Economist 誌「オンライン会議疲れの新しい研究」やいかに?
やや旧聞に属する話題ながら、先週 The Economist 誌で "A new study suggests that "Zoom fatigue" is worse for women than men" と題する記事がありました。4月17日付けの Daily chart の記事です。まず、そのグラフィックを The Economist 誌のサイトから引用すると以下の通りです。
3枚あるグラフのうち、左側の大きなグラフは疲労度の密度関数を男女別にプロットしていて、男性の平均が2.75、女性は3.13と、女性の方がビデオ会議の疲労度が高くなっているのが、The Economist 誌の記事のタイトルになっているわけです。画像の下の方にやや雑な出典がありますが、キチンとした学術論文からの引用であり、元となる論文を私が見た限りで、SSRNのサイトのサイテーション情報とAbstractは以下の通りです。
Abstract
There is little data on Zoom Fatigue, the exhaustion that follows video conference meetings. This paper administers the Zoom Exhaustion & Fatigue scale to 10,591 participants from a convenience sample and tests the associations between five theoretical nonverbal mechanisms and Zoom Fatigue - mirror anxiety, being physically trapped, hyper gaze from a grid of staring faces, and the cognitive load from producing and interpreting nonverbal cues. First, we show that daily usage predicts the amount of fatigue, and that women have longer meetings and shorter breaks between meetings than men. Second, we show that women have greater Zoom fatigue than men. Third, we show that the five nonverbal mechanisms for fatigue predict Zoom fatigue. Fourth, we confirm that mirror anxiety mediates the difference in fatigue across gender. Exploratory research shows that race, age, and personality relate to fatigue. We discuss avenues for future research and strategies to decrease Zoom fatigue.
著者たちは基本的に米国スタンフォード大学の心理学の研究者グループです。最初に示した The Economist 誌のサイトにあるグラフは、論文の p.4 Fig. 1. Density plot of ZEF score and histograms of video conference usage の4枚のうちの3枚をアレンジしています。どうでもいいことながら、右上のグラフのタイトルのうちの "video call" は "video conference" の間違いだと思います。
ということで、メディアの記事を引用するだけではなく、出来る限り、原典に当たるよう学生や院生に教えている私ですので、SSRN のサイトから論文をダウンロードして斜め読みしてみました。でも、ほぼほぼ引用したAbstractで説明がつくようで、まず、下線を付した部分にあるように、男女を問わずビデオ会議で疲れやすいのには4つほど原因が上げられていて、"mirror anxiety, being physically trapped, hyper gaze from a grid of staring faces, and the cognitive load from producing and interpreting nonverbal cues" ということになります。少し私なりに解釈を加えれば、(1) 心理学で「鏡の不安」と呼ばれるもので、ビデオ会議では自分を見続けることから生じ、(2) カメラのレンズで動きが制約され、身体的に閉じ込められている感覚があり、(3) 従来の会議のように発言する時だけ注目されるのではなく、常に注目されている感覚もあり、(4) 非言語的なボディランゲージなどを理解しようと努力せねばならない、ということになろうかと思います。ただ、私がビデオ会議に参加する多くの場合、ビデオも音声もオフにしてしまいますので、これらの疲れる原因はなくなるか、大いに軽減されるんではないか、と思います。加えて、この論文の発見として4点上げており、(1) 男性よりも女性の方が会議参加時間が長く、逆に、休憩が短かい、(2) 男性よりも女性の方がビデオ会議で疲れやすい、(3) 非言語的なボディランゲージには5種類ある、(4) 「鏡の不安」が性別の疲労の違いをもたらす、ということのようです。疲労の4要因について男女別に回帰分析結果の係数を判りやすく比較したのが下の画像であり、論文の p.7 Fig. 2. Multiple mediation model を引用しています。まん中の列に縦に並んだ4要因が上から順に、最初に上げたビデオ会議が疲れる4要因の(1)から(4)に該当します。何せ、英文で書かれている専門外の心理学ですから、これくらいにしておきます。
私の勤務する大学では、昨年2020年4月に着任してから、教授会はすべてオンラインで開催されています。10年ほど前に長崎大学にいたころは、もちろん、ビデオ会議の教授会なんて1回もありませんでした。1年ほど前にこのブログで、教授会の司会進行をしている学部長が「オンライン会議は疲れる」と発言していたのに対して、私は教授会とはそもそも疲れるものである、と書いたような気がしますが、やっぱり、学部長が正しくて、オンライン会議は疲れるもののようです。
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