今週の読書はアダム・スミスに関する教養書とミステリと新書の3冊!!!
今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ジェシー・ノーマン『アダム・スミス 共感の経済学』(早川書房)は英国の保守党国会議員による評伝であり、スミスに関するいくつかの神話ないし誤解の解明を試みています。次に、東野圭吾『マスカレード・ゲーム』(集英社)は我が国でもっとも売れているミステリ作家の1人によるミステリであり、ホテル・コルテシアを舞台とするシリーズ4作目にして、出版社では「総決算」と呼んでいます。最後に、トム&デイヴィッド・チヴァース『ニュースの数字をどう読むか』(ちくま新書)は報道などで示されるデータについて、そもそも、データの算出プロセスにおける誤解、というか、誤解を誘おうとするかのようなプレゼン、そして、データを解釈する際のバイアスなどについて広く解説しています。
今週は、新刊書読書はこの3冊なのですが、やや旧作のミステリを何冊か読んでいます。すなわち、翔田寛の『真犯人』(小学館文庫)、東野圭吾『白馬山荘殺人事件』(光文社文庫)、方丈貴恵のデビュー作『時空旅行者の砂時計』(東京創元社)の3冊です。この3冊についてはFacebookでシェアしておきました。さすがに、旧作ミステリを3冊読むと新刊書読書は少し伸び悩んだりします。
最後に、今週の3冊を含めて、今年に入ってから新刊書読書は計96冊と去年に比べてちょっぴりスローペースながら、少しずつ追いついてきた気がします。何とか、年間200冊くらいには達するのではないかと考えています。
まず、ジェシー・ノーマン『アダム・スミス 共感の経済学』(早川書房)です。著者は、英国の現役の保守党国会議員であり、哲学の博士号を持っていたりもします。英語の原題は Adam Smith: What He Thought, and Why It Matters であり、2018年の出版です。ということで、第1部 生涯、第2部 思想、第3部 影響、の3部構成を取って、スミスに関するいくつかの神話ないし誤解の解明を試みています。すなわち、自己利益の養護者、金持ち贔屓、政府嫌い、本質的には経済学者、などの5点です。そして、基本的に、本書の結論では否定されていたりします。特に、私のようなエコノミストはアダム・スミスの第1の功績は『国富論』であり、近代的な経済学の確立者の1人である、と考えていますが、本書では、道徳哲学者、特に哲学者であるとの主張です。本書では、もちろん、『国富論』がもっとも人口に膾炙いていることは認めつつ、その前の著書である『道徳感情論』と『国富論』の間の『法学講義』も重視しつつ、エコノミスト=経済学者だけでなく、法学者や哲学者としてのアダム・スミス像を浮き彫りにしてくれています。同時に、経済学の文献としてはアローの一般均衡理論を重視しています。このあたりは、私にはよく理解できません。私はマクロエコノミストですので、英国人であれば特にケインズが登場してしかるべきと思うのですが、違います。もちろん、アダム・スミスは昨今の新自由主義=ネオリベなエコノミストとは違って、市場が機能するためには政府の力が必要だと考えていましたし、本書の著者が主張するように不平等や貧困に対しては厳しい見方をしていました。特に、市場における見えざる手については、市場での交換=取引を損得だけで考えるのでははなく、市場での取引が法律、制度、規範、アイデンティティなどに支えられている点を重視していることが明らかにされています。もう15年近くも前に、大阪大学の堂目教授が『アダム・スミス -「道徳感情論」と「国富論」の世界』を中公新書で出版して話題を集めましたが、本書も、著者の視点からした哲学者という面も重要ながら、私のようなエコノミストが「経済学の父」としてのアダム・スミスを念頭に置きつつ読むのにも最適です。400ページを超える大作ですが、おそらく、経済学の専門的知識がそれほどなくてもスラスラと読めるような気がします。たぶん、邦訳がいいのではなかろうかと考えています。
次に、東野圭吾『マスカレード・ゲーム』(集英社) です。著者は、私がコメントする必要のないくらい、我が国で最も売れているミステリ作家の1人といっていいと思います。今作品は「マスカレード」のシリーズの第4作となります。順に、『マスカレード・ホテル』、『マスカレード・イブ』、『マスカレード・ナイト』、そしてこの作品です。私の勝手な感想ながら、最初の『マスカレード・ホテル』は長編ながら連作短編集として読めましたし、次の『マスカレード・イブ』は第1作の事前譚の純然たる短編集ですし、おそらく、『マスカレード・ナイト』がシリーズで初めての本格的な長編で、この作品も長編です。まあ、何と申しましょうかで、箱崎の近くにあるホテル・コルテシア東京を舞台に、ホテルのコンシェルジュ、従業員である山岸尚美と警視庁の刑事である新田浩介のコンビがホテルでの犯罪を未然に防止するというものです。新田はホテルの従業員に扮して潜入捜査を行います。その点に関してはシリーズに共通しています。この作品では、まず、おそらく同じナイフを用いたと考えられる3件の殺人事件が短期間に発生します。そして、これらの殺人事件の被害者がかつて人を死なせた経験があり、しかも軽微な罪にしか問われなかったりして、被害者感情には合致しない形で「更生」と認められて、フツーの人生を送っている点が共通しています。そして、とても偶然とは思えない中で、クリスマスイブに3件の殺人事件で殺された人物に命を奪われた遺族が、はい、ややこしいです、なぜか全員コルテシアに宿泊します。加えて、殺人事件の4人目の被害者の候補となり得る人物、すなわち、心神耗弱で罪に問われなかったものの、恋人を刺殺した女性もホテルに宿泊します。どう見ても偶然とは思えないわけで、この4人目が被害者とならずに事前に犯罪を防止する目的で、新田は女性警部の梓とともに潜入捜査を命じられます。そして、梓警部がやや暴走したりする一方で、米国ロス・アンゼルスの系列ホテルで働いていた山岸が帰国して新田ら刑事たちをサポートします。もちろん、ミステリですので犯人のネタバレはしませんが、出版社がこの第4作をシリーズの「総決算」と呼ぶのは理由があります。すなわち、最後の最後に、新田が警視庁に辞表を提出して刑事を辞職しようとし、ホテル・コルテシアの総支配人がホテルの警備マネージャーに新田をスカウトしようとします。はたして、このシリーズは新田がホテル従業員となって継続されるんでしょうか。それとも、辞表は受理されないんでしょうか。続きがとても楽しみだったりします。
最後に、トム&デイヴィッド・チヴァース『ニュースの数字をどう読むか』(ちくま新書) です。著者は、英国のサイエンス・ライターとエコノミストです。同じ苗字ですので、兄弟なのか、親子なのか、私には判然としません、訳者のあとがきでも触れられていません。英語の原題は How to Read Numbers であり、2021年の出版です。更生としては区別されていませんが、大雑把に2つのグループから成っていて、前半で数字を提供するサイドでの統計的なごまかしや誤解を招く手法について解説されていて、後半では数字を受け取るサイドでのバイアスなどを取り上げています。特に目新しさはなく、私が今までに読んだ類書と同じなのですが、新書らしくコンパクトに取りまとめていますし、各トピックについて明確に章で分割していますので、とても読みやすく仕上がっています。表紙画像にあるように、22章構成で260ページほどですので、各章平均的に10ページあまりのボリュームです。反面、簡略な解説に終わっているので、キチンとした数式などが示されておらず、pp.25-26のSIRモデルの式はカッコが足りなかったりします。もうひとつだけ疑問に思ったのは、RCTとかを用いて、確かに因果関係を把握することは重要なのですが、最近のビッグデータの世界であれば相関関係も十分役に立つ、という点はもっと強調されていいんではないかと私は受け止めています。例えば、日本では低所得と喫煙と肥満が、まるで「三位一体」のように特定の層に現れることがよくあるのですが、この3要素はいずれがいずれの原因で結果か、ということを考えるのは適当ではありません。まあ、そういっ細かい点は抜きにして、本書のように統計的なリテラシーを高めようと試みる方向性は望ましいと私は考えています。加えて、行動科学によって悪い方向に引きずられないような観点もこれから必要になるかもしれません。
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