« 予想外の改善を示した日銀短観ともたつき目立つ雇用統計!!! | トップページ | 高橋遥人投手の連続完封で中日に連勝!!! »

2021年10月 2日 (土)

今週の読書はマルクス主義哲学・経済学の教養書と新書3冊の計4冊!!!

今週の読書は、マルクス主義哲学ないし経済学の教養書に加えて、新書を3冊という読書で計4冊でした。そして、いつもお示ししている本年の読書の進行ですが、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、先週取り上げた6冊を含めて7~9月で69冊、さらに、今日の分からは10月カウントとし、4冊ですから、これらを合計して181冊になりました。

photo

まず、マルクス・ガブリエルほか『資本主義と危機』(岩波書店) です。著者は、著名なマルクス主義に基づく歴史学者、哲学者などで、聞き手も含めて出版社のサイトにある順で、マルクス・ガブリエル、イマニュエル・ウォーラーステイン、ナンシー・フレイザー、アクセル・ホネット、ジョン・ベラミー・フォスター、大河内泰樹、斎藤幸平、ガエル・カーティ、ということになります。最後の3人が基本的に聞き手で、それ以外がインタビューを受ける、という形になっています。出版は今年2021年5月なんですが、ウォーラーステイン教授はすでに一昨年2019年に亡くなっていますし、どこか忘れましたが、2014年のインタビューなんてのもあった記憶があります。マルキストでなくても、例えば、米国クリントン政権の労働長官を務めたライシュ教授なんかでも邦訳タイトルながら『暴走する資本主義』なんて著書もありましたし、現時点で、ネオリベラリズム政策にも起因して資本主義が暴走する危機にある点では、かなりの左派リベラルは一致点が見いだせると思います。ですからこそ、日本の近づく総選挙でも野党共闘が成立したりしているわけです。おそらく、経済的な格差や貧困の観点から、現在の経済が大きな危機に陥っていることは間違いありません。決して左派・リベラルとはいえない主流派エコノミストも、「長期停滞論」の観点から現在の経済が戦後の黄金時代の経済、我が国でいえば高度成長期の経済から大きく変質している点はムリなく合意できると思います。その観点からマルキストはどう考えるか、ただし、エコノミストというよりは主として哲学の方面からの見方・考え方が中心に置かれていますが、それなりに経済への示唆も含まれています。各インタビューの冒頭で、インタビューを受ける著者の資本主義感が述べられていることがあり、私にはなかなか興味深いものがありました。特に、第2章のホネット教授が指摘するように、資本主義とは市場社会の特定の形式に過ぎず、生産、金融、土地資本といった固有の収益率を持つ私有財産に結びついた形式であると述べているのは、まさにその通りという気がします。ハーディンの「共有地の悲劇」"Tragedy of the Commons" やノーベル経済学賞も受賞したノース教授などの制度学派の歴史的な見方が典型であるように、私有財産制度が市場経済の基礎をなしており、すなわち、共有地などのコモンがすべて私有財産として分割され切ったのが資本主義で、それぞれの私有財産の収益率により経済的な格差が生じているわけで、もっとも人口に膾炙したのがピケティ教授の r>g なわけです。そして、私なんかは、市場における価格だけでなく、外部経済のスピルオーバーも含めた本来の社会的な価値に従って分配を是正したりすることが必要と考えていますし、おそらく、マルキストは私有財産の部分からコモンの部分への再分配を通じて格差や貧困を是正する方向なんではないか、という気もします。典型的に、ベーシックインカムはコモンの部分を拡大して個人に分配しようとするものです。もっとも、私は今はマルクス主義とは遠い位置にありますので、私の理解が正確かどうかは自信がありません。そして、格差や貧困と並んで、そのもっとも重要な課題のひとつが、いうまでもなく、地球環境問題・気候変動問題です。これは市場システムでは解決できるとは私には到底思えません。ただし、脱成長の概念がマルクス主義から離れていて、マルクス主義はあくまで永遠の成長論であるとする見方は余りに二元論的な気もします。難しいところですが、私の専門外ながら、なかなかに示唆を得ることが出来た読書だったと思います。

photo

次に、竹下隆一郎『SDGsがひらくビジネス新時代』(ちくま新書) です。著者は、朝日新聞やハフポストのジャーナリスト出身で、今は経済コンテンツサービスを創業する予定らしいです。本書では、やや、SNSに代表されるネットメディアとSDGsが混同されているきらいもありますが、いずれにせよ、私の目から見て、ネットのSNSから個人が発信する上方の重要性に対して、少し楽観的に過ぎる好意を持って書かれている気もします。世間は本書ほどナイーブではないと私は考えています。ということで、本書では、SDGsとともに、アイデンティティという用語をキーワードにして、個人がネットのSNSから情報発信が出来るようになって、それなりの情報支配力を持つ可能性が生まれ、従って、企業は優等生的になった、と冒頭で紹介しています。まあ、SNSからの発信であって、それ自体としてはSDGsとは直接の関係ありませんが、後段で、SDGsがこういった情報発信に乗っかるという方向に議論が進みます。ただ、ネットのSNSを利用した個人の情報発信までは、本書で取り上げているように実例もいくつかありますから、100歩譲って認めるとしても、企業が「優等生化」した、という点はどうでしょうか。個別具体的な企業名は上げませんが、特に、オーナー企業でトップが差別的な情報発信をしたり、上司が部下のワクチン接種に業務を超えて支持を出したりといった例は、まだまだ散見されます。そして、本書でも軽く指摘されているように、育休制度が実際には経営体力に余裕ある大企業や公務員だけの「特権」的な存在になりつつある恐れも残されており、同様に、SDGsに取り組むのも同じような余裕ある企業だけ、という可能性も懸念されます。ただ、2000年から2015年までのMDGsが基本的に政府レベルの開発計画だったのにに比べて、SDGsは本書での視点通りにビジネスを巻き込んだ動きになった点は大いに評価されるべきだと私は考えます。おそらく、SDGsについての意識がもっとも低いのは、私が属しているような大学をはじめとする教育機関ではないか、という気すらします。私は本学に赴任してその点を痛感し、愕然とした思いをした記憶があります。もっとも、大学だから意識が低いのか、あるいは、書とから遠く離れているから意識が低いのか、についてはまだ判断を下しかねています。

photo

次に、津田一郎『数学とはどんな学問か?』(ブルーバックス) です。著者は、北海道大学などで数学の研究者をしています。ですから、というわけでもありませんが、数学の教師・研究者らしく、副題が「数学嫌いのための数学入門」となっていて、自分たち以外の一般ピープルは数学が苦手で嫌いなのだろうという思い込みから始まっています。私も統計や数学やについてお話する機会が少なくないもので、まあ、仕方ないかもしれません。ですから、教師らしい上から目線で書かれており、評価は分かれます。典型的には、AMAZONのレビューを私が見たときには、レビュアーがたったの4人だったのですが、5ツ星1人、4ツ星1人、3ツ星がいなくて、2ツ星1人、1ツ星1人、という見事なまでに散らばった評価が出ていました。加えて、私が必ずしもオススメしないのは、実生活上の応用の観点がまったくないことです。三角形の2辺の和は1辺より長い、と、指数対数でウィルス感染者数の増加曲線、くらいで、数学が実用的でないことを自ら実証しているような気さえしました。いずれにせよ、小学校の算数が文字式を使わずに鶴亀算なんかで解いていたのに対して、中学校に上がって数学になれば文字式、というか、方程式を組んで解く方式に変わるわけで、本書でも数式がいっぱい出てきて、どこまでの理解を前提としているのかが、副題との関係で非常に不可解でした。たぶん、それほど深い考えなしに執筆するとこうなるんだという気がします。さらに、上から目線でエラそうにしていると感じたのは、数学者が詐欺に引っかからないとか、数学に強いと就職に有利とかの無神経な記述が散見され、まあ、サブタイトルとは似ても似つかない高慢ちきな内容に仕上がっています。決してオススメしません。読む前から判っていた気もしますが、少し残念な読書でした。

photo

最後に、稲田和浩『江戸のいろごと』(平凡社新書) です。著者は、大衆芸能脚本家、ライター、作家となっています。私は前にこの著者の同じ平凡社新書の『江戸落語で知る四季のご馳走』という本を読んだ記憶があります。そこでは、「江戸落語」となっていて、本書では「江戸」なしの「落語で知る男と女」がサブタイトルですから、当然、上方落語も加わります。もちろん、タイトル通りに吉原から始まって、品川・板橋・千住・新宿の江戸四宿、さらに、いろいろと男女のお話が続きます。江戸期は、まあ、ひょっとしたら今でもそうなのかもしれませんが、「いろごと」に関して日本人、というか、江戸の人はそれなりに寛容であることが明らかにされています。江戸だけでなく上方も含めて、基本はは、落語から題材をとっていますので、多くのエピソードは町民、というか、一般庶民なんですが、中には大金持ちの大商人や大名を始めとする支配階級である武士のエピソードもあります。時代も違うわけですし、どこまでが江戸期の実態を表しているのかは不明ですが、落語で語り伝えられているだけに、やや笑いに茶化した部分が少なくないとはいえ、それ相応の説得力はあります。すぐに読み終わりますが、まあ、適当な時間つぶしには悪くないと思います。ただし、落語にまつわる古典芸能的なウンチクは身につかなさそうな気もしないでもありません。

|

« 予想外の改善を示した日銀短観ともたつき目立つ雇用統計!!! | トップページ | 高橋遥人投手の連続完封で中日に連勝!!! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 予想外の改善を示した日銀短観ともたつき目立つ雇用統計!!! | トップページ | 高橋遥人投手の連続完封で中日に連勝!!! »