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2020年10月31日 (土)

今週の読書は役に立たない科学の本と役に立たないポストコロナの2冊など計5冊!!!

今週の読書は、経済書ではなく東大出版会の教養書をトップに置いています。経済書らしきものは読んだのですが、まったくモノになりそうもないので、この読書感想文では後回しにしました。新書も含めて、以下の5冊です。

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まず、エイブラハム・フレクスナー & ロベルト・ダイクラーフ『「役に立たない」科学が役に立つ』(東京大学出版会) です。出版社が出版社ですので、ボリュームに比べてややお高い値付けになっています。買って読むのは素晴らしいことですが、私のように図書館で借りるのも一案かという気がします。なお、どうでもいいことながら、上の表紙画像に見える帯の推薦を書いている梶田先生は、今をときめく日本学術会議の会長ではなかったかと記憶しています。ということで、プリンストン高等研究所の歴代2人の所長が時間を隔てて書いたエッセイです。要するに、一言でいえば、基礎科学の重要性を強調しています。ですから、本書のタイトルにいう役に立たない科学とは基礎科学のことであって、私の研究のようにレベルが低くて役に立たない、というわけではありません。基礎研究とか、あるいは、モノによっては極めて偶然に新たな現象の発見があり、それらが解明された当時にはどういった役に立つのかが、サッパリ判らないながら、100年ほどの時間を経て大いに実用的な役に立つという例がいくつか収録されています。ですから、少なくとも一見ムダに見えても、ひょっとしたら、ものすごく時代を先取りしている可能性があるわけで、その意味で基礎研究が重要というわけです。今は、かつてのようなリソースが十分にある時代と違って、企業における研究はかなり縮小されていますし、大学における研究も同様です。特に、大学では「競争的研究資金」の獲得と称して、外部の研究リソースを獲得すべし、逆にいえば、学内のリソースは少ない、ということになっています。科学における研究も、さらにいえば、いたって実利的な企業におけるイノベーションも、どちらも「数撃ちゃ当たる」というのが大方のコンセンサスなんですが、選択と集中よろしく、リターンが望める研究しかリソースが割り当てられない現状は、おそらく、科学やイノベーションにとって望ましくないと私は考えています。十分にダイバーシティが確保され、一部にムダと見える要素を含んでいても、幅広い研究を実施し、科学やイノベーションがしっかりと進むような研究環境が必要です。経済の長期停滞下にあって、イノベーションも低いとことの果実は取り尽くした、といわれる時もありますが、まだまだ十分なイノベーションは開発可能です。それを阻んでいるのは、余裕ない経済と限定的な研究開発のデフレ・スパイラルではないか、と私は考えています。政党助成金で配布して、それが買収資金に使われるくらいなら、研究資金に回すというのはダメなんでしょうか?

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次に、遠藤誉・白井一成『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(実業之日本社) です。本書では、2人の著者の問題意識がアチコチにあるようで、しかも、2人の著者が属する中国問題グローバル研究所の中国在住の学者さんのインタビューも入っていて、ハッキリいって、何をテーマにどういう立論で、どういった結論が導かれているのか、私にはよく理解できませんでした。次の『ポストコロナの資本主義』と同じで、相反する論旨を堂々と展開している部分もあり、私の理解が及びませんでした。少なくとも、現在の中国のトップである習近平の行動原理のひとつに「父のトラウマ」があるというのは、何とも理解し難い気がします。ひょっとしたら、本書には書かれていないトランプ米国大統領の隠れたモチベーションにも「父のトラウマ」があったりするんでしょうか。そこから、米中対立を解き明かすというにはハッキリとムリですし、さらにそこに第5章のように新型コロナウィルス感染症(COVID-19)を埋め込ませようとするのは、さらにさらにで、頭の回転が鈍い私には理解できませんでした。ポストコロナ時代の米中覇権と新世界秩序形成の行方は米中両大国の「父親のトラウマ」でもって解き明かせるのだとすれば、経済学や政治学の役割というものが何なのか、私はまったく理解できません。「父親のトラウマ」は別にして、要するに、表面から見えている要因だけでなく、いろいろと隠されたウラ事情があって、それらが引き金となっていろいろな見える部分を動かしている面がある、というのは、理解できないことではありませんし、いわゆる「陰謀論」ではよく持ち出される論点です。でも、私には、いったい、本書が何を主張したいのか、謎のままの読書でした。私なんぞよりも知性的に大きく上を行く、と自覚している人以外にはオススメしません。

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次に、岩村充『ポストコロナの資本主義』(日本経済新聞出版) です。これまた、出来の悪い本でした。著者は日銀出身の研究者なんですが、ほぼほぼ毎回持ち出すのはお得意のブロックチェーンだけで、ほかは内容がない、というか、、むしろ毒になるような内容もいっぱい詰め込まれています。例えば、冒頭の何章かで、現在の我が国政府の公式見解をそのまま踏襲して、PCR検査の拡大不要論を展開しています。PCR検査にせよ、何の検査にせよ、偽陽性が検知されてしまうのは確率的にありえるのは当然なんですが、PCR検査で陽性になれば隔離されてしまうという恐怖感をハンセン病を持ち出すというのも、私はどうかという気がします。私は逆にPCR検査は拡充すべきであると考えているのは、本書の著者が情報不足からか、それとも意図的にか、見落としている大きなポイントがあります。それは、本書でまったく書かれていない点で、若者で無症状な感染者がいたり、あるいは、潜伏期間が2週間とかなり長いことから、そういった無症状感染者や潜伏期間の感染者が感染を広めてしまう可能性が十分あるからです。COVID-19のひとつの大きな特徴です。ですから、無症状の若者が基礎疾患があったり、高齢で抵抗力が弱まっている人々に感染を拡大しないためには何らかの検査で感染の有無を判定することが必要です。しかも、著者は日本で感染がそれほど拡大せず、あるいは、死者が諸外国と比べて少ないのは、国民がある程度自主的に接触を減らしたせいだということは何度も書いています。接触を減らすということと、隔離との違いは決して小さくありませんが、感染症対策として基本的な作用は同じであるということは理解が及ばないのでしょうか。本筋の経済についても、ブロックチェーンはまだしも、「底辺への競争」ばっかりで、このブログでも取り上げたOECDなんかの課税提案については、まだ、お勉強している人は少ない印象なのでしょうか。いずれにせよ、今週の読書のうち、「ポストコロナ」というタイトルで選んだ2冊は失敗でした。どなた様にもオススメしません。

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次に、養老孟司『AIの壁』(PHP新書) です。著者はご存じ『バカの壁』がベストセラーになった東大医学部の名誉教授にして解剖学者です。本書でも基本は口述筆記で、AIの発展がめざましい碁や将棋に関連して羽生善治、エコノミストでありAIに関連した著書もある井上智洋、この人走りませんでしたが哲学者の岡本裕一朗、人工頭脳プロジェクト「ロボットは東大に入れるか。」を進めてきた数学者の新井紀子、との対談を収録しています。それぞれに個性的で興味深い内容を含んでいますが、さすがに、井上准教授との対談は私にはそう目新しいものはなく、その私の目から見て、新井教授との対談が群を抜いていました。前の安倍内閣のご飯論法にも通ずる小泉元総理の人を食ったような論理的に破綻した論法について、むしろ、小泉元総理が国民の論理的な能力を正確に推し量ったものではないか、すなわち、国民の論理的に考える能力が崩壊していることを小泉元総理が見抜いたのではないか、と指摘しています。私は目から鱗が落ちるようでした。時の政治エリートのレベルは国民のリテラシーが決定するわけですので、小泉元総理の論法やご飯論法については、要するに、国民のレベルがそれを生み出すところまで落ちているのであろうということは、私にも薄々感じられていましたが、それを見切った発言だったとまでは思いが至りませんでした。ご指摘のように、インターネットなりなんなりに接続して、テキストだけで意思疎通を図ろうとするのはムリがあるのかもしれません。

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最後に、藤本修『コロナ不安に向き合う』(平凡社新書) です。著者は、関西をホームグラウンドとする精神科医であり、研究者でもあります。タイトル通りに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)という従来にない恐怖や不安に対して、ストレスをいかに上手く部b参して生活や仕事を進めるか、という観点からいろんな事が書かれています。特に、いくつかの例を引いて、判りやすく解説がなされています。本書で指摘されているように、4月から始まった緊急事態宣言が解除されると、コロナ前の生活が戻ると思っていた部分があって、自粛警察や理不尽な知事の発言などにも耐え忍んだにもかかわらず、緊急事態宣言が終わると、こんどは「ウィズ・コロナ」でコロナと共生するがごとき生活を強いられて、バカバカしくなったのは私だけではないのでしょう。第4章ではPCR検査の混乱を指摘し、ひとつのストレッサーになった可能性が上げられています。今週の読書でも、相変わらず、PCR検査に関して間違った見方を堂々と示しているエコノミストがいるんですから、こういった混乱は悲しいところです。最後に、コロナ不安に向き合う10箇条が列挙されています。私が読んだ範囲では、特にCOVID-19に起因するストレスだけに適用すべき内容ではなく、広く現代社会のストレス一般にも適用できそうに見えます。私は東京にいるころは、ほとんど新書は読まなかったんですが、余り読書が進まない学生向けと思って新書を読みだしたところ、少なくとも、今週の新書の読書2冊はとてもいい結果をもたらしてくれた気がします。これで自信を持って、学生諸君にも新書の読書をオススメすることが出来ます。

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2020年10月30日 (金)

緩やかな回復続く鉱工業生産指数(IIP)と底堅い雇用統計をどう見るか?

本日は月末閣議日ということで、重要な政府統計がいくつか公表されています。すなわち、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計がが、それぞれ公表されています。いずれも9月の統計です。まず、鉱工業生産指数(IIP)は季節調整済みの系列で見て、前月から+4.0%の増産を示した一方で、失業率は前月と同じ3.0%、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント低下して1.03倍と、雇用は明らかに悪化を示しています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響によるものと考えるべきです。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

 

9月の鉱工業生産指数、4カ月連続で上昇 判断「持ち直し」で据え置き
経済産業省が30日発表した9月の鉱工業生産指数速報値(2015年=100、季節調整済み)は前月比4.0%上昇の91.6だった。上昇は4カ月連続。自動車工業や生産用機械工業などで生産の回復が目立ち、業種別では15業種のうち13業種が上昇した。
自動車工業では普通乗用車や駆動伝導・操縦装置部品、自動車用エンジンなどの品目が上昇に寄与した。新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んでいた需要は回復しており、工場の稼働日を増やして増産する動きがあったほか、海外向けの生産も戻りつつあるという。生産用機械工業では需要回復に伴う増産でショベル系掘削機械が増えたほか、海外向けが伸びた半導体製造装置などの品目が押し上げた。
出荷指数は90.4と前月から3.8%上昇した。国内外での経済活動の再開に伴う需要回復で出荷が増えた。在庫は前月比0.3%低下の97.7、在庫率は3.7%低下の118.6となった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では、10月が4.5%の上昇、11月は1.2%の上昇だった。企業の予測値が上振れやすいことや例年の傾向を踏まえ、経産省がはじいた10月の補正値は1.4%上昇だった。
9月の生産の基調判断は「持ち直している」で据え置いた。経産省は先行きについて「生産は当面低い水準が続く。今後の感染症の影響についても引き続き注意してみていく必要がある」と説明した。
あわせて公表した7~9月期の鉱工業生産指数は前期比8.8%上昇の89.0だった。上昇率は現行基準で比較可能な2013年以降で最大だったが、「4~6月期の大幅低下からの戻りとして水準は半分も戻っておらず、生産は今後も回復が続くことが期待される」(経産省)という。
9月の求人倍率1.03倍に低下 非正規123万人減
厚生労働省が30日発表した9月の有効求人倍率(季節調整値)は1.03倍で前月から0.01ポイント低下した。6年9カ月ぶりの低水準となった。総務省が同日発表した9月の完全失業率(同)は2カ月連続の3.0%だった。非正規雇用者数が前年同月比で123万人少ない2079万人となり、7カ月連続で減少した。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。低下は1月から9カ月連続。9月は企業からの有効求人が前月から0.1%減り、働く意欲のある有効求職者は0.8%増えた。
雇用の先行指標となる新規求人(原数値)は前年同月比で17.3%減った。減少幅では生活関連サービス・娯楽業(32.9%)や宿泊・飲食サービス業(32.2%)、卸売業・小売業(28.3%)、製造業(26.7%)が大きかった。建設業は5.9%増加した。
9月の就業者数は前年同月比で79万人減り、6689万人になった。6カ月連続の減少で、特に非正規の雇用環境が厳しい。パート・アルバイトが61万人、契約社員が40万人それぞれ減った。正社員は48万人増え、4カ月連続で増加した。
休業者は197万人で8月から19万人減少した。200万人を割ったのは2月以来になる。過去最高だった4月(597万人)からは大幅に減り、新型コロナウイルスの感染拡大前とほぼ同じ水準に近づいている。
雇用環境は近年、人手不足などを背景に堅調に推移してきたが、新型コロナ禍によって、悪化した。総務省の担当者は9月の雇用情勢について「持ちこたえている状況」と説明する。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は10月28日時点で6万8758人だった。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。製造業と小売業で、それぞれ1万人を超えた。

 

ふたつの統計を取り上げていますのでやや長くなってしまいましたが、いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。

 

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は+3.1%の増産との見込みで、レンジでも+2.5%~+4.0%でしたので、ほぼほぼ上限といえます。増産に寄与した順に少し詳しく見ると、前月比+10.9%増の自動車工業、+11.2%増の生産用機械工業、+4.8%増の電気・情報通信機械工業、+5.7%増の電子部品・デバイス工業など、9月の増産業種には我が国のリーディング・インダストリーであり、それなりに付加価値額の大きな産業が並んでいます。特に、自動車工業については産業としての裾野が広く、波及効果が大きいだけに単なる1産業分野の増産とではなく、さらに幅広いコンテキストで評価する必要があります。さらに、製造工業生産予測調査によると、この先も10月+4.5%、11月+1.2%のそれぞれ増産と見込まれています。もちろん、上振れバイアスの大きな指標ですので、補正値試算が明らかにされており、それでも、+1.4%の増産との結果が示されています。ただし、上のグラフを見ても理解できる通り、9月時点での生産のレベルはまだ90をようやく少し上回ったところであり、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)前の水準に回帰しているわけではありません。例えば、昨年2019年12月の指数が99.8、2月が99.5でしたから、9月の91.2というのは、まだ8%超のギャップがあります。鉱工業生産指数(IIP)は付加価値ベースですので、そのままGDPと同じベースと考えることが出来ますが、先行きも、まだまだ緩やかな回復が続くとすれば、COVID-19前の水準に戻るのは時間がかかりそうです。加えて、COVID-19の経済的なダメージについては、鉱工業ではなく人的接触が濃厚なサービス分野に大きいと考えますので、我が国経済について考える際に、鉱工業生産指数(IIP)だけでは上方バイアスが掛かる可能性は考慮に入れるべきです。

 

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鉱工業生産(IIP)の9月データが利用可能になりましたので、在庫循環図を書いてみました。上の通りです。季節調整済みの出荷と在庫率の前年同月比をプロットしています。ピンクの上向き矢印で示された2013年1~3月期から始まって、直近でデータが利用可能な2020年7~9月期までとなっています。私のこのブログでは暫定的に今年2020年5月を景気の底としてグラフを書いていますが、在庫循環図からすればまだ景気後退局面にあり、もうすぐ45度線を越えようか、という段階かとも見えます。

 

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。まず、失業率について、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは3.1%だった一方で、有効求人倍率の日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは1.03倍でしたので、ほぼジャストミートしたものの、代表的な雇用の指標である失業率については市場の事前コンセンサスを下回っており、そこそこ雇用は底堅い、と私は認識しています。もっとも、引用した記事には総務省統計局の見方として「持ちこたえている」という状態なのかもしれません。いずれにせよ、引用した記事にもあるように、やっぱり、非正規雇用が職を離れるケースが少なくありません。前年同月比で見て、今年2020年6月から▲104万人減と▲100万人の大台に乗せ、7月▲131万人減、8月▲120万人減、そして、直近のデータが利用可能な9月▲123万人減となっています。正規職員は逆に6月+30万人増、7月+52万人増、8月+38万人増、9月+48万人増となっています。もちろん、正規と非正規を合算した雇用全体としては減少しています。特に厳しい雇用環境に直面している非正規雇用への対応が必要です。

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2020年10月29日 (木)

前年同月比で大きなマイナスになった商業販売統計と下方修正の続く展望リポートと回復続く消費者態度指数をどう見るか?

本日、経済産業省から9月の商業販売統計が公表されています。ヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲8.7%減の12兆1010億円、季節調整済み指数でも前月から▲0.1%減を記録しています。消費の代理変数となる小売販売は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染再拡大で減少が続くという結果が出ています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

9月の小売販売額8.7%減、回復は足踏み
経済産業省が29日発表した9月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比8.7%減の12兆1010億円となった。新型コロナウイルスの感染拡大により7カ月続けて前年実績を下回った。2019年9月は翌月に消費増税を控えた駆け込み需要で自動車や家電を中心に大幅に増えたため、前年比の下げ幅が大きくなった。
4月の13.9%減を底に8月は1.9%減まで持ち直していた。季節調整した指数で比べると9月は0.1%のマイナスだった。経産省は基調判断を「横ばい傾向にある」とし、8月の「緩やかに持ち直している」から修正した。
業態別では百貨店が34.0%減、スーパーが3.0%減だった。家電大型専門店は29.0%減少した。コロナの影響で増えた在宅勤務に伴うパソコンなどの需要が一服した。品目別では自動車が16.4%減だった。
経産省は「Go To キャンペーンで飲食や外出などの需要が喚起され、財よりサービスの消費にシフトしているのではないか」と分析する。

いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。

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まず、季節調整していない原系列の小売販売額が前年同月比で▲8.7%減と大きなマイナスを記録して点について、とてもミスリーディングなんですが、昨年2019年9月の小売販売額は引用した記事にもある通り、2019年10月からの消費税率の引上げ直前の駆込み需要のために大きくかさ上げされていますので、前年同月比でマイナスといっても、それほど悲観する必要があるとは思えません。むしろ、季節調整済み系列の前月比▲0.1%減を見て、基調判断を「横ばい」に変更したのであれば、その方が正確な見方ではないか、という気がします。この既設調整済みの指数で見れば、小売業販売は9月に103.1を記録しており、今年2020年1月の102.6や2月の103.1などの新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大前ないしごく初期と比べて、ほぼほぼ同じ水準まで持ち直している点は忘れるべきではありません。総務省統計局の家計調査と違って、この商業販売統計にはインバウンド消費が含まれるのが大きな特徴となっていますから、国内消費よりも大きな減少を見せているインバウンド消費を考え合わせると、内需の消費はまずまず堅調と考えてもよさそうな気がします。いずれにせよ、総務省統計局の家計調査と同じく、季節調整していない系列の前年同月比で見るのが商業販売統計としてのヘッドラインではあるのですが、昨年の消費税率引上げ直前の駆込み需要を考慮すれば、まずまずの回復が見られると考えていいのではないでしょうか。

  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
 
消費税率引き上げ・
教育無償化政策の
影響を除くケース
 2020年度-5.6~-5.3
<-5.5>
-0.7~-0.5
<-0.6>
-0.8~-0.6
<-0.7>
 7月時点の見通し-5.7~-4.5
<-4.7>
-0.6~-0.4
<-0.5>
-0.7~-0.5
<-0.6>
 2021年度+3.0~+3.8
<+3.6>
+0.2~+0.6
<+0.4>
 7月時点の見通し+3.0~+4.0
<+3.3>
+0.2~+0.5
<+0.3>
 2022年度+1.5~+1.8
<+1.6>
+0.4~+0.7
<+0.7>
 7月時点の見通し+1.3~+1.6
<+1.5>
+0.5~+0.8
<+0.7>

次に、昨日から開催されていた日銀金融政策決定会合では、短期金利を▲0.1%のマイナス金利を適用し、長期金利の指標になる10年物国債の利回りをゼロ%程度で推移するよう誘導する長短金利操作の維持や長期国債以外の資産の買入れ方針を賛成多数で決め、「展望リポート」の【基本的見解】を公表しています。その中から政策委員の大勢見通しを引用すると上のテーブルのとおりです。本年度2020年度については成長率、物価上昇率ともにやや下方修正され、逆に、そのリバウンドで来年度2021年度は上方修正されています。もちろん、例えば、日経新聞のサイトにある黒田総裁の会見を読むまでもなく、景気の回復は緩やかなものとなることは明らかですし、不確実性は以前に比べて格段に高く、リスクは下振れの方が可能性高い、といった点はエコノミストだけでなく、多くのビジネス・パーソンも共有していることと考えます。

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最後に、本日、内閣府から10月の消費者態度指数が公表されています。季節調整済みの系列で見て、前月から+0.9ポイント上昇して33.6と、2か月連続で前月を上回り緩やかながら着実に改善を示しています。いつものグラフは上の通りです。

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2020年10月28日 (水)

マクロミルと三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「2020年スポーツマーケティング基礎調査」の結果やいかに?

例年取りまとめられている「2020年スポーツマーケティング基礎調査」の結果が、マクロミル三菱UFJリサーチ&コンサルティングからそれぞれ速報として明らかにされています。軽く想像される通り、今年は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響によりスタジアム観戦などの市場規模が大きく減少しています。マクロミルのサイトにあるpdfの全文リポートを参照しつつ、私の興味に応じて、いくつか図表を引用して取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 図表2. スポーツ参加市場規模 を総括表として引用しています。COVID-19の影響により、私がひいきにしている阪神タイガースも通常年より大きく遅れて、しかも、無観客でシーズンを開始しましたし、観客を入れても5,000人までとかの時期もありました。従って、昨年と比較してスタジアム観戦市場が半減しています。当然です。スポーツ全体に関心が低下したこともありますが、ほかはそれほど減少を示していない一方で、人との接触が大きいスタジアム観戦などの場面でのスポーツ市場が特に大きな縮小を示しています。

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次に、リポートから 図表5. 昨年と比べたスポーツ・運動等への関心、運動量、観戦頻度等の変化 を引用しています。ここでも、下の方にあるプロスポーツのスタジアムでの観戦が大きな減少を示し、同時に、プロスポーツの自宅等での観戦も低下しています。他方、外出がままならない中で、自宅での運動がそれなりに増加し、運動不足感も広がっています。

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最後に、リポートから 図表11. 日本のプロ野球、Jリーグチーム、サッカー日本代表のファン人口の推移 と 図表12. 球団別プロ野球ファン人口推計 を引用しています。プロ野球が底堅い人気を維持しているのが見て取れます。その中で、球界の盟主である読売ジャイアンツにはかなわないものの、我が阪神タイガースも2番めの人気を誇っています。

最後に、テーブルは引用しませんが、東京オリンピックの開催についての考えを問うています。「規模を縮小して開催する」が18.8%、「予定どおり開催する」が12.6%、「観客を減らして開催する」が11.8%などを、かなり無理やりに合計して東京オリンピック開催強行が多数という結論をリポートでは示していますが、他方で、単独の回答としては、実は、オリンピックを「中止する」が19.3%に上っていてトップの比率を示していますし、「さらに延期して、開催できるか検討する」も9.0%と無視できない割合を示しています。まあ、組織委員会と政府は総合的、俯瞰的な観点から強行開催するんでしょうね。

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2020年10月27日 (火)

リクルートジョブズによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

今週金曜日10月30日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートジョブズによる8月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。

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アルバイト・パートの時給の方は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響などにより、ジワジワと停滞感を増していますが、他方、派遣スタッフの方は5月以降のデータが跳ねています。上のグラフの通りです。現時点で判断するのはややムリで、何があったのかは私には判りかねます。
まず、アルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は+2%台の伸びながら、人手不足がメディアで盛んに報じられていた昨年暮れあたりの+3%を超える伸び率から比べるとジワジワと低下してきています。三大都市圏の9月度平均時給は前年同月より+2.6%、+28円増加の1,091円を記録しています。職種別では「専門職系」(+34円、+209%)、「事務系」(+32円、+2.9%)、「製造・物流・清掃系」(+26円、+2.5%)、「営業系」(+29円、+2.3%)、「販売・サービス系」(+10円、+1.0%)の5職種で前年同月から増加し、「フード系」(▲9円、▲0.9%) だけは減少となっています。地域別でも、首都圏・東海・関西のすべてのエリアで前年同月比プラスを記録しています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、昨年2019年7月統計から先月2020年4月統計まで10か月連続でマイナスを続けた後、5月度以降給は前年同月から大きく増加し、9月も+3.5%、57円増加の1,690円に増加しています。職種別では、「医療介護・教育系」(+78円、+5.4%)、「IT・技術系」(+36円、+1.7%)、「クリエイティブ系」(+19円、+1.1%)の3職種が前年同月比プラスとなり、マイナスは「営業・販売・サービス系」(▲5円、▲0.4%)、「オフィスワーク系」(▲18円、▲1.2%)の2職種にとどまっています。また、地域別でも、首都圏・東海・関西のすべてのエリアでプラスを記録しています。1年近く前年同月比マイナスを続けてきた派遣スタッフの時給が5月からジャンプしたのですが、アルバイト・パートの時給上昇率はジワジワと停滞し始めていますし、2008~09年のリーマン・ショック後の雇用動向を見た経験からも、COVID-19の経済的な影響は5月ころに底を打ったように見えるものの、雇用については典型的には失業率などで景気動向に遅行するケースが少なくないことから、先行き、非正規雇用の労働市場は悪化が進む可能性がまだ残されていると覚悟すべきです。同時に、相反することながら、意外と底堅いという印象もあります。この底堅さが、昨日の企業向けサービス価格指数(SPPI)の動きの背景をなしているのではないか、という気もします。

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2020年10月26日 (月)

今年のドラフトは100%の成果で矢野監督在任一番の功績か?

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今日はドラフト会議でした。我が阪神タイガーズはドラフト1位で近大のスラッガー佐藤選手を引き当てました。采配が冴えない矢野監督の在任一番の功績だという気がします。ちなみに、私が考える矢野監督の第2の功績は、どこまで影響力があったのかは不明ながら、ボーア選手の残留だったりします。

来シーズンこそ優勝目指して、
がんばれタイガース!

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企業向けサービス価格指数(SPPI)は底堅い動きを示す!!!

本日、日銀から9月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.3%でした。消費税率引上げの影響を除くと▲0.5%の下落でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の企業向けサービス価格、増税除き0.5%下落 下落率は縮小 広告需要などで
日銀が26日発表した9月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は104.0と、前年同月比で1.3%上昇した。19年10月の消費税率引き上げの影響を除くと前年同月比で0.5%下落した。下落は7カ月連続となるが、広告需要の持ち直しなどを背景に8月と比べると下落率は縮小した。
自動車や日用品のテレビ向け広告需要が高まったほか、決算前の企業の予算消化を目的にインターネットの検索連動型広告も8月と比べ増えた。政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」を受けて、宿泊サービス価格の前年比下落率が縮小したことも指数を支えた。
一方、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて荷動きが低調な外航貨物輸送などが、下押し要因となった。
日銀は「新型コロナがサービス価格の重荷になっている状況は続いている」と分析。足元で持ち直している広告や宿泊サービスの動向などについて、注視する姿勢を示した。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。財の企業物価指数(PPI)の国内物価よりも企業向けサービス物価指数(SPPI)の方が下がり方の勾配が小さいと見るのは私だけではないような気がします。いずれも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。

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今年2020年に入ってからの企業向けサービス価格指数(SPPI)上昇率の推移を概観しておくと(カッコ内は昨年2019年10月からの消費税率引上げの影響を除くベース)、2月統計の+2.1%(+0.4%)の後、3月統計の+1.4%(▲0.4%)で消費税率引上げを除く、いわば、「実力ベース」で前年同月比マイナスに転じ、4月統計の+0.8%(▲1.0%)から5月統計は+0.4%(▲1.4%)まで、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で一気に上昇率が縮小しましたが、6月統計で+0.8%(▲1.0%)、7月統計で+1.1%(▲0.7%)、8月統計でも+1.1%(▲0.7%)、そして、本日公表の9月統計では+1.3%(▲0.5%)の上昇と、5月を底に消費税を含む上昇率も緩やかに拡大してきました。ただし、何度か繰り返して書きましたが、10月統計からは物価の前年同月比上昇率は消費税率引上げの影響が剥落して、マイナスを記録する可能性が高いと考えるべきです。
品目別に少し詳しく見ておくと、消費税を含む前年同月比上昇率+1.3%への寄与度で見て、労働者派遣サービスや土木建築サービスを含む諸サービスが+0.69%の寄与となっていて、引き続き、人手不足の影響がまだ残ってる可能性が示唆されています。ただし、同じ諸サービスの大類別に入る宿泊サービスは8月、9月ともに「Go To トラベル」の影響で前年度同月比が▲30%を超えてマイナスに落ち込んでいます。また、ソフトウェア開発をはじめとする情報通信の寄与度も+0.33%あり、続いて、道路貨物輸送などの運輸・郵便も+0.16%の寄与を示していて、ここにも人手不足の影響が残っている可能性があります。いずれにせよ、企業向けサービス価格指数(SPPI)上昇率は10月統計ではマイナスとなる可能性が高そうですが、消費税を除く実力ベースでは5月を底に緩やかに下落幅を縮小し、COVID-19の影響が軽減されれば、プラスの上昇率を取り戻すのはそう遠くない、と私は楽観しています。

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2020年10月25日 (日)

消化試合ながら秋山投手の力投で巨人に完勝!!!

  RHE
阪  神110020000 4120
読  売000000002 260

消化試合ながら、秋山投手の力投で巨人に完勝でした。最終回に失点し完封は逃しましたが、6安打2失点のナイスピッチングの完投でした。打撃陣も序盤から得点を重ねました。惜しむらくは、狭い東京ドームで大山選手のホームランが出ませんでした。出番はなかったものの、藤川投手の顔も見られてよかったです。1か月ぶりの虎ブロでした。明日のドラフトも楽しみです。

ゆっくり来シーズンに備えて、
がんばれタイガース!

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キース・ジャレットのピアノのない未来

少し前のニューヨーク・タイムズの記事 "Keith Jarrett Confronts a Future Without the Piano" で明らかにされたように、現在のジャズ・ピアニストの最高峰の1人であるキース・ジャレットが沈黙を破り、2018年の脳卒中の後遺症により、Mr. Jarrett, 75, broke the silence, plainly stating what happened to him: a stroke in late February 2018, followed by another one that May、左半身に麻痺が残り、My left side is still partially paralyzed、もはや公衆の前で演奏できない、It is unlikely he will ever perform in public again、とインタビューを受けています。私の見立てでも、歴史上のバド・パウエルとかは別にして、現在時点でのジャズ・ピアニストはキース・ジャレットとチック・コリアの2人が抜きん出ていると考えています。引用した記事にもあるように、キース・ジャレットが75歳、そして、チック・コリアも79歳です。ひるがえって、我が国最高のジャズ・ピアニストの1人である小曽根真はまだ60歳に達していません。上原ひろみや山中千尋はアラフォーではないかと思います。いろいろあるんでしょうが、死後半世紀を経てまだ未発表録音が発掘されるジョン・コルトレーンとは違うんだろうとか、私自身が還暦を超えて、とめどなく考えがまとまりません。

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2020年10月24日 (土)

今週の読書は歴史書ばかりで計4冊!!!

今週の読書は、先週末から読み始めて、水曜日10月20日に読書感想文をアップしたケルトン教授の『財政赤字の神話』がメインになってしまい、それ以外は4冊、すべて歴史に関する本ばかりで以下の通りです。

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まず、金井雄一・中西聡・福澤直樹[編]『世界経済の歴史[第2版]』(名古屋大学出版会) と河崎信樹・村上衛・山本千映『グローバル経済の歴史』(有斐閣アルマ) です。とてもよく似たタイトルの2冊ですから、内容も大きくは異なりません。どちらも学術出版社からの出版です。ただ、前者は経済史、後者は経済の歴史、というのは同じようでいて、実はかなり異なっています。また、上の画像だけを見ると判然としないんですが、やや大きさが異なります。上の『世界経済の歴史[第2版]』がA5版なのに対して、下の『グローバル経済の歴史』はいわゆる四六判で少し小さくなっています。ページ数は変わりありませんが、大きさの分、『世界経済の歴史[第2版]』の方がいっぱい詰め込んである印象です。ということで、どちらも経済の歴史をグローバル・ヒストリーの連関関係で見ているわけですが、私の直感的な印象では『世界経済の歴史[第2版]』の方が経済的な見方が多く、『グローバル経済の歴史』の方は歴史的な見方が支配的な気がします。どちらも、従来の世界史的な王朝史ではありません。私自身は『世界経済の歴史[第2版]』の歴史観の方に馴染みがあり、ある程度は主流派経済史のノース教授などの制度学派的な色彩を持ちつつ、マルクス主義的な発展段階論も踏まえています。『グローバル経済の歴史』はもっと素直に、というか、何というか、特段のバックグラウンドなしに歴史を歴史そのままに記述している印象です。読み比べたわけではありませんが、ボリュームの要素もあって、『グローバル経済の歴史』は通史で終わっていますが、『世界経済の歴史[第2版]』は第Ⅰ部で通史を記述した後、第Ⅱ部ではテーマ別の歴史に取り組んでいます。一昨日のケルトン教授の『財政赤字の神話』を読んだばかりだったので、『世界経済の歴史[第2版]』第Ⅱ部第9章 信用システムの生成と展開が面白く読めました。MMTだけでなく、本書でも「はじめに預金ありき」で、預金を原資に信用が展開される、という議論は明快かつ徹底的に否定されています。すなわち、原初に預金を集めたから貸出ができる、というわけではまったくなく、銀行がかすから預金が増える、というメカニズムであると冒頭から指摘され、金匠のゴールドスミスの証券から始まるという信用の歴史が明らかにされています。また、京都大学経済学部の恩師は西洋経済史とともに、経営史の講義も担当していたのですが、その経営史についても幅広く議論されています。シュンペーターやチャンドラーの経営史的な貢献などです。いずれにせよ、歴史学については、というか、経済史については展開の歴史がハッキリしており、マルクス主義的な色彩の強い発展段階論から、経済発展論や成長論が展開され、先進国を対象とする成長論を発展途上国に応用して従属理論となり、このあたりから経済史と開発経済学が分岐し、前者はウォーラーステインの貢献などにより世界システム論となり、最終的に現在のようなグローバル・ヒストリー論に結実しています。単なる歴史ではなく、経済史、あるいは、経済に焦点を絞った世界史なのですが、なかなか勉強になります。少し前に流行った高校の世界史をやり直すよりは、こういった経済史の本を読む方が私にはあっている気がします。強くします。

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次に、濱口桂一郎・海老原嗣生『働き方改革の世界史』(ちくま新書) です。著者は、厚生労働省出身の労働研究者と労働に詳しいジャーナリストです。私は研究機関でごいっしょした経験もありますが、ほとんど面識はありません。そして、ややタイトルに「難あり」なのですが、話題を呼べそうなので働き方改革を前面に押し出しているものの、それが100%間違いとも思えませんが、実は、労働運動ないし労働組合の歴史とした方が、より正しく本書の中身を反映しているように考えます。特に、主要な中身は12講から成っており、労働関係の古典的な学術書を読み解く形で、私の好きな方法論だったりします。主要な歴史の流れに沿って、団体交渉や争議などの集合取引という労使対立のから始まって、労働者の経営参加や共同経営といった労使の協調の考えが取り入れられ、その2本足で労働運動が進められてきたとの歴史的な解明がなされています。ただし、これは大陸欧州の場合であって、英米のアングロ・サクソンでは相変わらず前者の集合取引一本槍で、逆に、日本では労使協調が主流になっているのはよく知られた通りです。もちろん、21世紀に入ってからは、日本に限らず、英米や大陸欧州でも労使対立的な色彩が徐々に薄れ、というよりも、労働組合の組織率がどの先進国でも大きく低下しているのが事実でしょう。こういった点は、最後の12講で唯一我が国研究者の本が取り上げられ、そういった労使関係の二元的な側面が特に強調されています。最後に、本書でも何度か言及されているように、日本でも少し前までは労働運動や労働組合といえば、かなりの強者の論理に支配されており、正規雇用の熟練工などのための活動だった気がします。すなわち、主婦のパートや学生アルバイトなどといった非正規雇用はお呼びではなかったわけで、その意味で、昨今の格差拡大にはどこまで力が及んだかは大きな疑問です。私の勤務する大学でも、日本では特に世代効果が大きいと認識されており、従って、景気後退期に就職する学生諸君の生涯賃金はかなり低下し、その影響は米国などと比べてかなり長期に及びます。これから先の方向として、こういった世代効果も含めて、旧来の賃金や労働時間などの狭い意味の待遇だけでなく、社会一般における格差の問題や非正規と正規の同一労働同一賃金の実現に向けて、労働運動や労働組合の果たす役割は大きいと私は認識しています。私も、大学教員に再就職して、役所勤務のころは管理職として労働組合を長らく離れていましたが、もう一度組合員となり、いろいろと考えを巡らせたいと思います。

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最後に、本郷和人・井沢元彦『疫病の日本史』(宝島社新書) です。著者は、東大資料編纂所の研究者と作家です。両者の対談が主要な部分を占めています。私はこの両者による同じ出版社からの『日本史の定説を疑う』を読んだ記憶があります。やっぱり、対談を基にしていました。ということで、ハッキリ言って、どうということもない内容です。相変わらず、社会全体が右傾化する中で、「日本人すごい論」がいっぱい出回っていますが、本書も、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染者や死者が日本では少ないという「事実」について歴史的な解明を試みています。ただ、結論はややお粗末で、「穢れを嫌うから」という1点で終わっています。それを延々と歴史的に解説しているだけであり、そもそも、我が国がCOVID-19のパンデミックを避けられたのかどうかは、現時点で判断するのはややリスクが伴う気がしますし、実は、PCR検査が他国と比較して圧倒的に少なく、症状のない感染者を見逃している可能性については認識が及んでいないようです。加えて、日本に伝統的な神道が穢れを嫌い遠ざける一方で、古典古代期に海外から導入された仏教は穢れを救う、とか、宗教的な見方が示されているのはやや笑いを誘う部分があり、私は通勤電車で読んで笑ってしまって、ややバツの悪い思いをしたりしました。宗教に関しては、ルネサンスや宗教改革がペストの流行を一因とするのはその通りなのですが、そもそも、キリスト教が下層階級から受け入れられ始めたのがペストを一因とする点についても考えが及んでいないようです。明治維新直前の孝明天皇が天然痘で亡くなったのは、細菌テロの可能性があると示唆していますが、そもそも、明治期に入ったあとでドイツに留学した超優秀な陸軍軍医だった森林太郎が脚気の治療で大間違いをしたほどのレベルの医療情報しかないわけですので、明治以前に細菌テロが可能とも思えません。私は歴史も科学的に研究すべきだと考えていますし、単に、他の人が知らない面白そうな事実を並べればいいというものではないような気がしています。

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2020年10月23日 (金)

消費者物価(CPI)上昇率は8月に続いて「Go To トラベル」によりマイナスに沈む!!!

本日、総務省統計局から89月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は▲0.3%の下落を示した一方で、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は前年同月と横ばいでした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の全国消費者物価、0.3%下落 「GoTo」で宿泊料30%下落
総務省が23日発表した9月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が101.3と前年同月比0.3%下落した。政府による観光需要喚起策「Go To トラベル」事業の影響で宿泊料が30.0%下落したことなどが押し下げ要因となった。QUICKがまとめた市場予想の中央値(0.4%下落)より下落率は小さかった。
他の品目では、電気代やガソリン、灯油などエネルギー関連の価格下落も目立った。2019年10月から始まった幼児教育無償化を受け、幼稚園や保育所の保育料も下落が続いている。
生鮮食品を除く総合で全523品目中、384品目が上昇、123品目が下落、16品目が横ばいだった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は101.6と前年同月比で横ばいだった。
生鮮食品を含む総合は102.0で横ばいだった。プラスにならなかったのは16年9月(0.5%下落)以来、4年ぶり。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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コアCPIの前年同月比上昇率は日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲0.4%でしたので、やや市場予想よりも上振れたとはいえ、ほぼジャストミートしたと私は考えています。さらに、資料はありませんが、朝日新聞のサイトNHKのサイトを見る限り、「Go To トラベル」の影響を除くと、コアCPIは前年同月と同じ水準、横ばいになると総務省統計局では試算しているようです。コアCPIの前年同月比で見て、先月8月▲0.4%の下落、直近で統計が利用可能な9月で▲0.3%の下落となった大きな理由は「Go To トラベル」による宿泊料の下落であり、8月は▲32.0%、CPI総合への寄与度は▲0.42%、9月も▲30.0%、寄与度▲0.35%ですから、8-9月のコアCPIマイナスをすべて説明してしまっています。ほかにも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により国際商品市況で石油価格が大きく低下している点も考慮すれば、9月までの物価の基調は統計の数字に現れているほど悪くはない、ということになりそうです。ただ、言うまでもなく、日銀の物価目標である+2%からはほど遠く、加えて、10月からは昨年の消費税率引き上げの物価への影響が剥落します。ですから、コアCPI上昇率が再び大きなマイナスに落ちることは覚悟せねばなりません。また、4~6月期2次QE後のGDPギャップは、内閣府の試算によれば、▲10%を超える大きなマイナスであり、物価の基調が上向くには時間がかかりそうです。

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2020年10月22日 (木)

国会図書館リポート「新型コロナウイルス感染症と学生支援」を軽く読む!!!

一昨日の10月20日に国会図書館から調査と情報No.1116として、「新型コロナウイルス感染症と学生支援」と題するリポートが公表されています。おおむね2020年8月までの情報を基に、米国、カナダ、オーストラリア、英国、ドイツ、フランスの6か国について取りまとめられています。リポートから引用しつつ、不正確になるのを容認して大胆に、私なりにナナメ読みした結果を、主要なものだけ要約すると以下の通りです。
米国では、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)に基づき、大学等への財政支援を目的とする高等教育緊急救済基金(Higher Education Emergency Relief Fund: HEERF)が設立され、高等教育分野に合計約140億米ドル(約1兆5000 億円)の支援が行われています。また、カナダでは、カナダ緊急学生給付金(Canada Emergency Student Benefit: CESB)が設けられ、大学生のほか、大学・高校を卒業したが感染症流行の影響で職を得られていない者に対して、2020年5月から8月までの間、1か月につき1,250カナダドル(9万9000 円)、あるいは、扶養家族がいる場合や障害がある場合は2,000 カナダドル(15万8000円)を給付しています。米加では新たな制度を設けていますが、オーストラリアでは、従来からの若年者手当(Youth Allowance)の給付を上乗せする形で、第1段として、3月に一律750豪ドル(5万6000円)の一時金を決定し、また、第2段として、4月27日から9月24日までの間、2週につき550豪ドル(4万1000円)を支給する措置が取られています。このオーストラリアの措置がすごいのは、何の申請もなしで自動的に上乗せ支給している点です。欧州に目を向けると、英国では、大学に資金を配分してる学生局(Office for Students: OfS)からの資金として、4600万ポンド(62億6000万円)を経済的に困難な学生への補助金として、4~5月にかけて利用可能とした上で、6、7月にもそれぞれ2300万ポンド(31億3000万円)が追加されています。ドイツでも、国営のドイツ復興金融公庫(Kreditanstalt für Wiederaufbau: KfW)が提供する学生ローンを拡充するほか、返済不要の一時給付金を1か月当たり最大500ユーロ(61,500 円)6月から毎月申請可能としています。給付額は銀行口座の預金残高によって決まるらしいんですが、平均支給額は429ユーロ(52,767円)ですから、満額に近い印象です。フランスでは、地域圏大学学校厚生事業センター(CROUS)による特別の緊急援助のために1000万ユーロ(12億3000万円)が追加拠出され、ほかにも、高等教育機関に在籍する初期教育の学生などを対象に、1回限りながら200ユーロ(24,600円)が支給されています。

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ひるがえって、我が国の学生支援に関して、リポートの冒頭ページにある表を引用すると以下の通りです。一番下の行の貸与型奨学金がダントツに多くて、対象者135万人、予算額1兆441億円に上っています。たとえ無利子であっても返済は必要なわけで、何とかならないものか、と私のような大学教員は深く考えてしまいます。

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2020年10月21日 (水)

ケルトン教授の『財政赤字の神話』を読む!!!

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ステファニー・ケルトン『財政赤字の神話』(早川書房) をご寄贈いただきました。より正確にいうと、大学の同僚教員を通じて暗に要求したら、出版社の方で気を利かせてお送りいただいた次第です。ご寄贈いただいた本はていねいに読んで、貧弱なメディアながら書評をブログで明らかにすることを旨としております。なお、本書の英語の原題は The Deficit Myth であり、後で章別構成を見るように、特に財政赤字に限定したわけではなく、貿易赤字も含めて、その昔の「双子の赤字」といった感じで取り上げています。また、英語のdeficitは「赤字」という訳だけではなく、「欠乏」という意味もありますので、財政赤字を生じてでも、本当に解決すべきdeficitがある、という点を取り上げていて、最終8章がconclusionとなっています。ただし、邦訳タイトル通りに、圧倒的な重点は財政赤字にあります。
というこで、神話として以下の6つを上げています。すなわち、(1)政府の財政収支は家計と同じように考えるべきである、(2)財政赤字は放漫財政による支出過剰の表れである、(3)財政赤字は将来世代への負担となる、(4)財政赤字は民間投資をクラウディング・アウトし長期的な成長を損なう、(5)財政赤字を補填してもらうために海外への依存を高める、(6)政府の社会保障給付が諸悪の根源であって財政赤字を発生させている、という6点です。この6点で最初からの6章が構成されていて、なかなか判りやすくなっています。ただし、5点目の第5章では赤字は赤字でも、財政赤字ではなく貿易赤字のお話ですので、あまりMMTとは関係なく、ほぼほぼ主流派経済学と同じ論点が示されています。
第1章では、家計は通貨の利用者であるのに対して、中央銀行を含む統合政府は通貨の発行者であり、その意味で、通貨主権を有する政府には支払い能力に限界はない、という点はまったくその通りだと私も合意します。ただ、支払い能力に限界がないという点はいくらでも支出していい、というのとは異なります。その点が第2章であり、放漫財政の指標は財政赤字ではなく、インフレであると主張しています。これもまったく、その通りです。第3章では、従って、財政赤字が将来世代への負担となることはない、と結論しています。これも、まったくその通りです。そして、第4章あたりから少しスジが悪くなり始めます。すなわち、第4章では財政赤字が貨幣的に資金を吸収することから利子率を引き上げて民間投資を阻害することはない、と主張しています。これはその限りでは妥当かもしれませんが、ここから貨幣的な現象と実物的な現象を都合よく使い分け始めるような気がします。貨幣的には政府赤字が利子率上昇を通じて民間投資をクラウディング・アウトすることはないのはその通りながら、実物的には政府が一定のリソースを入手するわけですので、民間部門でスラックがあるという前提が必要です。そうでなければ、例えば、完全雇用でなくても政府が購入しようとする物品に供給余力なければ、価格上昇を生じて民間部門から一定のリソースを奪うことにつながる可能性があります。この貨幣的取引と実物取引の混同、というか、おそらく著者は私なんぞよりもよっぽど頭のいいエコノミストでしょうから、意図的に使い分けているのかもしれませんが、第5章でも続きます。バケツの例がバランスシートと同じように出て来て、前のp.146の例では、政府と民間部門との間の取引で、政府が民間部門から100ドルで自動車を買って、90ドルの税を徴収すれば、政府部門に▲10ドルの赤字が、そして、非政府部門に+10ドルの黒字が残る、とされていました。今度は、p.178の例では、民間部門が海外部門から5ドル輸入して、逆に、3ドル輸出すれば、海外部門に+2ドルの黒字が残るが、2ドル分の実物リソースが海外から国内に入ってくる「黒字」である、と説明されています。このあたりは、貨幣的な赤字と黒字の符号を変えたものが実物的な赤字と黒字になるわけですので、どうとでもいえるような気がしてなりません。ただし、最後の第6章の社会保障給付が財政赤字の原因ではない、というのはまったくその通りです。日本ではその昔に、狐や狸しか通らないような農道や林道を作って、それが財政赤字の原因、なんぞと称されたこともありましたが、この論点も神話であるのは当然です。第7章ではdeficitを「欠乏」と見なして、米国経済を切り口に貧困や不平等の問題を解決するために政府が財源を気にせずに支出できる重要性を議論しています。基本的に、著者の視線は米国にあるものの、日本など他の先進国にも当てはまる論点が少なくありません。特に、民主主義がカネの力で動かされかねないという点が各国共通のような気がします。最後の解説に駒澤大学の井上先生が、本書だけではなく一般的な広い意味でのMMTの論点を、事実と仮説と提言に分けて示しています。とても要領がいいと感心しました。全体を通じて指摘しておきたいのは、MMTの財政赤字の考え方については、無制限の政府支出、というか、同じことですが、財政赤字を容認するものという印象がありますが、まったくの間違いです。インフレを指標にしたきめ細かい財政オペレーションを目指すものです。
最後の最後に、2点指摘しておきます。いわゆるマルクス主義経済学を別にすれば、私はおそらく主流派経済学を大学で教えている教員の中でも、かなり最左翼に属しているものと自覚していて、それだけに、第1に、MMTの財政支出に対する基本的な考えは理解できるものの、本書のスコープ外ながら、どこまで現実的な財政政策としてオペレーションが可能かには少し疑問があります。すなわち、金融政策が市場の合理的な行動を前提に金利や貨幣供給などを政策手段として用いて、ユニバーサルな全国一律に近い効果を有するのに対して、財政政策はかなり個別的な効果を発揮します。例えば、九州で高速道路を作っても東北や北海道の人には特に便益を感じない、あるいは、保育所の増設は高齢の引退世代には便益を及ぼさない、ということがあり得ます。ですから、その財政オペレーションは単純ではありません。しかも、インフレをひとつの重要なターゲットにした財政運営が必要なわけですから、同時にマクロ経済も慎重に見極める必要があります。ひょっとしたら、中央銀行以上に財政当局に独立性が必要になるのかもしれません。それを本書では、国会議員が適切に運営できるかのような期待を表明しているかのような部分がありますが、私には疑問です。ただ、他方で、長らく役所に勤務してきた私の経験から、MMT的なきめ細かな財政のオペレーションを実行する能力は、ひょっとしたら、日本の財務省の官僚がもっとも優秀そうな気すらします。実務的に、日本でMMTの財政オペレーションを出来なければ、他の先進国で出来る国はそう多くないように感じるのも事実です。第2に、私は財政の持続可能性に関する紀要論文を取りまとめたりしていますが、財政の持続可能性について、MMT的な政府に無制限の支払い能力があるから、という、ある意味で極めて単純な見方はしていません。おそらく、動学的非効率に陥っているからだと考えています。このブログでは詳しく議論しませんが、理論的には関西学院大学の村田先生の論文が学術的には重要であり、また、昨年の American Economic Review に掲載された Blanchard 論文でシミュレーション結果が示されています。Blanchard 論文については本書でも指摘していますが、否定されています。ここではひとまず、動学的非効率、ないし、動学的効率性の喪失、とは、成長率が国債利子率を上回っている状態である、とだけ指摘しておきます。

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2020年10月20日 (火)

アベノミクスにおける非正規雇用の増加をどう見るか?

昨日10月19日付けで、第一生命経済研から「非正規雇用に対する誤解」と題するリポートが明らかにされています。アベノミクスの間に大きく増加した非正規雇用について批判は大きいものの、不本意非正規雇用が大きく減少している点などにも着目しています。グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきます。

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まず、上はリポートから正規と非正規の雇用者数の推移のグラフを引用しています。総務省統計局のデータに独自に季節調整をしているようです。総選挙が2012年12月に実施され、アベノミクスは事実上2013年から始まりましたが、2019年末までに正規雇用が+175万人増、非正規雇用が+349万人増と、ほぼほぼ非正規の増え方が正規の2倍に達しています。しかも、正規雇用は着実に増加している一方で、非正規雇用は昨年2019年10月の消費税率引上げ、さらに、今年2020年に入ってからの新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックなどの要因で、いわゆる「雇用の調整弁」として減少を示しているのはグラフから明らかです。

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次に、上はリポートから一般とパートの時給の推移のグラフを引用しています。いずれも、2013年に入ったあたりから極めてわずかながら上昇を示しています。ただ、直近の2019年時点で一般が2500円を超えているのに対して、パートはその半分以下となっています。「同一労働同一賃金」は一般とパートの間で必ずしも成り立たない可能性が高いことは私も認識していますが、「雇用の調整弁」として不況下で切り捨てられる可能性が高い一方で、時給は半分以下、というのは何とも非正規雇用の待遇の悪さを露呈しています。

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最後に、上はリポートから理由別非正規雇用者数のグラフを引用しています。非正規雇用のうち、大きく増加している理由を見れば、「自分の都合の良い時間に働きたいから」がという理由がもっとも多く、+200万人近くの増加を示しており、「家事・育児・介護と両立しやすいから」も+70 万人以上増えています。要するに、自己都合で非正規雇用に就いている可能性が高いとリポートでは見なしています。他方で、いわゆる不本意非正規と考えられる「正規の職員・従業員の仕事がないから」は▲100万人超の減少となっています。この見方は、昨年2019年などの「労働経済白書」などでも示されています。

従って、リポートでは、「理由を無視して非正規労働者数の増加のみで判断すると、労働市場の改善の判断を誤ることになりかねない」と結論しています。ただ、もう少し踏み込んで考えるべき点が残されており、例えば、リクルートの独自調査などでも、不本意非正規雇用では正規雇用への転換率が10%ほどで、他の理由に比べて仕事の満足度が低い、といった結果とともに、「非正規雇用のままであるがその理由が変わったという人が34.7%いて、不本意非正規ではなくなった人の中で大勢を占めている」と指摘し、諦めの要素が理由の変更という形で入っている可能性、すなわち、不本意非正規雇用が過小にカウントされている可能性が示唆されている、と私は考えています。

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2020年10月19日 (月)

輸出が下げ止まりつつある貿易統計の先行きをどう見るか?

本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額は前年同月比▲4.9%減の6兆551億円、輸入額も▲17.2%減の5兆3801億円、差引き貿易収支は+6750億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

9月の中国向け輸出額、14.0%増 18年1月以来の大きさ
財務省が19日発表した9月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、対中国の輸出額は前年同月比14.0%増の1兆3417億円だった。半導体製造装置や自動車などの輸出が伸びた。伸び率は2018年1月(30.8%増)以来の大きさだった。
輸入額は11.9%減の1兆4286億円で、携帯電話や衣類などが落ち込んだ。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は869億円の赤字だった。
世界全体でみると、貿易収支は6750億円の黒字と、3カ月連続の黒字となった。輸入額は前年同月比17.2%減の5兆3801億円だった。減少は17カ月連続で、新型コロナウイルス感染症による経済活動の低迷でアラブ首長国連邦(UAE)からの原油やオーストラリアからの液化天然ガス(LNG)など資源関連で減少が目立った。輸出額は4.9%減の6兆551億円だった。減少は22カ月連続で、台湾向けの鉄鋼やパナマ向けタンカーが伸びなかった。
対米国の輸出額は0.7%増の1兆1953億円だった。米国での販売回復を受けて自動車が伸びた。一方、輸入額は9.9%減の5624億円で、航空機向けのエンジンなどが減った。貿易収支は6329億円の黒字だった。
対欧州連合(EU)の貿易収支は1258億円の赤字だった。赤字は15カ月連続。
同時に発表した20年度4~9月分の貿易収支は1兆1148億円の赤字だった。4期連続の赤字で、欧米向け自動車関連の輸出の落ち込みが影響した。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+10648億円の貿易黒字が予想されていて、レンジの下限が+7892億円でしたので、一見すると、かなり下振れた印象ですが、少なくとも私に日本経済や世界経済への不安感はありません。まあ、「こんなもん」という受け止めが多いような気がします。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額も輸出数量も、ようやく、1桁マイナスにこぎつけた、というところです。季節調整済の系列で見るとさらにハッキリし、輸出額は5月を底に4か月連続で増加を続け、輸入額も先月8月統計からプラスに転じているわけですから、日本の国内景気も世界経済も緩やかながら回復を示していると考えるべきです。ます。貿易収支も着実に黒字幅を拡大しているように見えます。ただ、先行き不透明感が払拭されたわけではありません。日本や米国で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の再拡大がまだ続いているわけですし、欧州ではさらに感染再拡大の勢いが強いようで、フランスではCOVID-19の感染再拡大の防止のため、パリをはじめとして、いくつかの地域で夜間外出を制限し始めているのは広く報じられている通りです。ですから、ほかの経済活動も含めて、相変わらず、貿易の先行きもCOVID-19次第、ということになりそうで、ただ、COVID-19の感染拡大がフランスのように再びロックダウンを招かないとしても貿易や景気の回復はかなり緩やかと考えるべきです。

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続いて、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数(CLI)の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。なお、2枚めと3枚めのグラフについては、わけが判らなくなるような気がして、意図的に下限を突き抜けるスケールのままにとどめています。輸出額について、季節調整していない原系列の貿易指数で見て、欧州向けが依然として前年同月比で2ケタのマイナスが続いていて、アジア向け輸出もまだマイナスから脱していないながら、米国向けは直近で利用可能な9月統計から前年同月比でプラスに転じました。中国向けは上のグラフにも見える通り、6月統計からすでにプラスに転じており、直近で利用可能な9月統計では2ケタ増の+14.0%を記録しています。ただ、輸出の先行きについてもCOVID-19次第で、ロックダウンなどの大きな影響なくとも緩やかな回復にとどまる点も変わりありません。経済の先行き見通しは、エコノミストの手を離れそうな気すらします。

最後に、引用した記事の最後のパラには、今年度2020年度上半期の4~9月期の貿易収支は▲1兆1148億円の赤字と報じていますが、四半期で見ると、季節調整済みの輸出額が5月を底に6月から増加を続けていえる一方で、輸入額が増加に転じたのは先月の8月からであり、GDPベースの外需寄与度は7~9月期にはプラスを記録する可能性が高い、と私は考えています。ちゃんと計算したわけではありませんが、あるいは、4~6月期の▲2.8%と同等のプラス寄与を7~9月期に示す可能性があります。なお、7~9月期GDP統計速報1次QEが内閣府から公表されるのは、11月16日の予定です。

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2020年10月18日 (日)

今年の紅葉の見ごろやいかに?

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BODY:先週10月15日に、日本気象協会から2020年紅葉色づき予想<第2回>が明らかにされています。日本気象協会のサイトから引用した上の画像の通りです。
今年の予想はずばり遅い、ということのようです。紅葉の見ごろは、秋(9~11月)の気温が低いと早まり、高いと遅れるとのことで、これから11月までの気温は全国的に平年並みか高く、朝晩の冷え込みも平年に比べ弱いと予想されていることから、遅いという結論のようです。上に見える通り、京都の嵐山は11月下旬が見ゴロらしく、まだ先、という感じかもしれません。

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2020年10月17日 (土)

今週の読書は経済書がなく経営書だけながらも充実の計5冊!!!

早川書房からステファニー・ケルトン教授の『財政赤字の神話』をご寄贈いただいたようで、本日、自宅に届きました。できるだけ早く読んで、来週早々にでも読書感想文をアップしたいと思います。ということで、今週の読書は、専門分野である経済書がありません。一応、最初に経済書に近い経営コンサルの本を置いておきます。そして、小難しいと評判の悪い読書感想文をもっと判りやすくすべく、新書も3冊読んでいます。

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まず、冨山和彦『コロナショック・サバイバル』(文藝春秋) です。著者は、司法試験に合格していて、ボスコンに勤務していた経験を持つコンサルです。本書に続いて、『コーポレート・トランスフォーメーション』という本も2部作後編として出版していて、ソチラの方が本編のようですが、それだけにまだ予約の順番が回って来ず借りられていません。まず、本書では、コンサルらしく判りやすい表現で、第1波のローカル・クライシスが観光、宿泊、飲食、エンターテインメント、(日配品や食料などの生活必需品以外の)小売に打撃を与え、第2波のグローバル・クライシスでは自動車や電機といった我が国のリーディング・インダストリーもサプライ・チェーンの切断で打撃を受け、さらに、第3波のファイナンシャル・クライシスで金融危機の可能性まで言及した第1章が印象に残ります。でも、私はむしろ第1章から第2章の流れを見るべきと考えます。すなわち、コロナ・ショックの最大の危機は売上の消滅であって、キャッシュ流入の消滅であると分析した上で、資金繰りの流動性問題がソルベンシー問題に転化する危険を指摘します。エコノミストは「通商白書 2020」でも取り上げられた Guerrieri et al. (2020) "Macroeconomic Implications of COVID-19: Can Negative Supply Shocks Cause Demand Shortages?" のように、需要ショックか供給ショックか、なんてことを気にしますが、経営学や企業経営を指南するコンサルでは違うんでしょう。従って、「修羅場の経営の心得」なるものがいくつか指摘されていて、キャッシュ流入の危険があることから、迅速果断なトリアージの必要性、捨てる覚悟の重要性が主張されています。ここまではエコノミストとしては物足りないんですが、そこから敷衍して、経済政策でも捨てずに守るべきは「財産もなく収入もない人々」と「システムとしての経済」であると第2章で指摘します(p.73)。私は圧倒的に同じ考えを持っています。専門分野が経営学なのか、経済学なのか、でかなり受け取り方が違う気もしますが、コロナ・ショックで格差がさらに広がったと私も実感しており、エコノミストとしてはこの格差拡大に対処し、金融的なシステミック・リスクも含めて、経済システムの維持を図る必要性を指摘している点は重要だと受け止めています。続編の方は、まあ未読だけに何ともいえないながら、タイトルだけからすればもっと経営学の方に偏っている印象があり、本書も十分オススメです。

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次に、長谷部恭男『戦争と法』(文藝春秋) です。著者は長らく東大法学部の研究者を務めた憲法学者です。私は法律や政治学については専門外なのですが、戦争を法で縛る有効性が理解できません。本書の内容は極めて明快であり、リベラルな議会制民主主義のもとでの常識と呼ぶにふさわしいものであり、戦争を国家間の「決闘」であり、相手国の憲法秩序を破壊しようと試みるものである、という点は然るべし、と私も感じます。ただ、そうだからこそ、戦争に関してはリベラルな議会制民主主義で縛れないものがあり、結局は、「勝てば官軍」で、勝った方が負けた方を一方的に法的な秩序も何もなしに屈服させて支配するだけ、というような気もします。典型的には、ケインズが「平和の経済的帰結」を書いた第1次世界対戦終了後のフランスと英国のドイツに対する態度がそうだと私は考えています。加えて、戦争中の行為については一般的な法律で、これまた、どこまで縛れるかは疑問です。本書の最後の方にもありますが、平時であれば、鉄砲で人を撃ち殺すことは重大な犯罪ですが、戦争で敵国の兵士を殺すことが命令されたりするわけです。ですから、私は国際法にはまったく詳しくないのですが、広島・長崎への原爆投下も含めて、核兵器の使用についてはその人道的観点から反対するものの、兵士を鉄砲で殺すのと、市街地に爆撃を加えて兵士でない一般市民を殺害するのと、どこまで区別すべきなのかという疑問は残ります。そうでなければ、かつて、イラクのフセインが取ったような一般市民や外国人の人質を「人間の盾」とする防衛が有効になってしまう恐れがあると私は危惧します。加えて、世界中でリベラルな議会制民主主義の国はまだ少数派であり、中には、内戦を戦っている国もあるわけで、本書はあくまで国家間の戦争だけがスコープであるとしても、大規模な武力行使と戦争の実態的な違い、少なくとも、国際法上の違いよりは、より実践的な違いはどこに置かれるのかも疑問です。おそらく、米国や英国などの成熟した議会制民主主義国が、それなりの法的手続きに則って戦争ないし大規模な武力行使を始める大きな要因は、私はそれを始める時の政権が国民の支持を取り付けておく必要を感じるからではないか、と想像しています。国民の支持への必要性が大きくない権威主義国家で得あれば、そこまでの法的な手続きを踏まない可能性が高まるような気がします。従って、私の眼前で繰り広げられている非常に困った事象は、現在の日本の政権が国民からの支持を取り付ける必要をそれほど大きく感じていないからではないか、と想像しています。国民の関心が日本学術会議とはまったく別のところにあって、毎日の生活さえそれなりに保証しておけば、後はやりたい放題、ということなのではないか、という気がしないでもありません。その意味で、日本はまだ成熟した民主主義ではないのかもしれませんし、米国も2016年から退化してしまったのかもしれません。

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次に、原彬久『戦後日本を問いなおす』(ちくま新書) です。著者は、東京国際大学名誉教授であり、専門分野は国際政治学や日本政治外交史、安保改定の政治過程をめぐる先駆的研究で知られているそうです。本書の基本認識は我が国の対米従属ないし対米依存をどう考えるかであり、上の表紙画像に見られる「日米非対称」というのはそうういう意味です。その上で、戦後日本の3つの基層を天皇制、憲法、日米安保条約として論考を進めています。私はこの日本の対米従属や対米依存から脱却して、真の独立ないし自立を回復する点について、なぜ必要かをもっと掘り下げて欲しかった気がします。もちろん、本書では、対米従属せざるを得なかった、その要因を分析しているところもあり、地政学に基づく軍事的な要因よりみ、むしろ、「ビンのふた」的な強すぎる日本の回避、2度と対米戦をを指向しない日本のために、米国の方が日本の対米従属や対米依存を必要とし、日本ないし日本の支配層がそれを受け入れた、という分析結果のように私は受け止めています。もちろん、バックグラウンドには本書で指摘するような国民性=強者へのへつらいなどもあるのかもしれません。逆に、こういった日本の対米従属を押し付ける米国の意向を拒否するのは、日本にとってどういうメリットがあるのかに私は興味を持ちます。まあ、もう一度対米戦を戦って勝ちたい、という願望は荒唐無稽であるとしても、単なる「気持ち悪い」論とか、米国のポチを脱したい、だけではない何かがあるんではないでしょうか。強者へのへつらいを克服すれば気持ちいいのは、そうなのかもしれませんが、具体的な利益が見えずにインセンティブもないような気がします。もちろん、講座派的に2段階革命の第1段階として対米従属を打破して民主主義の徹底を図る、というのは重要な論点ですが、本書ではまったく現れません。私は少なくとも、現行の安保条約はあまりにも米軍に有利になっていて、これは廃棄ないし改定すべきと考えていますし、安保条約への態度が日米非対称解消への第1歩と考えますが、他方で、現実的に、オーストラリアのように日米安保条約のような片務的条約なしでも、ほぼほぼ無条件な対米従属を見せる国もあります。エコノミストとして、対米従属するインセンティブと、対米従属から脱するメリットをもう少し考えてみたい、という気にさせる読書でした。

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次に、山岡淳一郎『感染症利権』(ちくま新書) です。著者は、ノンフィクション作家です。明治・大正期の山岡新平と北里柴三郎、さらに、戦中の731部隊や戦後のハンセン病対策まで含めて、幅広く取材した結果が盛り込まれています。ただ、本書のタイトルである「感染症利権」は戦後の段階に達するまで、決して着目されているようには見えませんでした。加えて、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する利権はまったく現れません。その意味で、少しガッカリなんですが、戦後、731部隊の流れで戦犯訴追を免れて、ミドリ十字を設立して利益を得、厚生省にも影響力を拡大して利益を貪ったストーリーなどは読み応えがありました。その意味で、陰謀論は少し出て来るにしても、何だか告発本とかの印象はなく、いたってマジメな取材に基づくマジメな内容です。明治・大正期から大規模な検疫を実施した歴史とか、広く公衆衛生や防疫に関わった医師や役人の活躍も取り上げられています。ただ、そういった歴史に関係なく、というか、過去の成功と失敗には何の関係もなく同じたぐいの過ちが繰り返されている、というのも事実かもしれません。医薬業界が感染症とは関係なく、昔から貪欲に利益追求を繰り返してきたのは明らかですし、それを米国などが「知的財産権」の御旗のもとで守り続け、支払い能力にかける先進国内の非富裕層や途上国で、失われなくていい生命が失われていっているにも目を向ける必要があります。やや専門外の私の能力を超える読書だったかもしれないと反省していますが、たぶん、もっとしっかりした興味を持つ読書家や私よりももっと専門的知識ある読書家には、ちゃんと役立つような気がします。ということで、しっかりした書評を見たい方には出版社のサイトにある池田教授の書評をオススメします。

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最後に、ヤマザキマリ・中野信子『パンデミックの文明論』(文春新書) です。著者はイタリア人の亭主を持ってイタリア在住の漫画家と脳科学者で、対談を収録しています。マンガの方は私は『テルマエ・ロマエ』を部分的に読んだことしかないながら、映画の方は第1作だけ見ました。脳科学についてはまったく専門外ながら、いずれも新書で『サイコパス』と『シャーデンフロイデ』を読んだ記憶があります。典型的なラテン人であるイタリア人と日本人で共通点と相違点を考えた文明論です。というか、イタリアで日本を遥かに超えて新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が大流行してしまったのは、「ハンカチで洟をかむから」というのは、文明論というよりは生活実践論のような気もします。いずれにせよ、両国の国民性がよく理解できます。対談ですから、一種の「掛け合い」なんですが、ヤマザキマリが歴史上から取り上げた事象に中野信子が脳科学の見地から解説する、あるいは、逆に、中野信子が脳科学の見地から取り上げた事実にヤマザキマリが歴史的な観点から解説を加える、といったカンジで進みます。一神教と八百万の神々の対比は、私はそれほど説得的に受け止めませんでしたが、アントニヌスのペストのパンデミックの中でそれまでカルトとしか見なされていなかったキリスト教が広く受け入れられるようになった、という視点は新鮮に感じました。今回のCOVID-19パンデミックでは、さすがに、「天罰」的な発言はそれほど見かけませんでしたし、カルト的な宗教や民間療法的なCOVID-19予防法も出回らず、私の印象では少なくとも日本国民はかなり理性的な対応に終始した気がしています。まあ、その意味で、「民度が高い」というのも高位高官の発言としては気にかかるものの、実感としては決して的外れではないと感じます。これだけ、政府がゆるゆるの対応であり、緊急事態宣言が遅れた言い訳で東京都知事に責任転嫁するほどの見識のなさを露呈していながら、少なくともイタリアほどの大流行にはならなかったのは、「自粛警察」なんて存在を度外視するにしても、流動性の低さに起因する生活習慣を含めた国民の対応の成果であるのは、本書を読んでも明らかです。

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2020年10月16日 (金)

ニッセイ基礎研「中期経済見通し (2020-2030年度)」に見る日本経済の先行きやいかに?

今週火曜日の10月13日にニッセイ基礎研から「中期経済見通し (2020-2030年度)」と題するリポートが明らかにされています。私自身は、役所のころのお仕事で短期見通しを作成したこともありますが、本来は中長期の経済の行方により大きな関心を持っています。よくいわれることですが、政府の官庁エコノミストと日銀などの中央銀行のエコノミストと銀行や証券会社などの市場エコノミストのタイムスパンの違いというものがあります。すなわち、中央銀行エコノミストは大雑把に景気循環の1期間、3~5年くらいを念頭に置くのに対して、官庁エコノミストはもっと長い期間を考えます。経済ではありませんが、教育なんかで用いられる用語で、まさに「国家100年の大計」を頭に置いてお仕事するわけです。年金をはじめとする社会保障なんかもそうだと思います。もちろん、銀行や証券会社の市場エコノミストやアナリストはより短期でfrequencyの高い経済、為替や株価の動きを見ているんではないかと、私は考えています。ということで、前置きが長くなりましたが、ニッセイ基礎研のリポートをいくつかのグラフを引用しつつ取り上げる前に、ひとつだけ注意点は、このリポートは日本経済だけの中期見通しではないことに留意すべきです。私は自分の勝手な興味に基づいて、このブログでは日本経済だけに着目しますが、米国や欧州といった先進国はもちろん、中国やインドやASEANなどのアジア諸国も含めた幅広い世界経済をカバーした中期見通しとなっています。もっとも、とはいっても、アフリカや中南米が入っているわけではありませんので、念のため。

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まず、上はニッセイ基礎研のリポートから見通しのヘッドラインとなる 実質GDP成長率の推移 のグラフを冒頭のページから引用しています。当然ながら、今年2020年は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により成長率が翁マイナスに落ち込んだ後、来年2021年は東京オリンピック・パラリンピックもあって成長率がリバウンドします。その後、成長率は鈍化するものの+1%強のレベルに落ち着きます。まあ、こんなもんだろうという気はします。リポートp.4には、世界のGDP構成比の推移や1人当りGDPの推移が、予測期間である2030年まで示されています。予測最終年の2030年には中国のGDPがほぼほぼ米国にキャッチアップするという見通しが示されています。また、我が日本の1人あたりGDPは近くEUに抜かれる、というグラフもあります。

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次に、上はニッセイ基礎研のリポートからアベノミクスの振り返りとして 過去の大型景気との比較 (実質GDP) のグラフを引用しています。高度成長末期のいざなぎ景気はいうまでもなく、1980年代後半のバブル景気と比較してもアベノミクス景気は力強さの点で見劣りするわけですが、米国サブプライム・バブルを背景とする21世紀に入ってからの景気拡大期に比べても下振れています。ただ、私から強く主張しておきたい点は、アベノミクスの序盤1年くらいはサブプライム・バブル景気を上回っている事実です。何をきっかけに下回り始めたかというと、2014年4月からの消費税率の引上げであることは一目瞭然です。アベノミクスで喧伝された3本の矢のうち、2番めであった消費税率引上げによって財政政策が早々に緊縮財政に転換したためアベノミクスが力強さに欠けた、と考えるべきです。

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次に、上はニッセイ基礎研のリポートから 潜在成長率の寄与度分解 のグラフを引用しています。今年度2020年度に潜在成長率がマイナスに突っ込むのは、COVID-19の影響によるロックダウンに近い措置により、労働供給が大きく低下したためです。ですから、リポートでも指摘されているように、このマイナスの潜在成長率が日本の成長力の実態を示しているわけではありません。来年度2021年度から緩やかに回復した後、人口減少に起因する労働投入の減少に従って2030年度にかけて緩やかに低下すると見込まれています。GDPギャップも2020年度に大きなマイナスに落ちた後、数年をかけてマイナス幅を縮小し、このGDPギャップに従った形でCPI上昇率も拡大しますが、予測期間後半の2027年度にコアCPI上昇率が+1.8(に達した後、上昇率が緩やかに縮小し、2030年度までに日銀の物価目標である+2%に達することはない、と結論されています。また、経常収支も予測期間終盤に小幅ながら赤字化すると見込まれています。

最後に、このリポートは、いつものように、極めて私の実感とよく一致するシナリオを提示してくれているとともに、楽観と悲観の代替シナリオまで含めて30ページに達しており、それなりのボリュームを持って読み応えある内容となっています。

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2020年10月15日 (木)

経済協力開発機構(OECD)によるデジタル化に対応した課税の経済評価やいかに?

今週の月曜日10月12日に、経済協力開発機構(OECD)からデジタル化に対応した課税に関する経済的評価の報告書 Tax Challenges Arising from Digitalisation - Economic Impact Assessment と題するリポートが公表されています。現段階では提案であり、今後、G20などで議論される予定です。リポートは、OECD/G20のジョイントによるBase Erosion and Profit Shifting (BEPS) Projectの成果の一環です。このプロジェクトはデジタル化の進展による課税問題に対処し、2つの課題の解決に取り組んできています。すなわち、第1に、納税場所についての新たなルールとして、関連性ルール nexus rule を設定し、いかにして各国間で課税権を分け合うか、という課題です。この第1の柱に関するブループリントは Tax Challenges Arising from Digitalisation - Report on Pillar One Blueprint というタイトルで明らかにされています。第2には、法人税率の引き下げ競争に対して、世界全体で最低税額を導入し、多国籍企業による税源侵食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting=BEPS)をいかに防止するか、という課題です。この第2の柱に関するブループリントも Tax Challenges Arising from Digitalisation - Report on Pillar Two Blueprint というタイトルで明らかにされています。なお、第1の課題に関連して、米国が独自に、というか、勝手に導入したGILTI=Global Intangible Low-Taxed Income 合算課税というシステムがあります。日本語では、「米国外軽課税無形資産所得合算課税」と邦訳されており、極めて単純にいえば、多国籍企業が米国外に留保利益を貯め込むことを防止する目的で、国外子会社が利益を上げた時点で資金還流を待たずに米国が課税するという制度です。ある意味、国外の米国の主権が及ばない地域での企業活動に課税するという点からすれば、とんでもない制度なんですが、このGILTIも含めた効果がOECDのリポートでは試算されています。

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ということで、OECDによるリポートの冒頭の第1章 Overview of main findings の p.15 Table 1.1. Overview of global tax revenue effects from the proposals を引用すると上のテーブルの通りです。第1の柱と第2の柱に米国のGILTIまで含めると、世界全体で560~1000億ドル超の法人税(Corporate Income Tax=CIT)の増収につながる可能性を示唆しています。この先、どのような議論がなされて、最終的にどのような法人課税がシステムとして出来上がっていくのか、専門外の私には何とも見通せませんが、少なくとも、日本以外の先進各国や世界全体では法人税は課税強化の方向にある点は忘れるべきではありません。自民党総裁選に立候補していた当時の菅官房長官が、「今後10年は不要」と後に撤回したとはいえ、消費税率引上げの必要性にいきなり言及した日本がかなりズレていることを強調しておきたいと思います。

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2020年10月14日 (水)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」に見る世界経済の先行きやいかに?

日本時間の昨日、国際通貨基金(IMF)からIMF・世銀総会に向けて「世界経済見通し2020年10月」 World Economic Outlook, October 2020 が公表されています。副題は A Long and Difficult Ascent であり、ビートルズのヒット曲である Long and Winding Road を思い起こさせます。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により、世界経済の成長率は今年2020年は▲4.4%に落ち込むものの、来年2021年は+5.2%にリバウンドを示す、と見込まれています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。6月予想から2020年で+0.8%ポイント上方改定されたものの、2021年は▲0.2%ポイントの下方改定となっています。我が日本は、2020年▲5.3%のマイナス成長の後、2021年は+2.3%に回復すると見込まれています。6月時点での見通しと比較して、2020年は+0.5%ポイントの上方改定、2021年は▲0.1%ポイントとわずかながら下方改定となっています。

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上のテーブルは、IMFのサイトから世界の成長率の総括表を引用しています。画像をクリックすると、別タブでリポート pp.9-10 にある Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Projections を抜き出したpdfファイルが開くと思います。見れば明らかな通り、COVID-19の発生源であったにもかかわらず、というか、発生源であったからこそ、なのかもしれませんが、早期の終息ないし安定化に成功した中国を唯一の例外として、世界各国おしなべて2020年はマイナス成長に陥っています。そして、2021年のリバウンドによる成長の回復は、これまた、中国を例外として、おしなべて2020年のマイナス成長をカバーするには至りません。ほぼほぼ先進国はすべてそうですし、新興国でもインド、ロシア、ブラジルなどで、2021年のリバウンドは2020年のマイナス成長に届いていません。ただし、今年2020年6月時点での最新のIMF見通しと比較すれば、上方修正となっている国が多く見受けられます。6月時点での想定よりもCOVID-19が終息ないし安定化に向かっているということなのだろうと私は理解しています。すなわち、現時点で経済見通しはCOVID-19の感染拡大次第、あるいは、感染拡大に従って、どこまでロックダウン措置を強めるか次第、というべきであり、ハッキリいえば、経済見通しはエコノミストの出る幕ではなさそうに感じてしまいます。以下では、私の目についたグラフをいくつかリポートIMF Blog のサイトから引用しておきたいと思います。

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まず、上のグラフは、リポート p.12 Figure 1.12. GDP Losses: 2019-21 versus 2019-25 を引用しています。少し前に、Guerrieri, Veronica, Guido Lorenzoni, Ludwig Straub, and Iván Werning (2020) "Macroeconomic Implications of COVID-19: Can Negative Supply Shocks Cause Demand Shortages?" NBER Working Paper 26918 に着目して、今回のCOVID-19ショックによるリセッションはケインズ的な需要ショックではなく、contact-intensive なセクターが供給をストップしたことによる供給ショックに起因する、というモデルがありました。たぶん、私もそうですが、「通商白書 2020」で取り上げられたのでみんなが注目するようになったんではないかと思います。このほかにも、Acemoglu, Daron, Victor Chernozhukov, Iván Werning, and Michael D. Whinston (2020) "A Multi-Risk SIR Model with Optimally Targeted Lockdown." NBER Working Paper 27102 では、何とも古典的なSIRモデル、すなわち、Kermack and McKendrick (1927) "A contribution to the mathematical theory of epidemics" に基づくSIRモデルを応用して、年齢やリスクに応じてターゲット化されたロックダウンの最適化なども研究されています。こういったモデルからの結論も含めて、短期的な経済ショックと中期的な供給サイドも含めた影響を試算したのが上のグラフです。短期のショックと供給サイドも含めた中期のショックはかなりの程度に相関していることが読み取れます。ただし、ナナメに引かれた45度線からして、短期のショックの方が中期的な供給サイドも含めた影響よりも大きい国が多い、というのは当然でしょう。

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続いて、上のグラフは、IMF Blog のサイトから Uneven impacts across gender and age groups を引用しています。リポート p.72 Figure 2.6. Differentiating the Mobility Impact of Lockdowns by Gender and Age Group に相当するんではないかと思いますが、より判りやすくなっています。上のパネルは性別の不平等です。lockdown とはしていませんが、stay home order の後で女性の方が男性よりもより強く移動を制約された可能性を示唆しています。下のパネルでは、明らかに、年齢が若いほど移動の制約が強かったとの試算結果を示しています。決して、我が国の各種 Go To キャンペーンがすべて利権がらみだとは思いませんが、特定の業種や業界を支援するだけでなく、性別や年齢別、もちろん、職種別なども含めて、今回のCOVID-19ショックは従来からの格差をさらに拡大させた可能性があり、逆進性の高い消費税率の引下げをはじめ、格差や不平等へ十分に目が行き届いた経済政策が必要です。

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2020年10月13日 (火)

労働政策研究・研修機構(JILPT)緊急コラム「コロナショックの雇用面への影響は、特定の層に集中」に見る非正規雇用の現状やいかに?

先週金曜日の10月9日に、労働政策研究・研修機構(JILPT)から「コロナショックの雇用面への影響は、特定の層に集中 -女性、非正規の雇用動向を引き続き注視-」と第する緊急コラムが公表されています。タイトル通りに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の雇用への影響に付き簡単な分析をした上で、女性や非正規への影響を注視する必要があると指摘しています。グラフをいくつか引用して簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは、労働政策研究・研修機構(JILPT)のサイトから、図表5 正規・非正規別雇用者の対前年同月差の推移 を引用しています。雇用者は、COVID-19の感染拡大が観察された今年2020年3月でもまだ前年同月差で伸びていたんですが、3月時点でもすでに女性の非正規雇用がかなりの幅で減少に転じているのが見て取れます。4月初旬には緊急事態宣言が出て、その後、直近統計が利用可能な8月まで男女ともに非正規雇用が大きく減少しているのが見て取れます。非正規雇用の中でも女性の減少男性より大きくなっている点は明らかです。もちろん、これは、女性の方が非正規雇用の比率が高い、という背景も考慮する必要があります。

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次に、上のグラフは、労働政策研究・研修機構(JILPT)のサイトから、図表6 産業別雇用者数の対前年同月差の男女、正規・非正規別にみた要因 (2020年8月) を引用しています。もっとも雇用者の減少が大きかったのは製造業なんですが、男女の性別と正規・非正規の4つのセグメントすべてが減少を示しています。製造業に続くのが、宿泊業、飲食サービス業であり、COVID-19から最大の影響を受けた業種のひとつといえます。男性の正規雇用は小幅に増加している一方で、女性は正規・非正規とも、男性非正規も減少していることが見て取れます。3番めに減少幅が大きいのは建設業なんですが、やっぱり特徴的なのは卸売、小売業と考えるべきです。緊急事態宣言が出た直後は食料品などの買い物でスーパーが賑わっていたりしたんですが、8月の猛暑のころには外出を控える人も少なくなく、女性の正規雇用こそ増加したものの、男女の非正規雇用や男性正規雇用が減少しています。

この緊急コラムでは、「今回の新型コロナウイルスの影響については、対人業務が中心の産業を始め、大きな影響を受ける分野とそれ以外の分野の差が大きいことが指摘されているが、雇用面においても女性、非正規といった層への影響が統計上も現れており、今後も懸念される」と締めくくっています。まさにその通りです。

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2020年10月12日 (月)

ノーベル経済学賞はオークション理論研究のミルグロム教授とウィルソン教授が受賞!!!

私なりに興味を持って、また、私の授業を受講している学生諸君にも注目を呼びかけていたんですが、ノーベル経済学賞の受賞者が本日の日本時間夕刻に明らかにされています。オークション理論の功績(for improvements to auction theory and inventions of new auction formats)により、米国スタンフォード大学のミルグロム教授とウィルソン教授が受賞しました。今朝の日経新聞のサイトでは「ノーベル経済学賞、実証分析が有力か」というタイトルだったので、先週月曜日に取り上げたように、単位根検定のディッキー教授とフラー教授、あるいは、政府財政の持続可能性検定の嚆矢となったハミルトン教授とフレイビン教授、などに期待して、授業でも少しお話したんですが、私からすれば、まったく専門外のオークション理論の研究者でした。理解が及びませんので、速報性を重視してブログにポストしておきます。

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下げ止まりつつある機械受注とまだまだ前年比でマイナス続く企業物価指数!!!

本日、内閣府から8月の機械受注が、また、日銀から9月の企業物価 (PPI) が、それぞれ公表されています。機械受注のうち、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比+0.2%増の7525億円と、まだまだ受注額は低水準ながら、プラスの伸びを記録し、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は▲0.8%の下落を示しています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

8月の機械受注、前月比0.2%増 基調判断「下げ止まりつつある」に変更
内閣府が12日発表した8月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は、前月比0.2%増の7525億円だった。増加は2カ月連続。QUICKがまとめた民間予測(中央値)は1.0%減だった。製造業で「はん用・生産用機械」がけん引した。
製造業の受注額は前月比0.6%減の3113億円だった。3カ月ぶりの減少で、17業種のうち9業種で増加、8業種で減少した。モーターやコンベヤーなどの受注が増え「はん用・生産用機械」が27.2%増と大きく伸びた。石油精製関連の受注も増え「石油製品・石炭製品」は65.7%増加した。一方、「化学工業」や「造船業」の減少が目立った。
非製造業は6.9%減の4123億円と、2カ月ぶりに減少した。「金融業・保険業」(38.1%減)や「建設業」(10.4%減)は受注額が減った。一方、旅行業を含む「その他非製造業」(17.2%増)や「情報サービス業」(11.3%増)の伸びが顕著だった。
季節調整を個別項目ごとに行ったため、それぞれ減少だった製造業、非製造業の合計が全体(0.2%増)と一致していない。
受注総額は19.8%増えた。外需は5件の大型案件が入り49.6%増と14年4月以来の伸びとなった。官公需の受注額は防衛省等の案件で28.3%増えた。
前年同月比での「船舶・電力を除く民需」の受注額(原数値)は15.2%減だった。
内閣府は基調判断を「減少傾向にある」から「下げ止まりつつある」に上方修正した。上方修正は19年4月以来、1年4カ月ぶりとなった。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入され、設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
9月の企業物価指数、前月比0.2%下落 新型コロナが下押し
日銀が12日発表した9月の企業物価指数(2015年平均=100)は100.1と、前月比で0.2%下落した。下落は4カ月ぶり。新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、企業の生産活動の回復が鈍く、企業物価の下押し要因となった。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。4~6月の原油価格の下落を背景に電力・都市ガス・水道が大きくマイナスになったほか、金属製品や生産用機器なども物価を押し下げた。
一方で、足元の国際商品市況の回復を受けて、非鉄金属やスクラップ類の物価上昇が下支えした。
前年比では0.8%下落と、7カ月連続の下落だった。
円ベースで輸出入物価をみると、輸出物価は前月比で0.1%上昇、前年同月比では1.5%下落した。輸入物価は前月比で0.2%上昇、前年同月比では10.1%下落した。
企業物価指数は消費増税を含んだベースで算出している。消費増税の影響を除いた企業物価指数は前月比で0.1%下落と、4カ月ぶりに下落した。前年同月比では2.3%下落した。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。

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まず、コア機械受注に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、中央値で前月比▲0.2%の減と報じられています。もっとも、レンジはかなり広くて▲6.5%減~4.0%増、ということでした。まあ、プラスの増加とマイナスの減少の符号の違いこそあれ、予想の範囲内で大きなサプライズはないものと私は考えています。ただし、製造業、電力と船舶を除く非製造業とも前月比マイナスでしたので、季節調整の綾で製造業+非製造業がプラスになっているわけですから、基調がそれほど強くないのは一目瞭然です。それでも、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「減少傾向にある」から「下げ止まりつつある」に上方修正しています。上の私の作成した後方6か月移動平均のグラフはもとより、内閣府の資料にある後方3か月移動平均でもまだプラスには転じていないように見受けられます。季節調整済の系列の前月比こそ2か月連続で増加を示しましたが、電力と船舶を除く民需で定義されるコア機械受注の水準ではまだまだ低い、といわざるを得ません。すなわち、今年2020年6~8月の3か月合計で22,104億円にしか達せず、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前の昨年2019年10~12月期26,164億円、10~12月期25,698億円はいうに及ばず、今年1~3月期の25,526億円と比べても▲15%近くの減少となっています。ただし、需要者サイドから見ると、5月を底として、自動車・同付属品やはん用・生産用機械、また電気機械などが上向きになりつつあるのも事実です。例えば、自動車・同付属品を見ると5月に前月比▲14.9%減で底を打った後、6月+7.8%増、7月+6.2%増、そして、8月も+6.6%増と、順調な増加が続いています。逆側から見ていますが、自動車などの我が国リーディング・インダストリーが資本財を需要しているのは、すなわち、生産を増加させつつある、という意味合いが読み取れます。機械受注や設備投資の先行きは決して楽観できないものの、COVID-19パンデミックから1年をへる年明けころから回復に向かう可能性がある、と私は見ています。コア機械受注の先行指標である外需が増加しているのも、先行き増加の方向を裏付けていると考えるべきです。

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次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、機械受注と同じように、このブログのローカルルールで勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に認定しています。ということで、まず、企業物価(PPI)のヘッドラインとなる国内物価に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、中央値で前月同月比▲0.5%の下落、ということでしたので、やや下落幅が大きい印象があります。ひとつの要因は、石油価格から遅れて動く電力・都市ガス・水道です。季節調整していないながら前月比で▲0.09%と大きなマイナス寄与を示しています。円建ての輸入物価で石油・石炭・天然ガスが+0.15%のプラス寄与を記録しているのと対象的です。石油価格はまだ前年同月比でマイナスですが、徐々にマイナス幅を小さくして下げ止まりつつあり、5月の▲73.8%の下落から、直近の9月統計では▲26.0%となっています。何度か、このブログでも繰り返しましたが、我が国の物価動向は日銀の金融政策よりも、国際商品市況における石油価格からの影響の方が大きいような気すらしますので、石油価格の回復とともに下落幅が縮小することを私は期待しています。もちろん、来月の10月統計から昨年2020年の消費税率引上げの影響が剥落しますので、前年同月比上昇率がさらに落ち込む可能性は覚悟せねばなりません。例えば、8月の国内物価の消費税の影響を除くベースでの前年同月比上昇率は▲2.3%となっています。そして、最大の下落幅を記録しているのは、やっぱり、石油・石炭製品の▲15.5%だったりします。引用した記事にもあるように、COVID-19の影響も大きいんでしょうね。

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2020年10月11日 (日)

台風14号のゆくえやいかに?

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今回の台風14号をはじめ、台風や災害で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
上の画像はウェザーニュースのサイトから引用しています。日本列島の南岸をかすめて東に進んだ台風14号(チャンホン)の進路予想図です。この台風により、伊豆諸島などに大雨をもたらされ、昨日は気象庁から特別警報が出たりしました。ただ、まあ、誠に自分勝手な見方ながら、我が家からはかなり遠ざかり、明日朝までには熱帯低気圧に変わる見込みとされていて、関西方面は台風一過でいいお天気が戻って気温も上がっています。
それにしても、台風が来るたびに、極めて大型とか、過去最大級とか、大きな被害を発生させかねない雰囲気が強くなっている気がします。私は専門外のシロートながら、建物はその昔より丈夫になっているハズですから、地球温暖化や気候変動の影響と見なさざるを得ないと受け止めています。

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2020年10月10日 (土)

今週の読書は話題の『メイドの手帖』をはじめ計5冊!!!

今週の読書は、話題の『メイドの手帖』をはじめ、意識的に読んでいる新書も含め以下の通りの計5冊です。

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まず、安宅和人『シン・ニホン』(News Picks パブリッシング) です。著者は、慶応大学の研究者ということになていますが、本書を読む限りは、ヤフーのCSOとか、マッキンゼーのコンサルの経験が大きいような気がします。本書の基本は、類書と同じであり、上の表紙画像にあるように、AI✕データ時代を見据えて素早く対応し先行者利益をゲットする点を重視していますが、そのためにいろいろとコンサル的な解決方法を示しています。その際に何度か、「妄想」という言葉が出てきますが、それなりの重要性を持つキーワードです。もちろん、妄想するだけではなく、「カタチにする」重要性も忘れられているわけではありません。ということで、AI✕データ時代は、その昔からいわれている重厚長大産業からの脱皮が真の意味で必要となります。というのも、従来からの大企業がデンと居座って産業界を支配する一方で、米国のGAFAが典型的なように、情報系企業の企業価値が大企業に上回る現象がよく起こるようになっています。その上で、日本のみならず、世界的にも、売上や利益といった従来からの企業指標がそのまま企業価値につながるわけではなくなっています。そして、本書が優れているのは、類書になく、研究を重視し、そのためのリソースを充実させるべきと考えている点です。もちろん、この研究資金拡充だけであれば、研究系の類書との大きな違いはないんですが、AI✕データ時代を見据えて素早く対応し先行者利益のゲットを主眼とするたぐいの書物として、研究リソース充実を打ち出すのはめずらしいく、もっぱら、ブチブチと政府や大学に文句をいう本が多い気がします。研究リソース充実の重要性を主張しているという点で、私も大いに共感するところがあります。加えて、今回の菅内閣による日本学術会議人事への加入を著者がどのように考えるかにも興味あります。ただ、最後のナウシカ張りの「風の国」については、高齢者の都会への移住を進めるという以外は、私はまったく興味ありません。最後の最後に、本書のいくつかの興味深い図表は財務省のサイトでみた記憶があります。ただし、「不許複製」ということのようです。著作権法に基づく引用ならいいのでしょうか。よく私には判りません。

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次に、ステファニー・ランド『メイドの手帖』(双葉社) です。著者はシングルマザーで作家になる夢を持っていて、その第一歩となる大学入学までを綴ったエッセイ、というか、ノンフィクションの作品です。英語の原題は MAID であり、2019年の出版です。オバマ米国前大統領の目に止まり、前大統領の2019年夏の読書リストと年間推薦図書にも選出されています。ということで、ほぼほぼ最低賃金で清掃の仕事に就いたシングルマザーの半生を対象にしています。ただ、私はどこまでフィクションで、どこまでノンフィクションなのかは判断できません。著者が予期せぬ妊娠とDVのパートナーとの別離によって陥った貧困はかなりのもので、小さい子を連れてスーパーのレジに並ぶ際に、所持金の計算をせねばならないほどの貧困状態です。日本でいえば、幼稚園児くらいの子どもにマクドナルドのハッピーセットを与えるのが贅沢と受け止めています。もちろん、日米の差はかなり大きく、著者が都会ではなく、米国でもかなり不便な地方住まいである点も考慮しなければなりません。ですから、自動車への執着やガソリン代の認識は日本人には理解できない可能性があります。ただ、日本でも、エコノミストの視点では、貧困は高齢、母子家庭、疾病が3大原因と見なされており、米国でも同じなのかもしれません。クリーニング・レディとしての清掃という仕事にも日本人としては理解が及ばない可能性があるものの、私は2度の外国生活でメイドを雇った経験があり、日本人くらいの所得レベルであればメイドを雇って、まあ、トリックル・ダウンに協力せねばならないという雰囲気は感じました。ジャカルタでは、結局、1人しかメイドを雇わなかったのですが、いくつかの日本人家庭では2人雇って、調理中心のコキさんと、掃除や選択中心のチュチさんがいて、前者の方がお給料は高い、というのも聞いたことがあります。400ページを超えるボリュームですし、私が2日かけた読書ですから、それなりの覚悟は必要ですが、多くの人が手に取って読むことを私も願っています。

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次に、畑中三応子『<メイド・イン・ジャパン>の食文化史』(春秋社) です。著者は編集者・食文化研究家だそうで、私から見てジャーナリストと考えてよさそうです。もちろん、専門分野は食品や食文化なんだろうと思います。同じ著者の前著は『カリスマフード』で、同じ出版社から出ています。私も前著を読んだことがあり、2017年4月に読書感想文をポストしています。ということで、タイトルにあるように、食文化史なんですが、その昔の舶来信仰は食文化もそうだったわけで、明治期から続いてフランス料理を有り難がったり、バブル期にブームとなったイタリア料理=イタ飯などに代わって、最近では、国産品の方に価値を置くようになっている、と著者は指摘しています。例として、飲食店で見かける「当店はすべて国産米です」の表示とか、和食がUNESCOの世界文化遺産に登録されたりと、和食や国産食品が輸入食品や海外の食文化よりも「日本エライ」のような感じになっている、というあたりから始まります。もちろん、1996年の堺などでのO157による集団食中毒、また、今世紀に入ってからもBSE、あるいは、中国の毒餃子とか、食品の安全性に関する注目が高まるにつれて、国産食品への関心や信頼が高まった点を歴史的に解き明かしています。もちろん、食材だけでなく、家畜感染症対策、食料自給率の果てしない定価、はたまた、そういった事実を報ずるメディア事情まで、日本人の食文化や食にまつわる意識を幅広く取り上げて、しかも、とてもユーモラスな語り口で明らかにしていきます。もちろん、私たちの周囲には純粋な和食だけでなく、ラーメン、カレーをはじめとして、海外の食をとてもうまく取り込んだ食文化がいっぱいです。そういったものも含めて、「世界に類をみない国際性の豊かさ」とか、「情けなくも愛おしいメイド・イン・ジャパン」などと紹介されています。

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次に、木村昌人『渋沢栄一』(ちくま新書) です。著者は、公益財団法人渋沢栄一記念財団に長らく勤務された研究者であり、本書のタイトルにぴったりな研究者とお見受けしました。ということで、新1万円札の肖像画にまさにピッタリのはまり役ともいえる渋沢栄一についての評伝です。その作者がまた渋沢財団の研究部長だったというのですから、ここまで的確な人物はいなさそうですが、逆に、提灯持ちに終わるリスクもあります。江戸期に現在の埼玉県深谷市で生まれて、明記、対象、昭和の時代を90年あまリ生きた財界の大御所の一代記です。私は同じちくま新書から出版されている『論語と算盤』の現代語抄訳もも読んだ記憶があります。本書では、渋沢の経済活動、特に民間での財界活動のもっとも特徴を3点、すなわち、論語と算盤とカギカッコ付きの「民主化」と特徴づけています。最後の「民主化」はデモクラシーではなく、官尊民卑を脱して官ではなく民を主とする経済活動を提唱した、という意味でカギカッコを付してあります。そして、その最大の眼目は私利私欲を満たすことではなく、経済活動の倫理性に求められます。その基礎が論語なわけですが、本書が踏み込み不足と感じる最大の点がここにあります。すなわち、私は19世紀後半のアジアの状況からして、儒教よりもキリスト教的な博愛主義の方が先進的とみなされていたような気がします。韓国なんかが典型です。論者の中には、渋沢の野放図な女性関係に男尊女卑的な論語の背景を見る研究者もいますが、はっきりと間違いです。中国に発する論語に男尊女卑の観点はありません。男尊女卑が明確になるのは日本だけです。それはともかく、渋沢に関して、かなりいいとこ取りの研究書であることは間違いありません。新1万の肖像画の渋沢を知るいい機会だと思います。

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最後に、神代健彦『「生存競争」教育への反抗』(集英社新書) です。著者は、私の住まいからのほど近い京都教育大学の研究者です。専門は戦後日本の教育学史、ないし、道徳教育の理論だそうです。私も大学に教職にある身として、それなりの興味を持って読み進みました。ということで、すでに大方の識者によって否定された教育を「緩める」ことを目的に書かれていると、私は受け止めています。ただ、およそ、体系的でなくテキトーな論述ですので、それほど説得力はありません。ひょっとしたら、しゃべった内容をテープ起こししたのかもしれません。ただ、教育と学習と学校などのキーワードはそれなりにきちんと使い分けられています。著者がいいたいであろうことは、教育にそれほど期待してはいけないし、教育がすべてを解決できるものではない、ということで、私なりに解説すると、現在の教育の目指すものも実態もどちらもオーバースペックなのだ、といいたいのだろうと思います。ただ、本書でも言及されているように、2003年のPISAショックで「ゆとり教育」は完全に否定されているのも事実です。しかも、やや哀れにも、現在の教育の目指すものを否定した著者は、それに代替する教育のあるべき姿や目標を提示することに明らかに失敗しています。ですから、古典古代のエウダイモニアなどを持ち出したりしているわけですが、明らかに論旨がうねっています。現在の教育が、工業社会、それも初期の工業化社会の完全競争に近く、低品質で画一化されたスペックの大量生産に適応した人材を輩出することを目標にして成功していたのに対し、ポスト工業社会ではより多様な人材が必要になる一方で、教育がそれに対応できていないのも事実です。ここで、私は「多様な人材」とスラッと書きましたが、これは水平的な専門分野の多様化とともに、しばしば、特にネオリベな文脈では、低スキルから高スキルまでという意味での垂直的なカギカッコ付きの「多様化」が要求される場合もあります。私自身はこの「垂直的な多様化」に必ずしも賛成できず、出来る限り教育や教養を高めることが望ましいと考えていますが、それは別としても、少なくとも専門分野の水平的な多様化が必要とされていることは明らかです。そのために、家庭と学校でどのような分担意識を持って、どのような目標で進めるべきか、本書はそのために一致点を探す手がかりにはなっても、解決策の提示には明らかに失敗しています。

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2020年10月 9日 (金)

日銀「さくらリポート」の景気判断は四国を除いて8地域で引き上げ!!!

昨日、日銀から10月の「さくらリポート」が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。各地域の景気の総括判断と前回との比較は下のテーブルの通りで、四国を除いてすべての地域で景気判断が引き上げられています。このブログでは暫定的に今年2020年5月を景気の底と認定していますが、新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大はまだ終息していないように見える一方で、地域の景気は上向いているところが多くなっています。

 【2020年7月判断】前回との比較【2020年10月判断】
北海道新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、大幅に悪化している新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しつつある
東北新型コロナウイルス感染症の影響などから、悪化している厳しい状態にあるが、持ち直しの動きがみられている
北陸新型コロナウイルス感染症の影響などから、大幅に悪化している下げ止まっているものの、厳しい状態にある
関東甲信越内外における新型コロナウイルス感染症の影響により、きわめて厳しい状態にある内外における新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しつつある
東海改善に向けた動きがみられ始めているが、厳しい状態にある厳しい状態が続く中でも、持ち直している
近畿新型コロナウイルス感染症の影響により、悪化した状態が続いている新型コロナウイルス感染症の影響により、依然として厳しい状態にあるが、足もとでは、持ち直しの動きがみられる
中国新型コロナウイルス感染症の影響から、大幅に悪化したあと、厳しい状態が続いている新型コロナウイルス感染症の影響から、厳しい状態が続いているものの、持ち直しの動きがみられている
四国 新型コロナウイルス感染症の影響から、一段と弱い動きとなっている新型コロナウイルス感染症の影響から、弱い動きが続いている
九州・沖縄新型コロナウイルス感染症の影響から悪化している持ち直しの動きがみられるものの、厳しい状態にある

繰り返しになりますが、四国を除いて、8地域で景気判断が上方修正されています。4月の景気判断では、軒並み、全地域で下方修正された後、7月には逆に全地域で上方修正され、今回10月の「さくらリポート」でも上方修正の地域が多くなっています。どうでもいいことながら、昨日の景気ウォッチャーの「霞ヶ関文学」と同じように、「悪化」から「厳しい状態」なら上方改定で、同じく、「厳しい状態」から「持ち直し」も上方改定のようです。四国の判断で「一段と弱い動き」の「一段と」が取れただけでは上方改定とは見なされないようです。「日銀文学」も同じようなものかもしれません。最後に、日経新聞と朝日新聞のニュースをご参考まで。

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2020年10月 8日 (木)

大きく回復した9月の景気ウオッチャーと黒字が積み上がる経常収支!!!

本日、内閣府から9月の景気ウォッチャーが、また、財務省から8月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、9月の景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+5.4ポイント上昇の49.3を示し、先行き判断DIも+5.9ポイント上昇の48.3を記録しています。8月の経常収支は、季節調整していない原系列で+2兆1028億円の黒字を計上しています。貿易収支が黒字となっており、原粗油や天然ガスの輸入が量も価格も落ち込んでいます。まず、とても長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の街角景気、現状・先行きとも改善 判断は上方修正
内閣府が8日発表した9月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、3カ月前と比べた足元の街角の景気実感を示す現状判断指数(DI、季節調整済み)は49.3と2018年4月(49.5)以来の高水準となった。前の月から5.4ポイント上昇し、5カ月連続で改善した。2~3カ月後の景気の良しあしを判断する先行き判断指数(DI、季節調整済み)も48.3と同5.9ポイント上昇し2カ月連続で改善した。
内閣府は、現状の基調判断を「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直しの動きがみられる」から「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直している」に上方修正した。
新型コロナへの懸念は拭えないものの感染状況が比較的落ち着いていることや政府の需要喚起策、経済活動の再開を好感する声が多かった。現状、先行きとも指数を構成する家計、企業、雇用関連のすべてのDIが上昇した。
足元では「前年超えとはいかないまでも、ある程度の水準まで販売台数が戻ってきている」(東北の乗用車販売店)や「宿泊稼働も50%近くまで回復してきている。特に、9月の4連休はほぼ満室の状況が続き、久しぶりに忙しかった」(南関東の都市型ホテル)などといった声が聞かれた。
先行きについては「新しい生活様式に人々が慣れてくることで、年末の帰省も含めて、徐々に人の動きが活発になると見込まれる」(北海道のスーパー)など、景気改善を期待する声が目立った。政府の旅行需要喚起策「Go To トラベル」を巡っても「東京参加解禁による効果が、大いに期待される」(九州の観光型ホテル)などと需要の押し上げ効果を見込む声が出ていた。
8月の経常収支、2兆1028億円の黒字 前年同月比で黒字幅縮小
財務省が8日発表した8月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は2兆1028億円の黒字だった。黒字は74カ月連続。サービス収支の赤字幅拡大が影響し、前年同月比では323億円減少した。
サービス収支は3166億円の赤字で、前年同月比でみると3151億円減少した。うち旅行収支は新型コロナウイルスの流行で訪日外国人が激減しており、前年同月比87.0%減だった。
貿易収支は4132億円の黒字で、前年同月比でみると3828億円増加した。輸出入ともに減少しており、特に輸入額は前年同月比で22.0%減った。原油や液化天然ガス(LNG)など資源関連が落ち込んだ。
第1次所得収支は2兆2487億円の黒字と、前年同月比で429億円減少した。債券利回りの低下(価格の上昇)で証券投資収益の黒字幅が縮小した。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、長かったです。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りであり、影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に認定しています。

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景気ウォッチャーの動向については、先行き判断DIが7月に落ち込んで、ややイレギュラーな動きを示しましたが、その後、8月、9月と順調に回復を見せています。従って、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府は基調判断を「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、持ち直している」に上方改定しています。「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直している」へのビミョーな修正です。まさに、霞が関文学の極みのような気がします。現状判断DI、先行き判断DIともに水準としてもかなり50に近いラインまで戻してきており、マインドの回復が続いていると考えてよさそうです。季節調整済の系列で現状判断DIに着目すると、繰り返しになりますが、9月統計で49.3と50に近い水準まで回復を示しており、これは、2018年10月にピークを付ける前の2018年4月の水準以来です。もちろん、景気後退局面入りの後ながらCOVID-19前の今年2020年1月水準を軽く上回っています。企業セクターと企業セクターに分けてみると、家計動向関連が前月から+5.0ポイント上昇して50.3に達しており、+6.3ポイント上昇した企業動向関連の+47.4を上回っています。特に、飲食関連が+18.1ポイントと大きな上昇で55.0に達しています。Go To Eatが始まる前ながら、期待感が大きいのかもしれません。徒花で終わらねばいいのですが、やや懸念が残らないわけではありません。企業セクターでは、製造業が前月から+8.4ポイント上昇して49.5に達し、非製造業の+4.4ポイント上昇の45.3と少し差。がつき始めています。全般的に、マインドが実体経済に先行して回復するのは通常の景気回復期と変わりないと私は受け止めています。

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次に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、COVID-19の影響は経常収支でも最悪期を脱した可能性があります。内外の景気動向の差に基づく貿易赤字が主因となって経常収支が落ち込んでいましたが、季節調整済みの系列で見る限り、貿易収支は先月統計から黒字に転じ、今月の8月統計でも貿易黒字が拡大しいています。経常収支も上のグラフに見られるように、急回復を示しており、COVID-19の影響は最悪期を脱している可能性が高いと考えるべきです。

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2020年10月 7日 (水)

基調判断が1年ぶりに上方修正された景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から8月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数は前月から+2.1ポイント上昇して88.8を、また、CI一致指数も前月から+1.1ポイント上昇して79.4を、それぞれ記録しています。統計作成官庁である内閣府による基調判断は、前月統計まで12か月連続で「悪化」だったんですが、1年ぶりに「下げ止まり」に上方修正されています。まず、とても長い記事なのですが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

13カ月ぶり「悪化」脱却も低水準、8月の景気指数
内閣府が7日発表した8月の景気動向指数による基調判断は「下げ止まり」となり、13カ月ぶりに「悪化」を脱した。海外経済の回復を受け、輸出や生産が持ち直した。国内の個人消費や設備投資には停滞感が強く、指数の水準はなお低い。7~9月期の国内総生産(GDP)は外需がけん引し、年率14%程度のプラス成長が見込まれる。
景気の現状を示す一致指数(CI、2015年=100)は生産や雇用など10の指標から算出する。8月の指数(速報値)は79.4と前月から1.1ポイント上がった。
指数の動きから機械的に算出する景気の基調判断は19年8月から12カ月続いた「悪化」から「下げ止まり」に上方修正された。上方修正は「悪化」が「下げ止まり」に一時的に転じた19年5月以来1年3カ月ぶりだ。
「下げ止まり」は景気後退の動きがいったん止まっている可能性が高いことを示す。
8月は公表済みの8指標のうち、輸出数量指数や鉱工業生産など6指標が上昇に寄与した。海外経済の回復に伴い、米・欧・アジアの主要地域すべてで輸出数量が増加した。特に自動車関連の輸出が拡大しており、国内の生産にも波及した。
内需関連の指標は弱い。8月の小売業の商業販売額は前年同月比でマイナスが続き、一致指数へのプラス寄与度は小さかった。有効求人倍率と、設備投資の勢いを映す投資財出荷指数の2指標は前月を下回り、指数を押し下げる方向に働いた。
内需の停滞を反映して、一致指数の上げ幅は6月の3.2ポイント、7月の3.9ポイントから8月は1.1ポイントまで縮小した。新型コロナウイルスの感染拡大前(1月)の水準の9割も取り戻していない。
経済活動が制限された4~6月期の実質GDP成長率は、前期比年率でマイナス28.1%と戦後最大の落ち込みとなった。7月以降は内需主導での経済回復が期待されたが、実際には夏場の感染再拡大で個人や企業の心理が悪化し、内需が伸び悩んだ。海外経済の回復ペースは早く、結果として外需が日本経済を引っ張る形となっている。
日本経済研究センターが毎月まとめる民間エコノミストの経済見通し「ESPフォーキャスト」でも内需の失速が目立つ。7日まとめた10月分では20年7~9月期のGDPが予測平均で前期比年率14.15%増と9月調査(14.07%増)とほぼ同じだったが、内訳が変わった。
GDPへの内外需の寄与度予測をみると、9月時点では内需が8.57%、外需が5.50%寄与する見通しだった。10月分では内需の寄与度が7.60%に下がり、外需の寄与度が6.55%に上がった。個人消費と設備投資の予測が下振れした一方で、輸出は上方修正されたためだ。
予測では10~12月期は4.75%、21年1~3月期は2.91%と成長率が鈍化していく。冬に向けて国内で再び感染が拡大すれば、個人消費や設備投資の回復ペースはさらに鈍るおそれがある。今のところ堅調な海外経済にも、感染の再拡大や米大統領選などのリスクがくすぶっている。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に認定しています。

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何とか、CI一致指数は久々の前月差プラスを記録しています。8月統計でプラス寄与の大きかった系列は、輸出数量指数、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、生産指数(鉱工業)などとなっています。逆に、有効求人倍率(除学卒)や所定外労働時間指数(調査産業計)のマイナス寄与が目立っており、まあ、景気回復局面ではどうしようもないのかもしれませんが、海外や企業部門が景気を牽引する一方で、雇用は家計部門はまだまだ停滞を示しています。これから、輸出や企業部門の回復が雇用を通じて家計に、どれくらいのタイミングでどれくらいの力強さで波及するか、が大きなポイントになります。新自由主義的な経済政策で、家計を犠牲にして企業を優遇するような方向では、景気回復の恩恵が格差解消につながったり、家計が景気回復の恩恵にあずかれずに、苦しい国民生活が続くことになりかねません。その意味で、7月27日付けのこのブログで取り上げたように、英国やドイツをはじめとするいくつかの先進国で実施されている時限的な消費減税が日本でも有効と私は考えています。

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2020年10月 6日 (火)

東洋経済オンラインによる「女性管理職の比率が高い」企業ランキングやいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、東洋経済オンラインで「女性管理職の比率が高い」企業ランキングが明らかにされています。というのも、その昔のアベノミクスでは、成長戦略のひとつに「女性の活躍」が含まれていて、2016年4月には「女性活躍推進法」が全面施行され、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とするという政府目標が掲げられています。企業について考えると、女性管理職比率がひとつの目安となります。その比率30%を達成している企業はどれくらいあるのでしょうか?

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上のテーブルは、東洋経済オンラインのサイトから引用しています。トップは、料理教室を展開しているABC Cooking Studio、2位は化粧品のシーボン、3位は美容脱毛専門サロン運営のミュゼプラチナムなどなどとなっています。政府目標の30%超は38位の千葉銀行まで、となっています。2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とするという政府目標の達成はまったくダメなんでしょうね。

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2020年10月 5日 (月)

ノーベル賞ウィークに経済学賞を考える!!!

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今週はノーベル賞ウィークです。今夕の医学・生理学賞から始まって、以下の予定で受賞者が公表されます。経済学賞はちょうど1週間後の来週月曜日です。

Monday 5 October
Physiology or Medicine
Tuesday 6 October
Physics
Wednesday 7 October
Chemistry
Thursday 8 October
Literature
Friday 9 October
Peace
Monday 12 October
Economic Sciences

私も、年齢なりに雑学には通じていても、さすがにノーベル賞クラスになると、専門外の分野はサッパリです。ひょっとしたら、専門の経済学でもついていけないところもあったりします。ということで、Clarivateからノーベル賞予想とも称される引用栄誉賞が明らかにされています。医学・生理学で東大の中村祐輔教授が、化学で同じく東大の藤田誠教授が、それぞれ受賞し、ひょっとしたら、今年のノーベル賞の可能性も示唆されています。この経済学分野について、Clarivateのサイトから引用すると以下の通りです。情報量はやや劣りますが、日本語のサイトもあります。

nameaffiliationmotivation
David A. DickeyWilliam Neal Reynolds Distinguished Professor, North Carolina State University, Raleigh, NC USAfor statistical tests of a unit root in time-series analysis
Wayne A. FullerDistinguished Professor Emeritus, Iowa State University, Ames, IA USA
Pierre PerronProfessor of Economics, Boston University, Boston, MA USAfor the statistical analysis of non-stationary time series
Claudia GoldinHenry Lee Professor of Economics, Harvard University, Cambridge, MA USAfor contributions to labor economics, especially her analysis of women and the gender pay gap
Steven T. BerryDavid Swensen Professor of Economics and Jeffrey Talpins Faculty Director of the Tobin Center for Economic Policy, Yale Universityfor their BLP random coefficients logit model for demand estimation
James A. LevinsohnDirector of the Jackson Institute for Global Affairs, Charles W. Goodyear Professor in Global Affairs, and Professor of Economics and Management, Yale University, New Haven, CT USA
Ariel PakesThomas Professor of Economics, Harvard University, Cambridge, MA USA

誠に不勉強にして、私は最初のおふたりのディッキー教授とフラー教授の単位根検定の業績しか知りません。最近書いたインバウンド消費や新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を分析した「訪日外国人客数およびインバウンド消費の決定要因の分析: VAR過程に基づく状態空間モデルの応用」でも時系列分析の単位根検定に引用したりしています。他の先生方の業績は、私よりもgoogleの方がよく知っていそうな気がします。私の予想は、政府財政の持続可能性について時系列分析の嚆矢となった "On the limitations of government borrowing: A framework for empirical testing" が有名なハミルトン教授とフレイビン教授なんて、どうでしょうか?

最後に、日本人の読書家であれば、
ノーベル文学賞は、村上春樹に!

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2020年10月 4日 (日)

先週の読書は行動経済学の経済書をはじめとして計4冊!!!

昨日に、米国雇用統計が割り込んで、読書感想文がいつもの土曜日ではなく、今日の日曜日になりました。前回に続いて、またまた、行動経済学のナッジに関する経済書や私がかつて統計局で担当していた家計調査に関する統計書など、以下の通りの計4冊です。新書も入っています。なお、今週半ばに、綾辻行人の『Another 2001』が発売になって、私も久しぶりの長編なので買って読もうと考えていたのですが、悲しくも、1割引の生協には「そうは問屋が卸さない」ようで、生協で買うのは諦めてしまいました。

 

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まず、那須耕介・橋本努[編著]『ナッジ!?』(勁草書房) です。チャプターごとの著者や編者は、大学の法律の研究者が多いように見受けました。というのも、基本的に、本書はサンスティーン教授についての訓詁学に近いような批判的解釈を中心としており、その大元のサンスティーン教授が法学者なのですから、そうなのかな、という気がします。ホモ・エコノミカスてきな合理的判断と行動を限定的に否定して、ナッジによるリバタリアン・パターナリズムについての学術書です。いろいろな見方が示されていて、チャプターごとの著者で必ずしも整然と統一的見解があるようでもないと考えるべきですが、当然ながら、ナッジについては肯定的な見方が多くなっています。私は行動経済学はともかく、ナッジに関してはやや疑問が大きいと考えています。理由は、前回の読書感想文との重複を気にせず展開すると、第1に、一般論として、ナッジで解決ないし効率解に近づくことが出来るのはそれほど重要な経済社会問題ではないような気がします。もちろん、喫煙や肥満が重要でないというと反論がありえますが、政府の役割はもう少し違うような気がする、というよりも、ややアサッテの角度から反論が出て来る恐れがあります。例えば、大昔のフリードマン教授の『選択の自由』で大きな政府を攻撃していますが、私の記憶ながら、政府の役人がおもちゃのピストルを撃って安全性を確かめるような仕事をしていていいのか、という大きな政府批判がありました。喫煙や肥満はともかく、個別の問題に対するナッジによる政府の個人生活への介入は、右派から同様の批判を招く可能性があります。政府の経済政策は、貧困や不平等の是正、雇用の最大化、景気循環の平準化、公共財の提供、物価の安定、途上国の開発援助、などなど、もっと大きな問題に取り組むべきではないか、という批判にはどのように考えればいいのでしょうか。第2に、これは特殊日本だけかもしれませんが、政府に対する信頼感が低く、政府のナッジに対する批判は避けられません。典型的には増税に対する国民の考えがかなり先進国の中でも、日本は際立って否定的である点は考慮してナッジが設計されるべきです。私は何度かシンガポールを訪れた経験があり、シンガポール国民の政府に対する信頼感と日本では大きな差があると実感した記憶があります。しかも、日本国民は「お上」意識があって、ガバナビリティが高いだけに、かえって厄介ともいえるかもしれません。第3に、法学者や経済学者がナッジについて考えるよりも、販売促進部のマーケターや宣伝部のスタッフの方が肌で実感する部分の方が確度が高そうな気がします。肥満防止た喫煙率の低下を目指した政府のナッジよりも、むしろ、例えば、個別のビールの銘柄の売上増加を目指した宣伝活動の方がうまくやれそうな気がするのは、私だけなんでしょうか。

 

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次に、佐藤朋彦『家計簿と統計』(慶應義塾大学出版会) です。著者は、総務省統計局を定年体感したOBで、実は、私とも同時期に統計局にいて面識があります。基本は、公務員OBのお仕事に関した本ですから、出版社から受ける学術書というイメージではありません。書名から明らかな通り、家計簿に基づいて作成されている家計調査に関する、まあ、ありきたりな表現ながら、ちょっとしたネタ本です。1920年の岩野教授の「東京ニ於ケル20職工家計調査」や1926年の「大正15年家計調査」などに始まった家計調査の歴史をひもといて、第3章から第5章までの小ネタの披露が本書の真髄なのだと私は受け止めています。私が担当課長だったころから、こういった小ネタの取りまとめは行われており、総務省統計局のサイトを探したところ、今でも、家計簿からみたファミリーライフを冊子で発行しているほか、家計ミニトピックスを毎月pdfのメモで出しています。ただ、さすがに、本書ほどのボリュームはありませんから、本書ではこういった統計局の無料の広報資料よりかなり充実した内容となっています。私が統計局で家計調査を担当していたのはもう10年近く前ですから、かなり忘れている部分もあって、とても興味深く拝読しました。高齢者でスポーツクラブ使用料が高い伸びを見せたり、長崎ではタクシー代支出が多いん、なんてのはまったく知りませんでした。加えて、若年層で新聞が購入されなくなっている、など、実感として感じることが出来るいろんな購買活動について、定量的な統計で把握することが出来ます。特に、ランドセルの購入時期が年々早くなっている、という点については、2才違いの倅を持つ身として実感しました。2003年9月にジャカルタから帰国して、1年生の上の倅のためにランドセルを買いに走りましたが、9月というタイミングでは世間でランドセルを取り扱っていませんでしたので、老舗の百貨店で在庫を確認して買い求めた記憶があります。ということで、もとてもいい本だという基本を踏まえつつ、著者ほどの見識あるなら、という観点から、2点だけ改善点を上げておくと、第1に、家計調査は日時で把握できるのは確かですが、その実例が半夏生でタコの購入が増えるというのは、いかにもマイナーな印象です。先ほどの家計ミニトピックスの中には、一応、半夏生のタコもあるんですが、それよりも、バレンタインデーのチョコレートとか、節分の恵方巻、といったいい例があるので明らかに見劣りします。第2に、最後の付録のe-statの使い方の解説はいかにも冗長で、ヤメといた方がよかった気がします。むしろ、apiを使ったデータ取得の方がずっと有益であったのではないか、と思わざるを得ません。ただ、繰り返しになりますが、慶應義塾大学出版会から出ているものの、決して学術書ではなく、一般読者でも興味深く読め、全体としてとても有益ないい本であることは当然です。

 

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次に、谷口将紀・宍戸常寿『デジタル・デモクラシーがやってくる!』(中央公論新社) です。著者は、ともに東大の政治学の研究者です。著者が、インタビューした結果も本書に収録されています。著者2にな決してテクノロジーの専門家ではありませんから、電子投票とかの方向に重点が置かれて、間接民主主義から直接民主主義を技術の観点から指向するという本では決してありません。もちろん、そういった方向は含みますが、それも含めて本書は3部構成となっています。すなわち、政治や民主主義に関する情報流通がデジタル化で変化するというのが第1部です。第2部では、そういった情報の流れに従って合意形成の仕組みも変わるという点が中心になり、第3部ではその意味から政治制度が従来の投票や間接民主主義からアップデートされる、という点が注目されます。ということで、冒頭の問いかけが、「政治はなぜ遅れているのか?」から始まります。一般に、日本という国は少し前まで経済は一流だが、政治は二流だといわれていて、その日本の政治について、加えて、経済や製造技術なんかと比較しての政治について、なぜシステム的に新しいものを取り入れられないのか、という問いかけです。ただ、私はエコノミストとして、今はもはや経済も二流三流に落ちてしまったような気もしますが、それはそれとして別のお話です。まず、情報の流れがデジタル化によって大きく変わっています。従来の紙媒体の本や新聞ではなく、ネットで断片的で信頼性低い情報が多くなっています。フェイクニュースなんてその典型です。ポストトゥルースも話題になりました。結局、フィルタ・バブルやエコー・チェンバーが形成されて、バランスいい情報を得にくくなっているのが現実なのでしょう。その上で、ヒューリスティックに直感勝負の決め方ではなく、熟議民主主義をどのように形成し、多くの国民が納得できる合意をどのように形成するか、これも大きな課題となっています。もちろん、最近話題の討論型世論形成についても注目しています。そして、最後に、新しい制度の模索が始まっています。電子投票による参加の幅の拡大もそうですし、間接民主主義から、国民投票のコストが低くなれば、直接民主主義も頻度高く出来る可能性があります。ただ、私自身は、直接民主主義であれば、モロに投票者の利害を反映しかねない制度になる恐れがあり、間接民主主義によって選ばれたエリートがもっと幅広い視野からいろんな決定をすべき、という考えを持っています。そして、本書では触れられていませんが、果たして投票の分岐点は過半数でいいのか、という点もあります。憲法改正などで過半数ではなく⅔を必要とするケースがいくつかありますが、過半数に基づく決定についてはもう少し柔軟に対応するべきケースがあるような気がしなくもありません。最後に、本書のおわりにで触れられているんですが、世代間公平性の確保をAIに委ねるというアイデアには、ハッとさせられるものがありました。私が間接民主主義で選ばれたエリートに託そうとしているいくつかの論点を、人間のエリートではなく、AIを活用するという観点は新鮮でした。

 

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最後に、桃崎有一郎『「京都」の誕生』(文春新書) です。著者は、高千穂大学の歴史研究者です。私はこの大学が、まだ、高千穂商科大学といっていたころに、すぐ近くに住んでいた記憶があり、我が家の子供達は2人ともこの大学の近くの大宮八幡宮でお宮参りをしたりしました。ということとは何の関係もなく、年1-2冊読む「京都本」です。本書では、平安京がいつ、どのようにして京都になったのかを解き明かそうと試みています。その最大の契機は平氏などの武士の台頭と、平安京の外でありながら京都に位置する周辺部の開発であったと結論しています。時代の流れとともに生産が増加するのはマルクス主義的な歴史館の当然のみかたなんですが、その豊かになった京都に盗賊が横行するようになり、検非違使では取り締まりきれなくなって、地方に下っていた武士を京都に呼び寄せたのが平安京の京都への転換のはじまりとされています。特に大きかったのは平氏の存在です。清盛は白河院の落胤とみなされ異例の出世を遂げるとともに、現在の祇園のあたりに当たる六波羅の開発を行います。また、京都南部で今は伏見区にある鳥羽の開発や西八条の開発など、平安京の中に置けないお寺の配置などで平安京が拡大して京都になった、との推論です。そうかもしれません。もともとは皇族に連なる平氏や源氏が地方に下って武士となり、その武士を治安維持のために京都に呼び寄せ、平安京周辺の開発が進むとともに、保元・平治の乱などを通じて権力が貴族から武士に移るというのはその通りな気がします。もちろん、その際に、いわゆる院政が広く行われて、何の制約も受けない勝手気ままな白河法皇なんかが京都の開発に湯水のごとくお金を使った、というのもあります。ただ、平安京から京都への変化は、そういった周辺の開発と、それに伴う現在の京都に近い平面的な広がりによると同時に、権力構造についても関係なしとはしません。すなわち、やっぱり、全国に及ぶ行政権限が貴族から武士に移行した鎌倉幕府の成立が、同時に実効的な権力のない京都成立のためには必要だった気がします。その権力のない貴族からなる京都が、室町時代という例外的な一時期を除いて、今の京都の雰囲気を作ったような気がします。平面的な広がりだけで京都を見るのではなく、中身も見る必要があるのではないでしょうか。

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2020年10月 3日 (土)

緩やかな改善が続く8月の米国雇用統計をどう見るか?

日本時間の昨夜、米国労働省から9月の米国雇用統計が公表されています。新型コロナウィルス(COVID-19)の影響から、非農業雇用者数は4月の大幅減の後、5月統計からはリバウンドして9月にも+669千人増を記録しています。同じく、失業率も一気に悪化した4月からのリバウンドが見られ、7.9%に改善しています。でも、まだ、COVID-19前の約2倍の水準です。いずれも季節調整済みの系列です。まず、やや長くなりますが、USA Today のサイトから統計を報じる記事を最初の5パラだけ引用すると以下の通りです。

661,000 jobs added last month, unemployment fell to 7.9% as some states reopen, others face COVID-19 surges
U.S. employers added a disappointing 661,000 jobs in September as Sunbelt states resumed business reopenings that were disrupted by COVID-19 spikes over the summer, offsetting persistent layoffs by struggling firms that have exhausted federal aid.
The unemployment rate fell to 7.9% from 8.4% in August, the Labor Department said Friday. But that's because the labor force - which includes people working and looking for jobs - shrank by about 700,000.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 870,000 jobs were added last month.
The jobs report is the last before a Nov. 3 presidential election that could serve as a referendum on President Trump's handling of the pandemic and its economic fallout. Overall, the economy is still recouping jobs in outsize fashion after shedding a record 22.1 million in early spring but the recovery is slowing, raising the specter of a gap that could take several years to close.
September marks the third straight monthly pullback in payroll gains after employers added a record 4.8 million in June, 1.7 million in July and 1.5 million in August. All told, the nation has clawed back 11.4 million jobs, slightly more than half the total wiped out as states shut down nonessential businesses and Americans avoided travel and public gathering spots out of contagion fears.

やや長くなりましたが、まずまずよく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは今年2020年2月を米国景気の山と認定しています。ともかく、4月の雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています

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米国の失業率については、4月統計で14.7%と一気に悪化した後、5月13.3%、6月11.1%そして、7月10.2%まで2ケタが続いた後、8月には8.4%と10%を割り込み、9月統計でも5か月連続で低下して7.9%まで達しました。ただし、リバウンドの方も徐々に減衰してきた気がします。米国非農業部門雇用者の伸びも、4月に前月差で▲2000万人超の減少を見た後、5月+2725千人増、6月+4781千人増、7月+1761千人増、8月+1489千人増に続いて、9月+661千人増と、失業率の改善幅も、非農業部門雇用者の増加幅も、6月が大きかったのは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対する米国の対応に起因するんだろうと思います。そして、改善幅は徐々に減衰しているように見えます。8月の雇用増については、引用した USA Today の記事も "U.S. employers added a disappointing 661,000 jobs in September" で始まっていますし、 ほかに、ロイターの記事でも "U.S. job growth slows in September" なるタイトルを掲げています。いずれにせよ、COVID-19前の水準への米国経済の回復にはかなりの期間を要する、と見るエコノミストが多数派であろうと私も考えています。

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もっとも、基本的に日本でも同じで、いわゆるV字回復はありえないのであろうと覚悟すべきです。それどころか、上のグラフは Yahoo! Japan の新型コロナウィルス感染症まとめサイトから引用していますが、現在の日本は緊急事態宣言が発せられた時とほぼ同等の新規のCOVID-19感染者数が記録されており、第2波、あるいは、さらに第3波の感染拡大があれば、2番底の可能性も否定できないと私は考えています。

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2020年10月 2日 (金)

悪化が続く8月の雇用統計とマインド指標らしく改善に向かう9月の消費者態度指数!!!

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも8月の統計です。失業率は前月から+0.1%ポイント上昇して3.0%、有効求人倍率は前月から▲0.04ポイント低下して1.04倍と、雇用は明らかに悪化を示しています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響によるものと考えるべきです。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

完全失業率3.0%に悪化、求人倍率1.04倍に低下 8月統計
雇用情勢の緩やかな悪化が続いている。8月の完全失業率(季節調整値)は3.0%となり、前月比0.1ポイント上昇した。3%台は3年3カ月ぶり。完全失業者は200万人を超え、勤め先都合の離職が増えた。パート、契約社員ら非正規雇用が減少している。8月は有効求人倍率も1.04倍と前月から0.04ポイント低下し、6年7カ月ぶりの低水準となった。
総務省が2日発表した8月の労働力調査によると、完全失業率は2カ月連続で悪化した。3%台は2017年5月(3.1%)以来。近年は人手不足を背景に2%台の低水準で推移していたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による景気低迷によって悪化に転じた。
完全失業者(原数値)は206万人で前年同月比49万人増えた。このうち39万人は勤め先や事業の都合による離職で同19万人増えた。失業者の増加は7カ月連続。
休業者は216万人で7月から4万人減った。過去最高だった4月(597万人)からは大幅に減り、新型コロナの感染拡大前とほぼ同じ水準に近づいてきた。
休業者は出産や育児などで休業している人が含まれる。総務省によると、7月に休業していた人のうち3割弱は8月に職場に戻り、6割弱は休業を続けている。完全失業者になった人は4%程度だった。
雇用環境は特にパートやアルバイト、契約社員などの非正規雇用で厳しい。非正規雇用者数は前年同月に比べて120万人少ない2070万人となり、6カ月連続で減少した。派遣社員も13万人少ない127万人だった。一方、正社員は3535万人で38万人増加し、3カ月連続で増えた。総務省は正社員が増加している背景に、一部産業での人手不足があるとみている。
厚生労働省が同日発表した8月の有効求人倍率(季節調整値)は8カ月連続の低下となった。同倍率は仕事を探す人1人に対し、何件の求人があるかを示す。企業からの有効求人は前月から0.9%増えたものの、働く意欲のある有効求職者が4.7%増えた。
雇用の先行指標となる新規求人(原数値)は前年同月比で27.8%減った。減少幅では宿泊・飲食サービス業が49.1%、生活関連サービス・娯楽業が41%と大きかった。製造業(38.3%)や情報通信業(34.6%)、卸売業・小売業(34%)など幅広い産業で大きく落ち込んだ。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は9月25日時点で6万923人だった。製造業と飲食業でそれぞれ1万人前後に達した。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。

いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。

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失業率に関して日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは8月は3.0%に上昇するという見込みでした。有効求人倍率も日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは8月には1.05倍に低下する予想が示されていたものの、実績はコンセンサスを下回る1.04倍でした。すなわち、マーケットの予想を上回るペースで雇用の悪化が進んでいる、と考えるべきです。正社員向けの有効求人倍率についても長らく1倍を上回っていましたが、緊急事態宣言が出た4月統計から1倍を下回るようになり、本日発表の8月統計でもさらに下げています。ただ、引用した記事の最後かtら2つ目のパラにあるように、雇用の先行指標と見なされている新規求人については、季節調整していない原系列の統計はそのとおりですが、季節調整済の系列では先月から改善していますし、このところ下げ止まっているように見えます。雇用統計公表時に注目しされ始めた休業者についても、総務省統計局による「表2 休業者の内訳」によれば、激増した4月の597万や5月423万人からはかなり落ち着いて、8月には216万人と減少しました。昨年8月が202万人ですから、大きな違いはありません。COVID-19の影響が大きいと考えられている宿泊業、飲食サービス業でも、4月は100万人を超えていた休業者が23万人まで減少しています。我が国も含めて先進国経済の底は4~6月期であったことは緩やかなコンセンサスがある一方で、失業率などは典型的な遅行指標ですし、我が国の雇用指標についてもまだ悪化を示す可能性は十分あります。もちろん、最悪期を脱した可能性もあるものの、もしそうだとしても、日本経済も世界経済も回復過程はかなり緩やかなものとなり、COVID-19パンデミック前の水準に戻るまで長い期間がかかることは覚悟せねばなりません。

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雇用統計のほかに、本日は内閣府から9月の消費者態度指数が公表されています。本年2020年5月の底を暫定的に認定した景気を少しリードして、マインド指標らしく4月に21.6で底を打った後、5月にやや回復を示して24.0、6月28.4から、7月29.5、8月29.3と、COVID-19の感染再拡大に歩調を合わせて夏場に足踏みした後、9月は32.7と改善を示しています。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を先月の「持ち直しのテンポが緩やかになっている」から、「依然として厳しいものの、持ち直しの動きが続いている」に上方修正しています。グラフは上の通りです。

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2020年10月 1日 (木)

9月調査の日銀短観業況判断DIは最悪期を脱するも設備投資計画は下方修正!!!

本日、日銀から9月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは6月調査から+7ポイント改善して▲27を示した一方で、本年度2020年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比▲2.7%の減少と6月調査の結果から下方修正されてます。日銀短観の設備投資計画は統計のクセとして、9月調査は6月調査よりも上方修正されるのが通例なんですが、やや異例の結果となっています。まあ、判る気もします。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月日銀短観、大企業・製造業DIマイナス27 11期ぶり改善
日銀が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業・製造業でマイナス27だった。前回6月調査のマイナス34から7ポイント改善した。改善は11四半期ぶり。新型コロナウイルスの感染拡大で停滞していた経済活動が徐々に再開し、企業の景況感は悪化に歯止めがかかった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。9月の大企業・製造業DIは、QUICKがまとめた市場予想の中央値であるマイナス23を下回った。回答期間は8月27日~9月30日だった。
3カ月先の業況判断DIは大企業・製造業がマイナス17と改善する見通し。市場予想の中央値(マイナス18)を上回った。経済活動が正常化に向かうとの期待が企業の景況感を支えている。
2020年度の事業計画の前提となるドル円の想定為替レートは大企業・製造業で1ドル=107円11銭と、実勢レートより円安・ドル高だった。ユーロ円の想定為替レートは大企業・製造業で1ユーロ=119円67銭だった。
大企業・非製造業の現状の業況判断DIはマイナス12と前回を5ポイント上回った。人々の往来が徐々に回復し国内消費が上向くとの見方が景況感を押し上げた。3カ月先のDIは1ポイント改善のマイナス11だった。
大企業・全産業の雇用人員判断DIはマイナス2となり、前回(マイナス3)からマイナス幅が縮小した。DIは人員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いたもので、マイナスは人員不足を感じる企業の割合の方が高いことを表す。
20年度の設備投資計画は大企業・全産業が前年度比1.4%増と、市場予想の中央値(0.6%増)を上回った。

やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月、あるいは、四半期ベースでは2020年4~6月期を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。

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まず、今週9月28日付けのこのブログでも日銀短観予想を取り上げ、大雑把に、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが▲20台という結果をお示ししていましたし、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく大企業製造業の業況判断DIが▲23と報じられていますので、実績が▲27ですから、やや下振れした印象はあるものの、現在までの新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を考慮すれば、ほぼ「こんなもん」と受け止められているような気がします。ほかの主要な経済指標とともに、今年2020年5月ないし4~6月期が底となっているのは、ほぼほぼ共通している印象です。ただ、これもほかの指標と共通していて、回復ペースが緩やかな印象もあります。前回の6月調査から今回の9月調査で業況判断DIを+10ポイント以上改善させた業種を見ると、大企業製造業では、石油・石炭製品、電気機械、造船・重機等、業務用機械、自動車が上げられ、大企業非製造業では小売と通信となっています。しかし、これらの改善業種でも9月調査の業況判断DIの水準がまだ3月調査を下回っている業種が多く、上回っているのは、製造業の石油・石炭製品と非製造業の小売だけとなっています。我が国のリーディング・インダストリーである自動車はまだ▲61ですし、電気機械や業務用機械も▲10を超えるマイナスです。非製造業では、特にCOVID-19の影響が大きいと考えられている宿泊・飲食サービスが▲59、対個人サービス▲65を記録していて、6月調査からの改善幅も数ポイントにとどまっています。ただし、小売が+10ポイント超の改善を示して、水準としてもプラス幅を拡大したのは、背景に個人消費の回復があるとすれば、それなりにいいニュースではないかと私は受け止めています。業況判断DIの先行きについては、大企業製造業が+10ポイントの改善、大企業非製造業が+1ポイントの改善と見込まれています。何となく、日本だけでなく、世界中でコロナ慣れが進んできているような気がしますので、こういった世界的な雰囲気が背景にあるものと私は考えています。もちろん、対人サービスをはじめとして非製造業でCOVID-19の影響が大きいそうなのは実感としてあります。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも過剰感が底を打ったんですが、DIの水準として、設備についてはすでにプラスに転じて過剰感が残っている一方で、雇用人員については不足感が緩和されたとはいえ、まだ過剰感が発生するには至っておらず、絶対的な人数としては不足感が残っている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が企業マインドに反映されていると考えています。ただし、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。賃金動向については、考えるべきポイントもいくつかあり、一方で、グローバル化が進む中で生産関数が同じ産業では賃金が途上国や新興国の水準に影響を受けるというのが国際貿易論の結論ですが、そうなのかもしれませんし、違うかもしれません。他方で、ITC化などのスキル偏重型の技術進歩のため格差が拡大している、というのが主流派経済学の主張です。これもそうなのかもしれませんし、違うかもしれません。

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日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。最初に書いた通り、日銀短観の設備投資計画のクセとして、3月調査時点ではまだ決まっている部分が少ないためか、3月には小さく出た後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正される、というのがあったんですが、今年度2020年度は違っています。3月調査の設備投資計画から6月調査では全規模全産業で下方修正され、9月調査ではさらに下方修正されています。ただ、上のグラフは全規模全産業をプロットしてありますが、引用した記事にもある通り、大企業全産業では+1.4%増の底堅い設備投資計画が示されています。もっとも、グラフは示していませんが、設備投資の決定要因としては将来に向けた期待成長率などとともに、足元での利益水準と資金アベイラビリティがあります。9月調査の日銀短観でも、資金繰り判断DIはまだ「楽である」が「苦しい」を上回ってプラスですが、全規模全産業の経常利益の2020年度計画は前年比で2桁のマイナスです。全規模全産業で見た設備投資の最後の着地点は、かなり厳しいものとなりそうです。

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