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2020年3月 8日 (日)

先週の読書は東京でのまとまった最終の読書か?

昨日の記事に米国雇用統計が割り込んで、先週の読書感想文が今日になってしまいました。かなり無理のある戦争や戦闘をマネジメントの視点から取り上げた経営書、啓蒙書などに加えて、大御所作家によるミステリ短編集まで、以下の通りの計5冊です。この先も、パラパラと読書は進めますが、週数冊のペースの読書は、当面、今日の読書感想文で最後になります。3月中に京都に引越してから、大学の研究費を使っての書籍購入の読書、また、京都をはじめとする公立図書館から借りての読書のいずれも、現時点ではどうなるものやら、まだ何ともいえません。

 

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まず、野中郁次郎ほか『知略の本質』(日本経済新聞出版社) です。著者の1人である野中教授は一橋大学の研究者であり、経営学の泰斗なんですが、この本では戦略論などの観点から、モロに戦争や戦闘を取り上げています。その昔に『失敗の本質』を出版した際のメンバーによく似通っています。兵制や武器に関する知識は、私にはからっきしありませんが、それを差し引いても戦略に関して判りにくさは残りました。日本経済新聞出版社から上梓されている意味が私には理解できませんでした。でも、ビジネス書としてトップテンにランキングされていた時期もあります。私は戦争や戦闘に詳しくないのに加えて、経営にもセンスないのかもしれません。ということで、取り上げているのは、第2次世界大戦以降の戦争や戦闘であり、第2次大戦における独ソ戦、同じく英国の空戦と、海戦、ベトナムがフランスと米国を相手にしたインドシナ戦争、そして最後に、イラク戦争と4章に渡って議論が展開されています。第2章の英国の戦略というか、時の首相だったチャーチルのゆるぎない信念と国民の一致団結した方向性などは経営にも通ずるものがある一方で、第1章のロジスティックス、というか、兵站や補給の重要性については、経営的にどこまで意味あるかは私には不明です。ただ、クラウゼビッツ的に政治や外交の手段としての先頭や戦争については、その通りだと思います。唯物論者の私にとって、圧倒的な後方支援体制、というか、物的生産力を有する米国がベトナムに敗れたのは、大きな謎のひとつなんですが、英国のチャーチルと同じで、ホーチミンもまた民族の独立という大義を全面に押し出し国民感情に訴えることで、広く共感を呼び起こし、国民の団結をもたらし、武力に勝る何らかのパワーを引き出した、といことなのだろうと思いますが、それをどのように経営に応用するんでしょうか?

 

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次に、スティーブン・ピンカー『21世紀の啓蒙』上下(草思社) です。著者は、米国ハーバード大学の認知科学の研究者です。学識経験者や有識者の世界的な代表者のひとりといえます。英語の原題は Enlightenment Now であり、ハードカバー版は2018年の出版です。ということで、啓蒙についての定義とまではいえないかもしれませんが、世界に関する正しく科学的な認識が生活の豊かさをもたらす、という観点を強調しています。ポストトゥルースやフェイクニュースなんぞはもってのほか、ということです。その意味で、強烈な米国トランプ政権批判の要素を秘めている点は忘れるべきではありません。啓蒙主義の理念は、理性、科学、ヒューマニズム、進歩などであり、私がよく言及するように、保守とは歴史の進歩を否定したり、進歩を押しとどめようとする一方で、左派リベラルは歴史の進歩に信頼を寄せ、パングロシアン的といわれようとも、人類の歴史は正しい方向に進んでいる、と考えています。歴史の流れを押しとどめるのが保守であり、ついでながら、この歴史の流れを逆回しにしようとしているのが反動といえます。本書第2部では、延々と人類の歴史の進歩が正しく実り大きい方向にあった点を跡付けています。その意味で、特に、2016年の米国大統領選挙や英国のEU離脱を決めたレファレンダムあたりから、世界の進む方向が変調をきたした、との論調を強く否定しています。その意味で、「世界は決して、暗黒に向かってなどいない。」との分析結果を示していますし、私はそれに成功していると受け止めています。とてもボリューム豊かな上下2冊であり、中身もそれなりに難解な内容を含んでいますので、読み始めるにはそれなりの覚悟が必要ですが、読み切れば大きな充実感が得られると思います。私は不動産契約のために京都を新幹線で往復した日ともう半日くらいで読み切りましたが、じっくりと時間をかけて読むのもいいような気がします。その意味で、図書館で借りるよりも書店で買い求めるべきなのかもしれません。

 

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次に、スー・マケミッシュほか[編]『アーカイブズ論』(明石書店) です。著者たちは、もナッシュ大学を中心とするオーストラリアの研究者が多くを占めています。英語の原題は Archives: Recordkeeping in Society であり、2005年の出版です。さらに、原書は12章から構成されていますが、なぜか邦訳書はそのうち半分の6章だけの抄訳書となっています。ということで、私の受け止めながら、集合名詞である「アーカイブズ」とは、何らかの決定に至る過程や論理を後に参照できる形でとどめる広い意味での公文書、ということになります。もちろん、その背景には説明責任=アカウンタビリティの保証があることは当然です。さらに、プリントアウトされたドキュメントだけでなく、マイクロフィルムや電磁媒体はいうまでもなく、アナログ・デジタルを問わず録画や録音も含まれると解されますし、役所のいわゆる公文書だけでなく、企業における経営判断をはじめとして何らかの決定過程を跡付ける資料も含まれます。ですから、オーストラリアには企業公文書施設が存在するそうです。まだ記憶に新しい森友事件における財務省の公文書改ざんなどにかんがみて、こういったアーカイブズに関する学術書が公刊されたんだろうと私は受け止めていますが、出版物を受け入れる図書館だけでなく、アーカイブズを整理して保存する組織や施設の必要性がよく理解できると思います。ただ、繰り返しになりますが、原書の抄訳であり、すっ飛ばされた部分がとても気にかかります。本書のテーマからして、どうしてそのような意思決定がなされたのか、説明責任を果たすべく、何らかのアーカイブズは残すことになるんでしょうか。それとも本書の邦訳者にして、アーカイブズの保存という実行は別問題なんでしょうか。

 

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最後に、有栖川有栖『カナダ金貨の謎』(講談社ノベルス) です。作者は、ご存じの通り、本格ミステリの大御所作家です。本家クイーンの向こうを張った国名シリーズ第10弾の記念作品です。綾辻行人の館シリーズ第10作がなかなか出て来ませんが、スタートは館シリーズに遅れたものの、コチラの方が第10作目の出版が早かったのは少し驚きました。ということで、作家アリスのシリーズですので、英都大学の火村准教授が謎解きに挑みます。短編ないし中編を5編収録したミステリ短編集で、収録順に、「船長が死んだ夜」、「エア・キャット」、表題作の「カナダ金貨の謎」、「あるトリックの蹉跌」、「トロッコの行方」となっていて、私は冒頭の2編は読んだ記憶があります。表題作は、この作者にしてはややめずらしい倒叙ミステリとなっています。男性の絞殺死体からメイプルリーフのカナダ金貨が持ち去られていたミステリです。最後の「トロッコの行方」は米国ハーバード大学のサンデル教授が取り上げて注目されたトロッコ問題をモチーフにしています。ただし、表題作も含めて、中編の「船長が死んだ夜」、「カナダ金貨の謎」、「トロッコの行方」はいずれもノックスの十戒に従って、すべて殺人事件なんですが、新本格派のミステリらしく少し動機が弱い気がします。これくらいのことで人を殺すかね、というのは私だけの感想ではなかろうと思います。それを別にすれば、極めて論理的な謎解きが展開されます。国名シリーズの10作目として、期待通りの出来といえます。

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