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2022年4月30日 (土)

ボロボロだった開幕ながら4月は5連勝フィニッシュ!!!

  RHE
阪  神000101620 1071
読  売020000010 381

開幕はボロボロなスタートだったのですが、今日はラッキーセブンにもらったチャンスを生かして巨人に連勝し、4月は5連勝フィニッシュです。
先発のウィルカーソン投手が何とかがんばって5回2失点でしのいだ後、6階には佐藤輝選手のタイムリーで同点に追いつき、7回は巨人リリーフ陣の乱調により押出しの2点も含めて6得点で圧倒しました。先発がしっかりと投げ、打線も活発になった気がします。今日は、勝ちパターンのリリーフ陣を温存しました。その中で、渡邉投手の30歳での初勝利おめでとうございます。
どうでもいいことを2点、日テレの自由視点映像はキモいです。それから、試合後のインタビューは、監督インタビューなしで、ヒーローに出て来て欲しい気がします。まあ、矢野監督の顔を見たくないというわけではないのですが...

明日は西純矢投手を守り立てつつ3タテ6連勝目指して、
がんばれタイガース!

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(2022年4月30日) 今週の読書は社会学者が書いた経済書からSF小説も含めて計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。
ジェイク・ローゼンフェルド『給料はあなたの価値なのか』(みすず書房)は、社会学者が書いた賃金の不平等に関する経済書です。なかなか鋭く切り込んでいます。ただ、経済的な格差の進み方は日本と欧米ではかなり異なっていて、欧米ではお金持ちがさらに所得を増やして格差が拡大しているのですが、我が国では低所得者がいっそう貧しくなって不平等が拡大し貧困がひどくなっています。非正規雇用の拡大がどちらも一因となっていますが、特に、日本で非正規雇用拡大の影響が大きい気がします。カルロ・ロヴェッリ『科学とは何か』(河出書房新社)は、古典古代のギリシア時代のアナクシマンドロスの哲学、すなわち、雨や風や波を起こしているのは神々ではなく、原因は究明できるという観点と、事実を常に探究すべきであり既成事実に安住することはよくない、という点を強調しています。アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上下(早川書房)は、地球の危機を救うために13光年離れた宇宙をたった1人で旅するSF小説です。日本人なら、「宇宙戦艦ヤマト」を思い起こすかもしれません。最後に、濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)は、日本的なメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いを明らかにし、従来の誤解を解こうとしています。
なお、今週の5冊を含めて、今年に入ってから新刊書読書は計68冊と去年に比べてややスローペースです。昨年は5月1日の土曜日ですでに74冊を読み飛ばしていました。今年の4月は忙しかったせいかもしれません。ただし、何とか年間200冊には達するんではないか、と考えています。年間200冊は目標とかではなく、価値観抜きの単なる予想です。なお、このブログで取り上げた読書感想文は、順次、可能なものからFacebookでシェアする予定です。それから、本日の朝日新聞朝刊でアジア・パシフィック・イニシアティブ『検証 安倍政権』(文春新書)の書評が掲載されていました。私のこの読書感想文では2月26日付けで取り上げていました。

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まず、ジェイク・ローゼンフェルド『給料はあなたの価値なのか』(みすず書房) です。著者は、米国ワシントン大学の研究者なのですが、専門は経済学ではなくて社会学です。英語の原題は You're Paid What You're Worth であり、2021年の出版です。社会学が専門ですから、経済学的に限界生産性がお給料になる、といった点は無視して、かなりリベラル観の強い格差論、不平等論を展開しています。本書は4部構成であり、最初にお給料に関する疑問を上げています。お給料を決定する4要因として、「権力」、「慣性」、「模倣」、「公平性」を上げ、そもそも、お給料が過小であり、かつ、不平等に分配されていると主張します。第2部では、一般に広く信じられている成果主義にも疑問を投じ測定の問題や能力主義の落とし穴などを論じます。第3部では仕事、特に良い仕事と悪い仕事を対比させて、仕事とお給料の対応関係を考えます。最後の第4部では公平な賃金を目指す方策について取りまとめています。ということで、繰り返しになりますが、経済学的な観点からの限界生産力=限界生産性がお給料を決めるという理論はまったく無視されています。同じ小売業、後に悪い仕事の一つとして取り上げられるのですが、同じ小売業であっても低賃金しか提供しないウォルマートと高賃金のコストコを取り上げて、生産性や能力や、ましてや、成果がお給料に連動していない点を鋭く指摘しています。その上で、米国労働者が、日本もかなりの程度に同じと考えるべきですが、低賃金しか支払われていない理由として、分配率の変化、すなわち、株主重視のために資金を従業員のお給料から自社株買いにシフトさせたこと、派遣や臨時職(temporary)として雇用して給料を抑制したこと、労働組合が弱体化して使用者側よりも雇用者の方の交渉力が大きく低下したこと、などを上げています。その上で、技術偏向型の技術進歩という主流派エコノミストの見方を否定します。主流はエコノミストはこの技術偏向的な技術進歩により、高スキルを要求される職業が増加して高所得者がますます高所得になって格差が拡大する、という見方をしているのですが、この「高所得者がますます高所得になるので格差が広がる」という分析結果は、実は欧米各国に当てはまる見方であって、ですから、ウォール街の選挙運動で見られた1%と99%の対立があるわけですが、日本にはそれほど当てはまりません。というのは、日本では貧困層がますます所得を減少させて格差が広がっているからです。しかし、マルクス主義的ですらなく、勤労者と株主の対立について、株主のほうがますます所得を増加させる、という欧米型の格差拡大も、勤労者の、というか、定食と勤労者がますます所得を低下させる、という格差拡大も、両方の階級の格差が拡大する結果に変わりはありません。そして、最後には、格差拡大に対する処方箋として、低所得者のお給料に関しては最低賃金の引上げを提唱します。これは、むしろ、欧米ではなく日本に当てはまる可能性が高いと私は感じました。ただし、欧米諸国に当てはめるべき高所得者の天井を下げる方策については増税と取締役会に労働者代表を入れてガバナンスを強化する、という2点を主張しています。経済的な格差を是正するのは、とても困難な課題であり、現在の米国バイデン政権、そして、日本の岸田内閣ともに、少しずつ格差拡大を念頭に政策運営を変化させようとしているように見えますが、かなり長い期間が必要なのかもしれません。本書での指摘も、正しいのですが、どこまで実効性あるかは疑問なしとしません。社会学的な観点からの分析とはいえ、エコノミストにも大いに参考になる論考でした。

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次に、カルロ・ロヴェッリ『科学とは何か』(河出書房新社) です。著者は、物理学者であり、専門は量子力学だそうです。科学者であると同時に、非常の著名なサイエンス・ライターでもあります。でも、私は不勉強にして、この著者の本は読んだことがありません。本書のオリジナルはフランス語版で2009年に出版され、イタリア語版が出版され、それが邦訳の底本となっています。ということで、古典古代のギリシアの都市国家ミレトスのアナクシマンドロスの哲学を第1のテーマとし、第2のテーマは科学的思考の本質、すなわち、無知を自覚しつつ、知の探究としての「世界の描きなおし」であって、決して、科学の力は既存の知識の確実性の中には打ち立てられない、と指摘しています。その昔の古典古代のギリシアやローマなどでは、雨を降らせるのも、風を吹かせるのも、波を立てるのも、雷は言うに及ばず、こういった自然現象は神々に起因すると考えられていたわけで、それだからこそ、神に対する「雨乞い」なんてものが存在したわけですが、それを打ち破ったのがアナクシマンドロスであると指摘しています。不勉強ん敷いて、私は初めて接するお名前でした。経済学を物理学などの自然科学になぞらえる向きがあるのですが、かねてからの私の主張として、経済学がここまで不完全な科学に終わっている大きな理由のひとつは、現実に合わせたモデルを構築するのではなく、モデルに合わせて現実をカッコ付きで「改革」しようとしている点だと考えるべきです。物理学であろうと化学であろうと、経済学もそうですが、科学である限りはモデルを使って現実を表して理解を進めようとします。数式であったり、3次元の模型であったり、さまざまなモデルがあります。少なくとも、私の知る範囲で物理学は新たな事実が発見されれば、それまでのモデルを現実に合わせて修正しようと試みます。しかし、多くの主流派エコノミストは逆を行こうとします。モデルに合わせて現実の経済を修正しようと試みるわけです。罪深いのは「厚生経済学の第1定理」fundamental theorems of welfare economics であり、すなわち、自由な価格設定が許容された市場における競争均衡がパレート効率的である、というものです。ですから、かなり多くのエコノミストは、自由市場に対して政府が介入して価格に歪みをもたらすことのないように、あるいは、政府だけではなく独占や競争を阻害する要因を取り除いてやれば、市場価格に基礎を置く資源配分がもっとも望ましい均衡として達成される、と考えています。その意味で、最悪なのは中央司令型の社会主義経済だったりします。ですから、規制緩和や独占排除などの政策対応を必要と考えます。私は、これもかねての主張の通りに、市場における価格はかなり大きく歪められておりパレート効率を達成するとは限らない、と考えています。例えば、外部経済の多くは市場価格に盛り込まれませんし、情報の非対称が企業と消費者の間にあることはあまりに明らかです。その上、市場メカニズムは長期への対応が苦手で、現在排出される二酸化炭素が将来にどのような破滅的な気候変動=地球温暖化をもたらすかについては評価できません。もちろん、市場における資源配分が望ましくない大きさの経済的不平等、あるいは、社会的に許容できる水準を超えた格差をもたらす可能性を排除できません。私は本書を読んで、アナクシマンドロスが否定した自然現象を起こす神々の地位に、多くのエコノミストは市場を置いてしまっているのではないか、と危惧せざるを得ません。不断の知的探究を放棄して、既存の市場信仰の中に安住しているだけではないか、それは市場原理主義として否定されるべきではないか、などと連想をたくましくしてしまいました。いずれにせよ、私たちは間違うことがあります。正しい経済の発見が必要ではないでしょうか。

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次に、アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上下(早川書房) です。著者は、人気のSF作家であり、ユーモア・ミステリというジャンルがあるのですから、それになぞらえると、かなりユーモアSFに近いコミカルな表現を多く含んだ作品を発表し続けています。英語の原題は Project Hale Mary であり、2021年の出版です。なお、「ヘイル・メアリー」とは、いわゆる「アベ・マリア」のことである、というのは私も聞き知っていたのですが、アメリカン・フットボールでは負けている方のチームのQBが試合の最終盤において、イチかバチかで投げるロングパスのことも指すそうです。本書のタイトルはこのイチかバチかのロングパスに近い意味だったりします。本書はこの作者の長編3作目、すなわち、『火星の人』、『アルテミス』に続く長編第3作です。私はこの既存長編2作は読んでいます。というか、私がウィアーの世界に接したのは、最初は、『火星の人』を原作として映画化された「オデッセイ」を、何かの折に飛行機の中で見たのが最初だったような気がします。そして、逆順で原作の『火星の人』を読み、『アルテミス』を読んでいます。『火星の人』は火星に取り残された科学者がいかに火星で生き残り救援を待つか、『アルテミス』は月在住の下層階級の壮大な企み、といった内容でしたが、この『プロジェクト・ヘイル・メアリー』では地球を救う壮大なプロジェクトを描き出そうと試みています。ただ、日本人からすれば「宇宙戦艦ヤマト」の焼直しに見えるかもしれません。というのは、ある日、太陽エネルギーがわずかながら減少をはじめ、気候変動や農作物への被害などにより、20年足らずで地球人口が半減するという予測も飛び出したりします。原因はアストロファージと名付けられた超小型の微生物が相対性理論的に太陽用エネルギーを吸収しているためであり、このアストロファージはエネルギー備蓄にはうってつけながら、地球が受け取る太陽エネルギーの減少をもたらすわけです。そして、このアストロファージに太陽をはじめとする多くの恒星が「感染」している中で、13光年先にあるタウ・セチは感染を免れており、そこに科学者を送り込んでタウ・セチの「免疫」について分析・情報収集し、地球に情報を送って太陽に「免疫」を与えて正常化させる、というものです。イスカンダルに送られる「宇宙戦艦ヤマト」そのものであり、ガミラスのデスラー総統からの攻撃こそないものの、本書では友好的かつ目的を同じくする地球外生命体と邂逅し、主人公と協力して母星にエネルギーを送り込む恒星を正常化させるべく努力します。この異星人もコミカルに描かれます。結論としては、タウメーバなる、これまた微生物がアストロファージを駆逐するカギとなります。そして、こういった太陽正常化の情報や技術が得られるのは、当然のように軽く想像され、地球にとってのハッピーエンドとなる一方で、主人公の処遇については驚愕のラストがあります。主人公がタウ・セチに送り込まれる経緯とともに、作者のひとひねりが利いた部分だと思います。私は恒星間飛行などの宇宙物理学についてはトンと不案内で、そういった部分がどこまで現実にできているのか、あるいは逆に、どこまでSFなのかはまったく理解できませんでしたが、とても面白いです。一気読みした感じです。本書の主人公は、『火星の人』を原作として映画化された「オデッセイ」で火星に取り残される主人公と、かなりの程度に重なる部分があります。すでに映画化が進んでいるようですが、「オデッセイ」で主役を演じたマット・デイモンではなく、ライアン・ゴズリングが主演だそうです。ご参考まで。

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最後に、濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書) です。著者は、労働省・厚生労働省出身で、現在は国立研究機関で研究所の所長をしています。私も同じ国立研究機関に勤務していた経験があり、著者とも少しだけ勤務時期が重なっていたりします。ただし、著者と私に共通しているのは、ほかに、ソニーのウォークマンを愛用していることくらいかもしれません。ということで、タイトル通りにジョブ型雇用について、メディアで流れるさまざまな誤解を修正し、正しくジョブ型雇用、あるいは、ジョブ型雇用社会について解説しています。なお、ついでながら、現在、というか、高度成長期に確立された日本の雇用がメンバーシップ型と呼ばれる一方で、ジョブ型雇用を取り上げて両者を区別することを主張したのはまさに著者であり、この方面の第一人者といえます。ただし、本書の第1章でジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の基礎の基礎を展開した後、労働法に基づく訴訟の紹介が多くなり、やや私の専門分野からズレを生じてしまった気もします。ということで、私もかなりの程度に理解しているつもりですが、メンバーシップ型雇用というのは人に中心を置きます。現在の多くの企業でなされているように、新卒一括採用で人を確保した後、その人にジョブを割り当てることになります。工場が不況で操業を一時的に停止すれば、まあ、工場周辺の草むしりをしたりする場合もあるわけです。年功賃金が支払われて、長期雇用で定年まで勤め上げます。他方で、ジョブ型雇用ではジョブ=職を中心とした雇用となります。職に空き(vacancy)ができると職務記述書(job description)を明示して、それに従って資格や能力を持った人が採用され、能力や成果に応じた賃金が支払われて、その職が終了もしくは消失すると解雇されます。そして、経済界では多くの経営者が、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への転換を主張しているように見えます。私の勤務する大学でも、就活パンフレットに「ジョブ型採用への対応」なんて用語が踊っていたりします。ですから、私も4回生演習なんかを持ったりしていますから、それなりの就活対応の必要性もあって、本書を読み始めています。でも、ジョブ型雇用に転換すると社会全体が、まさに、マルクス主義的な見方ながら、下部構造が上部構造に大きな影響を及ぼすように、我が国経済社会に大変換をもたらすような気がします。ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いはかなりよく判りましたし、授業などにも活かせそうな手応えを感じますが、ホントにジョブ型雇用を日本社会に普及させていいものかどうか、もう一度よく考える必要がありそうな気がします。ただ、現実として、すでに日本でもジョブ型の雇用システムが採用されている分野があります。医師の世界と大学教員の雇用です。私もその中に入ります。大学教員でいえば、どのような学位を持っていて、あるいは、その学位相当の能力があり、どのような分野の授業がどのような言語でできるか、を明示した採用となります。そして、その職務記述書に沿ったお給料となるハズなのですが、なぜか、私の勤務する大学では年功賃金が支払われています。少しだけ謎です。

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2022年4月29日 (金)

今月のお買い物!!!

関西に引越して2年を経過し、お給料も順調に支払われていることを確認して、久々に緊急事態宣言もまん延防止重点措置も何もないゴールデンウィークに入っています。この4月はいくつかお買い物をしました。ひとつめはタブレットです。私は従来から「スマホをいじるのは賢い人のすることではない」という誰かのご意見に賛成で、スマホよりはPCに頼ってたのですが、その中間としてタブレットを買い求めました。何となく雰囲気だけでiPadにしたのですが、早くも後悔しています。androidのタブレットにすればよかったと感じ始めています。強く感じています。大学の研究費で買ったのですが、ひょっとしたら、自腹で安いandroidタブレットをもうひとつ買うかもしれません。

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もうひとつはロードバイクです。2月の下旬に交通事故を起こして、3週間ほどクロスバイクが入院して、かなり不便を感じて2台めの必要性を痛感していたところ、近くのサイクルベースあさひの店長から勧められたこともあって、あさひブランドのロードバイクを買い求めました。あさひブランドですから、かなり安物なのでしょうが、私の技量からすれば、まあ、こんなもんだという気がします。私は東京にいたころからサイクルベースあさひを贔屓にしてきたのですが、自分でメカニックをいじらないものですから、どうしても修理が多くなって、今のクロスバイクも修理にかなり注ぎ込みました。修理や何やでサイクルベースあさひに持ち込むのであれば、部品の調達は言うに及ばず、サイクルベースあさひのブランドのバイクの方が修理やメンテには都合いいのは当然です。
しかし、私にあさひブランドのロードバイクを勧めてくれた店長は人事異動で岐阜の方に転機してしまったそうです。それはともかく、今度のロードバイクは、タイヤが細いです。京都のサイクルベースあさひで買い求めたクロスバイクのタイヤは26x1.5とやや小さい上に、ママチャリと変わらない太めのタイヤなのですが、ロードバイクの方は、標準的、というか、何というか、700x25cというサイズです。私に売り込んだ店長によれば、700x25cのスペックよりもタイヤは細く、700x23cに近い、とのことでした。今日は雨ですが、このロードバイクでビワイチに挑戦することになるのかもしれません。

どちらも大学の自転車置き場のステッカーは取ったのですが、通勤はクロスバイク、休日はロードバイク、ということになりそうな予感がします。強くします。

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2022年4月28日 (木)

緩やかながら増産続く鉱工業生産指数(IIP)と横ばい傾向の商業販売統計!!!

本日、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも3月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+0.3%の増産でした。商業販売統計のうちの小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲0.8%減の11兆5370億円、と5か月ぶりの減少を示した一方で、季節調整済み指数でも前月から▲0.8%減を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じた記事を手短かに引用すると以下の通りです。

3月の鉱工業生産、前月比0.3%上昇 4月予測は5.8%上昇
経済産業省が28日発表した3月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は、前月比0.3%上昇の96.5だった。生産の基調判断は「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。QUICKがまとめた民間予測の中央値は前月比0.5%上昇だった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では4月が5.8%上昇、5月は0.8%低下を見込んでいる。
3月の小売販売額、0.9%増
経済産業省が28日発表した3月の商業動態統計(速報)によると、小売販売額は前年同月比0.9%増の13兆6280億円だった。増加は2カ月ぶり。季節調整済みの前月比は2.0%増だった。
大型小売店の販売額については、百貨店とスーパーの合計が2.1%増の1兆7047億円だった。既存店ベースでは1.5%増だった。
コンビニエンスストアの販売額は1.7%増の9960億円だった。

とてもコンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、前月と比べて+0.5%の増産という予想でしたので、まずまず「こんなもん」という受止めかという気がします。加えて、足元の4~5月については製造工業生産予測指数で見て、4月+5.8%の増産の後、5月は▲+0.8%の減産を予測していて、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。もっとも、製造工業生産予測指数の上方バイアスを取り除いた補正値では、4月増産は+0.8%に大きく圧縮されますが、それでも増産は増産です。基本的には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染拡大が抑制されていて、需要が増加したことに基づく増産と考えるべきです。経済産業省による解説記事「3月生産は2か月連続の前月比上昇」では、3月半ばの福島沖地震の影響などにより自動車工業が前月比▲6.0%の減産となって、▲0.87%の寄与度を示している一方で、増産の代表業種として、半導体需要の増加で好調な半導体製造装置をはじめとして需要が増加した生産用機械工業が前月比+3.3%増産、寄与度+0.29%、さらに、新製品の生産拡大などを受けた化学工業(無機・有機化学工業・医薬品を除く)が+5.4%の増産、寄与度も+0.21%などと業種別の動向を明らかにしています。
今後の生産の行方はCOVID-19の感染拡大、そして、これに伴うグローバルなサプライチェーンにおける部品供給や物流の停滞などに加えて、ロシアのウクライナ侵攻による資源価格の高騰に伴うコストプッシュなどの経済的影響次第ということになります。加えて、かなり無謀な「ゼロコロナ」政策を追求する中国において、上海が強烈なロックダウン状態にあり、中国における物流や生産がこれからどのような影響を及ぼすかもリスクとなるものと考えられます。いずれも、私のような不勉強なエコノミストには予測し難い経済外要因なのですが、大雑把には、内需に依存する部分の大きい非製造業とは違って、世界経済の回復とともに製造業の生産は緩やかに回復の方向にあるのは間違いないと私は考えています。しかしながら、先行きリスクは下振れの方が大きいように受け止めています。特に、自動車工業は4~5月に減産を予定している企業もあり、我が国リーディング産業だけに影響が大きい可能性があります。

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通常、多くのエコノミストや報道では、この統計のヘッドラインとなる小売業販売額は季節調整していない原系列の統計で見ているような気がします。しかしながら、経済産業省のリポートでは、季節調整済み指数の後方3か月移動平均で基調判断を示しているようで、1月の移動平均指数は前月から+0.1%の上昇下と試算しています。2月統計では▲0.7%減でしたから、基調判断としてはトレンドで「横ばい傾向」と据え置かれています。ただし、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていないことから、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の経済的影響は過小評価されている可能性が十分あります。すなわち、特に、この3月21日まで一部地域ながらまん延防止等重点措置の期間中だったわけで、飲食や宿泊のような対人接触型のサービスがCOVID-19の感染拡大で受けるネガティブな影響が大きいのですが、商業販売統計には十分には現れていない、と考えるべきです。第2に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。ですから、燃料小売業の販売額は前年同月比で+15.2%増なのですが、かなりの部分は物価上昇による水増しが占めると考えられ、売上数量が伸びているというよりも、販売単価、すなわちインフレ部分が大きいのではないかと私は想像しています。これら2点を考え合わせると、実際の日本経済の現状についてはこの統計よりも悲観的に見る必要が十分ある、と私は考えています。

最後に、本日まで日銀金融政策決定会合が開催され、日銀は異次元緩和を維持し、指し値オペを強行てでも長期金利を抑制する姿勢を明らかにしています。結果として円安が進行していますが、私はインフレ率2%と同様に、これくらいの円安は想定の範囲内と考えています。「展望リポート」では今年度2022年度の生鮮食品を除くコア消費者物価上昇率について、1月時点の+1.1%から+1.9%に引き上げましたが、物価上昇は一時的、というよりも、インフレ目標に達していないのですから、引締めに転じる金融政策運営はあり得ない、と私も大いに同意しています。

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2022年4月27日 (水)

みずほリサーチ&テクノロジーズによる「総合緊急対策」の評価やいかに?

広く報じられている通り、昨日4月26日、政府はコロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を決定し、岸田総理大臣が記者会見をしていました。これを受けて、本日、みずほリサーチ&テクノロジーズが「政府の『総合緊急対策』の評価」と題するリポートを明らかにしています。「総合緊急対策」の主な柱は、(1) 原油価格の高騰対策(国費1.5兆円、事業規模同じ)、(2) エネルギー・原材料・食料等の安定供給対策(国費0.5兆円、事業規模2.4兆円)、(3) 中小企業対策(国費1.3兆円、事業規模6.5兆円)、(4) 生活困窮者支援(国費1.3兆円、事業規模同じ)などとなっています。取り急ぎ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから ガソリン価格の見通し のグラフを引用すると上の通りです。このグラフを引用した趣旨は、激変緩和のあり・なしについて理解を深めておくためです。すなわち、燃料油元売り事業者に支給する補助金は1リットル当たり35円に拡充され、35円を超過した分は超過額の半額をさらに上乗せして、価格維持目標についてもリットル168円へ引き下げられることになりますので、これを激変緩和ありとしています。もっとも、7月以降は2週間に1円ずつ目標を引き上げることとされており、まさに、固定価格を目指す措置ではなく、値上がりがあるなら一定許容しつつ激変を緩和する、というものです。これがなければ、ガソリン価格は一時的にせよ、リットル200円を超えるケースも考えられます。ただし、これにより、みずほリサーチ&テクノロジーズでは「5~6月にかけてコアCPIを最大▲0.7%押し下げる見通し」との試算も同時に明らかにしています。

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続いて、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから 食料・エネルギー価格上昇に伴う年収階級別の負担増 のグラフを引用すると上の通りです。これがキモとなります。年収300万円未満と1,000万円以上と平均の3ケースです。今回の激変あり・なしで300万円未満では、負担増額が約10,000円圧縮されます。率では▲0.4%ポイントです。もちろん、1,000以上では約13,000円の圧縮といいことですから、額では高所得者の方が大きいのですが、他方で、生活困窮者支援として、住民税が非課税の子育て世帯や児童扶養手当が支給されているひとり親世帯に対し、子ども1人当たり5万円の給付金が6月以降に支給される予定となっていますので、年1万円の負担増には十分な額の支援といえます。もちろん、支給から漏れる家計もあるのかもしれませんし、先にもお示ししたように、生活困窮者支が事業規模1.3兆円であるのに対して、エネルギー・原材料・食料等の安定供給対策の事業規模が2.4兆円と大きいのは、やや疑問に感じないでもありませんが、一時的な措置として企業に対する補助金も活用しつつ、生活困窮者に対する所得支援を実施するのは、分配を無視しきったアベノミクスから一定の前進を認めるべきであろうという気もします。ですから、第一生命経済研のリポートでは、「物価上昇そのものを止めるという発想ではなく、物価上昇を我慢するために政府が支援するという内容になっている。」と指摘しています。そうです。それが正しい方向なのですが、悲しくも、第一生命経済研では理解が進んでいないようです。

最後に、第一生命経済研のようなアサッテの評価とは別に、今回の「総合緊急対策」は我が国経済の成長を促進する内容とはなっていない、との批判がありえます。もちろん、私は財政拡大による成長促進は重要だと考えるのですが、少なくとも、現代貨幣理論(MMT)ですら、インフレが進む段階での財政拡大には否定的です。現時点では、低所得者や中小企業などのインフレ高進への対応策を中心にした財政政策でいいのではないか、と私は考えています。もっとも、日銀と政府が合意したインフレ目標は+2%なわけで、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートでは激変緩和なしの場合ですら、今年2022年後半にコア消費者物価指数(CPI)上昇率が+3%に達するかどうかという予想で、2023年に入れば再びコアCPI上昇率は+1%すら割り込む可能性が示唆されています。この程度の物価上昇であれば、物価を強力に抑え込むというよりは、負担の大きい低所得者や中小企業を支援しつつ、市場価格に基づいてカーボン・ニュートラルの方向を目指す、という方が望ましいと私は考えるのですが、こういった理解が進まないエコノミストが決して少なくない印象です。

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2022年4月26日 (火)

雇用統計は失業率も有効求人倍率も緩やかながら改善を示す!!!

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも3月の統計です。失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.6%を記録し、有効求人倍率は前月を+0.01ポイント上回って1.22倍に達しています。全体として、雇用は緩やかな改善が続いている印象です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

3月の完全失業率2.6% 前月比0.1ポイント低下
総務省が26日発表した3月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は2.6%で前月比0.1ポイント低下した。QUICKがまとめた市場予想の中央値は2.7%だった。
完全失業者数(同)は179万人で、前月比9万人減少した。うち勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は5万人減、「自発的な離職」は7万人減だった。就業者数(同)は6711万人で18万人増加した。
併せて発表した2021年度平均の完全失業率は、前の年度に比べて0.1ポイント低下の2.8%だった。
3月の有効求人倍率、前月比0.01ポイント上昇の1.22倍 経済正常化へ求人増
厚生労働省が26日に発表した3月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.01ポイント上昇の1.22倍だった。3カ月連続で上昇した。「まん延防止等重点措置」の解除で、経済活動が正常化に向かうなか、有効求人が前月比0.2%増加した。ワクチン接種前に求職活動を控える動きが出て、分母にあたる有効求職者数が0.6%減となったことも影響した。
新規求人数(原数値)は、前年同月に比べ7.5%増えた。宿泊業・飲食サービス業は、大型連休を前に求人を積極化する動きが出て5.0%増となった。製造業は活発な求人活動が継続し、22.0%増だった。情報通信業や運輸業・郵便業なども増加した。一方、教育・学習支援業は1.6%減だった。
有効求人倍率は、QUICKがまとめた市場予想の中央値(1.22倍)と一致した。
雇用の先行指標とされる新規求人倍率(季節調整値)は2.16倍と、前月に比べ0.05ポイント低下した。正社員の有効求人倍率(同)は前月比0.01ポイント上昇の0.94倍だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が2.7%と、また、有効求人倍率は1.22倍と、ともに、ほぼほぼジャストミートしました。しかも、実績としては、失業率も有効求人倍率もともにわずかながら改善しましたので、やや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。しかしながら、他方で、3月21日になって全面的にまん延防止等重点措置が解除されたとはいえ、コロナ禍が続く中で景気回復の足取りは鈍く、求職することなく労働市場から退場したままになっている人も少なくないという実感が同時にあります。統計的に確認されているのは、季節調整していない原系列の産業別就業者数の前年同月差であり、3月統計では、宿泊業、飲食サービス業こそ前年同月から+1万人増加していますが、卸売業、小売業では▲39万人減、生活関連サービス業、娯楽業でも▲10万人減と減少を示しています。ですから、必ずしも統計的に確認されているわけではなく、事例としていくつか聞き及んでいるだけですが、中核労働者ではなく、特に、高度成長期から周辺労働力として考えられているグループ、すなわち、主婦パートや学生アルバイトなが労働市場への再参入をためらっている、ないしは、諦めている可能性が高い、と私は受け止めています。景気回復がさらに鮮明になり求人が盛上がりを見せれば、こういった伝統的な周辺労働力も労働市場に再参入する動きが強まると私は予想しているのですが、延防止等重点措置が解除された3月下旬以降の統計を改めて確認したい気がします。いずれにせよ、いつもと同じ嘆き節なのですが、景気や雇用の先行きはコロナとウクライナ危機次第、というのは私のエコノミストとしての限界です。ただ1点だけ、資源高が企業経営を圧迫すれば雇用に悪影響が出る可能性があります。そのためにも、資源高を製品価格に転嫁できるような所得政策や中小企業支援が必要です。

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2022年4月25日 (月)

+1%強の上昇率が続く企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から3月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.3%を記録し、変動の大きな国際運輸を除く平均も+0.9%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に引用すると以下の通りです。

3月の企業向けサービス価格、前年比1.3%上昇 前月比0.9%上昇
日銀が25日発表した3月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は106.7だった。前年同月比では1.3%上昇、前月比では0.9%上昇だった。

極端なまでにコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年2021年4月にはその前年2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の反動もあって、+1.0%の上昇となった後、本日公表された今年2022年3月統計まで12か月連続で+1%以上の上昇率を続けています。前年同月比プラスも2021年3月から13か月連続です。基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが要因と私は考えています。もちろん、みずほ総研などが呼ぶような「中国需要」、すなわち、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大の落ち着きとともに、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大に加えて、ウクライナ危機の影響もあります。もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく3月統計のヘッドライン上昇率+1.3%への寄与度で見ると、石油価格の影響が強い運輸・郵便が+0.49%、土木建築サービスや宿泊サービスなどの諸サービスが+0.37%、リース・レンタルが+0.11%、景気に敏感なテレビ広告をはじめとする広告が+0.10%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便は+3.1%の上昇となったのは、燃料価格の上昇に加え、石炭や穀物などの輸送がロシア・ウクライナから代替地に切り替わった影響もあると指摘されています。不動産も「まん延防止等重点措置」の解除でスーパーなどの売上げが増えて賃料が伸びたことから、+2.0%の上昇となっています。広告はテレビ広告の+5.4%や新聞広告の+2.6%をはじめとして、広告全体で+1.9%の上昇を示しています。諸サービスの+1.0%の中の宿泊サービスが+12.8%の上昇率を示しているのは、「まん延防止等重点措置」の期間が長かったものの、3月下旬にはレジャー需要の回復があったといわれています。要するに、資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいのかもしれません。

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2022年4月24日 (日)

初回から猛虎打線が爆発してヤクルトに大勝!!!

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阪  神402001220 11161
ヤクルト000200010 373

初回から佐藤輝選手と中野内野手にツーランが飛び出し、その後も猛虎打線が活発に得点を重ね、ヤクルトに大勝です。
先発ガンケル投手が今季初勝利、大型内野手として将来の期待が高い小幡内野手にもプロ初ホームランを記録し、カード勝ち越しです。しかし、巨人に2勝1敗、横浜に3連敗、ヤクルトに2勝1敗ですから、シャクトリムシよりもひどくて着実に借金が積み重なっています。まあ、大型連休にふさわしい大型連勝がなければ浮上は厳しいんでしょうね。

次の中日戦も、
がんばれタイガース!

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2022年4月23日 (土)

今週の読書は経済経営に関する専門書やノンフィクションを中心に計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、時代小説1冊のほかは、かなりの程度に経済や経済学に関係する本を3冊、合わせて4冊の読書でした。
林宜嗣・林亮輔[編著]『地域データ分析入門』(日本評論社)は、地域経済に関するデータ分析を解説しており、EBPMに基づく政策決定の重要性も指摘しています。地域経済だけでなく、幅広く活用できると思います。マット・ジョンソン&プリンス・ギューマン『「欲しい!」はこうしてつくられる』(白揚社)は、マーケティングと脳科学に関して議論しています。果たして、消費者の購買意欲はどこまでマーケターによってバイアスをかけられているのでしょうか。消費者選択はホントに消費者の自発的な意思によるものなのでしょうか、宣伝によっていかようにもにも変更されるものなのでしょうか。吉野家的な「生娘シャブ漬け戦略」はどこまで成功するのでしょうか。砂原浩太朗『黛家の兄弟』(講談社)は典型的な時代小説です。この作者の作品は昨年の『高瀬庄左衛門御留書』に次いで2冊めの読書となります。世襲で安泰ながら凡庸な藩主そっちのけで家臣が権力闘争・派閥抗争を繰り広げます。最後に、マイケル・ルイス『後悔の経済学』(文春文庫)では、行動経済学のトベルスキー教授とカーネマン教授の業績がノンフィクション作家の手によって明らかにされます。多くの人は伝統的な経済学が想定するような合理性を十分には持ち得ないものだと感じます。
本年2022年に入って、新刊書読書は今週の4冊を含めて計63冊とややスローペースです。ただし、何とか年間200冊には達するんではないか、と考えています。年間200冊は目標とかではなく、価値観抜きの単なる予想です。なお、このブログで取り上げた読書感想文は、順次、可能なものからFacebookでシェアする予定です、といか、すでに先走りしてシェアしてある本もあったりします。悪しからず。

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まず、林宜嗣・林亮輔[編著]『地域データ分析入門』(日本評論社) です。編著者は、株式会社EBPM研究所代表取締役と甲南大学経済学部の研究者であり、チャプターごとの著者もそれぞれの分野の研究者となっています。本書はタイトル通りの内容であって、4部全13章の構成となっています。基礎編となっているPart1では、データの収集からデータの見方・使い方、さらにアンケート調査とか、回帰分析の基礎を取り扱っています。続くPart2では、現状把握のための分析手法に着目し、回帰分析を応用しつつ、地域問題の決定要因や将来予測を考え、シフト・シェア分析やSWOT分析から地域経済の構造や特徴の把握に進みます。そして、Part3では、政策効果把握のための分析手法を取り上げ、産業連関分析による経済波及効果の推計、費用便益分析によるプロジェクトのコスト・パフォーマンスの検証、差の差の分析による政策効果の把握について議論しています。最後のPart4ではEBPMの適用事例のケーススタディとして、コロナ後の経済ではやや後景に退いたものの、観光政策立案について考察を進めています。ということで、私のようにページを折って順々に読み進むのもいいのですが、その後は、手元に置いておいて辞書的に使うのも一案かと思います。私は国家公務員あるいは大学教員として、40年近いキャリアの大部分を首都、まあ、東京かサンティアゴかジャカルタか、でお仕事してきて、今の関西に引越す前に首都以外の地方勤務をした経験は、長崎大学の2年間しかありません。一応、地域学会に所属して、学会誌に査読論文を掲載してもらったりしていますが、実は、地域経済分析はかなり苦手だったりします。その一因は、中央政府の運営と違って地方政府の政策立案においては、単に公共財的な純粋な政府活動だけではなく、民間企業的な視点が必要になる場合が多いからです。典型的にはバスなどの交通機関、あるいは、観光インフラなどです。これらの民間企業的な運営を要する事業に関しては、やっぱり、本書で展開しているようなEBPMの視点は欠かせません。ただ、本書で取り上げている視点は地域データ分析に限定されることはありません。かなり幅広い応用ができる方法論を展開しているといえます。ただ、民間企業的な視点を含めた地域経済の視点で、まあ、地域経済に限定しませんが、かなり高い頻度で間違っているのは将来予測です。将来の需要予測をとても甘く見ていて、結局のところ赤字になって税金をムダに投入する、というハメに陥るケースが少なくないと考えるべきです。そのあたりは本書では何ら言及がありません。やや、残念な部分です。

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次に、マット・ジョンソン&プリンス・ギューマン『「欲しい!」はこうしてつくられる』(白揚社) です。著者は、どちらも米国ハルト・インターナショナル・ビジネススクールの研究者です。ただ、脳科学者とか、ニューロ・マーケティングとかが専門分野で、心理学的な要素とともに脳科学に基づくマーケティング理論が展開されています。マーケティングですから、いかに商品を売り込むか、買わせるか、というのが重要な視点であり、最近話題になったマーケティングでいえば、例の吉野家の「生娘シャブ漬け戦略」なわけで、マーケティングに対しては否定的な見方が少なくありません。でも、本書はマーケティングに対してそれほど否定的ではありません。まあ、当然です。そして、脳科学が応用されているのはどうしてかといえば、心理学的に説明できる範囲はある一方で、心理学では説明できず脳科学の経験的な法則を利用するマーケティングがあるからで、本書ではそういったマーケティングも紹介されています。例えば、上の表紙画像にもある通り、食べ物に対して食欲をそそるのは赤とかオレンジとか黄色であって、青は逆に食欲を削ぐ、といった脳の働きは統計的に把握されているものの、なぜそうなのか、という点は解明されていません。でも、脳科学的に解明されていなくてもマーケティングには応用できるわけで、あらゆる情報が商品の売込みに使われます。小手先のセールスマンのテクニックも数多く紹介されていますが、脳科学の深くてまだ解明されていない応用も含んでいます。食べ物の話題を続けると、本書冒頭では、我々消費者がレストランで食べているのはメニューであって、ソムリエのようなワインの専門家でも高価なワインに騙される、といった事実が紹介されています。特に、コカコーラ=コークに対する需要はマーケティングによって作り出されたものであって、ブラインドテストをすれば他のコーラ飲料と違いはない、と指摘しています。価格的にも、ディスプレイのイチ的にも真ん中の商品を選ぶ傾向とか、カーネマン教授の『ファスト&スロー』でいうところの間違いやすいシステム1が即座に判断する範囲で商品選択をさせて、じっくりと正確に考えるシステム2の登場前に買わせてしまう例とか、果たして、消費者はホントに自分の選好に従って商品選択をしているのだろうか、という疑いすら持ちます。そして、私の大きな疑問は、もともと消費者に由来する商品選択の傾向をマーケティングは拡大、というか、その意欲を強めてセールスまで結びつけるのか、それとも、消費者の嗜好はマーケティングによって自由自在に捻じ曲げられているのか、という点です。たぶん、両方あるのでしょうが、後者の例も少なくないものと考えるべきかもしれません。

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次に、砂原浩太朗『黛家の兄弟』(講談社) です。著者は、時代小説作家です。上の表紙画像に見られる通り、『高瀬庄左衛門御留書』の作家であり、私はこの前作も読んでいます。前作とともに、神山藩シリーズの第2作ですから、本書も江戸時代を舞台にしています。ただ、前作が郡方の下級武士を主人公としているのに対して、この作品では藩政の重鎮をなす筆頭国家老を務める黛家の倅3人のうちの三男が主人公です。さらに、2部構成というのも前作と同じなのですが、前作が第2部はわずかに第1部の1年後であった一方で、本作では13年後とかなり時間を置いています。でも、典型的な時代小説です。というのは、私の考える時代小説というのは江戸時代における侍=武士を主人公とし、それなりに武士の表芸である剣術をたしなむ一方で、世襲で安泰ながら凡庸な藩主を支える藩政の執政がお家騒動に近い政変を繰り返す、というものです。もちろん、私が高く評価している周防秋の作品のように、古典古代を舞台にしている時代小説も好きですし、武士でなく町人を主人公にした髙田郁なんかの時代小説もいいのですが、やっぱり、この作品のように江戸時代の武士を主人公にして、領民の生活を顧みることなく、また、凡庸な藩主を差し置いて、家臣が藩政の場での権力闘争や派閥抗争に明け暮れている時代小説が好きだったりします。ということで、主人公は筆頭国家老の家に生まれながら三男ということで跡継ぎにななれないながらも、藩を支えるもうひとつの重要な家柄である大目付の黒沢家に婿入りします。でも、次席の国家老の策略により筆頭国家老の父や長男が政権から遠ざけられていくわけです。そして、容易に想像されるように、最後は主人公の黛家が権力闘争に勝つわけです。村上春樹『うずまき猫のみつけかた』だったと思うのですが、「一に足腰、二に文体」というのがあります。私はこの作者の足腰については情報を持ち合わせませんが、前作も文体とか、用語とか、言葉遣いなどがいかにも時代小説によくマッチしている点を評価しています。逆に、ストーリーの展開とか人物のキャラとかは、ハッキリいって、この作者の時代小説は評価しません。前作も、この作品もそうです。この作品については、藩主と家老との縁組がここまで頻繁に行われるのかが疑問です。加えて、その時代の息遣いが感じられません。どの時代でもいいんじゃない、という気すらします。さらに、私の評価する文体とか用語の選択についても、いくつか、もちろんすべてではありませんが、いくつかの瑕疵があります。例えば、第1に、時代小説ですから、倅で統一してほしかったです。息子というのはいただけません。第2に、藩侯はまだいいのですが、藩公というのはいかがでしょうか。しかも、両方入り混じっていたりします。第3に、上級武家ですから襲名めいて父親の名を継ぐのはいいのですが、作者自身も混乱している部分があります。p.400では、清左衛門と織部正が同一人物を指してしまっています。ハッキリいって、この作者には時代小説の構成=ストーリーやキャラ作りはそれほどの力量を示せていないだけに、文体や用語などで細部をゆるがせにせず、時代小説を仕上げてほしかった気がします。

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最後に、マイケル・ルイス『後悔の経済学』(文春文庫) です。著者は、ノンフィクション作家であり、私は映画化もされた『マネー・ボール』ほかを読んだ記憶があります。この著者の作品の中では、『マネー・ボール』がもっとも有名なのではないかと思います。米国大リーグのオークランド・アスレチックスにおいて「セイバーメトリクス」の利用に基づくチーム編成を行ったビリー・ビーンGMを取り上げています。本書では、行動経済学と呼ばれ、心理学の要素を経済学に取り入れたトベルスキー/カーネマンの2人のエコノミストを主人公にしています。私を含めた多くのエコノミストは、トベルスキー教授も、もしもご存命であれば、当然、カーネマン教授とともにノーベル賞を授与されていた、と考えています。単行本として文藝春秋社から『かくて行動経済学は生まれり』というタイトルで出版されたものが文庫化されて、このタイトルに変更されています。カーネマン教授の方は2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。ということで、トベルスキー/カーネマンの業績でもっとも有名なのはプロスペクト理論です。伝統的、かつ、主流派の経済学が想定する超合理的な経済人の期待効用仮説に対して、心理学に基づく不確実性ある場合の意思決定モデルのひとつであり、本書のタイトル通りに、プラスの期待効用とマイナスの期待損失は非対称的であって、マイナスの損失を回避し公開を少なくするような決定がなされる、というのが結論です。実際の人間行動は経済学が想定するようには合理的ではなく、2種類の認知バイアスを含んでいます。ひとつはアレのパラドックスに代表されるような確率に対する反応が線形でないバイアスです。もう一つは富の水準ではなく富の変化量から効用を得るというバイアスです。まあ、論じ始めればキリがないのでプロスペクト理論については、本書でもそう深入りはしていません。ただ、超合理的な経済人の仮定は、今では多くのエコノミストによって否定されている点は事実です。ただし、私の属している大学教育の場などでは、教育的な簡便さの観点から合理性の仮定を置く場合が少なくないことも事実です。教育の世界では合理的な経済人を前提にしつつも、最先端の理論や実証的な経済学の研究の世界では、実際の経済活動は人々の限定的な合理性の上に成り立っている、との考えが普及しているわけです。ただし、最後に、トベルスキー/カーネマンの2人自身も限定合理性の世界で行動しています。すなわち、2人はユダヤ人であり、イスラエスの出身です。ですから、何度か軍事出動しています。通常の経済学で想定される比較優位理論に基づけば、ノーベル経済学賞を受賞するほどの頭脳であれば、軍事行動に参加するのではなく別の方向からのイスラエルへの貢献ができるのではないか、という気がしますが、この2人は第4次中東戦争が始まれば躊躇なくイスラエル軍に身を投じています。まあ、合理性なんてそんなもん、と考えるべきなのかもしれません。

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2022年4月22日 (金)

来月公表の4月の消費者物価指数(CPI)はとうとう+2%に達するか?

本日、総務省統計局から3月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+0.8%を記録しています。物価上昇は7か月連続です。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は逆に▲0.7%の下落を記録しています。コチラは、2021年4月から11か月連続のマイナスです。逆に、エネルギーを含めたヘッドラインCPIは+0.9%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
3月の全国消費者物価、0.8%上昇 上昇は7カ月連続
総務省が22日発表した3月の全国消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が100.9と前年同月比0.8%上昇した。上昇は7カ月連続。QUICKがまとめた市場予想の中央値も0.8%上昇だった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合のCPIは99.5と、0.7%下落した。生鮮食品を含む総合は1.2%上昇した。
併せて発表した21年度平均のCPIは、生鮮食品を除く総合が99.9となり、20年度に比べ0.1%上昇した。
いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。
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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+0.8%の予想でしたので、ジャストミートしたといえます。基本的に、エネルギー価格の上昇と政策要因に近い携帯電話通信料の下落の差し引きで決まってきている部分が大きく、加えて、これも政策要因ながら、昨年2021年12月統計までは「GoToトラベル」事業停止によって宿泊料の上昇がありましたが、今年1月統計からはこの効果は剥落しています。第1要因のエネルギー価格が前年同月比で+20.58%の上昇を記録して、ヘッドラインCPIの上昇率に対して+1.46%の寄与を示している一方で、マイナス寄与の項目を見ると、第2要因の通信料(携帯電話)が前年同月比▲52.7%の下落で、▲1.42%の寄与となっています。ついでに、第3要因の宿泊料は2021年12月統計では+44.0%の上昇でヘッドラインCPI上昇率に対して+0.29%の寄与度でしたが、本日公表の3月統計では上昇率が+5.6%、寄与度が+0.05%に大きく縮小しています。要するに、エネルギー価格の上昇と政策要因に近い携帯電話通信料の下落のバランスに加えて、エネルギー価格の上昇が経済全体に波及する効果もあり、さらに、人手不足の影響などもあって、全体としてのコアCPI上昇率としてはプラスという結果となったと私は受け止めています。特に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大で懸念されるサービス業の価格動向についてもマイナスに寄与しているのでしょうが、上のグラフでサービスのマイナス寄与が大きく見えるのは、携帯電話通信料の影響が大きいと私は受け止めています。 日本以外の欧米先進国では、かなりインフレが進んでいます。例えば、総務省統計局の「消費者物価指数」の月報参考表で3月最新月の主要先進国の消費者物価指数上昇率を見ると、米国が+8.5%、英国が+7.0%、ドイツが+7.3%、フランスでも+4.5%となっています。いくつかの先進国の中央銀行が金融政策の引締めモードに入ったのも理解できるところです。他方、我が国だけはまだヘッドラインCPI上昇率で+1.2%と+1%を少し超えたくらいです。しかし、携帯電話通信料引下げの寄与度▲1.4%余りが4月統計からは剥落しますから、4月のCPI上昇率は確実に+2%を超えます。おそらく、メディアは大騒ぎすることと思います。でも、冷静に考えれば、2013年に日銀と政府の間でインフレ目標+2%の合意ができているわけですから、この+2%というのは政策的に目標としてきた物価上昇です。その点は忘れるべきではありません。

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2022年4月21日 (木)

東京商工リサーチ「価格転嫁に関するアンケート調査」の結果やいかに?

一昨日4月19日に東京商工リサーチから「価格転嫁に関するアンケート調査」の結果が明らかにされています。たった2問のアンケート調査なのですが、約7割の企業が「価格転嫁できていない」などの結果が示されています。まず、東京商工リサーチのサイトから問を2点引用すると以下の通りです。

価格転嫁に関するアンケート調査
Q1.貴社で使用する原油・原材料の価格動向について、原油・原材料の価格上昇に伴うコスト増加分のうち、何割を価格転嫁できていますか?
Q2.貴社で使用する原油・原材料について、現在から何%上昇すると貴社は赤字(営業利益ベース)となりますか?

とてもシンプルな問なのですが、各問に対応する回答のテーブルを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、東京商工リサーチのサイトから、「Q1.貴社で使用する原油・原材料の価格動向について、原油・原材料の価格上昇に伴うコスト増加分のうち、何割を価格転嫁できていますか?」の問いに対する回答のテーブルを引用しています。テーブルですから見ての通りで、「転嫁できていない」が68.6%(3,900社中、2,679社)の一方で、「10割」(=フル転嫁)は4.2%(165社)しかありません。企業規模の分類は粗くて大企業と中小企業だけなのですが、なぜか、「転嫁できていない」割合は大企業の方が大きくて、「10割」(=フル転嫁)は中小企業の方が高くなっています。価格支配力は大企業の方が大きいというのが一般的な見方のような気がしますが、この調査結果は逆になっているように見えます、少しだけ謎です。テーブルからは読み取れないのですが、「価格転嫁できていない」と回答した企業を業種別(ただし、業種中分類、回答母数20以上)で見ると、もっとも価格転嫁に苦戦しているのは、受託開発ソフトウェアや情報提供サービスが含まれる「情報サービス業」の90.7%(108社中、98社)、次いで、旅行やブライダルなどの「その他の生活関連サービス業」が90.4%(21社中、19社)などとなっていて、「サービス業が目立ち、無形サービスや役務を提供する業種では、価格転嫁が難しい」と東京商工リサーチでは分析しています。そうかもしれません。

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続いて、東京商工リサーチのサイトから、「Q2.貴社で使用する原油・原材料について、現在から何%上昇すると貴社は赤字(営業利益ベース)となりますか?」の問いに対する回答のテーブルを引用しています。これまた見ての通りで、「すでに赤字」が30%近くを占めていて、またまた、大企業の方が中小企業よりも割合が高くなっています。また、現状は黒字でも、「10%以下」の値上がりで赤字になる企業は16.9%(292社)に達ています。逆に、「51%以上」、すなわち、50%までの値上がりには耐えられる企業の割合は、大企業が9.0%(13社)に対して、中小企業が4.3%(69社)にしか過ぎず、大企業の方がコストアップに対して、それなりの対応策を持っている、という気がします。また、これもテーブルには示されていませんが、「すでに赤字」と回答した企業を業種別(ただし、業種中分類、回答母数20以上)で見ると、もっとも高い比率を示したのが、「繊維・衣服等卸売業」の46.4%(28社中、13社)、以下、「道路貨物運送業」の46.3%(69社中、32社)、「輸送用機械器具製造業」の43.7%(32社中、14社)、「印刷・同関連業」の38.4%(39社中、15社)と続きます。

このブログでは何度も繰り返して主張していますが、今回の物価上昇・コストアップは石油や天然ガスをはじめとする資源価格の上昇からの波及であり、気候変動や地球温暖化の防止の観点からも、化石エネルギー企業に補助金を出して価格を抑制するのではなく、家計や中小企業などの所得支援を政策の中心に据えるべきです。さすがに、日本のメディアなどもこの点に気づきつつあり、朝日新聞の4月18日付けの社説「ガソリン補助 価格介入拡充は疑問だ」では、「政府は、資源高で困窮するような家計や一部の事業者向けに的を絞った支援策を整えつつ、価格への介入は規模を徐々に縮小していくべきだ。脱炭素化に向けて、省エネやエネルギー利用の構造転換を加速させることも急務になる。」と、私のこのブログと同じラインの主張をしています。価格転嫁が難しいから、化石エネルギー供給企業に補助金を出して価格を抑制するのではなく、必要な所得支援を実行して価格転嫁を進めやすくする、という視点が必要です。そうでなければ、気候変動や地球温暖化の対策に逆行することになります。

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2022年4月20日 (水)

IMF World Economic Outlook, April 2022 やいかに?

日本時間の昨夜、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook, April 2022 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。ヘッドラインとなる今年2022年の成長率を国や地域別に見ると、米国が1月時点の見通しから▲0.6%ポイント下方修正されて+3.3%、ユーロ圏欧州が▲1.1%ポイント下方修正されて+2.8%、我が日本が▲0.9%ポイント下方修正されて2.4%となっています。まず、IMFのチーフエコノミストであるグランシャ教授のIMFブログのサイトから成長率見通しの総括表 Latest World Economic Outlook Growth Projections を引用すると以下の通りです。

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見れば明らかな通り、一次産品輸出国などのごく例外的な一部を除いて、世界のほぼすべての国と地域で成長率が鈍化し、下方修正されています。いうまでもありませんが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響です。資源価格が高騰し、各国中央銀行が金融引締めを強めるリスクが成長の鈍化をもたらすという見通しです。ですから、IMF World Economic Outlook, April 2022 の サブタイトルは War slows recovery ですし、Chapter 1 Global Prospects and Policies は "The war in Ukraine has triggered a costly humanitarian crisis that, without a swift and peaceful resolution, could become overwhelming. Global growth is expected to slow significantly in 2022, largely as a consequence of the war." という書き出しで始まります。

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その戦争の影響について、同じくグランシャ教授のIMFブログのサイトから Shaken by war というタイトルのグラフを引用すると上の通りです。繰り返しになりますが、世界全体で2022年の成長率見通しは1月時点から▲0.8%ポイント下方修正されています。左のパネルの通りであり、その結果の成長率見通しは右のパネルに示されています。左のパネルに見られる通り、▲0.8%ポイントの下方修正のうち、ロシアの寄与度が▲0.3%余りとなり、EUが▲0.2%ポイントほどで、残りがほかの世界各国の寄与となります。リポート第1章の p.4 から始まる Forecast Revisions では真っ先にウクライナを取り上げているのですが、2番めがロシアであり、冒頭で、"The tight trade and financial sanctions-including loss of correspondent banking privileges, access of some banks to the SWIFT payments system, and the interdiction of central bank assets-and the oil and gas embargo by some large economies will have a severe impact on the Russian economy." と指摘しています。なお、誠についでながら、この見通し見直しに関して、日本は Asia のところでごく簡単に取り上げられていて、"Notable downgrades to the 2022 forecast include Japan (0.9 percentage point) and India (0.8 percentage point), reflecting in part weaker domestic demand-as higher oil prices are expected to weigh on private consumption and investment-and a drag from lower net exports." とだけ言及されています。日本が大国の地位を維持することについて、否定的な見方もあるようですが、私はアジア地域代表としての外交的な場での発言力も併せて考えると、まだまだ経済大国として振る舞うべき場合が少なくない、と授業で主張していたりします。でも国際機関のリポートではこれくらいの扱いなのか、と思わずにはいられませんでした。

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その需要とインフレについて、リポート p.12 から Figure 1.12. Core Inflation versus Private Domestic Demand (Percent) を引用すると上の通りです。フィリップス曲線の応用と考えるべきで、横軸に民間内需のコロナ前からの乖離、そして、縦軸にこれもコロナ前からのコアインフレ率の乖離を取っています。いつもの指摘ですが、カーテシアン座標ですから基本的には相関関係なのですが、無意識のうちに横軸が原因で、縦軸がその結果、と見なしているように思えてなりません。ということで、民間部門の内需が落ち込んでいれば、インフレも低い、という結果が示されています。そして、日本や中国などは右上がりの破線の下に位置していますので、世界標準よりも物価が下がりやすい、もしくは、物価が上がりにくい、という結論になりそうです。

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最後に、本日、財務省から3月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+14.7%増の8兆4609億円、輸入額も+31.2%増の8兆8733億円、差引き貿易収支は▲4124億円の赤字となり、8か月連続で貿易赤字を計上しています。原油や石炭などエネルギー製品の輸入額が大きく増加しています。

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2022年4月19日 (火)

リクルートによる3月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

来週火曜日の4月26日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる3月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響などにより、停滞感ありながら底堅い印象で、前年同月比で見て、1月+0.9%増、2月+1.3%増の後、3月は+1.8%増となっています。ただし、昨年2020年9月に+2.6%増を記録してから、1年半ほど連続で伸び率が+2.0%を下回っています。他方、派遣スタッフの方は昨年2020年5月以降のデータが跳ねていたのですが、今年2021年5月からはそのリバウンドで元に戻っています。その後、昨年2021年12月にはとうとう▲0.5%減とマイナスになった後、今年2022年1月▲1.9%減、2月▲2.3%減、3月も▲2.4%減とマイナス幅を拡大しています。
まず、アルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、3月には+1.8%を記録しています。人手不足がメディアで盛んに報じられていた一昨年2019年暮れから昨年2020年1~3月期のコロナ初期の+3%を超える伸び率から比べるとかなり低下してきている印象です。三大都市圏の3月度平均時給は前年同月より+1.8%、+19円増加の1,102円を記録しています。職種別では「営業系」(+115円、+8.7%)、「フード系」(+41円、+4.0%)、「事務系」(+34円、+2.9%)、「販売・サービス系」(+23円、+2.2%)、「製造・物流・清掃系」(+21円、+1.9%)、「専門職系」(+22円、+1.8%)、とすべての職種で増加を示しています。地域別でも関東・東海・関西のすべての地域でプラスとなっています。なお、すべての職種で、前年同月から+1.8%以上の伸びを示しているにもかかわらず、平均でも+1.8%増というのは、いわゆるシンプソン効果で、平均時給が低い職種の雇用が増加しているのだと推測しています。あるいは、何らかのバグがプログラムに入っている可能性も否定できません。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、2月は▲39円減少し、伸び率も▲2.3%減を記録しました。職種別では、「IT・技術系」(▲35円、▲1.6%)、「クリエイティブ系」(▲1円、▲0.1%)がマイナスを記録していますが、「オフィスワーク系」(+57円、+3.7%)、「営業・販売・サービス系」(+37円、+2.6%)、「医療介護・教育系」(+31円、+2.1%)、はプラスとなっています。派遣スタッフの5つのカテゴリを詳しく見ると、確かに、「IT・技術系」の時給だけが2,000円を超えていて、段違いに高いのは事実なのですが、「IT・技術系」の時給が前年同月比で▲35円減にとどまっている一方で、合計した派遣スタッフ全体の減少幅が▲41円であるのは、これもシンプソン効果なのかもしれませんが、何とも私には理解できません。これも、何らかのバグがプログラムに入っている可能性を排除できません。また、派遣スタッフの方はパート・アルバイトと違って地域別でも関東・東海・関西の3地域ともにマイナスを記録しています。

統計としての正確性は別に考えるとして、派遣スタッフはすでに時給上昇率がマイナスに転じ、アルバイト・パートも時給はジワジワと上昇幅を縮小し、非正規雇用のお給料はやや停滞し始めた気がします。3月のデータですので、どこまでウクライナ危機の影響が現れているかは不確かで、しかも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のためのまん延防止等重点措置も3月21日まで解除されていませんでしたから、こんなものなのかもしれません。雇用については典型的には失業率などで景気動向に遅行するケースが少なくないとはいえ、人口動態から見た人手不足も解消されているわけではありません。それにもかかわらず、非正規雇用の賃金動向がやや停滞しているのは、私にはです。

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2022年4月18日 (月)

インテージによるゴールデンウィークに関する調査結果やいかに?

3月23日には、インテージによる花見に関する調査結果をこのブログ取り上げましたが、春の行楽シーズンですので、4月14日にインテージからゴールデンウィーク(GW)に関する調査結果が明らかにされています。まず、調査結果のポイントをインテージのサイトから4点引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  • GW期間中に休める日数
    カレンダー通りの休日日数である「8日」は有職者では2割に満たず。7割弱は7日以下。
    最長連休は、カレンダー通りの「3連休」が3割で最多。4連休以上の人も4割存在。
  • GWにかける金額
    今年のGW予算金額は16,407円。昨年から約6,000円アップ (前年比156.7%)。

エコノミストの観点から、レジャー消費への影響を重視しつつ、インテージのサイトからいくつかグラフを引用して簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、インテージのサイトから 2022年のGWの予定 を引用すると上の通りです。見れば明らかな通り、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まった2020年や昨年2021年は、「自宅で過ごす」が回答の¾を超えていて、今年も同じく「自宅で過ごす」が60%近かったのですが、昨年よりもかなりこの割合は低下しています。一昨年・昨年ともGW期間には緊急事態宣言が出ていましたが、現時点でのお話しながら、今年はまん延防止等重点措置も解除されているわけで、「ショッピング (31.7%)」、「外食 (28.0%)」、「国内旅行 (19.7%)」といった外出を伴う予定が上位を占め、比率も昨年から大きく伸びる結果となりました。インテージでは、「外出や旅行などが一定の回復を見せるアクティブなGW」と表現しています。グラフは引用しませんが、GW期間中の休日については、トータルでカレンダー通りの「8日」は14.4%にとどまり、⅔を超える67.3%が「7日以下」と回答しています。逆に、「9日以上」との回答も18.3%に上りました。

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次に、インテージのサイトから 2022年のGWにかける金額 を引用すると上の通りです。エコノミストとしては気にかかるところです。結果は上の通り、昨年の1万円強から、約6千円、1.5倍近い増加との回答です。インテージのいう「アクティブなGW」にふさわしく、今年のGW期間中の消費はそれなりに期待できる、のかもしれません。

最後に、インテージとも、ゴールデンウィークとも関係なく、本日の朝日新聞の社説で、「ガソリン補助 価格介入拡充は疑問だ」と題して、私のこのブログの主張と同じラインの意見を表明しています。すなわち、途中のパラグラフから引用すると、「政府は、資源高で困窮するような家計や一部の事業者向けに的を絞った支援策を整えつつ、価格への介入は規模を徐々に縮小していくべきだ。脱炭素化に向けて、省エネやエネルギー利用の構造転換を加速させることも急務になる。」ということで、家計や中小企業などのエネルギー需要者の所得について支援しつつ、市場価格のメカニズムを援用して脱炭素化を進めて地球温暖化や気候変動を防止する、という観点が重要だと私も同意します。エネルギー供給者への補助金によるエネルギー価格の抑制は、要するに現行の政策ですが、ハッキリいって、愚策だと考えるべきです。

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2022年4月17日 (日)

ジャイアンツに逆転負け!!!

  RHE
読  売000300000 350
阪  神010000000 181

ジャイアンツに逆転負けです。
先発ガンケル投手がスリーランを浴び、打線は糸井選手のソロの1点で、どうしようもありませんでした。地上波の朝日放送でのテレビ観戦でしたが、岡田+鳥谷のダブル解説が面白かったです。まあ、それだけなのですが、岡田さんの采配に関する指摘、というか、批判がズバズバ当たっていて、ぜひとも来年の監督をお願いしたいという思いが強くなりました。今は、「ドシッと構える野球はダメで、動き回らないと」とのご意見のは、まさにその通りという気がしました。

次の横浜戦は、
がんばれタイガース!

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2022年4月16日 (土)

終盤の継投が決まってジャイアンツに連勝!!!

  RHE
読  売000001000 152
阪  神00110000x 251

ジャイアンツに連勝です。
先発ウィルカーソン投手が6回1失点とよく投げ、終盤3イニングスの継投も決まりました。打線は相変わらず得点力低く、決定打がなかなか出ません。今季のタイガースの状態では、競り合った試合に不安があったのですが、コンディションが回復しつつあるのかもしれません。満員の甲子園の阪神ファンもご満足でしょう。でも、「ビッグ・ウェーブ」は起きるんでしょうか?
日テレG+で観戦していたので、鳥谷氏の解説が新鮮でした。死に馬に蹴られたジャイアンツはお気の毒さまです。

明日は3タテ目指して、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書2冊と新書も経済学で計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、経済書2冊、共用書1冊に新書1冊を合わせて計5冊です。新書も、ほぼほぼ経済の専門書に近い水準です。
中野剛志『変異する資本主義』(ダイヤモンド社)は、経済学説史を簡単に紹介した後、新自由主義=ネオリベによって資本主義が大きく変容していくさまを描き出しています。ただ、経済についてだけでなく、地政学的・地経学的な世界のパワーバランスを論じており、私には理解が及ばない部分もありました。藤田孝典『コロナ貧困』(毎日新聞出版)では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックから経済的な格差が大きく拡大し、貧困に陥る人々が後を耐えない経済社会の現実をこれでもかと思うほどリアルに追跡しています。特に、困窮を極める女性に対する命と暮らしを守る活動の重要性を浮き彫りにしています。新藤宗幸『権力にゆがむ専門知』(朝日新聞出版)では、日本学術会議の任命拒否から始まって、原子力や新型コロナウィルス感染症(COPVID-19)への対応において、いかに権力が「御用学者」を育成し、利用しているかを明らかにしています。最後に、小野善康『資本主義の方程式』(中公新書)は新書ながら、かなり専門性高い経済書でもあり、資本蓄積が不十分で需要圧力がインフレに結びつきやすく、生産すれば売れる成長経済から、資本蓄積が進んで消費が飽和しつつあることから資産需要が高まり、したがって、デフレ圧力が支配的となり需要が経済規模を決める成熟経済の両方のモデルに適用可能な経済の基本方程式を提示し、さまざまな分析を試みています。
本年2022年に入って、新刊書読書は今週の4冊を含めて計59冊とややスローペースです。ただし、何とか年間200冊には達するんではないか、と考えています。年間200冊は目標とかではなく、価値観抜きの単なる予想です。なお、新刊書読書ではないのでブログでは取り上げませんでしたが、キップリング『ジャングル・ブック』と志村けん『変なおじさん【完全場】』(ともに、新潮文庫)を読みましたので、Facebookでシェアしておきました。何ら、ご参考まで。このブログで取り上げた読書感想文も、順次、可能なものからFacebookでシェアする予定です。

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まず、中野剛志『変異する資本主義』(ダイヤモンド社) です。著者は、経済産業省の官僚ながら、評論家として現代貨幣論(MMT)を支持する著書があったりします。本書は、私は基本的に経済書なんだろうと考えていますが、6章構成の中の前半、すなわち、第1章の静かなる革命、で経済学派の栄枯盛衰の歴史をたどり、第2章の「長期停滞」論争と第3章の自滅する「資本主義」で経済学派ではなく、経済の歴史をたどる、というあたりまではよかったのですが、第4章の21世紀の富国強兵、第5章の覇権戦争、第6章のハイブリッド軍国主義、になると、たしかに資本主義をテーマにしているのかもしれませんが、経済や経済学からかなり距離を置くようになってしまい、私の理解を超える部分が少なくありませんでした。前半3章については、かなりMMTっぽい部分も含めて、私はかなりの程度に同意します。1930年代に世界大不況への対応として米国のニューディール政策などでケインズ政策が明示的に実行され、特に、第2次大戦後は1960年代までは共和党の米国大統領だったニクソン大統領(当時)の発言に見られるように、みんなケインジアンだったわけです。しかし、1960年代までは資本ストックの蓄積が不十分で、需要に対して供給が追いつかず、従って、生産すれば売れるし、生産が不足すればインフレになる、という経済でした。しかし、1970年代の2度の油危機を経て、資本ストックが十分に蓄積されて、経済規模が需要で決まるようになります。そうすると、需要を上回る供給があることから経済はインフレからデフレになります。ケインズ経済学の本来想定する状況になったにもかかわらず、1970年代の石油危機に伴うインフレ、あるいは、スタグフレーションによりケインズ経済学は放棄されて、まさに、現在のような新自由主義=ネオリベな経済学が幅を利かせるようになります。そして、本書では、シュンペーターによる資本主義の定義が援用されています。(1) 生産手段の私有、(2) 私的に利益と損失の責任を負う、そして、(3) 民間銀行による決済手段の提供、です。そして、社会主義では生産過程を公的機関に委ねることになります。本書では言及ありませんが、広く知られた通り、シュンペーターは資本主義には終わりが来て、やがて社会主義に移行する、と考えていたわけです。そして、本書では著者はネオリベな資本主義は自滅すると指摘し、大きなパラダイム・シフトの可能性を示唆しています。そして、かつての米ソ冷戦から、今では米中対立という世界的な地政学を展開し、その歳、ギルピンの覇権安定理論とか、ミアシャイマーの地域覇権理論などを援用しています。米中二極の間で地政学的、ないし、地経学的に不安定化する世界を描きだそうとしていますが、冷戦時代はそれなりの安定性あったという見方もありますし、米中の対応次第では安定するか不安定かは、私はアプリオリには決まらないような気がしています。まあ、シロートの意見です。ただ、米国のバイデン政権がネオリベな新自由主義から明らかに離脱し、資本主義は本書で指摘するように変異しつつあるのは、私も大いに同意します。そのコンテクストで安倍-菅内閣から分配を重視する岸田内閣に交代したのであろう、と私は考えています。しかし、日本ではまだネオリベな経済政策がデフレ・マインドとともに根強く残っているのも事実と認めざるを得ません。リベラルな野党、そして、それを支える労働組合の劣化が激しいのが根底にあるような気がしてなりません。

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次に、藤田孝典『コロナ貧困』(毎日新聞出版) です。著者は、社会福祉士=ソーシャルワーカーであり、NPO法人の代表も務めています。2020年のコロナ初期から昨年2021年度半ばまでのコロナによる貧困の実態について、特に、女性の貧困にも目を向けてルポしています。私なんぞは公務員や教員としてリモート勤務もできますし、お給料は全額保証されているのですが、コロナでお給料が激減したり、あるyいは、そもそも職を失った人も少なくありません。ただ、本書のスコープ外なのでしょうが、コロナ禍の中で逆に大儲けをした富裕層も少なくないのは、事実として認識しておく必要があります。すなわち、コロナ禍は格差拡大につながったわけです。特に、ネオリベな経済政策が「自己責任」の強制とともに、大きな役割を果たした点については私もまったく同感です。ということで、もうひとつ私が特に強く感じたのは、本書の著者の女性の貧困に対する温かい眼差しです。「オールナイトニッポン」におけるナイナイ岡村のはなはだしい暴言が広く報じられましたが、本書はそこから説き起こしていて、女性の最後のセイフティネットが風俗である点は、何度でも否定されるべきです。よく、「女性最古の職業」などと称されて、まるでビジネスベースで売春が語られることがありますが、とんでもないことです。その点で、本書の著者は、政府が持続化給付金の対象として性風俗を「本質的に不健全」との理由で除外したことを支持しています。私も同意します。性風俗は女性を搾取しているだけであり、私は廃業すべき、あるいは、廃業させるべきであると考えています。このような女性の最後のセイフティネットが風俗産業であるのは、まさに「福祉の敗北」であり、まさかという目でよんだのですが、役所の生活保護窓口での「水際作戦」で、女性の申請者に対して役所の方から風俗で働くことを示唆するような行為は許しがたいものを感じます。もちろん、本書でも指摘しているように、そもそも、福祉や労働などの役所の窓口には非正規雇用の公務員が配置されている場合が少なくないのですが、こういった福祉の貧困、役所の貧困にもメスが入る日が来て欲しいと私は願っています。ただ、あくまで結果としてなのですが、コロナ禍で生活保護に対する偏見が少し和らいだ気がしますし、生活保護は権利である点はいくら強調しても強調し過ぎることはないと私は考えています。コロナに起因する貧困に限らず、貧困については再分配、というか、福祉で補償するとともに、長い目で見れば教育の問題でもあります。安倍-菅政権のネオリベ内閣から分配を重視する方向に少しでも転換して欲しいと願っています。「自助・共助・公助」なんてスローガンはもうまっぴらです。

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次に、新藤宗幸『権力にゆがむ専門知』(朝日新聞出版) です。著者は、千葉大学名誉教授であり、行政学の研究者です。当然ながら、本書のモティベーションは菅内閣による日本学術会議の6委員の任命拒否であろうと私は推測しており、序章で取り上げられています。そして、もうひとつは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対する対応、特に、昨年2021年の東京オリンピック・パラリンピックの強行開催ではないか、と、これまた推測しています。コロナは第4章で取り上げられています。ということで、これら以外のトピックは、総論的に第1章で政権や官僚機構と専門知に焦点を当て、第2章で専門知が「御用学者」として取り込まれるさまを概観した後、各分野を個別に取り上げています。すなわち、第3章で原子力、繰り返しになりますが、第4章でコロナ、第5章で介護保険、第6章で司法制度改革、終章で政治と専門知の責任、となっています。専門家でも見方によって意見が分かれる話題について、政治の側から都合のいい意見を採用するとともに、そういった政権に都合のいい意見を持つ専門家をシステム的に育てる、ということを考えています。そういった政権・権力に都合のいい意見を持つ専門家を「御用学者」と私は読んでいます。私も長らくキャリアの国家公務員をしていましたから、経済分野でのそういった専門家をいっぱい見てきました。しかし、他方で、学問的な専門性に従って正当な意見を表明する専門家もいっぱいいます。例えば、昨年の東京オリンピック・パラリンピックについて、本書でも指摘しているように、「普通はない」との尾身発言が飛び出して、都合が悪いと考える政治家などは必死になって否定の動きを見せたわけです。また、権力とは内閣といった狭い範囲ではなく、もっと広い定義で考えるべきです。例えば、消費者金融華やかなりしころは、消費者金融の機能として流動性制約の緩和が声高に叫ばれ、消費者金融のエゲツない取り立てなんかを「粉飾」し、正当化する道を開いたエコノミストはいっぱいいます。私も、そのうちの1人をよく知っており、消費者金融の企業から研究資金をもらって、ゼミの学生を夏休みの海外旅行に連れて行ったりしていた事実を見知っています。多くの学生を消費者金融企業に就職させたのではないか、とも想像しています。ただ、他方で、消費者金融企業には就職するべからず、といった視点を提供するエコノミストもいたことは事実です。本書で取り上げているすべての話題について、私が知っているわけではありませんが、研究資金や審議会のポストなどで政権よりに意見を変更する学者さんはいっぱいいます。そういった学者を引き寄せるために、大学の研究資金は細らされているような気すらします。

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最後に、小野善康『資本主義の方程式』(中公新書) です。著者は、大阪大学をホームグラウンドとするエコノミストです。私の資本主義に関する歴史認識とかなりの程度に一致するのですが、本書で著者は資本主義の簡単なモデルに基づいて、1970年代を境にした成長経済と成熟経済に共通する基本方程式を示しています。方程式以外は、基本的に、従来からの主張と変わりなく、消費ではなく資産選好の時代にあっては、政府が消費に回らない部分を税金で集めて、環境や芸術などの市場が形成されない分野に投下すべきである、という結論となります。その方程式は以下の通りです。
γ(m,c)+δ(a,c)=ρ+π ただし a=m+b
左辺の変数については、γは流動性プレミアム、δは資産プレミアム、mは実質貨幣残高、cはイノベーション、というか、消費・購買しようと思わせる魅力的な新商品、bは証券(債券や株式)価格の変動=キャピタルゲイン、であり、右辺は、ρが時間選好率で、πは物価上昇率です。ただし、物価上昇は需給ギャップで決まります。ということで、資本ストックの蓄積が不十分で、生産すれば売れる一方で、生産が不足すればインフレになる、というのが成長経済です。大雑把に1970年代以前であり、日本でいえば高度成長期に当たります。基本方程式の左辺では資産プレミアムがゼロに近くて、流動性プレミアムが十分高くなっています。右辺では、その流動性プレミアムに応じて物価上昇が起こります。魅力的な新商品の出現、日本の高度成長期でいえば三種の神器とか、3Cと呼ばれた耐久消費財が出現すれば、流動性プレミアムが高まるとともに、時間選好率や物価上昇も高まります。そして、資本ストックが十分に蓄積された世界では消費が飽和してしまうことから、資産蓄積に需要が向かいデフレがちになります。長期停滞論です。基本方程式の左辺では、ゼロ金利で流動性プレミアムがゼロ近くまで低下し、逆に、資産プレミアムが高まって資産価格が上昇します。行き過ぎるとバブルになりますが、右辺ではデフレなら物価上昇はマイナスとなります。そして、結局のところ、繰り返しになりますが、成熟経済の経済政策では、生産性を上昇させるような構造改革は否定され、同時に、生産設備となって供給を増加させる投資も否定しつつ、消費に向かわない貨幣を政府が集めて環境や芸術などの市場形成ができない分野のインフラを整備する、という民主党政権のころに、著者がブレーンとなっていた菅内閣の経済政策を思わせます。少しアップデートした点は、経済的格差を明示的に視野に入れ、教育や再分配に目を向けた点かもしれません。ポストケインジアンやMMT学派とは少し違いますし、私が一昨年読んで感激したリチャード・クー『「追われる国」の経済学』でも、投資対象が少ない、としていましたので、少し違う気もします。相通ずる点もありますが、少し違っている気もします。いずれにせよ、私が大学で教えている主流派経済学とはまったく違います。

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2022年4月15日 (金)

日銀「さくらリポート」に見る地域経済の状況やいかに?

やや旧聞に属する話題ながら、日銀支店長会議において、今週月曜日の4月11日に「地域経済報告」、いわゆる「さくらリポート」(2022年4月)が明らかにされています。日銀のサイトから各地域の景気の総括判断を引用すると以下の通りです。

各地域の景気の総括判断
各地域の景気の総括判断をみると、多くの地域で引き続き持ち直し方向の判断となっているが、前回と比較すると、感染症の再拡大のほか、一部の供給制約の影響もあって、8地域で判断を引き下げている。

続いて、各地域の景気の総括判断と前回との比較のテーブルは以下の通りです。

 【2022年1月判断】前回との比較【2022年4月判断】
北海道新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、持ち直しの動きがみられている新型コロナウイルス感染症の影響から下押し圧力が強い状態にあり、持ち直しの動きが一服している
東北新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が落ち着く中、一部に持ち直しの動きがみられている持ち直しの動きが一服している
北陸持ち直している持ち直しの動きが一服している
関東甲信越サービス消費を中心に感染症の影響が幾分和らぐもとで、持ち直している感染症の影響などから弱い動きがみられるものの、基調としては持ち直している
東海持ち直している持ち直しの動きが一服している
近畿消費への新型コロナウイルス感染症の影響が和らぐもとで、全体として持ち直している消費への新型コロナウイルス感染症の影響がみられているものの、全体として持ち直し基調にある
中国持ち直しの動きがみられているサービス消費を中心に下押し圧力が続いているものの、緩やかな持ち直し基調にある
四国新型コロナウイルス感染症の影響が和らぐもとで、緩やかに持ち直している緩やかに持ち直しているものの、一部に新型コロナウイルス感染症等による下押しの影響がみられる
九州・沖縄新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、持ち直している持ち直しのペースが鈍化している

見ての通りで、「各地域の景気の総括判断」に引用した通り、全国9ブロックのうち、中国地方を除く8ブロックで景気の総括判断が引き下げられています。私はこういった景気判断に関する文学表現に疎いんですが、中国地方の1月の「持ち直しの動き」というのと、4月の「緩やかな持ち直し基調」というのは、横ばいと判断されるのを初めて知りました。政府でも月例経済報告で景気判断を示していますが、ここ何年かの表現振りの変化を追ったテーブルがあるんではないかと、私は想像しています。それはともかく、1~3月期の景気については、3月21日まで新型コロナウィルス感染症(COVID-19)オミクロン型変異株の感染拡大に基づくまん延防止等重点措置が続いていましたし、ウクライナ危機に伴う資源価格の高騰もあり、加えて、引用した日銀の総括判断にもあるように、もとはといえばコロナなのかもしれませんが、半導体などの供給制約もあって、我が国景気はかなり悪化しました。先行きについても、コロナとウクライナ危機という経済外要因の動向次第ですので、私にはサッパリ判りません。ひたすら、景気回復を願うばかりです。

今日は、キリスト教圏では、いわゆる Good Friday で、この週末からイースター休暇で、月曜日は Easter Monday です。ギリシア正教にもイースターがありそうな気がするのですが、自信はありません。というのも、私はカトリック圏の南米はチリで3年間の外交官生活を送りましたが、イースターとか、ハロウィンの記憶がまったくありません。ハロウィンはキリスト教には直接の関係はなかったような気もしますが、ジャカルタのアパートでは子供達が楽しみに待つイベントだったりしました。さすがに、ジャカルタではイースターはなかったような...

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2022年4月14日 (木)

夏季ボーナスの伸びは物価上昇に追いつかないのか?

先週から今週にかけて、例年のシンクタンク4社から2022年夏季ボーナスの予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほリサーチ&テクノロジーズのみ国家公務員+地方公務員であり、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員ベースの予想、と明記してあります。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研38.1万円
(+0.3%)
59.4万円
(▲10.2%)
今夏の賞与を展望すると、民間企業の一人当たり支給額は前年比+0.3%と、夏季賞与としては、3年ぶりのプラスとなる見込み。
みずほリサーチ&テクノロジーズ38.5万円
(+1.4%)
65.5万円
(▲10.6%)
まん延防止等重点措置が解除され、夏場にかけての個人消費は持ち直しが期待される。既に、足元では国内線や旅行ツアーの予約が好調との報道もあり、対人接触型サービス消費には持ち直しの兆しがみられる。しかし、賃金(含むボーナス)を上回る物価の上昇が懸念される中、実質所得の減少は夏場の個人消費の回復を阻害する要因になる。感染拡大で落ち込んでいた対人接触型サービス消費の反発を除くと、夏場の個人消費は力強さを欠く展開になりそうだ。
第一生命経済研n.a.
(+1.2%)
n.a.小幅とはいえベースアップが実現し、ボーナスも伸びが高まることで名目賃金については増加が見込まれるものの、それでも賃金の伸びは物価上昇に追い付かない可能性が高く、実質賃金でみればマイナスが予想される。コロナ禍からの持ち直しが期待されている個人消費だが、その期待が裏切られる可能性があることに注意したい。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング38.4万円
(+1.0%)
58.5万円
(▲11.5%)
順調に回復する企業業績、堅調な雇用情勢が追い風となるも、新型コロナ感染症の断続的な感染拡大、ウクライナ危機前から続く資源価格高による企業の負担コスト増が押し下げ要因となり、増加幅は限定的にとどまろう。

上の表に見える通りで、日本総研を別にすれば、2022年夏季ボーナスは+1%以上の伸びが見込まれています。ここ3年の夏季ボーナスの前年比は、毎月勤労統計調査によれば、2019年▲1.5%減、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック以降の2年間では、2020年+0.5%増、2021年▲0.8減でしたから、+1%増、あるいは、それを超える伸びであればまずまず、という気もしますが、ヘッドラインに取り上げた見方の通りで、実は、物価上昇に追いつきません。例えば、日本経済研究センター(JCER)の最新のESPフォーキャスト調査によれば、2022年度の消費者物価(CPI)上昇率は+1.64%が見込まれていますから、もっとも高い伸びを予想しているみずほリサーチ&テクノロジーズの+1.4%としても、物価上昇を差し引いた実質値/購買力で見て夏季ボーナスは昨年に比べて減少する可能性が高いと考えるべきです。ボーナスは恒常所得ではないので、消費への影響はそれほど大きくないとの見方もありますが、悲観的な見方を示すシンクタンクもあります。私も同じで、夏季であれ、年末であれ、特に大型の耐久消費財の購入にはボーナスはそれなりのインパクトあると考えています。従って、夏物商戦が渋いボーナスのために盛上がりを欠く可能性は高いと考えるべきです。そして、何度もこのブログで主張しましたが、わたしの主張を繰り返しますと、インフレが高まるのであれば、例えば、ガソリンなどの価格抑制のために企業に補助金を出すのではなく、物価上昇に見合った家計所得の増加で帳消しにする、従って、実質的な家計消費が減少しないように所得で補償する方向が重要、と私は考えています。しかし、消費税率引上げの際にも軽減税率が適用され、今回のインフレ率上昇局面でも企業への補助金で価格抑制が図られる方策が取られています。労働組合や労働運動の弱体化、特に、ナショナルセンターである連合のあからさまな劣化が一因ながら、賃上げという形で家計所得が増加する方向に進んでいないのは労働運動のあり方として、あるいは、それを支える政策の方向として、ともに、大きな疑問を感じます。価格抑制の短期的な政策とはいえ、まあ、米国の石油備蓄放出も似たようなものなのですが、化石燃料に補助金を出すようでは、地球温暖化や気候変動の防止に逆行しているとしか見えません。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。

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2022年4月13日 (水)

大きく減少した2月統計の機械受注の先行きをどう見るか?

本日、2月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比▲9.8%減の8114億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を引用すると以下の通りです。

2月の機械受注、前月比9.8%減 市場予想は1.5%減
内閣府が13日発表した2月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比9.8%減の8114億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.5%減だった。
製造業は1.8%減、非製造業は14.4%減だった。内閣府は基調判断を「持ち直している」から「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に変更した。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で▲1.5%のマイナス予想でした。従って、実績の▲9.8%減はレンジの下限の▲7.3%減を超えて、ややびっくりの大きな下振れでした。それもあって、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直している」から「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に半ノッチ下方改定しています。先々月に2021年12月統計が公表された際、今年2022年1~3月期のコア機械受注は前期比▲1.1%減の2兆6,749億円と見込まれていましたが、第一生命経済研のリポートによれば、この数字に到達するためには3月統計で+18.8%の伸びが必要になるそうです。
明らかに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)オミクロン型変異株の感染拡大や国際商品市況における資源価格の高騰に起因する設備投資意欲の減退であると考えるべきです。ですから、製造業は前月比でまだ▲1.8%減で済んでいますが、船舶と電力を除く非製造業は▲14.4%の大きなマイナスを記録しています。船舶と電力を除く非製造業について、少し詳しく産業別の統計を見ると、不動産業が前月比▲40.8%減、情報サービス業が▲36.9%減、運輸業・郵便業が▲23.7%減、金融業・保険業が▲23.3%減、などとなっています。製造業はいくぶんなりとも海外需要もあって受注が堅調に推移している一方で、内需の依存度合いが大きい非製造業の停滞が目立つ形になっています。また、オミクロン株の新規感染者数はほぼ2月にピークとなり、まん延防止等重点措置についても3月21日に全面解除されたことから、経済活動は正常化に向かい、非製造業を中心に設備投資意欲が回復することが見込まれる一方で、ウクライナ危機もあって石油をはじめとする資源価格が一段の高騰を見せており、COVID-19についても新規感染者数が高止まりしていることなどから、それほど設備投資意欲が高まるとも考えられず、引き続き、機械受注、あるいは、設備投資は目先は停滞を示す可能性が高い、と私は受け止めています。ただし、2022年度いっぱいを見通せば、日銀短観に見られる企業の設備投資意欲は根強く、また、資源価格の高騰については、中長期的には、省資源や資源代替を目的とする設備への需要が高まる可能性も十分ある、と考えるべきです。

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2022年4月12日 (火)

3月統計の企業物価指数(PPI)上昇率は2ケタ近い+9.5%に達する!!!

本日、日銀から3月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+9.5%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

3月の企業物価指数、前年比9.5%上昇 前月比0.8%上昇
日銀が12日発表した3月の国内企業物価指数(2015年平均=100)は112.0で前年同月比で9.5%上昇、前月比で0.8%上昇だった。市場予想の中心は前年比9.3%の上昇だった。
円ベースで輸出物価は前年比13.1%上昇、前月比で3.0%上昇した。輸入物価は前年比33.4%上昇、前月比で3.3%上昇した。

とてもコンパクトながら、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比で、3月は+9.3%の上昇と予想されていて、実績の+9.5%は、まあ予想のレンジ内とはいえ、やや上振れた印象です。実際に、国内企業物価上昇の要因は主として3点あり、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇、さらに、オミクロン型の変異株をはじめとする新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による供給制約の2点がコストプッシュの要因です。ただし、資源価格の口頭についてはウクライナ危機だけではなく、一部のエコノミストから「中国要因」と呼ばれているように、新興国の景気回復による資源需要増という需要要因を背景としています。とはいえ、あくまで我が国から見ればコストプッシュとみなすエコノミストも多いと考えられます。しかしながら、コストプッシュとはいえ、物価の上昇そのものは本格的なデフレ脱却には決して悪くない条件を提供している可能性があります。コストプッシュなのですから製品価格に転嫁しつつ、労働者に対して生計費の上昇に対応した所得増を実現する、という企業行動や経済政策がデフレ脱却につながる可能性です。逆に、コスト増で企業経営が苦しいからといって労働者が賃上げ抑制を押し付けられたり、あるいは、現在の政府のガソリン補助金のようにコストプッシュの方を抑え込んで価格引上げを抑制しようとする方向は、なかなか払拭できないデフレマインドをさらに強固に定着させかねない危険すらあります。もちろん、日本では企業規模格差に伴って、下請中小零細企業が大企業に対して価格引上げを要求しにくいという面は無視できませんが、他方で、化石燃料の価格上昇を容認すれば、タバコ値上げとよく似た効果があり、石油や天然ガスなどの消費を抑制して、地球温暖化や気候変動への対策にもつながる可能性も指摘できます。3月PPI統計のうちの国内物価について品目別で前年同月比を少し詳しく見ておくと、木材・木製品が+58.9%、鉄鋼+27.9%、石油・石炭製品が+27.5%、非鉄金属が+23.5%、化学製品+13.2%までが2ケタ上昇となっています。そして、ついでながら、これらの品目は2月の前年同月比上昇率よりも本日公表の3月統計の上昇率の方が、鉄鋼を除いて、わずかながら縮小しています。しかし、ロシアのウクライナ侵攻に伴って石油価格はさらに一段の上昇を見せており、PPIの円建て指数もまだ3月統計で上昇しており、何とも、先行きは見通し難く感じています。

このところ、欧米をはじめとして世界的にはインフレが高まっています。従って、広く報じられている通り、米国では連邦準備制度理事会(FED)がすでに金融引締め局面に舵を切っています。他方で、日本ではまだまだ本格的にデフレから脱却した、とまでは言い切れない物価状況が継続していますが、それでも、消費者物価指数(CPI)で見ても、本日公表の企業物価指数(PPI)で見ても、いずれも、足元で物価が上昇しつつあることは明らかです。消費者物価指数(CPI)上昇率も、携帯電話通信料金の効果が剥落する4月統計では+2%の日銀インフレ目標に到達する、あるいは、到達してしまうんではないか、と私を含めた何人かのエコノミストは予想しています。そうすると、日銀はどうするんでしょうか。ひょっとしたら、米国FEDと同じように、引締めに舵を切るんでしょうか。政策面の不透明さも不安が残ります。

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2022年4月11日 (月)

東京商工リサーチの2021年度「全国企業倒産状況」やいかに?

先週金曜日4月8日に、東京商工リサーチから2021年度の「全国企業倒産状況」が明らかにされています。負債1,000万円以上の全国の倒産状況は、2021年度に5,980件(前年度比▲16.5%減)、負債総額が1兆1,679億7,400万円(▲3.3%減)と、コロナ関連の金融支援策に支えられ、件数は2年連続で、また、負債総額も4年連続で前年度を下回っています。件数は57年ぶりに6,000件割れした一方で、コロナ関連倒産は1,770件に上っています。東京商工リサーチのサイトからグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは東京商工リサーチのサイトから 企業倒産年度推移 を引用しています。見ての通りで、倒産は件数も負債総額も低下を示していて低い水準にあります。上場企業倒産はありませんでしたし、倒産件数は57年ぶりに6,000件割れした一方で、コロナ関連倒産は1,770件に上っています。2020年度のコロナ関連倒産が1,155件でしたので、1.5倍増となっています。ただし、従業員数別では10人未満の構成比が89.6%、倒産企業の中で中小企業の構成比は99.9%と、規模の小さな企業の苦戦が続いています。

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続いて、上のグラフは東京商工リサーチのサイトから 主要産業倒産件数構成比推移 を引用しています。東京商工リサーチでは、独特の10産業分類を取っているのですが、その10産業のうち、運輸業を除く9産業、すなわち、農・林・漁・鉱業、建設業、製造業、卸売業、小売業、金融・保険業、不動産業、情報通信業、サービス業他で減少しています。上のグラフでは、10産業のうちの主要5産業をピックアップしています。最後に、図表の引用はありませんが、都道府県別では、前年度より倒産件数が増加したのが9県、減少が35都道府県、横ばいが3県、となっています。

不況期に倒産するのは生産性が低かったり、何らかの非効率のある企業であり、これらが淘汰されることに、一定の意義を見出そうとするエコノミストもいなくはないのですが、私は企業が倒産して労働者が失職するのは大きなムダを生じる可能性が高いと考えています。その意味で、企業倒産が低レベルにあるというのは決して悪い話ではない、と受け止めています。

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2022年4月10日 (日)

またまた広島にも連敗して2勝目が遠いタイガース!!!

  RHE
広  島010000000 140
阪  神000000000 060

広島に連敗です。2勝目が遠くなっています。
まあ、今のタイガースの状態では、競り合った試合には勝てません。勝てるとすれば、投手がピシャリとゼロに抑え切るか、打線に火がついて大量得点を上げるか、どちらかなのでしょう。次の中日戦には、大野雄投手と柳投手が登板すると報じられており、阪神は連敗街道を続けるんでしょうかね?
タイガースを離れて、ロッテの佐々木朗希投手が19奪三振でパーフェクトだそうです。誠におめでとうございます。

次の中日戦は、
がんばれタイガース!

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鶴橋風月のお好み焼きで昼食を楽しむ!!!

この週末は、大学を卒業して就職したばかりの下の倅が、新入社員研修の合間を縫ってやって来ましたので、今日の昼食は鶴橋風月のお好み焼きに出かけました。写真だけ以下の通りです。

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見れば判ると思いますが、上から順に、一番上の写真は、お店に入るところの鶴橋風月のかんばん、2枚めが、壁に貼ってあるメニュー、我が家はこの右側の「大阪セット」をオーダーしました。3枚めが、早めに出来上がった焼きそばと焼いている途中のお好み焼きで、4枚目が焼き上がってソースをかけたお好み焼き、ぶた玉モダンと風月焼きです。最後の5枚目が、皿に取り分けたお好み焼きです。「大阪セット」は2~3人分ということらしく、下の倅が来るとこれでは不足し、いかえび玉を追加しています。ランチの量が十分でしたので、倅が帰った後の夕食は軽めになりそうです。

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2022年4月 9日 (土)

序盤から投手陣が打ち込まれて広島にボロ負け!!!

  RHE
広  島033003000 9130
阪  神000100000 172

広島にボロ負けです。
まあ、今のタイガースの状態では、先発投手が序盤に6失点すれば試合は決まってしまいます。打線も広島の森下投手に完投されてしまい、佐藤輝選手の2号ソロは空砲に終わりました。

明日は何とか、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書2冊と新書2冊に文庫本の小説1冊と合わせて計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、経済書2冊、新書2冊に文庫本の小説1冊と合わせて計5冊です。
野口悠紀雄『入門 米中経済戦争』(ダイヤモンド社)は、タイトルそのままなのですが、米中間の貿易戦争の背景や先行き見通しに関する見方を提供しています。みずほリサーチ&テクノロジーズ『経済がわかる論点50 2022』(東洋経済)はシンクタンクらしくコンパクトに取りまとめられていますが、さすがに、直近のロシアによるウクライナ侵攻の影響までは含まれていません。松本創『地方メディアの逆襲』(ちくま新書)は、決して通信社の配信ニュースのキャリーやキー放送局からの垂れ流しではない地方メディアの報道について、ジャーナリストらしい視点から取り上げています。笹沢教一『コロナとWHO』(集英社新書)は読売新聞ジュネーブ支局長経験者が、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック発生当初からの経緯を取りまとめ、コロナに対する世界的な司令塔としてのWHOの活動に大きな疑問を投げかけています。畠中恵『かわたれどき』(文春文庫)は、「しゃばけ」のシリーズで有名な著者の短編集で、もうひとつの「まんまこと」シリーズの文庫本としてはシリーズ最新刊です。主人公の麻之助の再婚に向けた動きが始まっています。ただ、単行本としてはこれより新しい巻が発売されています。
本年2022年に入って、今週の5冊を含めて計55冊とややスローペースです。ただし、阪神タイガースの不調により野球観戦熱が大きく低下しましたので、読書が進むかもしれません。

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まず、野口悠紀雄『入門 米中経済戦争』(ダイヤモンド社) です。著者は、ご存じ、大蔵省(当時)ご出身のエコノミストです。本書のタイトルはややキワモノっぽいんですが、まあ、中身はそれほどキワモノでもありません。ただ、米中貿易戦争をメインにおいているわけでは決してなく、むしろ、中国経済に関して幅広く解説した経済書と考えるべきかもしれません。ということで、非常に興味深い論点が含まれており、最初は中国経済の、というか、経済に対する中国共産党のハンドリングが変化している可能性です。すなわち、毛沢東時代は大躍進とか、文化大革命とか、ハッキリいって、経済に対して無理解でメチャクチャな政策を取って餓死者が出るほどの経済状態を現出したわけですが、鄧小平が実験を握ってから市場経済を巧みに取り入れて、さらに、香港返還やWTO加盟などの国際環境の変化にもうまく乗りつつ、中国経済は大いに発展しました。しかし、習近平政権では再び毛沢東時代に逆戻りし、同時に、格差是正という観点からも、企業活動に対して大きな制約を加えたり、芸能人や企業経営者に対するバッシングなども見られ始めていて、先行き、中国経済が停滞する可能性を示唆しています。従って、トランプ政権当時に始められた関税率引上げという形での米中貿易戦争は、たしかに、当時のトランプ大統領の「米国ファースト」、あるいは、製造業の雇用流出の抑制という、ややアサッテの目論見からなされたとはいえ、現在のバイデン政権が引き継いでいる中国への厳しい政策対応は、実は、データ経済の基盤をなす技術開発に関して、中国共産党的に中央集権体制で進めるデジタル共産主義か、あるいは、米国のシリコンバレー方式で分権的な進め方を容認する民主主義か、の違いに基づいていると本書では指摘しています。ただし、日本は地理的な位置関係からしても中国経済の影響が大きく、米国のサイドに立って対中強硬策を取るのは難しい、と結論しています。ただ、この先が本書の論点の弱いところなのですが、では、中国にも米国にも依存し、同時に、どちらの陣営にも積極的に加わりたくなければ、日本は同じような立場にある韓国や豪州との関係を模索すべし、というところで終わっています。技術開発のマネジメントに関する中央集権と分権まではよかったのですが、日本の対応策がやや尻すぼみな印象です。

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次に、みずほリサーチ&テクノロジーズ『経済がわかる論点50 2022』(東洋経済) です。みずほリサーチ&テクノロジーズはシンクタンクなのですが、みずほ情報総研、みずほ総合研究所、みずほトラストシステムズが合併してできています。私は、その昔の合併前のみずほ総研にしか知り合いはいませんが、みずほ総研が、というかみずほグループが出来たのは、広く知られている通り、興銀、第一勧銀、富士銀の3行が合併してできたわけで、みずほ総研の高位役職は3で割り切れる数字の人数が配されていて、例えば、チーフエコノミストは3人いました。普通は、チーフエコノミストは組織に1人だけで、だからチーフエコノミストなんですが、3人いたみずほ総研を揶揄するエコノミストもいたりしました。今はどうなのか知りません。ということで、本書は2部構成なのですが、第1部はそのチーフエコノミストの視点が明らかにされています。まあ、可もなく不可もなくといった無難な見方で、おそらく、2021年10~12月期の時点ではこんなもん、という気がします。国内医療の逼迫はワクチン遅れが原因というのは当然ですし、米中関係が世界経済に影を投げかけていたのも事実でしょう。ただし、2022年が明けてからオミクロン株の感染拡大が広がり、ロシアのウクライナ侵攻が始まって、世界が一変したわけです。ここまでを見通せというのは、エコノミストにはムリな相談です。ということで、50の論点は、日本経済、海外経済、金融・マーケット、制度・政策、ビジネス・社会の5章で各10ということになります。論点ごとに4ページずつというのも、チーフエコノミストが3人いたみずほ総研の流れを汲む組織としては律儀なところです。もちろん、コンサル活動も含むシンクタンクのエコノミストが取りまとめたものですので、とても理解しやすく、多くの専門家の作業をうまく取りまとめていることから、幅広い論点を的確に網羅しています。もっとも対応困難であったのは現下のインフレですが、日本の物価上昇については、昨年2021年4月からの携帯電話料金のムリムリの引下げが今月2022年4月に剥落するというのは、さすがにキチンと抑えてあります。エネルギーを始めとする資源価格高騰によるコストプッシュのインフレと日本では考えられていますが、資源価格高騰の背景はウクライナ危機だけではなく、本書で極めて的確にも「中国需要」と表現されています。資源依存の大きい新興国での需要増もありますから、決してコストプッシュ一辺倒ではありません。物価と景気の動向に従って、米国ではすでに金融政策が利上げ=引き締め局面に入っています。物価は上がるが景気はイマイチという我が国金融政策はどういう運営になるのでしょうか。

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次に、松本創『地方メディアの逆襲』(ちくま新書) です。著者は、神戸新聞の記者を経て、今はフリーとなったジャーナリスト・ライターです。本書は6章構成となっており、地方紙3紙と地方放送局3局に焦点を当てています。まず、第1章で取り上げるのは、イージス・アショア計画の報告書のデータミスを報じた秋田魁新報です。典型的なNIMBY=迷惑施設であるイージス・アショアの秋田配備を撤回させたスクープでした。第2章では、琉球新報が積極的に取り組んだファクトチェック報道の舞台裏を明らかにします。沖縄県知事選挙の際にSNSなどにポストされた情報に対する事実検証報道は先駆的でした。第3章では、毎日放送のドキュメンタリー『映像』の系譜を題材にして、視聴率を上げる番組作りと視聴率には結びつかないけれども良質なドキュメンタリ番組について考えさせられました。第4章では、瀬戸内海放送の調査報道記者の活動を明らかにしています。規模が小さいく、しかも、地方を拠点とするテレビ局にありながら、個人の力で真実を発掘すべく調査報道に取り組んでいる記者の歩みにスポットを当てています。第5章では、京アニの放火事件の後、実名報道について考えさせられた京都新聞における被害者報道のあり方を議論しています。最後の第6章では、東海テレビ放送の番組『さよならテレビ』、そこでは、自社の報道部内にカメラが入り、報道機関が必ずしも見せたくない、決して都合のよくない事実を明らかにしたドキュメンタリー番組について取り上げています。私は国家公務員として、どうしても首都である東京勤務が長く、定年退職前に地方勤務をしたのは長崎大学への出向の2年間だけでした。新聞社は通信車の記事をキャリーし、テレビ局はキー局の番組を流すだけ、という印象がついついあったのですが、本書を読むことにより地方メディアに対する見方が少し変わった気がします。でも変わったのは少しだけであり、本書では注目していないSNSなどでダイレクトに国民が情報を発信できるようになった現在で、地方メディアがどのように対応すべきなのか、もう少し掘り下げた議論が必要そうな気もします。

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次に、笹沢教一『コロナとWHO』(集英社新書) です。著者は、読売新聞のジャーナリストなのですが、肩書は読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員ということになっており、ジュネーブ支局長も経験しています。まさに、WHO本部のあるジュネーブに土地勘があり、国連欧州本部のあるパレデナシオンでは取材陣がC棟にいるとか、それなりの臨場感ある表現もあったりします。ということで、サブタイトルの『感染症対策の「司令塔」は機能したか』に示されているように、本書ではWHOが新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大、ないし、パンデミックの初動からWHOが中国に配慮するあまり的確な対応を取れなかったのではないか、という疑問に取り組んでいます。そして、私の感触では著者はかなりの程度に yes に近い答えであろうと受け止めました。まず、中国における感染の通報などのタイムラインから検証を行い、さらに、ヒト-ヒト感染を認定するのが2020年1月30日とやたらと遅れた点については、直前の1月27日からのテドロスWHO事務局長と習主席や王外交部長をはじめとする中国首脳との会談を「圧倒的な政治力の差」と表現しています。科学的な知見よりも重視された何かがあった点が示唆されています。国威発揚の手段とされてしまったワクチンについても批判的に検証を行い、COVAXの機能については国連の機能について熟知して影響力を拡大しようとする中国と高級官僚のポストの確保としてしか見ていない日本の姿勢とを対比させ、ここでも、したたかな中国の政治力や外交力がCOVID-19への対応にも影響している可能性を示唆しています。最後の方では、テドロスWHO事務局長の人となりや経歴まで明らかにして、中国寄りの姿勢を取る背景をあぶり出しています。私自身は外交官としての活動や国際協力の方はともかく、国際機関の勤務経験もなく、ましてや、保健衛生などのWHOの活動はまったく未知の世界ですが、一般的に指摘されているように、WHOのコロナ対応は中国への配慮が行き過ぎていて、必ずしも科学に基づかないのではないか、という疑問が、それなりに明らかになった気もします。ただ、解決策としては、このWHOのバイアスを是正するということになるのですが、最初に取り上げた『入門 米中貿易戦争』ではないですが、そうそう簡単ではないのは当然です。

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最後に、畠中恵『かわたれどき』(文春文庫) です。著者は、時代小説のしゃばけシリーズとまんまことシリーズの小説家であり、私は役所に勤務している時には、少なくともしゃばけのシリーズは、研究所で席を並べる同僚が大ファンで必ず単行本で買っていたので、お流れで貸してもらっていました。ついでながら、しゃばけのシリーズは妖がいっぱい登場するのですが、このまんまことシリーズは妖が登場せずに、人間だけでストーリーが進みます。ただ、どちらも、殺人までいかないまでも軽いミステリ仕立てになっていて、まんまことシリーズでは主人公の麻之助が謎解きをするケースが多いような気がします。また、しゃばけも、まんまことも、単行本/文庫本は年1冊で半年分の連載ですから、短編6話を収録しています。なお、本書はまんまことシリーズの文庫ベースで最新刊第7巻ですが、文庫本としては最新刊ながら、単行本ベースではすでに第8巻『いわいごと』が出版されています。ということで、本書は、「きみならずして」、「まちがい探し」、「麻之助が捕まった」、「はたらきもの」、「娘四人」、そして、本書のタイトルである「かわたれどき」の6話構成となっています。お産で妻お寿ずと娘をいっぺんに亡くした麻之助に対して、後添えを、というお話が中心になっています。まだ読んでいませんが、タイトルからして第8巻は麻之助が再婚するんだろうと思います。まず、「きみならずして」では、その後添え候補の女性が「結納前にお顔を拝見したくて」と麻之助の前に現れます。「まちがい探し」では、地本問屋から依頼された、金魚の横顔を頼りにした奇妙な人探しが始まります。「麻之助が捕まった」では、生き別れた息子を必死で探し当てた夫婦のお話ですが、その息子は本物なのかをみんなで考えます。「はたらきもの」では、天狗が出たり金が湧いたりして、お江戸にはびこる不穏な噂の真相を解き明かします。「娘四人」では、出入りの同心を替えた両替屋の娘が厄介な相談を持ち込みます。最後に、「かわたれどき」では、洪水で九死に一生を得た料理屋の娘お雪は、記憶喪失で麻之助のことを覚えていませんでした。そして、繰り返しになりますが、このお雪と麻之助が夫婦になって祝言をあげるんだろうと思います。機会があれば、第8巻『いわいごと』も読みたいのですが、しゃばけシリーズもずいぶんとご無沙汰しています。

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2022年4月 8日 (金)

3月統計の景気ウオッチャーと消費者態度指数に見る消費者マインドやいかに?

本日、内閣府から3月の景気ウォッチャー消費者態度指数が公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+10.1ポイント上昇の47.8と改善し、先行き判断DIも+5.7ポイント上昇の50.1となっています。また、消費者態度指数は、前月から▲2.4ポイント低下し32.8を記録しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

3月の街角景気、現状判断指数は3カ月ぶり改善
内閣府が8日発表した3月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は47.8で、前の月に比べて10.1ポイント上昇(改善)した。改善は3カ月ぶり。家計動向、企業動向、雇用関連が改善した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は50.1で、5.7ポイント上昇した。上昇は2カ月連続。家計動向、企業動向、雇用関連が改善した。
内閣府は現状の基調判断を「持ち直しに弱さがみられる」から「持ち直しの動きがみられる」に変更した。
3月の消費者態度指数、2.4ポイント低下の32.8
内閣府が8日発表した3月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比2.4ポイント低下の32.8だった。
内閣府は消費者心理の基調判断を「弱含んでいる」から「弱い動きがみられる」に下方修正した。
態度指数は消費者の「暮らし向き」など4項目について今後半年間の見通しを5段階評価で聞き、指数化したもの。全員が「良くなる」と回答すれば100に、「悪くなる」と答えれば「ゼロ」になる。

短いながら、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは昨年2021年12月まで上昇を示した後、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大などを背景に、今年2022年1月統計では大きく低下し、2月統計でも引き続き小幅に低下した後、本日公表の3月統計では大きく上昇しています。ただし、昨年2021年12月の水準にはまだ▲10近く下回っています。先行き判断DIも3月統計で上昇しています。現状判断DIも、先行き判断DIも、企業動向関連よりも家計動向関連が大きく上昇していますし、企業動向関連の内では製造業よりも非製造業の完全幅が大きくなっています。すなわち、軽く想像されるように、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大のピークアウトないし鈍化に対応したマインドの改善と考えるべきです。ですから、足元で全国レベルの新規感染者数が再拡大しているとすれば、またまた逆コースでマインドが悪化する方向に向かうことは容易に想像できます。ですから、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に半ノッチ上方改定したのですが、いいのかね、という気はします。強くします。

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続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。景気ウォッチャーのグラフと同じで、影を付けた部分は景気後退期となっています。何と、景気ウォッチャーが大きく改善したのに対して、消費者態度指数は逆に悪化、しかも、3か月連続の悪化です。景気ウォッチャーの回答者が、小売店やタクシー運転手などの消費者活動の対象となっている事業者であるのに対して、消費者態度指数は消費者に直接質問していますから、事業者の方が消費者のマインドを読み誤っている可能性はあります。ただ、事業者は売上などのハードデータを基に消費者のマインドというソフトデータを回答していますので、このあたりは複雑です。とはいえ、消費者態度指数のコンポーネントについて、前月差で見ると、「暮らし向き」が▲3.9ポイント低下し31.3、「耐久消費財の買い時判断」が▲3.7ポイント低下し27.8、「雇用環境」が▲1.2ポイント低下し34.8、「収入の増え方」が▲0.8ポイント低下し37.4と、すべてのコンポーネントが低下を記録しています。上のグラフを見ても明らかなように、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の新規感染者数が大きく減少していた昨年2021年10~12月期の時期から、今年2022年が明けて急降下で低下を示しています。従って、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府でも基調判断を「弱含んでいる」からさらに下方修正して「弱い動きがみられる」に変更しています。

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最後に、本日、財務省から2月の経常収支が公表されています。季節調整していない原系列で+1兆6,483億円の黒字を計上しています。グラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整をしていない原系列の統計で見て、2月統計では3か月ぶりの経常黒字を記録していますが、国際商品市況における資源価格の高騰などを受けて、貿易収支が▲1768億円の赤字、サービスと合わせて貿易・サービス収支が▲3803億円の赤字を計上しています。しかしながら、季節調整済みの系列ではまだ経常収支は+1兆円を超える黒字を維持しています。何度も繰り返しますが、ロシアのウクライナ侵攻などを受けて、国際商品市況で石油をはじめとする資源価格が値上がりしていますので、石油をはじめとする資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然であり、消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくなく、貿易赤字は容認されるべきである、と私は考えています。

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2022年4月 7日 (木)

2か月連続で下降した景気動向指数CI一致指数の先行きをどう見るか?

本日、内閣府から2月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲1.6ポイント下降して100.9を示し、CI一致指数も▲0.1ポイント下降して95.5を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

2月の景気動向指数、2カ月連続悪化 感染拡大響く
内閣府が7日発表した2月の景気動向指数(CI、2015年=100)の速報値は、足元の経済動向を示す一致指数が前月比0.1ポイント低い95.5だった。2カ月連続の悪化となった。新型コロナウイルスの感染拡大で小売業や卸売業の販売がふるわなかった。内閣府は指数を基に機械的に作成する景気の基調判断を「足踏みを示している」に据え置いた。
一致指数を構成する10項目のうち集計済みの8項目をみると、3項目が低下に寄与した。コロナを受けた「まん延防止等重点措置」などで客足が遠のき、ホームセンターやデパートなどの販売が低迷した。金型やフラットパネルディスプレー向け製造装置などがふるわず資本財の出荷が減ったほか、エレベーターといった建設財も悪化した。
2~3カ月後の景気を示す先行指数は前月比1.6ポイント低い100.9と市場予想(1.7ポイント減)をやや上回った。ウクライナ情勢や資源価格の高騰、福島県沖地震による工場停止などが下振れリスクになる可能性がある。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、統計作成官庁である内閣府では、昨年2021年9月統計から「足踏み」に下方修正して、本日公表の2月統計まで据え置かれていて、「足踏み」は6か月連続です。基準がどうなっているかというと、CI一致指数の「3か月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1か月、2か月または3か月の累積)が1標準偏差分以上」となっています。本日公表の2月統計では、3か月後方移動平均は昨年2021年11月統計から4か月連続でプラスに転じていますが、移動平均ではない当月の前月差が▲0.1のほぼ横ばいとはいえ、2か月連続のマイナスではどうしようもありません。ということで、2月統計についてCI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、投資財出荷指数(除輸送機械)、商業販売額(小売業)(前年同月比)、労働投入量指数(調査産業計)となっています。逆に、プラス寄与が大きい系列は 鉱工業用生産財出荷指数、有効求人倍率(除学卒)、耐久消費財出荷指数、輸出数量指数などとなっています。2月は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染が拡大した時期ですし、2月末から現在まで新規感染者数が高止まりを続けています。というか、一部にはすでに感染拡大に入り、過去最高の新規感染者数を記録している県もあったりします。加えて、ロシアのウクライナ侵攻の影響により石油などの資源価格が高騰しており、コスト面からも日本経済の成長に重しとなっています。福島沖地震の影響により創業を中断している工場も少なくなく、何よりも、東北新幹線の全面開通はまだ1週間程度の期間を要するようです。コロナ、ウクライナ危機ともに、経済外要因の下振れリスクが高まっています。

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2022年4月 6日 (水)

好投好打の伊藤投手に援護なく代打も継投も失敗し横浜に逆転負け!!!

 十一十二 RHE
横  浜000000001005 690
阪  神000010000000 190

横浜に逆転負けです。
伊藤投手があまりに哀れです。打線には援護してもらえず、自らのバットで1点は取りましたが、ベンチからはリリーフを送ってもらえず、土壇場の最終回ツーアウトから同点に追いつかれました。後はお決まりの負けパターンです。ベンチはなすすべもなく采配はことごとく大外れとなります。代打を送っても打線は得点できず、リリーフを送れば失点します。
私はなぜか Lévi-Strauss の Tristes Tropiques を思い出してしまいました。悲しき阪神タイガース、かもしれません。競り合って勝てるチーム状態ではないということなのでしょう。

明日は何とか、
がんばれタイガース!

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ロシアに対する経済制裁は世界と日本にどれくらいの影響があるのか?

ロシアによるウクライナ侵攻は連日メディアで報道されているところですが、我が国は欧米各国と協力してロシアに対する経済制裁を行っていることも広く報じられています。果たして、そういった経済制裁がどのような経済的な帰結となるのかについては、それほど議論が進んでいません。この点について、JETROアジア経済研究所から「ロシアに対する経済制裁の世界経済への影響 - IDE-GSMによる分析」と題するリポートが明らかにされています。参照先は以下の通りです。

一応、私も大学教授ですので、学術資料としての参考文献の形で示すと以下の通りです。

  • 熊谷聡、早川和伸、後閑利隆、磯野生茂、ケオラ・スックニラン、坪田建明 (2022)「ロシアに対する経済制裁の世界経済への影響 - IDE-GSMによる分析」アジ研ポリシー・ブリーフ No.156、IDE-JETRO、2022年4月1日

IDE-GSMモデルとは、Institute of Developing Economies-Geographical Simulation Modelの略であり、産業としては、農業部門と製造業部門の自動車、電気機械、繊維製品・衣服、食料品・飲料・たばこ、その他製造業、そして、サービス業の3産業7部門、さらに、地域としては、東アジアの18の国・地域、すなわち、ASEAN10、日本、中国、韓国、台湾、香港、マカオ、インド、バングラデシュの約1800地域を中心に、東アジア以外の63か国のデータで構築されている空間経済学に基づいた一般均衡モデルです。途上国の地域レベルでの経済発展分析に応用されています。

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まず、アジ研のサイトからテーブルの形で 1年間の「全面制裁」の影響 を引用すると上の通りです。今年2022年におけるベースラインとの比較、すなわち、deviation のパーセント表示で示されています国別かつ産業別です。当然、国別ではロシアへの影響が大きくなっていますが、ロシアの輸入、日本や経済制裁に参加している欧米各国から見た輸出が阻害されますので、ロシア国内の輸入比率の多い産業、例えば、テーブルから見る限り、電子・電機産業とか、繊維・衣料産業とかのロシア国内での生産は逆に大きく増加するという結果が示されています。ただし、ロシア経済に占めるこれらの産業のシェアは小さく、金額としては小さい点は留意する必要があります。

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次に、アジ研のサイトから世界地図の形で 1年間の「全面制裁」の影響 を引用すると上の通りです。ロシアについては若干の濃淡はあるものの、当然、全域で大きなマイナスの影響が出ていることが見て取れます。また、モンゴルやカザフスタンなどの中央アジア諸国、ロシアに接する東欧諸国、中国の西部や北部などに比較的大きな影響が見られます。加えて、小さいとはいえアフリカ諸国にも影響が及んでいる点は見逃せません。

リポートでは、この全面制裁のほかに中国を除く制裁の影響も試算しています。上のテーブルのロシアのGDPへの影響▲15.8%が、中国が抜けるだけで▲4.6%と、大幅に縮小してしまいます。これも重要な情報だという気がします。

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2022年4月 5日 (火)

西投手の完封ピッチングと佐藤輝選手のツーランで阪神はようやく今季初勝利!!!

  RHE
横  浜000000000 070
阪  神31000000x 460

初回に中野選手のタイムリーと佐藤輝選手のツーランで3点を先制し、西投手が横浜打線を完封して、開幕10試合目にして、ようやく今季初勝利です。
さすがにもう優勝はムリでしょうから、何とか3位までに入ってクライマックス・シリーズに出て欲しいのですが、果たしてどこまで成績が伸びるのでしょうか。私はもう今季の試合観戦には熱が入りそうもないので、悪しからず。

明日も、
がんばれタイガース!

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大学のサクラも満開!!!

大学のサクラもほぼほぼ満開です。

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本日、午後1時過ぎの写真です。左奥の経済学部の研究棟には私のオフィスがあり、これを写真に収めようとすると、どうしても逆光になります。グラウンドの芝生もきれいな緑色を維持しています。このキャンパスは、なぜか、BKCと略称されています。知っている人にしか判らないと思います。私も転職するまで知りませんでした。

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2022年4月 4日 (月)

週休3日制の導入は進むか?

怠惰に過ごしてしまった春休みを終えて、今週から大学の授業が始まります。
私は60歳ですでにサラリーマンを定年退職していますので、大学教員として土日の週末のほかに時間割によっては授業の予定がない曜日があったりして、授業だけから見ると週休3日という学期も経験しましたが、約30年前の1990年代初頭に政府機関で週休2日制が導入されて、その後、週休3日の議論もチラホラ見かけます。中でも、やや旧聞に属する話題かもしれませんが、3月28日にリクルートのワークス研から「『週休3日』で働く」と題するリポートが明らかにされています。

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上のテーブルは、リポートp.3から 週休3日制の3つのタイプ を引用しています。Aの圧縮労働型では労働日数を減らした分の労働時間を他の曜日の労働日に割り振って、1日当たりの労働時間を増加させることにより週当たりの労働時間を従来と同じに維持し、従って、お給料も変わらない、というパターンで、B労働日数/時間報酬削減型は1日当たりの労働時間は変わらず、従って、週当たりの労働時間が減り、その分、お給料も減る、というパターン、最後のC労働日数/時間削減・報酬維持型は1日当たりの労働時間は変わらず、従って、週当たりの労働時間は減少するものの、お給料は従来通りに維持される、というパターンです。明らかに、労働者にとってはCのパターンが好ましいわけですが、企業サイドではもちろん違う考え方があり、AやBの方を志向するのであろうことは明らかでしょう。もちろん、労働時間に対する時給との関係が変わらないのであれば、労働者にとっても週休3日制というのは決して悪い話ではないような気もしますが、お給料が減るのは困るという向きも少なくないように私は想像します。
リポートでは、欧州を中心に、トライアルを始めた政府機関や企業の例をいくつか紹介しています。週休3日制のトライアル実施国ではおおむねポジティブに評価されている、と結論しています。私は圧倒的に雇用を重視するエコノミストであり、働く意欲を持つ国民が適切な労働条件の下で十分な所得を得られる職につくことは、経済政策の中でももっとも重視されるべき課題のひとつであると考えています。その意味でも、週休3日に関する議論の今後の行方が気にかかります。

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2022年4月 3日 (日)

なすすべなくジャイアンツにも3タテされて開幕9連敗!!!

  RHE
阪  神000002012 580
読  売40001040x 9110

初回に先発ガンケル投手が満塁ホームランを浴びた時点で、とても容易に想像できる範囲でしたが、ジャイアンツにも3タテされて、開幕9連敗です。最終回の大サービズで追い上げはしましたが、それでも、哀れを極めた感があります。
現時点のタイガースでは、大阪桐蔭高校に勝てるかどうか疑問ですが、さすがに、次の甲子園での横浜戦はひとつくらいは勝てそうな気もします。問題は、3連戦の1戦目に勝てるかどうかでしょう。昨日も書きましたが、競り合った試合で勝てる気がしませんから、阪神が今季初勝利を上げるとすれば、何かの間違いでボカスカ打って序盤から大量得点を上げる試合運びしかないような気がします。横浜戦であれば、そんな試合になる確率はそれなりにありそうです。もしも、横浜戦で勝てなければ、さ来週のジャイアンツ戦まで20連敗くらいしそうな気すらします。

次の横浜戦は、
がんばれタイガース!

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2022年4月 2日 (土)

ジャイアンツにも連敗して泥沼の開幕8連敗!!!

  RHE
阪  神200100001 4100
読  売21101000x 550

当然のように、ジャイアンツにも連敗して、開幕8連敗です。
もはや、この私のブログには何も書くべきことがありません。オープン戦の成績はそこそこよかったのですが、開幕したら連敗街道まっしぐらです。競り合った試合で勝てる気がしませんから、もしも、阪神が今季初勝利を上げるとすれば、何かの間違いでボカスカ打って序盤から大量得点を上げる試合運びしかないような気がします。その試合がいつになるかが問題かもしれません。

明日は、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書2冊と日本史の新書2冊の計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、経済書2冊と歴史にスポットを当てた新書2冊の計4冊です。新刊の小説を読んでいる余裕はありませんでしたが、既刊の小説は何冊か読んでいたりしますので、そのうちにFacebookでシェアしたいと思います。。
マリアナ・マッツカート『ミッション・エコノミー』(NewsPicks パブリッシング)では、資本主義の行く末を見通して、右派的なネオリベラリズムを修正し、政府が経済でもっと大きな役割を果たすべきことを明らかにしています。今野晴貴『賃労働の系譜学』(青土社)ではいわゆるブラック企業の考察から始めて、現在の労働は経済の規模を拡大していない、という問題意識に基づいて、資本主義の先のことを見据えた議論が展開されています。古市晃『倭国』(講談社現代新書)では、邪馬台国の卑弥呼が紛争調停型の君主として、いわば、共和国的に選ばれたのに対して、専制君主としての倭王の成立、基本的に同じことですが、倭国の成立について、古典古代初期の日本の歴史の解明を試みています。倉本一宏『平安京の下級官人』(講談社現代新書)では官人だけでなく、幅広く文字通りに平安に時代であった平安京の人々の仕事や生活を歴史的に明らかにしています。
なお、今年2022年に入ってからの新刊書読書は、本日の4冊を含めて計50冊となっています。昨年の今ごろと比べて、ややスローペースです。

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まず、マリアナ・マッツカート『ミッション・エコノミー』(NewsPicks パブリッシング) です。著者は、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのエコノミストであり、英国や欧州にとどまらず、幅広く国際的に産業政策に関するアドバイスを行っています。本書では、必ずしも産業政策という狭い観点からだけでなく、資本主義を作り直すという大きな視点から産業政策や経済政策を論じています。まず、私は市場価格は競争的でもないし、外部経済や長期の視点がなく、従って、市場価格は正確ではないという理由で厚生経済学の第1定理に対して疑問を呈していて、積極的な政府の介入政策を肯定しているのですが、本書では、むしろ、政府がミッションを持って民間経済とコラボすれば、より大きな成果が得られる資本主義経済を作り出すことができる、という点を強調します。結局は、私と同じでコモンの領域を増やすべし、という結論です。その偉大な例を米国のアポロ計画に基づいて理論的に解明しようと試みています。第3部以降の実践編では、私の理解は必ずしもはかどりませんが、基本的な考え方は大いに賛同しています。経済学にも流行り廃りがあり、1930年代の世界不況における米国のニューディール政策から1960年代には政府の役割を古典派経済学よりも重視するケインズ経済学が主流となりました。しかし、1970年代には私が昨年の紀要論文で明らかにしたように、ルイス的な労働移動が終了し、同時に2度に渡る石油危機が生じて世界経済は不況とインフレが同時進行するスタグフレーションに入ります。この1980年前後、すなわち、1979年の英国サッチャー政権、1981年米国レーガン政権により、本書で痛烈に批判されている新自由主義(ネオリベ)な経済政策が導入されます。政府は経済の後景に退き、規制緩和などで自由な市場の邪魔をしない存在とされ、政府の運営に関してもニュー・パブリック・マネージメント(NPM)というコスト/ベネフィットの比較による基準が導入されたりしました。今では、政府の公共サービスは広く外注され、英国では請け負っていたカリリオン社が倒産しています。日本でも、昨年の東京オリンピック・パラリンピックをはじめとして、電通やパソナなどに政府からアウトソースされて中抜された事業が多いのは広く報じられている通りです。これらに対して、本書では1060年代の米国ケネディ政権におけるアポロ計画を例にして、政府がミッションを設定して、決して外注することなく、大規模な事業に取り組む必要性を強調しています。そして、こういったミッション達成のスピルオーバーとしてpp.112-13に取りまとめられているようなカメラつき携帯電話などが実現したと結論しています。そして、現在では国連のSDGsを達成することも含めて、政府のミッション設定による大規模事業の可能性を探ろうと試みています。私はこういったムーンショットを目指すミッションはともかく、本書で強く批判しているように、政府の役割をネオリベ的に矮小化したり、あるいは、その結果として政府の公共サービスを電通やパソナにアウトソースして、結果として非正規雇用の拡大などの格差拡大に間接的にせよ手を貸したりするのは大きな間違いであり、根本的には市場を作り直すことが必要だと考えていますが、本書では私ほどラディカルな考えではないものの、ネオリベな理論に基づく現状ではなく政府の役割を根本的に重視するという方向を打ち出しています。とってもオススメです。多くの方が手にとって読むよう願っています。

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次に、今野晴貴『賃労働の系譜学』(青土社) です。著者は、いくつかの大学で非常勤講師をし、また、NPO法人で活躍したりする労働社会学などの専門家です。何といっても記憶にあるのは、2012年に『ブラック企業』を本書の著者が刊行し、それを基に、翌2013年に「ブラック企業」という新語が生まれたことではないでしょうか。ということで、本書では資本主義と労働の根本的な変化を取り上げています。すなわち、現在の労働は経済の規模を拡大していない、という問題意識に基づいています。日本では、賃金は低下を続けており、人間、特に若者を使い潰す資本主義が続いており、本書冒頭からブラック企業について再考されています。すなわち、高度成長期における典型的な労使慣行である正規職員としての長期雇用と年功賃金が主流であったにもかかわらず、典型的にはIT企業や、今では外食産業などでは、正規職員であってもその体力や知力を使い尽くして、鬱病などに追い込んで退職を迫るという形のブラック企業の実態が報告されています。最後に、労働力の商品化に伴う物象の人格化こそがブラック企業問題の本質であると指摘しています。そして、実は、このブラック企業こそがワタミの展開する介護労働やN高校の教育などの公共性の高い分野で、やりがい搾取を繰り返し、現在の資本主義の成長分野における救世主になっている、という事実が明らかにされています。4部構成のうちの後半部分は、かなりの程度に私の専門外で理解が行き届かなかったのですが、1990年代なかばまで高卒にせよ、大卒にせよ、正規職員として就職し、決してドミナントではないとしても、高度成長期から続く長期雇用と年功賃金が労働市場のモデルと考えられていた時代は、バブル崩壊とグローバル化の進展により終焉を迎え、若者に対するバッシングが始まります。すなわち、フリーターや派遣労働をカッコ付きで「美化」するような言説が流され、若者や女性が自由意志によって、こういった非正規職を選択したとか指摘されます。そして、こういった非正規職が劣悪なものであるという事実が明らかになると、若者の能力不足からの結果であるとすり替えられたりします。そして、若者の就職がうまくいかなくなると、中高年齢社員の既得権を攻撃するような分断戦略が現れ始めます。日本では社会民主主義的なジョブ型の就労ではなく、いわゆる全人格を企業の指揮命令下に置くメンバーシップ型の就職です。ですから、ここから先で私の理解が行き届かなかったのですが、本書の著者は、ブラック企業への就職を避ける市場活用形の解決やコンプライアンスの強化による違法行為の防止、などではなく、労働者自身が立ち上がって権利行使をできるような社会関係の形成が必要になると指摘し、労働組合の果たす役割を重視しています。その上で、現在のナショナルセンターとしての連合については、対抗軸としての労働運動として大きく劣化しており、新たな労働運動の必要性を指摘しています。最近の連合と、特に現在の芳野会長の就任後の連合の方向性については、私も大きな失望を感じています。本書についても、新たな資本主義を模索する、というか、ポスト資本主義を展望する上で、とても重要な論点が含まれています。多くの方が手にとって読まれんことを私は願っています。

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次に、古市晃『倭国』(講談社現代新書) です。著者は、神戸大学の歴史研究者です。本書で「倭」というのは、基本的に日本なのですが、古典古代のかなり初期ですので、邪馬台国から大和朝廷あたりを幅広く指す用語として用いられています。そして、その「倭」に王がくっついて倭王となれば、今の用語でいうところの天皇から始まる宮家、当時では大王が天皇に当たり、大王以外の王もいたということです。ということで、本書では基本的に『古事記』や『日本書紀』などの古文書に基づいて歴史の解明を試みていますが、あり得ないような神武天皇なんてのではなく、土地に基づいた解明方法を取っています。すなわち、大王が住んでいた宮については、歴代遷宮と考えられていたところ、これを否定してどうして奈良盆地南部に位置していたか、から始めています。そのうえで、邪馬台国の卑弥呼は紛争調停型の君主として共和国的に選出されていて、決して専制君主ではなかったとし、専制的な政体の成立の解明を試みています。私なんぞが習った時点では、継体天皇は征服王権であり、我が国の天皇が万世一系であるというのは誤り、といった左派的な歴史観が主流だった気がしますが、本書でも、継体天皇の連続性は疑問視しつつ、武力を含めた実体としての政権に対して、継体天皇が手白香皇女を皇妃に迎えて生まれた欽明天皇の特別な位置づけについては、従来説を踏襲しているような気がします。その上で、5世紀には王を名乗る王族が存在して、その中から倭王が選ばれる体制が成立したと指摘しています。ただし、王族とはいえ、今の宮家のような均質な存在ではありえず、複数の王統が存在していたと結論します。少なくとも、仁徳系と允恭系の2系統があり、決して、平穏無事な王統の成立ではない上に、葛城・吉備・紀伊といった海人集団もあり、天皇の政務所である宮城が山間の険阻な土地に置かれた防衛的な意味も指摘します。まあ、ですから、本書ではスコープ外なのでしょうが、政権が安定すると平城京や平安京と言った開けた平地に大きな都を建設した、ということなのでしょう。加えて、朝鮮半島の任那の興亡、あるいは、隋や唐やといった中国の政権交代、などの国際情勢への対応も国家としての倭国の成立には大きな影響を及ぼしたことが示唆されます。国造やミヤケ制などの地方行政の整備もあって、倭王のもとに行政制度が整備され、さらに、強力な軍隊が置かれる専制体制の成立、倭国の成立が5世紀であった、と結論しています。少なくとも私の知る限りの日本お古典古代の時代の歴史と整合的で、とても理解が進みました。

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最後に、倉本一宏『平安京の下級官人』(講談社現代新書) です。著者は、国際日本文化研究センターの研究者です。専門は日本古代政治史だそうです。実は、昨年2021年6月26日の読書感想文で虎尾達哉『古代日本の官僚』(中公新書)を取り上げていて、古典古代の律令制国家=天皇専制国家であった日本において、朝廷で勤務する官僚は貴族も平民も決して勤勉ではなく、怠業や無断欠勤などが横行していたことを史料を駆使して明らかにしているのですが、基本は同じです。その上で、下級官人のお仕事だけでなく、生活も、あるいは、官人だけでなく、平安京の人々の恐怖の対象、はたまた、平安京に暮らす人々を幅広く取り上げています。官人のお仕事ぶりは、『古代日本の官僚』と同じで、怠惰極まりなく非常に不真面目な勤務態度であるのは共通しています。まあ、当然です。重要な儀式において失儀したり、あるいは、今と同じようなお役所仕事がいっぱいです。まあ、このあたりはユーモラスに描き出されています。生活については、私は強盗が印象に残りました。平安時代とはその名の通りに平安な時代であり、元寇のような外国からの侵略はなく、戦国時代のような大規模な内戦状態でもなく、少なくとも平安京では武器の携行すら禁じられていて、すなわち、今の日本と同じで武器の管理が進んでいて、平穏無事な時代でしたが、逆に、科学がそれほど進歩していない時代であって、怨霊とか呪いとかの精神的な恐ろしさが存在していたように思えます。でも、実際の庶民、もちろん、貴族の間でも治安の問題はあるわけで、官人が仕事をサボっているわけですから、検非違使などの法執行機関が機能していなければ、強盗がはびこっていたのも無理はありません。また、平安京でも江戸期まで続く火事の被害は少なくなく、内裏が焼け落ちたことも歴史に残っています。台風や地震といった天災もあったことでしょう。当時の科学の進歩していない時代においては、こういった理不尽な災害は神や仏にすがるしかなかったのかもしれません。最後の章では平安時代の学問、職人技、諸芸が取り上げられています。ただ、私が疑問なのは、3月19日に取り上げた周防秋『身もこがれつつ』(中央公論新社)ではないのですが、本書では平安時代の文芸の中に和歌が取り上げられていません。まあ、上流貴族だけの嗜みだったとは思えませんので、和歌抜きで平安時代を語るのはとても疑問です。

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2022年4月 1日 (金)

ほぼ完全雇用に達した3月の米国雇用統計に基づいて金融政策はどう動くか?

日本時間の今夜、米国労働省から3月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、本日公表の3月統計では+431千人増を記録し、失業率は前月の3.8%から3月には3.6%に低下しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を6パラだけ引用すると以下の通りです。

Economy added 431,000 jobs in March as COVID fades but inflation soars; Unemployment rate fell to 3.6%
U.S. employers added a booming 431,000 jobs in March as tumbling COVID-19 cases more than offset growing concerns about soaring inflation and the war in Ukraine.
The unemployment rate fell from 3.8% to 3.6%, the Labor Department said Friday. That puts it just above the 50-year low of 3.5% that prevailed just before the pandemic upended the economy in March 2020.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 440,000 jobs were added last month.
The economy has now added more than 400,000 jobs a month for 11 months, the longest such streak on record, Morgan Stanley noted in a report.
So far, the nation has recovered 20.4 million, or 93%, of the 22 million jobs lost early in the health crisis, leaving it 1.6 million jobs short of its pre-crisis level, a gap that could be closed by summer.
Another positive: Payroll additions for January and February were revised up by a total of 92,000. The upgrades pushed January's advance to 504,000 despite widespread omicron-related worker absences.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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引用した記事にもあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+440千人程度の雇用増が予想されていたため、実績の+431千人増はほぼジャストミートした形です。広く報じられている通り、米国連邦準備制度理事会(FED)はすでに利上げ局面に入っていますが、雇用が拡大し失業率が低下する局面で、賃金上昇がインフレの加速を招くようであれば、FEDが利上げペースを速める可能性も市場では予測されているようです。特に、失業率は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミック前の2020年1~2月には3.5%まで低下していましたが、この50年ぶりの水準に3月の3.6%は肉薄しています。失業率だけからすれば、米国労働市場はほぼほぼ完全雇用状態に近いと考えるべきです。
こういった雇用逼迫に基づくホームメード・インフレに加えて、COVID-19からの回復局面における新興国や途上国での資源需要増やロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー供給制約によって資源価格が高騰し、先進各国のインフレに拍車をかけています。米国ではエネルギーと食料を除くコアPCE(個人消費支出デフレータ)上昇率が+5%を越え、ヘッドラインPCEでは+6%に達しています。ですから、これも広く報じられているように、5月に予定されている次回の連邦公開市場委員会(FOMC)で50ベーシスポイントの利上げの可能性も取り沙汰されています。日本でも、4月の消費者物価指数(CPI)統計では、昨年からの携帯電話料金引下げの効果が剥落し、一気に、+2%の日銀インフレ目標を達成してしまうとの見方も出ています。そうなると、日銀はどのように対応するのでしょうか。いずれにせよ、日米だけでなく、物価上昇と景気や雇用との兼ね合いで金融政策の舵取りが難しい段階に達しています。

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コストアップで景況感が悪化した日銀短観をどう見るか?

本日、日銀から3月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは昨年2021年12月調査から▲3ポイント悪化し+14となりました。悪化は2020年6月調査以来、実に7四半期ぶりです。また、本年度2022年度の設備投資計画が初めて明らかにされ、全規模全産業で前年度比+0.8%の増加が見込まれています。3月調査の設備投資計画がプラスでスタートするのは異例ではないかと思います。まず、ものすごく長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業の景況感悪化、資源高が重荷 3月日銀短観
日銀が1日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は3ポイント悪化しプラス14となった。悪化は2020年6月調査以来、7四半期ぶり。先行きはプラス9で、さらなる悪化を見込む。大企業非製造業も1ポイント低下し7期ぶりに悪化した。今回はロシアによるウクライナ侵攻後初の短観。地政学リスクの高まりや資源価格の高騰で企業マインドが急速に冷え込んでいる実態を反映した。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。3月調査の回答期間は2月24日~3月31日で基準日は3月11日。新型コロナウイルス対応の「まん延防止等重点措置」が全国的に発令されていた時期を含む。
日銀は、経済の実態を正確に把握するため調査対象の企業を4年ぶりに見直した。企業の入れ替えを考慮すると、21年12月調査の大企業製造業の業況判断DIはプラス18からプラス17に、大企業非製造業はプラス9からプラス10になる。
大企業の業況判断DIは製造業がプラス14と、QUICKが集計した民間エコノミスト予測の中央値を2ポイント上回った。悪化はコロナ禍でマイナス34まで悪化した20年6月調査以来、7期ぶり。
3月調査では原材料価格の上昇で、紙・パルプや窯業・土石製品、化学などの景況感の悪化が目立った。半導体不足の長期化に伴う「部材の調達難」を訴える企業も多く、新型コロナの変異型「オミクロン型」の感染再拡大による工場の稼働停止などで自動車生産が減少した。
大企業製造業の販売価格判断DI(「上昇」と答えた割合から「下落」を引いた値)はプラス24と前回調査から8ポイント上昇した。半面、原材料価格の高騰に伴い仕入れ価格判断DI(同)はプラス58と同9ポイント上昇。原材料高を販売価格に転嫁し切れていない構図も浮かび上がった。
大企業非製造業の業況判断DIはプラス9と、民間予想を4ポイント上回った。新型コロナの感染第6波の影響でサービス消費が大幅に落ち込んだ。対個人サービスや宿泊・飲食サービスを中心に業況が悪化した。
ロシアのウクライナ侵攻は先行きにも暗い影を落とす。3カ月後の見通しを示す先行き判断DIは、大企業製造業が5ポイント悪化のプラス9、大企業非製造業が2ポイント悪化のプラス7を見込む。
ウクライナとロシアの停戦協議がまとまる見通しは立っておらず、危機の長期化に伴う原材料価格の高止まりが製造業の景況感を押し下げている。非製造業はまん延防止等重点措置の解除で宿泊・飲食サービスが大幅な改善を見込むが、DIは依然マイナス圏に沈んだままだ。
市場の注目度が高い全規模全産業の2022年度の想定為替レートは1ドル=111円93銭だった。日銀は「足元の円安の動きが長期的に持続するものではないと判断しているようだ」と分析している。今後、想定を上回るペースで円安が加速すれば、調達コストの上昇を通じて企業収益を圧迫する懸念が強まる。
21年度の大企業製造業の設備投資計画は20年度と比べて7.9%増えた。22年度は8.4%増を見込む。気候変動対応やデジタルトランスフォーメーション(DX)などの分野では必要な投資を続ける。

とても長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず今週月曜日の3月28日付けのこのブログでも日銀短観予想を取り上げ、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは悪化するとはいえ、プラス領域にとどまり、私の実感としてはさすがに+10を下回るだろうとの見方を示しておきましたが、失礼しました。わずかに▲3ポイントの悪化にとどまるとは、加えて、大企業非製造業も▲2ポイントの悪化で済むとは、かなり企業マインドは底堅いと感じています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同じく大企業製造業の業況判断DIが+12と予想されていて、実績はわずか+2ポイントとはいえ、この市場の事前コンセンサスも上回りました。ただし、先行き景況感についてはさすがに悪化が継続するという予想であり、大企業製造業では▲5ポイント悪化して、それでも、+9に、大企業非製造業でも▲2ポイント悪化して+7に、それぞれ先行き悪化を見込んでいます。企業マインドには新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染状況とロシアのウクライナ侵攻の影響が注目されましたが、改善にせよ悪化にせよ、企業マインドの背景には資源高によるコスト上昇、コロナの感染拡大、供給制約があるのではないか、と私は考えています。例えば、大企業製造業では先行きに関して、素材業種が▲12ポイントの大幅悪化を見込むのに対して、加工業種では先行きも悪化せず横ばいと予想しています。もちろん、資源高によるコスト上昇の他に、産業別に見れば、ウェイトの高い自動車の景況感が3月調査でほぼほぼ底を打って、供給制約の緩和から先行きの改善、しかも+14ポイントの大幅な改善を見込んでいる点も、素材業種と組立業種の先行きのマインドの動向を分ける要因のひとつであることは確かです。また、大企業非製造業の先行きの景況感悪化幅が▲2ポイントにとどまって、大企業製造業の▲5ポイントよりも小さい要因のひとつは、対人サービスと宿泊・飲食サービスが大企業に限らず、中堅企業や中小企業でも、コロナの感染拡大次第とはいえ、先行き大きく改善すると見込んでいるからです。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学的な生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としてはいずれも不足感が広がる傾向にあります。DIの水準として、設備については、昨年2021年年央の+10くらいの過剰感はほぼほぼ解消され、不足感が広がる段階には達したといえます。他方、雇用人員についてはプラスに転ずることなく反転し、足元から目先では不足感が強まっている、ということになります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、賃金が上昇するという段階までの雇用人員の不足は生じていない、という点には注意が必要です。我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があると私は考えています。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態としてどこまでホントに人手が不足しているのかは、私には謎です。賃金がサッパリ上がらないからそう思えて仕方がありません。加えて、コロナの感染拡大に起因する不透明感は設備と雇用についても同様です。

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日銀短観の最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。日銀短観の設備投資計画のクセとして、3月調査時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月にはマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。本日公表の3月調査では2022年度の設備投資計画は+0.8%増でしたが、上のグラフを見ても判るように、かなりの好況時でも3月調査がプラスからスタートするのはめずらしく、2022年度の設備投資は設備の不足感や人手不足への対応などから、期待できそうな気もします。もちろん、引用した記事にもあるように、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進のために、景気や業況から独立した設備需要も一定程度見込めるものと考えるべきです。ただし、大企業全産業の設備投資計画は+2.2%増からスタートし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの+2.6%増をやや下回りました。それほど大きな差ではありませんが、やや気にかかるところです。あるいは、大企業ほどDXが進んでいるので、やや小さめの計画になっているのかもしれません。いずれにせよ、全体としての印象では、人手不足もあって、設備投資は基本的に底堅いと考えていますが、最後の着地点がどうなるか、これまた、コロナとウクライナ危機の動向に照らして不透明です。

最後に、グラフには出来ませんが、引用した記事にもあるように事業計画の前提となっている想定為替レートは対米ドルで111.93円と、現時点での市場レートよりかなり円高となっています。基本的に、引用した記事にある日銀の見方と同じで、現在の120円レベルの円安が続かないとの企業のマインドが現れているものと私も考えています。ただ、輸出産業にとっては円高を想定しつつも、実際に円安になれば競争力が増す一方で、燃料をはじめとする資源多消費型産業の場合、逆にコストアップで経営が圧迫されるケースも考えられないわけではありません。円レートにも注意が必要です。

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