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2022年1月15日 (土)

今週の読書は経済書を中心にミステリも入れて計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、ハンナ・フライ『アルゴリズムの時代』(文藝春秋)、竹信三恵子『賃金破壊』(旬報社)、グイド・キャラブレイジ『法と経済学の未来』(弘文堂)、M.W.クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫) の計4冊です。『アルゴリズムの時代』はアマゾンのリコメンデーションなどで我々も広く接するようになったアルゴリズムについて、数学者としてかなり客観的な議論を展開しています。『賃金破壊』は賃金を支える組合運動の重要性に焦点を当てていますが、特に、警察や検察による関西生コンの労働組合弾圧の実情が詳しく紹介されています。衝撃的です。M.W.クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫)はワシントン・ポーのシリーズ第2弾で、とても複雑なサイコパスによる犯罪偽装を主人公のチームが謎解きします。なお、今年に入って、これまでのところ、新刊書読書はわずかに8冊にとどまっています。大学の授業がそろそろ終わって、リポートなどの採点はあるものの、時間的な余裕が出来ればもう少しピッチを上げて読書したいと考えています。

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まず、ハンナ・フライ『アルゴリズムの時代』(文藝春秋) です。著者は、英国の数学の研究者です。英語の原題は Hello World であり、2018年の出版です。タイトル通りに、データ処理のアルゴリズムについて豊富な実例を上げつつ論じています。章構成が奮っていて、影響力、データ、正義、医療、クルマ、犯罪、芸術の7章構成です。特に、驚いたのは、米国では裁判の量刑判断にアルゴリズムを使う場合があるようで、そこまで出来るのか、というのは初めて知りました。実際の実用可能性もさることながら、社会的な許容度も日本とは違うのだろうという気がします。なお、厳密に言えば、AIとアルゴリズムは違うのかもしれませんが、本書を読んだ印象では、かなり近いという気がします。すなわち、AIにせよ、アルゴリズムにせよ、私は確率計算であって、もっとも確率のいい方法を選ぶ、ということなんだろうと思います。ですから、本書でも指摘されているように、エラーは2通りあって、偽を真と間違う場合と、真を偽と間違う場合です。コロナ検査を例に持ち出すと、陽性なのに陰性と判定してしまうエラー1と陰性なのに陽性と判定してしまうエラー2です。医療などでは、このコロナの検査のケースなどでは、エラー1の方が潜在的なリスクが大きく、エラー2の方が許容範囲が大きいといえます。ですから、医療では、末期ガンの患者には残りの人生を短めに告知するバイアスがあると広く考えられていたりするわけです。ただし、そういったバイアスはヒトが主体的に行っているわけで、アルゴリズムが確率的に中立な回答をすれば、かなり世の中の受止めも変化する可能性があります。さらに、こういった社会的な許容度に関しては分野も大いに関係します。戦略の選択、例えば、野球で強硬策かバントで手堅く送るか、といった判断にアルゴリズムを使うことに対しては、ほとんど社会的な批判は生じないと考えられて許容度が高いのに対して、先ほどの例のように、刑事裁判の量刑や民事裁判の賠償額にアルゴリズムを適用することに対しては慎重な意見が多く出そうな気もします。ただ、そうはいいつつも、人間、というか、医師や裁判官といった専門家が判断するよりも、アルゴリズムに判断を委ねる比率が上昇する傾向にあることは確かでしょうし、本書のような観点から、そのアルゴリズムの特徴や欠陥や利点を知っておく必要はますます大きくなりそうです。

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次に、竹信三恵子『賃金破壊』(旬報社) です。著者は、ジャーナリスト出身の研究者ですが、本書の立ち位置はジャーナリストと考えていいのではないでしょうか。ですから、タイトルに見られるように研究者として賃金を主に論じているわけではなく、賃金を支える基盤としての労働組合をジャーナリストの視点から議論しています。そして、インタビュー先の労働組合とは産別の関西生コンです。私も東京にいる間はまったく知識が乏しかったのですが、関西に来て私大の教員となった後、同僚教員にも支援している人がいると知り、それなりに知識が蓄えられてきましたが、本書が指摘するように、まだまだ間違った見方も少なくないのではないかと思います。しかも、そういった謬見に基づいて警察や検察が、意図的かどうかは別にして、労働組合に対して敵対するような捜査活動をしている点は、本書で積極的に明らかにされています。そして、私の読後感でも、警察や検察は、おそらく、意図的に労働組合運動に対して敵対している可能性が高い、という気がしています。私の研究者としての見方からすれば、労働組合は賃金上昇の強力なテコであり、我が国で賃金が下がり続けているひとつの要因としての組織率の低下や労働組合の右傾化があります。組織率の低下は今さら論ずるまでもありませんし、最近、連合がナショナルセンターとして立憲民主党に対して昨年の総選挙結果に照らして共産党との決別を迫るなど、労働組合とは思えない、まるでどこかの与党別働隊の大阪ローカル政党のような方向性を打ち出した点など、ひどい有様です。もう10年ほど前の学術論文ですが、Galí, Jorge (2011) "The Return of the Wage Phillips Curve," Journal of the European Economic Association 9(3), June 2011, pp.436-61 においても、賃金への説明変数として労働組合の要因が正の相関関係を持って関数に入っていたりします。本書で指摘するように、公権力が労働組合運動を弾圧する日本というのは、私には信じられませんでしたが、こんな国では賃金が上がらないわけだと納得させられるものがありました。多くの人が本書を手に取って読むことを願っています。

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次に、グイド・キャラブレイジ『法と経済学の未来』(弘文堂) です。著者は、もうすでに引退した年齢ながら米国イェール大学ロースクールの研究者であり、法と経済学の学祭分野の大御所です。英語の原題は The Future of Law and Economics であり、2016年の出版です。本書ではマスグレイブ教授などの指摘するメリット財を中心に議論しています。ただ、我が国経済学界ではメリット財よりも「価値財」と呼ぶ方が一般的な気もします。もっとも、法学界は違うのかもしれません。マスグレイブ教授は著名な財政学や公共経済学の研究者でしたが、いわゆる消費の非競合性や非排除性を有する公共財と少し違って、価値財=メリット財はある個人が消費すれば、社会的な利益が他の人にも及ぶ財のことです。本書では徴兵や兵役を例に上げています。現時点での日本にはコロナのワクチン接種がある程度当てはまると考えます。ある個人がワクチンを摂取すれば、コロナに感染しにくくなって社会的な利益につながるからです。こういった価値財=メリット財は通常の市場において個々人の購買力に応じた資源配分をすることが適当ではないと考えられます。例えば、ゲームソフトであれば、お金持ちがいっぱい持っていても許容されるのでしょうが、お金持ちだけが何度もワクチン接種を受けられる一方で、経済的な余裕ない人はワクチン接種も十分に受けられない、というのは、社会的に許容されないだろうと考えられます。本書の例では、徴兵、というか、お金持ちがその経済力でもって兵役を逃れるのは社会的に疑問であるとしています。こういった価値財は、通常の財と同じで、基本的に多ければ多いほどいいのですが、その天井が通常の財よりもかなり低いと考えるべきです。まあ、ビールを何十リットルも飲めるわけではありませんが、ビールであれば「多々益々弁ず」の世界ですが、ワクチンでは回数を多く打てば青天井にそれだけ有効性が高まる、というものでもなく、上限値はそれほど高くないと考えられます。ですから、他方で、分配というものが重要になります。通常、エコノミストは一般財であれ、価値財=メリット財であれ、多ければ多いほど好ましく、他方で、分配が平等に近いほど好ましい、と考えます。ただ、それは、特に価値財=メリット財の場合は市場において達成されないわけですから、法律による強制を含めて考慮する必要がある、というわけです。経済学的には、私の専門とするマクロ経済学ではなく、もろにミクロ経済学的な分野なので、私も十分に理解できたわけではないかもしれませんが、新自由主義的な経済政策の下で格差が大きく拡大した日本でも、本書で展開されているような議論が必要となるような気がします。

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最後に、M.W.クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫) です。著者は、英国のミステリ作家です。刑事ワシントン・ポーのシリーズ第2作であり、英語の原題は Black Summer であり、これは地名です。原作は2019年の出版です。私はシリーズ第1作の『ストーンサークルの殺人』も読んでいて、昨年2021年9月25日付けの読書感想文で取り上げています。本日着目するシリーズ第2作も、第2作と同じでとっても手が込んでいます。相変わらず、主人公のポーを分析巻のティリー・ブラッドショーとポーの上司のステファニー・フリン警部がサポートする、という作品です。さらに、本作品から病理医のエステル・ドイル医師も加わって、ポーの援護陣が手厚くなっています。それというのも、主人公のポーの危機が前作よりもさらに深刻化して、とうとう殺人犯として指名手配されてしまったからです。事件は、数年前にポーが解決に努力した殺人事件、ミシュランで3ツ星を取った英国のカリスマ・シェフがじつの娘を殺害したとされる事件で、その被害者が警察に出頭した、というか、正確には図書館に駐在している警察官のところに来た、ということから始まります。裁判でも殺人者と断定されたカリスマ・シェフはポーから見れば明らかなサイコパスなんですが、そのサイコパスは当然のように冤罪を主張しますし、加えて、地元警察のエリート警察官からも冤罪の原因を作った犯罪者のようにみなされて、ポーが地元警察から必要な捜査支援も得られず、それどころか、指名手配されて身動きができなくなりながらも、キチンと事件を解決する、というストーリーです。極めて複雑なプロットで、実際にはありえないタイプの犯罪だろうとは思いますが、それもまたミステリ小説の楽しみです。

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