増産続く鉱工業生産指数(IIP)と緊急事態宣言で停滞する商業販売統計をどう見るか?
本日、経済産業省から4月の鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が公表されています。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.5%の増産でした。商業動態統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+12.0%増の12兆2000億円、季節調整済み指数では前月から▲4.5%の減少を記録しています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
4月の鉱工業生産、1年7カ月ぶり高水準 設備投資など需要増
経済産業省が31日発表した4月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み、速報値)は前月比2.5%上昇の99.6だった。新型コロナ感染拡大前の水準を上回り、消費増税直前の2019年9月(102.4)以来の高水準だった。企業の生産用設備需要の増加などがけん引した。一方、世界的な半導体不足の影響を受けて自動車工業は低下した。
上昇は2カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中心値(4.1%上昇)には届かなかった。経済産業省は「内外での設備投資の回復やIT(情報技術)需要は継続している」として、基調判断は「生産は持ち直している」で据え置いた。
業種別では全15業種中、海外向け需要が堅調だった一般用蒸気タービン、ポンプなどを含む汎用・業務用機械工業(16.1%上昇)、国内での5G(次世代通信規格)関連投資が寄与した基地局通信装置を含む電気・情報通信機械工業(10.9%上昇)、半導体製造装置を含む生産用機械工業(7.8%上昇)など12業種が上昇した。一方、低下は自動車工業など3業種だった。
出荷指数は2.6%上昇の97.3と2カ月連続で上昇した。電気・情報通信機械工業、生産用機械工業など11業種が上昇した。
在庫指数は0.1%低下の94.7と2カ月ぶりに低下した。在庫率指数は1.8%低下の108.0と、19年5月以来の低水準だった。経産省は「『意図せざる在庫減局面』に引き続き該当し、このまま『在庫積み増し局面』に向かう方向にあると分析している」とした。
製造工業生産予測調査では、5月は1.7%低下、6月は5.0%の上昇を見込む。同予測は実際より上方に出る傾向があり、経産省が上方バイアスを補正した先行きの試算(5月)は2.5%低下だった。輸送機械工業が低下予測となっている。「半導体不足による影響や変異タイプの新型コロナ拡大による内外経済の下振れリスクに引き続き注視していく必要がある」としている。
4月の小売販売額12%増、コンビニなどで伸び
経済産業省が31日発表した4月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比12.0%増の12兆2000億円だった。増加は2カ月連続で、百貨店やコンビニエンスストアが前年同月を上回った。
2020年4月は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて政府が1回目の緊急事態宣言を出した時期に重なり、外出自粛に伴い小売業販売額は記録的な落ち込みだったため、前年同月比の比較ではその反動が大きい。
百貨店は2.5倍の3536億円で衣料品が伸びた。コンビニは8.2%増で9618億円だった。21年4月も下旬から東京など4都府県に3度目の緊急事態宣言が出たが、小売業販売額はコロナ前の19年4月の水準(12兆350億円)を上回った。
季節調整済みの前月比でみると4.5%減だった。経産省は小売業販売の基調判断を前月の「持ち直しの動きがみられる」から「横ばい傾向」に引き下げた。
長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は+4.3%の増産との見込みで、レンジの下限が+2.5%でしたので、実績値の+2.5%はギリギリの線かという気がします。最大の要因は、引用した記事にもある通り、半導体の供給制約の影響による自動車工業の減産で、前月から▲0.8%の減産となり、自動車を除く輸送機械でも▲4.6%の減産となっています。もっとも、自動車工業以外では、汎用・業務用機械工業が+16.1%の増産のほか、電気・情報通信機械工業+10.9%、生産用機械工業+7.8%、電子部品・デバイス工業+5.8%と、我が国のリーディング産業は軒並み回復を示しています。加えて、この期待はずれの低い伸び率でも生産指数は99.6に達し、上のグラフに見る通り、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前に記録した2020年1月の99.1を上回りました。国内でのCOVID-19ワクチン接種が進まないところに、海外、特に米国ではかなり経済活動も国民生活も正常化され、輸出に支えられて生産活動が回復を示している姿が明らかです。ですから、上のグラフの下のパネルでも、緑色の耐久消費財の出荷が低迷している一方で、青の資本財出荷は順調に伸びているように見えます。なお、先行きについて製造工業生産予測指数を見ると、5月▲1.7%の減産の後、6月は+5.0%の増となっています。信頼性の低い指標ながら、均してみれば増加基調が続くようです。これも含めて、先行きは自動車や輸送機械向けの半導体供給制約にも依存しますが、COVID-19ワクチンの内外格差は私はまだしばらく続くと見ており、生産は回復基調を維持する可能性が高いと考えています。
続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。統計のヘッドラインとなる小売販売額は、第1次の緊急事態宣言だった昨年2020年4月と比べると、さすがに2ケタ増ですが、3月からの前月比を季節調整済みの系列で見ると減少しており、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「持ち直しの動き」から「横ばい傾向」に明確に1ノッチ下方修正しています。小売販売額を季節調整済みの系列の前月比でもっと詳しく見ると、半導体供給制約で生産も減少した自動車小売業が▲11.2%と大きな減少を記録したのに加え、織物・衣服・身の回り品小売業も▲16.8%減、などとなっており、逆に、前月から伸びているのは価格上昇に起因する燃料小売業のほかは、飲食料品小売業だけです。輸出への依存を強める生産と比較して、緊急事態宣言の継続やワクチン接種の遅れなどから消費の停滞が際立っています。
鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計に加えて、本日、内閣府から5月の消費者態度指数も公表されています。前月から▲0.6ポイント低下し 34.1となっています。3回目の緊急事態宣言が消費者マインドに影を落としていることはいうまでもありません。ワクチン接種の遅れも影響を及ぼしている可能性も排除できません。上の消費者態度指数のグラフでは、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。このグラフも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。
最近のコメント