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2020年7月 4日 (土)

今週の読書は話題のMMTを取り上げた経済書をはじめとして計4冊!!!

今週の読書は、話題の現代貨幣理論(MMT)を取り上げた経済書をはじめとして、私の専門分野である時系列分析の学術書も含めて、以下の通りの計4冊です。關西に引越して来て3か月あまりとなり、だんだんと読書のペースが整って来た気がします。

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まず、永濱利廣『MMTとケインズ経済学』(ビジネス教育出版社) です。著者は、シンクタンクのエコノミストです。本書の巻末にある著者ご紹介で、略歴の後にいくつか公職を書いていますが、最初の研究会委員は私がお誘いしたもので、その次の学会の幹事については、私も面識ありますので、引越しと転職のお知らせをメールで送った記憶があります。ということで、本書では、注目の現代貨幣理論(MMT)を軽く解説しながらケインズ経済学との関係を、これまた、軽く解説しています。他に、いくつかの論点も整理されていて、アベノミクスは国際的に標準的な経済学に則った政策であるとか、まあ、エコノミストの間では一般的なの理解が展開されていたりします。MMTと私なんぞの標準的、というか、主流派経済学との関係については、著者のオリジナルな理解というよりは、本書にも明記されているように、専修大学の野口教授がニューズウィーク日本版で連載していたコラムを基にしています。どんどんと前置きが長くなりましたが、要するに、MMTと主流派経済学の違いは3点あり、第1に、MMTでは、中央銀行は自然利子率に金利を固定するだけで政府からの独立性も不要で、何ら権能を持ちません。第2に、失業の発生している不況下における財政政策の役割については、MMTと主流派で違いはとても小さい一方で、完全雇用下で政府支出を増加させれば、主流派はクラウディングアウトが生じると考えますが、MMTはクラウディングアウトが生じるかどうかどうかはともかく、インフレの加速をターゲットに政策運営をすべきと考えます。第3に、MMTにはケインズ経済学におけるIS-LM分析のフレームワークにおけるような財市場の分析は存在しません。現在の日本経済に当てはめて考えると、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が及ぶ前ですら、完全雇用までまだスラックがあって物価が上昇しなかったわけですから、MMTと主流派経済学の間に、控えめにいっても、大きな違いはありません。ただ、政府で長らく官庁エコノミストの役割を担ってきた私の目から見て、財政政策で物価をコントロールするのはかなりムリがあるような気がします。機動的な政策運営は可能なんでしょうか。やや疑問に思わないでもありません。最後に、本書は決して学術書ではないとはいえ、引用などで少し気にかかる点があります。本文に一括して明記されているとはいえ、専修大学の野口教授がニューズウィーク日本版で連載していたコラムからダイレクトに切り取っている部分があるほかに、私の目についたところでは、インフレ目標に従ったLM曲線の下方シフト(p.18)も、参考文献にあるとはいえ、杏林大学の西教授の論文から出展を明記せずに引用しているようで、ややアブナい気がしないでもありません。著者は、アベノミクスの政策を強力に支持するエコノミストですので、がんばればひょっとしたら、片岡さんや安達さんの後の日銀審議委員になれる資格があると私は考えているだけに、もう少しマナーに則った著書に仕上げて欲しかった気がします。

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次に、平井健之『財政運営の時系列分析』(晃洋書房) です。著者は、大学の研究者であり、私とそう年齢は違わないようなのですが、本書は学位請求論文だそうです。その昔の京都大学経済学部でも、少し前に亡くなった私の恩師などは早々に博士の学位を取得していたんですが、定年退職間際に学位取得するのがひとつのファッション的な要素を持って見られていた時期もあったような記憶があります。それはともかく、私が10年ほど前まで役所から出向して勤務していた長崎大学経済学部で最初に書いた紀要論文が財政の持続可能性に関する検定のサーベイでしたので、本書についても興味をもって読みました。基本的に、私の興味範囲と同じで時系列データによる日本の財政に関する数量分析なんですが、ひたすら計量検定をしている印象があります。博士学位請求論文であれば、それでOKなのかもしれませんが、学術書とはいえ一般の出版社から公刊するのであれば、その数量分析が経済学的にどういった意味を持っているのか、などにももっとていねいに示して欲しかった気がします。少なくとも、私の紀要梵文では、Hamilton and Flavinの論文は「直感的には、財政のプライマリー・バランスに関して検証していると考えて差し支えない。」とか、Bohnの検定が「最も緩やかなものと考えられ、直感的には、プライマリー・バランスが赤字であっても、その赤字幅が縮小していれば財政は持続可能と判断される。」とかの解説を付けています。一応、役所からの出向者ですので、ちゃんと理解している証拠を示しておいたわけです。本書でも、それくらいの解説は欲しい気がします。もうひとつは、検定せずとも無条件に財政が持続可能なケースが2つある点への言及がありません。ひとつは、本書でもチラリと別の意味で言及しているリカード等価定理が成立している場合で、もうひとつは、成長率が国債金利を上回って動学的非効率が生じているケースです。このりカード等価定理は時系列データを用いて検定の対象になりますし、動学的非効率についても理論モデルで示すことができるハズですから、できることであれば、1章を割いて、この2ケースについても取り上げるべきではなかったか、という気がします。なお、ついでながら、順序が逆になるものの、先に取り上げた『MMTとケインズ経済学』では、動学的非効率という学術用語は使っていませんが、国債金利と成長率の大小で財政破綻が生じなくなることは言及されていますので、完全な学術書である本書でも何らかの指摘が欲しかったと思います。最後に、時系列VARモデルでのインパルス応答関数の見方に疑問が残ります。特に第8章の地方財政の分析では、2標準偏差のコンフィデンス・インターバルがほとんどのケースでゼロをまたいでいるにもかかわらず、そういった統計的な有意性を軽視する形で結論を急いでいるというか、自分なりの結論を強引に持ち出しているような気がします。

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次に、魚柄仁之助『国民食の履歴書』(青弓社) です。著者は、食文化研究家と紹介されています。本書では、いわゆる日本食の代表としての寿司とか天ぷらなどではなく、タイトルに有るように国民食ですから家庭料理の代表として、上の表紙画像に見えるように、カレー、マヨネーズ、ソース、餃子、肉じゃがを取り上げています。可能な範囲で婦人雑誌などをさかのぼって当たり、紹介されているレシピにそって実際に調理してみた結果が報告されています。さらに、それらの雑誌や書籍の図版が極めて豊富に紹介されています。ですから、現在の時点で考えられている料理ではなく、その時点で考えられていた料理が並びます。その昔は、レストランでの外食などが一般的ではなく、今でいえば高級料理店のシェフ、というか板前さんがそのお店の料理のレシピを紹介したりしています。さらに、興味深いのは戦時下で代用食のようなレシピも豊富に収録されています。加えて、著者の解説がなかなかにユーモアたっぷりに洒落ています。私がなるほどと思ったのは、餃子の章で、よくいわれるように、中国は水餃子、日本は焼餃子らしいんですが、当然のように、出征も含めて中国大陸で餃子に接した人が国内に持ち込んだわけで、それまで餃子については皆目情報がなかったわけですので、それぞれに持ち帰った情報に基づく餃子がアチコチで作られたため、「本家」だとか、「元祖」だとかで、日本全国いろんなところで餃子の食文化が花開いた、という見方です。これには私も大いに納得してしまいました。ただし、最終章の肉じゃががいわゆるお袋の味になった歴史的な推察にはやや疑問があります。というのは、肉じゃががそうでもないかもしれませんが、食文化の背景には、食品会社の陰謀とまではいわないとしても、それなりのプロモーションがあったのではないか、と私は想像するのですが、その点について、著者の目配りが欠けています。私の知る範囲で、典型的なケースはバレンタインデーのチョコです。本書で指摘されているように、極めて短期間に肉じゃががお袋の味になった背景に、バレンタインデーのチョコに類似した何かがあるんではないか、という気がしないでもありません。しかし、著者にはそういった視点はないようです。

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最後に、左巻健男『学校に入り込むニセ科学』(平凡社新書) です。著者は、理科教育の研究者であり、東京大学教育学部附属中学校・高等学校の教諭から、いくつかの大学に転じています。私も教員に復帰して、学校教育の現場に怪しげな情報がいっぱいあることは認識していますので、それなりの興味をもって読み始めました。本書では、『水からの伝言』やEM菌をはじめ、ゲーム脳や親学などなど、一見して科学的な装いをしながら、実際には科学的な根拠はなく、教員や生徒の「善意」を利用して勢力を拡大してきたニセ科学について、そのオカルトまがいの内容を明らかにしています。加えて、そういったニセ科学の背後に潜む右翼勢力についても言及しています。本書では著者の専門領域から、理科、自然科学に限定されているんですが、経済学なんて学問分野ではもっと怪しげな情報でいっぱいです。そもそも、経済学はそこまで発達した学問分野でないことも確かです。ただ、本書ではプレゼンの仕方が下手というか、何というか、読む人によっては特定の集団を攻撃しているように見えるかもしれません。リフレ派のエコノミストが日銀をしつこく批判した今世紀冒頭の状況をついつい思い出してしまいました。それにしても、自然科学に疎い私でも、明らかに怪しげなニセ科学がいっぱい取り上げられているんですが、おそらく、本書でも指摘されているように、宗教的な色彩や個人崇拝により、学校にニセ科学が持ち込まれないように、教員として心したいと思います。

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