赤字の続く貿易統計と、持ち直しの動きに足踏みがみられる機械受注の先行きをどう見るか?
本日、財務省から10月の貿易統計が、また、内閣府から9月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列で見て、輸出額が前年同月比+9.4%増の7兆1840億円、輸入額も+26.7%増の7兆2514億円、差引き貿易収支は▲673億円の赤字を計上しています。機械受注については、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比▲0.0%減の8,389億円を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を手短に引用すると以下の通りです。
10月の貿易統計、自動車は36%減 輸出額の伸び率縮小
貿易赤字は3カ月連続
財務省が17日発表した10月の貿易統計速報によると、輸出額は前年同月比9.4%増の7兆1840億円だった。伸び率は5カ月連続で縮小した。新型コロナウイルス禍の部品調達難が続き、自動車が36.7%減ったことが響いた。原油高で輸入額も3割弱増え、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は673億円の赤字。赤字は3カ月連続となる。
自動車輸出は36.7%減の6692億円だった。東南アジアでの新型コロナ感染の再拡大による供給網の乱れを受けた減産の影響が続いているとみられる。台数ベースでも35.7%減った。輸出額は新型コロナ禍の反動で前年同月比で2ケタの伸びが続いていたが、鈍化が鮮明になった。
米国向けの輸出額は1兆3030億円で0.4%増えた。自動車が46.4%減った一方で、半導体製造装置(72.1%増)やパワーショベルなどの建設用・鉱山用機械(49.6%増)などが輸出額を押し上げた。
アジア向けは15.0%増の4兆2447億円となり、この地域向けでは統計を遡れる1979年1月以降で過去最高の輸出額となった。パキスタン向けなどの鉄鋼製品が76.4%増えた。数量ベースでは1割増にとどまっており、鉄鋼製品の価格上昇が輸出額を押し上げたようだ。台湾向けの半導体製造装置なども全体の伸びをけん引した。
中国向けの輸出額も1兆5968億円と9.5%増えた。EU向けも12.1%増だった。
輸入額は26.7%増の7兆2514億円だった。アラブ首長国連邦(UAE)を中心とする原油の輸入額が6175億円と81%増えた。石炭、液化天然ガスの輸入額もそれぞれ2.3倍、67.6%増となるなど、エネルギー関連の伸びが全体を押し上げた。
9月の機械受注、前月比0.0%減 市場予想は1.8%増
内閣府が17日発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比0.0%減の8389億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.8%増だった。
製造業は24.8%増、非製造業は11.7%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は12.5%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いた。
同時に発表した7~9月期の四半期ベースでは前期比0.7%増だった。10~12月期は7~9月期から3.1%増の見通し。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
とても長くなってしまいましたが、いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、貿易赤字が▲2900億円でしたので、実績の▲673億円の赤字は、予想レンジの上限である▲700億円の範囲内であり、まあ、こんなもん、という印象を私は持っています。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は3か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は今年2021年5月から6か月連続となります。しかも、貿易赤字の棒グラフが下向きに拡大しているのが見て取れます。輸出入に分けて見ると、季節調整していない原系列のデータでも、季節調整済みの系列でも、輸入については増加のトレンドにあるように見える一方で、輸出については、特に、季節調整済みの系列のグラフで見て、停滞し始めているのが読み取れます。ただ、それほど大きな悲観材料とはならないと私は受け止めています。まず、輸入についてはワクチン輸入という特殊要因もあるとはいえ、最近時点での国際商品市況における石油価格の上昇が我が国輸入額を押し上げていることは明らかです。例えば、原油及び粗油の10月の輸入額は前年同月比で+81.0%の大きな増加を記録していますが、数量ベースでは逆に▲0.6%の減少となっています。価格が大きく上昇していますから、それほど価格弾力性が大きくないとはいえ、需要曲線に沿って輸入量が減っているわけです。実に、経済学の知見通りの結果です。なお、ついでながら、国内でのワクチン接種が一巡したからなのか、どうなのか、私は専門外ですが、ワクチンを含む医薬品の輸入額は季節調整していない原系列の前年同月比で+12.7%増と、やや落ち着いてきた印象も持ちます。
他方、輸出については輸出全体では前年同月比で+9.4%増ながら、我が国の主力輸出品である自動車が何と▲36.7%減、乗用車に限れば▲40.9%減と、先月9月統計に続いて半減近くまで落ち込んでいます。輸出を全体としてみれば、主として欧米の景気回復に従って我が国の輸出は今後とも増加基調を続けるものと私は予想していますが、中国は別としても、特に東南アジアで新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が深刻となってきている点については注意が必要であり、アジア域内の需要サイドではなく供給サイドの要因で、半導体の供給制約から自動車生産が停滞しており、この先も輸出に一定の影響を及ぼす可能性が大きくなっています。例えば、一般機械+23.0%増や電気機械+10.5%増と比べて、我が国のリーディング・インダストリーのひとつであり、競争力も十分と考えられる自動車が▲40.9%減というのは、これら製品の需要サイドにそれほど差がないとすれば、供給面の制約と考えるべきです。この先行きも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が再び生じるのか、その経済的な影響も無視できませんが、そもそも、国内での感染拡大についてもそれほど確実な見通しを持たない私なんぞは、東南アジアでのコロナ禍についてはまったく見識ありません。このあたりはエコノミストの守備範囲を超えている、とやや諦め気味です。
続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールにより勝手に直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で+2%程度の増加の見通しでしたので、実績の▲0.0%減は、レンジの下限▲1.1%減の範囲内とはいえ、やや下振れた印象があります。もっとも、7~9月期の四半期ベースでは前期比+0.7%増だったわけですし、さらに、先行きについても10~12月期は前期比で+3.1%増の見通しですから、悲観する必要はそれほどないと私は考えています。ただ、1点だけ、貿易統計でも言及しましたが、半導体の供給制約に起因する自動車生産の停滞の影響が懸念されます。より長期的に考えれば、こういった供給制約がある際にはイノベーションの契機となって投資が進む可能性も否定できないものの、短期的には設備投資にマイナス材料となる可能性も十分あります。いずれにせよ、緊急事態宣言がまだ続いていた9月の統計ですから、それを考慮に入れる必要があるものと私は受け止めています。すなわち、10月以降の統計をじっくり見てみたい気がします。
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