今週の読書は道尾秀介のミステリほか計5冊!!!
今週の読書は、経済書、良質のミステリに加えて、さまざまな分野を対象とする新書が3冊、計4冊です。それから、いつもお示ししている本年の読書の進行ですが、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、7~9月で69冊、さらに、先週までの10月分が12冊に、今日取り上げた5冊を加えて、合計194冊になりました。たぶん、あくまでたぶん、ですが、年末を待たずに近く200冊を超えるのではないかと予想しています。
![神田眞人[編著]『図説 ポストコロナの世界経済と激動する国際金融』(財経詳報社) photo](http://economist.cocolog-nifty.com/dummy.gif)
まず、神田眞人[編著]『図説 ポストコロナの世界経済と激動する国際金融』(財経詳報社) です。編著者は、財務省の公務員であり、今夏の人事異動から次官級の財務官に就任しています。そして、おそらく、極めて多数の財務省の公務員が執筆にあたっているのだろうと私は想像しています。本書は、基本的に、国際金融の制度的な枠組みや気候などについて解説をしている本であり、国際金融を分析している学術書ではありません。ただ、国際組織や国際感の合意文書などについて、おそらく、政府の立場から公式見解を解説しているわけで、こういった事実関係も含めた情報は、ある意味で、とても有り難い場合もあります。もちろん、物足りないという読者も多そうな気はします。例えば、国際金融の枠組みとして「ワシントン・コンセンサス」という言葉があり、ある時は称賛され、別の時には大きな批判を加えられたりしますが、この「ワシントン・コンセンサス」というのは、まあ、何と申しましょうかで、公式な文書で使われる用語ではありません。ですから、本書には一切登場しません。その意味で、物足りない読者もいるでしょうし、逆に、事実関係を確認するために重宝する読者もいるかもしれません。私が10年ほど前まで勤務していた長崎大学経済学部には「国際機関論」という講義科目がありました。そんなのが大学の講義になったりするのか、と私は大いに不思議だったのですが、実に、おそらくは本書の著者たちとよくにたキャリアコースをたどっていたであろう財務省からの出向者が担当していたりしました。ですから、学問分野として、やや不思議な印象はあるものの、それなりのニーズはあるのかもしれません。本書では事実関係だけを取りまとめているので、おそらく、売れ行きがよければ毎年のように改定がなされるのかもしれません。本書の出版社は『【図説】日本の財政』なんかを出しているところですが、なぜか、本書はこの出版社のホムページには現れません。本書の後に出版された本は掲載されているのですが、何かあるのでしょうか。謎です。出版社からはやや冷たい扱いを受けているのかもしれませんが、財務省の広報誌である「ファイナンス」には、当然のように、好意的な書評が掲載されたりしています。その書評によれば、本書は2015年の『図説 国際金融』のアップデートを土台にしているそうです。私は読んでいないのでよく判りません。何ら、ご参考まで。
次に、道尾秀介『雷神』(新潮社) です。作者は、大いに売れているミステリ作家で、私が紹介する必要もないくらいです。特に、注目を集めたのが『向日葵の咲かない夏』だったんですが、私は本書を読むまで映画化もされた『カラスの親指』をもって、この作者の最高傑作と考えていました。しかし、おそらく、現時点では本書がこの作者の作品の中で最高傑作と呼ぶべきと考えを改めています。それほど、素晴らしい出来だと思います。ということで、主人公は埼玉で小料理屋を営む中年男性ですが、昭和の終わりの母の不審死、そして、15年前の妻の事故死、いろいろと降りかかる事件や事故の真相を解き明かすべく、姉とともに子供時代を過ごし古い因習の残る新潟県で調査を行います。父親の手紙とか、家族構成の妙とか、いろんな要素を巧みに織り込んで、主人公を始めとする登場人物、さらに、読者も混乱に巻き込み、ミスリードを広げて、終盤に一気にどんでん返しが待っている構成はお見事です。大雑把に、ネタバレにならない範囲で書いておくと、父親が娘に対する愛情からいろいろと調べて回る、ということになります。善意と悪意が複雑に交錯し、真相が明らかにされて行きます。ほぼほぼ、とても良質なミステリといえます。ただ、私の場合は、ジェフリ・ディーヴァーのような最後のどんでん返しのツイストっぽいストーリーよりは、徐々に徐々に、玉葱の皮がむかれるように真相が明らかになるタイプのミステリが好きなのですが、本作品はそうではありません。最後の最後に一気に真相が、おそらくは、読者の想像とは違う方向で明らかにされます。それはそれで、良質のミステリに仕上がっています。繰り返しになりますが、私以外にも、この作品が作者の最高傑作と見なすミステリ読者は決して少なくないように感じます。
次に、岡部伸『第2次大戦、諜報戦秘史』(PHP新書) です。著者は、産経新聞のジャーナリストであり、駐英時代に英国国立公文書館に通って公文書の発掘に努めたとされています。ということで、かつて世界の海を支配した大英帝国の派遣を支えたインテリジェンスについて、特に第2次大戦の前後に関心を寄せて本書は書かれています。極めて大雑把には、世間一般で流布されているウワサ通りの内容と考えてよさそうです。特に、大きな例外というわけでもありませんが、第2次大戦については、諜報活動を軽視する陸軍などを取り上げて、我が国は情報戦で敗北した、などといわれる場合もある一方で、シンガポール攻略などで、むしろ、英国を凌駕するような情報戦の勝利を上げているという事実も本書では含んでおり、それはそれで興味深いところです。内容としては、そのシンガポール攻略に役立った情報、真珠湾攻撃についての予測情報、インパール作戦とインドのチャンドラ・ボースの足跡、中立国からの外電、ヤルタ密約に関する情報戦、などなどで、理由はハッキリしませんが、なぜか、amazonのサイトが極めて詳細に本書を章別で紹介しています。とても、私の及ぶところではありません。何ら、ご参考まで。
次に、和田秀樹『適応障害の真実』(宝島社新書) です。著者は、ご存じの通り、灘高から東大医学部を卒業して、現在は精神科医なのですが、経歴から理解できるように、受験に関する著作も少なくありません。ということで、なぜか、深田恭子の適応障害による休養から話を始めています。私もファンですから、いいのですが、私は日本人の中では相対的ながらウッダーソンの法則が当てはまる方ですので、数年前に彼女が30歳の誕生日を迎えた、という芸能ニュースに接した際に軽いショックを受けた記憶があります。話をもとに戻しますと、適応障害は症状もうつ病に似ていて、「新うつ病」などと呼ばれることもあるようですが、その違いについて明確にするとともに、薬物治療ではなくカウンセリングによる治療を強く強く推奨しています。私のこの書評も大きく脱線しましたが、本書でも、適応障害のタイトルから大きく脱線して、精神科医の薬物治療依存を批判したり、あるいは、群馬大学病院の医療ミスを取り上げたり、果ては、医学部入試の問題点を指摘したりと、脱線しまくっていて、本筋がやや希薄な本だという気はします。でも、「新うつ病」いわれるくらいですので、適応障害は真面目で、他人に迷惑をかけることを嫌い、完璧主義で臨もうとするような好人物がかかってしまう病気のようです。ベーシック・インカムも推奨されており、その点からも、私は適応障害になる可能性はやや低いのかな、という気はしました。
最後に、辻田真佐憲『超空気支配社会』(文春新書) です。著者は、評論家・著述家であり、近現代史の研究もしているようです。私はこの著者が同じ文春新書から出している『古関裕而の昭和史』を読んだと記憶しています。タイトル通りに、空気が支配する同調圧力の強い日本社会について、出版社の通りに、『週刊文春』などに掲載された著者のコラムなどを収録しています。ですから、必ずしも統一感はありませんが、決してバラバラのコラムやエッセイを収録しただけ、というわけでもありません。右派と左派などの対立軸を導入するといった視点も盛り込まれていますが、基本的には、SNSによって同調圧力が強まったとか、極端に走る言論が増加したとか、議論お加熱が発生しやすくなったとか、まあ、世間一般で認識されている内容が多いと私は感じました。いずれにせよ、健全な常識が重要な役割を果たすわけですし、極論を排して熟議する必要性はいつでも変わりません。ただ、本書の著者の視点にないように感じましたが、安倍政権から菅政権にかけて、いわゆる「一強」支配のために、ネットのSNS以上に極論が出やすい雰囲気があったように、私は考えています。今月末の総選挙から少しずつではあっても軌道修正が図られることを願っています。
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