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2020年2月29日 (土)

今週の読書はペースダウンしつつも、スティグリッツ教授の経済書をはじめ計4冊!!!

今日までの2月いっぱいで、ほぼほぼ住宅の契約関係、すなわち、現住居の売却と新居の購入の契約などは終えました。もちろん、実際の引越しなどは3月の下旬になるわけですが、契約関係は私が全面に出るとしても、引越しなどの実務は女房が指揮を執ることになります。そして、東京都民最後の1ト月となり、読書の方も少しずつペースダウンしています。今週はスティグリッツ教授の印象的な資本主義論をはじめとして以下の計5冊です。

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まず、ジョセフ E. スティグリッツ『スティグリッツ・プログレッシブ・キャピタリズム』(東洋経済) です。著者は、リベラルなエコノミストであり、ノーベル経済学賞受賞者です。英語の原題は People, Power, and Profits であり、2019年の出版です。ということで、先々週2月9日付けの読書感想文で取り上げたエリック A. ポズナー & E. グレン・ワイル『ラディカル・マーケット』と同じ出版社から、同じ趣旨の資本主義の修正を迫る内容となっています。市場における資源配分を基礎とする資本主義が、もはや、効率的な経済や、ましてや、公平で公正な分配をもたらすことはあり得ない、と多くのエコノミストが認識し、今や、ごく限られた一部の富裕層や大企業にのみ奉仕するシステムになり果てていることは、エコノミストならずとも、多くの一般国民が実感しているところではないでしょうか。特に、米国の場合、トランプ政権成立後は国内的な分断が激しく、格差問題をはじめとする経済だけでなく、フェイク・ニュースをはじめとして、政治的に民主主義が危機に瀕しているとの見立てすらあります。日本と違って、米国の場合は宗教的なものも含めて迫害から逃れて移民して来た人々が建国した国ですので、少数者を多数者の専横から保護するシステムも発達していますが、そういった米国本来の民主主義が歪められていると見る有識者も少なくありません。本書でも、主眼は経済なのかもしれませんが、第2部冒頭の第8章をはじめとして、民主主義の重要性を主張している論調も少なくありません。累進課税の復活や教育をはじめとする機会均等の実現などなど、米国独自の課題は少なくありませんが、日本と共通する部分もかなり私には見受けられました。一般読者を対象にした啓蒙的な内容を主とする経済書ですが、専門的な原虫が100ページを超えており、私はそれなりにていねいに読んだつもりですが、この原虫を含めてしっかり読めば、かなり理解が深まるような気がします。冒頭に言及した『ラディカル・マーケット』やバルファキス教授の『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』などとともに、経済を民主化して国民生活をより豊かで実り多いものにすることを目指しているのであれば必読です。

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次に、ジェームズ C. スコット『反穀物の人類史』(みすず書房) とルイス・ダートネル『世界の起源』(河出書房新社) です。国家や世界の起源に関する2冊を強引かつ無理やりにいっしょに論じようとしています。ズボラで申し訳ありません。まず、『反穀物の人類史』の著者は米国イェール大学の政治学の研究者で、英語の原題は Against the Grain であり、2019年の出版です。『世界の起源』の著者は、英国レスター大学の英国宇宙局に在籍する宇宙生物学を専門とする研究者で、英語の原題は Origins であり、2018年の出版です。この著者の本としては、同じ出版社から邦訳が出ている『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』を数年前に私は読んだ記憶があります。ということで、まあ、理解できるところですが、『反穀物の人類史』は経済社会的な視点から国家の成立を論じ、ティグリス=ユーフラテス川の流域に国家が生まれたころから、せいぜいがギリシア・ローマの古典古代の奴隷制経済までをスコープとしているのに対して、『世界の起源』は宇宙物理学や宇宙生物学の視点から世界の成り立ちを追っていますから、ホモ・サピエンス登場以前から産業革命後までも含めて、さらに壮大な長期を対象にしています。私が注目している現代貨幣理論(MMT)では、貨幣の起源を国家による徴税への強制的な支払いに求めていますが、『反穀物の人類史』では穀物が国家の税金として採用されたのは、熟する時期が限定されており、同じように保存のきく豆類との違いを上げています。ただ、生産力の成長とそれに合わせた奴隷制の成立については、少し私には違和感あります。やっぱり、著者も言及しているエンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』ほどには私の直感に響きませんでした。『世界の起源』では、人類の物語を本当に理解するには、地球そのものの経歴を調べなければならないと説き、地表だけでなく地下の構造、大気の循環、気候地域、プレートテクトニクス、大昔の気候変動などを対象として分析し、環境が人類に残した痕跡を探ろうと試みています。

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次に、松山秀明『テレビ越しの東京史』(青土社) です。著者は、建築学の学生から都市の映像学に転じた研究者であり、本書は著者の博士論文をベースにしています。ということで、タイトル通りに、戦後の東京を大雑把に20年ごとに区切って、テレビと東京との関係、すなわち、著者のいうところの首都としての東京論と東京の空間論について、p.29の三角形、テレビによる東京という放送制度論、テレビに描かれた東京、東京の中のテレビという東京空間におけるテレビの3つの視覚から歴史的に考察を加えています。もちろん、その背景にはテレビというハードウェアとそのハードウェアの普及を促すソフトウェアの提供があるはずなんですが、1959年の皇太子ご成婚と1964年の東京オリンピックをそれに当てています。ただ、ハードウェアとソフトウェアという用語は本書では用いられていません。ちなみに、私の記憶する限り、力道山をはじめとするプロレスもテレビの普及に貢献したと考えているんですが、これも著者はほぼほぼ無視しています。ハイカルでもなければ、サブカルでもないし、やや偏った印象を私は受けました。そして、もうひとつ、奇っ怪だったのはテレビドラマの見方です。TBSの「岸辺のアルバム」はいいとしても、お台場に移転したフジテレビのいわゆる月9枠のテレビドラマ、典型は「東京ラブストーリー」を、お台場というイントラ東京の地域性だけ論じようと試みています。これはいくら何でもムリがあります。バブル経済という経済的な時代背景を視野に入れずして語ることは大きな片手落ちというべきです。本書でも指摘している通り、大宅壮一の「一億総白痴化という批判を前に、お堅いドキュメンタリーやノンフィクションの報道から始まったテレビのひとつの到達点なんですがら、ここはチキンと抑えて欲しかった気がします。あと、せっかくオリンピックから始まったテレビですので、スポーツをもっとていねいに取り上げて欲しかった気がします。堺屋太一のいう「巨人、大鵬、卵焼き」にも登場するプロ野球と大相撲を無視したのは私には理解できません。ということで、これから大学教員になる私の目から見て、かなりレベルの低い博士論文だという気がします。私が主任教員であれば決して通さなかったでしょう。

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最後に、今週の読書唯一の小説で、道尾秀介『カエルの小指』(講談社) です。著者は、直木賞作家の小説家です。この作品は『カラスの親指』の続編、十数年後という位置づけです。ですから、武沢竹夫が主人公で、まひろ、やひろ、貫太郎らも登場します。繰り返しになりますが、十数年後という設定ですから、まひろがアラサー、やひろも40歳近い年齢に達しており、やひろと貫太郎の夫婦にはテツという小学生の子供も生まれています。前作の『カラスの親指』と同じように、大規模なペテンを仕掛けたように見えつつも、実は、…、という設定です。ということで、主人公の武沢竹夫は詐欺師から足を洗い、口の上手さを武器に実演販売士として真っ当に生きる道を選んだんですが、謎めいた中学生のキョウがその実演販売に水を差し、未公開株式詐欺にあって呉服屋を倒産させられた祖父母や母のかたき討ちを持ち込まれて、再び派手なペテンを仕掛けようと試みます。前作と違って、そこの詐欺を糾弾するフリをしたテレビ番組も巻き込んで、大規模なペテンが始まりますが、最後の最後に、やっぱり、大きなどんでん返しが待っています。私は前作の『カラスの親指』は原作も読みましたし、石原さとみと能年玲奈が出演した映画も見て、それなりに満足しましたが、この作品は前作ほど面白くもなければ、ミステリとして出来もよくありません。何となく、国民がそのまま高齢化した日本社会の「つまらなさ」を体現しているような小説です。でも、私のような道尾秀介ファンは読んでおくべき作品といえます。

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