増産を示す鉱工業生産指数(IIP)と堅調な雇用統計の先行きやいかに?
本日、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも3月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.2%の増産でした。雇用の方は、失業率は前月から▲0.3%ポイント低下して2.6%、有効求人倍率も前月から+0.01ポイント上回って1.10倍と、徐々に下げ止まりないし改善を示している印象です。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
3月の鉱工業生産、20年2月以来の水準回復 挽回生産や需要増で
経済産業省が30日発表した3月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み、速報値)は前月比2.2%上昇の97.7だった。新型コロナウイルスの影響が大きく出る前の2020年2月(98.7)以来の水準を回復した。自動車工業を中心に、21年2月に発生した福島県沖地震で減少した生産の挽回や需要回復が寄与した。3月下旬に発生した車載用半導体などを製造するルネサスエレクトロニクス(6723)工場火災の影響はまだ小さかった。
上昇は2カ月ぶりで、QUICKがまとめた民間予測の中心値(2.0%低下)を大幅に上回った。経産省は「地震からの挽回や需要増で計画以上の増産となったのではないか」との見方を示した。基調判断は「生産は持ち直している」を据え置いた。
業種別では全15業種中、自動車工業、無機・有機化学工業、プラスチック製品工業など9業種が上昇した。一方、電気・情報通信機械工業など6業種は低下した。
出荷指数は0.8%上昇の95.2と2カ月ぶりに上昇した。自動車工業、無機・有機化学工業、鉄鋼・非鉄金属工業など9業種が上昇した。
在庫指数は0.1%上昇の94.5と3カ月ぶりに上昇した。生産回復で過去最低水準にある在庫がやや回復した。在庫率指数は0.8%低下の108.9だった。
製造工業生産予測調査では、4月は8.4%上昇、5月は4.3%の低下を見込む。同予測は実際より上方に出る傾向があり、経産省が上方バイアスを補正した先行きの試算(4月)は4.6%上昇だった。3月にルネサスの火災があった影響など「半導体不足は4月以降、(自動車工業含む)輸送機械工業の減産に働く効果があるのではないか」(経産省)としている。
20年度の鉱工業生産指数速報値は前年度比9.5%低下の90.4だった。新型コロナウイルスの感染拡大による年度前半の生産減少が響いた。
有効求人1.10倍、20年度46年ぶり下げ幅 失業率2.9%
厚生労働省が30日発表した2020年度平均の有効求人倍率は1.10倍となり、前年度を0.45ポイント下回った。下げ幅は石油危機の影響があり、0.76ポイント下がった1974年度以来46年ぶりの大きさで、比較可能な63年度以降では2番目になる。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、非正規の就業者数が減った。
総務省が同日発表した2020年度平均の完全失業率は2.9%と、前年度を0.6ポイント上回った。悪化するのはリーマン・ショックの影響があった09年度以来11年ぶりとなる。上昇幅は09年度の1.1ポイントよりは抑えられた。雇用調整助成金の特例措置や休業支援金といった政策の効果があったとみられる。
20年度の完全失業者数は198万人で36万人増えた。増加幅は09年度(68万人)以来の水準となる。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業などから何件の求人があるかを示す。20年度は企業からの有効求人が前年度に比べて22.3%減り、働く意欲のある有効求職者が9.8%増えた。
総務省調査によると、20年度平均の就業者数は6664万人で、9年ぶりに減少した。非正規の就業者数は2066万人と97万人減った。過去に遡れる14年度以降では減少は初めてだ。
特に女性の非正規職員・従業員が1407万人と65万人少なくなった。コロナの影響を受けやすいのは飲食や宿泊業といった対面サービスが伴う業種で、女性の非正規労働者が多い職場のためだ。宿泊・飲食サービスの就業者は381万人と37万人減った。
一方で女性の正社員は1208万人と36万人増えた。人手不足の産業で女性の正社員を採用する動きは出ている。
21年3月単月の有効求人倍率(季節調整値)は1.10倍と前月を0.01ポイント上回った。上昇するのは2カ月ぶり。都道府県別では最高が福井県の1.70倍、最低が沖縄県の0.76倍だった。東京都は0.88倍で9カ月連続で1倍を割り込んだ。
21年3月の完全失業率(同)は2.6%と前月から0.3ポイントの低下だった。就業者数は6649万人と前年同月より51万人少なく、12カ月連続の減少となった。完全失業者は188万人と前年同月より12万人多く、14カ月連続の増加だった。「勤め先や事業の都合による離職」は10万人増えた。
失業には至っていないものの仕事を休んでいる休業者数は20年度平均で261万人と前年度に比べて80万人増加した。確認できる1968年度以降では最大となった。
最初の緊急事態宣言が発令された20年4月に過去最大の597万人に達した。その後は減少し、感染拡大の第3波の11月から再び増加した。足元の21年3月は220万人となっている。
長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は▲2.0%の減産との見込みで、レンジの上限でも▲0.6%でしたので、実績値の+2.2%には私は少し驚きました。予想通り、というか、何というか、電気・情報通信機械工業、汎用・業務用機械工業、生産用機械工業、電子部品・デバイス工業などのいわゆるハイテク産業は軒並み減産だったのですが、適当に在庫があったためか、3月下旬のルネサスエレクトロニクス工場火災に伴う車載用半導体などの供給制約がまだ本格化していないのか、自動車工業が+7.5%の増産でハイテク産業のマイナス分をカバーした印象です。加えて、自動車工業の増産の背景にはワクチン接種が進むとともにバイデン新政権のもとで大規模な財政拡大政策が取られている米国経済が本格的的に拡大し始めた影響もあるものと考えるべきです。我が国も、米国のバイデン政権を見習って、ワクチン接種を大規模に進めて、緊縮財政を放棄して積極財政に切り替えれば、もっと経済回復が力強くなるものと私は考えています。でも、ワクチン接種はまったく進みませんし、貴重な人員を夜の飲食店の見回りに使うなんて、およそ財政リソースのムダ使いとしかいいようがありません。

続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が2.9%だった一方で、有効求人倍率は1.09倍でしたので、これらの予想よりも改善が進んでいる印象です。雇用は底堅く下げ止まりから改善に向かっている、と私は認識しています。人手不足の影響がまだ残っている可能性があるわけです。加えて、3月の年度替わりの統計ですので、非労働力人口が大きく増加して失業者の減少につながっている面がありそうです。傍証ながら、雇用者はわずかに増加しているものの、就業者は減少しています。年度末に就職を諦めた失業者がいることを伺わせる内容と私は受け止めています。

鉱工業生産指数(IIP)と雇用統計に加えて、本日、内閣府から4月の消費者態度指数も公表されています。前月から▲1.4ポイント低下し 34.7となっています。3回目の緊急事態宣言が消費者マインドに影を落としていることはいうまでもありません。上の消費者態度指数のグラフでは、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。このグラフも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。
最後に、生産と雇用の先行きについては、海外経済との関係で複雑ながら、私は外需に支えられて生産は堅調に推移する一方で、その生産の派生需要ながら雇用については、特に、緊急事態宣言の下でこの先はやや弱い動きを示すのではないか、という気がしています。私の予想通りに、東京オリンピック・パラリンピックが中止に追い込まれれば、雇用については確実に悪化すると考えざるを得ません。
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