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2022年7月 2日 (土)

今週の読書は雇用形態感の格差を分析した経済学術書をはじめ計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、禿あや美『雇用形態別格差の制度分析』(ミネルヴァ書房)は、正規と非正規の雇用形態別の格差、特に正規職員とパート職員の間の格差について、電機製造業と小売業の実態をかなり長い期間にわたってケーススタディしています。続いて、亀田達也『連帯のための実験社会科学』(岩波書店)では、社会科学における実験を活用して人間の行動や人間の集合体である社会をどこまで探究できるのか、にスポットを当てています。森永康平『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)では、用語としては「高圧経済」とはいっていないものの、需要が供給を超過する「高圧経済」の必要性を論じています。石川幹人『だからフェイクにだまされる』(ちくま新書)では、進化心理学の観点からフェイクに騙されるバイアスを指摘しています。最後に、鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人』(宝島社文庫)は、第20回『このミステリーがすごい! 』大賞の文庫グランプリを受賞した作品であり、6ケースの密室殺人の謎を解き明かしています。
なお、今週の5冊を含めて、今年に入ってから新刊書読書は計121冊となりました。年間200冊のペースを少し超えていますので、少し余裕を持って新刊書ならざる読書にも励みたいと思い、あさのあつこ『火群のごとく』(文春文庫)を読み、Facebookの然るべきグループでシェアしてあります。本日の新刊書の読書感想文も、適当なタイミングで個別にシェアしたいと予定しております。

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まず、禿あや美『雇用形態別格差の制度分析』(ミネルヴァ書房)です。著者は、跡見学園女子大学の研究者で、職務評価の専門家のようです。ですから、私のようなマクロエコノミストと違って、マイクロな雇用や労働を専門にしているように受け止めています。本書は3部構成となっており、第Ⅰ部で電機製造業、第Ⅱ部で小売業の、それぞれのパートタイム労働者の歴史を詳細にケーススタディした後、第Ⅲ部で職務評価などに基づいて人事や処遇の分析を試みています。出版社から見ても、完全な学術書であり、一般の学生やビジネスパーソンにはオススメしません。読み進むには、ある程度の専門性が必要です。ということで、まず、第Ⅰ部と第Ⅱ部のケーススタディは極めて詳細に渡っており、1950年代や60年代のいわゆる高度成長期、作れば売れる、商品があれば売れるという需要超過の時期に、特に電機製造業などで人手不足を埋めるために主婦を中心とする臨時工や、小売業でのパートが、縁辺労働者として雇用され、男性正規職員で構成される中核雇用者の穴埋めをする形から始まっている歴史を明らかにしています。しかし、特に電機製造業の臨時工は労働組合運動の後押しもあって正規職員に変換したり、小売業のパートも基幹パートと補完パートのうちの前者は一定割合で正社員化しています。ですから、この初期のころから、臨時工やパートは中核雇用者に対して、景気の調整弁や低賃金を生かしたコスト削減の役割を果たしていると指摘しています。加えて、1970年代の2度の石油危機や1980年代からのグローバル化、そして、1990年代初頭のバブル崩壊が決定的な契機となって、非正規雇用はさまざまな給与や人事処遇の観点からも景気の調整弁やコスト削減の目的で活用が拡大しています。第Ⅰ部と第Ⅱ部のケーススタディは大雑把に2000年までの20世紀を対象に歴史を振り返っていますが、第Ⅲ部での職務評価は2010年以降も分析対象としており、人事評価における能力評価や仕事の評価、すなわち、分業に基づく賃金では決してなく、むしろ、勤務地=転勤や正規職員に対する生活給の保証などという「職務内容に見合った賃金を拒絶する障壁」(p.303)を設けた上で、賃金という処遇ありきで分業を逆から決める、という少し歪な職務分担になっている点を指摘しています。ですから、よく話題になるメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用に当てはめれば、本書では後者のジョブ型雇用という用語しか見当たりませんが、正規職員が生活給≈年功賃金を支給され、非正規職員が職務給を支給される、ということになる理解なのかもしれません。ただし、本書では正規職員は内部労働市場、非正規職員は外部労働市場という単純な分類には懐疑的です。とてもていねいに臨時工やパートといった非正規雇用のケーススタディを積み重ね、結局のところ、男性正規職員という中核雇用者と主婦パートという縁辺雇用者、ただし、「縁辺雇用者」という用語は使いっていませんが、の対比を浮き彫りにし、後者の非正規雇用者が景気の調整弁として好況期に雇用され、逆に、不況期に職を失う、という景気循環に応じた役割を果たすとともに、景気循環からは独立にトレンドとして低賃金をテコとしてコスト削減の役目を果たす、といった姿を明らかにすることに成功しています。マイクロな雇用・労働に関する分析としてはこれで十分なのですが、私自身の感想として2点コメントしたいと思います。第1に、雇用形態論として臨時工やパートなどの非正規雇用を取り上げるとすれば、1993年のパート労働法についてはその後の改正・改悪も含めて独立した章を設けて、キチンとフォローするべきです。本書では第5章のダイエーを取り上げた章で、ホンの少しだけ触れているに過ぎません。まあ、博士学位請求論文を基にしているのですから、仕方ない面はあるとしても、一般読者への配慮も欲しかった気がします。第2に、データがどこまで利用可能なのかが不明なのですが、雇用や労働に関する分析なのですから、ケーススタディでデータを2次元のカーテシアン座標にプロットするだけではなく、フォーマルな定量分析を加えて欲しかったと思います。最後に第3に、マクロ経済学の立場から、非正規職員の役割のひとつとして「雇用の調整弁」を重視するのであれば、単に、好況期に雇用され、不況期に職を失う、というだけではなく、不況が継続していれば就労意欲を減退させて労働市場には再参入せず非労働力化してしまう傾向も指摘して欲しかったと思います。それが、バブル崩壊以前に日本の失業率を2%程度の低率に抑えた主因であることは明らかです。ただ、この点も事業所データを中心とした分析ですので、家計のデータの利用可能性が低い点から止むを得ないのかもしれません。

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次に、亀田達也『連帯のための実験社会科学』(岩波書店)です。著者は、東大人文研の研究者であり、専門は社会心理学です。ちなみに、私の知る限りでは、心理学は経済学と同じようにマイクロとマクロがあり、臨床心理学がマイクロな心理学、そして、著者の専門である社会心理学がマクロの心理学と私は認識しています。本書は岩波書店のシリーズ ソーシャル・サイエンス全8巻の第3巻に当たり、実は、第4巻が私の専門分野にさらに近くて『経済学と合理性』とのタイトルで、私はすでに生協に発注して昨日入手しています。たぶん、このシリーズはマイクロな経済学ですので、私のようなマクロ経済学を専門とする研究者には難しいかもしれませんが、出来るだけ早く読みたいと考えています。ということで、本書では自然科学ならざる社会科学における実験を用いることにより、人間の行動や社会をどこまで探究できるのか、にスポットを当てています。ただし、このテーマは余りにも広すぎますので、特に、タイトルの通り、連帯に絞って議論しています。もっといえば、連帯をもたらす共感=empathyを呼び起こす作用について実験的な手法を用いて解明を試みています。笑顔を見せれば笑顔で返されるような身体的模倣から始まって、エモーショナルな共感、さらに、エコノミストにとって気になるところの分配の公平性に対する一種の正義感までお話は進みます。ただし、エモーショナルな点については、やっぱりオキシトシンの働きが出て来てしまいます。私は従来から経済政策の目的は主観的な幸福感の増進ではない、と主張していて、もっとハードデータとして把握可能な指標を経済政策の目標にすべき、と考えていますが、やっぱり、主観的な幸福感を目標とすれば、国民の間にオキシトシンを配布すればいいのか、ということになってしまいそうな気がして、少し怖いことを改めて認識させられました。分配の公平性に関しては、オマキザルでの実験が紹介されていて、トークンとの交換でもらえるのがキュウリとブドウでは、オマキザルの間ですら不公平感を生じるとの実験結果が示されています。同じトークンとの交換でキュウリしかもらえないオマキザルは、そのもらったキュウリを投げつけて不満を表明するそうです。これだけの経済的社会的格差の拡大に耐えている日本人の従順性に疑問を感じさせられてしまいました。そして、その公平性の原点としてロールズ的なマキシミン戦略、すなわち、もっとも恵まれない階層に手厚く分配する方法を論じています。私はこれを外国人大学院留学生に対して、貧困指標の計算問題として宿題を出したりしています。それはともかく、本書では「ロールズ実験」の結果を取り上げて、格差に注目した不平等回避傾向が実験における選択を繰り返すうちにロールズ的なマキシミン的配慮に置き換わる点を強調しています。この不平等や格差に関する議論に私は一番思い入れがありますから、ほかは軽く流しますが、公共財への拠出に関するフリーライダーに対するサンクション(賞罰)に関する議論なども興味深く読みました。ただ、最終章の実験社会科学の将来のあり方については、技術的な面を強調する本書と違って、私はより倫理的な面が強調されるべきであると考えています。すなわち、例えば、開発経済学で実験を行う際に、カギカッコ付きで「流行」となっているRCT(ランダム化比較実験)については、貧困状態にある集団を処置群と対照群に分けて効果を図る方法が、ホントに開発経済学目的に照らして望ましい方法であるのか、については私は強い疑問を持っています。その昔の心臓移植なんかについて、先進的な医学の臨床実験が医学者の名声のためと批判されたこともありますし、エコノミストも心して実験に取り組む必要があるように、私には思えてなりません。

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次に、森永康平『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)です。著者は、エコノミスト・実業家であり、少し前までは「森永卓郎の倅」という紹介も有効だったかもしれませんが、今では立派に父親から独立した存在だと思います。私は同じ作者で同じく宝島社新書で出ている『MMTが日本を救う』を読んだ記憶があるのですが、なぜか、ブログの読書感想文の過去ログを見ても出現しませんでした。謎です。ということで、本書も前著と同じ基本的なスタンスであり、デフレが日本経済を蝕んでおり、明らかにマイルド・インフレの方が望ましく、財政出動などの高圧経済が必要、という私の政策論と方向性を同じくする議論に依って立っています。ただし、ロシアのウクライナ侵攻のホンの少し前から始まっているインフレを的確に捉えて、スタグフレーションを論じています。はい。その通りです。というのは、2021年4月から今年2022年3月まで、当時の菅内閣の強引な手法により携帯電話通信料が大きく引き下げられ、消費者物価(CPI)上昇率に対しておおよそ▲1.5%近いマイナス寄与を持っていたため、CPI上昇率はいかにも低く抑えられているように見えていましたが、じつは、この携帯電話通信料を別にすれば、すでに+2%近いインフレが始まっていました。その後、ウクライナ危機にともなって石油を始めとする資源価格や食料価格が大きく高騰したり、米国金融政策が引締めモードに入って金利差が広がって円安が進んだりして、さらにインフレ率が拡大したのは広く報じられている通りです。そして、本書公刊以降に値上げが幅広く拡大して現在に至っているわけです。ですから、本書では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)がインフレを引き起こした側面が強調されています。それはそれで真実です。そして、そのインフレに対して、デフレマインドが根強く残っているために資源価格や食料品価格の高騰にもかかわらず価格転嫁が進まず、加えて、従来からの緊縮財政によって需要が伸び悩んでいるために、日本経済が一向に活性化しない現状を実に的確に分析しています。本書でも何度か繰り返されているように、経済へのダメージが大きいのはインフレではなくデフレであり、こういった経済へのダメージが通り魔的な無差別殺人を引き起こしているひとつの要因である、と鋭く指摘しています。そして、現在の萎縮した日本経済への処方箋として、緊縮財政の放棄、具体的には、消費税率の引下げ財政政策と金融政策による高圧経済の実現、などを上げています。もっとも、「高圧経済」というのは著者の意を汲んだ私の解釈であって、著者自身はそういった表現はしていません。繰り返しになりますが、基本的な方向性については、私とまったく同じと受け止めています。

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次に、石川幹人『だからフェイクにだまされる』(ちくま新書)です。著者は、明治大学情報コミュニケーション学部の研究者であり、専門は認知科学だそうです。本書では、フェイク時代にふさわしい道しるべは進化心理学である、という観点から議論が進みます。やや、私には意外でした。というのは、私の偏った知識によれば、「進化心理学」とは子孫を残す重要性を強調するあまり、もっぱら、異性とセックスするためには何が必要か、を、各個体は考えている、という認識のもとに発達した学問体系だと思っていたからです。そうではなくて、本書によれば、原始時代、というか、狩猟採集時代から協力集団と運命をともにし、単独ではなく協力して狩りを行うという利点を認識した上で、こういった集団を形成して信頼し合うことが出発点となっている、ということのようです。ですから、逆に、フェイクに騙されやすいのが人間の進化上の「欠陥」といえるかもしれません。従って、本書の構成でいえば、他人のお話を信じるバイアスを持つがために共感に訴えるフェイクから始まり、さらに似たような言葉から言語がフェイクを助長するケースがあります。本書では蛾の「モス」と「マンモス」による行き違いを例示しています。承認欲求が暴走して自己欺瞞がフェイクのきっかけとなることについては、宗教的な演出が行き過ぎるきらいを本書では指摘します。同時に、SNSがここまで広く行き渡ると、承認欲求が暴走する可能性も高まると危惧するのは私だけではない気がします。また、科学の信頼性を利用したフェイクもあると本書では指摘しており、例えば、実体験に基づくとはいえ、やや過剰に科学的な装いをまとった健康法なんかがこれに当たるかもしれません。また、ツベルスキー=カーネマンのプロスペクト理論で明らかにされた損失回避のバイアス、確率に関する誤解、あるいは、移民に犯罪者が多いといった単なる偏った思い込みなどの語階からフェイクが生まれる可能性もあります。最後に、結束を高めるために集団の外部に敵を作るなど、部族意識からフェイクによって結束が高まってしまう、ということになります。最後のフェイクはナチスのユダヤ人攻撃に見られるフェイクだということは容易に理解できるのではないでしょうか。フェイクというよりはバイアスに基づく事実の誤認なのかもしれませんが、それを悪用されればフェイクと考えるべきです。しかも、私が恐れているのはそういった誤解を意図的に生じさせるやり方が、行動科学と称して研究されていることです。ナチスまでさかのぼらなくても、ケンブリッジ・アナリティカが2016年の米国大統領選挙で悪名をはせたことは記憶に新しいと思います。こういった行動科学の研究については、大学や然るべき研究機関でしっかりとした倫理基準を作成・運用する必要を指摘しておきたいと思います。

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最後に、鴨崎暖炉『密室黄金時代の殺人』(宝島社文庫)です。著者は、新進のミステリ作家であり、本作品で第20回『このミステリーがすごい! 』大賞の文庫グランプリを受賞しデビューしています。タイトルから明らかなように、不可能犯罪の中でも密室ミステリに挑戦しています。ということで、この作品では連続して密室殺人事件が起こるという実際にはありえない設定で、いかにも本格ミステリの大がかりな舞台が用意されています。その舞台は、著名なミステリ作家である雪城白夜が亡くなった後に遺した雪白館です。この雪白館に通じる橋が落とされ、Wi-Fiや携帯電話も通じない陸の孤島がクローズドサークルになる、という本格ミステリのお約束の展開です。そして、6つの密室殺人が盛り込まれています。主人公は高校2年生のノーマルな存在ですが、3歳年上の大学2年生と雪白館に行きます。そうすると、その雪白館に主人公のかつての部活仲間がやって来て、「光速探偵ピエロ」として謎解きに当たります。その他の登場人物は、雪白館のメイドと支配人、国民的アイドルとマネージャー、貿易会社社長、医師、密室探偵、日本語が流暢英国人少女、そして、極めつけで怪しい宗教団体の幹部などなどです。これらの登場人物のキャラ立てがかなり独特で、しかも、ネーミングが常識外れでおかしいのですが、それは別としても、6つもあるのですから、やや的外れに見えるものも含まれていますが、本格ミステリとしてはかなりいいセンいっていると思います。特に、当然かもしれませんが、最後のトリックが一番よかったように私は感じました。なお、やや軽いネタバレながら、主人公とその連れの大学生とかつての部活仲間の3人は殺人犯ではありませんが、プロの殺し屋が混じっていたり、恨みを持たれていて殺人の標的にされる可能性を自覚していて逃走しようとする人物がいたり、怪しげな新興宗教の幹部が含まれていたり、キャラの点でもいろんな仕掛けがあります。その中で、私が個人的に評価している点は、明るいタッチでストーリーを進めていることです。繰り返しになりますが、ネーミングも含めてコミカルな表現といってもいいかもしれません。加えて、ストーリー展開以上に表現がよく練られており、読みやすく仕上がっています。私なんかはスラスラと進み過ぎて、作者の仕掛けを見逃しているポイントがいくつもありそうで、やや怖い気すらします。独特の文体である点も新人作家としてはよく考えているような気がします。ただし、最後に、トランプに「十戒」、すなわち、ミステリ的なノックスの十戒とユダヤ教のモーセの十戒、の両方が重ねられている点、というか、十戒に見立てた殺人、というのは、評価する読者もいるかも知れませんが、私にはちょっとやり過ぎに感じました。やや無理やり感がありました。もちろん、ハナからリアリティは一切無視して謎解きに特化していることは理解しますし、それだけに、何らかのストーリーとして読者を引き付ける要素として「見立て殺人」が欲しかったのだろうという点は理解します。

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