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2020年8月22日 (土)

今週の読書は経済書に村上春樹『一人称単数』など計5冊!!!

今週の読書は、経済書が2冊に話題の村上春樹の新刊まで、以下の通りの計5冊です。村上春樹『一人称単数』だけは買い求めました。それにしても、書店で本を買うことがすっかりなくなってしまい、今では生協の一割引きでしか本を買っていません。

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まず、小黒一正『日本経済の再構築』(日本経済新聞出版) です。著者は、財務省ご出身で今は法政大学の研究者です、現時点での日本経済の問題点について、人口減少、低成長、貧困化の3点に絞って、とはいいつつ、極めて広範な「再構築策」を展開しています。章立てで見ても、ご出身母体の財務省という観点からしても、財政、金融、年金、医療、地方、成長、社会保障などなど、極めて広範囲に渡っています。ただし、かなり視野は狭くて、例えば、ほぼほぼ閉鎖経済で議論が展開されており、世界経済とのリンケージ、例えば、中国を含むアジア経済の中で日本がどのようなニッチを占めるべきか、といった議論は無視されています。加えて、「抜本的改革」かもしれないんですが、現状からすればできそうもない方策が並んでいるような気がします。例えば、エコノミストの中でも何人かの主張があるものの、現状の賦課方式の年金をその昔にも出来ていなかった積立方式の年金にするのは、いうのは簡単かもしれませんが、実際の移行過程などとともに論じないと無責任とも見えます。その昔の野党の中には「何でも反対党」、のような存在があり、圧倒的な与党の圧力の前ではそれなりに存在意義もあったように感じなくもありませんし、「青臭い」といわれつつも、現実から離れた理想論w展開する意義も私は認めるものの、エコノミストとしてはもっと地に足ついた議論が必要と考えなくもありません。特に、本書では貧困対策や格差是正にはそれほど重点が置かれておらず、私は物足りない気もするんですが、逆に、財務省ご出身だからといって、緊縮財政や均衡財政一点張りというわけでもなく、テーマ別にはそれなりにバランスは取れていると理解しますが、中には精粗区々な議論が展開されており、まあ、どちらかといえば「粗」な議論が多いような印象です。ただし、繰り返しになりますが、日本経済が到達すべきひとつの姿を大づかみに把握しようという向きには、それなりに参考になりそうな気もします。その際は、細かな部分を無視して読み進む方がいいんではないかと思います。そうでなければ、すなわち、細かな点まで読みこなしたいのであれば、かなりの専門的なバックグラウンドを必要とします。この点は無視できません。

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次に、伊藤誠『マルクスの思想と理論』(青土社) です。著者は、東大名誉教授であり、かの宇野先生の後継としてマルクス主義経済学を東大で教授した大先生です。本書は、一昨年2018年がマルクス生誕200年であった記念に、月刊誌『科学的社会主義』に連載されていたものを取りまとめています。第2章の唯物史観から始まって、第3章の『共産党宣言』、第4章の『資本論』などなど、マルクスの主要な論点を極めて効率的、というか、手短に取りまとめています。宇野先生の後継ですから、おそらく、いわゆる労農派であって、私のような講座派の歴史観ではないものと考えますが、唯物史観としては大きな違いはないかもしれません。私も経済学部に所属する教員として、マルクスといわれればついつい『資本論』になりがちなんですが、その根底にある唯物史観については、ある意味で、マルクス主義のもっとも重要な根底をなす理論かもしれないと考えています。その意味で、本書では唯物史観を仮説的な存在として、この先も修正あり得べき理論として取り扱っているのはやや疑問が残ります。もちろん、20世紀のソ連的な社会主義が破綻した後で、こういった留保が必要そうな気はしないでもありませんが、それとこれとはまた別のお話であるように私は考えています。私は本書の立場と少し違うのかもしれませんが、国家が、というか、国家を主導するエリートが生産手段を国有化した上で生産をコントロールするのが社会主義なのではなく、階級としての現場で働く労働者が、生産手段を所有する資本家に代わって生産を指揮監督=コントロールするのが社会主義ないし共産主義であリ、加えて、そういった生産物の配分がなされる体制である、と理解しており、ソ連型のカギカッコ付きの「社会主義」は、その階級としての労働者をエリートのグループたる共産党が指導する体制であり、かなり本質的に違っていると感じています。その違いは歴史的な発展経路にも依存します。中国的な「社会主義」は単なる一党独裁制による資本主義に近く、その独裁政党がたまたま共産党を名乗っているだけであり、ほとんど社会主義の体をなしていないような気がします。いずれにせよ、私のような専門外のエコノミストでも理解しやすく工夫されており、一般的なマルクス主義経済学の入門書としても役立ちそうな気がします。大学低学年生や若いビジネスパーソンにもオススメです。

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次に、坂靖『ヤマト王権の古代学』(新泉社) です。著者は、博士号を持ち、奈良県立博物館勤務などを経験した市井の研究者といえます。本書では、いわゆる「記紀」などの歴史書の史料に基づく歴史学というよりも、考古学的な歴史へのアプローチを試みています。もちろん、その対象はヤマト王権であり、「万世一系」と称して現在の天皇家に連なる系譜であることはいうまでもありません。もっとも、8世紀という遅い時期にに編纂された「記紀」はほとんど史料としては用いられていない一方で、中国の歴史書についてはそれなりに典拠しています。考古学的な考察の対象となるのは、いわゆる古墳であり、その埋葬品も含めています。特に、三角縁神獣鏡については章を立てて考察を加えており、刻まれた年号が実際に作成された年とは異なる可能性なんて、私は考えもしませんでした。本書では、当時のニュースの伝わるタイムラグを考慮して、皇帝の死んだ年が鏡に刻まれていて、その年が1年くらい遅れて伝わっても不思議はない、と指摘しています。そんなシロートの私でも興味あるのは、ヤマト王権成立前の邪馬台国や卑弥呼なんですが、著者は奈良県ローカルの人にもかかわらず、奈良説ではなく北部九州説を取っています。その理由は、邪馬台国の時代の近畿地方に中国との直接の交渉を示す根拠がない、ということになります。ただ、これは奈良説を否定できても、北部九州説を肯定できる積極的な根拠ではないように私には思われます。でも、決定的な証拠なんてないんだろうという点は理解します。いずれにせよ、ヤマト政権成立から遣隋使や遣唐使を送っていた我が国の古典古代の時代には、中国や朝鮮などの大陸文化はとても先進的なものであり、その名の通りの極東に位置する我が国は文化的には大きな後進性を有していたものと考えられます。なお、先ほどの伊藤先生の本にあるマルクス主義の基本となる唯物史観ではないんですが、本書の著者も中国や我が国、さらに、我が国の中の各地方の生産力というものをとても重視して、生産力と先進文化の受容性という関係を無視できないリンケージと考えている様子が細かないくつかの記述からうかがえます。

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次に、村上春樹『一人称単数』(文藝春秋) です。作者は、私ごときが紹介するまでもない著名作家であり、我が国の作家の中でもっともノーベル文学賞に近いと見なされています。久し振りの単行本であり、8篇の短編が収録されています。「石のまくらに」、「クリーム」、「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」、「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」、「『ヤクルト・スワローズ詩集』」、「謝肉祭(Carnaval)」、「品川猿の告白」、「一人称単数」です。最後の表題作以外は『文學界』で発表されています。大雑把に著者のご経験に基づく自伝的要素を含む小説ないし随筆なんだと思います。その時々の著者の年齢に従って、すなわち、高校生くらいから大学生、大学卒業直後、さらに、結婚後から年令を重ねる順に配置されています。最初の方の青春小説めいたものは別にして、ヤクルト・スワローズに関する短編について注目します。というのは、ここにも書かれている通り、村上春樹は京都に生まれて芦屋などの阪神間で育っていますので、当然に阪神ファンとして成長するのではないか、と考えられるんですが、広く知られている通り、また、本短編でも明らかにされているようにスワローズのファンです。村上春樹の父親は熱心な阪神ファンだったとこの短編でも紹介されており、ご本人も高校生くらいまでは阪神ファンであって、ファンクラブにも入っていた旨が述べられています。それが東京、というか、壮大に入学してスワローズ・ファンになったのは、書かれている通りに解釈すれば、野球とは中継を見て楽しむものではなくスタジアムに応援に行くものであり、その意味で、もっとも生活圏から近い球場をホームグラウンドにしているチームのファンになる、というのは、さすがに自然な気もします。実は、京都本をよく書いている井上先生の説によれば、サンテレビが阪神の試合のフル中継を始めるまでは、関西でも阪神は決してメジャーな球団ではなく、むしろテレビ中継の多い巨人ファンの方が多かった、らしく、団塊の世代で私よりも10歳くらい年長な村上春樹は、この井上説に該当する非タイガース・ファンなのではないか、と勝手に想像していたのですが、やっぱり、年少時は阪神ファンだったと改めて知って、何となく安心したところもあります。その意味で、私は役所の定年後に関西に戻って来て、再び阪神ファンとして残りの人生を楽しみたいと思います。強く思います。

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最後に、上田篤盛『未来予測入門』(講談社現代新書) です。著者は、防衛大学校卒業、防衛省情報分析官を経験したインテリジェンスの専門家です。エコノミストがやるような定量的な経済予測ではなく、インテリジェンスの世界における方向性の分析に役立つ予想ないし予測です。ですから、予測の手法の解説が中心になっており、質問の再設定、アウトサイドイン思考、フレームワーク分席、クロノロジー&マトリックス、シナリオ・プランニングなどの詳細や実際の応用が取り上げられており、最後の方の章では親子の対話というカンジで、実際の応用編が展開されています。マインドマップを描くためのソフトウェア MindManager なども引き合いに出されています。割と近未来的な近い将来の予測が中心ですが、かなり遠大に遠い未来の方向性についても触れられています。私は、エコノミストとして、というか、官庁エコノミストとして政府経済見通しに携わったこともあるんですが、政府見通しなんぞは、本書でいうところのバックワードキャスティングであり、将来時点の目標に近い見通しに向かって、どのような政策を積み上げていくべきか、といった観点から予測しますので、民間シンクタンクのやっているようなフォワードキャスティングな予測とは大きく違っています。ただ、予測について私が従来から考えている点をもう一度確認した気がします。すなわち、例えが判り難いかもしれませんが、米国のカリフォルニアのゴールドラッシュでもっとももうかったのは誰か、という質問に対する回答です。トップはもちろん豊富な金脈を掘り当てた49ersの1人かもしれませんが、実は、平均的にもっとももうけたのは、金脈を掘り当てたかどうかにかかわらず、49ersに対してツルハシなどの採掘用品やそのた生活に必要な日用品なんぞを売りつけた商人である、という別の正解もあります。すなわち、予想に関しては、正確な予想を出来る専門家よりも、正確な予想が出来そうに見える予想手法を解説する専門家が重用される、ということが出来ます。おそらく、本書の著者は正確な予測が出来て、かつ、正確な予想が出来そうに見える予測手法を解説する専門家の両方の資質を兼ね備えているような気がします。

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