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2021年4月 1日 (木)

業況判断が大きな改善を見せた3月調査の日銀短観をどう見るか?

本日、日銀から3月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは昨年2020年12月調査から+17ポイント改善して▲10を示した一方で、本年度2021年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比▲3.9%の減少なっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業の景況感、コロナ前回復 日銀短観
日銀が1日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は5と前回の2020年12月調査から15ポイント上昇した。米中など海外経済の持ち直しで輸出や生産活動が拡大し、3四半期連続で改善。新型コロナウイルスの感染拡大前の水準を回復した。大企業非製造業はマイナス1で4ポイント上がったものの改善幅は小さい。コロナ禍からの景気回復は二極化の様相が強まっている。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。大企業製造業は新型コロナの影響で20年6月にリーマン・ショック後の水準と同じマイナス34まで落ち込んでいた。その後は改善傾向が続き、今回、コロナ以前の19年9月(プラス5)の水準に並んだ。QUICKが集計した民間予測の中心値(ゼロ)を上回った。
主要16業種のうち13業種で改善した。米中をはじめとする世界経済の持ち直しや為替相場の円安・ドル高基調で、輸出環境が好転したことが幅広い業種に追い風になった。自動車は23ポイント改善のプラス10で、コロナ前の19年9月以来のプラスに転じた。鉄鋼や非鉄金属など素材関連業種にも恩恵が広がった。リモートワークの普及や巣ごもりによるIT(情報技術)需要の増加も電気機械などの改善を後押しした。
大企業非製造業は主要12業種のうち7業種で改善した。不動産や情報サービスなどの業種が上向いた。ただ、1月に大都市圏で緊急事態宣言が再発令され、外出自粛や店舗の営業時間短縮の動きが広がったことで、対面型のサービス業は総じて厳しい結果になった。
政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」の停止も響き、前回は景況感が回復した宿泊・飲食サービスは15ポイント悪化のマイナス81に沈んだ。レジャーなどの対個人サービスは8ポイント悪化のマイナス51。サービス業が重荷になり、大企業非製造業の景況感はコロナ前の19年12月の水準(プラス20)からはほど遠い。
中小企業でも製造業は14ポイント改善のマイナス13、非製造業は1ポイント改善のマイナス11と回復度合いに差が出た。外出自粛などの影響を受けやすい宿泊・飲食は規模の小さい企業が多く、サービス業の苦境は中小でより目立つ。
3カ月先の見通しを示すDIは、大企業製造業でプラス4と足元から1ポイントの悪化を見込む。半導体不足の影響で自動車などの景況感が悪化する。今回の調査は2月25日から3月31日に実施した。半導体大手ルネサスエレクトロニクスの工場火災の影響は十分に織り込まれておらず、製造業の回復は一段と足取りが鈍くなる恐れもある。
大企業非製造業はマイナス1と横ばいを見込む。巣ごもり需要の反動減が見込まれるほか、新型コロナのワクチン接種のもたつきでサービス消費の回復がどこまで進むかも不透明だ。内需の弱さが続くなかで製造業も停滞すれば、国内景気の回復は緩慢になる。

やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月、あるいは、四半期ベースでは2020年4~6月期を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。

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まず、先週金曜日の3月26日付けのこのブログでも日銀短観予想を取り上げ、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが改善してゼロ近傍となる見込みという結果をお示ししていましたし、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく大企業製造業の業況判断DIがゼロと報じられていますので、実績が+5ですから、やや上振れした印象はあるものの、現在までの新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を考慮し、加えて、先行きの景況感の鈍化を見込めば、ほぼ「こんなもん」と受け止められているような気がします。ほかの主要な経済指標とともに、昨年2020年5月ないし4~6月期が直近の景気の底となっているのは、ほぼほぼ共通している印象です。もちろん、業種別にはバラツキが大きく、総じて内需や対人接触型セクターのウェイトが高い非製造業では業況感が低く、他方、それなりに輸出で需要が見込める製造業では改善が大きい、との結果が示されています。すなわち、昨年2020年12月調査から直近で利用可能な3月調査への変化幅で見て、大企業製造業が+15の改善で業況判断DIの水準が+5とプラスに達したとなったのに対して、大企業非製造業はわずかに+5の改善にとどまりDIの水準も▲1とマイナスを続けています。大企業レベルで製造業と非製造業の産業別の業況判断DIを少し詳しく見るとは、3月調査で業況感を大きく改善させたのは、製造業では石油・石炭製品が+31のほか、生産用機械+29、非鉄金属+24、自動車+23、鉄鋼+20などとなっています。他方、非製造業では通信+29、情報サービス+21など、在宅勤務の増加などで業況を改善させていると思われる産業もいくつかありますが、宿泊・飲食サービスでは▲15とさらに悪化が加わってDIの水準も▲81に達しています。対個人サービスも▲8悪化してDI水準▲51となっています。ただし、製造業・非製造業ともに改善が続くと見込まれず、先行きは大企業製造業では▲4の悪化、大企業非製造業でも改善なしを見込んでいます。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも方向として不足感が広がる傾向にあるんですが、DIの水準として、設備についてはまだプラスで過剰感が残っている一方で、雇用人員についてはプラスに転ずることなく不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が企業マインドに反映されている可能性があると私はと考えています。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用に関しては、新卒採用について新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響がもっとも強く出ている可能性があり、新卒採用計画については6月調査と12月調査でしか実施されず、本日発表の3月調査には含まれていませんので、次の6月調査の日銀短観を見たい気がします。いずれにせよ、雇用調整助成金で現有勢力の雇用を維持する一方で、新卒一括採用のシステムの中で、学生の就活にしわ寄せが来ているように見えなくもありません。

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日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、3月調査時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月にはマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正される、というのがあったんですが、今年度2021年度は違っています。3月調査の設備投資計画が全規模全産業で+0.5%増のプラスで始まっています。おそらく、COVID-19のショックがもっとも大きかった昨年度2020年度に設備投資を絞ったため、今年度2021年度の設備投資を増やす、という隔年効果があるものと考えられます。また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは大企業設備投資で+2.7%増でしたが、実績は+3.0%増でした。加えて、グラフは示しませんが、設備投資の決定要因としては将来に向けた期待成長率などとともに、足元での利益水準と資金アベイラビリティがあります。3月調査の日銀短観でも、資金繰り判断DIはまだ「楽である」が「苦しい」を上回っていて、金融機関の貸出態度判断DIも「緩い」超のプラスですが、他方で、全規模全産業の経常利益は2020年度の▲30.3%減の大きなマイナスから2021年度はリバウンドするとはいえ+8.6%増にしか過ぎません。人手不足への対策の一環として設備投資は基本的に底堅いと考えていますが、最後の着地点がどうなるか、やや厳しいものとなる可能性も十分あります。

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