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2022年5月19日 (木)

いずれも市場予想から上振れした4月の貿易統計と3月の機械受注をどう見るか?

本日、財務省から4月の貿易統計がまた、内閣府から3月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計では、季節調整していない原系列で見て、輸出額が+12.5%増の8兆762億円、輸入額も+28.2%増の8兆9154億円、差引き貿易収支は▲8392億円の赤字となり、9か月連続で貿易赤字を計上しています。機械受注では、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+7.1%増の8,695億円となっています。まず、長くなりますが、日経新聞のサイトから各統計について報じた記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字9カ月連続 4月、原油高で輸入額最高に
財務省が19日発表した4月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は8391億円の赤字だった。赤字は9カ月連続。輸出、輸入額ともに4月としては過去最高だった。原油などエネルギー価格の高騰で輸入額が前年同月比28.2%増の8兆9154億円に膨らみ、輸出額の伸びを上回った。
輸入額は単月としても過去最高だった。3月に続き、2カ月連続で最高を更新した。原油を含む原粗油は99.3%増、液化天然ガス(LNG)は2.5倍に膨らんだ。数量ベースではそれぞれ9.4%増、12.1%増だった。エネルギー価格の高騰が全体を押し上げた。
輸出額は12.5%増の8兆762億円で、単月として3月に次ぐ過去2番目の水準だった。鉄鋼がイタリア向けを中心に37.1%増、自動車が米国向けを中心に4.8%増と伸びた。いずれも数量は減っており、製品単価が上昇している。新型コロナウイルス禍からの経済の回復過程で、原材料価格や物流コストが膨らんだ。鉱物性燃料はシンガポール向けの重油が増え、2.3倍だった。
地域別にみると、対中国の貿易収支は13カ月連続の赤字となった。輸出が5.9%減の1兆4890億円、輸入が5.5%減の1兆6573億円といずれも落ち込んだ。輸出は2020年3月以来、輸入は20年9月以来の低水準だった。ゼロコロナ政策による上海の封鎖が影を落とす。
対ロシアの貿易収支は1633億円の赤字で、赤字幅は前年同月より2割増えた。自動車や一般機械を中心に輸出は237億円と69.3%減った。ウクライナ侵攻を踏まえた政府の輸出禁止措置や企業の自主的な事業の停止などが響いた。
輸入は67.3%増の1870億円だった。原油は43.2%増、石炭は2.7倍になった。それぞれ価格の高騰が大きく、数量は減っている。
機械受注21年度9.3%増、3年ぶりプラス コロナ前届かず
内閣府が19日発表した2021年度の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く)は前年度比9.3%増の10兆3732億円だった。プラスは3年ぶり。新型コロナウイルスの感染が拡大する前の19年度(10兆4036億円)の水準には届かなかった。製造業は26.7%増、非製造業は3.4%減だった。 22年1~3月期の受注額(季節調整値)は前期比3.6%減の2兆5805億円だった。マイナスは4期ぶり。4~6月期は8.1%減を見込む。ウクライナ情勢などの不透明感から、先行きも弱含む可能性がある。
1~3月期は非製造業が8.1%減だった。建設業が減少したほか、金融業の電子計算機も減った。製造業は0.8%増だった。化学機械や非鉄金属が増えた。
3月単月の受注額(季節調整値)は8695億円と前月比7.1%増えた。増加は3カ月ぶり。伸び率はQUICKがまとめた市場予測の中央値(3.7%)を超えた。非製造業は11%増、製造業は7.1%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に据え置いた。

とても長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲兆円を超える貿易赤字が見込まれていて、予想レンジで貿易赤字が最も小さいケースでも▲8682億円でしたので、実績の▲8392億円の貿易赤字はやや上振れた印象です。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年4月までの9か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、1年を超えて13か月連続となります。なお、季節調整していない原系列の貿易赤字は▲8392億円である一方で、季節調整済みの系列では▲1兆6189億円と、▲1兆円を軽く超えています。もっとも、私の主張は従来から変わりなく、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字なのですが、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は悲観する必要はない、と考えています。
4月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、すべて季節調整していない原系列の統計の前年同月比で、輸出では自動車の輸出が金額ベースで+4.8%増と伸びているのですが、台数ベースでは▲11.1%の減少を示しています。その昔の1970年代の石油危機で石油価格が大きく上昇した際には、燃費のいい日本製の自動車が販売を大きく伸ばしており、足元でも同じように石油価格が上昇しているのですが、物流と部品供給の制約のために自動車輸出はやや停滞しています。金額ベースで増加しているのは為替の円安などの価格要因と考えるべきです。同じように、半導体等電子部品のうちのICも金額ベースでは+8.7%増と大きく伸びましたが、数量ベースでは▲9.9%減となっています。金額ベースで構成比が3%以上あって、我が国の主力輸出品と考えられるものの中では、プラスチック、鉄鋼、一般機械のうちの原動機についても、金額ベースでは伸びている一方で、数量ベースでは減少している輸出品が少なくありません。輸入では、まず、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油の輸入額が大きく増加しています。これも前年同月比で見て数量ベースで+9.4%増に過ぎないにもかかわらず、金額ベースで+99.3%増と、昨年からほぼほぼ倍増しています。液化天然ガス(LNG)も数量ベースでは+12.1%増であるにもかかわらず、金額ベースでは+151.6%増と、昨年から2.5倍に膨らんでいます。加えて、ワクチンを含む医薬品が急増しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+19.9%増、金額ベースで+26.9%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は極めて少数派ではないかと考えられます。国別では、ゼロコロナ政策により上海などがロックダウンされている中国との貿易が輸出入ともに減少を示している一方で、米国や西欧との貿易は輸出入ともに順調に増加を示しています。中東からの輸入は、たぶん、石油などの燃料が主ではないかと思いますが、急増しています。

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続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で3%台後半の伸びの予想でしたし、レンジの上限でも+6.6%増でしたので、実績の+7.1%増は貿易統計と同じで少し上振れた印象です。ただし、統計作成官庁である内閣府では先月統計の段階で、基調判断を「持ち直している」から「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に半ノッチ下方改定していて、今月はそのまま据え置いています。今年に入って1~3月期のコア機械受注は前期比で▲3.3%減でしたし、上のグラフでも明らかなように、6か月後方移動平均のトレンド線でも、それほどの上向きとも見えません。併せて、四半期ごとに公表される先行き見通しについても、4~6月の「船舶・電力を除く民需」のコア機械受注は前期比▲8.1%減の2兆3,706億円と見込まれています。単月の大きなプラスで基調判断を改定するにはためらいがあったものと私は受け止めています。なお、3月統計の前月比では、製造業+7.1%増、船舶と電力を除く非製造業+11.1%増と、ともに前月比プラスとなっており、非製造業は2月統計の▲14.4%減からのリバウンドがあるとはいえ、外需を取り込める製造業と内需への依存度が高い非製造業とで決して大きな差はない、との結果となっています。引き続き、設備投資の先行指標としてのコア機械受注は先行き横ばいないし緩やかな増加を示すものと私は考えています。

最後に、昨日公表の1~3月期GDP統計速報1次QEの評価について、テレビのニュースや本日の朝刊などを見ている限り、どうも、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のためのまん延防止等重点措置によって消費が伸び悩んだのがマイナス成長の主因、といった趣旨で報じられている気がします。同時に別件で、円安については輸入物価の押上からインフレ高進に拍車をかける、といった観点からの報道が多い気がします。どちらも、私はビミョーに違っていると受け止めています。コロナの感染拡大抑制のためのまん延防止等重点措置が消費に対して抑制的に作用した点は事実ですし、円安が輸入物価の上昇幅を大きくしているのも確実です。しかし、1~3月期GDPがマイナス成長だった最大の要因は交易条件の悪化による海外への所得流出であり、そして、この海外流出に円安が拍車をかけている、と私は考えているわけです。GDP成長率の評価については、私が見た範囲では、Yahooニュースへのエコノミストのコメントの中に、いくつか私の意見と合致するものがありました。まさかとは思いますし、勘ぐりすぎかもしれませんが、どこかで、まん延防止等重点措置と円安に対する国民の反対意見を喚起するために、カッコ付きの「情報操作」めいたことが行われていたりするんでしょうか。私は、まん延防止等重点措置についてはともかく、少なくとも円安については、現状くらいのレベルであれば、日本経済への総合的なインパクトはプラスであろうと考えています。もちろん、円高によって交易条件が改善することは確かですが、貿易を通じたマイナス効果の方が大きいと考えています。

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