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2022年4月 9日 (土)

今週の読書は経済書2冊と新書2冊に文庫本の小説1冊と合わせて計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、経済書2冊、新書2冊に文庫本の小説1冊と合わせて計5冊です。
野口悠紀雄『入門 米中経済戦争』(ダイヤモンド社)は、タイトルそのままなのですが、米中間の貿易戦争の背景や先行き見通しに関する見方を提供しています。みずほリサーチ&テクノロジーズ『経済がわかる論点50 2022』(東洋経済)はシンクタンクらしくコンパクトに取りまとめられていますが、さすがに、直近のロシアによるウクライナ侵攻の影響までは含まれていません。松本創『地方メディアの逆襲』(ちくま新書)は、決して通信社の配信ニュースのキャリーやキー放送局からの垂れ流しではない地方メディアの報道について、ジャーナリストらしい視点から取り上げています。笹沢教一『コロナとWHO』(集英社新書)は読売新聞ジュネーブ支局長経験者が、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック発生当初からの経緯を取りまとめ、コロナに対する世界的な司令塔としてのWHOの活動に大きな疑問を投げかけています。畠中恵『かわたれどき』(文春文庫)は、「しゃばけ」のシリーズで有名な著者の短編集で、もうひとつの「まんまこと」シリーズの文庫本としてはシリーズ最新刊です。主人公の麻之助の再婚に向けた動きが始まっています。ただ、単行本としてはこれより新しい巻が発売されています。
本年2022年に入って、今週の5冊を含めて計55冊とややスローペースです。ただし、阪神タイガースの不調により野球観戦熱が大きく低下しましたので、読書が進むかもしれません。

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まず、野口悠紀雄『入門 米中経済戦争』(ダイヤモンド社) です。著者は、ご存じ、大蔵省(当時)ご出身のエコノミストです。本書のタイトルはややキワモノっぽいんですが、まあ、中身はそれほどキワモノでもありません。ただ、米中貿易戦争をメインにおいているわけでは決してなく、むしろ、中国経済に関して幅広く解説した経済書と考えるべきかもしれません。ということで、非常に興味深い論点が含まれており、最初は中国経済の、というか、経済に対する中国共産党のハンドリングが変化している可能性です。すなわち、毛沢東時代は大躍進とか、文化大革命とか、ハッキリいって、経済に対して無理解でメチャクチャな政策を取って餓死者が出るほどの経済状態を現出したわけですが、鄧小平が実験を握ってから市場経済を巧みに取り入れて、さらに、香港返還やWTO加盟などの国際環境の変化にもうまく乗りつつ、中国経済は大いに発展しました。しかし、習近平政権では再び毛沢東時代に逆戻りし、同時に、格差是正という観点からも、企業活動に対して大きな制約を加えたり、芸能人や企業経営者に対するバッシングなども見られ始めていて、先行き、中国経済が停滞する可能性を示唆しています。従って、トランプ政権当時に始められた関税率引上げという形での米中貿易戦争は、たしかに、当時のトランプ大統領の「米国ファースト」、あるいは、製造業の雇用流出の抑制という、ややアサッテの目論見からなされたとはいえ、現在のバイデン政権が引き継いでいる中国への厳しい政策対応は、実は、データ経済の基盤をなす技術開発に関して、中国共産党的に中央集権体制で進めるデジタル共産主義か、あるいは、米国のシリコンバレー方式で分権的な進め方を容認する民主主義か、の違いに基づいていると本書では指摘しています。ただし、日本は地理的な位置関係からしても中国経済の影響が大きく、米国のサイドに立って対中強硬策を取るのは難しい、と結論しています。ただ、この先が本書の論点の弱いところなのですが、では、中国にも米国にも依存し、同時に、どちらの陣営にも積極的に加わりたくなければ、日本は同じような立場にある韓国や豪州との関係を模索すべし、というところで終わっています。技術開発のマネジメントに関する中央集権と分権まではよかったのですが、日本の対応策がやや尻すぼみな印象です。

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次に、みずほリサーチ&テクノロジーズ『経済がわかる論点50 2022』(東洋経済) です。みずほリサーチ&テクノロジーズはシンクタンクなのですが、みずほ情報総研、みずほ総合研究所、みずほトラストシステムズが合併してできています。私は、その昔の合併前のみずほ総研にしか知り合いはいませんが、みずほ総研が、というかみずほグループが出来たのは、広く知られている通り、興銀、第一勧銀、富士銀の3行が合併してできたわけで、みずほ総研の高位役職は3で割り切れる数字の人数が配されていて、例えば、チーフエコノミストは3人いました。普通は、チーフエコノミストは組織に1人だけで、だからチーフエコノミストなんですが、3人いたみずほ総研を揶揄するエコノミストもいたりしました。今はどうなのか知りません。ということで、本書は2部構成なのですが、第1部はそのチーフエコノミストの視点が明らかにされています。まあ、可もなく不可もなくといった無難な見方で、おそらく、2021年10~12月期の時点ではこんなもん、という気がします。国内医療の逼迫はワクチン遅れが原因というのは当然ですし、米中関係が世界経済に影を投げかけていたのも事実でしょう。ただし、2022年が明けてからオミクロン株の感染拡大が広がり、ロシアのウクライナ侵攻が始まって、世界が一変したわけです。ここまでを見通せというのは、エコノミストにはムリな相談です。ということで、50の論点は、日本経済、海外経済、金融・マーケット、制度・政策、ビジネス・社会の5章で各10ということになります。論点ごとに4ページずつというのも、チーフエコノミストが3人いたみずほ総研の流れを汲む組織としては律儀なところです。もちろん、コンサル活動も含むシンクタンクのエコノミストが取りまとめたものですので、とても理解しやすく、多くの専門家の作業をうまく取りまとめていることから、幅広い論点を的確に網羅しています。もっとも対応困難であったのは現下のインフレですが、日本の物価上昇については、昨年2021年4月からの携帯電話料金のムリムリの引下げが今月2022年4月に剥落するというのは、さすがにキチンと抑えてあります。エネルギーを始めとする資源価格高騰によるコストプッシュのインフレと日本では考えられていますが、資源価格高騰の背景はウクライナ危機だけではなく、本書で極めて的確にも「中国需要」と表現されています。資源依存の大きい新興国での需要増もありますから、決してコストプッシュ一辺倒ではありません。物価と景気の動向に従って、米国ではすでに金融政策が利上げ=引き締め局面に入っています。物価は上がるが景気はイマイチという我が国金融政策はどういう運営になるのでしょうか。

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次に、松本創『地方メディアの逆襲』(ちくま新書) です。著者は、神戸新聞の記者を経て、今はフリーとなったジャーナリスト・ライターです。本書は6章構成となっており、地方紙3紙と地方放送局3局に焦点を当てています。まず、第1章で取り上げるのは、イージス・アショア計画の報告書のデータミスを報じた秋田魁新報です。典型的なNIMBY=迷惑施設であるイージス・アショアの秋田配備を撤回させたスクープでした。第2章では、琉球新報が積極的に取り組んだファクトチェック報道の舞台裏を明らかにします。沖縄県知事選挙の際にSNSなどにポストされた情報に対する事実検証報道は先駆的でした。第3章では、毎日放送のドキュメンタリー『映像』の系譜を題材にして、視聴率を上げる番組作りと視聴率には結びつかないけれども良質なドキュメンタリ番組について考えさせられました。第4章では、瀬戸内海放送の調査報道記者の活動を明らかにしています。規模が小さいく、しかも、地方を拠点とするテレビ局にありながら、個人の力で真実を発掘すべく調査報道に取り組んでいる記者の歩みにスポットを当てています。第5章では、京アニの放火事件の後、実名報道について考えさせられた京都新聞における被害者報道のあり方を議論しています。最後の第6章では、東海テレビ放送の番組『さよならテレビ』、そこでは、自社の報道部内にカメラが入り、報道機関が必ずしも見せたくない、決して都合のよくない事実を明らかにしたドキュメンタリー番組について取り上げています。私は国家公務員として、どうしても首都である東京勤務が長く、定年退職前に地方勤務をしたのは長崎大学への出向の2年間だけでした。新聞社は通信車の記事をキャリーし、テレビ局はキー局の番組を流すだけ、という印象がついついあったのですが、本書を読むことにより地方メディアに対する見方が少し変わった気がします。でも変わったのは少しだけであり、本書では注目していないSNSなどでダイレクトに国民が情報を発信できるようになった現在で、地方メディアがどのように対応すべきなのか、もう少し掘り下げた議論が必要そうな気もします。

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次に、笹沢教一『コロナとWHO』(集英社新書) です。著者は、読売新聞のジャーナリストなのですが、肩書は読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員ということになっており、ジュネーブ支局長も経験しています。まさに、WHO本部のあるジュネーブに土地勘があり、国連欧州本部のあるパレデナシオンでは取材陣がC棟にいるとか、それなりの臨場感ある表現もあったりします。ということで、サブタイトルの『感染症対策の「司令塔」は機能したか』に示されているように、本書ではWHOが新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大、ないし、パンデミックの初動からWHOが中国に配慮するあまり的確な対応を取れなかったのではないか、という疑問に取り組んでいます。そして、私の感触では著者はかなりの程度に yes に近い答えであろうと受け止めました。まず、中国における感染の通報などのタイムラインから検証を行い、さらに、ヒト-ヒト感染を認定するのが2020年1月30日とやたらと遅れた点については、直前の1月27日からのテドロスWHO事務局長と習主席や王外交部長をはじめとする中国首脳との会談を「圧倒的な政治力の差」と表現しています。科学的な知見よりも重視された何かがあった点が示唆されています。国威発揚の手段とされてしまったワクチンについても批判的に検証を行い、COVAXの機能については国連の機能について熟知して影響力を拡大しようとする中国と高級官僚のポストの確保としてしか見ていない日本の姿勢とを対比させ、ここでも、したたかな中国の政治力や外交力がCOVID-19への対応にも影響している可能性を示唆しています。最後の方では、テドロスWHO事務局長の人となりや経歴まで明らかにして、中国寄りの姿勢を取る背景をあぶり出しています。私自身は外交官としての活動や国際協力の方はともかく、国際機関の勤務経験もなく、ましてや、保健衛生などのWHOの活動はまったく未知の世界ですが、一般的に指摘されているように、WHOのコロナ対応は中国への配慮が行き過ぎていて、必ずしも科学に基づかないのではないか、という疑問が、それなりに明らかになった気もします。ただ、解決策としては、このWHOのバイアスを是正するということになるのですが、最初に取り上げた『入門 米中貿易戦争』ではないですが、そうそう簡単ではないのは当然です。

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最後に、畠中恵『かわたれどき』(文春文庫) です。著者は、時代小説のしゃばけシリーズとまんまことシリーズの小説家であり、私は役所に勤務している時には、少なくともしゃばけのシリーズは、研究所で席を並べる同僚が大ファンで必ず単行本で買っていたので、お流れで貸してもらっていました。ついでながら、しゃばけのシリーズは妖がいっぱい登場するのですが、このまんまことシリーズは妖が登場せずに、人間だけでストーリーが進みます。ただ、どちらも、殺人までいかないまでも軽いミステリ仕立てになっていて、まんまことシリーズでは主人公の麻之助が謎解きをするケースが多いような気がします。また、しゃばけも、まんまことも、単行本/文庫本は年1冊で半年分の連載ですから、短編6話を収録しています。なお、本書はまんまことシリーズの文庫ベースで最新刊第7巻ですが、文庫本としては最新刊ながら、単行本ベースではすでに第8巻『いわいごと』が出版されています。ということで、本書は、「きみならずして」、「まちがい探し」、「麻之助が捕まった」、「はたらきもの」、「娘四人」、そして、本書のタイトルである「かわたれどき」の6話構成となっています。お産で妻お寿ずと娘をいっぺんに亡くした麻之助に対して、後添えを、というお話が中心になっています。まだ読んでいませんが、タイトルからして第8巻は麻之助が再婚するんだろうと思います。まず、「きみならずして」では、その後添え候補の女性が「結納前にお顔を拝見したくて」と麻之助の前に現れます。「まちがい探し」では、地本問屋から依頼された、金魚の横顔を頼りにした奇妙な人探しが始まります。「麻之助が捕まった」では、生き別れた息子を必死で探し当てた夫婦のお話ですが、その息子は本物なのかをみんなで考えます。「はたらきもの」では、天狗が出たり金が湧いたりして、お江戸にはびこる不穏な噂の真相を解き明かします。「娘四人」では、出入りの同心を替えた両替屋の娘が厄介な相談を持ち込みます。最後に、「かわたれどき」では、洪水で九死に一生を得た料理屋の娘お雪は、記憶喪失で麻之助のことを覚えていませんでした。そして、繰り返しになりますが、このお雪と麻之助が夫婦になって祝言をあげるんだろうと思います。機会があれば、第8巻『いわいごと』も読みたいのですが、しゃばけシリーズもずいぶんとご無沙汰しています。

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