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2020年1月 9日 (木)

債務が財政危機をもたらすのだろうか?

年末年始の学術論文紹介シリーズ第3回にして早くも最終回です。国際通貨基金(IMF)のワーキング・ペーパー2020年第1号にして "Debt Is Not Free" と題する債務と財政危機の関係に対する論考です。いつもの論文アップロード先は以下の通りです。

ここで、タイトルがあくまで "Debt" となっているところがミソで、引用文献には決して現れないながら、いかにも、ケルトン教授やレイ教授の現代貨幣理論=MMTを十分に意識した内容となっていますが、決して、政府の国内債務に限定することなく議論を展開しています。まず、やや長くなりますが、IMFのwebサイトから英文のままSummaryを引用すると以下の通りです。

Summary
With public debt soaring across the world, a growing concern is whether current debt levels are a harbinger of fiscal crises, thereby restricting the policy space in a downturn. The empirical evidence to date is however inconclusive, and the true cost of debt may be overstated if interest rates remain low. To shed light into this debate, this paper re-examines the importance of public debt as a leading indicator of fiscal crises using machine learning techniques to account for complex interactions previously ignored in the literature. We find that public debt is the most important predictor of crises, showing strong non-linearities. Moreover, beyond certain debt levels, the likelihood of crises increases sharply regardless of the interest-growth differential. Our analysis also reveals that the interactions of public debt with inflation and external imbalances can be as important as debt levels. These results, while not necessarily implying causality, show governments should be wary of high public debt even when borrowing costs seem low.

批判的に検討を加えているのは、MMTではなく、むしろ、IMFのチーフエコノミストも務めて、身内ともいえるブランシャール教授が American Economic Review で明らかにした論文、というか、講演録 "Public Debt and Low Interest Rates" あたりが念頭にあるのかもしれません。この論文では、現在の低金利の米国では安全資産の金利が成長率を下回っており、政府債務は資本蓄積を妨げ経済的な厚生コストを発生させるとしても、"Put bluntly, public debt may have no fiscal cost." とブランシャール教授は主張しています。長崎大学の紀要論文「財政の持続可能性に関する考察 - 成長率・利子率論争と時系列データによる検定のサーベイ -」で私が主張したように、国債金利が成長率を下回る動学的不均衡の状態にあるならば、政府債務は破綻せずサステイナブルである、というのがブランシャール教授の論点です。

photo

本論文 "Debt Is Not Free" では、別のアプローチを取っています。すなわち、上のグラフは本論文 p.40 から Figure 13. Overall Interaction Strength を引用しているんですが、政府債務そのものではなく、国内貯蓄で賄い切れなくなった結果として、公的対外債務が累積すると過去の財政危機の履歴と相まって財政危機を引き起こす可能性が高くなる、という点が強調されているような気がします。英文で70ページ近い論文なものですから、ひょっとしたら、私の方で十分把握できていない恐れもあったりするんですが、財政危機と対外収支危機も峻別されていないような印象すらあります。ともかく、MMTはもとより、ブランシャール教授の動学的不均衡下での政府債務の持続可能性についても、反論できていないように感じるのは私だけでしょうか?

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