基調判断が上方修正された鉱工業生産指数(IIP)と総じて悪化を示す雇用統計!!!
本日は月末最終の閣議日ということで、重要な政府統計がいくつか公表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも6月の統計です。まず、鉱工業生産指数(IIP)は季節調整済みの系列で見て、前月から+2.7%の増産を示した一方で、失業率は前月からわずかに0.1%ポイント改善して2.8%、有効求人倍率は前月から▲0.09ポイント悪化して1.11倍と、雇用はかつての勢いはありません。いずれも新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響によるものと考えるべきです。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
6月の鉱工業生産2.7%上昇 5年5カ月ぶり大きさ、自動車けん引
経済産業省が31日発表した6月の鉱工業生産指数速報値(2015年=100、季節調整済み)は前月比2.7%上昇の80.8だった。上昇は5カ月ぶりで、上昇率は2015年1月以来5年5カ月ぶりの大きさ。新型コロナウイルス感染症の影響で5月まで大幅な生産調整をしていた企業が、国内外の経済活動の再開に伴い生産を戻し始めた。
経産省は生産の基調判断を「急速に低下している」から「下げ止まり、持ち直しの動きがみられる」に上方修正した。同様の表現を使ったのは2013年2月以来、7年4カ月ぶり。
生産を業種別に見ると、15業種10業種で上昇した。自動車工業は前月比28.9%増加した。普通乗用車は引き続き生産調整中だが生産水準が上がった。ショベル系掘削機械などの生産用機械工業も10.2%増加した。一方、ポリプロビレンなどの無機・有機化学工業が3.9%減、パルプ・紙・紙加工品工業などは5.7%減った。
出荷指数は5.2%上昇の80.8と、4カ月ぶりに上昇した。上昇率は比較可能な13年1月以降で最大となった。国内外の経済活動の再開や需要増が起因した。
在庫指数は前月比2.4%低下の100.8と3カ月連続で低下した。自動車工業や、液晶パネルなどの電子部品・デバイス工業などで低下が目立った。出荷が伸びたほか、企業が在庫調整も進めた。在庫率は同7.0%低下の138.2と、4カ月ぶりに低下した。
同時に発表した製造工業生産予測調査では、7月が前月比11.3%上昇、8月は同3.4%上昇となった。ただ、企業の予測値には上方バイアスがかかりやすいことや例年の傾向を踏まえ経産省がはじいた7月の補正値は3.1%の上昇となった。経産省は「調査は7月10日が締め切りのため、最近の新型コロナ感染者の増加は織り込まれていない」と説明し、先行きについて「8月以降の生産活動を注視していきたい」と話した。
6月の完全失業率2.8% 求人倍率は1.11倍に低下
総務省が31日発表した6月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は前月比0.1ポイント低下の2.8%だった。改善は7カ月ぶり。2月に2.4%だった失業率は4月に2.6%、5月に2.9%と悪化していた。厚生労働省が同日発表した6月の有効求人倍率は1.11倍で5年8カ月ぶりの低い水準となった。雇用環境は総じて悪化している。
完全失業者数(同)は194万人で、3万人減少した。うち勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は8万人増、「自発的な離職」は横ばいだった。就業者数(同)は6637万人で8万人増加した。
休業者は236万人で、5月の423万人から減少した。
業種別にみると、建設業、宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業などで就業者が減った。工事を一時中断や外出自粛の広がりで消費が増えず、非正規社員を中心に雇用を減らす動きが出ている。
厚生労働省が31日発表した6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.11倍で前月から0.09ポイント低下した。2014年10月以来、5年8カ月ぶりの水準に落ち込んだ。有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。
6月は有効求人が前月から1.9%減り、有効求職者は5.4%増えた。政府による緊急事態宣言が5月下旬に全国で解除されたことを受けて、職探しを再開する動きが活発になった。前月と比べた新規求職者の伸び率は18.2%と過去最大となり、求人倍率を押し下げた。
いくつかの統計を取り上げていますのでとても長くなってしまいましたが、いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は+1%ほどの上昇との見込みながら、レンジでは▲0.5%~+2.9%でしたので、上限に近い増産を記録したことになります。業種別に詳しく見ると、生産が上昇したのは自動車工業、生産用機械工業、プラスチック製品工業、輸送機械工業(除.自動車工業)、電気・情報通信機械工業、といったところですので、まさに、我が国のリーディング・インダストリーが多く含まれているといえます。逆に、低下したのは無機・有機化学工業、パルプ・紙・紙加工品工業、となっています。製造工業生産予測指数によれば、先行きの生産は足元の7月+11.3%増、8月+3.4%増となっており、上方バイアスを考慮した補正値試算でも+3.1±1.0%増ですから、ある程度の回復は見込めるようです。ただし、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響ので始めた3月の▲3.7%減から、4月▲9.8%減、5月▲8.9%減と累計で▲20%ほどの減産の後、6~7月ともに+3%ほどの増産ですので、足元から目先の先行きで回復が見込まれ、引用した記事にもあるように、経済産業省が基調判断を上方修正したとはいえ、V字回復とはほど遠く回復ペースはかなり緩やかと考えるべきです。
次に、生産指数の4~6月期の四半期データが利用可能になりましたので、景気の現状をごく大雑把に見ておくために在庫循環図を書いてみました。上の通りです。ピンクの矢印の2013年1~3月期から始まって、黄緑色の矢印で示された直近の2020年4~6月期まで、大雑把に、第15循環における2012年の短い景気後退期の後からプロットしていますので、グルッと1周して、ここ1年間、すなわち、4四半期の間、出荷・在庫とも前年比マイナスで第3象限にあります。実は、4~6月期は出荷▲20.5%減、在庫▲3.4%減ですので、出荷の縦軸のメモリの下限▲20%を下回っているのですが、あまりにも見にくい恐れがあって、スコープ外のプロットを許容しています。いずれにせよ、まさに、景気後退まっただ中ながら、景気転換点も近い、という結果なんですが、COVID-19の影響は右下方向へのシフト、すなわち、出荷のさらなる減少と在庫のさらなる積み上がり、という形で現れる可能性があるものと、私は想像しています。四半期データに基づく分析ですので速報性には欠けますが、景気循環の現状を知るために、それなりに注目しています。
続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期です。いずれも記事にある通りですが、失業率に関して日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは先月の2.9%から6月は3.1%に上昇するという見込みだったところ、実績はコンセンサスどころか、先月実績も上回る2.8%だった一方で、有効求人倍率は日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは先月の1.20倍から6月には1.14倍に低下する予想が示されていたものの、実績はコンセンサスを下回る1.11倍でした。正社員向けの有効求人倍率についても長らく1倍を上回っていましたが、先々月の4月統計から1倍を下回るようになり、本日発表の6月統計でもさらに下げています。基本的には、雇用はまだ悪化を続けている、と考えるべきです。人口動態との綱引きながら、景気と人手不足との関係で、私が懸念したように、一気に雇用が悪化するという局面ではないものの、厚生労働省のサイト「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」を見る限り、現時点で利用可能な最新の7月22日現在集計分によれば、解雇等見込み労働者数が4万人に迫っており、その中で非正規雇用労働者数が15千人を超えていますから、決して、楽観できる状態にはありません。ただし、上のグラフを見れば、先行指標の新規求人については反転の兆しがあるように見えなくもありません。
最後に、昨日7月30日に内閣府景気動向指数研究会が開催され、2018年10月を第16循環の山として暫定的に認定しました。景気拡大局面は71か月で終了したことになります。内閣府から公表されている参考資料は以下の通りです。なお、機会があれば改めて取り上げたいと思いますが、景気転換点の認定ないし同定については、それなりに時間がかかるものです。ですから、今回の景気転換点の認定を巡って政府の公式見解が誤りであった、とする見方は、私は正しくないものと考えていますので、一言だけ付け加えます。
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