8月貿易統計に見る輸出の回復やいかに?
本日、財務省から8月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額は前年同月比▲14.8%減の5兆2326億円、輸入額も▲20.8%減の4兆9843億円、差引き貿易収支は+2482億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
8月輸出14.8%減 自動車など低迷、減少幅は縮小
財務省が16日発表した8月の貿易統計速報によると、輸出の総額は5兆2326億円で前年同月から14.8%減った。新型コロナウイルスの影響による経済停滞で自動車を中心に低迷が続いているが、減少幅は3カ月連続で小さくなった。
経済活動をいち早く再開した中国向けの輸出は1兆2616億円で5.1%増えた。増加は2カ月連続となる。スマートフォン関連の需要を映して半導体などの製造装置が増えた。欧州連合(EU)向けも19.2%減の4762億円となり、減少幅が縮小した。
米国向けの輸出は21.3%減の9368億円。減少幅は前月の19.5%より大きくなった。航空機のエンジン部品や医薬品、建設用・鉱山用機械などが落ち込んでいる。新型コロナの影響で今春から急減していた自動車輸出は4%の減少にとどまった。
貿易収支は2482億円の黒字になった。黒字は2カ月連続で、109億円だった7月から拡大した。黒字の拡大は国内の需要の弱さを反映して輸入の大幅な減少が続いている影響も大きい。8月の輸入額は4兆9843億円で20.8%減った。
輸入の減少は燃料の需要減によるものが大きい。原油はアラブ首長国連邦(UAE)からの輸入を中心に52.5%減った。液化天然ガス(LNG)は44.2%減、石炭も42.3%減と落ち込みが続いている。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲73億円の貿易赤字が予想されていて、レンジはかなり広いながら、黒字の上限が+1500億円でしたので、レンジを超えています。世界経済全体の回復レベルに比較して、我が国の景気の回復が遅れている、ないし、そもそも回復に至っていない可能性が示唆されています。いずれにせよ、輸出入ともに前年同月から減少しているのは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響といえますので、単純に景気局面から考えると、輸出が伸びて、輸入が伸び悩んでいるということですから、COVID-19の感染状況で我が国が世界平均と比べてまだパンデミックにあるとか、ではなく、COVID-19の感染拡大の状況というよりも、むしろ、ロックダウンなどによって感染拡大防止を優先するのか、それとも、経済再開の方に重点を置いているか、に依存する可能性が高いと考えるべきです。ですから、日本はまだ感染拡大への警戒感が強いのか、世界平均と比較して経済再開よりも感染拡大防止に重点が置かれている可能性が示唆されています。ただし、中国については、もともとのepicenterであった一方で、感染拡大についてはピークを過ぎた可能性もあるのは広く知られている通りで、貿易統計にもそれが示されています。すなわち、日本から中国への輸出額を前年同月比で見て先月7月は+8.2%の増加を示した後、直近の8月統計でも+5.1%と伸びを示しています。しかし、輸入額の方は、7月▲9.6%減、8月▲7.0%減とまだ減少を続けています。

輸出額の前値同月比で見ると、5月が▲28.3%でほぼ直近の底と考えられます。その後、6月▲26.2%とややマイナス幅を縮小し、7月▲19.2%、8月▲14.8%と着実にマイナス幅が縮小しています。ですから、いくつかのシンクタンクのリポートを読んでいると、財務省の公式統計をもとにシンクタンク独自に季節調整した結果は前月比プラスが示されているようです。前年同月比のマイナス幅縮小、あるいは、前月比のプラスを見るにつけ、私の実感では、輸出はかなりの回復を見せています。具体的には、2020年8月統計の輸出数量指数は117.8であり、季節調整していない原系列の統計ですので、単純な比較はできませんが、2018年平均の121.2と2019年平均の112.0の間に収まります。シンクタンクなどでも同様の見方が広がっており、例えば、ニッセイ基礎研のリポートでは、輸出は金額・数量ともに2020年2月のCOVID-19パンデミック前の「9割程度の水準まで回復」した、と結論しています。Guerrieri et al (2020) によるNBER Working Paper でも、今回のCOVID-19の影響による経済の落ち込みはケインズ的な需要ショックではなく、対人サービス部門などで発生した供給ショックの可能性を2部門モデルを用いて論じていますし、そうであれば、対人サービス部門の供給ショックは輸出には影響薄いのかもしれません。
| 固定リンク
コメント