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2020年10月31日 (土)

今週の読書は役に立たない科学の本と役に立たないポストコロナの2冊など計5冊!!!

今週の読書は、経済書ではなく東大出版会の教養書をトップに置いています。経済書らしきものは読んだのですが、まったくモノになりそうもないので、この読書感想文では後回しにしました。新書も含めて、以下の5冊です。

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まず、エイブラハム・フレクスナー & ロベルト・ダイクラーフ『「役に立たない」科学が役に立つ』(東京大学出版会) です。出版社が出版社ですので、ボリュームに比べてややお高い値付けになっています。買って読むのは素晴らしいことですが、私のように図書館で借りるのも一案かという気がします。なお、どうでもいいことながら、上の表紙画像に見える帯の推薦を書いている梶田先生は、今をときめく日本学術会議の会長ではなかったかと記憶しています。ということで、プリンストン高等研究所の歴代2人の所長が時間を隔てて書いたエッセイです。要するに、一言でいえば、基礎科学の重要性を強調しています。ですから、本書のタイトルにいう役に立たない科学とは基礎科学のことであって、私の研究のようにレベルが低くて役に立たない、というわけではありません。基礎研究とか、あるいは、モノによっては極めて偶然に新たな現象の発見があり、それらが解明された当時にはどういった役に立つのかが、サッパリ判らないながら、100年ほどの時間を経て大いに実用的な役に立つという例がいくつか収録されています。ですから、少なくとも一見ムダに見えても、ひょっとしたら、ものすごく時代を先取りしている可能性があるわけで、その意味で基礎研究が重要というわけです。今は、かつてのようなリソースが十分にある時代と違って、企業における研究はかなり縮小されていますし、大学における研究も同様です。特に、大学では「競争的研究資金」の獲得と称して、外部の研究リソースを獲得すべし、逆にいえば、学内のリソースは少ない、ということになっています。科学における研究も、さらにいえば、いたって実利的な企業におけるイノベーションも、どちらも「数撃ちゃ当たる」というのが大方のコンセンサスなんですが、選択と集中よろしく、リターンが望める研究しかリソースが割り当てられない現状は、おそらく、科学やイノベーションにとって望ましくないと私は考えています。十分にダイバーシティが確保され、一部にムダと見える要素を含んでいても、幅広い研究を実施し、科学やイノベーションがしっかりと進むような研究環境が必要です。経済の長期停滞下にあって、イノベーションも低いとことの果実は取り尽くした、といわれる時もありますが、まだまだ十分なイノベーションは開発可能です。それを阻んでいるのは、余裕ない経済と限定的な研究開発のデフレ・スパイラルではないか、と私は考えています。政党助成金で配布して、それが買収資金に使われるくらいなら、研究資金に回すというのはダメなんでしょうか?

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次に、遠藤誉・白井一成『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(実業之日本社) です。本書では、2人の著者の問題意識がアチコチにあるようで、しかも、2人の著者が属する中国問題グローバル研究所の中国在住の学者さんのインタビューも入っていて、ハッキリいって、何をテーマにどういう立論で、どういった結論が導かれているのか、私にはよく理解できませんでした。次の『ポストコロナの資本主義』と同じで、相反する論旨を堂々と展開している部分もあり、私の理解が及びませんでした。少なくとも、現在の中国のトップである習近平の行動原理のひとつに「父のトラウマ」があるというのは、何とも理解し難い気がします。ひょっとしたら、本書には書かれていないトランプ米国大統領の隠れたモチベーションにも「父のトラウマ」があったりするんでしょうか。そこから、米中対立を解き明かすというにはハッキリとムリですし、さらにそこに第5章のように新型コロナウィルス感染症(COVID-19)を埋め込ませようとするのは、さらにさらにで、頭の回転が鈍い私には理解できませんでした。ポストコロナ時代の米中覇権と新世界秩序形成の行方は米中両大国の「父親のトラウマ」でもって解き明かせるのだとすれば、経済学や政治学の役割というものが何なのか、私はまったく理解できません。「父親のトラウマ」は別にして、要するに、表面から見えている要因だけでなく、いろいろと隠されたウラ事情があって、それらが引き金となっていろいろな見える部分を動かしている面がある、というのは、理解できないことではありませんし、いわゆる「陰謀論」ではよく持ち出される論点です。でも、私には、いったい、本書が何を主張したいのか、謎のままの読書でした。私なんぞよりも知性的に大きく上を行く、と自覚している人以外にはオススメしません。

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次に、岩村充『ポストコロナの資本主義』(日本経済新聞出版) です。これまた、出来の悪い本でした。著者は日銀出身の研究者なんですが、ほぼほぼ毎回持ち出すのはお得意のブロックチェーンだけで、ほかは内容がない、というか、、むしろ毒になるような内容もいっぱい詰め込まれています。例えば、冒頭の何章かで、現在の我が国政府の公式見解をそのまま踏襲して、PCR検査の拡大不要論を展開しています。PCR検査にせよ、何の検査にせよ、偽陽性が検知されてしまうのは確率的にありえるのは当然なんですが、PCR検査で陽性になれば隔離されてしまうという恐怖感をハンセン病を持ち出すというのも、私はどうかという気がします。私は逆にPCR検査は拡充すべきであると考えているのは、本書の著者が情報不足からか、それとも意図的にか、見落としている大きなポイントがあります。それは、本書でまったく書かれていない点で、若者で無症状な感染者がいたり、あるいは、潜伏期間が2週間とかなり長いことから、そういった無症状感染者や潜伏期間の感染者が感染を広めてしまう可能性が十分あるからです。COVID-19のひとつの大きな特徴です。ですから、無症状の若者が基礎疾患があったり、高齢で抵抗力が弱まっている人々に感染を拡大しないためには何らかの検査で感染の有無を判定することが必要です。しかも、著者は日本で感染がそれほど拡大せず、あるいは、死者が諸外国と比べて少ないのは、国民がある程度自主的に接触を減らしたせいだということは何度も書いています。接触を減らすということと、隔離との違いは決して小さくありませんが、感染症対策として基本的な作用は同じであるということは理解が及ばないのでしょうか。本筋の経済についても、ブロックチェーンはまだしも、「底辺への競争」ばっかりで、このブログでも取り上げたOECDなんかの課税提案については、まだ、お勉強している人は少ない印象なのでしょうか。いずれにせよ、今週の読書のうち、「ポストコロナ」というタイトルで選んだ2冊は失敗でした。どなた様にもオススメしません。

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次に、養老孟司『AIの壁』(PHP新書) です。著者はご存じ『バカの壁』がベストセラーになった東大医学部の名誉教授にして解剖学者です。本書でも基本は口述筆記で、AIの発展がめざましい碁や将棋に関連して羽生善治、エコノミストでありAIに関連した著書もある井上智洋、この人走りませんでしたが哲学者の岡本裕一朗、人工頭脳プロジェクト「ロボットは東大に入れるか。」を進めてきた数学者の新井紀子、との対談を収録しています。それぞれに個性的で興味深い内容を含んでいますが、さすがに、井上准教授との対談は私にはそう目新しいものはなく、その私の目から見て、新井教授との対談が群を抜いていました。前の安倍内閣のご飯論法にも通ずる小泉元総理の人を食ったような論理的に破綻した論法について、むしろ、小泉元総理が国民の論理的な能力を正確に推し量ったものではないか、すなわち、国民の論理的に考える能力が崩壊していることを小泉元総理が見抜いたのではないか、と指摘しています。私は目から鱗が落ちるようでした。時の政治エリートのレベルは国民のリテラシーが決定するわけですので、小泉元総理の論法やご飯論法については、要するに、国民のレベルがそれを生み出すところまで落ちているのであろうということは、私にも薄々感じられていましたが、それを見切った発言だったとまでは思いが至りませんでした。ご指摘のように、インターネットなりなんなりに接続して、テキストだけで意思疎通を図ろうとするのはムリがあるのかもしれません。

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最後に、藤本修『コロナ不安に向き合う』(平凡社新書) です。著者は、関西をホームグラウンドとする精神科医であり、研究者でもあります。タイトル通りに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)という従来にない恐怖や不安に対して、ストレスをいかに上手く部b参して生活や仕事を進めるか、という観点からいろんな事が書かれています。特に、いくつかの例を引いて、判りやすく解説がなされています。本書で指摘されているように、4月から始まった緊急事態宣言が解除されると、コロナ前の生活が戻ると思っていた部分があって、自粛警察や理不尽な知事の発言などにも耐え忍んだにもかかわらず、緊急事態宣言が終わると、こんどは「ウィズ・コロナ」でコロナと共生するがごとき生活を強いられて、バカバカしくなったのは私だけではないのでしょう。第4章ではPCR検査の混乱を指摘し、ひとつのストレッサーになった可能性が上げられています。今週の読書でも、相変わらず、PCR検査に関して間違った見方を堂々と示しているエコノミストがいるんですから、こういった混乱は悲しいところです。最後に、コロナ不安に向き合う10箇条が列挙されています。私が読んだ範囲では、特にCOVID-19に起因するストレスだけに適用すべき内容ではなく、広く現代社会のストレス一般にも適用できそうに見えます。私は東京にいるころは、ほとんど新書は読まなかったんですが、余り読書が進まない学生向けと思って新書を読みだしたところ、少なくとも、今週の新書の読書2冊はとてもいい結果をもたらしてくれた気がします。これで自信を持って、学生諸君にも新書の読書をオススメすることが出来ます。

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