今週の読書は新書1冊を含めてわずかに2冊!!!
今週の読書もわずかに2冊で、うち1冊は新書です。なぜか、私の奉職する大学の図書館は新書を豊富に取りそろえてくれていて、というか、地域の公立図書館もそうなんですから、むしろ、大学図書館では新書は人気なく貸し出されていない方が目について、ついつい、私が借りたりして稼働筆を引き上げています。しばらく、大学転職1年目で忙しいこともあり、東京都のように予算が潤沢でなくて図書館や体育館がそれほど利用可能ではないので、これくらいのペースの読書が続きそうな気がします。でも、私にしては大きなペースダウンなんですが、週2冊ということは年間100冊ですから、世間一般ではそれなりの熱心な読書家、と勝手に自任してもよさそうな気がしないでもありません。
まず、宇野常寛『遅いインターネット』(幻冬舎) です。著者は、評論家であり、批評誌『PLANETS』編集長だそうですが、私はよく知りません。知らないものの、私が奉職する大学の卒業生ではないかと聞いたことがあります。本書では、かなり正面切って民主主義について考えています。そのきっかけは、読み進めば、どうも、2016年の英国のBREXITと米国のトランプ大統領当選にあるようなんですが、ポピュリズムと民主主義について、デモをする意識の高い市民と投票に行く意識の低い大衆を対比させて、論じています。そして、私には議論の飛躍と映るんですが、吉本隆明の『共同幻想論』に話が進みます。私の拙い理解では、共同幻想とはマルクス主義のコンテクストでは、いわゆる上部構造であり、その下部構造たる経済を論じる必要がありそうな気もしますが、その部分をすっ飛ばしているのがやや気がかりです。米国民は選挙人制度というのを外せば現在の米国大統領であるトランプ候補に投票したのは少数派といえますが、英国民についてはLEAVEに投票したのが多数派であり、その背景は経済だけでなく年齢・性別・学歴などをはじめとして、かなり明らかに分析されています。最後に、速報性を重視するのではなく、調査報道的なスロージャーナリズムに加えて、本書のタイトルにした遅いインターネットを持ち出しますが、結局、私の目から見てカギカッコ付きながら「全共闘的」な上滑りの議論にしか見えませんでした。このタイトルにして、国民目線の議論を期待した私が悪いのかもしれません。
次に、橘木俊詔・迫田さやか『離婚の経済学』(講談社現代新書) です。著者は、京都大学や同志社大学などで研究者をしていたマイクロな労働経済学の研究者師弟です。50年ほども昔のシカゴ学派のベッカー教授のような経済学帝国主義的な分析を展開していて、それなりの面白くはあるんですが、もともと、極めてデータが限られた世界の分析をサーベイしているもんですから、かなり都合のいい結果を引き出せているような気がしてなりません。というのも、本書の展開からしてかなり都合よく編集されていて、論旨がとても飛び跳ねています。チャプターごとに別の著者がいるのではないかとすら感じてしまうほどです。ですから、ついつい200ページあまりの新書ですから、私の悪いクセで読み飛ばしてしまうんですが、キチンと読めば章ごとに論旨が矛盾している点も上げられそうな気すらします。どこだったか忘れましたが、著者が章ごとに査読を付けている、かのような記述がありましたが、逆にいえば、全体の査読はないわけで、そこは出版社の編集者の責任かもしれませんが、それほど出来のいい本ではありません。新書でももっと出来のいい紳士はいくらでもあります。というか、単行本に出来なかったから新書に回されているのかもしれません。ということで、ひとつひとつのトピックとしては面白い出来ですし、カーネマン教授が『ファスト&スロー』の目的として強調していた点で、部分的に取り出せば職場の井戸端会議で話題として持ち出せるような気がしますから、それはそれで重要な出版物の目的となります。最後に、私の経験からして、離婚するのは、現時点での目の前の結婚に失望したからではなく、その先の再婚に希望を見出しているケースが一定の割合であるような気がします。不倫の果ての離婚と再婚のケースが典型なので気がひけるんですが、分析の時間軸が違っているのかもしれません。
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