予想外の改善を示した日銀短観ともたつき目立つ雇用統計!!!
本日、日銀から9月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは6月調査から+4ポイント改善して+18を示した一方で、本年度2021年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+7.9%の大幅な増加となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
大企業景況感、製造業4ポイント改善 9月日銀短観
日銀が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)はプラス18と前回の6月調査のプラス14から4ポイント改善した。改善は5四半期連続。大企業非製造業の同DIはプラス2で小幅に改善した。国内外のIT(情報技術)を中心とした需要増に支えられ足元の景況感は全体としては上向いているものの、半導体不足など原材料の供給制約が重荷になっている。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。今回の調査は8月26日~9月30日に実施した。東京など19都道府県は緊急事態宣言が発令中だった。
大企業製造業のDIはQUICKが集計した民間予測の中心値(プラス13)を上回った。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年6月にマイナス34まで落ち込んだものの、その後は改善が続いている。9月調査では主要16業種のうち11業種で改善した。IT需要が後押しし、紙・パルプや業務用機械などの業種が好調だった。一方、東南アジアの感染拡大による部品などの供給制約で、自動車はマイナス7ポイントと10ポイント悪化した。
大企業非製造業のDIはプラス2と、前回のプラス1から小幅に改善した。製造業と同様に5四半期連続で改善したものの、水準はコロナ禍前に戻っていない。緊急事態宣言による行動制限が影響し、対個人サービスは悪化。宿泊・飲食サービスは横ばいだった。主要12業種のうち、改善したのは4業種にとどまった。東京五輪・パラリンピックの警備需要などで対事業所サービスが大きく改善した。
やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月、あるいは、四半期ベースでは2020年4~6月期を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで認定しています。
まず、今週火曜日の9月28日付けのこのブログでも日銀短観予想を取り上げ、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIにせよ、設備投資計画にせよ、やや停滞気味で大きな改善がなさそうとの見込みという結果をお示ししていましたし、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく大企業製造業の業況判断DIが+13と前回6月調査から大きな変化なさそうと報じられていましたが、実績が+18ですから、やや上振れた印象です。ほかの主要な経済指標とともに、昨年2020年5月ないし4~6月期が直近の景気の底となっているのは、ほぼほぼ共通しています。もちろん、業種別にはバラツキが大きく、総じて内需や対人接触型セクターのウェイトが高い非製造業では業況感の改善幅が小さく、かつ、水準も低い一方で、それなりに輸出で需要が見込める製造業では改善が大きく、かつ、水準も高い、との結果が示されています。すなわち、大企業カテゴリーの6月調査から9月調査への業況判断DIの変化で見て、電気機械が+2ポイント改善して+30、生産用機械も+8ポイント改善して+34、業務用機械も+8ポイント改善して+16、などに達しています、製造業で唯一の例外といえそうなのは、半導体などの供給制約による減産に追い込まれている自動車であり、▲10ポイント悪化の▲7となっています。対して、非製造業では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が大きい業種に注目すると、同じ大企業カテゴリーで見て、宿泊・飲食サービスこそもうこれ以上の悪化のしようがないのか、横ばいの▲74ですが、対個人サービスが▲14ポイント悪化の▲45、小売が▲6ポイント悪化の▲4、などを指摘することが出来ます。ただし、製造業の自動車や非製造業で上げた3業種などは、先行きはそれぞれ改善を見込んでいます。
続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも方向として不足感が広がる傾向にあります。DIの水準として、設備については、昨年2021年年央の+10くらいの過剰感はほぼほぼ解消された一方で、まだ不足感が広がるという段階には達していません。他方、雇用人員についてはプラスに転ずることなく反転し、足元から目先では不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があると私はと考えています。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。特に、雇用に関しては、新卒採用について新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響がもっとも強く出ている可能性があり、新卒採用計画については、直近の6月調査の全規模で見て2020年度の新卒採用計画が前年度比▲6.8%の減少だった一方で、2022年度採用のリバウンドはわずかに+3.3%増にとどまっています。いずれにせよ、就活にいそしむ学生を身近に感じている大学教員のヒガミかもしれませんが、雇用調整助成金で現有勢力の雇用を維持する一方で、新卒一括採用のシステムの中で、学生の就活にしわ寄せが来るのは避けたい気がします。強くします。
日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、3月調査時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月にはマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正される、というのがあったんですが、昨年度2020年度は大きく通常と異る動きでした。黄色いラインが調査時点とともに下がり続けているのが見て取れます。しかし、今年度2021年度は従来型の動きに戻っている気がします。3月調査の設備投資計画が全規模全産業で+0.5%増のプラスで始まった後、6月調査では7.2%増に上方修正され、本日公表の9月調査では+7.9%増に上方修正されています。COVID-19のショックがもっとも大きかった昨年度2020年度に設備投資を絞ったため、今年度2021年度の設備投資を増やす、という隔年効果があるものと考えられます。ただし、昨年度2020年度の実績見込が▲8.5%減であるのに対して、今年2021年度のリバウインドは現時点ではマラ+8%にも達していませんから、そこは注意が必要です。また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは大企業設備投資で+9.1%増だったのに対して、実績は+10.1%増でしたので、ほぼこんなもんという気がします。加えて、グラフは示しませんが、設備投資の決定要因としては将来に向けた期待成長率などとともに、足元での利益水準と資金アベイラビリティがあります。9月調査の日銀短観でも、資金繰り判断DIはまだ「楽である」が「苦しい」を上回っていて、金融機関の貸出態度判断DIも「緩い」超のプラスですが、他方で、全規模全産業の経常利益は昨年度2020年度の▲20.1%減の大きなマイナスから、今年度2021年度はリバウンドするとはいえ+15.0%増にとどまっています。人手不足への対策の一環として設備投資は基本的に底堅いと考えていますが、最後の着地点がどうなるか、昨年度のマイナスからのリバウンドの強さは不透明です。
日銀短観を離れて、本日は、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、内閣府から消費者態度指数が、それぞれ公表されています。雇用統計は8月、消費者態度指数は9月の統計です。失業率は前月から横ばいの2.8%、有効求人倍率は前月から▲0.1ポイント低下して1.14倍と、雇用は改善が足踏みしている印象です。消費者態度指数は前月から▲0.8ポイント低下して36.7を記録しています。いつものグラフだけ、上の通り、お示ししておきたいと思います。上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数、消費者態度指数、となっており、いずれも季節調整済みの系列です。予想外の改善を示した日銀短観に比べて、雇用統計はやや改善が足踏みした印象です。
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