大学教育で対面授業なしは義務不履行か?
我が家で購読している朝日新聞の記事ですが、今朝の朝刊で対面授業なしは義務不履行として学生が大学を提訴しているとのニュースを見ました。朝日新聞のサイトから記事の最初のパラだけを引用すると以下の通りです。
対面授業なしは「義務不履行」 学生が明星大を提訴へ
コロナ禍を理由に対面授業をやらないのは、大学として義務を果たしていない - 。そう訴える男子学生(19)が、学費の半額分の返還などを大学側に求める訴訟を東京地裁に近く起こす。学生は「オンライン授業を安易に続ける大学に不安や疑問を感じる学生は多い。誰かが声をあげないといけない」と話している。
何度かこのブログで示唆したように、私自身はオンライン授業はやりたくないと考えています。オンライン授業では、デジタル経済化の下で、Rosen (1981) "The Economics of Superstars" Ametican Economic Review 71(5) で示されているように、勝者総取りのスーパースター経済学が支配的となるわけですから、例えば、YouTube で自由に大学の授業を選ぶようなシステムが出来上がれば、私の授業なんぞは選んでくれる学生はとても少ないでしょう。すなわち、ブランド大学の有名教授の授業が大きな支持を集める一方で、私のような教員の授業はほとんど無視されそうな気もします。ですから、私としては対面授業を志向して、学生の顔色を見て鼻息をうかがい、質問や発言に耳を傾け、きめ細かでインタラクティブな授業を展開しないことには、私ごときの授業で学生の支持を集められるとは思っていません。他方で、同僚教員の中では対面授業ではなくオンライン授業を志向する意見が多いような気もしています。それだけ、ご自分と学生の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)への感染リスクを私よりも大きく見積もっているのか、スーパースター経済学が成り立っても生き残る自信が強いのか、あるいは、別の要因があるのか、私にはよく理解できませんが、大学によっても違うのだろうという気がします。
さて、話を戻すと、オンライン授業ばっかりの大学を提訴するという動きは、日本ではかなりめずらしいのですが、米国ではそうめずらしくもないような記事が昨年7月の段階で「ニューズウィーク日本版」で報じられています。タイトルだけ紹介すると、「学生が大学を訴える - 質落ちたオンライン授業に『学費返せ』」となっています。また、朝日新聞の記事をキャリーした Yahoo! ニュースのコメント欄を見た私の印象だけながら、オンライン授業を支持するコメントはあまりなく、逆に、対面授業支持の根拠として、①人脈形成、②学生が受ける恩恵、また、長くなりますが、③マスクを徹底するのもソーシャルディスタンスを取るのも難しい保育園児や幼稚園児は通えていて、分別のわかる大学生は安全のためにオンライン授業のみ、というのが一貫性がない、といった見方が示されているような気がします。また、別の観点ながら、授業料免除については、少なくとも施設が利用できないのであれば施設費は返却されるべき、という意見は合理性ありと私は考えました。というのは、私は今の大学に室内プールがあるのも福利厚生上でひとつの魅力、と考えていたのですが、1年余りに渡ってまったく利用できていません。最後に、オンライン授業からの恩恵という点に関しては、大学教育としては未確認ながら、経済産業研究所による分析「新型コロナと在宅勤務の生産性: 企業サーベイに基づく概観」では、在宅勤務はオフィスでのお仕事に比べて⅔くらいの生産性だと結論されていて、オンライン授業についても、「恩恵」かどうかはともかく、習熟度や到達度などはそれくらいではないかと私は想像しています。この観点からも、私自身は対面授業を志向しています。オンライン授業を志向する同僚教員からは「ヤな奴」と思われているのかもしれません。
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