訪日外国人客やインバウンド消費の決定要因を分析した論文を書き上げる!!!
4月から今の大学に再就職して半年が経ち、ようやく、1本だけ学術論文を書き上げました。「訪日外国人客数およびインバウンド消費の決定要因の分析: VAR過程に基づく状態空間モデルの応用」と題して、その名の通り、訪日外国人客数やGDP統計であるSNAベースのインバウンド消費の決定要因を分析しています。今まで、インバウンド消費といえば、そもそも実態把握すらそれほど進んでいなかった分野ですので、第1に、マイクロな購買活動分析で、何が買われているのかから始まって、そういったマイクロな分析はそれなりに蓄積があります。次に、インバウンド消費が地域経済活性化のひとつの起爆剤となりうることから、第2に、波及効果を含めた広い経済効果の分析、というか、試算もいっぱい蓄積されています。そして、政策分析、というか、第3に、受入れ側の日本における政策対応、特に、VISAの要件緩和に関しても研究が進められていました。過去形です。しかし、私のやったような観光客の送出し国における所得の伸びがどれだけ寄与しているのか、あるいは、決定要因になっているのか、という第4のタイプの研究はそれほど多くありません。ということで、やってみました。

やってみて判ったんですが、経済学の伝統的な考えに従って、所得要因と価格要因で回帰分析したのですが、価格要因で回帰モデルに入れた実質実効為替レートはほとんど有意性を持ちません。従って、所得要因だけで分析を進め、実績としての訪日外国人客数やインバウンド消費をもたらす所得要因を状態空間モデルから推計しています。いわゆる観測不能変数の推計です。その試算された観測不能な所得と実績の観測された所得の差分をプロットしたのが上のグラフです。上の青線が訪日外国人客数ベースで、下の赤線がSNAのインバウンド消費ベースです。
四半期データの対数1階階差でモデルを組んでいるので、リバウンドが目立つ場合もあります。四半期データを用いたのは、中華圏の春節が1月になったり、2月になったりするので、月次データを不適当と判断したからです。実績と推計値で乖離が目立っているのは以下の4期間です。すなわち、第1に、2008年ころからの尖閣諸島問題などに関して、中国世論に起因すると考えられる下振れです。第2に、2011年3月の東日本大震災と福島第一原発事故の直後の2011年4~6月期に大きく落ち込んでいます。第3に、その後、2013年ころから周辺アジア諸国の所得の伸びを上回るような順調な上振れ期間が観察されます。この間に、平均的な所得の伸びよりも訪日するような富裕層の所得の伸びが上回っていた可能性があります。そして、第4に、直近2020年1~3月期の大きな落ち込みです。いうまでもなく、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響です。これは、2011年の東日本大震災の影響を上回っています。
加えて、データ、モデルの定式化、推計アルゴリズムに関する将来課題も提示していますが、かなり学術的に難しい内容です。いずれにせよ、関西に戻ってインバウンド消費の重要性が今さらながらに実感できましたので、それを取り込むとともに、加えて、足元の経済社会的な大問題である新型コロナウィルス感染症(COVID-19)にも少しだけながら言及することを心がけました。一応、学内の紀要に収録していただくべく、然るべき方面に提出しておきました。
| 固定リンク
コメント