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2019年11月20日 (水)

輸入の大幅減により10月の貿易収支は黒字に転換!

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲9.2%減の6兆5774億円、輸入額も▲14.8%減の6兆5601億円、差引き貿易収支は+173億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月輸出9.2%減、対中国10.3%減 自動車や鉄鋼低調
財務省が20日発表した10月の貿易統計(速報)によると、輸出額は前年同月比9.2%減の6兆5774億円となった。11カ月連続で減少した。2016年10月の10.3%減以来3年ぶりの落ち込み幅となった。米中貿易戦争の影響が長引いており、中国やアジア向けの自動車や鉄鋼などの輸出が落ち込んだ。
アジア全体への輸出は11.2%減の3兆5361億円だった。このうち、中国向けは10.3%減の1兆3230億円だった。中国への輸出はプラスチック原料となる有機化合物が24.9%減だった。自動車部品は21.1%減、自動車用エンジンを主力とする原動機は24.9%減となった。ハイテク製品だけでなく、製造業全般に関わる幅広い品目で需要が縮小した。
日韓の貿易をめぐる対立もあって、韓国向けは23.1%減の3818億円だった。米国への輸出は11.4%減の1兆2676億円、欧州連合(EU)向けは8.4%減の7436億円だった。
10月の輸入は14.8%減の6兆5601億円だった。台風被害で物流が滞った影響が出たようだ。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は173億円の黒字(前年同月は4562億円の赤字)と、4カ月ぶりに黒字転換した。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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ということで、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは貿易収支の黒字を+3351億円と見込んでいたんですが、メチャメチャにレンジが広いので何ともいえません。ヘッドラインで書いた統計の繰り返しになりますが、前年同月比で見て輸出額が▲10%近く減少したものの、輸入額がそれを大きく上回る▲15%近い減少ですから、縮小均衡的に輸入の減少が輸出の減少を上回って、差引き貿易黒字は黒字、というわけですので、決して日本経済・世界経済の動向から考えて好ましい姿とは思えません。ただし、我が国の輸出が減少傾向にあるのは、割合と単純に、世界経済の減速という需要面の影響を受けていると考えられるのに対して、輸入の減少については、国内景気の減速という需要要因に加えて、いくつかの別の要因が複雑に絡まっている気がします。すなわち、10月統計ですので消費税率引上げ直後ということもあって、その前の駆込み需要の反動減という要素は考慮すべきです。さらに、今年2019年10月上旬には大型の台風19号の影響も無視できません。東海道新幹線をはじめとして交通が遮断されたことによる物流面での影響は、輸入に対してマイナスに作用したことはいうまでもありません。最後に、どこまでカウントできるかは不明であるものの、昨年2018年9月には台風21号の影響でしばらく関西空港が閉鎖され、直後の2018年10月にはその反動で物流が大幅増となり、今年2019年10月は前年同月である昨年2018年10月の関西空港再開後の輸入増の裏年、ということも出来ます。こういった我が国国内景気の需要動向以外の天候要因なども輸入を下押し、ないし、輸入の伸びを低下させる方向に働いたと考えられますので、輸入減を国内景気とストレートに結びつける必要はないと、私は考えています。もちろん、こういった天候に起因する物流面での影響は輸出入に対して、どこまで対称なのか、あるいは、非対称なのか、私はやや不案内なのですが、少なくとも、消費税率引上げ直後の反動減については輸入により大きなマイナス要因となったことは明らかです。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、上のグラフのうちの2番め真ん中と一番下のパネルのOECD先行指数を見る限り、先進国も中国もいずれも景気はそろそろ下げ止まりつつあるように見受けられます。ただ、我が国輸出は世界経済や中国の需要要因ほどには回復を見せていません。少なくとも、10月統計については台風19号の物流要因もあることから、今後の輸出の回復に期待したいと思います。

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