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2021年5月29日 (土)

今週の読書は主流派経済学の専門書をはじめとして計5冊!!!

今週の読書は、主流はど真ん中の財政均衡・緊縮財政に関する学術書、陰謀論をタイトルにしながらユダヤしか取り上げていない一般大衆書のほか、小説を単行本と文庫で2冊、さらに、新書を1冊と計5冊です。おそらく、5月の新刊書読書はこれで打ち止めですから、今年に入っての新刊書だけの読書で、1~3月期が56冊、4月に18冊、そして、足元の5月も18冊と、計92冊となっています。Facebookなどでシェアしている旧刊書を除いた新刊書だけで年200冊ペースと予想、目標ではなく、あくまで予想していますが、そんなもんだろうと思います。

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まず、法政大学比較経済研究所/小黒一正[編]『人口動態変化と財政・社会保障の制度設計』(日本評論社) です。編者は、財務省の公務員から今は法政大学の研究者に転じています。本書は、3部構成となっていて、第1部が民主主義と財政制度、第2部が社会保障制度改革、第3部が高齢者の貯蓄行動と介護、となっています。いわゆる左派系の財政均衡学派の論文を収録しています。米国では、共和党が財政収支についてはソフトな対応で、左派の民主党のほうが財政均衡を志向すると考えられていて、この財政均衡を志向するのが主流派経済学といえます。なぜこういうことをいうかというと、私は大学では基本的に講義などでは主流派経済学を教えます、と説明しているからです。逆に、ゼミなどの私自身のエコノミストとしての色を出しやすい少人数授業などでは、もちろん、教育ではなく研究では自分の信ずるところに従って進めるんですが、必ずしも東大や京大や一橋大などに比肩するわけでもない経済学部では、就職や何やを考えると私の好みの経済学ではなく、政府で応用されている主流派経済学を教えておく方がいいだろうし、官庁エコノミスト出身の私の講義には主流派経済学を応用した授業を望む学生諸君が集まるんではなかろうか、と考えているからです。ですから、時折、私自身の主張とはかけ離れたこういった財政均衡や緊縮財政を志向する主流派経済学の論文集なんかにも目を通しておく必要があるわけです。ひと通り見知った分野ですので、財政均衡や緊縮財政を志向する主流派経済学の論考が並べられているというだけで、一応、それなりに新しく開拓された分野も収録されているとはいえ、特に、大きな感銘を受けた開けではありません。いくつかの章に分割されて論じられているのですが、興味深かったのは、財政均衡や緊縮財政の主流派から見た実際の財政政策の評価です。もはや前世紀ながら、橋本内閣財政構造改革法はわずかに1年で放棄された非現実的な方向性を打ち出した緊縮財政法なんですが、本書では具体的な数値目標を盛り込んだ野心的な試みと評価されています。何よりも、おもしろかったのが、2009年政権交代後の民主党政権の評価であり、本書では極めて高く評価されています。現実には、国民の支持を失って早々に再度の政権交代を迎えたにもかかわらず、財政均衡や緊縮財政を目指す向きには評判はいいようです。民主党政権を引き継いだ第2次安倍政権はのほうぞな財政拡張で低評価だったりします。私は統計局の課長として、民主党政権下での「事業仕分け」なんかに苦しんだ経験があって、なかなか民主党政権での緊縮財政は客観的に評価し難いのですが、まあ、想像できる範囲の評価だという気もします。社会保障に関する本書の議論にも、国民生活を支えるという視点はまったく感じられず、やや極端な表現ながら、財政収支さえ帳尻があっていれば国民生活はそっちのけ、という気すらします。一部に、コロナ語の経済学にインスパイアされる部分もなくはないわけですが、時にはこういったカギカッコ付きの「主流派経済学」の最新に議論も押さえておかねばならないわけで、官庁エコノミスト出身の大学教員のツラいところです。

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次に、内藤陽介『みんな大好き陰謀論』(ビジネス社) です。著者は、郵便学者というそうです。本書では、タイトルの大きさにそぐわず、実はユダヤだけを取り上げています。従って、というか、何というか、つい最近の5月末に第2部として同じ作者の『誰もが知りたいQアノンの正体』という本が同じ出版社から出ています。ということで、章別に、BREXITと称される英国のEU離脱はロスチャイルドの陰謀であるとか、米国の中央銀行であるFRBはユダヤが握っているとか、共産主義はユダヤの思想とか、ソ連はユダヤ人が作った!とか、コミンテルンに関するユダヤの陰謀とかを否定していきます。ハッキリいって、否定の論法もかなりあやふやなものですが、まあ、常識的な結論です。特に、主要人物がユダヤ人ではない、という否定の仕方が圧倒的ですから、どうしても、ユダヤの影響についてはどうなの、と質問したくなります。特に、最近停戦なったガザ紛争でのイスラエルのやり方を見ていると、そして、それを支援するかのごとき米国外交を報道で接するにつけ、本書で取り上げているようなイベントにはユダヤが積極的に関わっていないとしても、やっぱり、それなりに背系でユダヤの影響力は無視できないんではないか、と考える向きも少なくないような気がします。というのは、ハーバード大学ケネディ・スクールのチェノウェス教授らの研究成果 Why Civil Resistance Works によれば、3.5%ルールというのがあって、人口の3.5%が参加した運動は成功する確率が88.89%に達するらしいです。ですから、米国においてホンの2~3%しか総人口に占める比率のないユダヤ人とか、イスラム教徒でも、何らかの影響力は行使できる可能性があります。もちろん、私は本書で取り上げられているようなイベントや組織でユダヤ人の影響が見られると主張するつもりは毛頭ありません。そして、本書で残念なのは、そもそも、どうしてみんなが陰謀論を好きなのか、という点をまったく考えていないことです。経済界でも陰謀論めいた、あるいは都市伝説めいた俗説はいっぱいあって、例えば、アラブのお王様とロックフェラーが石油価格を決めているとか、途上国で安い賃金で働く外国人が先進国の雇用を奪っているとかで、極めつけは、国家財政の収支は均衡させるべきである、というものです。まあ、最後のは陰謀論ではないように見えますが、税金を引き上げたり、政府サービスをケチッたりする口実に使われていて、やや陰謀論めいた作用を持っていると私は考えています。いずれにせよ、世の中には直接的な陰謀論でないにしても、謬見・謬論のたぐいはいっぱい流布されており、ユダヤに限定せずとも世間一般の常識で見破れる俗説は、こういった本を読んでも読まなくても、常識というものを涵養する必要性がある、ということなのだろうと思います。もっと、小ネタの陰謀論をいっぱい収録していれば、さらに面白かったんではないか、という気がします。私はQアノンの続編は読まないんではないかと思います。

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次に、辻真先『たかが殺人じゃないか』(東京創元社) です。著者は、米寿を超えて年齢的には最長老ともいえるミステリ作家です。「このミス」、「週刊文春」、「ハヤカワ・ミステリマガジン」など、いろんなミステリ本のランキングで2020年の1位に上げられた名作です。舞台は昭和24年の名古屋であり、同じ作者の前作『深夜の博覧会』は昭和12年の東京上野とやっぱり名古屋を舞台にしており、登場人物は12年後という点を含めて連続性があります。主人公の高校3年生はさすがに前作には登場しないものの、前作で10代だった探偵役の那珂一兵や高校の先生の別宮操は20代半ばになっています。ミステリとしての謎解きは、一応、それなりに解決を見ていますし、「読者への挑戦状」ならぬ「読者への質問状」があったりしますが、ひとつだけ、私は2番めの殺人事件で死体をバラバラにした合理的理由、というか、必然性が理解できませんでした。ミステリとしてはそれなりの出来というしかなく、いろんなところで1位とか上位にランキングされているのは、ミステリとしてではなく、むしr、終戦直後の風俗面の描き方が上手だからではないか、という気がします。旧制中学・高等女学校から新制の義務教育の中学と新たに高校が設置され、男女共学が始まり、しかも、民主主義の導入による民主教育とか、教員の私には当時の高校生活の描写も興味深いものがあります。また、高校の推理小説研究会と映画研究会の部員が主たる登場人物ですから、もっと文化的な香り高いミステリ論や映画論の話題が多く取り上げられていて、さらに、米軍占領下の社会生活についても、いかにもそれらしく描写されています。殺人事件で殺されるのは、終戦までナショナリストで「鬼畜米英」や「1億総玉砕」なんぞを叫んでいた俗物ながら、戦後は手のひらを返して民主主義や平和を説くようになって、それなりに社会的な地位を占める人物です。そして、殺人の背景としては復讐劇のようなものがあります。ミステリとしてのトリックとともに、いろんな読ませどころがあります。最後に、タイトルはたった1人を殺す殺人という意味であり、当然ながら、大量の人を殺す戦争と比較しています。前作の『深夜の博覧会』と合わせて読むとさらにおもしろく読めますが、単体のミステリ作品としても十分な出来だという気がします。

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次に、尾脇秀和『氏名の誕生』(ちくま新書) です。著者は、日本近代史を専門としていて、たぶんポスドクの研究者です。私は同じ著者の『刀の明治維新』(2018年10月7日の読書感想文)や『壱人両名』(2019年6月15日の読書感想文)を読んでいます。時代のスコープとしては、江戸期から明治を経た近代日本の氏名を跡づけています。ということで、現在では氏名や姓名などは、養子になったり、結婚したりといった人生のターニングポイントでしか変更されず、基本的に、同じ名前を生涯使い続けることになりますが、その昔は、豊臣秀吉として死んだ武将について例とすれば、木下藤吉郎という名前の時もありましたし、木下から羽柴になったこともあるのは、知っている人も少なくないと思います。ですから、今でいうところの姓も名も人生の中で変更されることがあったというのは知っている人もいようかと思います。さらに、私の記憶は遠く高校生の頃の日本史の教科書か、参考書なのですが、日米和親条約に署名した時の将軍徳川家茂は「源家茂」となっています。武家だけでなく、公家筋でも、和歌の冷泉家文書の時雨亭文庫の冷泉家のご当主は、通常、藤原と署名したりします。ということで、現代の我々が認識している名前とか、氏名とか、姓名は必ずしも江戸期や明治維新のころとは同じではなかったわけで、もちろん、それ以前はもっと違ったのかもしれませんが、取りあえず、近代史専門の研究者が江戸期から現代までの日本人の名前について、特に、かなり厳密に名前と姓名と氏名を区別して、タイトルに有るように現代の氏名に至ったのかを歴史的に跡づけています。すなわち、職名、例えば、大岡越前守とかの職名がそのまま名前になっていた時代もありますし、そのころに、大岡忠相の忠相は名前とは認識されずに名乗とされていて、借金の借用証などの契約書では使わなかった、とか、先ほどの武家の源とか平とか、あるいは、公家の藤原とか菅原とかは、姓ではなく本姓とされて、本姓と名乗を結合して姓名として使っていた、とかです。ですから、先ほどの日米和親条約の源家斉は姓名であって、氏名ではありません。そして、時代を下がって明治維新後は、ひとまず、すべての武士は公務員になったわけで、本姓を氏に、加えて、職名を名前に使うと重複が激しく、ですから、この本姓と職名は避けられるようになり、普通の氏と昔は名乗と考えられていたものを結合して氏名が誕生し、加えて、頻繁に指名を変更するのは事務手続きからして煩雑極まりないわけですので、養子や結婚のようなケースを別にすれば、原則として生涯同じ氏名を使い続ける、という精度が出来上がった、ということです。ほかに、明治初期には女性が結婚した際には必ずしも男性の氏に合わせる必要はなかったとか、いろいろと、仲間内で披露すれば教養豊かと見なされそうな歴史的な知識が詰まっています。

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最後に、望月麻衣『満月珈琲店の星詠み~本当の願いごと~』(文春文庫) です。著者は、京都在住のラノベ作家で、私は一時『京都寺町三条のホームズ』を熱心に読んでいたのですが、途中でヤメにしたまま中断しています。なお、前作『満月珈琲店の星詠み』は昨年2020年11月21日付けの読書感想文で取り上げています。本作とは単に「~」以降がないだけで、やや紛らわしい気もします。ということで、トレーラーカフェで営業している満月喫茶店は前作と共通ながら、前作では鴨川の川原とか、京都で営業していましたが、本作では東京に飛びます。客のオーダーを聞かないでお店で考慮の上出したりするのはいっしょです。三毛猫のマスター、シンガプーラのウーラノス、白と黒のハチ割れのサートゥルヌス、シャムのマーキュリー、メインクーンのジュピター、ペルシャ猫のヴィーナス、アビシニアンのマーズ、黒猫のルナが人間の姿で働くというファンタジーです。本書の冒頭に月占星図や占いの詳しい解説があります。興味ある読者はじっくり読めますし、私のように適当に読み飛ばしている読者は適当に読み飛ばすことができます。「ハリー・ポッター」のシリーズなんかでは星を読むのはケンタウルスなんですが、本書では星を詠むわけで、それはネコの役割なのかもしれません。ただ、実際に、本書や前作を読んでいると、ネコたちは星を詠んでいるのではなく、やっぱり、あくまで読んでいるような気もします。それはともかく、大きく深刻ではないにしても、ちょっとした悩みのある一般ピープルをネコたちが、スイーツと飲み物を出してトレーラーカフェでもてなし、占星術でいろんな示唆を与えることにより、悩みから開放されるわけではないものの、癒やしを与えているような気がします。占星術とともに、飲み食いにこだわりのない私にはでてくるスイーツや飲み物についても、なかなか理解がはかどらないのですが、なんとなく心が軽くなるファンタジックなラノベです。イメージが湧きにくいという私のような読者のために、なぜか、出版社のサイトではなく、アマゾンのサイトに、ネコたちやスイーツと飲み物を描いた、実に、適切なイラストが置かれています。ご参考まで。

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