日本経済研究センター(JCER)のコラム「家計貯蓄率はなぜ上昇しているのか」が示す不都合な事実を読み解く!!!
一昨日2月1日、日本経済研究センター(JCER)の研究顧問である齋藤潤さんのコラム「家計貯蓄率はなぜ上昇しているのか」が明らかにされています。齋藤さんは私の役所の先輩なのですが、やや不都合な事実が示されているように感じたのは私だけなのでしょうか。
まず、上のグラフは日本経済研究センターのサイトからSNAベースの四半期別家計貯蓄率のグラフを引用しています。コラムでも指摘されている通り、ライフサイクル仮説に従えば、我が国経済社会の高齢化とともに貯蓄率は低下します。消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年4月の直前1~3月期までは、まさにライフサイクル仮説の通りに貯蓄率は低下しています。というか、そのように見えます。しかし、その後、貯蓄率は反転上昇しているようで、2020年にジャンプしたのは、これもコラムで指摘されている通り、特別定額給付金が給付された一方で、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大に対して緊急事態宣言が発出され、ステイホームが要請された影響もあって家計消費が減少した、という所得と支出の両方向のの要因が重なった結果といえますが、その後、2021年に入ってからも貯蓄率は上昇を続けているように見えます。
続いて、上のグラフは日本経済研究センターのサイトから家計調査ベースの平均消費性向(2人以上の世帯のうち勤労者世帯)のグラフを引用しています。SNAベースと異なる家計調査のベースでも、貯蓄率の上昇、逆から見て消費性向の低下が観察されます。コラムでは「平均消費性向の低下傾向(貯蓄率の上昇傾向)が、2016年頃より始まっている」と指摘していますが、明らかに、2014年4月の消費税率の引上げから始まっています。2019年10月からは一部に軽減税率の適用があるとはいえ、消費税率は再び8%から10%に引き上げられたのは記憶に新しいところです。ですから、コラムでも消費税率引上げの影響を指摘しています。すなわち、私の表現を使えば、消費税率の引上げとは消費に対するペナルティであり、貯蓄を促進する要因となるわけですから、当然、消費税率引上げは貯蓄率の上昇をもたらします。
続いて、上のグラフは日本経済研究センターのサイトから現金給与総額と所定内給与(5人以上)のグラフを引用しています。貯蓄率や消費性向に関しては、ライフサイクル仮説が勤労世代の貯蓄積み上がりと引退世代の貯蓄取り崩しを指摘し、従って、高齢化の進行とともに貯蓄を取り崩す引退世代が相対的比重を増して、経済社会全体としても貯蓄率が低下する傾向を示す一方で、もうひとつ恒常所得仮説があります。すなわち、恒常所得の増加が消費の増加をもたらす一方で、日本的なボーナスなどの臨時所得はそれほど消費に結びつかない、という議論です。そして、上のグラフから、2018~19年ころまで所定内給与よりも現金給与総額の伸びの方が高かったことが見て取れます。つまり、所定内賃金よりも所定外賃金の伸びの方が高く、従って、恒常所得ではないために消費を安心して増やすことができなかった可能性があります。同時に、コラムでも指摘しているように、グラフこそありませんが、年金などの社会保障をはじめとする政策動向、あるいは、経済社会全体の先行き不安などから消費を手控えて、その反対側で貯蓄率が上昇していた要因も無視できません。
私は、コラムで指摘されているように、国内貯蓄の低下によって投資が制約されるとは思いませんが、消費税率の引上げや所定内賃金の停滞といった不都合な事実による貯蓄率低下である可能性は十分に認識すべきだと考えています。コラムで議論されている貯蓄率は、いわゆる事後的な貯蓄率であり、景気を停滞させかねない消費性向の低下とは考えられませんが、好ましくない原因による経済社会の変調なのかどうかを見極め、もしそうであれば、それなりの対応が必要かもしれません。
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