今週の読書はまたまた経済書なしで新書が多く計4冊!!!
今週の読書も、またまた、経済書なしで教養書と3冊の新書の計4冊だけでした。新書は経済学のテーマのものを含みますが、まあ、学術書ではありません。来週は少し「経済書」と呼べるものを読もうと予定しています。なお、いつもお示ししている本年の読書の進行ですが、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、今日取り上げた4冊を含めて7~9月で47冊、これらを合計して158冊になりました。
まず、大塚英志『「暮し」のファシズム』(筑摩書房) です。著者は、国際日本文化研究センターの研究者であり、漫画原作なども上げられています。本書では、現在進行系のコロナ下の「新生活様式」のお話ではなく、先世の近衛内閣のもとでの大政翼賛会によるファシズムの国民生活への浸透について取りまとめています。各章の構成として、「暮しの手帖」の編集者として著名な花森安治、太宰治の「女生徒」、ミニマリスト詩人の尾崎喜八、長谷川町子の「サザエさん」、ガスマスクを装着した女学生、など、国民生活の暮しを担う女性からファシズムの進行について深く掘り下げています。それを、コロナ下の「新生活様式」と同じで、戦争に向かう生活上の方向性を示すプロパガンダとして表面に現れるのではなく、生活上の利便から望ましい姿として提示されるという形が取られています。例えば、今では断捨離となるのかもしれませんが、国民も巻き込んだ総力戦に備えて、簡素で節制を心がけた慎ましい生活、郵便局で国債を買うように勧めるとか、国民生活を戦争に適した形に形作る方向性が示されています。現在のコロナ下の生活についても考えると、マスクの着用やソーシャル・ディスタンスの確保などだけでなく、いわゆる「自粛警察」の活動まで含めて、強力な同調圧力への服従と従わない者への非難と強制が戦前のファシズム体制形成の際のカギカッコ付きの「運動」につながるものであるといえます。今でも、多人数での会食の自粛とか、默食とか、日常生活の細部に至るまで国家の強制ないし強力な推奨が入り込んでいるのが大きな特徴です。しかも、そういった強制ないし推奨が家庭生活を取り仕切る女性を利用したことにも特徴を見出しています。酒を提供する店の閉店、飲食店の営業時間の短縮、テレワークの推進なども、コロナ蔓延防止には効果的なのかもしれませんが、そうであっても、かなり強烈な同調圧力とともに推し進められている印象があり、「コロナ蔓延防止」の掛け声がかかれば何でもアリという気もします。国民の自由が奪われていく方向性を許容すべきではない、という点をしっかりと自覚したいと思います。最後に、表紙にも見えるガスマスクなんですが、何のアイコンなのか、私にはよく理解できませんでした。
次に、岩田規久男『「日本型格差社会」からの脱出』(光文社新書) です。著者は、日銀副総裁まで努めたリフレ派エコノミストです。ということで、日本経済が誤った日銀金融政策のせいでデフレに陥って、賃金が上がらず国民生活が貧しくなった点から説き始め、お決まりの雇用の流動化の必要性を示し、でも、最後にアベノミクスにかけていた所得再配分の必要性を論じています。私はこの著者にかなり近いと考えていたのですが、やっぱり、本書で「雇用の自由化」と称している雇用の流動化、特に、正規職員の解雇規制の緩和については、私は強烈に反対です。非正規雇用が拡大したのは、小泉政権などで強力に進められた人材派遣の規制緩和や半拡大などではなく、デフレが原因と決めつけていますが、デフレのネガなインパクトを軽視するつもりはありませんが、同時に派遣を拡大したのも非正規雇用の増加につながった点も忘れるべきではありません。特に、最近、メキシコ、人材派遣を原則禁止に」とのタイトルで日経新聞で報じられた記事にもあるように、人材派遣業がロビー活動を通じて労働市場を歪めていることは私の目から見ても明らかです。デフレがもたらした経済格差という面は否定しませんが、ネオリベな政策が格差を許容する方向で作用したことは明らかですし、賃金などの待遇で極端に格差がある上に、雇用の安定性にも大きな違いがあり、社会保障のサステイナビリティを低下させている点は黙殺されています。リベラルな野党の主張はほぼほぼ否定されるだけで、アベノミクスの礼賛で終始しています。
次に、朝日新聞取材班『自壊する官邸』(朝日新書) です。著者は、そのまんまで官邸をはじめとする朝日新聞の取材班です。安倍内閣のあたりから始まった強い官邸、あるいは、強すぎる官邸の政治シーンの中で、官僚だけでなく政治家も鑑定に対する忖度が募り、友と敵を二分する思考が蔓延し、権力が官邸に集中していく過程をよく分析しています。特に、政治やいわゆる行政だけでなく、国会はもちろん、準司法的な権力である検察まで含めた強力な権力が官邸に集中されています。そのひとつの側面として、ヤンキー政治とか、反知性主義の政治としてクローズアップされています。また、これを支える小選挙区制についても目が行き届いています。そして、オリンピックとパラリンピックを経て、現在の菅政権がコロナのパンデミックに対処できなくなり、ことごとく対応を誤っているために、実際に本書のタイトル通り、官邸が自壊していく過程が始まっている気がします。もっとも、このように官邸権力が強力になる少し前に私は公務員を定年退職しましたし、そもそも、公務員としてさっぱり出世しませんでしたので、官邸に対して距離があったため、それほど「一強」の実感はありません。よく知られたように、安倍内閣のころは、森友学園での国有地払い下げや加計学園の獣医学部特別認可などにおける忖度、あるいは、その他のスキャンダルがあっても、経済の下部構造が強力に国民から支持されて、選挙で連戦連勝したことは明らかですし、その選挙の洗礼を受けていない現在の菅政権に対する審判がどのように下されるのか、政権選択選挙であるだけに私は大いに興味を持って先行きを注視していたのですが、昨日、菅総理が事実上の退陣を表明したことは広く報じられている通りです。
最後に、田中周紀『実録 脱税の手口』(文春新書) です。著者は、共同通信やテレビ朝日で取材にあたったジャーナリストです。芸能人や起業した会社経営者などが、単なるムチから7日、かなり粗暴な手段で脱税を試みて失敗した事例を多く集めています。基本的に、経費の水増しが多い気がするのですが、繰り返しになるものの、手口がかなり「粗暴」です。ですから、上の表紙画像にあるように「こんなスキームがあったのか?」というのは、やや誇大広告ではないのか、と感じてしまいます。逆に、というか、それだけに、ハッキリと笑えるものも少なくありません。その昔の無記名債券で政治家が脱税、というか、隠し金を作っていたころから、それほど手口は「進化」していないような気がします。ただ、願うべくは、デジタル化やインターネットの普及などに伴う脱税はほぼほぼ含まれていませんし、脱税に従ってイタチごっこのように徴税当局が税制変更を適用していくあたりも、あまり取り上げられていません。それだけに昔ながらの「粗暴」さが際っだっているわけですが、そのあたりをもう少し充実させるのも一安価、という気がしました。でも、そうせずに昔ながらの手口の紹介というやり方もアリだという気もします。
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