« 日銀「さくらリポート」に見る地域経済の状況やいかに? | トップページ | 終盤の継投が決まってジャイアンツに連勝!!! »

2022年4月16日 (土)

今週の読書は経済書2冊と新書も経済学で計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、経済書2冊、共用書1冊に新書1冊を合わせて計5冊です。新書も、ほぼほぼ経済の専門書に近い水準です。
中野剛志『変異する資本主義』(ダイヤモンド社)は、経済学説史を簡単に紹介した後、新自由主義=ネオリベによって資本主義が大きく変容していくさまを描き出しています。ただ、経済についてだけでなく、地政学的・地経学的な世界のパワーバランスを論じており、私には理解が及ばない部分もありました。藤田孝典『コロナ貧困』(毎日新聞出版)では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックから経済的な格差が大きく拡大し、貧困に陥る人々が後を耐えない経済社会の現実をこれでもかと思うほどリアルに追跡しています。特に、困窮を極める女性に対する命と暮らしを守る活動の重要性を浮き彫りにしています。新藤宗幸『権力にゆがむ専門知』(朝日新聞出版)では、日本学術会議の任命拒否から始まって、原子力や新型コロナウィルス感染症(COPVID-19)への対応において、いかに権力が「御用学者」を育成し、利用しているかを明らかにしています。最後に、小野善康『資本主義の方程式』(中公新書)は新書ながら、かなり専門性高い経済書でもあり、資本蓄積が不十分で需要圧力がインフレに結びつきやすく、生産すれば売れる成長経済から、資本蓄積が進んで消費が飽和しつつあることから資産需要が高まり、したがって、デフレ圧力が支配的となり需要が経済規模を決める成熟経済の両方のモデルに適用可能な経済の基本方程式を提示し、さまざまな分析を試みています。
本年2022年に入って、新刊書読書は今週の4冊を含めて計59冊とややスローペースです。ただし、何とか年間200冊には達するんではないか、と考えています。年間200冊は目標とかではなく、価値観抜きの単なる予想です。なお、新刊書読書ではないのでブログでは取り上げませんでしたが、キップリング『ジャングル・ブック』と志村けん『変なおじさん【完全場】』(ともに、新潮文庫)を読みましたので、Facebookでシェアしておきました。何ら、ご参考まで。このブログで取り上げた読書感想文も、順次、可能なものからFacebookでシェアする予定です。

photo

まず、中野剛志『変異する資本主義』(ダイヤモンド社) です。著者は、経済産業省の官僚ながら、評論家として現代貨幣論(MMT)を支持する著書があったりします。本書は、私は基本的に経済書なんだろうと考えていますが、6章構成の中の前半、すなわち、第1章の静かなる革命、で経済学派の栄枯盛衰の歴史をたどり、第2章の「長期停滞」論争と第3章の自滅する「資本主義」で経済学派ではなく、経済の歴史をたどる、というあたりまではよかったのですが、第4章の21世紀の富国強兵、第5章の覇権戦争、第6章のハイブリッド軍国主義、になると、たしかに資本主義をテーマにしているのかもしれませんが、経済や経済学からかなり距離を置くようになってしまい、私の理解を超える部分が少なくありませんでした。前半3章については、かなりMMTっぽい部分も含めて、私はかなりの程度に同意します。1930年代に世界大不況への対応として米国のニューディール政策などでケインズ政策が明示的に実行され、特に、第2次大戦後は1960年代までは共和党の米国大統領だったニクソン大統領(当時)の発言に見られるように、みんなケインジアンだったわけです。しかし、1960年代までは資本ストックの蓄積が不十分で、需要に対して供給が追いつかず、従って、生産すれば売れるし、生産が不足すればインフレになる、という経済でした。しかし、1970年代の2度の油危機を経て、資本ストックが十分に蓄積されて、経済規模が需要で決まるようになります。そうすると、需要を上回る供給があることから経済はインフレからデフレになります。ケインズ経済学の本来想定する状況になったにもかかわらず、1970年代の石油危機に伴うインフレ、あるいは、スタグフレーションによりケインズ経済学は放棄されて、まさに、現在のような新自由主義=ネオリベな経済学が幅を利かせるようになります。そして、本書では、シュンペーターによる資本主義の定義が援用されています。(1) 生産手段の私有、(2) 私的に利益と損失の責任を負う、そして、(3) 民間銀行による決済手段の提供、です。そして、社会主義では生産過程を公的機関に委ねることになります。本書では言及ありませんが、広く知られた通り、シュンペーターは資本主義には終わりが来て、やがて社会主義に移行する、と考えていたわけです。そして、本書では著者はネオリベな資本主義は自滅すると指摘し、大きなパラダイム・シフトの可能性を示唆しています。そして、かつての米ソ冷戦から、今では米中対立という世界的な地政学を展開し、その歳、ギルピンの覇権安定理論とか、ミアシャイマーの地域覇権理論などを援用しています。米中二極の間で地政学的、ないし、地経学的に不安定化する世界を描きだそうとしていますが、冷戦時代はそれなりの安定性あったという見方もありますし、米中の対応次第では安定するか不安定かは、私はアプリオリには決まらないような気がしています。まあ、シロートの意見です。ただ、米国のバイデン政権がネオリベな新自由主義から明らかに離脱し、資本主義は本書で指摘するように変異しつつあるのは、私も大いに同意します。そのコンテクストで安倍-菅内閣から分配を重視する岸田内閣に交代したのであろう、と私は考えています。しかし、日本ではまだネオリベな経済政策がデフレ・マインドとともに根強く残っているのも事実と認めざるを得ません。リベラルな野党、そして、それを支える労働組合の劣化が激しいのが根底にあるような気がしてなりません。

photo

次に、藤田孝典『コロナ貧困』(毎日新聞出版) です。著者は、社会福祉士=ソーシャルワーカーであり、NPO法人の代表も務めています。2020年のコロナ初期から昨年2021年度半ばまでのコロナによる貧困の実態について、特に、女性の貧困にも目を向けてルポしています。私なんぞは公務員や教員としてリモート勤務もできますし、お給料は全額保証されているのですが、コロナでお給料が激減したり、あるyいは、そもそも職を失った人も少なくありません。ただ、本書のスコープ外なのでしょうが、コロナ禍の中で逆に大儲けをした富裕層も少なくないのは、事実として認識しておく必要があります。すなわち、コロナ禍は格差拡大につながったわけです。特に、ネオリベな経済政策が「自己責任」の強制とともに、大きな役割を果たした点については私もまったく同感です。ということで、もうひとつ私が特に強く感じたのは、本書の著者の女性の貧困に対する温かい眼差しです。「オールナイトニッポン」におけるナイナイ岡村のはなはだしい暴言が広く報じられましたが、本書はそこから説き起こしていて、女性の最後のセイフティネットが風俗である点は、何度でも否定されるべきです。よく、「女性最古の職業」などと称されて、まるでビジネスベースで売春が語られることがありますが、とんでもないことです。その点で、本書の著者は、政府が持続化給付金の対象として性風俗を「本質的に不健全」との理由で除外したことを支持しています。私も同意します。性風俗は女性を搾取しているだけであり、私は廃業すべき、あるいは、廃業させるべきであると考えています。このような女性の最後のセイフティネットが風俗産業であるのは、まさに「福祉の敗北」であり、まさかという目でよんだのですが、役所の生活保護窓口での「水際作戦」で、女性の申請者に対して役所の方から風俗で働くことを示唆するような行為は許しがたいものを感じます。もちろん、本書でも指摘しているように、そもそも、福祉や労働などの役所の窓口には非正規雇用の公務員が配置されている場合が少なくないのですが、こういった福祉の貧困、役所の貧困にもメスが入る日が来て欲しいと私は願っています。ただ、あくまで結果としてなのですが、コロナ禍で生活保護に対する偏見が少し和らいだ気がしますし、生活保護は権利である点はいくら強調しても強調し過ぎることはないと私は考えています。コロナに起因する貧困に限らず、貧困については再分配、というか、福祉で補償するとともに、長い目で見れば教育の問題でもあります。安倍-菅政権のネオリベ内閣から分配を重視する方向に少しでも転換して欲しいと願っています。「自助・共助・公助」なんてスローガンはもうまっぴらです。

photo

次に、新藤宗幸『権力にゆがむ専門知』(朝日新聞出版) です。著者は、千葉大学名誉教授であり、行政学の研究者です。当然ながら、本書のモティベーションは菅内閣による日本学術会議の6委員の任命拒否であろうと私は推測しており、序章で取り上げられています。そして、もうひとつは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対する対応、特に、昨年2021年の東京オリンピック・パラリンピックの強行開催ではないか、と、これまた推測しています。コロナは第4章で取り上げられています。ということで、これら以外のトピックは、総論的に第1章で政権や官僚機構と専門知に焦点を当て、第2章で専門知が「御用学者」として取り込まれるさまを概観した後、各分野を個別に取り上げています。すなわち、第3章で原子力、繰り返しになりますが、第4章でコロナ、第5章で介護保険、第6章で司法制度改革、終章で政治と専門知の責任、となっています。専門家でも見方によって意見が分かれる話題について、政治の側から都合のいい意見を採用するとともに、そういった政権に都合のいい意見を持つ専門家をシステム的に育てる、ということを考えています。そういった政権・権力に都合のいい意見を持つ専門家を「御用学者」と私は読んでいます。私も長らくキャリアの国家公務員をしていましたから、経済分野でのそういった専門家をいっぱい見てきました。しかし、他方で、学問的な専門性に従って正当な意見を表明する専門家もいっぱいいます。例えば、昨年の東京オリンピック・パラリンピックについて、本書でも指摘しているように、「普通はない」との尾身発言が飛び出して、都合が悪いと考える政治家などは必死になって否定の動きを見せたわけです。また、権力とは内閣といった狭い範囲ではなく、もっと広い定義で考えるべきです。例えば、消費者金融華やかなりしころは、消費者金融の機能として流動性制約の緩和が声高に叫ばれ、消費者金融のエゲツない取り立てなんかを「粉飾」し、正当化する道を開いたエコノミストはいっぱいいます。私も、そのうちの1人をよく知っており、消費者金融の企業から研究資金をもらって、ゼミの学生を夏休みの海外旅行に連れて行ったりしていた事実を見知っています。多くの学生を消費者金融企業に就職させたのではないか、とも想像しています。ただ、他方で、消費者金融企業には就職するべからず、といった視点を提供するエコノミストもいたことは事実です。本書で取り上げているすべての話題について、私が知っているわけではありませんが、研究資金や審議会のポストなどで政権よりに意見を変更する学者さんはいっぱいいます。そういった学者を引き寄せるために、大学の研究資金は細らされているような気すらします。

photo

最後に、小野善康『資本主義の方程式』(中公新書) です。著者は、大阪大学をホームグラウンドとするエコノミストです。私の資本主義に関する歴史認識とかなりの程度に一致するのですが、本書で著者は資本主義の簡単なモデルに基づいて、1970年代を境にした成長経済と成熟経済に共通する基本方程式を示しています。方程式以外は、基本的に、従来からの主張と変わりなく、消費ではなく資産選好の時代にあっては、政府が消費に回らない部分を税金で集めて、環境や芸術などの市場が形成されない分野に投下すべきである、という結論となります。その方程式は以下の通りです。
γ(m,c)+δ(a,c)=ρ+π ただし a=m+b
左辺の変数については、γは流動性プレミアム、δは資産プレミアム、mは実質貨幣残高、cはイノベーション、というか、消費・購買しようと思わせる魅力的な新商品、bは証券(債券や株式)価格の変動=キャピタルゲイン、であり、右辺は、ρが時間選好率で、πは物価上昇率です。ただし、物価上昇は需給ギャップで決まります。ということで、資本ストックの蓄積が不十分で、生産すれば売れる一方で、生産が不足すればインフレになる、というのが成長経済です。大雑把に1970年代以前であり、日本でいえば高度成長期に当たります。基本方程式の左辺では資産プレミアムがゼロに近くて、流動性プレミアムが十分高くなっています。右辺では、その流動性プレミアムに応じて物価上昇が起こります。魅力的な新商品の出現、日本の高度成長期でいえば三種の神器とか、3Cと呼ばれた耐久消費財が出現すれば、流動性プレミアムが高まるとともに、時間選好率や物価上昇も高まります。そして、資本ストックが十分に蓄積された世界では消費が飽和してしまうことから、資産蓄積に需要が向かいデフレがちになります。長期停滞論です。基本方程式の左辺では、ゼロ金利で流動性プレミアムがゼロ近くまで低下し、逆に、資産プレミアムが高まって資産価格が上昇します。行き過ぎるとバブルになりますが、右辺ではデフレなら物価上昇はマイナスとなります。そして、結局のところ、繰り返しになりますが、成熟経済の経済政策では、生産性を上昇させるような構造改革は否定され、同時に、生産設備となって供給を増加させる投資も否定しつつ、消費に向かわない貨幣を政府が集めて環境や芸術などの市場形成ができない分野のインフラを整備する、という民主党政権のころに、著者がブレーンとなっていた菅内閣の経済政策を思わせます。少しアップデートした点は、経済的格差を明示的に視野に入れ、教育や再分配に目を向けた点かもしれません。ポストケインジアンやMMT学派とは少し違いますし、私が一昨年読んで感激したリチャード・クー『「追われる国」の経済学』でも、投資対象が少ない、としていましたので、少し違う気もします。相通ずる点もありますが、少し違っている気もします。いずれにせよ、私が大学で教えている主流派経済学とはまったく違います。

|

« 日銀「さくらリポート」に見る地域経済の状況やいかに? | トップページ | 終盤の継投が決まってジャイアンツに連勝!!! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 日銀「さくらリポート」に見る地域経済の状況やいかに? | トップページ | 終盤の継投が決まってジャイアンツに連勝!!! »