« 広島に競り勝って西投手100勝おめでとう!!! | トップページ | 秋山投手のナイスピッチングで広島に連勝!!! »

2021年9月11日 (土)

今週の読書は経済書中心に充実の計6冊!!!

今週の読書は、ここ2週間ほど続けて経済書がなかった反動なのか、超主流派の重厚な経済書をはじめとして、3冊の経済書を含めて、他に小説もあり計6冊です。最初に取り上げた野口先生の『反緊縮の経済学』は、私が読んだ中では文句なしに今年一番の経済書であり、もしも、今年もどこかの経済週刊誌から今年の経済書の評価を問われれば、本書を上げる可能性が十分あります。なお、いつもお示ししている本年の読書の進行ですが、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、今日取り上げた6冊を含めて7~9月で53冊、これらを合計して164冊になりました。今年2021年の士官書読書はほぼほぼ確実に200冊を超えるものと予想しています。

photo

まず、野口旭『反緊縮の経済学』(東洋経済) です。著者は、私とほぼほぼ同年代のリフレ派のエコノミストであり、学界から現在は日銀審議委員に転じています。本書では、ケインズ経済学について議論を展開していて、初期の財政政策一本槍のケインズ経済学Ⅰから、金融政策をマクロ経済安定化の軸に据えたケインズ経済学Ⅱ、そして、財政政策と金融政策を統合した現時点での到達度であるケインズ経済学Ⅲまでを視野に入れつつ、現在の長期停滞論を解き明かそうと試みています。そして、その中で昨年『ニューズウィーク日本語版』で連載されていた記事を基に、とても適切に現在貨幣理論(MMT)にも触れられています。財政については、赤字タカ派(緊縮派)、赤字ハト派(反緊縮派)、赤字フクロウ派(MMT学派)とMMTに従った分類がなされていますが、同時に、謬論としての歴史的位置づけのもとで、真性手形主義や旧日銀理論などにも言及されています。非情にバランス良くマクロ経済学や経済政策について精緻な議論を展開しながらも、小難しい学術書で終止することなく、幅広く一般ビジネスパーソンにも理解しやすいように工夫されています。特に、私にとっては目新しいものではありませんでしたが、MMT学派には財市場の均衡という概念がなく、すなわち、ケインズ経済学におけるIS曲線というものが存在しない、といわれてしまうと、それだけで、とても判りやすい気がします。私もマネしようと思っていしまいました。ただ1点だけ、今年2021年2月27日付けの読書感想文で取り上げたエプシュタイン『MMTは何が間違いなのか?』(東洋経済)では、主流派エコノミストは、米国では民主党リベラルの均衡予算≅緊縮財政、物価安定、中央銀行の独立などのいわゆる新古典派経済学と見なしていて、むしろ、増税回避の観点から共和党は緊縮財政とは親和的ではない、としていましたが、本書の著者は直近のトランプ元大統領を別途すれば、ティーパーティーなどのいわゆる「小さな政府」の支持者などの支援を受ける共和党こそが緊縮財政を思考している、と指摘しています。私も少し混乱しているのかもしれません。いずれにせよ、私が読んだ中では文句なしに今年一番の経済書です。

photo

次に、小林佳代子『最後通牒ゲームの謎』(日本評論社) です。著者は、南山大学の経済学研究者です。サブタイトルが「進化心理学からみた行動ゲーム理論入門」とされていて、容易に理解されるように、ゲーム理論とか行動経済学が専門のようです。まず、どうでもいいことながら、進化心理学という学問分野は私は従来から少し誤解も含めて、要するに、子孫を残すことを最大限重視するモチベーションから人間心理を解釈する学問であり、従って、ほぼほぼセックスのことに尽きる、と考えていたのですが、少し考え直すことにしました。ということで、タイトルにある最後通牒ゲームとは、一定金額、例えば、1000円をもとに、それを手にしたAさんがとなりのBさんにいくらかを上げるというゲームで、BさんがAさんお提案を受け入れればそのとおりに分配されてOKなるも、BさんがAさんの提案を拒否すれば、2人とも何ももらえない、という結果で終わります。通常、Bさんが合理的な個人であれば、ゼロよりは効用が高いのでAさんからの提案がたとえ最少額の1円であってもOKして受け取る、というのが伝統的な経済学の見方です。でも、実際に実験でやってみると、少額であれば拒否して2人とも何ももらえない、というケースが出てきます。この最後通牒ゲームに加えて、少しだけ独裁者ゲームについても取り入れられています。それはともかく、本書では「謎」としているように、まず、Aさんがどうして1円をオファーしないのか、また、Bさんがどうして少額なら拒否して何も受け取れない結果を志向するのか、といった謎から始まって、ウェイソンの4枚カード問題から、本書で裏切り者と呼んでいて、実際の日本語的な語感からは、ズルをする人に対して、進化の過程で獲得された拒否反応について議論を進めています。すなわち、現代人にも石器人の心があり、進化の過程に動特性の基礎を見出し、お互いの協力関係が進化に役立っている、という点が強調されています。全体として、かなり学術書に近い内容が盛り込まれていて、特に、多数の既存研究がサーベイされている上に、きちんと参考文献リストも整備されている一方で、著者の父親だったか誰かの目から一般読者にも判りやすい内容に仕上がっています。

photo

次に、カリド・コーザー『移民をどう考えるか』(勁草書房) です。著者は、マーストリヒト大学の研究者であり、専門は難民問題、安全保障だそうです。本書は英国オックスフォード大学出版局から出ている A Very Short Introduction のシリーズの1冊で、英語の原題は International Migration であり、初版が2007年に刊行され、第2版が2017年の出版となっています。ということで、手短に、移民の定義や統計の不備などが明らかにされた後、国際間の移民を生じさせる要因として、人口構造、所得水準の格差、加えて、気候変動や地政学的なリスクなどが上げられています。そして、当然に移民がグローバリゼーションとどのように関係し、移民の国際送金を受ける移民送出し国の経済開発が論じられ、そして、やや私の目からはトリッキーな話題として、違法ないし非正規移民、難民まで幅広く概観されています。特に、明示的に取り上げられているわけではありませんが、移民や非正規移民とテロリズムの関係まで視野に入れているように私には見受けられました。決して、経済問題、特に、雇用や社会保障だけではなく、文化的な多様性の促進という観点も移民は担っており、多種多様な人間が暮らす現代社会の豊かさのひとつの象徴であるという気もします。他方で、都合の悪い場合は移民が外的グループの一員として取り扱われ、何らかの悪い意味で標的になったりもしかねません。コンパクトに取りまとめられている本書ですが、それなりに移民に関するさまざまなトピックを網羅しています。最後に、どうでもいいことながら、私は監訳者が役所の研究所で働いていたころを知っています。少しだけ懐かしく感じました。

photo

次に、川上弘美『わたしの好きな季語』(NHK出版) です。著者は、私と同世代の芥川賞作家であり、本書では俳句の趣味も披露しています。ということで、春夏秋冬に新年を加えた俳句の季語を集めた歳時記です。96の季語を収録しています。すなわち、春が、日永/海苔/北窓開く/絵踏/田螺/雪間/春の風邪/ものの芽/わかめ/針供養/すかんぽ/目刺/朝寝/木蓮/飯蛸/馬刀/躑躅/落とし角/春菊/入学/花/春愁、夏が、薄暑/鯉幟/そらまめ/豆飯/競馬/アカシアの花/新茶/てんとう虫/更衣/鯖/黴/こうもり/ががんぼ/蚯蚓/業平忌/木耳/李/半夏生/団扇/雷鳥/夏館/漆掻/雷/青鬼灯、秋が、天の川/西瓜/枝豆/水引の花/生姜/残暑/つくつくぼうし/燈籠/墓参/瓢/月/良夜/朝顔の種/新米/案山子/鈴虫/夜長妻/濁酒/柿/秋の空/蟷螂/小鳥/きのこ狩/文化の日/花野、冬が、時雨/神の留守/落葉/大根/切干/たくわん/銀杏落葉/冬鷗/河豚/枯枝/ストーブ/炬燵/冬羽織/おでん/鳰/蠟梅/つらら/探梅/春隣、そして、新年が、飾/去年今年/歌留多/福寿草/初鴉/七草となっています。どうでもいいことながら、本書に収録されていないとても現代的な季語に「運動会」があり、私の知る限り、秋の季語です。しかしながら、我が家の子供達が通っていた青山の小学校では、5月に運動会をやっていました。他方で、その小学校というのは中村草田男先生の母校でもあり、「降る雪や 明治は 遠くなりにけり」との句碑が正門を入ったところにあったりしました。8月5日にお亡くなりになっていて、「草田男忌」はこれまた俳句の季語になっています。作者の幼少時の東京杉並の風物などもしのばれて、とてもいい作品に仕上がっています。

photo

次に、松井玲奈『累々』(集英社) です。著者は、SKE48などでアイドルをしていました。作家としてのデビュー作は『カモフラージュ』であり、私もこの機会に読んでみました。短編集という点ではデビュー作と本作は同じなのですが、前作デビュー作と異なり、本作では一貫して小野小夜という女性が、必ずしも、主人公ないし視点を提供する登場人物ではないにしても、何らかの形で登場しており、いわば、連作短編集の形になっているといっていいかと思います。特に、最後の方の短編では主人公というか、視点を提供した記述者の役割を果たしています。アイドル出身にしては、というか、逆に、アイドル出身だからこそなのかもしれませんが、かなり、生々しいセフレやパパ活や結婚についても、適度にサラリと触れられており、それなりに構成力や表現力も感じさせます。描写はかなり具体的かつ精緻に、しっかりとなされており、決して、おろそかにされていません。逆に、プロット的には、私とは年齢的な開きがあるのも事実ですから、それなりに、現代のアラサーの生活は理解しがたい部分もあるとしか思えませんでした。いずれにせよ、男女のかなり艶めかしい生活実態をとても上手に表現していて、作家としての実力を感じさせるものがあり、次回作が楽しみな気がします。アイドルのお遊びではなく、単に、知名度を生かしただけの駄作ではない作品と私は受け止めました。

photo

最後に、藤岡陽子『メイド・イン京都』(朝日新聞出版) です。著者は、最近の作品では集英社文庫から出版された『金の角持つ子どもたち』でも有名な小説家です。主人公は30歳を少し超えた美大出身の女性であり、年下の京都のレストランチェーンの御曹司が東京で銀行勤務をしているときに付き合い始め、父親が亡くなって京都のレストラン事業を引き継ぐ際に上京し、結婚式を待つばかりという段階で破局し、デザイン力を生かしてTシャツの制作に取りかかり、1枚1万円近い高付加価値作品を生み出して起業に成功する、というハッキリいって、かなりありきたりなストーリーです。いかにも京都の古い体質を批判しつつ、東京の美大出身者のデザイン力と京都的なテイストの入ったTシャツが起業アイテムとして、どこまでビジネスになるのかという疑問が残りますが、まあ、この小説についても、東京の人には受けるのかもしれません。私は決してオススメしません。

|

« 広島に競り勝って西投手100勝おめでとう!!! | トップページ | 秋山投手のナイスピッチングで広島に連勝!!! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 広島に競り勝って西投手100勝おめでとう!!! | トップページ | 秋山投手のナイスピッチングで広島に連勝!!! »