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2020年1月 4日 (土)

年末年始休みの読書やいかに?

年末年始の読書は、すでに火曜日に取り上げたジャレド・ダイアモンド『危機と人類』を別にして、いろいろと取り混ぜて、以下の通りです。なお、今日の日経新聞に、昨年2019年12月28日の読書感想文で取り上げたアイザックソン『イノベータース』上下と11月30日付けの青山七恵『私の家』の書評が掲載されていました。大手新聞に先んじたのはとても久しぶりな気がします。なお、まだ正月休みが私の場合続いていて、夕方から缶ビールを開けている上に、全部で9冊もありますので、手短かにして手を抜きます。悪しからず。

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まず、ミレヤ・ソリース『貿易国家のジレンマ』(日本経済新聞出版社) です。著者は、メキシコ出身のエコノミストであり、現在は米国ブルッキングス研究所の東アジアセンター所長を務めており、中学生の頃に日本語を勉強していて当時の大平総理と会ったことがあるそうです。英語の原題は Dilemmas of a Trading Nation であり、2017年の出版です。ということで、タイトルにあるジレンマとは、本書では2つ指摘されていて、ひとつは既得権益に切り込む決断が求められる局面になるほど反対論が広がり、幅広い合意を得にくくなる点であり、もうひとつは自由化で不利になる部門に対する補助金の支出と、一部の産業に縮小や退出を求める改革の断行が出来にくくなる点、とされています。自由貿易の場合、一国全体ではお得なわけですが、あくまで得をするセクターと損をするセクターを比べて、前者から後者に補償がなされるとういう前提ですので、ジレンマと称するのは少し違う気もしますが、現実には、そういった補償は十分ではなく、確かに焦点を当てる値打ちはあるのかもしれません。本書でも指摘されている通り、損をするセクターはツベルスキー-カーネマンのプロスペクト理論からして主張する声が大きくなりますので、それなりの補償が自由貿易を公正な貿易にするために必要です。本書では、当然ながら、日本についても大きな注目を払っています。

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次に、石井光太『本当の貧困の話をしよう』(文藝春秋) です。著者は、ノンフィクション・ライターであり、貧困や格差に注目しているようですが、エコノミストではありませんから、本書ではかなりアバウトな議論が展開されていると覚悟して読み始めるべきです。例えば、冒頭から、世界の貧困と日本の貧困が並べられていますが、前者の世界レベルは絶対的貧困である一方で、後者の日本レベルは相対的貧困率ですので、著者が意図的にそれを狙っているとは思いたくありませんが、詳しくない読者は日本人の7人に1人が1日1.9ドル未満で暮らしていると勘違いすることと思います。ただ、若年者にスポットを当てた貧困論、あるいは、格差論を展開していますので、私は好感を持ちました。貧困を論ずる場合、どうしても、母子家庭、高齢者、疾病が3大要因となっている現実がありますので、高齢層に注目してしまう例もあるんですが、母子家庭を含めて若年者の貧困や家庭問題に着目しているのは評価できます。また、日本国内だけでなく、広く世界の貧困の実態にも目配りが行き届いています。

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次に、広田照幸『大学論を組み替える』(名古屋大学出版会) です。著者は、東京大学大学院教育学研究科教授などを経て、現在は日本大学文理学部教授、日本教育学会会長を務めています。出版社からしても、かなり学術書に近い印象です。何度か書きましたが、私は今年は生まれ故郷の関西に引っ越して、4月から私大経済学部の教員になる予定です。ただ、学生諸君への教育や自分自身の研究とともに、公務員出身ですので何らかの大学運営に携わることも期待されているのではないか、と勝手に想像して、大学改革論を1冊読んでみました。教育については、医療などとともに、いわゆる非対称性の大きい分野であり、市場経済では効率性が確保されません。その上、学問の自由や大学自治が絡むと、かなりヘビーなイシューとなります。今年の1年目からいきなり大学や学部の運営に関わることはないとは楽観していますが、これから、先々勉強することとしたいと考えています。

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次に、ニール・ドグラース・タイソン & エイヴィス・ラング『宇宙の地政学』上下(原書房) です。著者は、米国自然史博物館の天体物理学者と同じ博物館ん研究者・編集者です。英語の原題は Accessory to War であり、2018年の出版です。ノッケから、天体物理学がいかにも戦争のために利用可能な現状を宣言し、中世から天文学者が戦争において果たした役割の解説から始まったりします。でも、本書は純粋な天文物理学書でもないことは当然ながら、軍事的な武器の解説書といった内容でもなく、もっと散文的なコンテンツを想像していた私には、かなり詩的な表現ぶりに驚かされたことも事実です。中世から始まって、宇宙の軍事利用の歴史をかなり長期にさかのぼって振り返り、米ソの宇宙開発の戦争利用の可能性を広く主張し、私も含めてついつい人々が目を逸らしがちな現実を明らかにしてくれています。

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次に、加藤陽子『天皇と軍隊の近代史』(けいそうブックス) です。著者は東大の歴史研究者であり、近代史がご専門と認識しています。ということで、タイトル通りの内容なんですが、明治以降の近代で初めて譲位という形で天皇の交代があり、開眼した経験を経て、近代における天皇と軍隊の歴史を振り返ります。天皇から「股肱の臣」と呼ばれた軍隊に対して、軍人勅語が示され、統帥権の独立、というか、内閣からの不感症を確立して戦争に突き進む実態が歴史研究者によって明らかにされています。ただ、内容的には、掘り尽くされた分野ですので、特に新たな史的発見があるわけではありません。ただ、振り返っておく値打ちはありそうな気がする分野です。

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次に、諏訪勝則『明智光秀の生涯』(吉川弘文館歴史文化ライブラリー) と外川淳『明智光秀の生涯』(三笠書房知的生きかた文庫) です。著者は、陸上自衛隊高等工科学校教官と歴史アナリスト・作家です。今年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主役は明智光秀だったりしますので、私も少し勉強してみたく、2冊ほど借りて読みました。明智光秀といえば、当然ながら、織田信長を暗殺した本能寺の変なんですが、その要因としても、現代でいえばパワハラに反発した怨恨説から、天下奪取説、調停や室町幕府や果ては秀吉までが絡む黒幕説、などなど、いろいろと持ち出されているんですが、斉藤利三首謀説まで飛び出しています。ただ、斉藤利三が仕掛けたのだとすれば、春日局が取り立てられることはなかった気もします。それは別として、跡付けの歴史的な観点からすれば、天下統一後の政治的展開を考えれば、重厚な家臣団を擁する織田か徳川くらいしか治世展開を続けることが出来ず、成り上がりの豊臣秀吉とか、明智光秀も天下統一を維持して天下泰平まで実現することは難しかっただろうと私は考えています。明智光秀は確かに文化人だったのかもしれませんが、それだけで天下はどうにもなりません。

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最後に、グレン・サリバン『海を渡ったスキヤキ』(中央公論新社) です。著者は米国ハワイ生まれで、1984年に来日し、英会話学校教師として勤務後、雑誌『日本語ジャーナル』の英文監修者・翻訳家として活動した後、1992年に帰米してコーネル大学大学院でアジア文学を履修、とあり、邦訳者のクレジットがありませんから、著者が日本語で書いたものであろうと私は想像ています。基本的に、和食が米国でどのように受容されていったのかの歴史を展開しているんですが、その和食を持ち込んだ日本人が米国で受容されたのかの歴史にもなっています。もちろん、第2次世界対戦時の収容所についても言及があり、悲しい歴史にも目を背けていません。天ぷらは本書では注目されていませんが、スシや鉄板焼など、とても家庭の主婦が調理するとは思えない料理が、ついつい、米国をはじめとする諸外国では「日本食」として認識される中で、そういった誤解を助長しかねない本書なんですが、それはそれで、和食・日本食の海外展開での歴史を知ることが出来るような気がします。

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