大きな下落となった10月統計の消費者物価(CPI)上昇率をどう見るか?
本日、総務省統計局から10月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は▲0.7%の下落を示した一方で、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は▲0.2%の下落でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
消費者物価、10月0.7%下落 GoToで9年半ぶり下げ幅
総務省が20日発表した10月の消費者物価指数(CPI、2015=100)は、変動が大きい生鮮食品を除く総合指数が101.3と、前年同月比0.7%下がった。下落は3カ月連続で、9年7カ月ぶりの下げ幅となった。政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」事業の割引で宿泊料が37.1%下がった。
消費者物価指数は消費者の支払額をもとに計算する。10月から東京発着の旅行も「Go To」事業で割り引いたため9月より下落幅が拡大した。11年3月の0.7%以来の大幅なマイナスだ。「Go To」の影響を除いた試算では、生鮮食品を除く総合指数は0.2%の下落だった。
19年10月の消費増税から1年たち、物価上昇率を高める効果も薄れた。同時に始めた幼児教育・保育の無償化の影響を加味しても9月には増税の影響で0.2ポイント程度押し上げていた。
宿泊料以外では電気代が4.7%、ガソリンが9.2%下がるなどエネルギー関連も大きく下落した。9月に2.4%だった家庭用耐久財の上昇率は0.8%に縮んだ。
この2年間は前年比の物価上昇率がずっと1%未満で、4月以降はエネルギー価格の下落や新型コロナウイルス禍を受けた需要減によりマイナスの月が多かった。総務省の担当者は「新型コロナのワクチンへの期待が高まり、足元では原油価格が上昇している。今後はエネルギー関連の価格が戻る可能性がある」と話した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。もっとも、最近になって発見したのですが、統計局から小数点3ケタの指数が公表されているようですので、今後は、これを用いる可能性があります。

コアCPIの前年同月比上昇率は日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲0.7%でしたので、ジャストミートしています。ただし、この10年振りの大きな下落は、昨年2019年10月からの消費税率引上げの効果の剥落もさることながら、引用した記事にもあるように、GoToトラベル事業の割引で宿泊料が▲37.1%下がった影響がCPI総合への寄与度▲0.45と大きく、GoToを除くコアCPIの下落は▲0.2%にとどまっています。それでも、「実力」CPIでマイナスです。加えて、エネルギー価格も、足元では上昇しているものの、10月統計では寄与度が▲0.44%となっており、ガソリンや電気代が下げ幅を大きくしています。そして、ここ最近半年、あるいは、10月からの動きでとても特徴的と私が考える点を2つだけ上げておきたいと思います。第1に、サービス価格が8月から急にマイナス幅が大きくなったのは、明らかにGoTo事業の影響と考えるべきですが、実は、消費者物価指数(CPI)では4月から、企業向けサービス価格指数(SPPI)では3月から4月にかけて、下げ幅を拡大しています。これは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)により対人接触の多いセクターで供給ショックがあった、と、従来のケインズ型の需要ショックではない点を強調するNBERのワーキングペーパー、すなわち、Guerrieri, Veronica, Guido Lorenzoni, Ludwig Straub, and Iván Werning (2020) "Macroeconomic Implications of COVID-19: Can Negative Supply Shocks Cause Demand Shortages?" NBER Working Paper No.26918, April 2020 と整合的な物価の動きだといえます。第2に、昨年2019年10月からの消費財率引上げの物価への影響が剥落したため、同時に、軽減税率の効果も剥落しています。ですから、勤労世帯の第Ⅰ分位家計と第Ⅴ分位家計のそれぞれの消費バスケットに対する物価上昇率の差が、長らく低所得の方の物価上昇率が低い状況だったんですが、10月統計から逆転して、第Ⅰ分位家計の消費バスケットに対応する物価上昇率の方が高くなってしまいました。ちなみに、私の計算では、10月統計で各家計平均の帰属家賃を除く総合CPI上昇率が▲0.4%、第Ⅰ分位家計の消費バスケットに対応するCPI上昇率が▲0.2%、そして、第Ⅴ分位が▲0.6%となります。わずかな差とはいえ、所得の少ない家計の消費バスケットの方が、所得の多い家計より物価上昇率が高くなっていて、物価上昇を除く実質消費では逆進的な影響が出始めたということになります。
| 固定リンク
コメント