10か月連続で貿易赤字を計上した6月の貿易統計と日銀「展望リポート」を考える!!!
本日、財務省から6月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+19.4%増の8兆6284億円、輸入額は+46.1%増の10兆122億円、差引き貿易収支は▲1兆3838億円の赤字となり、11か月連続で貿易赤字を計上しています。まず、年半期の統計を散りばめて、やたらと長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
貿易赤字、1-6月過去最大7.9兆円 資源高響く
財務省が21日発表した2022年上期(1~6月)の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は7兆9241億円の赤字だった。資源高が響き、赤字額は比較可能な1979年以降で半期として過去最大となった。中国経済の減速などで円安でも輸出数量が停滞し、輸入の伸びに追いつかない。
半期としての赤字額は過去最大だった2014年1~6月の7兆6281億円を超えた。輸入額は前年同期比37.9%増の53兆8619億円に膨らんだ。半期で50兆円を超えるのは初めて。
ロシアのウクライナ侵攻は資源価格の高騰に拍車をかけた。原油を含む原粗油の円建て単価は1キロリットル当たり7万5501円と、半期として最も高くなった。輸入額は原粗油や液化天然ガス(LNG)がそれぞれ約2倍、石炭が3倍以上に膨らんだ。サウジアラビアやオーストラリアからが多かった。
輸出は鉄鋼や電子部品が伸び、金額は15.2%増の45兆9378億円だった。数量は2.0%減り、円安局面でも伸び悩んだ。特に中国向けが13.4%の大幅な落ち込みとなった。ゼロコロナ政策による上海市などの都市封鎖(ロックダウン)が影を落とした。
中国との貿易収支は2兆4625億円の赤字だった。赤字額は半期として過去7番目の大きさ。ハイブリッド車(HV)など自動車やエンジンの輸出が落ち込んだ。輸入は16.9%増の11兆3862億円と過去最高だった。半導体電子部品が増えた。
対米国は2兆8950億円の黒字、対アジアは1兆8606億円の黒字だった。豪州やフィリピン向け鉱物性燃料と韓国向け鉄鋼製品の輸出が伸びた。対EUは1兆1569億円の赤字で、赤字額は前年同期より58.7%膨らんだ。
6月単月の全体の貿易収支は1兆3838億円の赤字だった。11カ月連続の赤字で、額は6月として過去最高になった。円安も寄与して輸出、輸入ともに単月として過去最高だった。
輸入は前年同月比46.1%増の10兆122億円で、4カ月連続で過去最高を更新した。10兆円を超えるのは初めて。原粗油が1兆1598億円と、15カ月連続で増加している。
ロシアからの輸入は原粗油が06年7月以来約16年ぶりにゼロとなった。LNGや石炭は増えており、ロシアとの貿易収支は計1141億円の赤字となった。赤字額は前年同月の2.5倍に膨らんだ。石炭の輸入数量は59.5%減った。単価の上昇が大きく、金額は65.3%増えた。輸入額全体は22.9%増の1539億円だった。
貿易統計上の為替レートは上期が1ドル=121.36円、6月は130.35円だった。足元では24年ぶりの水準となる138~139円前後まで円安が進んでいる。この流れが続くと7月以降も貿易赤字の拡大基調が定着する可能性がある。
やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▱.5兆円を超える貿易赤字が見込まれていて、予想レンジで貿易赤字が最も小さいケースで▲1.2兆円ほどでしたので、実績の▲1兆3838億円の貿易赤字はやや下振れた印象ながら、まあ、こんなもんという受止めかもしれません。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年6月までの11か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、1年を超えて15か月連続となります。しかも、貿易赤字額がだんだんと拡大しているのが見て取れます。これも、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回って拡大しているのが貿易赤字の原因です。もっとも、私の主張は従来から変わりなく、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は悲観する必要はない、と考えています。
6月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、すべて季節調整していない原系列の統計の前年同月比で、輸出では自動車の輸出が金額ベースで+0.4%増にとどまりました。これは、台数に基づく数量ベースで▲10.1%減となったからで、半導体などの部品不足が原因です。その昔の1970年代の石油危機で石油価格が大きく上昇した際には、燃費のいい日本車が販売を大きく伸ばしており、足元でも同じように石油価格が上昇しているのですが、物流と部品供給の制約のために自動車輸出は明らかに停滞しています。ほかに金額ベースと数量ベースが比較できるもののうち、我が国の主力輸出品となっているものを見ると、半導体等電子部品のうちのICは金額ベースでは+41.2%増と大きく伸びましたが、数量ベースでは▲3.1%減となっていますし、電算機類(含周辺機器)も金額ベースで+3.5%増ながら、数量ベースでは▲32.6%減を記録しています。ほかにも、金額ベースでは伸びている一方で、数量ベースでは減少している輸出品がいくつかあります。もちろん、数量ベースを上回って金額ベースで増加しているのは為替の円安などの価格要因と考えるべきです。輸入では、まず、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油の輸入額が大きく増加しています。これも前年同月比で見て数量ベースで+22.1%増が金額ベースで+145.9%増と大きく水増しされます。1年前の昨年2021年6月から金額ベースで2.5倍に近い増加となっているわけです。ただし、引用した記事にある通り、ウクライナ侵攻に対する経済制裁のためにロシアからの原祖油の輸入はゼロになっています。ほかの化石燃料については、液化天然ガス(LNG)も数量ベースでは+1.7%増に過ぎないにもかかわらず、金額ベースでは+98.9%増と、お支払いの方はほぼほぼ倍増しています。加えて、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+26.4%増、金額ベースでも+25.2%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないかと考えられます。
最後に、本日、日銀で開催されていた金融政策決定会合が終了し、「展望リポート」が公表されています。政策委員の大勢見通しのテーブルは上の通りです。前回4月の「展望リポート」から生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI上昇率の欄が一番右に見えます。ということで、基も注目された物価見通しは、生鮮食品を除くコアCPIで+2.3%と物価目標の+2%を超えるという結果が示されています。しかし、よりいっそうの金融緩和を実施すべきと片岡委員だけが反対票を投じたものの、金融政策は現状維持の判断が示されています。コアインフレが目標値を超えたにもかかわらず、金融政策は引締めに方向転換することなく現状維持で、すなわち、アベノミクスの第1の矢はまだ飛んでいるわけです。もちろん、広く報じられている通り、米国では連邦準備制度理事会(FED)が、また、英国でもイングランド銀行が、それぞれ、すでに金利引上げを開始しています。加えて、欧州中央銀行(ECB)も本日開催する定例理事会で利上げに踏み切るとの見方が、日経新聞、時事通信、ロイターなどで示されています。にもかかわらず、大規模な金融緩和を継続するのは、第1に国内景気減速の可能性です。上のテーブルにも見られる通り、2022年度の成長率見通しは4月時点から引き下げられており、しかも、この先、2023~24年度にかけて成長率が低下するとの見通しが出ています。第2に現在のインフレ高騰は一時的との見方があります。「展望リポート」では物価上昇率に関して、「本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想される。」と見込んでいます。ただし、さらに、物価上昇率が高まって、さらに、円安が進めば、何らかのアクションを要求する意見が日銀内外から出てくる可能性は否定できません。最後に、「展望リポート」では、物価のリスク要因として「企業の価格・賃金設定行動」を上げています。バブル崩壊後、世界標準とはかなり異なるビヘイビアを示してきた日本の家計や企業が、現下の経済情勢にどのように反応するかについては、私はマクロエコノミストながら、それなりの興味をもって観察しています。ただし、1点だけ強調しておきたいのは、日銀の重視する「企業の価格・賃金設定行動」のバックグラウンドには企業の雇用慣行が強い影響力を持って控えている点は忘れるべきではありません。
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