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2022年1月22日 (土)

今週の読書は経済書から仏教思想史まで計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。なぜか、東京大学出版会の学術書が2冊とちくま新書も2冊という計4冊です。小説、特に、ミステリは入っていません。著者・編者は、それなりの知名度の経済学の研究者3人と仏教思想研究の大御所です。深尾京司[編]『サービス産業の生産性と日本経済』(東京大学出版会)では経済産業研究所などで開発されているJIPデータベースについての解説や、このデータを利用した定量分析の結果が示されています。ただ、よく、サービス産業の生産性向上が賃金上昇や日本の成長率の引き上げに必要と主張されますが、短期には疑問があると私は考えています。石見徹『日本経済衰退の構図』(東京大学出版会)では、バブル崩壊後の日本経済の失速について様々な角度から議論されていますが、政策的対応の提示に成功しているかどうかは判断が分かれると思います。原田泰『コロナ政策の費用対効果』(ちくま新書)では、かなり直感的で大雑把ながら一定の利用可能なデータを用いてコロナ対策の費用対効果について定量的な分析場加えられています。最後の木村清孝『教養としての仏教思想史』(ちくま新書)では、タイトル通りに、仏教の思想史が開祖のゴータマから日本近代まで実にわかりやすく、とは言いつつも、それなりの深さを持って展開されています。
今年それから、2022年に入ってからの新刊書読書は、読書感想文ポストのたびに4冊ずつで計12冊となっています。

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まず、深尾京司[編]『サービス産業の生産性と日本経済』(東京大学出版会) です。編者は、一橋大学の研究者です。出版社から見ても、ほぼほぼ完全な学術書と考えるべきです。ということで、2018年に改定されたJIPデータベースの解説をしていて、少しだけ応用研究の成果も収録しています。JIPデータベースとは経済産業研究所(RIETI)で開発されている産業別の基礎データであり、基本的には、産業構造の変化を把握するために雇用者や資本ストックなどの基礎的なデータを収録していますが、かなり詳細かつマニアックと評価する人もいるかもしれません。本書では、データベースそのものや推計方法などを解説しているほか、必ずしもJIPデータベースを使ったものばかりではありませんが、タイトル通りに、サービス産業の生産性分析を中心に議論を展開しています。もっとも、あまり関係のなさそうに見える論文もあります。2010年代以降、我が国ではかなり投資が抑制されていて、原因としては将来成長率の低下などが上げられていますが、JIPデータベースでも投資の伸び悩みは確認されています。他方で、広く論じられているように、我が国では賃金がまったく上昇しなくなってしまっており、賃金にも投資にも企業の資金が向かわず、ひたすら内部留保として溜め込まれている事実が浮き彫りになっっているといえます。サービス産業の生産性に関しては、人工知能(AI)やロボットとと関連する分析も収録されており、もちろん、こういった最先端技術と生産性は正の相関を示しています。医療サービスの質とコストに関しても分析が加えられているほか、物的な資本だけでなく無形資産や時間利用の観点から、家計の余暇活動、また、人的資本という意味では、不妊治療まで含めた議論が本書では展開されています。ただ、いつも感じる点ですが、生産性を論じる場合、今日強雨サイドのみに着目されて、短期の生産性で需要の果たす役割がまったく無視されている気がします。経済学的に重要な意味を持つ全要素生産性(TFP)は残渣でしか計測されませんが、通常の労働生産性であれば需要を雇用者数で割って求められるわけですから、短期に資本ストックが大きな変動なくても需要が動けば変動しますし、事実、日本の労働生産性はほぼ需要とシンクロして変動しています。もちろん、長い目で見れば供給サイドの分析も大いに有用であり、例えば、高度成長期には生産性の高い産業や企業に雇用者が移動することにより、経済全体の生産性が高まるという効果が見られましたが、少なくとも、1990年代初頭のバブル崩壊以降の時期では、雇用者をアウトプットとの比で減少させることにより生産性を高める努力がなされました。典型的には電気産業がそうです。ですから、もう少し本書とは違う視点が必要な気もします。

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次に、石見徹『日本経済衰退の構図』(東京大学出版会) です。著者は、東京大学の名誉教授であり、本来はマルクス主義経済学のエコノミストです。少し前に同じ出版社から荒巻健二『日本経済長期低迷の構造』という本も出ており、私も2019年9月8日付けの読書感想文をポストしています。最後の1文字が少し違うだけで、紛らわしいタイトルであると思いますが、まあ、仕方ないのかもしれません。ということで、マルクス主義経済学のエコノミスト、特に、その主流ですらない宇野派の東大名誉教授のエッセイですので、私には少し難解な部分もありました。基本は、戦後日本経済の発展や成長を支えてきたメカニズムが大いに弱体化している、ということなのだろうと思いますが、労使協調体制なんかは、現在の同盟労働組合のナショナルセンターである連合を見ている限り、労働組合がひどく経営サイドにすり寄っている気がします。その限りでは、労使協調は引き続き堅持されているのですが、労働者にメリットが及ばない形で、別の表現をすれば、労働者の搾取が激化する形で資本主義の延命、というか、日本経済の成長が支えられている気もします。特に、中小企業の淘汰を進めようとしているアトキンソン理論に対して、かなりの程度に同調を感じさせる部分が少なくなく、これでもマルクス主義経済学の立場からの視点といえるのだろうか、と主流派エコノミストの私ですら心配になります。加えて、日本経済の停滞を少子高齢化という人口動態で説明しようとするのは、まあ、流行りですので仕方ない面があるとは思いますが、少子化の原因のひとつに経済的理由による堕胎を合法化した優生保護法の改正に帰着させるのは、何とも私のは言いようのない違和感が残りました。他方で、財政赤字を経済に対するマイナス要因とする見方も、まあ、これ幅広く流布しているので容認するとして、その財政赤字の原因については正確に法人税などの直接税の引き下げと見抜いていたりもします。どこかの大阪のローカル政党のように「身を切る改革」といいつつも、政党交付金や文通費をちゃっかり懐に収めるのとは、さすがに、分析能力が違うと感心しました。日本経済について、いろんな見方を示しているのはいいと思いますが、互いに同じ本の中で矛盾しかねない論点があったりもしますし、必ずしも説得的ではありません。残念ながら、私は本書をそれほど高く評価するのは難しいと感じました。

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次に、原田泰『コロナ政策の費用対効果』(ちくま新書) です。著者は、官庁エコノミスト出身で日銀制作委員も務め、現在は名古屋商科大学の研究者です。というか、私は役所に勤務していたころに何度かこの著者の部下を務めたことがありますが、「日本の実質経済成長率は、なぜ1970年代に屈折したのか」と題する共著論文があるとはいえ、サッパリ評価されていなかったんだろうと思います。ということで、本書では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染抑制のための措置について5章、経済への悪影響緩和のための措置を2章、計7章に渡ってタイトル通りの費用対効果が可能な範囲で考察されています。ただし、私のしるこの著者の性格と合致して、かなり大雑把な定量評価です。少なくとも確率分布を前提にした数量分析ではありませんから、帰無仮説を検定する形はまったく取られていません。例えば、7.8兆円をかけて3.9万床の病床を確保したのだから1床当たり2億円は高すぎる、といったカンジです。特に、興味深かったのは第3章のPCR検査のシーヤ派とスンナ派というネットスラングを使った対比で、私なども当初から指摘していたように、また、本書でも認めているように、ワクチンや特効薬がない初期の段階では検査を大規模に実施して陽性者を隔離する必要があると考えたのが正しいと結論しています。でも、この著者のひねくれたところで、どうしてそうならなかったのかについて、政治力学的な考察も加えています。コロナ不況を分析した後段では、供給ショックか、需要ショックかについて、かなりあいまいな結論しか導けていません。2020年段階では経済産業省の「通商白書」がかなり早い段階から供給ショック説を取り、内閣府の「経済財政白書」が需要ショックを考慮したのにと対象的でしたが、私は、おそらく、当初は供給ショックだったものが、需要ショックも一部に現れ、つい最近時点での自動車の半導体部品供給不足やマクドナルドのポテトSサイズ限定に見られるような供給ショックでも明らかな通り、基本的には供給ショックがドミナントで、一部に需要ショックも見られる、ということなのだろうと理解しています。ですから、本書でもGoToキャンペーンが否定されているように、需要喚起策は費用対効果が悪い、というか、実施すべきではない、と考えています。まあ、政治力学的にはどこかに利権があるのかもしれませんが、私は首都東京から遠く離れた関西に住んでいて、本書の著者ほどには、そのあたりの情報は持ち合わせません。最後に、本書のp.209に費用対効果を取りまとめた表があります。立ち読みで十分と考える向きには、この一表でかなりの程度に理解が進むものと期待されます。

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最後に、木村清孝『教養としての仏教思想史』(ちくま新書) です。著者は、東京大学名誉教授にして、鶴見大学学長なども務めた仏教研究の大御所です。新書ながら、巻末の略年表や索引まで含めると軽く400ページを超える大作です。もっとも、本書のタイトルである仏教思想史を論じるとすれば、学術書であれば10冊あっても足りないでしょうから、これくらいのコンパクトな新書で大雑把な仏教思想史を概観できるのは有り難いと思います。私自身は仏教とは心理の体型であると考えているのですが、何分、本書のテーマはその思想の歴史です。ですから、開祖のゴータマによる仏教の成立から始まって、私のようなシロートには中国に伝来するまでのチベットや東南アジアでとどまっているところまでの思想史はとても難しかったです。中国に伝来して、例の有名な玄奘三蔵法師あたりから少しずつ実感を持って接することが出来るようになり、そして、何と言っても浄土教系の思想が成立する頃からは、さらに身近な仏教を感じることができました。中国に入った仏教は、「陰陽説の影響を受けてまず業と輪廻の思想一定の変質を遂げ」(p.180)、その後の新仏教の時代が始まります。日本では鎌倉時代の仏教であり、圧倒的に浄土宗と禅宗が重要と私は考えています。もちろん、本書で強調するように、同じ禅宗でしかも時期的にも同じころに日本に伝来された栄西の臨済宗と道元の曹洞宗では大きな違いがあります。国家鎮護的な前者と個人の修行を重視する後者の姿には目を開かされます。浄土宗では、少なくとも法然の浄土宗と親鸞の浄土真宗には、私は大きな違いはないものと考えています。少なくとも在野の檀家にはほぼほぼ差はなく、むしろ、戎を受けるかどうかという点で僧侶の方に違いがあると私は認識しています。とても浩瀚な研究を下敷きにしたであろう本書は、私のような熱心な仏教徒からすればとても勉強になるのですが、唯一物足りなかったのは近代日本の明治期における廃仏毀釈の動きです。ほぼほぼ何も本書は語ってくれません。他の国でも廃仏の動きをした国は少なくなく、現在でもアフガニスタンでは偶像崇拝の一言で人類共通の重要な文化遺産が破壊されたりしています。明治期の日本における廃仏運動について、現在の仏教徒も関係がないわけではありませんから、もう少し言及が欲しかった気がします。

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