OECD「経済見通し中間報告」の成長率見通しはワクチン効果と財政支援策で上方修正も日本は欧米に比べて大きく見劣り!!!
昨日、3月9日付けで、経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し中間報告」OECD Economic Outlook, Interim Report が公表されています。見通しのヘッドラインとなる世界の実質経済成長率は今年2021年が+5.6%、来年2022年が+4.0%など、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンの普及や米国の追加経済対策の効果を織り込んで、昨年2020年12月時点の予測から上方修正しています。また、副題は Strengthening the recovery: The need for speed とワクチン接種のスピードを強調するものとなっています。もちろん、20ページあまりのpdfの全文リポートとプレス向けのプレゼン資料もポストされています。私のこのブログは、週末の書評とともに国際機関のリポートに着目するのをひとつの特徴にしており、こういった資料から図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、プレス向けのプレゼン資料の p.2 Overview と p.6 OECD Interim Economic Outlook projections のスライド2枚を結合させると上の通りです。上のスライドから、3点明らかにされていて、第1に、経済見通しが大幅に改善されたことを強調しつつ、第2に、その改善についてはワクチン接種、財政政策によるサポート、公衆衛生管理、人的コンタクトが大きくCOVID-19の影響が甚大であった部門のシェアなどにより経済パフォーマンスが異なるとし、第3に、その中でもワクチンと財政政策の重要性を指摘しています。下のスライドでは、国別の成長率見通しが来年2022年まで示されています。我が国は+0.3%ポイント以上の上方改定のグループに入っていますが、成長率の数字そのものは他国に比べてかなり低くなっています。
次に、リポート p.11 から Figure 8. The pace of COVID-19 vaccinations differs substantially across countries を引用すると上の通りです。メディアで広く報じられている通り、イスラエルでもっともワクチン接種が進んでおり、かなり差がありますが、英国と米国がこれに次いでいます。さらに、トルコを含む欧州諸国が続き、ブラジル・中国・ロシアといったBRICs諸国が世界平均の周辺にあり、何と、我が日本がワクチン接種ではもっとも遅れている現状が明らかにされています。中国やサウジアラビアなど、一部に2月28日付けのデータ、と断り書きがありますが、多くは3月1日現在ですから、まさに直近のデータで、この状況です。
最後に、プレス向けのプレゼン資料の p.11 Differences in fiscal policy and health management are affecting output のスライドを引用すると上の通りです。いずれも日米欧について、左のパネルでは、昨年2020年12月までの財政措置とそれ以降の財政支援の規模を示し、右のパネルではGDP実額の回復度合いをCOVID-19パンデミック前の2019年10~12月期からの乖離としてプロットしています。右のパネルから見て、COVID-19による2020年4~6月期の影響は欧米に比べて我が国では落ち込み幅は小さかった一方で、財政支援規模が欧米に比べて見劣りするため、今年2021年に入って米国に抜かれ、さらに、行くゆくは2020年には欧州にも追いつかれる、という姿が見込まれています。
OECDが強調するワクチンと財政支援のどちらの政策でも我が国は欧米に比べて大幅に遅れが見られるとともに小規模であり、極めて見劣りしています。その昔に、リーマン証券破綻後の日銀の金融政策を too little, too late と表現されたことがありますが、今回のCOVID-19パンデミックでもまったく同じことが繰り返されている気がします。ですから、結果として、上方改定されたとはいえ、先行きの成長率も低いままにとどまります。我が国のメディアでは成長率が上方改定された点を主に報じていますが、もっとしっかりと原典資料に当たって、正確な情報を引き出すことが必要です。
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