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2021年12月11日 (土)

今週の読書は一般向け経済書をはじめとして計4冊と通常通り!!!

今週の読書は、シンクタンクのエコノミストの著書をはじめとして新人作家のミステリなどなど、以下の通りの計4冊でした。このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、7~9月で69冊と夏休みの時期があって少しペースアップし、さらに、その後、本日の4冊を含めて今週までに225冊になりました。今年中にはあと10冊前後ではないかと思います。なお、来週の学部生向けの授業で、昨年と同じように、新書を並べて「年末年始休みの読書案内」を示そうと予定しています。また、このブログでも紹介する予定ですが、今年は少し入れ替えをして10冊くらいを推薦することとしています。ゼミの学生には無理やりにでも読ませようと考えていますが、果たして、授業に出てきている学生諸君は読書するんでしょうか?

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まず、新家義貴『経済指標の読み方』(日本経済新聞出版) です。著者は、第一生命経済研のエコノミストです。なかなかに面白かったです。というのは、私はいわゆる官庁エコノミストの世界から大学の研究者という学術界に転身を図りましたので、ある意味で、両方の世界を知っているつもりなのですが、シンクタンクのエコノミストというのは、どうも、経済学的な思考のバックグラウンドにモデルを持っていないような気がします。ですから、いわゆる世間知の世界になります。逆に、学術界である大学の研究者は現実の経済を知らないわけではありませんが、モデルを分析対象にしています。ですから、専門知になります。これは経済学だけでなく、物理学なんかでも同じで、ホーキング博士は宇宙を研究していたわけですが、いわゆる目に見える宇宙をモデル化したものを、おそらくは、かなりの程度に数式で表されている宇宙のモデルを研究していたわけです。どうでもいいことながら、私が身をおいていた官庁エコノミストはこの中間か、ややが軸術会に近い印象を私自身は持っています。戻って、ですから、学術界の専門知の世界においては再現性というものが重視される一方で、世間知の世界においては各個人により出て来る結果はバラバラな可能性があります。「STAP細胞はあります!」と叫んでも、再現テストに合格しなければ博士号を剥奪されたりするわけです。ですから、私なんぞはモデルを展開するだけであればともかく、何らかの実証的な推計を含む研究成果を公表する際には、データとプログラム・ファイルを何年も保管しておいて、再現性のテストに耐えるようにしていたりします。でも、本書で展開されているのは世間知の経済指標の見方や予測のやり方であって、各人バラバラであろうかという気がします。ですから、本書の読ませどころは第5章までであって、特に、第6章の予測の部分は、個人のやり方の世界にとどまっていて、一般性、というか、科学的な再現性がないのは明白です。でも、こういったシンクタンクでメディアなんかにも露出したエコノミストは、喜んで雇う大学もあるんだろうと想像しています。最後に、とてもつまらないことを2点だけ追加すると、私は前の長崎大学の時に、2年生向けに経済指標を調べるゼミを持っていました。そこで教科書として使っていたのは、久保田博幸『ネットで調べる経済指標』(毎日コミュニケーションズ)だったんですが、絶版になってしまっているようです。誠に残念です。それから、本書で取り上げている経済指標の中に、なぜか、株価、為替、金利、貨幣供給といった金融関係の指標がスッポリと抜け落ちています。金利や貨幣供給なんかは、日銀の異次元緩和の下で指標としての有効性が低下したという気がしなくもないものの、株価は内閣府の景気動向指数の先行指数に組み込まれていますし、為替もテレビのニュースで毎日のように流されていて広く一般に知れ渡った指標です。おそらく、私が前と同じような経済指標に関する少人数のクラスを持つことになれば、たとえ異次元緩和の下で現時点では指標としての有効性が落ちているとしても、包括的に貨幣供給や金利も含めた経済指標を勉強させると思います。何故落としたのか、そのあたりは不明です。

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次に、寺尾文孝『闇の盾』(講談社) です。著者は、警察官から危機管理、というか、トラブル解決の専門家となって、今は日本リスクコントロールという会社の社長だそうです。ほぼほぼ、長らく公務員をして定年退職し、今は教員をしている身としては、大きなリスクに遭遇した経験も乏しく、それなりの興味を持って読み始めたのですが、まあ、基本的に、ややお年を召した方がご自分の半生を振り返っての「自伝」で自慢話しを展開している、というのに近い気がします。もちろん、その自慢話しがそれなりに興味を引き立てるものであるからこそ大手出版社から本で出ていることはいうまでもありません。著者が恩師と仰ぐ秦野元参議院議員をはじめとして、実に、ほぼほぼ実名で登場する人物が多く、私のような不勉強なものにも田中角栄元総理とか、上の表紙画像に見えるお二人とか、有名人も多く登場します。私のような一般ピープルはそれほど多くのトラブルに巻き込まれるわけではないのかもしれませんが、著名人であればそれなりのトラブルもあるでしょうし、そのトラブルから受けかねない潜在的なダメージも決して小さくないのだろうと想像できます。ただ、エコノミストの目から見て、本書の読ませどころはバブル期の経済事案です。イトマン事件をはじめとして、どうも、東京をホームグラウンドとする著者にしては関西案件が多いような気もしますが、バブル期に土地・ゴルフ会員権・絵画といった資産に群がって、しかも、それら資産を借入れでファイナンスして値上がりで利益を上げる、という、まあ、それほど健全とは思えない経済・金融活動で日本中が賑わっていた事実を感じ取ることが出来ます。私は大学の授業で景気変動を経済政策、すなわち、財政政策や金融政策で平準化させることを教えていて、不景気から景気浮揚を図る政策については説明しやすい一方で、逆に、好景気を冷やす必要性についてはついつい口ごもってしまうケースもあったりすることもあります。まあ、インフレが生じたら景気を冷やす必要がある、とは教えるのですが、デフレがマダ完全には脱却できていないわけですから、バブルのような好景気もインフレも、今の20歳前後の学生諸君には想像が及ばないのも判らなくもありません。それにしても、バブル期というのは、私自身が30歳前後で浮かれていて、バブル崩壊が一般的に認識される前に外交官として海外赴任してしまったものですから、今さらながらに、何だったのか、という疑問は残っています。

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次に、新川帆立『元彼の遺言状』(宝島社) です。著者は、新人ミステリ作家であり、この作品は上の表紙画像に見えるように、本年2021年第19回の『このミステリがすごい!』大賞受賞作です。主人公は20代後半のエリート女性弁護士であり、事務所から支給されるボーナスが250万円にダウンしたことで事務所を辞めて、タイトル通り、元カレの遺言状の謎を解くことを始めます。その元カレというのは、製薬会社のオーナー一族の御曹司であり、見た目も素晴らしい好男子であると設定されています。ただし、小説の出だしから、もう死んでいたりします。そして、何よりも奇妙な遺言状というのが、その元カレが死ぬ際に、元カレを殺した人物に全財産を譲る、ということになっています。もちろん、本書でも弁護士である主人公が指摘するように、それなりの遺留分というのはあるわけで、ホントにすべての遺産を相続できるわけではありません。その上、警察はすでに元カレの死因を自然死と公表しており、従って、元カレを殺した人物を捜査しようという意図もなく、一族がオーナーをしている製薬会社の代表者が、元カレの殺人者を認定する、ということになっています。もちろん、主人公が代理人を務める人物以外にも、数十億を超えるような遺産を目当てに自ら犯人を名乗り出る人がいっぱいいて、選考過程もコミカルに表現されています。すなわち、ホントに誰が殺人者であるかという真実ではなく、犯人が相続する株式の行方を重視して犯人が選考される、ということになります。プロットとしては、それほど、というか、少なくとも目を見張るような鮮やかな展開ではありませんし、いろいろとストーリーが流れた挙げ句に、最後の最後に、割とつまんない理由で犯人が判明したりするので、玉葱の皮をむくように徐々に少しずつ犯人が明らかになるタイプのミステリが好きな私からすれば、それほど高く評価できる内容ではありません。もちろん、新人ミステリ作家ですから、あまりな高望みは禁物であることは自覚しているつもりです。ただ、謎解きミステリとしては、まだまだ不十分かもしれませんが、人物像はよく描けており、キャラは立っています。ストーリーの運びはやや不自然な部分がなくはないものの、全体としては評価できるところです。ただ、ミステリの肝である謎解きだけが少し常識的に過ぎる、という気がしてなりません。新人作家のチャレンジなのですから、もう少し派手な展開もあっていいいような気も、併せて、しなくもありません。

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最後に、高橋克英『地銀消滅』(平凡社新書) です。著者は、証券会社や銀行などで銀行株のアナリストを経験したこともあるようで、今は金融機関向けのコンサルなのではないか、と私は受け止めています。麗々しく、日本金融学会会員、と著者略歴に書いてあるのは微笑ましかったです。ということで、内容はタイトル通りに、地銀の経営が行き詰まりつつあり、今後の合従連衡が進むのではないか、ということが明らかにされています。実は、3週間前の11月20日の読書感想文で取り上げた原田泰『デフレと闘う』にも何度か「地銀は終コン」である、と出ていましたが、私も最近になって、地銀と取引する機会があって、メガバンクとの差が大きいと実感しました。政府が中央政府と地方政府で3層のレイヤーとなっているわけで、銀行はそのままではないとしても、全国レベルのメガバンク、都道府県レベルの地銀=地方銀行、そして、区市町村ではないとしても、都道府県よりもさらに小さいレベルの信金・信組という構造になっていて、『デフレと闘う』ではメガバンクと信金・信組はまだいいとしても、地銀こそが過剰な人員をはじめとする経営リソースを抱えてムダが多い、という議論を展開していたのですが、本書では、メガバンクはともかく、地銀よりも規模の小さな信金・信組に関する議論は何らなされていません。私は公務員として東京でお仕事をして、メガバンク、あるいは、メガバンクの系列の信託銀行などに口座を持って、お給料の振込みや電気ガス料金などの公共料金の引落し、などといった通常業務の他に、マイホーム購入のための住宅ローン借入れなんぞも経験あるのですが、一般に、東京と比べて関西では何ごとにも時間がかかると思っていた矢先に、地銀もそうだと認識する出来事がいくつかありました。東京のメガバンクと関西の地銀の間のギャップについては、これが、メガバンクと地銀の差に帰着するのか、東京と関西の違いに起因するのか、私には定かには判別できませんが、確かに、東京のメガバンクと関西の地銀の差はかなりのもんだと実感しています。それを本書で改めて確認することが出来ました。決して私の偏見に基づく感覚ではないのだろうと思います。

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