国連開発計画(UNDP)報告書 "Temporary Basic Income" は何を目指すのか?
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の途上国への影響に関して、昨日7月23日、国連開発計画(UNDP)が実施した社会経済的な影響評価を基に、"Temporary Basic Income: Protecting Poor and Vulnerable People in Developing Countries" と題する報告書が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。国際機関のこういった報告書に注目するのは、私のこのブログの大きな特徴のひとつですので、連休まっ最中ながらグラフ引用して簡単に取り上げておきたいと思います。
上のグラフは、リポート p.9 から Figure 2. Monthly Cost of a Temporary Basic Income to Poor and Vulnerable People under Different Scenarios ($ billion) を引用しています。なお、引用はしませんが、次のページの p.10 には Table 2. Monthly Cost of a Temporary Basic Income under Different Scenarios, by Regions ($ billion and % of regions' GDP) と題する地域別にブレークダウンしたテーブルもあります。UNDPでは、1か月当たり1,999億ドルあれば、132の開発途上国で貧困ライン以下か、わずかにそれを超える程度の所得以下で生活する27.8億人に一時的にベーシックインカムを保証できると試算しています。なお、先にボヤッと書いた「貧困ライン以下か、わずかにそれを超える程度の所得以下で生活する」貧困ラインとは、南アジアとサラハ以南アフリカでは1日3.2ドル、東アジア・太平洋と中東・北アフリカでは1日5.5ドル、欧州・中央アジアと中南米・カリブでは1日13ドルに設定されており、一番上の1か月1.999億ドル必要なケースはこの貧困ラインに達するまでの金額が支給されると仮定して試算されています。そして、1か月2,570億ドルあれば、これらの人々に中央値の半分の所得、すなわち、我が国やOECDなどで定義している相対的貧困ラインにほかならない所得との差額を支給でき、さらに、1か月4,650億ドルあれば1日当たり5.5ドルのベーシックインカムを支給できると試算しています。加えて、UNDPではCOVID-19の経済的影響を勘案すれば、3か月ないし9か月の支給が必要と主張しており、もしも仮に、6か月の支給を行うとしても、2020年中に予測されるCOVID-19対策費のわずか12%であり、途上国が2020年中に支払うことになっている対外債務の3分の1に過ぎないことから、今年の債務返済に充てられる予定だった資金の使途を変更し(repurposing fiscal resources directed to external debt)、このベーシックインカムに充てることも、各国が必要な資金を賄う方法のひとつであると示唆しています。
何度か繰り返していますが、今回のCOVID-19の経済的影響を考えると、もちろん、需給両面からの経済の下押し圧力が最も重大ではありますが、同時に、交易の利得が失われることも無視すべきではありませんし、加えて、最大の政策的な手当てを必要とするのは不平等の拡大であると、私は考えています。ですから、先週から今週にかけて、第一生命経済研の女性雇用に関するリポート、OECD「雇用見通し」、テレワークによる格差拡大を批判したIMF Blog、さらに、COVID-19とは関係ないながら「国民生活基礎調査」における相対的貧困率、などなどをこのブログで取り上げてきました。今回のCOVID-19による日本の不平等の拡大は欧米諸国よりも厳しいと私は考えています。なぜなら、同じような新自由主義的な政策によるものとはいえ、例えば、英米では富裕層がさらに所得を増加させることにより不平等が拡大している一方で、日本では低所得層の賃金が伸び悩むことにより不平等が拡大しているからです。一昨日取り上げた「国民生活基礎調査」でもそうですし、例えば、学術的な研究成果では、不勉強な私が見た中ですら、「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」の第6巻『労働市場と所得分配』(慶應義塾大学出版会)に収録されたいくつかの論文でも確認されています。そして、今回のCOVID-19による不平等の拡大は、IMF Blogの指摘する通り、テレワークの難しい低賃金労働者に重くのしかかっており、その意味で、日本の経済社会にとって、不平等対策ないし貧困対策はとても緊急度が高い、と考えるべきです。
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