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2021年2月24日 (水)

大学院卒業の賃金プレミアムはあるのか?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、ちょうど1週間前の2月17日付けで、リクルートのワークス研のサイトで「やはりなかった博士の賃金プレミアム」と題するコラムが明らかにされています。ちょうど、大学院選抜に取り組んでいたころでしたので、私の目に止まってしまいました。ただ、私自身としては、その昔に役所の研究所で同僚だった九州大学の菅助教が少し前に書いた論文 "The Returns to Postgraduate Education" が日本の大学院教育のリターンに関する決定稿だと思っていましたので、それほどのサプライズはありませんでした。

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上のテーブルは、ワークス研のサイトから 博士の賃金リターン を引用しています。ミンサー型の賃金関数で分析しています。見れば明らかなように、博士号取得者は修士までの人と比較すると、全体で賃金が+0.6%高いものの統計的な有意性はない、という結果が得られています。そもそも、+0.6%というのは教育としてはとても低いリターンではなかろうかという気がします。理系ではマイナスですらあります。社会科学系と人文科学系では、私の推測ではサンプル数が決して十分ではないこともあって、これまた統計的な有意性は示されていません。医学・薬学系ではそれなりのパラメータの大きさで統計的にも有意ですが、逆に、特に医学系では修士で終わっている人のサンプル数が少なそうな気がします。要するに、修士課程修了者が博士の学位を取得する賃金上の誘引が小さい可能性が示唆されています。
九州大学菅助教の論文へのリンクは以下の通りです。コチラは修士号の学位のリターンを推計していますが、ミンサー型の賃金関数のように単純なOLSではなく、理系文系の専攻や国公私立の設置を考慮するために、操作変数法での推計を行っています。やっぱり、統計的に有意な結果は得られていません。修士学位の取得も賃金上で有利になるとは限らない、というわけです。従って、"Japanese males obtain a master's degree not for higher wage, but for nonpecuniary benefits." と結論しています。

おそらく、大学院教育のリターンがそれほどではない、というこういった結果は直感的に広く認識されている可能性が高く、私の勤務するような経済学専攻の私学には、日本人学生はそれほど多く応募してきません。どうしても、途上国からの受入れが増えることになります。もちろん、それはそれで意義あることだと私は受け止めています。

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