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2021年7月31日 (土)

今週の読書は興味深い経済書をはじめとして計5冊!!!

今週の読書は、副業という今までになかった経済学的な観点からの研究所をはじめとして、新書に至るまで、大なり小なり経済的な観点を取り入れた本ばかり、以下の通りの計5冊です。なお、毎週お示ししておりますところ、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、今日取り上げたものを含めて7月で26冊、これらを合計して138冊になりました。来週、というか、この先8月の夏休みシーズンに入ります。大学教員になって、何がうれしいかというと夏休みがもっともうれしいわけで、昨年は赴任初年でがんばって短い学術論文を書いて紀要に投稿したんですが、今年はのんびりと過ごしたいと考えています。読書も気軽なものに切り替え、ペースも少し落とそうと予定しています。

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まず、川上淳之『「副業」の研究』(慶應義塾大学出版会) です。著者は、東洋大学の経済学研究者です。タイトルにある「副業」がどうしてカッコに入っているのか私には不明なんですが、通常、副業といえば本業に対応したサイドビジネスで、本書の指摘するように、追加的な所得を得る目的で、あるいは、趣味に近いものまで、いろいろとあり、特に最近では、政府の働き方改革のひとつの項目にすら取り入れられています。単に雇用者が別の仕事を持つ場合だけではなく、経営者が事業を多角化する場合も含めて、さまざまな分析が可能です。もちろん、私が定年まで働いていた公務員という職業は副業が許容されておらず、私も当然に副業の経験ないことから、実感としては副業について読後の現時点でもまだ理解がはかどらないものがあります。本書で展開しているように、特に、2章の労働経済学によるモデル分析とともに、どういう属性の人が副業をしているのかというのは、定量的な観点からは興味深いのですが、所得が低いなどの極めて想像しやすい結果が出ているだけだという気もします。それ以外に、第6章以降で副業が本業のパフォーマンスを高めるか、イノベーションへの影響があるかないか、あるいは、幸福度の観点からの副業の研究もいくつか見るべきものがあります。こういった心理学的な要因も今後は大いに注目されていいのではないかと感じました。中でも、印象に残ったのは、専門外の経営学の分野ながら、第6章で展開されている「越境的学習」と呼ばれるフレームワークを用いて、副業のスキル向上効果を検証している部分です。経営学で注目されているそうであり、通常の職場の外での経験が学習効果を持つという考えで、政府の働き方改革の議論の中で、副業が注目された要素のひとつもともいわれています。いわゆる learning by doing を進化させたようなスキルを高める効果を認める考え方であり、私の方で十分に理解したとはいえないかもしれませんが、とても興味深い研究です。今後、必要に応じて勉強を進めたいと思わせる内容でした。

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次に、鶴光太郎『AIの経済学』(日本評論社) です。著者は、官庁出身で現在は慶應義塾大学の研究者です。本書では、AIをインプットからアウトプットを予測するという観点から定義し、ディープラーニングによる暗黙知の領域の能力の獲得、資格表現された大勝への拡大などの特徴を備えていると指摘していま。その上で、AIがどのような経済的な影響を持っているかについて、労働市場、スキル形成、企業・産業、政策、あるいは、コロナとの関係などなど、基本的に、ポジティブな影響をケール・スタディにてさまざまな例を上げています。ジャーナリスト的なケース・スタディですので、当然、別の取材をすれば逆の例もあると思いますが、現時点までは成功例がもてはやされるんだろうと私は理解しています。ただ、AIの利用可能性という根本問題については、まったく考慮されていないように見受けられます。おそらく、今後、AIの利用可能性が大きく拡大し、私のような一般ピープルにでも手軽に低額で利用可能になる方向にあることは事実なんでしょうが、現時点での利用可能性には大きな格差があると考えるべきです。ですから、マイクロな市場におけるダイナミック・プライシングなんかでは、AIの利用可能性に差があって、企業がおそらく大部分の消費者余剰を吸い上げる形での価格付けを可能にし、AIの利用可能性の高い経済主体、例えば企業が、そうでない家計などから所得移転を受けるという格差を拡大する方向で利用される可能性が高いことは認識すべきです。教育や広い意味でのスキル形成などについても、ご同様に、個々人感での格差を拡大する方向に利用される可能性が極めて高いと考えられます。逆に、AIを格差縮小に利用できる例のあるんではないか、と私なんかは考えるんですが、そういった方向に本書は目が向いていません。私の専門外ながら、マルクス主義経済学なんかでは資本主義的な生産様式での固定資本利用の限界、で切って捨てそうな気がしないでもないんですが、もう少しエコノミストが知恵を出すべき観点だという気はします。

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次に、ニコラス・レマン『マイケル・ジェンセンとアメリカ中産階級の解体』(日経BP) です。著者は、『ニューヨーク・タイムズ』、『ワシントン・ポスト』、『ニューヨーカー』などで活躍したジャーナリストです。英語の原題は Transaction Man であり、2019年の出版です。英語の原題も邦訳タイトルも、私にはよく理解できないのですが、本書では、良き社会を形作るために、いかに経済を組織化するか、というテーマで書かれています。もっとも、実際には20世紀初頭からの米国経済の歴史書として読むことが私のオススメです。そして、いくつかの時代ごとに xx Man などを典型的な章別タイトルにしつつ、それとの関連深い歴史上の人物を章ごとに取り上げています。第1章の組織人間はアドルフ・バーリ、第2章の組織の時代はピーター・ドラッカー、第3章の取引人間はマイケル・ジャンセンであり、第3章のタイトルだけでなく本書の英語の原題となっています。第4章と第5章の取引の時代がアラン・グリーンスパンとジョン・マック、第6章のネットワーク人間がリード・ホフマン、といった具合です。最初のバーリは政府に経済的な権限を集中して経済運営を改善することであり、独占的な大企業を適切に規制して、中小企業の利益を守ることと分析されています。この段階では消費者はまだ現れません。刑事足掻的にはスミス的な完全競争市場の時代といえます。その次に、GMなどを典型とする大企業が成立してドラッカー的な経営システムにより生産性を向上させ、ジェンセンらから生まれたエージェンシー理論が企業の利害関係、すなわち、プリンシパルたる株主の利益をいかにエージェントである経営者に伝えるかが分析されます。そして、レーガン-サッチャー期に製造業から金融業に経済の重心が移り、米国の中央銀行であるFEDのグリーンスパン、あるいは、投資銀行の経営者が経済の表舞台に立つようになります。そして、最後は現在進行中のネットワーク社会の成立となります。デジタルをキーワードにしてもいいかもしれません。この時代を代表させているホフマンはLinkedInの創業者です。製造業のいわゆるメインストリームから金融業、そしてネットワーク産業へと米国経済の中心が移行するに従って、企業だけではなく消費者などがいかに経済行動を変容させていったか、という点を著者はていねいに追っています。ただし、そこはジャーナリストですので、エコノミストのようにバックグラウンドに何らかの経済モデルを想定することなくファクトを並べているだけ、という批判はあり得ます。

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次に、藤井彰夫『シン・日本経済入門』(日経文庫) です。著者は、日経新聞のジャーナリストです。出版は日経文庫なんですが、大きさからして新書の扱いかという気がします。ということで、第1章で、クロノロジカルでなく平成から令和の日本経済を振り返った後、デジタル経済、地球温暖化対策、人口減少と少子高齢化、金融財政政策、グローバル経済と日本経済そのものを中心に日本を取り巻く経済社会環境まで含めて議論を展開しています。私は、エコノミストとして、平成経済、特に、バブル崩壊後の日本経済は圧倒的に需要不足が問題であり、その需要不足は人口減少に起因するわけではない、と考えていますが、やや私の考えとは違うラインで議論が進められている気がします。特に、私は何らかの係数が構造的に一定に近いという議論が混乱を招いている気がします。典型例は、人口規模が経済にどのように影響を及ぼすかについては、時々で異なる議論があるわけで、マルサス的な窮乏化論もあれば、現在のような人口減少が需要減退を引き起こすという議論もありえます。GDPの付加価値と二酸化炭素排出に一定の比率があるように見えることから、地球環境問題の解決には「脱成長」が必要と考えるエコノミストも少なくなく、そのために、晩期マルクスを「発見」した『人新世の「資本論」』なんて本が話題になったりしました。デフレ脱却のために貨幣数量説に基づいてマーシャルのkの安定性に依拠して貨幣供給を増加させれば物価上昇が生じるとの日銀の異次元緩和は今のところ不発に終わっています。ここに上げたあたりは、議論が雑な気がしますが、本書でもご同様であり、新書という手軽なメディアですから許容されるとはいえ、ここまで需要サイドを無視した議論の展開は、少し疑問が残ります。

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最後に、本間正人『経理から見た日本陸軍』(文春新書) です。著者は、防衛装備庁に長らく勤務した経験を持つ研究者です。タイトル通りの内容で、「予算がなければ戦争ができない」という明白なテーゼを検証しています。エコノミストの私から見れば、高橋財政によって国債の日銀引受から財源を作り出して、その一定の部分が軍備に回ったわけですし、私が勤務していた官庁なんぞとは違って、軍隊には極めて多額の予算が投入されていたのであろうことは軽く想像できます。私の使っていたノートPCに比べて、戦車や戦闘機や軍艦はメチャクチャに高いんだろうという気がします。しかも、そういった装備品については、外部の企業から買ってきた部分も少なくないんでしょうが、兵器廠というのがあるわけですから軍隊内部で製造していた部分もあって、その原価計算の詳細なども興味あるところです。もちろん、装備品といった固定資産的な部分だけでなく、本書では、一般の興味も引きそうなお給料とか、食事とか、酒保と呼ばれる売店での価格とかも豊富に収録しています。ただし、海軍に比較して作戦展開のやや狭い陸軍が対象なので、その点からすれば、もっと広い地域で展開する海軍の経理も知りたかった気がしないでもありません。最後に、私の目を引いたのは、やっぱり、お給料の格差です。現在では米国の経営者と新入社員の格差が数百倍などと報じられていますが、陸軍においては徴兵されて衣食住を支給されるとはいえ、初年兵のお給料はスズメの涙であり、高級将校とは100倍近い差があった、というのはまあ、そんなもんかという気がします。戦地で実力を行使して、無理やりに物資を調達した場合も少なくないんでしょうが、経済学に則って市場で調達したケースもいっぱいあるわけで、まあ、軍隊や戦争というテーマには私は違和感覚えなくもありませんが、市場や経理の側面から軍隊を観察するのもアリかという気も同時にします。少し前に話題になり映画化もされた『武士の家計簿』みたいなところもあります。

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2021年7月30日 (金)

改善を示す鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計と雇用統計の先行きやいかに?

本日、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも6月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+6.2%の大きな増産でした。また、商業動態統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.1%増の12兆2970億円ながら、季節調整済み指数では前月から+3.1%の伸びを記録しています。失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.9%、有効求人倍率は前月から大きく上昇して1.13倍と、雇用は着実に改善を示しているように見えます。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じた記事を手短かに引用すると以下の通りです。

6月の鉱工業生産、6.2%上昇 7月予測は1.1%低下
経済産業省が30日発表した6月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は、前月比6.2%上昇の99.3だった。上昇は2カ月ぶり。生産の基調判断は「持ち直している」に据え置いた。QUICKがまとめた民間予測の中央値は前月比5.0%上昇だった。
出荷指数は4.3%上昇の96.3で、在庫指数は2.3%上昇の95.9。在庫率指数は0.3%低下の108.5だった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では7月が1.1%低下、8月は1.7%上昇を見込んでいる。
6月の小売販売額、0.1%増
経済産業省が30日発表した6月の商業動態統計(速報)によると、小売販売額は前年同月比0.1%増の12兆2970億円だった。増加は4カ月連続。季節調整済みの前月比は3.1%増だった。
大型小売店の販売額については、百貨店とスーパーの合計が2.2%減の1兆6422億円だった。既存店ベースでは2.2%減だった。
コンビニエンスストアの販売額は1.7%増の9731億円だった
6月の完全失業率2.9% 前月比0.1ポイント低下
総務省が30日発表した6月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は2.9%で前月比0.1ポイント低下した。QUICKがまとめた市場予想の中央値は3.0%だった。
完全失業者数(同)は202万人で、前月比2万人減少した。うち勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は7万人減、「自発的な離職」は2万人減だった。就業者数(同)は6666万人で21万人増加した。
6月の有効求人倍率、前月比横ばいの1.13倍
厚生労働省が30日に発表した6月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.04ポイント上昇の1.13倍だった。有効求人数の増減率が横ばいだった一方、有効求職者の増減率(3.6%減)が低下した。全体として、ワクチン接種前に求職活動を控える動きがあったという。
新規求人数(原数値)は、前年同月比5.4%増加した。製造業のほか、教育、学習支援業などが伸びた一方、宿泊業、飲食サービス業は減少した。コロナ前の2年前に比べ、建設業は公共工事や人手不足などを背景に上昇した。
有効求人倍率は、QUICKがまとめた市場予想では平均の中央値で1.10倍と5月から0.01ポイントの上昇を見込んでいた。
雇用の先行指標とされる新規求人倍率(季節調整値)は2.08倍と、前月比で0.01ポイント低下した。正社員の有効求人倍率(同)は前月比0.04ポイント上昇の0.94倍だった。

やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、2020年5月を直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は+5%の増産との見込みで、レンジの上限が+6.5%でしたので、ほぼ上限に近いながらレンジの範囲内でした。ただし、足元の7月については、製造工業生産予測指数で見る限り、▲1.1%の減産を予測しており、順調な回復軌道に戻ったと評価するのはまだ早い気がします。もっとも、先月の統計公表時には7月の減産幅は▲1.7%と見込まれていたことに比べれば、わずかながら減産幅が縮小しているのも事実です。ということで、基本的には、6月の増産は5月の半導体の供給制約による自動車の減産からのリバウンドと考えるべきであり、それほどのポジティブな評価をするべきではないと私は考えています。すなわち、私は先行きの生産については緩やかな改善を見込んでいるのですが、それにしても、6月統計のような急ピッチな増産は長続きしないと考えるべきです。ただし、今日の首都圏や関西圏での緊急事態宣言に見られるように、内需に依存する部分の大きい非製造業とは違って、世界経済の回復とともに製造業の生産は緩やかに回復するのは確かながら、それでも6月統計のような大きな増産は続かないと考えるべきです。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。繰り返しになりますが、通常、この統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で見るわけで、その数字は前年同月比+0.1%増の12兆2970億円ながら、季節調整済み指数では前月から+3.1%の伸びを示しています。GDP統計なんかの消費は季節調整済み系列で判断することを考えれば、月次で+3%というのはかなりの伸びと私は受け止めています。ただし、経済産業省のリポートでは、季節調整済指数の3か月後方移動平均で見ると、6月の指数水準はまだ100.0であり、前月比から▲0.7%低下していることから、基調判断は「横ばい傾向」で据え置いています。商用販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていないことから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための緊急事態宣言によるダメージは過小評価されていると考えるべきです。すなわち、飲食や宿泊のような対人接触型のサービスが緊急事態宣言で受けるネガティブな影響は、商業販売統計には現れないことが予想され、実際の日本経済の先行きについてはこの統計よりも悲観的に見るべきであると私は考えています。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が3.0%と前月統計から横ばいが予想されていた一方で、有効求人倍率は1.10倍と前月の1.08倍から改善する見込みであったものの、これらの予想を上回る改善が進んでいる印象です。人口減少過程に入った日本経済における人手不足の影響と考えられます。

生産、小売販売、雇用、いずれの経済指標も本日公表の政府統計では市場の期待よりも改善が進んでいるように見えますが、足元の7月末の時点では、オリンピックを政府が強行開催したことから新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が大きな勢いで広がっているため、首都圏と関西の大都市部と沖縄県で緊急事態宣言が出されることとなりました。当然、日本経済の先行きについては本日公表の統計よりは悲観的な方向で考えるべきであると私は考えています。

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2021年7月29日 (木)

大和総研リポート「サステナブル投資残高の増加は継続」やいかに?

知っている人は少ないと思いますが、先週7月19日に Global Sustainable Investment Alliance(GSIA)から Global Sustainable Investment Review 2020 が公表されています。2年に1度のリポートです。私がボケっとしている間に、大和総研から昨日7月27日に「サステナブル投資残高の増加は継続」と題するリポートが明らかにされています。グラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは、大和総研のリポートから 図表1 各国・地域のサステナブル投資残高 を引用しています。主要国の2020年時点におけるサステナブル投資残高の合計は約35兆ドルと、2年前の前回調査から約15%増加しています。しかも、軽く想像される通り、多くの主要国でサステイナブル投資は一貫して増加しており、唯一、2020年の欧州だけが例外となっています。日本は、2016年0.5兆ドルだったものが、2018年2.2兆ドル、2020年2.9兆ドルと増加しています。結果として、日本のほか、米国・カナダ、欧州、オーストラリア・ニュージーランドの主要国で見て、2020年のサステイナブル投資に占める米国のシェアが48%、欧州のシェアが34%、日本が8%、などとなっています。各年の前年末が調査時点ですから、2020年の計数は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響はないと考えてよさそうです。

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次に、上のグラフは、大和総研のリポートから 図表3 投資手法別サステナブル投資残高 を引用しています。前回調査まではネガティブ・スクリーニングがもっとも多かったんですが、2020年にはESGインテグレーションがトップとなっています。各投資手法の概要は大和総研のリポートにテーブルがありますが、「ネガティブ・スクリーニング」とは、たばことか、ギャンブルに関連する企業を投資対象から除外するというもので、「ESGインテグレーション」とは、財務などの投資情報とESG情報を統合して総合的に判断するというものです。最後に、多くの主要国でサステイナブル投資が投資の額として増加しているとはいえ、欧州については少し異なっていて、私の知る限りでも、GSIAのリポートで利用可能な2014年のデータをピークにして、欧州の総投資に占めるサステイナブル投資のシェアは低下を続けています。これについて、大和総研のリポートでは、欧州で進められているサステイナブル・ファイナンス行動計画によって、サステイナブル投資の定義 の厳格化が行われていることが背景にある可能性、を指摘しています。

2015年で成功裏に終了したMDGsに続いて、2030年をターゲットにしたSDGsの取組みが国連を中心に進められています。前のMDGsが政府主体であったのに対して、現在のSDGsは企業なども幅広く巻き込んだ取組みとなっているのが大きな特徴です。そのひとつの例としてサステイナブル投資の重視が上げられると私は考えており、もっと注目を集めていいと考えているのですが、我が大学でもほとんど無視されているに近いと私は見ています。国際的な活動をすすめる多国籍企業ではSDGsの取組みが必要との認識が欠けているように思えてなりません。

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2021年7月28日 (水)

国際通貨基金(IMF)による「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update で日本の成長率はどうして下方改定されたのか?

昨日7月27日、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。4月時点の「世界経済見通し」から、先進国の今年2021年の成長率見通しが+5.1%から+5.6%に+0.5%ポイント上方改定された一方で、日本については+3.3%成長から+2.8%に▲0.5%ポイントの下方改定となっています。同時に、新興国・途上国の成長率見通しも+6.7%から+6.3%に▲0.4%ポイント下方改定されています。まず、IMFのサイトから成長率見通しの総括表を引用すると以下の通りです。なお、テーブルの画像をクリックすると、別タブで詳細な見通し総括表のpdfファイルが開きます。

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世界経済の成長率は、パンデミックの昨年2020年に▲3.2%のマイナスを記録した後、今年2021年は+6.0%と大きくリバウンドすると見込まれています。今年のプラス成長でもって、昨年にマイナス成長を十分カバーするわけです。しかしながら、先進国に着目すると、リバウンドで昨年のパンデミックのマイナス成長をカバーできるのは米国だけであり、欧州各国や我が日本においては、昨年2020年のマイナス幅に今年2021年のプラスが追いついていません。加えて、日本の場合は、今年2021年4月時点の見通しから▲0.5%ポイント下方改定されています。今回の見通しの副題は Fault Lines Widen in the Global Recovery となっていて、リポートp.2冒頭のパラでは、"Economies are diverging even further, influenced by differences in the pace of vaccine rollout and policy support." と分析されています。すなわち、ワクチン接種のペースと政策支援が断層線の差をもたらしているという分析です。成長率が下方改定された日本において、決定的にワクチン接種のペースが遅いことはいうまでもありません。チラリと見た日経新聞でも「ワクチンで経済回復に差 米欧上振れ、新興国は下方修正」というタイトルの記事だったんですが、この場合、日本は新興国に分類されるのかもしれないと考えてしまいました。

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次に、上のグラフは、リポートp.2から Figure 1. Vaccine Courses を引用しています。7月6日時点での供給済みワクチンと投与済みワクチンの人口比です。供給と投与の差は在庫ということになるのかもしれません。先進国で圧倒的にワクチン普及が進んでいるのが見て取れます。世界各国の状況については、ビジュアル的に見やすいので、私はNHKのサイトを利用しているのですが、日本はまだかなり遅れているとしか見えません。今日のお昼休みに確認したところでは、日本の100人あたり接種回数は62.77回であり、トルコ、アルゼンチン、ブラジルの後塵を拝しています。

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次に、上のグラフは、リポートp.5から Figure 4. Household Savings and Government Support durin g the Pandemic を引用しています。横軸が財政支援のGDP比、縦軸が累積された家計の超過貯蓄です。赤いラインが1次近似線で、日本はそのラインのはるか上にあります。財政支援は米国に次ぐグループで、英国、カナダ、オーストラリアなどとともに、かなり手厚かったのですが、消費に回らず超過貯蓄として溜め込まれているのが実情です。キチンとした分析をしているわけではなく、直感的な見方ながら、背景には雇用不安があるように私は感じています。特に、非正規雇用の間では先行き雇用不安が消費を鈍らせている可能性があるのではないでしょうか。

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最後に、上のグラフは、リポートp.14から Figure 8. Employment Rate を引用しています。従来から私の主張で、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の最大の経済的帰結のひとつは格差の拡大と考えています。中年層よりも若年層が、高スキル層よりも低スキル層が、それぞれ、雇用を減少させていることが見て取れます。

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2021年7月27日 (火)

6月統計の企業向けサービス価格指数(SPPI)は+1%代半ばまで上昇率が拡大!!!

本日、日銀から6月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.4%まで上昇幅を拡大しし、変動の大きな国際運輸を除く平均も+1.1%の上昇を示しています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックに対応した緊急事態宣言が5月中は首都圏などで続いていましたが、昨年の4~6月期が経済活動の底でしたが、その反動が現れています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

6月の企業向けサービス価格、前年比1.4%上昇 広告や輸送が値上がり
日銀が27日発表した6月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は105.0と、前年同月比で1.4%上昇した。前年比のプラスは4カ月連続。テレビ広告や国際輸送などの価格が上昇した。
テレビ広告では飲料、情報通信などの出稿が戻り、価格を押し上げた。また6月は「東京五輪に備え、出稿を早める動きが一部(の業種)にあったと聞いている」(日銀)という。
国際航空旅客・貨物輸送では、燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)の改定により価格が上昇した。
同指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。前月比では0.1%上昇した。
調査の対象となる146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは78品目、下落は40品目だった。

いつもながらよく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。いずれも、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率は、2019年10月の消費税率引上げの効果が剥落した昨年2020年10月からマイナスに陥っていましたが、今年2021年2月統計では保合いになり、3月統計でプラスに転じました。直近で利用可能な6月統計では+1.4%まで上昇幅を拡大しています。基本的には、石油をはじめとする国際商品市況の上昇がサービスにも波及していると私は考えていますし、加えて、昨年2020年4~6月期が我が国では第1次の緊急事態宣言の中で経済活動の水準がほぼ底だったため、その反動で今年はこの時期の前年同月比上昇率が上がっている、という面も否定できません。少し詳しく、SPPIの大類別に基づく前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率+1.4%への寄与度で見ると、テレビ広告やインターネット広告などの広告が+0.58%、不動産が+0.24%、運輸・郵便が+0.21%、諸サービスが+0.18%となっています。引用した記事にあるように、東京オリンピックに関連する広告需要があったかもしれません。

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2021年7月26日 (月)

リクルートジョブズによる6月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

今週金曜日の7月30日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる6月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。まず、いつものグラフは以下の通りです。

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アルバイト・パートの時給の方は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響などにより、ジワジワと停滞感を増していて、4月+0.7%増、5月+1.5%増に続いて6月も+1.5%増となっています。伸び率が+2.0%を下回るのは、2020年10月から9か月連続です。他方、派遣スタッフの方は昨年2020年5月以降のデータが跳ねていたのですが、今年2021年5月からはそのリバウンドで元に戻っています。上のグラフの通り、今年2021年6月は+1.2%を記録しています。
まず、アルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、5~6月には+1.5%増の伸びまで縮小し、人手不足がメディアで盛んに報じられていた一昨年2019年暮れから昨年2020年年初のコロナ初期の+3%を超える伸び率から比べるとかなり低下してきています。三大都市圏の6月度平均時給は前年同月より+1.5%、+16円増加の1,099円を記録しています。職種別では「事務系」(+47円、+4.2%)、「営業系」(+38円、+2.9%)、「販売・サービス系」(+20円、+1.9%)、「専門職系」(+21円、+1.8%)、「製造・物流・清掃系」(+13円、+1.2%)、「フード系」(+3円、+0.3%)とすべての職種で増加を示しています。地域別でも関東・東海・関西のすべての地域でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、6月は+20円増加、+1.2%増の1,724円に達しています。職種別では、「IT・技術系」(+93円、+4.4%)、「オフィスワーク系」(+60円、+4.0%)、「クリエイティブ系」(+66円、+3.7%)、「医療介護・教育系」(+2円、+0.1%)はプラスを記録した一方で、「営業・販売・サービス系」(▲40円、▲2.7%)だけがマイナスとなっています。派遣スタッフでも、テレオペ・テレマーケティング・スーパーバイザーと営業アシスタントが大きなマイナスです。地域別では関東でプラス、関西は増減なし、東海でマイナスと分かれました。

派遣スタッフの時給が伸びを高めているのに対して、アルバイト・パートの時給上昇率はジワジワと停滞し始めています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的な影響は昨年2020年5月ころに底を打ったように見えることから、雇用については典型的には失業率などで景気動向に遅行するケースが少なくないとはいえ、意外と底堅いという印象です。

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2021年7月24日 (土)

新型コロナウィルス感染症(CVID0-19)ワクチンの副反応やいかに?

AERA7月26日号で「9割がワクチン接種部位に『痛み』あり 対処法は『冷却』と『エクササイズ』」と題する記事が掲載されています。まず、AERA.dotのサイトからファイザーとモデルナそれぞれの接種後9日目以降に起きる副反応の頻度のテーブルを引用すると以下の通りです。

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私の勤務する大学の職域接種はモデルナであり、私は3日前の今週水曜日に第1回目のワクチン接種を受けています。モデルナの方はファイザーに比べてサンプル数がかなり小さいので誤差も大きいんでしょうが、それでも、副反応率がかなりあります。私の場合は、接種翌日でも、触って少し違和感がある程度、今はほぼほぼ違和感すらない、というカンジなのですが、AERAの記事によれば、「モデルナ・アーム」と呼ばれる副反応はワクチン接種から1週間以上経過してから接種部位に起こることもあるようです。私の同僚教員の中にも、ワクチン接種翌日にかなり腕に痛みがあった人もいると聞き及んでいますが、1週間以上の後に副反応があるとは知りませんでした。
副反応の対策なんですが、タイトルにあるように、米国疾病対策センター(CDC)では、清潔な冷たい濡れタオルで腕の痛い部分を冷やしたり、痛い側の腕を動かしたり、あるいは、エクササイズをしたりすることで、痛みが和らぐことがある、とAERAでは紹介しています。同時に、厚生労働省では痛みがひどい場合市販の解熱鎮痛剤を飲むのもひとつの選択肢、とも紹介しています。私も今のところ大丈夫なのですが、この先、何らかの副反応が出ないとも限りませんので、頭に入れておきたいと思います。

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2021年7月23日 (金)

カミさんとマンション見学に出かける!!!

先週のこのブログで、ニッセイ基礎研のリポート「2020年のマンション市場と今後の動向」を取り上げたりしましたが、今日は、まだ授業を完全に終わったわけではないとしても連休中ですので、カミさんとマンション見学に行きました。
決して、すぐにマンションを購入して引越す必要があるわけではありませんし、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が終息したら、ひょっとしたらひょっとして、東京に回帰しないとも限りませんので、まあ、基本は関西でいうところの「冷やかし」なんですが、夫婦2人でじっと家にいても気詰まりですし、行楽代わりのお出かけで、営業の人には迷惑かもしれないと思いつつ、朝からマンションを見学して、タップリと2時間に渡ってお話を伺い、その後、買い物などなど、ひと通り夫婦2人でお出かけを楽しんできました。

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2021年7月22日 (木)

今週の読書は経済書をはじめとして計4冊!!!

今週の読書は、いつもは土曜日にポストするんですが、今週だけは変則的な4連休になりますので、連休初日の本日にお示ししておきたいと思います。ですから、いつもはおおむね4~5冊あるんですが、今週だけは特殊条件で3冊です。逆に、来週は多めになろうかという気がします。というのは、私はもともと東京オリンピック・パラリンピックには反対ですし、特に現在のような新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック第5波の中で開催するのは強烈に反対しますから、それほど、世間一般よりはオリンピック報道を見ないと考えられるからです。ということで、毎週お示ししておりますところ、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月で56冊、今日取り上げたものを含めて7月で21冊、これらを合計して133冊になりました。来週、というか、今週これから先を含めて、すでに手元に、慶應義塾大学出版会の『「副業」の研究』などを借りて来ており、オリンピックに熱中することなく読書の時間を確保したいと考えております。

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まず、大橋弘『競争政策の経済学』(日本経済新聞出版) です。著者は、東京大学の教授です。タイトル通りに、幅広く競争政策について、バックグラウンドにあるモデル、計測、実証まで議論を展開しています。4部構成となっており、順に、競争政策や産業組織論、産業分野、需要停滞期の競争政策、デジタル市場の競争政策、を主眼としています。冒頭で競争政策のアプローチを論じ、基本的なモデルの提示と計測について示されています。その後の残る3部が産業ごとやデジタル化の進む経済での課題や解決のための政策論などが展開されています。基本的には学術書だと考えてよさそうなのですが、それにしては物足りない部分もあり、一般ビジネスパーソン向けも意識したのか、やや中途半端な出来上がりという気もします。市場の競争、というか、独占の弊害について、市場占有率などの市場構造のアプローチとともに、マークアップ率の計測など、いわゆる「実害」についても併せて論じており、逆に見れば、市場占有率が高くても、限界生産費価格付けに近い企業行動であって、不当な市場支配力の行使がなければOK、ということなのかもしれません。そういう意味で、潜在的な市場支配力ではなく企業行動に即した判断が必要との立場のように見えます。従って、本書の用語に即していえば、ブランダイス学派なのではなく、シカゴ学派なのかもしれません。第2章の結論のように、市場シェアの集中化だけが判断材料となるわけではない、と明記していたりします。ですから、八幡・富士製鐵の合併、新日本製鐵の成立については、1968年の多くのエコノミストによる反対意見の表明とはまったく逆の方向で、生産性工場も考慮した動学的な効率化の含めれば、合併用人の見方を明らかにしています。製剤的な独占力の構築には目を向けず、その独占力の行使だけを問題にする立場のように見えて、私にはやや疑問が残ります。ただ、参考文献に本文で引用されている大橋ら(2010)が見当たらないので、何ともいえません。加えて、同じコンテクストで、過剰供給と過当競争についての見方についても、人口減少下での需要不足と、そのコインの反対側となる供給過剰の解消に競争政策がどのような役割を果たすのか、少し曖昧な気もします。産業別に公共調達における談合、携帯電話市場におけるアンバンドリングの効果、、電力自由化の中での再生エネルギー政策の展開と競争政策のあり方、については、どうも従来から見かけることの多い結論に終止しているようですが、デジタル経済における競争政策、特に、プラットフォーム企業に対する見方については、私もそれほど見識ないことから、ある程度は参考になります。特に、GAFAに対しては分社化という構造的規制、あるいは、透明性確保と説明責任を問う行動的規制など厳格な対応が必要という結論には私も同意する部分が多いと感じました。しかしながら、パーツ・パーツではおかしなところもいっぱいあり、例えば、人口減少局面=需要停滞期に企業合併を違う視点から見ようというのは、競争政策の名に値するかどうか、やや疑問です。市場メカニズムにおける競争均衡は効率的な資源配分に役立つのはいうまでもありませんし、そのための競争政策の重要性も当然認識されて然るべきですが、リザルト・オリエンテッドな視角だけでなく、構造的、あるいは、潜在的な市場占有力の軽視は疑問です。

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次に、マシュー C. クレイン & マイケル・ぺティス『貿易戦争は階級闘争である』(みすず書房) です。著者は、ジャーナリストと在中国の金融研究者です。英語の原題は Trade Wars Are Class Wars であり、2020年の出版です。よくわからない取り合わせですが、本書の基本的なスタンスは極めて明確であり、「国家間の貿易戦争を激化させるのは、国家の内部で進行する不平等の拡大だ」(p.8)ということになります。もう少し判りやすくいえば、バックグラウンドとなるモデルはシンプルなマクロの投資貯蓄バランスであり、不平等が高所得層での低消費と過剰貯蓄を生み出し、この過剰な貯蓄を解消するために輸出で過剰生産の不均衡を解消すべく貿易戦争が勃発する、という考え方です。「階級闘争」というネーミングを別にすれば、かなりまっとうな経済モデルであり、ある程度は主流派エコノミストにも受け入れる余地あるような気がします。ただ、私の知る限り、マルクス主義的な「階級闘争」は Class Struggles ではなかったか、と記憶しています。記憶は不確かですし、自信もありません。いずれにせよ、国内の不平等を体外不均衡と結びつけるのはムリのないところです。基本的に、どちらの面から見るかによりますが、現時点でのサマーズ教授命名の長期停滞もそうですし、現代経済の停滞は需要の不足、あるいは、その逆から見て、供給の過剰から生じます。ですから、ケインズ経済学はその需給ギャップを埋めるべく政府支出を拡大することを主眼にしていますし、その極端なのがMMT学派ともいえます。マルクス主義経済学では、極めて単純化すれば、供給の方をコントロールして需要の範囲内に収めて供給過剰を生じないようにする、そのために生産手段を国有として中央司令経済で生産を管理する、というものです。どちらも需給ギャップを埋めることを主目的としている、と私は考えています。もちろん、その背景にある考え方は大きく違っています。本書では、貯蓄投資バランスを経済モデルとして考え、国内経済における需給ギャップを政府支出ではなく輸出によって解消するという方向が貿易戦争であり、その基礎は国内の階級闘争である、という理解です。貯蓄投資バランス式は事前的にも事後的にも成り立つ恒等式ですから、経済モデルの基礎とするには決して不都合ではありません。ただ、ケインズ的な乗数効果をどこまで盛り込むかについては、本書では特に取り上げられていません。いずれにせよ、近代初期には我が国の歴史をかえりみても、完全自主権が不平等条約により認められていませんでしたし、20世紀前半ではブロック経済化により貿易が差別的になされていました。従って、本書のような議論は判りやすいと思います

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次に、北川成史『ミャンマー政変』(ちくま新書) です。著者は中日新聞・東京新聞のジャーナリストで、バンコク駐在員の経験もあり、その際に、ミャンマーの現地取材もしているようです。冒頭で、かなり最近時点までのミャンマーの現状、すなわち、クー・デタからその後の国軍により残虐行為などが明らかにされます。第2章では、独立の英雄であrアウンサン将軍の娘であり、事実上NDL政権のリーダーであるアウサンスーチー女史と国軍の関係、かなり、ビミョーな関係が明らかにされます。その国軍の暴走、というか、アウンサンスーチー女史が黙認したのか、止め切れなかったのか、ロヒンギャ問題の詳細が取材の基づいて展開されます。ロヒンギャはバングラから渡ってきたイスラム教徒であり、仏教徒が90%を占めるミャンマー国民から蔑視・差別されている実態は広く報じられているところですが、多民族国家としてほかに、ワ自治管区なるものがあるそうです。中国と国境を接して麻薬の原料となるケシの栽培で有名な黄金の三角地帯にあり、ミャンマー語よりも中国語の方がよく通じて、じんみんげんがりゅつうしているそうです。最後に日本を含む国際社会の対応を検証し、日本政府はODAの停止をしないばかりか、日本ミャンマー協会という団体はクー・デタ容認というあり得ない態度を取っている点が浮き彫りにされています。私は専門外もはなはだしいんですが、今年2021年4月11日にはミャンマー民主化闘争連帯の集会+デモにも参加しましたし、ミャンマーの民主化を進める観点から注視していることも事実です。本書は、ジャーナリストらしく取材したことをはじめとして事実をいっぱい並べていて、国軍のクー・デタに対して、アウンサンスーチー女子の方もロヒンギャではひどかった、と両論併記というか、喧嘩両成敗のような記述が見られるわけですが、私の目から見て、丸腰の国民を虐殺する武装され訓練された軍隊というのは、まったく許容し難いといわざるを得ません。我が国政府がアジアの一因として明確な態度を示すことをはじめ、強い圧量を持って臨むべきであると考えますし、そこからミャンマーの民主化が進むことを願ってやみません。

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最後に、香原斗志『東京で見つける江戸』(平凡社新書) です。著者は、歴史評論家・音楽評論家だそうです。本書はタイトル通り、現代の東京で見られる「お江戸」をカラー写真とともに取り上げています。『GQ Japan』のweb版に連載していたのを新書化しています。構成としては、江戸城、すなわち、現在の皇居周辺から始まって、武士の街を象徴する部分、神社仏閣、水道などの土木遺産、そして、最後に、江戸城に戻っています。明らかに理解できるように、上野浅草など庶民の下町は対象外、というか、お江戸は残っていないようです。まあ、関東大震災とか、戦災とか、いろいろとありましたから、下町の庶民の江戸は今の東京には引き継がれていないのかもしれません。何度か言及されている通り、江戸はその性格上武士階級の比率が高く、しかも、武家屋敷はそれなりに贅沢、というか、ゆったりと作られていることから、現在とそう変わらない人口密度だったようですが、庶民の町民はかなり人口密度高く、ギュウギュウ詰めで生活していたようです。1000円そこそこのお値段で、これだけ豪華なカラー写真をいっぱい含む新書ですから、かなりお買い得な気がします。私は東京生活も長かったですし、しかも、自動車ではなく、自転車でかなり隅々まで東京の街を走り回った記憶があり、それなりに感慨深いものがありました。東京を離れて1年半近くたち、生まれ育った京都に戻ったとはいえ、ひょっとしたら、東京にホームシックを感じているのかもしれません。いずれにせよ、豪華図版を眺めるだけでもお値打ち品ですし、オススメです。

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2021年7月21日 (水)

6月の貿易統計は世界と日本の景気局面を反映する!!!

本日、財務省から5月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額は前年同月比+48.6%増の7兆2208億円、輸入額も+32.7%増の6兆8376億円、差引き貿易収支は+3832億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを手短に報じた記事を引用すると以下の通りです。

6月の貿易収支、3832億円の黒字
財務省が21日発表した6月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3832億円の黒字だった。黒字は2カ月ぶり。QUICKがまとめた民間予測の中央値は4599億円の黒字だった。
輸出額は前年同月比48.6%増の7兆2208億円、輸入額は32.7%増の6兆8376億円だった。中国向け輸出額は27.7%増、輸入額は17.6%増だった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、2つの統計を並べましたので長くなってしまいました。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスで貿易収支は約+4600億円の黒字でしたし、レンジの下限は+3490億の黒字でしたので、それほど大きなサプライズはなかったと私は受け止めています。季節調整していない原系列の統計の前年同月比で見て、米中をはじめとする世界各国の景気回復により輸出額が+50%近い増加を見せ、うち、数量が+37.2%増を記録しています。ただし、昨日のこのブログでも軽く取り上げたように、米国経済は昨年4月が谷だったわけで、なにぶん、昨年4~6月期がコロナ・ショックの底であって、そのリバウンドが大きいものですから、それほど単純な評価は控えるべきです。また、先月5月統計では輸入の増加のうち医薬品の寄与が大きくなっていましたが、今月6月統計ではすっかり落ち着いてしまっています。すなわち、5月統計では医薬品輸入額の伸びが+30%超だったのが、6月統計では+7.5%増にとどまっており、特に、数量ベースでは▲13.6%減を記録しています。ただし、米国からの医薬品輸入は+20.9%増、EUからも+15.2%増となっている一方で、米国・EUとも輸入数量は▲20%減を上回る減少です。ワクチン供給=輸入がストップしているのかどうか、貿易統計からだけでは判断がやや難しいところです。

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続いて、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出金額指数の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数(CLI)の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国向けの輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。なお、2枚めと3枚めのグラフについては、わけが判らなくなるような気がして、意図的に上限や下限を突き抜けるスケールのままにとどめています。グラフからも明らかな通り、OECD加盟の先進国も中国も、ワクチン接種で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を脱しつつあり、中でも米国はバイデン政権の大型財政政策で急速な回復を見せています。我が国だけがワクチン接種も進まず、世界経済の回復に伴う輸出の増加をテコに景気回復を目指す政策を展開しているようです。

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2021年7月20日 (火)

NBERは昨年2020年4月を景気の谷と同定!!!

すでに、日本国内のメディアでも広く報じられている通り、NBERは米国の景気後退の谷を2020年4月と同定しました。山が2020年2月でしたので、何と、2か月だけの景気後退だったことになります。通常は、景気後退の同定の際は、半年6か月くらいの期間が要されるケースが多いんですが、今回だけは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による猛烈な経済活動レベルの低下がありましたから、期間がわずかに2か月でも景気後退と同定するということらしく、この点は私も賛成です。NBERの参考サイトは以下の通りです。

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わずかに上昇幅を拡大した消費者物価指数(CPI)は基準改定でホントはマイナスか?

本日、総務省統計局から6月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は先月統計で+0.1%と1年2か月振りの上昇となった後、今月も+0.2%と上昇率をわずかながら拡大しています。他方で、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は▲0.2%と下落しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

6月の消費者物価0.2%上昇、2カ月連続プラス
総務省が20日発表した6月の消費者物価指数(CPI、2015年=100)によると、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数は101.7と前年同月と比べて0.2%上がった。2カ月連続でプラスだった。上げ幅は5月の0.1%を上回った。携帯電話の料金値下げで通信料が大きく下落したが、原油価格の上昇でエネルギー項目で広く上がり、全体を押し上げた。
エネルギー全体では4.6%上昇し、上昇幅は5月(4.2%)から拡大した。ガソリンは17.9%、灯油は21.4%上がった。電気代は1.7%低下したが、原油価格の上昇に伴って5月(マイナス2.9%)と比べて下げ幅が縮んだ。
自然災害の増加などを受けた値上げにより、火災・地震保険料が16.4%上昇した。国産品の牛肉を含む肉類は0.3%上がった。5月と比べても0.4%上昇した。米国や中国での需要増やアルゼンチンによる輸出停止で、牛肉は世界的に供給不足の状態だという。
一方で通信は15.5%下がった。特に携帯大手各社などによる料金引き下げが続いている影響で、携帯電話の通信料は27.9%下がった。下げ幅は5月と同じだった。20年6月に需要が高まり価格が高騰していたマスクを含む保健医療用品・器具は、昨年の反動もあり1.0%低下した。

いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは0.1%の上昇でしたので、やや上振れたとはいうものの、ほぼミートしました。引用した記事にもあるように、基本的には国際商品市況における石油価格の上昇という押し上げ要因がある一方で、政策要因、というか、政府からの強い圧力により、通信料(携帯電話)が下落しています。6月統計の前年同月比上昇率で見ると、エネルギーが+4.6%上昇し、ヘッドラインCPIに対して+0.35%の寄与があります。とくに、エネルギーの中でもガソリン価格の上昇が大きく、+17.9%の上昇率を示し、ヘッドラインに対して+0.34%の寄与を持っています。他方で、通信料(携帯電話)が▲27.9%下落しており、ヘッドラインに対して▲0.54%のマイナス寄与を示しています。この携帯電話通信料の要因がなければ、ヘッドラインCPIの上昇率も+0.5%超の上昇を示していると考えられます。ただ、東京で再び緊急事態宣言がでましたし、先行きは、オリンピックなどとともに、まったく不透明ながら、国内需要の高まりとともに物価も着実に上昇幅を拡大する可能性が十分あります。ただし、1点だけ注意すべきは、CPIの基準改定です。というのは、本日公表されたCPIは2015年基準ですが、2020年基準への改定スケジュールがすでに総務省統計局から明らかにされています。これに従えば、7月9日にすでに品目別ウェイトが明らかにされており、今後、8月6日に本日好評の6月統計も含めて遡及改定され、新しい2020年基準の7月統計が8月20日に公表される運びとなっています。この新しい2020年基準ウェイトに従って試算された結果が、ニッセイ基礎研大和総研などからリポートで明らかにされています。どうしてもラスパイレス指数には上方バイアスがあることから、基準改定によりコアCPIの前年同月比上昇率で▲0.3%程度の下振れが予想されています。ですから、今日公表された6月統計の+0.2%は、ホントは、実力マイナスなのかもしれません。

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2021年7月19日 (月)

東京商工リサーチ「上場企業2220社 2021年3月期決算『女性役員比率』調査」やいかに?

先週金曜日7月16日、東京商工リサーチから「上場企業2220社 2021年3月期決算『女性役員比率』調査」の結果が明らかにされています。メディアで広く報じられ、また、今年2021年4月2日付けのこのブログでも、世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ指数2021」のリポートに着目したところですが、そこでも、我が国の男女間格差は教育や健康では大きくないものの、政治・経済の分野でかなり大きい、と結論されていました。東京商工リサーチのリポートから経営における女性役員の占める比率を簡単に見ておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから、3月期決算 上場企業2,220社 女性役員比率 の最近5年間の推移のグラフを引用しています。上場企業2,220社の役員総数は2万4,777人で、このうち女性役員数は1,835人と、前年から+20.8%増加し、女性役員比率も7.4%と、前年から+1.4%ポイント上昇しています。他方、女性役員ゼロの企業は965社と、前年から▲15.3%減少したものの、それでも上場企業のうち43.4%と半数に近い企業では女性役員がゼロとなっています。女性役員は人数でも比率でも右肩上がりで上昇しているわけですが、現在の数字をどう評価するかはややビミョーなところです。

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次に、上のグラフはリポートから、2021年3月期決算上場企業2,220社 産業別女性役員比率 のグラフを引用しています。東京商工リサーチの分類による全10産業ですべて女性役員比率は上昇しています。しかし、比率の高い業界でも、電気・ガス業と金融・保険業でわずかに10%を超えているだけです。本来でしたら、30%とか、40%とかを超えていてもいいんでしょうし、もちろん、50%超えなんてのも個別企業によってはあり得るんでしょうが、これまた、前年から改善しているからといって、決して、胸を張って強調できる数字ではないと考えるべきです。

最後に、役員ですから、官庁にはない数字だったんですが、管理職であれば、ひょっとしたら、官庁よりも上場企業の方が割合が高いかもしれません。定年まで公務員だった私の実感として、官庁は上場企業よりも、決して進んでいるわけではありません。

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2021年7月18日 (日)

前期授業がそろそろ終わリかけて夏休みが楽しみな7月18日(日)本日の雑感!!!

そろそろ、大学の前期授業が終わりかけています。夏休みがグッと近づいて楽しみです。公務員を定年退職して私大の教員になって、何が楽しみかといえば夏休みです。私は海外勤務が2回ほどありますので、1か月の一時帰国休暇、なんて経験もありますが、コロナ禍で出歩けなかったり、また、猛暑日が多いとはいえ、2か月近い夏休みは大いに心休まる季節です。
いくつかの授業は先週で15回目の授業で、すでに終わっています。ただし、学部と大学院でビミョーに学年暦が異なり、私の担当する授業がすべて終了するのはさ来週になります。定期試験はほとんど実施されず、私の担当授業はすべて定期試験に代わるリポート試験です。ただし、いくつか定期試験をする授業もあって、さ来週はその試験監督の手伝いがあったりします。
夏休みといえば、そろそろ来週あたりで小中学生や高校生も夏休みに入るようです。私は週末にプールで2~3キロ泳ぐのですが、今日は、たぶん、夏休みの水泳教室のクラス分けか何かで小学生が一番端のコースで順々に泳いでいました。私なんぞよりもよっぽど速く泳ぐ子もいて、というか、多くの小学生に私は泳ぐスピードでまったくかないませんでした。ついつい、年齢を実感させられました。
水泳競技も含めて、ホントに来週からオリンピックやるんですかね。もうタイミングを失したという見方はあり得るものの、私は今からでもオリンピック・パラリンピックは中止にした方がいいんではないかと考えています。秋までにあるハズの総選挙で有利、と現政権は考えているんでしょうが、むしろ、逆のような気すらします。総選挙はいうまでもなく政権選択選挙ですから、国民の意志を明確に示す必要があると私は考えています。

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どうでもいいことながら、Facebookで赤川次郎「懐かしの名画ミステリー」のシリーズ4冊『血とバラ』、『悪魔のような女』、『埋もれた青春』、『明日なき十代』をシェアしておきました。

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2021年7月17日 (土)

今週の読書は経済書なしでサンデル教授の話題の新著をはじめとして計5冊!!!

今年度前期授業の終盤を迎えて、リポートや何やと少し忙しくしていた今週の読書は、久し振りに経済書なしで、サンデル教授の話題の新刊をはじめ、小説も含めて以下の通りの計5冊です。それから、毎週アップデートしていますところ、今年に入ってからの読書は、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月で56冊、今日取り上げたものを含めて7月で17冊、これらを合計して129冊になりました。来週は、すでに手元に、東大大橋教授の『競争政策の経済学』を借りて来ており、ほかにも何冊かあります。もうすぐ夏休みも始まることから、いろいろな本を読むべく読書の時間を確保したいと考えています。

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まず、マイケル・サンデル『実力も運のうち』(早川書房) です。著者は、「ハーバード白熱教室」でも知られる米国の政治哲学の研究者です。コミュニタリアニズム(共同体主義)の代表的論者であり、私は、この著者の代表作である『これからの「正義」の話をしよう』と『それをお金で買いますか』を読んだ記憶があります。英語の原題は The Tyranny of Merit であり、2020年の出版です。なお、東大本田由紀教授が最後の解説を書いています。ということで、「メリット」という用語は、日本ではデメリットと対にされて「長所」とか「美点」のような使われ方をしますが、巻末のホンダ教授の解説にもあるように、本書では多くの場合「能力」と訳されており、「功績」にも近いとされています。ですから、本書では邦訳タイトルにあるように、運をはじめとして自分ではどうしようもない宿命のようなものに対して、自分で努力すればなんとかなる能力や実力のようなものを指していると考えられます。そして、大学卒の学歴をはじめとしてサンデル教授は幅広くこういった実力主義に疑問を投げかけています。私も大学の教員の端くれですので、少なくとも、貧困からの脱却においては大学卒の学歴は有効だと何度か主張したこともありますし、今でもそう考えています。ただ、サンデル教授の考えもわからないでもなく、特に、学歴エリートを重用した米国オバマ政権が、それらのエリートから見下されていたように感じた白人労働者階級などから反発を受けてトランプ大統領の当選につながった、という視点は、ある程度理解できます。学歴主義、特に大学の学歴、さらに、大学院での学士号を超える学位の取得により、いわゆるアメリカン・ドリームの達成が近づく可能性が大きいものの、逆に、そこから取り残された階層が格差や不平等に不満を持つ可能性も高いわけです。そして、そういった学歴に基づく格差は「努力の賜物」として肯定される可能性が高くなるものの、サンデル教授から見れば、少なくとも実力100%ではなく、運の要素もかなりの程度に混入しており、そういった世間一般で肯定される格差も含めて是正する必要がある、というのが本書の主張です。実は、昨年2020年11月21日付けの読書感想文で取り上げたコリアー教授の『新・資本主義論』も、本書ほどではないにしても、大学卒のテクノクラートの所得増という意味で格差が広がっているとして、かなり似通った主張をしています。そして、結論の最後のパラグラフで自分の「才能を認めてくれる社会に生まれたのは幸運のおかげで、自分の手柄ではないことを認めなくてはならない」としています。私もかなりの程度に同意しますが、それでも日米の違いについて2点指摘しておきたいと思います。まず第1に、米国での格差拡大はICT関連のスキル偏重型の技術革新にも支えられて、所得階層の上位層がさらに所得や富を増やすことによって深刻化しています。オキュパイ運動の99%なんかに典型的に現れています。しかし、日本では賃金が伸び悩む中で所得階層がさらに所得を減少させることにより格差が拡大しています。非正規雇用に典型的に現れています。ですから、所得階層から、あるいは、貧困からの脱却のためには、私の見方のように、大卒の学歴は有効であり、もちろん、格差を拡大する可能性は否定しないにしても、米国ほどの深刻さはないものと考えるべきです。第2に、運とか宿命を強調する際、例えば、パットナム教授の『アメリカの恩寵』ではありませんが、米国のように極めて宗教色の強い社会では、それなりの受容度がある一方で、欧州や、ましてや日本のような神や宗教の役割をそれほど認めない場合、混乱を来す可能性が米国より強い可能性があります。すなわち、運命を認識すれば、より謙虚な態度が生まれるとサンデル教授は指摘していますが、その運命が神によってもたらされたと考えない日本人は、どう考えるべきなのか、やや迷う人もいるかも知れません。あるいは、神の存在を否定する私のような人間は、運の占める比率を過小に評価する可能性もあります。このあたりを注意して読むとさらに、サンデル教授の指摘がクリアになるように私は感じています。

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次に、斎藤文男『多数決は民主主義のルールか?』(花伝社) です。著者は、もう90歳も近い憲法学の大御所であり、九州大学の名誉教授です。とても端的に、多数決ではなく、民主主義の方を多数の支配か、あるいは、人民の統治かで考えており、やや単純化が過ぎるような気もしますが、後者の方を推奨していることはいうまでもありません。私の知る限りでも、英国のサッチャー元首相を礼賛するマルキストの経済学者が知り合いにいるんですが、そのエコノミストからすれば、民主主義は決定の方法であり、むしろ、サッチャー元首相が重視した自由のほうが重要、というものです。サッチャーらいさんとともに、本書の多数決と民主主義の定義については、私は少し違和感があり、むしろ、多数決の方が決定方式とか、多数の支配ではないのか、と受け止めています。逆に、民主主義は1人1人が主体的に決定に参加するとともに、その決定の結果において1人1人が平等に尊重されることである、と考えています。まあ、後者の1人1人が等しく尊重されるというのは、多数の支配の否定に近い気もしますが、やや違うと私は考えています。ですから、本書に戻ると、多数決の限界として人権の否定は多数決ではなし得ない、としています。加えて、国会で頻発する強行採決は、もちろん、多数の支配として本書では否定的に取り上げられています。ただ、本書の論法も極めて混乱しており、ルソーやロックといった民主主義に関する人類の大いなる遺産と呼んでもいいような研究をひもとく一方で、タイトルにある疑問文について、本書冒頭(p.3)で早々に「多数決は民主主義に固有のルールではありません。万能でもありません。人権保障の限界があります。」と結論を述べており、それでは本書タイトルの疑問はお終い、ということになりかねません。しかも、むすび(p.166)では「結論はどうなんだ」と自らに問うと、「わたしたちは問いの立て方を間違えたようです。問題の核心は、なにごとも多数決できめてよいのか。多数決に限界がありはしないか、ということだったのです。」と、大きなちゃぶ台返しを演じています。ただし、私の目から見て、このむすびの問であれば第4章の多数決の限界-人権保障で尽きているわけで、何をどう論じようとしていたのか、著者にも大きな混乱があるように思えてなりません。加えて、第5章で人民の多数決、すなわち、直接民主主義の危険性をヒトラーの例を引きながら指摘するのはまだいいとしても、ご自分の経験からか、地方公共団体における政治倫理条例制定運動に関しては、かなり脱線がひどいと私は感じました。「90歳に近い大御所」と年齢的な指摘を冒頭でしましたが、本書のご指摘はそれなりに私も受け入れられる部分が多いと感じていますし、前の安倍内閣や今の菅内閣のように強権的な決定方式を多用する印象ある内閣がはびこる中で、とてもタイムリーな内容なのですが、それ相応に十分に警戒心を持って読みこなす必要がありそうです。

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次に、桐野夏生『日没』(岩波書店) です。著者は、直木賞作家です。この作品は、岩波書店の雑誌「文学」と「世界」に掲載されたものを単行本としています。ということで、とてもショッキングな内容です。女性作家のもとに、総務省文化文芸倫理向上委員会と名乗る政府組織から召喚状が届いたため、出頭先に向かった作家は断崖に建つ海辺の療養所へと収容され、そのまま「診療」と称して幽閉生活を余儀なくされる、というストーリーです。そして、その療養所での生活を克明に綴っています。要するに、政府によって「表現の自由」が奪われるとすれば、こういったことなのだろうと想像させるに十分なSF小説ともいえます。そもそも、セックス描写があからさまだとか、差別的な表現があるとかで、決して権力批判ではなく、そういった形で、割合と社会的にも受け入れられやすい理由で療養所に収容され、そこでは、スマホはつながらず、電話や手紙も禁止され、新聞やテレビなどの外からの情報も得られず、所長から「社会に適応した小説」を書けと命ぜられたりして、徐々に作家としての見識が鈍化させられます。もちろん、生活としても、食事の貧しさや入浴時間や回数の制限など、いかにも刑務所を思わせる待遇です。その上、高速技を着用させられる罰則などもある上、精神科医の診断でいかようにも待遇が変化しかねません。中には、密告者も配置されており、徐々に主人公が精神を蝕まれてゆくさまが克明に描写されています。実際の我が国では、ここまでの表現の自由を制限されていないのではないか、という意見はあり得ると思います。しかし、前の安倍内閣では「特定秘密保護法」と「共謀罪」が成立しましたし、地方公共団体によってはヘイトスピーチ条例などが制定されているところもあります。ポリコレも装いつつ、こういった形で、徐々に表現の自由が制限されている恐れすらあると考えるべきではないでしょうか。他方で、政府の重要な文書も自分たちに都合の悪いものは改竄されています。官僚は人事権を官邸に握られ、過剰なまでの忖度をし、メディアは首相や官房長官と食事をして情報を流してもらって、同時にコントロールもされていることに気づきません。そういった現実を考えるにつけ、本書の表現の自由の制限は、決して誇張されているわけではなく、現在の方向をそのまま将来に引き伸ばせば、こういった事態につながりかねないと警告しているようでもあります。オーウェルの『1984』にも匹敵するディストピア小説です。今週の読書の中では、私として多くの方に読んでほしい作品のナンバーワンなのですが、それだけに、心して読みたい小説です。

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次に、藤崎翔『あなたに会えて困った』(双葉社) です。著者は、お笑い芸人として活動した後、エンタメ小説家に転身し、デビュー作の『神様の裏の顔』は私も読みました。ということで、この作品では、刑務所から出所したばかりの空き巣は、初恋の人と再会して、懐かしい過去を思い出すとともに、この昔の恋人を窮地から救うために、いろいろと策動する、というストーリーなのですが、最後に大きなどんでん返しが待っている、ということになります。これから先は、ある意味で、この作品もミステリですので、口をつぐみたいと思います。ただし、1点だけ明らかにしてもよかろうと思うのは、本書は叙述トリックによるミステリです。ですから、表現によって読者をミスリーディングしながら、書き進められています。そして、よくあるように、最後まで読んでからもう一度最初から2度読みする、のが、まあ、謳い文句になっていたりするのですが、残念ながら、この作品にはそこまでのクオリティはありません。悪いですが、「ふーん、そうなの」で終わりです。私はそれほど多くの作品を読んでいるわけではありませんが、例えば、乾くるみの『イニシエーション・ラブ』、我孫子武丸『殺戮にいたる病』、綾辻行人『殺人鬼』などが私の読んだ叙述トリックの中で出来のいいものですが、これらの作品までの高い完成度は求めない方がいいと私は考えます。しかも、最後の方で、いかにもといった形で、不必要なまでのクドクドと種明かしがされます。これも、初心者向けの趣を持っていたりします。この作品では、叙述トリックで読者をミスリードするために、現在の出来事と過去の高校生であったときの出来事が交互に進行しているように書き分けられていて、そのあたりは、まずまず考えられた構成であると私も思います。ただ、主人公の視点からだけ書き進められていて、その主人公が誰であるのかをしっかりと把握していれば、大きなサプライズはなくラストまで読み進めるような気もします。我孫子武丸『殺戮にいたる病』では3人の見方が交錯するように書き進められているのですが、ここまでの高度な描写を求めるのは少しムリがあるのかもしれません。読者をミスリードすることに集中するあまりストーリーの本質の面白さを少し軽視したのかもしれません。ミステリとしてはまずまずの出来だといえますし、時間潰しにはもってこいですが、大きな期待は慎むべきであると考えます。

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最後に、太田肇『同調圧力の正体』(PHP新書) です。著者は、同志社大学の研究者で、組織学を専門としています。タイトル通りに、日本社会の窮屈さを同調圧力の観点から解き明かそうと試みています。そして、極めて単純化すれば、組織には2種類あり、第1に、地域社会や、特に、家族・親戚といった自然発生的な共同体、そして、第2に、何らかの利害の一致する人々が意図的に構成する組織、ということになりますが、利害関係者で集まったドライであるはずの組織が、日本では共同体的な親密な関係で構成・運営されているから、どうしても同調圧力が高くなる、ということになります。しかも、構成員が同質的で同調しやすければ、組織は超過的な貢献を求めることが可能になり、例えば、企業では利益を出しやすくなる、とういうことになります。ですから、企業も体力ある限り、あるいは、社員の賛同が得られる限り、本来の企業活動以外の活動、社員旅行を企画したり、運動会を開催したりといった活動に力を注ぐことが合理的となるわけです。そうすれば、本来の合理的な部分を超える貢献が期待できるわけで、社員のサイドからは非合理的なのかもしれませんが、企業経営の方から見れな合理的なわけです。それが、私の解釈する限り、いわゆる「義理と人情」の世界だと思います。そして、コロナ禍の中でさかんになったテレワークについては、この日本的な同調圧力が非生産的な方向で作用している可能性も示唆しています。すなわち、アドビの調査によれば、米国ではテレワークの生産性は以前の形態の仕事と比べて同等か生産性が上昇したとの回答が多いのに対して、日本では生産性が下がっているようなのです。これは私が見た範囲でも、経済産業研究所のペーパーでも生産性が⅔程度に一たという結果が示されていますし、妥当なところと受け止めています。従って、対面による暗黙の了解といった日本的な生産性の上げ方がテレワークでは失われている可能性を本書では示唆しています。加えて、オフィシャルな仕事だけでなく、いわゆる自粛の動きでもって、強権的なロックダウンを必要とせず、日本では第1波のコロナ感染拡大を乗り切ったわけですが、それについても、「自粛警察」的な動きとともに、やはり、日本的な同調圧力の強さが関係していると指摘しています。そうかもしれません。この同調圧力をはねのける方法も3つほど示されていまう。私自身は、役所という対面かつ同調圧力の強い職場から、大学教員というより独立性の高い職場に再就職しましたが、やっぱり、それでも同調圧力は強いです。たぶん、東京という大都会から関西の片田舎に引越したという地域性もあるんだろうとは思いますが、組織がフラットであるにもかかわらず、たぶん、人に押し付ける圧力の異常に高い人々が集まっているせいでもあろうかと考えて、ブツクサと文句をいうばかりです。

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2021年7月16日 (金)

日銀「展望リポート」では物価見通しが上方改定される!!!

昨日から開催されていた日銀金融政策決定会合が終了し、「展望リポート」が公表されています。報道などでは、気候変動対応の新制度が注目されていますが、金融政策決定会合の本旨である金融政策では、短期金利を▲0.1%、長期金利の指標になる10年物国債利回りを0%程度に誘導する長短金利操作=イールドカーブ・コントロールの維持を決定しています。加えて、私は経済見通しにより興味があります。ということで、2021~2023年度の政策委員の大勢見通しのテーブルを引用すると以下の通りです。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で、引用元である日銀の「展望リポート」からお願いします。

  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
 2021年度+3.5 ~ +4.0
<+3.8>
+0.3 ~ +0.6
<+0.6>
 4月時点の見通し+3.6 ~ +4.4
<+4.0>
0.0 ~ +0.2
<+0.1>
 2022年度+2.6 ~ +2.9
<+2.7>
+0.8 ~ +1.0
<+0.9>
 4月時点の見通し+2.1 ~ +2.5
<+2.4>
+0.5 ~ +0.9
<+0.8>
 2023年度+1.2 ~ +1.4
<+1.3>
+0.9 ~ +1.1
<+1.0>
 4月時点の見通し+1.2 ~ +1.5
<+1.3>
+0.7 ~ +1.0
<+1.0>

見れば明らかな通り、足元の2021年度については成長率見通しを引き下げた一方で、物価見通しは上方改定されています。フィリップス曲線的には不整合な動きといえますが、この背景には、国内でのワクチン接種の遅れに加えて、海外、というか、国際商品市況における石油などの資源価格の上昇があります。金融政策よりも、資源価格の方が国内物価への影響が大きいわけですから、金融政策当局の舵取りもタイヘンです。また、「展望リポート 2021年7月」から、政策委員の経済・物価見通しとリスク評価のグラフを引用すると以下の通りであり、少し前までリスクは下方にあったように記憶していますが、現時点でほぼほぼリスクはニュートラルといえます。

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私自身も、先行き経済や物価の見通しについては、基本的に、日銀と同じ方向感覚を共有しており、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が終息すれば、所得と需要の好循環が復活する可能性が十分あると考えています。しかし、最大のリスクは政府要因です。すなわち、大前提となるコロナ終息なんですが、ワクチン供給をはじめとして、現内閣にコロナ終息の能力がまったくないように私には見えます。東京に第4次の緊急事態宣言を出した一方で、オリンピック・パラリンピックに関しては、中止すべきと私は従来から考えていますが、強行開催されようとしています。また、財政政策の方向についても私には懸念があります。例えば、先週7月6日に開催された経済財政諮問会議において、有識者委員から「今後のマクロ経済政策運営について」と題するメモが提出され、来年度2022年度の予算編成について、「財政規模の縮小自体が景気回復の足かせとならないよう、景気動向を注視し、躊躇なく機動的なマクロ経済財政運営を実施すべき」との指摘がなされていて、釘を差された形になっています。ホントにこのメモにあるように、機動的なマクロ経済財政運営がなされるかどうか、緊縮財政に陥ることがないよう、注視する必要がありそうです。

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2021年7月15日 (木)

帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査」(2021年)やいかに?

昨日7月14日に、帝国データバンクから「SDGsに関する企業の意識調査」(2021年)が明らかにされています。SDGsに「積極的」と回答した企業は昨年から+15.3%ポイント増の39.7%となった一方で、「取り組んでいない」と回答した企業が50.5%と過半を占めていたりします。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果を5点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 自社におけるSDGsへの理解や取り組みについて、「意味および重要性を理解し、取り組んでいる」企業は14.3%となり前回調査(2020年6月)より6.3ポイント増加するなど、「SDGsに積極的」な企業は同15.3ポイント増の39.7%と前年より大きく増加した。一方で、SDGsに取り組んでいない企業は50.5%と半数を超えている
  2. 規模別にみると、「大企業」ではSDGsに積極的な企業が55.1%となり半数を上回った。一方で、「中小企業」では積極的な企業は36.6%で大企業より18.5ポイント下回った。SDGsに対する意識は企業規模で差が表れている
  3. 業界別にみると、積極的な企業では「金融」が56.0%で最も高くなった。次いで、「農・林・水産」も55.6%で半数を超えた。一方で、SDGsに取り組んでいない企業では「卸売」が52.9%で最も高く、「運輸・倉庫」(51.0%)、「サービス」(50.8%)、「建設」(50.4%)の4業界が5割超となった
  4. SDGsの17目標のなかで、現在力を入れている項目では、「働きがいも経済成長も」が32.0%で最も高かった(複数回答)。今後最も取り組みたい項目でも同様に「働きがいも経済成長も」が15.4%でトップだった(単一回答)。いずれの項目でも「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」や「つくる責任つかう責任」が上位となっている
  5. SDGsに積極的な企業の景況感を表す『SDGs景気DI(総合)』をみると、2021年6月のSDGs景気DI(総合)は41.1と、全体の景気DIを上回る水準で推移した。17目標別では、「産業と技術革新の基盤をつくろう」や「人や国の不平等をなくそう」が高かった

長々と引用してしまい、これだけで十分という気もしますが、pdfの全文リポートからいくつかグラフを引用して簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはpdfの全文リポートから SDGs17目標のなかで、現在力を入れている項目 を問うた結果を引用しています。先進国の日本ですから、最初に上げられたゴールである「貧困をなくそう」とか、2番めの「餓死をゼロに」なんてのは、プライオリティが低くなっています。企業の意識調査ですから、「働きがいも経済成長も」がトップで、2番めが「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、3番めは「つくる責任つかう責任」となっているのも理解できるところかもしれません。もっとも、複数回答ですから、17のゴールすべてが昨年から増加しているのは意識の高まりとして評価すべきと考えます。

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次に、上のグラフはpdfの全文リポートから、「TDB景気動向調査」を基に、「SDGs景気DI(総合)」を作成したものを引用しています。見れば判る通り、全体の景気DIとともに、SDGsへの取組みに積極的な企業の景況感DIもプロットされています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの経済的な影響がもっとも大きかった昨年2020年4~5月ころでは、両方のDIの差はほとんどないんですが、直近の今年2021年6月調査のDIは、何と、+2ポイントの開きが出ています。SDGsへの取組みに積極的な企業の方が高い景況感を感じている、ということです。もちろん、マインドですから、あくまでソフトデータであり、売上や利益といったハードデータではありませんし、逆の方向、すなわち、景況感が高い企業であればSDGsに取り組む余裕がある、ということなのかもしれませんが、それでも、とても興味深い結果だという気がします。

2015年までの国連ミレニアム開発目標(MGDs)に比べて、SDGsは我が国企業の中でも、特に大企業を中心に大きな広がりを見せています。しかも、SDGsに取り組んでいる企業の方が景況感が高いという結果も示されています。これからの日本企業の取組みに私も大いに期待しています。

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2021年7月14日 (水)

横浜に負けても首位で折り返し!!!

  RHE
D e N A020100010 490
阪  神001000020 370

ボロくも横浜に負けながら、首位で折り返しでした。
ただそれだけです。オールスターとオリンピック休みの直前ですから、投手も思う存分につぎ込みましたので、実力の差が出たとしか思えません。後半戦は苦しい戦いなんでしょうね。

後半戦も、
がんばれタイガース!

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インテージによるコロナ後の住まいニーズの変化に関する調査結果やいかに?

昨日7月13日、インテージからコロナ禍を経た住まいニーズ、すなわち、コロナ以降の生活者の「住まい」に対するニーズや価値観についての調査結果が明らかにされています。昨日の続きで、来週あたりからカミさんと夫婦2人でマンション見学に行くつもりですので、少し参考にしたいと思います。まず、インテージのサイトから調査結果のポイントを4点引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  • コロナ禍を経て、次の住まい重視点のトップ「買い物が便利」(52.2%)は20.1ポイントもの増加
  • 今の住まい選びの重視点トップだった「職場・学校への通勤・通学範囲」(35.3%)は6.6ポイント減と後退
  • リモート勤務者で重視率が増加した住まいの設備・条件のトップ3は「宅配ボックス、ネット回線などの付加設備」「日当たりの良さ」「収納力」で10ポイント前後アップ
  • 理想の暮らし方、リモートワーク率が高いほど、「2~3箇所を行き来して暮らしたい」意向が高い。主に在宅勤務している人では3割超。完全にオフィス・現場勤務の人では13.8%にとどまる

ポイントとして、よく取りまとめられている印象です。次に、インテージのサイトから、ひとつだけグラフを引用します。

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見ての通り、コロナ禍を経て、居住エリアを選ぶ際に重視する点の変化を明らかにしています。実際には、今の住まいを選んだ際の重視点と、次の住まいを選ぶとしたら重視する点を問うています。ほかに、重視する住まいの設備・条件などもグラフで示されているんですが、何分、私の興味範囲ですので、エリア選択だけを取り上げたいと思います。[ポイント]にあるように、買い物の利便性や医療機関へのアクセスを重視する人が増え、他方で、通勤・通学の重要性が低下しています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が色濃く現れているように感じます。ほかに、差が大きくて重視する向きが増えた項目に自然災害の少なさが見て取れようかと思います。COVID-19とは直接の関係ないのかもしれませんが、地球温暖化の進展に伴って気候変動、というか、自然災害が激化しているのが背景になっている気がします。例えば、昨年度版ながら「環境白書 2020」のp.9にグラフがあり、最高気温が35以上になる猛暑日が10年で0.2日増加するトレンドがあると分析しています。COVID-19以外にも、こういった要因がエリアに関する重要視点の背景にあるような気がします。

我が家は昨年3月末に東京から京都に引越して、当然ながら東京よりも京都の方が地価が段違いで安いですから、いろいろと利便性は高まっており、スーパーも病院もグッと近くなり、加えて、最寄り駅までのアクセスも改善されました。ただ、大きな川に近いロケーションがやや気になっています。

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2021年7月13日 (火)

ニッセイ基礎研リポート「2020年のマンション市場と今後の動向」やいかに?

昨日6月12日、ニッセイ基礎研から「2020年のマンション市場と今後の動向」と題するリポートが明らかにされています。現在の住まいは私の転職に従って中古で買ったものでやや古くなってきており、そろそろ、私の上期の授業も終盤を迎えたことから、カミさんと夫婦2人でマンションを見て歩きたいと考えているところ、先行き動向も含めて少し参考にしたいと考えています。

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まず、上のグラフはリポートから 新築マンション発売戸数 を引用しています。2019年年初をピークにかなり急激にマンション供給が減少していることが読み取れます。マンション供給が減少を始めたのは、コロナ禍にかなり先立っており、景気後退局面入りした直後からマンション供給は減少しています。加えて、2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックからは、これに、モデルルーム閉鎖などの営業活動への制約が大きくなったことも影響している可能性が示唆されています。

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次に、上のグラフはリポートから マンション価格の推移 を引用しています。マンション供給が減少し始めたのはつい最近のことですが、マンション価格は新築も中古も2013年ころから上昇トレンドにあります。加えて、ここ5年ほどは1戸当たりの平均面積がやや小さくなる傾向にあり、面積単位ではさらにマンション価格が上昇していることになります。基本は、マンション人気が高いにもかかわらず、特に最近では供給も減少してしまっており、マンションへの超過需要が存在することが高価格の原因と指摘されています。我が家も京都に引越す際に東京のマンションを売り払ったのですが、8年間住んでいたにしては、それほどの値下がりはなかったように感じました。

マンション人気はまだまだ根強く、リポートでも「新築マンションも、中古マンションも、現在は超売り手市場といってよい。価格は高値水準である」と結論しています。今の京都の住まいは東京の時よりも築年数がやや古くて、現状で不満がないわけでもなく、新しいマンションを購入する可能性は決して高くないながら、夫婦2人で京都の街を散策がてら、新築マンションを見学にほっつき歩いています。我が家が買わなくても人気高いことから先方もそれほど気にしていないのかもしれません。

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2021年7月12日 (月)

拡大続く機械受注と上昇続く企業物価指数(PPI)!!!

本日、内閣府から5月の機械受注が、また、日銀から6月の企業物価 (PPI) がそれぞれ公表されています。機械受注では変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比+7.8%増の8657億円を示しており、他方、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+5.0%を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

5月の機械受注、前月比7.8%増 市場予想は2.6%増
内閣府が12日発表した5月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比7.8%増の8657億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は2.6%増だった。
製造業は2.8%増、非製造業は10.0%増だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は12.2%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「持ち直しの動きがみられる」に変更した。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
6月の企業物価指数、前年比5.0%上昇 前月比0.6%上昇
日銀が12日発表した6月の国内企業物価指数(2015年平均=100)は104.6で前年同月比で5.0%上昇、前月比で0.6%上昇した。市場予想の中心は前年比4.7%上昇だった。
円ベースで輸出物価は前年比11.3%上昇、前月比で1.0%上昇した。輸入物価は前年比28.0%上昇、前月比で2.3%上昇した。

とてもコンパクトに取りまとめられています。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールにより勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。

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日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で+2.6%増でしたし、予測レンジの上限が+6.4%でしたので、この上限を超える大きなプラスでした。従って、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府の基調判断は「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「持ち直しの動きがみられる」に変更されています。先月統計では、米中をはじめとする世界経済回復の追い風を受ける製造業と停滞したままの内需に依存する非製造業の違いは大きいと感じたのですが、今月統計では、むしろ、非製造業の伸びが高まっています。すなわち、先月4月統計では製造業+10.9%増、船舶と電力を除く非製造業が▲11.0%減となっていたのですが、5月統計では製造業が+2.8%と引き続き堅調に推移しただけではなく、コア非製造業も+10.0%増を記録しています。非製造業では、情報通信業+36.7%増、不動産業+9.9%増、金融業・保険業+6.6%増などが高い伸びを示しています。加えて、コア機械受注の先行指標である外需が5月統計では+11.4%増の伸びを示し、1兆円超えの高い水準にありますので、振れが激しくてやや予測が難しい指標ながら、今後も緩やかな伸びが期待できると私は考えています。

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続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、2020年5月を直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。このところ、順調に足元で物価が下げ止まりつつあると私は評価していますが、まさに、その通りの展開と受け止めています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスではPPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比で+4.8%の上昇と見込まれており、レンジの上限でも+5.1%でしたから、やや上振れた印象です。国際商品市況における石油をはじめとする資源価格の上昇に起因するとはいえ、このところ、順調に物価上昇率が拡大していると私は受け止めています。国内物価について品目別で前年同月比を詳しく見ると、石油・石炭製品が+42.0%、非鉄金属が+37.6%、木材・木製品が+18.6%、化学製品+9.7%、鉄鋼+9.3%などとなっています。ただし、石油・石炭製品と非鉄金属については、6月統計の上昇率は5月統計を下回っており、前年同月比上昇率で見ればピークアウトした可能性があります。また、季節調整していない原系列の統計ながら、前月比も+0.6%の上昇を示しており、品目別で寄与度の大きい順に見て、石油・石炭製品が+0.19%、鉄鋼が+0.09%、国財・木製品が+0.06%、電力・都市ガス・水道も+0.06%などとなっています。基本的に、国際商品市況における石油ほかの1次産品価格の上昇とともに、中国をはじめとする新興国における景気回復が背景にあるものと考えるべきです。

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2021年7月11日 (日)

巨人に競り負け!!!

  RHE
読  売000000010 140
阪  神000000000 010

巨人に競り負けでした。
ただそれだけです。通常は、先発西投手が1失点完投ですから、打線が投手を見殺しにした、ということになるのかもしれませんが、どちらもどちらです。打線が打てないのは明らかなんですから、西投手もたとえ1点でも失点すれば即負け投手、くらいの気迫で臨まなければなりません。ですから、投手も打線も、どちらもどちらで、巨人に方が明らかに1枚上手だった、と私には見えます。

明日からの横浜戦は、
がんばれタイガース!

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2021年7月10日 (土)

巨人にボロ負け!!!

  RHE
読  売401110100 8100
阪  神000001000 181

巨人にボロ負けでした。ただそれだけです。

明日は、
がんばれタイガース!

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今週の読書はノーベル賞クラスの経済書からラノベまで計7冊!!!

今週の読書は、ノーベル賞クラスのエコノミストの著作をはじめ、霞が関公務員の実態に迫るNHK取材班のルポやコロナ禍の貧困問題を取り上げたルポ、はては高校生向けと思しきラノベまで計7冊でした。それから、毎週アップデートしていますところ、今年に入ってからの読書は、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月で56冊、今日取り上げたものを含めて7月で12冊、これらを合計して124冊になりました。来週は、すでに手元に、サンデル教授の『運も実力のうち』を借りて来ており、ほかに、小説も何冊かあります。本年度上期の授業も終盤を迎えつつあり、いろいろな本を読むべく、読書の時間を確保したいと考えています。

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まず、ロバート J. バロー & レイチェル M. マックリアリー『宗教の経済学』(慶應義塾大学出版会) です。著者は、ノーベル賞にも近いといわれるハーバード大学のエコノミストと倫理学者であり、ハーバード大学とフーバー研究所の研究者です。離婚していなければ、今でも夫婦かもしれません。慶應義塾大学の大垣教授が解説を書いています。英語の原題は The Wealth of Religions であり、明らかにスミスの『国富論』The Wealth of Nations を念頭に置いたタイトルです。2019年の出版です。ということで、第1章で『国富論』では市場として扱われ、著者たちが宗教を従属変数・内生変数として扱っている、すなわち、経済から宗教への因果関係を簡単にあとづけた後、第2章で宗教を「人の営みに干渉できる超自然的な存在を信じているならその人は宗教を持っているということになる。」(p.19)と間接的に定義しています。逆に、宗教を文化的な人間の営為の産物とか、原始的あるいは超現代的な迷信や心霊主義と受け取るのであれば、それは宗教が非合理的で経済とは独立の存在と考えていることになるわけで、著者たちの視点から大きく異なっているということが出来ます。ただ、宗教を独立変数・外生変数として扱っている、すなわち、宗教から経済への影響を考察している古典的な研究成果としては、本書でも何度か言及されているヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』があります。私の大学のゼミでも取り上げる候補にしているくらいですから、いまだにそれなりの影響力を持っている可能性が示唆されています。ただし、本書でもしばしば引用されている Becker and Woessmann (2009) では、聖書を読むために学校をいっぱい設立して識字率が向上したのがプロテスタントの産業的な成功のバックグラウンドであった、という点については、私も含めて多くのエコノミストのコンセンサスがあるところです。すなわち、ヴェーバーの主張のように、宗教的なエートス、というか、勤勉や合理性などが近代産業的な成功の基となったわけではない、というわけです。もっとも、本書ではこの点について軽視しているわけではないとしても、深入りはしておらず、イアナコーンの主張するようなクラブ財としてカルト宗教を分析したり、国教を制定することと経済成長との関連、などなど、中世にさかのぼって統計などが把握可能な範囲で定量分析をしている部分が興味深いところです。ですから、ヴェーバーの研究にように宗教の教義まで分析を加えるのではなく、やや、私の目から見てバックグラウンドとなるモデルがあやふやなのですが、計測=mesurementに重きを置いている印象です。ただし、パットナム教授の『アメリカの恩寵』にもある通り、その建国の理念からして、米国は先進国の中では極めて異質ともいえる宗教的な国家である点は忘れるべきではありません。日本の場合は、従属変数・内生変数としては一定の経済的な影響が宗教に見られる可能性は私も否定しないまでも、おそらく、17世紀徳川期から現在までの期間であれば、独立変数・外生変数として宗教が経済に有意な影響を及ぼしたとは想像できません。

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次に、宮川努[編著]『コロナショックの経済学』(中央経済社) です。著者は、経済学を専門とするエコノミストばかりです。衛生や伝染病の専門家はいないように見えます。ということで、何人かのエコノミストによるコロナショックの経済的な影響に関する分析結果が示されています。手法としては、現時点でデータの制約がある中で、SIRモデルをいくつかの仮定を置いてシミュレーションするとか、限定的なものなのですが、それでも一定の考えられ得る結果が提示されています。今までのところ、コロナショックは供給ショックか、需要ショックか、という考えはそれほど有効ではなく、本書でも指摘されているように、東日本大震災が生産過程の比較的上流で切断されたのに対して、コロナショックの場合は対人接触の多いセクター、例えば、飲食とか宿泊とかですから、生産過程もさることながら、最終消費にかなり近いところでショックを生じています。ですから、割合と対応策は単純であり、そのセクターをシャットダウンして、そのセクターの事業者や雇用者の所得補償をすればいいわけですが、現在の政府はGoToイートとか、GoToトラベルとかの間違った方向での対処しか示せていません。加えて、政府の情報発信に対する懐疑的な見方が支配的になってしまい、ワクチンの供給制約とともに、ワクチン副反応に対する政府対応に対する疑念がワクチン接種の進展を鈍らせる可能性も本書では示唆されています。これだけ後手に回った対応について、ここまで強引に「先手先手で対応した」といい切るわけですから、もしも、副反応が出ても言葉の上で切り捨てられる可能性が十分あることを国民は認識してしまった可能性すらあります。産業連関分析で興味深かったのは、輸出の需要創出効果がいまだに大きいという点です。しかも、対策が後手後手に回ったものだから、米国などの先進各国とは景気局面の違いが明確になってしまい、輸出が日本景気の牽引役になってしまっている現状が浮き彫りにされています。雇用につても、在宅勤務の推進が必要なのですが、ショックが大きな飲食や宿泊の雇用者が情報通信業などに何の摩擦もなく労働移動できると考えているエコノミストは少ないのではないでしょうか。最後に、政策レジームについては、ユニバーサルな金融政策を中心とする政策運営、いわゆる「金融政策一本足打法」ではなく、リーマン証券破綻後の景気後退のあたりから、財政政策の出番も多くなり、ケインズ政策の復権とも称されたりし、その流れはコロナショック後にさらに強まっています。こういった経済的な見方がいろいろと示されており、なかなか手軽な読み物として、ビジネスパーソンも含めて役に立ちそうな気がします。

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次に、雨宮処凛『コロナ禍、貧困の記録』(かもがわ出版) です。著者は、作家であり、活動家で、貧困や格差の問題に取り組んでいます。本書は、「新型コロナ災害緊急アクション」での活動を中心に、著者が「マガジン9」で展開してきたコラムを、クロノロジカルに取りまとめて出版しています。非常に危機的な新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響がとても生々しく描写されています。初期には、仕事や収入が減った、とか、家賃が払えない、などであった相談内容が、収入がなくなった、とか、家賃が払えないためにアパートを追い出されて野宿生活に入った、などとなり、深刻度が増しているのがよく理解できます。そして、餓死の例もいくつか報告されています。仕事がなくなった外国人研修生の例、フリーランスや非正規といった低賃金かつ不安定な雇用者の例が目につきます。特に、生活保護という最後のセーフティネットの利用に関する利用者サイドの心理的な抵抗感の高まりから、かつては安定的な収入を得ていた階層までがCOVID-19の経済的影響によって大きな収入源の影響を被っている点が強調されています。特に、「生産性のある/なし、あるいは、高/低」で人間が格付けされたり、また、そういった視点で生存の基盤が評価されたりといったことは、原始時代の大昔であれば仕方なかったかもしれませんが、現代社会においてはあってはならないことです。1人1人の生活者が尊厳をもって生活でき、民主主義に積極的に参加できる基盤を提供する義務が政府にはあります。その点は忘れるべきではありません。ただ、1店だけ指摘しておきたいのは、本書の場合は政策の根源を正すのではなく、窓口での対応の悪さなどが、第一歩のアプローチとしてクローズアップされている点です。これは、私自身は許容されるべきであると考えますが、やや踏み込み不足と受け取る向きもあるかもしれません。しかし、本書は政策論をバックグラウンドに持っているとしても、COVID-19の経済的影響により困窮した人々を実際に現場で支える活動を取り上げています。ですから、統計からは読み取れない現実の経済社会を知る上で、とても貴重な記録であると考えるべきです。もちろん、EBPM的な数量分析も必要ですし、フォーマルな理論に基づく政策というのは不可欠ですが、こういった本書のような地道な活動の中から、ホントに必要な政策立案がなされるべきだと私は考えています。

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次に、NHK取材班『霞が関のリアル』(岩波書店) です。2019年3月にスタートした NHK News web の「霞が関のリアル」を取りまとめています。最新記事は今年2021年6月7日付けの「官僚の劣化? 相次ぐ法案ミス」なんですが、更新頻度はかなり間遠になっているように見えます。ということで、私も定年まで霞が関のキャリア官僚をしていましたが、私の場合は平均レベルよりも出世しませんでしたので、ホントのエリートの世界は体験としては知りません。ただ、本書でも指摘されているように、長時間労働は今も昔も変わりないようですし、公務員は特別公法関係ですから一般の雇用関連法規による規制の対象外となっています。そして、私のころと違って、労働市場の流動化が、よくも悪くも進みましたから、国家公務員から転職する若手も少なくないのは事実です。私の場合は心身の健康にはまったく問題がなく、出世しなかったおかげで、特に中年すぎくらいから、それほどの長時間労働の必要もなくなり、あまり悪い思い出はありません。逆に、本書の第12章で取り上げられているような「〇〇官」といった盲腸のような存在にはならないように、それなりに努力してきたつもりです。転職が増えた背景には、労働市場の流動性とともに、変わらぬ待遇の悪さがあります。おそらく、全国一般の平均的な賃金と比較すれば、公務員のお給料が悪いハズはないのですが、2点理由があって、ひとつは特にキャリア公務員の場合、大学の同級生などと比べると低所得感が強まります。そして、残業というか、拘束時間の長さに比べれば払いが渋いと感じます。そして、私が見た範囲では、真面目に取り組むがゆえに鬱になってしまう人が少なくないという気がします。私のように「給料の範囲で十分に働いてます」とか、「出来ないことは出来ない」と主張して、どんどんとエリートコースから外れていった公務員と違って、真面目に仕事に取り組んで解決策を見出そうとするあまりに袋小路に入っていって、結局ふさぎ込んでしまう、というパターンがありました。これがすべてではないのでしょうが、適当に流す、というのは表現が違うかもしれませんが、要するに大きな期待はされていないと自覚するがゆえに、適当に出来る範囲で処理するというのが私の方針だった気がします。そこまで、当時、自覚していたわけではありませんが、今から考えればそうだったのかもしれません。話を本流に戻すと、仕事上の必要あるのであれば、予算や組織や人員を拡充して、十分課題解決に必要な体制を構築するべきであり、一般の民間企業と違って、歌詞味が席は国債を発行して日銀からマネーを受け取ることが出来るわけですから、ホントに処理すべき仕事であれば、そういった業務遂行体制の拡充が必要です。それが出来ないのであれば、何らかの優先順位で仕事を処理するほかはありません。

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次に、佐々木信夫『いまこそ脱東京!』(平凡社新書) です。著者は、東京都庁勤務を経て学界に転じ地方自治などを専門としつつ、今は大学も退職しているようです。私は昨年3月末に東京を脱出して京都に引越し「東京脱出」をしたわけですが、本書のタイトルの「脱東京」とは、私が1年余前に経験した「東京脱出」ではありません。本書を読み始めた途端に、その失敗に気づいてしまいました。本書の「脱東京」とは、正確には何ら定義されていません。要するに、「道州制」に近い「州制度」を日本に導入して地方分権を進め、その前提として東京へのアクセスを含めて地方間の高速交通網を積極的に無料化を視野に活用する、というもののようです。ややガッカリです。ですから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックとは何の関係もありません。しかも、地方分権をすすめるのは、重複する地方行政のムダを省いて財政赤字を回避するためだそうです。ですから、維新が提起した大阪都構想が否決されたのが残念でならない様子です。より正確に私なりに翻訳すれば、維新と同じ方向であり、地方行政を削減して住民の負担により緊縮財政、そして、財政再建を成し遂げる、という内容です。その前提として、新幹線、高速道路、航空の高速移動手段をフリーパスにし、地方間、といいつつも、実態は東京都のアクセスをよくすることが必要不可欠のようですから、およそ、実効が上がりそうもありません。本書でも言及されている「神山の奇跡」は、こういった高速交通網がなくても実現していますし、何よりも雇用が生まれたことが大きな要因だと私は受け止めています。雇用を作り出すことに何ら有効な手段がない本書のような構想は、繰り返しになりますが、まったく実効が上がりそうもありません。2時間ほどで済ませられたのが幸いでしたが、今年一番の残念な読書でした。

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最後に、浅葉なつ『神様の御用人』第9巻/第10巻(メディアワークス文庫) です。著者は、関西在住のラノベ作家です。一応、新刊書読書ということで第9巻/第10巻だけを取り上げますが、当然ながら、第1巻から第10巻まで私は全巻を読んでいます。高校生とかに人気のラノベで、マンガ化もされているんですが、基本的な舞台は京都ながら、神様の御用人を務めるわけですので、その神様の御用人は全国を飛び回ります。その神様の御用人が主人公の萩原良彦であり、大学を卒業して野球の特別枠で実業団野球チームの会社に勤務し始めたものの、膝だかどこか足を痛めて野球ができなくなって会社を辞め、今はフリーターです。そして、ひょんなことから、宣之言書(のりとごとのしょ)を入手して、祖父の跡をついで神様の御用人となります。そして、方位神の黄金とともに神様の御用を遂行します。もちろん、他にも登場人物はいて、主人公の萩原良彦の高校からの友人で、神職の勉強を大学で終えて大主神社の権禰宜をしている藤波孝太郎、そして、藤波孝太郎の勤める大主神社の宮司の娘である吉田穂乃香などです。吉田穂乃香はいわゆる天眼であり、神様や眷属が見えます。どうでもいいことながら、一応、主人公の萩原良彦は御用を果たしている時だけ神様や眷属の姿が見えて、会話を交わすことが出来ます。眷属とは、この場合、稲荷神社のキツネのようなものです。最後の第9巻と第10巻は、東西で分かれた金龍と黒龍のうち、蝦夷の母となった東の黒龍が、既存秩序の大崩壊と新規の国造りを意味する「大建て替え」を試みるのを、人の子である主人公の萩原良彦が説得して止めさせる、ということになります。最初の柱は、一言主大神でした。ゲームに熱中する引きこもりの中学生という出で立ちで現れます。それ以来、多種多様な神様の御用を主人公の萩原良彦ガス移行します。特に、印象的な神様は、出雲の大国主神とその妻である須勢理毘売の夫婦神です。イケメンと美女の夫婦神であり、主人公の萩原良彦が彼らの御用を果たした後も、何くれとなく協力してくれたりします。作者の神社オタクもなかなかのもので、仏教徒、それも浄土真宗門徒である私なんぞの知らないことが満載でした。私のような年配者でも十分に楽しめる読書でした。このシリーズはここで完結するわけでもないようで、未知の領域ながら、今後の展開を含めてオススメです。

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2021年7月 9日 (金)

秋山投手がナイスピッチングで巨人に完勝!!!

  RHE
読  売0000100   162
阪  神002011x   450

何といっても、秋山投手のナイスピッチングを雨がリリーフして巨人に完勝でした。私は降雨中断が始まった時にお風呂に入り始めて、お風呂から上がると、そのままコールドゲームとなっていました。
打つ方は3回にジャイアンツ内野手のエラーからワンヒットで2点を先制し、5回に近本選手のタイムリー、6回にはマルテ選手のホームランと、着実に加点しました。雨が見事な火消しを見せ、勝ちパターンのリリーフ陣の登板はありませんでした。5番に昇格した大山選手は2三振に終わりました。

明日も、
がんばれタイガース!

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リクルート「Works Index 2020」に見る日本の働き方の変化と厚生労働省における最低賃金に関する議論やいかに?

雇用や労働に関して、少し遅ればせながら、2つほど話題を取り上げておきたいと思います。第1に、リクルートワークス研から、日本の働き方について最近5年の変遷をまとめた「Works Index 2020」が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。この Works Index は、Ⅰ就業の安定、Ⅱ生計の自立、Ⅲワークライフ バランス、Ⅳ学習・訓練、Ⅴディーセントワーク、の5つのIndexの下に、それぞれのIndexに対していくつかのIndicatorが設定されるという構成になっています。ですから、以下のような五角形で総合的に結果が表されることになります。

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ということで、上のグラフはリポートp.8から引用しています。見れば明らかなんですが、Works Index 2016 と Works Index 2020 を比較しています。2016年から2020年にかけて、多くのIndexで改善が見られていますが、Ⅳ学習・訓練だけは悪化となっています。すなわち、目に見えるところで、労働時間が短縮されたり、非正規の処遇改善がなされたり、といった形でワークライフバランスは大きく改善されたのですが、OJT、Off-JT、自己啓発を実施した割合で見て、すべての就業者において学びが減少していたり、あるいは、難易度の低い単調な仕事が増えたりといった点で、Ⅳ学習・訓練のIndexが悪化しています。ほかにも、業務負荷が増大したり、ハラスメントが表面化したりといった動きも進んでいるとリポートは指摘しています。

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次に、上の2枚のグラフは最低賃金に関する議論のため、令和3年度中央最低賃金審議会(目安に関する小委員会第2回)資料として提出されたうち、資料4 賃金分布に関する資料から引用しています。その名の通り、時間あたり賃金分布が示されています。基となる統計は賃金構造基本統計調査、いわゆる賃金センサスと呼ばれる統計です。すべての都道府県の賃金分布のグラフが示されているんですが、私の住む京都府だけを取り出しています。上下とも賃金分布なんですが、対象が異なります。上のグラフは短時間労働者、いわゆるパートタイマーで、下は一般労働者、フルタイマーです。パートの時給がかなりの程度に最低賃金である時給909円から、せいぜいが1000円までの低いレベルに集中しているのに対して、フルタイム雇用者は最低賃金ではなく時給1500円まで幅広く分布していることが理解できようかと思います。同一労働同一賃金を目標に掲げながら、実態がこのようなものであるのは、何とも理解に苦しみますが、それでも、「Works Index 2020」によれば非正規の処遇改善が進んでいるという結論のようです。もっと、画期的に正規雇用と非正規雇用の格差是正に取り組む必要性を痛感しています。

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2021年7月 8日 (木)

大山選手の逆転スリーランでヤクルトにカード勝ち越し!!!

  RHE
阪  神011000040 671
ヤクルト000300020 591

何といっても、大山選手のスリーランでヤクルトにカード勝ち越しでした。
先発ガンケル投手が逆転され、大雨の試合で劣勢ながら、梅野捕手の同点打で追いつき、大山選手で逆転でした。気がかりなのは、やっぱり岩崎投手です。今夜も山田選手にツーランを浴びました。最後はスアレス投手が締めてくれました。

次のジャイアンツ戦は、
がんばれタイガース!

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ワクチン接種により景気ウォッチャーは改善したものの賞味期限は今月限りか?

本日、内閣府から6月の景気ウォッチャーが、また、財務省から5月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+9.5ポイント上昇の47.6、先行き判断DIも+4.8ポイント上昇の52.4を記録しています。経常収支は、季節調整していない原系列で+1兆9797億円の大きな黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

6月の街角景気、現状判断指数は3カ月ぶり改善
内閣府が8日発表した6月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は47.6で、前の月に比べて9.5ポイント上昇(改善)した。改善は3カ月ぶり。家計動向・企業動向・雇用が改善した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は52.4で、4.8ポイント上昇した。上昇は2カ月連続。家計動向・企業動向・雇用が改善した。
内閣府は現状の基調判断を「持ち直しに弱さがみられる」から「持ち直している」に変更した。
5月の経常収支、1兆9797億円の黒字
財務省が8日発表した5月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆9797億円の黒字だった。黒字は83カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1兆8203億円の黒字だった。
貿易収支は20億円の黒字、第1次所得収支は2兆4518億円の黒字だった。

短いながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に同定しています。

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ということで、結論からすれば、この6月統計の景気ウォッチャーはまったく信用できません。というのは、私もこの景気ウォッチャーの改善はワクチン接種の進展に基づくと考えており、しかも、7月の都議会選挙が終わってからワクチン供給不安が一挙に吹き出し、一部に大いに滞っているからです。6月統計で大きく改善した分、7月統計ではワクチン接種の停滞や遅れの評価次第で大きく悪化する可能性すらあります。とくに、東京都に4回目の緊急事態宣言が出たわけですし、これがマインドを改善させる効果があるとはとても思えません。もちろん、東京オリンピック・パラリンピック次第という面もあり、イベント効果でポジティブな見方が表明される可能性も否定できませんし、その場合には悪化幅が小さくて済む可能性もありますが、逆に、オリンピック参加選手や観戦者などの間で大規模クラスタが発生したりすれば、一気にマインドは冷え込む可能性が高いと考えるべきです。秋までには必ずある総選挙を前に、街角のマインドがとても気にかかるところですが、いろいろな条件に左右され、先行きがどうなるかはまったく不明です。

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経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。引用した記事では、輸出が大幅増としていますが、昨年2020年5~6月ころは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックの経済への影響がもっとも大きかった時期ですので、前年同月比で見れば、輸出入とも大きな増加を示している結果となっているだけであり、最近時点でのトレンドではないと考えるべきです。ですから、季節調整済みの系列の前月比で見れば、輸出は4月+2.8%増の後、5月は+1.4%増と伸びが鈍っていますし、輸入も4月+11.2%増の後、5月はわずかに+0.1%増となっています。基本的に、記事内容が間違っているわけではなく、輸出は世界経済が順調に拡大している恩恵を享受していて、輸入は国内景気が伸び悩む中で国際商品市況における石油価格の値上がりから増加を示している、ということ。になるのは確かです。記事にもあるように、前年同月比で見た増加分にワクチンが寄与していることは明らかですが、季節調整済みの系列で考えれば、最近の報道を見るにつけ、ひょっとしたら、ワクチン供給がストップして輸入の伸びが鈍化している可能性も否定できません。まあ、私の直感では5月統計ではこの可能性は低い気がしますが、ゼロではないかもしれません。ですから、5月統計だけでなく一般論として極めて皮肉な現象ながら、我が国でワクチン接種が進まないことは二重の意味で貿易黒字に貢献しています。すなわち、第1にワクチン輸入のストップが輸入の伸びの鈍化につながり、第2に景気回復が先進各国から大きく遅れることにより輸出の増加と輸入の伸び悩みを招いています。しかし、ワクチン接種が進まないと本格的な景気回復がさらに遅れますし、このワクチン失政のために、何度でも繰り返し緊急事態宣言を出す羽目に陥る可能性が高いと覚悟すべきです。

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2021年7月 7日 (水)

基調判断が「改善」に据え置かれた5月の景気動向指数は改善を示しているか?

本日、内閣府から5月の景気動向指数公表されています。CI先行指数が前月から▲1.2ポイント下降して102.6を示し、CI一致指数も前月から▲2.6ポイント下降して92.7を記録しています。まず、統計のヘッドラインを手短に報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

5月の景気一致指数、2.6ポイント低下 市場予想2.6ポイント低下
内閣府が7日発表した5月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比2.6ポイント低下の92.7となった。QUICKがまとめた市場予想の中央値は2.6ポイント低下だった。数カ月後の景気を示す先行指数は1.2ポイント低下の102.6だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「改善」に据え置いた。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。

短いながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しているんですが、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで勝手に同定しています。

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ということで、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では、3月に基調判断を上方改定して、今月も3か月連続で「改善」に据え置きとなっています。基準がどうなっているかというと、「3か月後方移動平均が3か月連続して上昇していて、当月の前月差の符号がプラス」ですから、後者の当月の前月差はマイナスながら、3か月後方移動平均が3か月連続して上昇しているので「改善」と据え置かれています。逆に、3か月後方移動平均がマイナスとなれば、「足踏み」となるわけです。やや機械的な判断という批判が出るかもしれません。まあ、判断基準がとても透明性高いので仕方ありません。
5月統計について、CI一致指数を詳しく見ると、マイナス寄与が大きい順に、生産指数(鉱工業)、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数などのマイナス寄与が大きくなっています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックに対応した緊急事態宣言が、東京都と関西圏で4月25日からという遅い時期だったのに対して、5月については丸々1か月間宣言発令中となりますので、その点で経済的な影響も大きかったと考えるべきです。ただし、景気動向指数と連動性の高い鉱工業生産指数(IIP)の製造工業生産予測指数は、自動車向け半導体の供給制約が緩和されることなどから、6月には大きなプラスを示していますし、5月統計でCI一致指数が前月差マイナスであったとしても、目先はともかく、世界経済の順調な拡大に伴って、我が国の輸出や生産が緩やかに増加する可能性が高い、と私は考えています。ですから、IIP関連指標と連動性高いCI一致指数を基準とすれば、引き続き景気は「拡大」局面にとどまる可能性が高く、景気の先行きをそれほど悲観する必要はない、と考えるべきです。実は、この結論は先月から大きく変更しています。新しい統計が出るたびに私は考えを変える場合がありますので、悪しからず。

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2021年7月 6日 (火)

神宮球場では負けなしで今夜もヤクルトを下す!!!

  RHE
阪  神001300010 570
ヤクルト000000001 170

青柳投手のナイスピッチングで、ヤクルトに完勝でした。
7番に降格された大山選手が3回に先制ソロホームラン、4回にも佐藤輝選手のタイムリー・ツーベースなどで追加点を上げ、さらに、8回には再び大山選手がタイムリーでダメを押しました。青柳投手は8回までゼロに抑え、9回リリーフした馬場投手が乱調でしたが、最後はスアレス投手が締めてくれました。

明日も、
がんばれタイガース!

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日銀「さくらリポート」(2021年7月)に見る地域経済やいかに?

日銀支店長会議において、昨日7月5日に「地域経済報告」、いわゆる「さくらリポート」(2021年7月)が明らかにされています。日銀のサイトから各地域の景気の総括判断を引用すると以下の通りです。

各地域の景気の総括判断
各地域の景気の総括判断をみると、「持ち直しのペースが鈍化している」とする地域があるなど感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、多くの地域では「基調としては持ち直している」または「持ち直しつつある」などとしている。

続いて、各地域の景気の総括判断と前回との比較のテーブルは以下の通りです。

 【2021年4月判断】前回との比較【2021年7月判断】
北海道新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあり、横ばい圏内の動きとなっている新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあり、横ばい圏内の動きとなっている
東北基調としては持ち直しているが、足もとはサービス消費を中心に新型コロナウイルス感染症再拡大の影響が強まっているとみられるサービス消費を中心に引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している
北陸厳しい状態にあるが、持ち直しつつある一部に下押し圧力が続いているが、総じてみると持ち直している
関東甲信越サービス消費を中心に引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直しているサービス消費を中心に引き続き厳しい状態にあるが、基調としては持ち直している
東海厳しい状態が続く中でも、持ち直している厳しい状態が続く中でも、持ち直している
近畿新型コロナウイルス感染症の影響により、依然として厳しい状態にあるが、全体として持ち直している。もっとも、まん延防止等重点措置が実施されるもとで、サービス消費への下押し圧力は強い状態にある新型コロナウイルス感染症の影響により、サービス消費などへの下押し圧力は一部残るものの、全体として持ち直している
中国新型コロナウイルス感染症の影響から、依然として厳しい状態にあるが、持ち直しの動きが続いている持ち直しのペースが鈍化している
四国新型コロナウイルス感染症の影響から一部に弱い動きもみられるが、全体としては持ち直しの動きが続いている新型コロナウイルス感染症の影響から、持ち直しのペースが鈍化している
九州・沖縄厳しい状態にあるものの、輸出・生産を中心に持ち直しつつある厳しい状態にあるものの、輸出・生産を中心に持ち直しつつある

全国9ブロックのうち、北陸と近畿が上方修正されている一方で、中国・四国が下方修正されており、ほかの5ブロックは横ばいとなっています。インバウンド消費への依存が大きかった地域では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージが大きそうな直感的な理解はあるものと思います。上のテーブルにも見られる通り、国内需要に基づくサービス消費への下押し圧力が強い一方で、海外需要の恩恵を受けた輸出や生産を中心とする持ち直しの動きも見られています。ワクチン接種もどうも思うように進んでいないような報道を見かけますし、引き続き、内需と外需の差は広がる可能性が高い見込みです。経済の先行きはワクチン接種のスピードにかかっています。内閣支持率が最低水準で横ばいを続けているのは国民の賢明な判断かもしれません。すなわち、政権交代がないと景気回復の加速は難しいような気がします。強くします。

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2021年7月 5日 (月)

ダイヤモンド・オンラインによる都道府県幸福度ランキングやいかに?

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ちょうど1週間前の先週月曜日6月29日のダイヤモンド・オンラインにて特集されていた都道府県「幸福度」ランキング2021は上のテーブルの通りです。昨年まで2年連続でトップだった宮崎県が沖縄県に首位を譲っています。
2021年版の特徴は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が現れている点です。こういった幸福度ランキングで首位を示す北陸3県なんですが、今年はポイントはそれほど減少したわけでもないのに、ややランクを下げています。COVID-19による「ステイ・ホーム」で他の県が順位を上げた影響であると分析されていますが、私は少し疑問に感じました。COVID-19が幸福度に関係しているとしても、むしろ、高齢化比率との関係ではないかという気がします。加えて、COVID-19をいうなら、現時点で緊急事態宣言が解除されていないのは沖縄県のみであり、来年のランキングでは沖縄は順位を落とす可能性もあるということなのでしょうか。よく判りませんでした。ご参考です。

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2021年7月 4日 (日)

2ケタ安打も決定打なく広島に競り負ける!!!

  RHE
阪  神102000000 3110
広  島00202000x 492

最終回までチャンスありながら決定打なく、広島に競り負けました。
中盤で広島に逆転され、終盤8回9回と塁上を賑わしながら、特に、最終回は佐藤輝選手、大山選手と連続三振に終わりました。佐藤輝選手は何と5三振、大山選手も3三振でした。

神宮のヤクルト戦は、
がんばれタイガース!

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2021年7月 3日 (土)

ルーキー伊藤投手のナイスピッチングで連敗ストップ首位キープ!!!

  RHE
阪  神001000130 5140
広  島000000000 040

ルーキー伊藤投手のナイスピッチングで広島に快勝し、連敗ストップ首位キープでした。
昨日はセットアッパーやクローザーが打ち込まれたり、今日は先発投手が序盤に大量失点したりと、投手陣が崩壊した上に、相変わらずの貧打のためにジリジリ2位巨人との差が詰まって来ていたのですが、今日は一息つきました。打つ方では4番に入ったマルテ選手が3打点の活躍を見せ、休養明けの佐藤輝選手も3安打を記録しました。休養中(?)のサンズ選手も代打でタイムリー・ツーベースをかっ飛ばしています。ただ、このマルテ選手と佐藤輝選手を挟むロハスJr選手と大山選手がノーヒットでした。投手陣に話を戻すと、やっぱり、伝統的に貧打の打線を考えて、先発投手がゼロで抑えてがんばらないと、勝利は遠のきます。リリーフ陣を見れば、NHK地上波の中継からはニュースで漏れましたが、最終回をピシャリと締めた及川投手が7回の男の候補に名乗り出たのかもしれません。

明日も、
がんばれタイガース!

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2021年7月3日: 今週の読書は重厚な経済書のほか計5冊!!!

今週の読書は、経済書のほかに新書と文庫も含めて計5冊を読みました。それから、毎週アップデートしていますところ、今年に入ってからの読書は、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月で56冊、今日取り上げたのは厳密には6月に読んでいたりもするんでしょうが、取り上げた日付で整理して7月で5冊、これらを合計して117冊になりました。ほかに、新刊書ではない読書はFacebookでシェアしていたりします。なお、来週の読書予定は、かなりの部分がすでに手元にあるのですが、バロー教授の『宗教の経済学』、宮川教授の『コロナショックの経済学』ほか、とうとう最終第10巻が回って来たラノベの『神様の御用人』、さらに、時間があれば新書も読もうかと考えています。

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まず、櫻川昌哉『バブルの経済理論』(日本経済新聞出版) です。著者は、慶應義塾大学の研究者であり、私も何度かお会いしたことがありますが、どちらかといえば、私とよく似た専門分野の研究者のご令室さまとお仕事をしたことの方が印象に残っています。それはともかく、本書では、金融理論、特に、低金利の経済学、すなわち、ピケティ教授が 'r>g' で端的に表現したように、実物経済の成長率よりも金融経済の利子率の方が高いので、労働所得に依存する一般市民と金利生活者の間で格差が広がっていく、というのと真逆の世界、 'g>r' の低金利下でバブルが発生することを論証し、さらに、その理論的基礎からバブルへの対応、加えて、合理的なバブルまで論じようと試みています。もちろん、金融だけでなく経済全体のバブル、さらに、経済だけでなく社会現象としてのバブルまで進めば、500ページ近い本書といえども、論じ尽くせるものではありませんが、かなりの程度に、少なくとも途中まではいいセン行っていると思います。明治はしていませんが、ノーベル経済学賞を受賞したティロル教授の「バブル」理論に基づいて、まさに、不換紙幣がバブルであり、当然国債もバブルであるという視点から、利子率が成長率を下回る動学的効率性が失われている経済では財政がサステイナブルとなり、それを基礎としてバブルが生じることを論じています。加えて、理論面だけでなく、実証的に我が国の1980年代後半のバブル経済と米国のリーマン証券破綻前までのサブプライム・バブルを比較したり、北欧などの小国のバブルまで幅広く議論を展開しています。私は理論的な面で、あるいは、本書で扱っているような簡単で実用的な実証面も含めて、金利と成長率の比較など、かなりの程度に正確な議論が展開されている気がします。ただし、10章のバブルの制御のあたりから議論が本筋を逸脱し始め、低金利と長期停滞が続いている現在の経済こそがバブルであって、最後は、バブルが贈与経済に擬せられて本書を締めくくっています。出だしはかなり球筋が良かったのですが、途中でスライスをし始めて、最後は、OBゾーンに入らないまでも深いラフに飛び込んだ印象です。例がよろしくなくて申し訳ありません。理論手に、バブルに火がついてから金利を上げることは、逆にバブルを煽る結果になりかねない点あたりからの議論が、やや雑な気がします。ですから、長期停滞から抜け出すためには金利引き上げが必要、と結論されても合意するエコノミストは少ないだろうと私は考えます。私自身は、キチンとした論証はしていませんが、財政支出の拡大により需給ギャップを埋めることが必要と考えています。もちろん、一読するに値する労作です。その点は間違いありません。

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次に、上林陽治『非正規公務員のリアル』(日本評論社) です。著者は、地方自治に関する研究機関の研究員だそうで、これまでも、非正規公務員の悲惨な状況に関する著書を何冊か出版しています。本書でも、いろんな実例を引いて、その上で、会計年度任用職員制度について批判をしています。公務員といえば、安定した職業であり、それほど高給ではないにしても就業条件が恵まれている、しかも、親方日の丸で倒産や廃業などの心配もない、と相場が決まっていますが、実は、特に地方の役所では非正規公務員が無視できない比率を占めて、不安定な低給与で仕事している実情があります。というのも、本書でも指摘しているように、公務員、特に私がそうだったようなキャリアの国家公務員というのは、広く知られているように、いわゆるゼネラリストであり、官民癒着の防止の観点からも定期的な人事異動がある一方で、専門性が高くて同じ職場に居続けるような専門職のような公務員は、特に地方公務の場に多いわけですが、非常勤、あるいは、非正規の公務員で運営されています。本書でも、社会保障のケースワーカーやいろんな相談窓口の相談員が上げられています。それ以外にも、総定員法のために正規で採用されない臨時教員も少なくありません。その上に、学校や公務の職場では仕事量の増加が著しく、人が増えないのに仕事だけは増えていくのが実情です。従って、そういった職場では非正規公務員で回していくことになります。広く知られているように、公務員の採用には試験があり、私はもちろん試験に合格していますし、その上に、その昔の国家公務員Ⅰ種経済職の試験委員として公務員試験を作成したりもしていました。まあ、公務員試験を作っていた公務員は極めて限られていますが、正規職員である公務員は大多数が試験に合格しているわけです。他方で、非正規公務員は試験合格者はほとんどいません。公立図書館で非正規に雇われて司書をしている人は司書資格を持っているようですが、通常のオフィスで働いて事務に従事している非正規職員は試験を受けていません。本書ではこの点はまったく指摘されていませんが、場合によっては正規公務員と非正規公務員の差を説明する場合に援用されたりしています。私はこの点にも反論して欲しかった気がします。いずれにせよ、同一賃金同一労働がまったく無視され、一般的な企業に適用される雇用関係法が適用されず、雇用者の保護が図られていませんから、逆に悲惨な場合も少くありません。私は国家公務員の場合しか知りませんが、地方公務員はもっと激しく格差が大きいという本書の指摘もあり得ることだという気がしています。公務員だけでなく、正規と非正規の格差の解消のため、同一労働同一賃金など、必要な政策を取る義務が政府や地方公共団体にはあります。

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次に、高橋進『生物多様性を問いなおす』(ちくま新書) です。著者は、環境省のOBです。国連のSDGsの中でも、地球環境問題としては気候変動、いわゆる地球温暖化がクローズアップされていますが、同時に生物多様性についてもかなり深刻な状況であることは確かです。本書でも、明示されていませんが、ダイアモンド教授の言葉を引いて、飛行機の多数のリベットのひとつが抜け落ちることの影響などの観点から、生物多様性をとても重視しています。同時に、外来種についても議論していて、いろんな実例を引いています。私は二酸化炭素排出の問題については、紀要論文で環境クズネッツ曲線の推計をしたこともあり、少し勉強していたつもりなのですが、生物多様性については大学の授業で環境にサラリと言及するくらいで、もう一度調べ直すつもりで読んでみました。というのも、地球の生物の歴史の中で、今まで5回の生物の大量絶滅があり、白亜紀末に恐竜が絶滅したのはよく知られています。そして、外来種の侵入も同じなのですが、現状で生物多様性をキープしていくのがいいのか、それとも、少し時代を戻すくらいに生物多様性を取り戻すべきなのか、取り戻すとすれば、いつの時点がもっとも望ましいのか、という点が私には不明です。本書を読んだ後でもまだ理解できていません。地球温暖化については、一定の数値目標があって、工業化が大きく進展する産業革命以前と比べて、2℃以下の上昇に抑える、ということで合意があります。しかし、生物多様性については気温のように単純な数字で把握できるわけではなく、レッドブックが有名ですが、マイクロに個別の絶滅危惧種の指定があるだけで、マクロの数値目標のようなものが設定できるのか、あるいは、計測の方法論が確立されているのか、といった基礎的な疑問が解けません。本書では、前近代の大航海時代などにおけるプラント・ハンターから始まって、植民地経営の一種であったプランテーション、あるいは、キリスト教的な人類中心の視点がよくないとか、いろいろと議論されていますが、やっぱり、何らかの目標がなく、単に生物多様性を維持するというだけでは、議論も進まないような気がしてなりません。そういった具体的な議論を進められるような啓蒙書のようなものが必要です。

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次に、近藤史恵『インフルエンス』(文春文庫) です。著者は、ミステリ作家であり、私は「サクリファイス」のシリーズはじめ、いくつか愛読しています。また、本書については、2021年3月から橋本環奈・葵わかな・吉川愛の出演でWOWOWにおいてドラマ化されています。なお、2017年に単行本として出版されているのですが、私は今年2021年1月出版の文庫本で読んでいます。本格的なストーリーは、主人公の中学時代から始まり、小学校低学年のころに友人だった同じ団地の少女、あるいは、中学校に東京から転校してきた少女、この3人を軸に、タイトル通りに影響を及ぼし合い、お互いに排除して欲しい人物を殺す、という物語です。物語はメタ構造になっていて、主人公が著者に話すストーリーを小説化する、という形を取っているのですが、実は著者も3人の少女が通う同じ中学校の同じ学年であった、という事実が明らかになり、しかも、少女のころから40歳を超えるころまで、極めて長期に渡るストーリーで、その間に関係が途切れた期間もかなり長い場合があり、加えて、大阪で始まったお話が長期に渡る期間で東京、というか、首都圏を舞台にしたりと、決して、読みこなすのが難しいわけではありませんが、錯綜した時間的地理的な状況を把握するのもひと苦労な気がします。もちろん、人の取り違え、あるいは、偽装などもありますし、殺人犯が実は別の加害者である、といった場合あり、何とも、解きほぐすのがタイヘンです。中学校のスクール・カーストから始まって、高校・大学、そして、最終的には職業上の成功などまで、いろいろと衝撃の事実とともに真実が明らかにされ、最後の最後に、著者が気づいてしまう形で新事実も明らかにされます。今までのお話は何だったのか、という新たな謎だったりします。私はこの作者の「サクリファイス」の自転車のシリーズが好きなのですが、どちらもやや重い内容かもしれません。

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最後に、あさのあつこほか『1日10分のぜいたく』(双葉文庫) です。表紙画像に見えるように、NHK国際放送のラジオ番組で世界17言語に翻訳して朗読された小説を集めています。このシリーズは3冊めで、以前に『1日10分のしあわせ』と『1日10分のごほうび』が出版されています。8話の短編を収録しているアンソロジーです。あさのあつこ「みどり色の記憶」、いしいしんじ「果物屋のたつ子さん/神主の白木さん」、小川糸「バーバのかき氷」、小池真理子「テンと月」、沢木耕太郎「ピアノのある場所」、重松清「おまじない」、髙田郁「ムシヤシナイ」、山内マリコ「ああ幻の東京五輪 世田谷区」、「団地への招待 板橋区」、「日本インド化計画 江戸川区」、「東京の誕生 東京都」といった作品が収録されています。そう数えればいいのか、やや迷います。ということで、いろんな作家の短編が収録されているわけですが、それなりに定評ある作者であり、作品の質はかなり高いと私は受け止めました。ただ、私の誤解かもしれませんが、最後の山内マリコの作品は必ずセックスが出て来ると誤解していたので、NHKで大丈夫か、という心配はありましたが、私の誤解でした。山内マリコの小説はネコもセックスするという印象だったのですが、そうでない小説もいっぱいあって、私が読んでいないだけなのでしょう。すべてに、質の高い短編であり、それでも、決して重かったりするわけでもなく、ちょっとした時間つぶしには最適です。ただし、200ページ足らずですので、潰すのも1時間ほどで読み終わってしまうという恨みは残ります。

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2021年7月 2日 (金)

財政拡大とともに雇用者増が続く米国雇用統計!!!

日本時間の今夜、米国労働省から5月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は今年2021年に入って着実にプラスを記録しており、本日公表の6月統計では+850千人増の大幅増を記録しています。ただし、失業率は前月の5.8%から6月には5.9%にわずかに上昇しています。まず、長くなりますが、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を最初の9パラだけ引用すると以下の通りです。

Economy added 850K jobs in June, and unemployment rose to 5.9% as COVID cases declined, states lifted restrictions, vaccinations rose
Despite widespread worker shortages, U.S. hiring accelerated in June as employers added 850,000 jobs amid declining COVID-19 cases, a reopening economy and increasing vaccinations.
The unemployment rate, which is calculated from a different survey of households, ticked up from 5.8% to 5.9%, the Labor Department said Friday.
Economists had estimated that 720,000 jobs were added last month, according to a Bloomberg survey.
So far, the U.S. has recovered 15.6 million, or 70%, of the 22.4 million jobs lost last spring, leaving the nation 6.8 million jobs below its pre-pandemic level.
Leisure and hospitality, the industry hit hardest by the pandemic, again led the gains, adding 343,000 jobs, including 194,000 at restaurants and bars, as more states ended capacity limits.
Local, state and private education added 269,000 jobs but those advances represented a quirk of Labor’s seasonal adjustments. School employees typically come off payrolls in June and July. But since fewer education workers are employed because of the pandemic, fewer dropped off and that translated into a big gain after seasonal adjustments.
Professional and business services added 72,000 jobs. Retail added 67,000 as more stores reopened. And manufacturing, which has been beleaguered by supply-chain bottlenecks, added 15,000.
Several forces are coalescing to juice the economy and labor market, leading analysts to forecast record job gains of 7 million to 8 million jobs this year.
COVID cases this week fell to a seven-day average of about 12,000, the lowest since March 2020. Forty-seven percent of the U.S. population has been fully vaccinated. And most states have lifted all pandemic-related restrictions.

長くなりましたが、まずまずよく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは今年2020年2月を米国景気の山と認定しています。ともかく、2020年4月の雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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引用した記事の3パラ目にもあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+720千人の雇用増が予想されていましたので、+850千人増はやや強めの数字と受け止められています。他方で、失業率は今年2021年に入ってから、6%前後でやや下げ止まっている感もあります。マクロの雇用の改善が進んだところで、マイクロな労働市場のミスマッチが生じている可能性もあります。すなわち、リモートワークの普及などの構造的な変化が生じていることから、労働市場でもそういった人材の需要が高まる一方で、労働供給の方はそれほど短期には調整できない可能性もある、ということです。しかし、それでも、マクロの雇用の回復には、やはり、引湯した記事にも "a reopening economy and increasing vaccinations" とあるように、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が進んでいる要因が大きいと考えるべきです。繰り返し、何度も緊急事態宣言を頻発している我が国とは大きく違います。GDP統計にも着実な米国経済の回復が現れており、1~3月期は前期比年率で+6.4%成長でした。我が国の1~3月期GDP統計速報1次QEはマイナス成長だったわけで、ワクチン接種と大規模な財政政支出拡大を展開して力強い景気回復を実現している米国バイデン政権との違いが大きくなっています。

USA Today のサイトから9パラ引用したのですが、実は、10パラ目には "Also, Congress has passed about $3.2 trillion in government stimulus spending since late last year, including more checks for households." とあって、米国の大きな財政支出拡大政策に言及されています。我が国でも、緊縮財政を転換すべき時期に達している、と私は考えています。

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先発投手が2回に7失点では勝てません!!!

  RHE
阪  神000000100 181
広  島07000000x 791

先発西投手が2回に7失点し広島に大敗でした。
昨日はクローザーが打ち込まれ、今日は先発が序盤に大量失点と、投手陣が崩壊した上に、相変わらずの貧打で得点が上げられず、阪神はまったくどん底の状態です。昨夜に続いて、つまんない試合でした。

明日は、
がんばれタイガース!

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2021年7月 1日 (木)

貧打でガンケル投手を見殺し!!!

  RHE
ヤクルト000000105 690
阪  神000001000 160

今夜は先発ガンケル投手が好投し、8回の岩崎投手もゼロに抑えたものの、スアレス投手が失点してヤクルトに大敗でした。
ロースコアでの競った投手戦で、均衡を破ったのが梅野捕手のソロホームランだったんですが、結局、貧打のために得点はそれだけに終わりました。その上、守護神スアレス投手が失点したのですから阪神が勝てるハズもありません。つまんない試合でした。

次の広島戦は、
がんばれタイガース!

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6月調査の日銀短観に見る景況感は改善するも業種のばらつきはまだ大きい!!!

本日、日銀から6月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から+9ポイント改善して+14を示した一方で、本年度2021年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+7.1%の大幅な増加となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景況感、非製造業5期ぶりプラス 6月日銀短観
日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業非製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)はプラス1と前回の3月調査から2ポイント改善した。プラス圏に浮上するのは2020年3月調査以来5四半期ぶり。新型コロナウイルスのワクチン接種が進み景況感は徐々に上向きつつあるものの、国内経済の回復力は鈍い。大企業製造業の同DIはプラス14と9ポイント改善した。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。今回の調査は5月27日から6月30日に実施した。
大企業非製造業は主要12業種のうち8業種で改善した。長引くコロナ禍で苦境が続いた宿泊・飲食、レジャー施設などの対個人サービスはそれぞれ前回調査から改善したものの、なお大幅なマイナス圏にある。
大企業製造業は4四半期連続の改善。18年12月以来2年半ぶりの高水準となった。世界経済の回復や為替相場の円安傾向を追い風に景況感の改善が続いており、DIは主要16業種のうち14業種で上昇した。IT(情報技術)関連の需要がけん引し電気機械や生産用機械などの輸出関連業種が引き続き好調だったほか、世界的に供給不足となっている木材・木製品も大幅に改善した。
ただQUICKが集計した民間予測の中心値(プラス15)には届かなかった。前回調査で大幅に改善していた自動車は世界的な半導体不足の影響を受け、7ポイント悪化のプラス3となった。
中小企業は製造業が6ポイント改善のマイナス7、非製造業が2ポイント改善のマイナス9と、依然としてマイナス圏にある。コロナ禍の行動制限で業績が大きく落ち込んだ宿泊や飲食、対個人サービスはほぼ横ばいにとどまった。中小は資源高によるコスト増の影響も受けやすく、大企業に比べ業況の回復が遅れている。
3カ月先の見通しを示すDIは大企業製造業でプラス13と足元から1ポイント悪化、大企業非製造業はプラス3と2ポイントの改善を見込む。ワクチン接種が進展するなかでも先行きの見方は力強いとはいえない。大企業を中心とした景況感の改善はなお外需が主導する。コロナの感染状況が抑えられて内需も回復に向かわなければ、景気回復で先行する米欧にさらに水をあけられかねない。

やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月、あるいは、四半期ベースでは2020年4~6月期を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。

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まず、先週金曜日の3月26日付けのこのブログでも日銀短観予想を取り上げ、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIが改善してゼロ近傍となる見込みという結果をお示ししていましたし、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく大企業製造業の業況判断DIが+15と報じられていますので、実績が+14ですから、ほぼジャストミートしました。ほかの主要な経済指標とともに、昨年2020年5月ないし4~6月期が直近の景気の底となっているのは、ほぼほぼ共通している印象です。もちろん、業種別にはバラツキが大きく、総じて内需や対人接触型セクターのウェイトが高い非製造業では業況感の改善幅が小さく、かつ、水準も低い一方で、それなりに輸出で需要が見込める製造業では改善が大きく、かつ、水準も高い、との結果が示されています。すなわち、3月調査から直近で利用可能な6月調査への変化幅で見て、大企業製造業が+9の改善で業況判断DIの水準が+14とプラス幅を拡大しているのに対して、大企業非製造業はわずかに+2の改善にとどまり、DIの水準も+1と、ようやくマイナスを脱したばかりです。大企業レベルで製造業と非製造業の産業別の業況判断DIを少し詳しく見ると、6月調査で業況感を大きく改善させたのは、製造業では、造船・重機等が+26ですが、まだDIの水準はマイナスのままです。ほかに、木材・木製品が+24のほか、はん用機械+22、生産用機械+18、などとなっています。ただ、自動車については、昨日公表の鉱工業生産指数(IIP)を取り上げた際にも言及しましたが、半導体の供給制約のために▲7とマインドは低下し、DIの水準も+7となっています。ただし、半導体の供給制約が緩和されれば、ペントアップ生産に伴ってマインドも改善する可能性は十分あります。他方、非製造業では、対個人サービスがようやく+20の改善幅を見せたものの、DIの水準はまだ▲31とマイナスのままですし、卸売も+14回復してプラスに転じましたが、DIの水準はまだ+7となっています。加えて、先行きの景況判断DIについても、製造業・非製造業ともに改善が続くと見込まれているわけではなく、先行きは大企業製造業では▲1の悪化、大企業非製造業でもわずかに+2の改善としか見込まれていません。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも方向として不足感が広がる傾向にあるんですが、DIの水準として、設備については、まだ大企業ですらプラスで過剰感が残っている一方で、雇用人員についてはプラスに転ずることなく反転し、足元から目先では不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が企業マインドに反映されている可能性があると私はと考えています。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用に関しては、新卒採用について新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響がもっとも強く出ている可能性があり、新卒採用計画については、直近の6月調査の全規模で見て2020年度の新卒採用計画が前年度比▲6.8%の減少だった一方で、2022年度採用のリバウンドはわずかに+3.3%増にとどまっています。いずれにせよ、大学教員のヒガミかもしれませんが、雇用調整助成金で現有勢力の雇用を維持する一方で、新卒一括採用のシステムの中で、学生の就活にしわ寄せが来ているように見えなくもありません。

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日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、3月調査時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月にはマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正される、というのがあったんですが、昨年度2020年度は大きく通常と異る動きでしたが、今年度2021年度は従来型の動きに戻っている気がします。3月調査の設備投資計画が全規模全産業で+0.5%増のプラスで始まった後、6月調査では7.2%増に上方修正されています。おそらく、COVID-19のショックがもっとも大きかった昨年度2020年度に設備投資を絞ったため、今年度2021年度の設備投資を増やす、という隔年効果があるものと考えられます。また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは大企業設備投資で+7.2%増でしたので、ほぼほぼジャストミートしました。加えて、グラフは示しませんが、設備投資の決定要因としては将来に向けた期待成長率などとともに、足元での利益水準と資金アベイラビリティがあります。6月調査の日銀短観でも、資金繰り判断DIはまだ「楽である」が「苦しい」を上回っていて、金融機関の貸出態度判断DIも「緩い」超のプラスですが、他方で、全規模全産業の経常利益は昨年度2020年度の▲20.1%減の大きなマイナスから、今年度2021年度はリバウンドするとはいえ+9.1%増にとどまっています。人手不足への対策の一環として設備投資は基本的に底堅いと考えていますが、最後の着地点がどうなるか、やや厳しいものとなる可能性も十分あります。

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