーなんですが、Airbnbなどと並んで、シェアリング・エコノミーとか、ギグ・エコノミーをけん引する大企業であることは間違いありません。そのウーバーについて、本書では主としてサービスを提供するドライバーの立場から企業運営などについて批判的な議論を展開しています。スマ^トフォンのアプリで簡単に予約出来たりするサービスなんですが、逆のサービス提供サイドについては、ある意味で、アルゴリズムによって最適化されたプラットフォームからの情報に基づいてサービス提供をするとはいえ、ウーバー側の情報に踊らされたり、あるいは、締め付けが厳しかったりして、「最適化」されたアルゴリズムの意味が、誰に対する「最適化」なのか、慎重に問われるべき段階に達しているように私も考えています。日本では、白タク規制があって人を運ぶウーバーのビジネスは出来ていませんが、それなら、というわけで、ウーバー・イーツの大きなボックスを背負った自転車をよく見かけます。私の知り合いのジャーナリストは都心3区で共同運用している赤いシェア自転車は、ほとんどウーバー・イーツに思える、といっていたりもしましたが、先日、ウーバー・イーツの自転車が事故で大ケガをした保障の問題の報道なども見かけました。基本は、同じ問題ではないかと私は考えていますが、確かに、一般的な工場勤務やオフィスワークなどと違って、締め付けが個別バラバラの各個撃破になっていますので、さらに激しさの程度が高い気もします。ただ、アルゴリズムによる最適化のギグ・エコノミーの問題ではなく、あくまで、利潤最大化を目指す企業活動の問題と考えるべきです。すなわち、ギグ・エコノミーのウーバーだけではなく、多かれ少なかれ、アナログなタクシー業界でも同じ問題があるんではないか、と私は推測しています。もっとも、こういった新しげなギグ・エコノミーでの問題点を指摘すると話題になりやすいのも事実であり、こういった突破口から雇用や労働について、本来的な問題を考える起点になればいいのではないか、と私は考えています。本来的な視点を忘れるべきではないものの、社会的な注目度の向上にも配慮したいのは理解できます。

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次に、アダム・オルター『僕らはそれに抵抗できない』(ダイヤモンド社) です。著者は、米国ニューヨーク大学の准教授ですから若手研究者なんだろうと思います。専門は、行動経済学やマーケティング論だそうです。上の表紙画像に見える通り、英語の原題は Irresistible であり、2017年の出版です。邦訳タイトルの副題が「依存症ビジネス」のつくらかた、と和っていて、まざに、そのものズバリです。経済学的には、マイクロな経済学の観点から、シカゴ大学のベッカー教授なんかが「合理的な依存症の経済学」A Theory of Rational Addiction なんぞを検討していますが、本書の著者や私なんぞのように依存症ビジネスなんて合理的でもなんでもなく、健全な経済発展のためにはむしろ排除すべき対象のように考えているエコノミストとしては、受け入れられるもんではありません。本書でも、冒頭に、iPadのタブレットを考案してアップルから売り出したジョブズは、むしろ、自分の子供達にはタブレットを使わせなかった、という印象的なエピソードから始めています。インターネットに誰でもが気軽かつ安価にアクセスできるようになり、タブレットやスマートフォンなどの携帯できる端末によって、主として、ゲームとして楽しめるようになり、依存性の症状が広まり始めたと考えられます。第1章では、アルコールやドラッグなどのモノへの依存症から、今では行動嗜癖と呼ばれるアクションへの依存症が広まっていることが明らかにされ、第2章では、新しい依存症が人を操る6つのテクニックとして、数値設定などの目標依存症、SNSの「いいね!」やフォロワーを集めようとするフィードバック、射幸心を煽るガシャポンなどをはじめとする進歩の実感、ゲームだけでなく仕事も含めた難易度のエスカレート、ネットフリックスが生んだビンジ・ウォッチングをはじめとする行動経済学のナッジを悪用したクリフハンガー、インスタが刺激する他人と比較したい欲求を煽る社会的相互作用、の6点を上げています。ただ、これらのビジネス側のテクニックに対して、第3部で展開される3つの解決法はいかにも脆弱というそしりは免れず、さらに、エピローグでは、今後もこういった依存症ビジネスが予期せぬ形で現れる可能性を示唆しているだけに、むしろ、アナログの世界に閉じこもったほうがマシ、とすら考えてしまいます。私は自分自身を、特に意志が強かったり、精神が健全なるがゆえに、こういった依存症からは無縁、と考えているわけではなく、いついかなる場合でも陥る危険があると警戒心を怠らない必要があると考えていますが、個人的な病気という処理ではなく、社会全体としてあるいはシステムとして、こういった依存症から毒室した人格形成を目指すべきであり、そのためには市場万能ではなく、適切に市場の失敗を回避する方法を模索する必要があると考えています。そのためには、社会的な生産様式をさらに進化させる必要があるかもしれません。

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次に、レイ・ダリオ『PRINCIPLES』(日本経済新聞出版社) です。著者はヘッジファンドのウォーターブリッジ・アソシエイツの創業者であり、投資業界の著名人です。英語の原題も PRINCIPLES であり、2017年の出版です。第1部の著者の生い立ちは別にして、第2部の人生の原則と第3部の仕事の原則が中心をなしています。もちろん、年配の成功した実業家の本ですから、上から目線の自慢話ばかりなんですが、まあ、そういった本だと覚悟して読み進めばいいんではないかと思います。私の知り合いで、もともとエンジニアなんだと記憶していますが、業界の常なのかどうか、パナソニック創業者の松下幸之助を大いに尊敬して、その著書も読んでいる人がいます。まあ、そんな感じで軽く考えてヒマ潰しの読書と割り切るのが吉かもしれません。ただ、かなりの大判の本で600ページ近いボリュームです。邦訳がいいのでスラスラと読めますが、大きさで気後れする人がいるかもしれません。内容は人それぞれの受け止めなんだろうと思いますが、私には3点ほど目につきました。まず、人生と仕事の原則に共通して、いろんな局面でオープンであることの重要性は私も大いに同意するところです。政府機関に長らく勤務した経験から、いわゆる「よらしむべし、知らしむべからず」という裏ワザが身についてしまっている気もしますが、私もオープンでありたいと思います。次に、もうひとつ気にかかったのは、これも人生と仕事の両方に共通して苦楽に対する考え方で、とても循環的というか、「苦」がなければ「楽」が来ないような体験が多いのかもしれません。我が国の政権でも、「痛みを伴う改革」を強調する場合がありますが、私は「苦」や「痛み」は否定的です。避けられれば避けた方がいいに決まっています。キリスト教的には自らに苦痛を与える宗派があって、『ダビンチ・コード』でも出てきたように記憶していますが、仏教の浄土真宗の門徒である私としては、楽な方がいいに決まっています。最後に、仕事だけの原則ではなかったかと思いますが、「誰」の方が「何」よりも重要という原則がありました。生産の場ばかりではありませんが、企業活動においては人的資本の方が物的しほにょりも重要であるというのは、多くの経営者が同意しているようですが、なかなか実践している場合は少ないような気がします。モノである資本よりも労働・雇用の方が重要です。いうまでもありません。

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最後に、日本推理作家協会[編]『ザ・ベストミステリーズ 2019』(講談社) です。タイトルから明らかに理解される通り、ミステリの短編を集めたアンソロジーです。収録作品は、澤村伊智「学校は死の匂い」、芦沢央「埋め合わせ」、有栖川有栖「ホームに佇む」、逸木裕「イミテーション・ガールズ」、宇佐美まこと「クレイジーキルト」、大倉崇裕「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」、佐藤究「くぎ」、曽根圭介「母の務め」、長岡弘樹「緋色の残響」の9作であり、もともとの短編の出版元も本書の講談社に限定されていません。上の要旨画像に見られる宣伝文句は「耽読必至! ようこそ、日本最高水準のミステリーの世界へ」ということなんですが、決して大げさではありません。とても水準の高いミステリ短編ばかりです。世の中には長編ミステリを有り難がる人も少なくないですし、私も理解するんですが、こういった水準の高い短編集も見逃せません。

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