« 米国雇用統計に見る雇用拡大はどこまで続くのか? | トップページ | 打撃戦を制して逆転で広島にもカード勝ち越し!!! »

2022年8月 6日 (土)

今週の読書は芥川賞作品をはじめとしていろいろ読んで計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ヤニス・バルファキス『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』(講談社)は、財政危機の折にギリシアの財務大臣をしていたエコノミストによる経済を題材にしたSF小説です。続いて、鳥谷敬『明日、野球やめます』(集英社)は長らく阪神タイガースの遊撃手として活躍し、2000本安打を達成した名選手による自伝的なエッセイです。高瀬準子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)は第167回芥川賞を受賞した純文学であり、著者は私の勤務大学の文学部OGです。川上未映子『春のこわいもの』(新潮社)も芥川賞作家による短編集です。最後に、松岡圭祐『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』(新潮文庫)は東京ディズニー・リゾートの舞台裏での人間関係を題材にしたエンタメ小説です。「ふたたび」なしの方も私は読んだ記憶があります。
なお、今週の5冊を含めて、今年に入ってから新刊書読書は計121冊となりました。年間200冊のペースを少し超えています。

photo

まず、ヤニス・バルファキス『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』(講談社)です。著者は、ギリシア出身のエコノミストであり、特に、2015年にはギリシャ債務危機のさなかにチプラス政権の財務大臣に就任し、緊縮財政策を迫るEUに対して大幅な債務減免を主張し注目を集めています。その際のノンフィクションが『黒い匣』であり、私は2019年4月にご寄贈いただいて読んで、このブログに読書感想文をポストしています。また、『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』と『わたしたちを救う経済学』についても読んでいます。ということで、本書は、正しくいえば経済書ではなくSF小説です。すなわち、2008年のリーマン・ショックで世界が分岐し、その分岐先のパラレル・ワールドである「公平で正しい民主主義」が実現した2025年にいるもう1人の自分と遭遇するところから始まります。主要な登場人物は、コチラ側では3人、アチラ側との接点を見出していしまうエンジニアの男性、急進左派の女性、そして、リバタリアンの女性エコノミスト、となります。コチラ側では、最後の女性の子供が登場したりします。また、リーマン・ショックで分岐したアチラ側には、コチラ側の人物と同じDNAをもっていて対応する人物がいるようです。要するに、分岐した後のアチラ側の経済社会では、旧ソ連時代のようなモノバンク、すなわち、商業銀行が機能していなくて、すべての金融取引が中央銀行によってなされます。中央銀行により一律のベーシックインカムが支給されます。そして、株式会社はあるのですが、株式市場はなく、社員が1人1株1票を持ちます。データ取引規制により巨大テック企業GAFAは消滅しています。仕事は、株式会社の中でなされますが、ピラミッド型の組織ではなくタスクに応じて適切な仕事相手とチームを組んで基本給は社員全員が同額を支給されます。しかもこういった大きな変革が暴力的な革命を景気としているわけではなく、とても民主的な方法で改革がなされています。しかも、この社会は市場で資源配分を行っていて、決して中央司令経済ではない、という意味で資本主義社会といえます。日本のように特定のカルト教団が選挙で票の割振りをするような社会では実現可能性はとても低いと思いますが、あるいは、社会主義ならざる次の資本主義、どこかの国の総理がいうような「新しい資本主義」として可能性はゼロではないかもしれません。ただし、私が最後に強調したいのは、民主主義の下であっても大きな社会経済変革のためには、過半数の賛同を得る必要は必ずしもないという点です。よく「3.5%ルール」といわれるものです。以下の米国ハーバード大学の論文やBBCやEconomist誌の報道をご参考まで。最後の最後に繰り返しますが、あくまでSF的な経済小説です。


photo

次に、鳥谷敬『明日、野球やめます』(集英社)です。著者は、我が国野球界でも最高の遊撃手の1人として早稲田大学や阪神タイガースなどで活躍し、昨年のシーズンオフにロッテを最後に引退した野球選手です。私は2016年3月に前著の『キャプテンシー』(角川新書)を読んでこのブログに読書感想文をポストしています。ということで、阪神からロッテに移籍した際の経緯から始まって、プロ野球の世界での活動を振り返り、さらに、家庭や個人的な活動についても触れています。私がもっとも印象に残っているのは、ほかの多くの野球ファンと同じで、WBC台湾戦の9回の「鳥谷の二盗」でしょう。今でも、動画サイトのどこかに残っているような気がします。阪神の遊撃手としては、牛若丸と称された吉田義男が有名なのですが、私とは世代が違って、阪神のショートといえば鳥谷敬でした。しかし、私個人としては、阪神の選手としてもっとも好きだったのは、何といっても、江夏豊です。次は、掛布雅之ですかね。本書に戻って、鳥谷敬の場合はメジャーとの契約がものにならず、結局、阪神に残留する歳の契約もおかしなものになって、高学年俸のために阪神でのプレーを継続することが出来なくなったという悲劇があります。そのあたりは、さすがに露骨には取り上げられていませんが、行間を読むに忍びないものがあります。監督をはじめとする首脳陣や球団フロントに対しては、阪神タイガースとはゴタゴタのある球団ですから、私は鳥谷敬に同情的です。プロ野球選手であるからには、試合に出られなければ評価されないという、鳥谷哲学のような言葉が何回か繰り返されています。私はまったく違う世界に住んでいるのですが、阪神ファンとして深く理解を示したいと思います。

photo

次に、高瀬準子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)です。著者は、本作品で第167回芥川賞を受賞しています。私の勤務大学の文学部のご出身なもので、生協で買い求めようとしたのですが、ずっと売切れ状態が続いていて、カミさんに近くの本屋で買ってもらいました。私に続いて、カミさんも本書を読んでいるのではないかと思います。京都ジャンクション(JCT)という文芸グループのご出身らしいのですが、我が母校の京都大学ミス研より少し知名度が落ちるかもしれません。まあ、知っているのは本学関係者くらいのような気がします。本書は150ページほどで短編でも長編でもなく、まあ、中編といったところです。小説の舞台は東京近郊の大手企業の支店であり、冒頭で支店長が社員を連れてランチに出かけるなど、タイトルから容易に想像される通り、ものを食べるシーンがいっぱいあります。ストーリーは主人公の男女2人の視点で進められます。職場でソツなく働きながらも食には大きなこだわりなくカップ麺を常食している男性の二谷、そして、その2期後輩で仕事への熱意も能力も十分な女性の押尾の2人に加えて、この2人の中間、すなわち、二谷の1期後輩で押尾の1期先輩の芦川という女性がジョーカーの役割を果たし、支店次長の藤とパートの女性を合わせて主要な登場人物は5人です。二谷のマンションに週末いりびたっていた芦川が、結構な頻度でお菓子を作って職場で配り始めるところから、ビミョーな雰囲気が出て物語が本格的に始まります。日本のサラリーマンらしく、職場での同調圧力が強い中で、二谷と押尾がホンネを隠しつつこのお菓子の配布にアクションを起こします。お仕事のお話はあまり出てこないのですが、もちろん、仕事からもストレスあるでしょうし、仕事以外でも職場でのいわゆる人間関係などからストレスが大いに感じられます。そして、そのストレスからやや切ない行動に走る主人公2人、なわけです。特に、二谷の行動については嫌悪感を示す読者がいそうな一方で、私と同じく深く理解する読者もいそうな気がします。

photo

次に、川上未映子『春のこわいもの』(新潮社)です。著者は、私がもっとも期待する純文学作家の1人であり、当然に芥川賞受賞作家です。本作品は長さがまったく異なる短編6作品を収録しています。タイトルだけを羅列すると、「青かける青」、「あなたの鼻がもう少し高ければ」、「花瓶」、「淋しくなったら電話をかけて」、「ブルー。インク」、「娘について」となります。私が読んだ限りでは、ongoingで継続しているものの、2020年春から始まった新型コロナウィルス感染症(COVI D-19)のパンデミックが春のこわいもの、という気がします。そして、そのパンデミックとともに東京から関西に引越した我が身としては、東京を思い起こさせる作品が「あなたの鼻がもう少し高ければ」と「娘について」です。「あなたの鼻がもう少し高ければ」はクレオパトラに関するパスカルの名言 "Le nez de Cléopâtre: s'il eût été plus court, toute la face de la terre aurait été changée." を基にしていますが、ありふれた容貌の女性が東京ではレストランのウェイトレスにも凄い美人がいる点を強調しますし、「娘について」は東京で共同生活を送っていた高校の同級生2人が主たる登場人物で、高卒で母子家庭に育った主人公が作家になった一方で、地方の素封家の家で育った友人が舞台女優になれずに帰郷する、というストーリーです。主人公の女性が友人の母親と交わす電話での会話が印象的です。この作品が最も長くて、それなりの力作だと思いますが、私は本書の中ではもっともいい出来だと考えているのは、実に淡々と筆を進めている「淋しくなったら電話をかけて」だったりします。周囲の状況を観察しつつ、あるいは、評価しつつ、「あなたは」という書き方で読者に対して語りかけています。この作品だけでなく、ほかの短編でもSNSがしきりと登場しますが、この「淋しくなったら電話をかけて」ではタイトルになっていたりします。ラストの唐突感が何ともいえずに印象的です。

photo

最後に、松岡圭祐『ミッキーマウスの憂鬱ふたたび』(新潮文庫)です。著者は、私も好きなエンタメ作家で、「万能鑑定士Q」のシリーズなんかも読んだことがあります。本書のタイトルにあるように「ふたたび」ですので、「ふたたび」なしの前編が十数年前に出版されています。私も読んでいます。本書もディズニー・リゾート、というか、ディズニー・シーの方ではなくディズニー・ランドの方ですが、社員と準社員=アルバイト、さらに、準社員の中での「カースト」的なランクなどにも配慮して、そうでありながらも、夢を追うストーリーに仕上がっています。「ふたたび」なしの前編で主人公であった後藤少年が社員としてご夫人とともに登場して、両作品のつながりも示されています。前作ではミッキー・マウスのスーツが紛失し発見され回収されるところがクライマックスだったのですが、本作では高校を卒業したばかりの19歳の少女が主人公となります。ディズニー・ランドに準社員=アルバイトとして採用されるも、カストーディアルキャスト=掃除スタッフとして働きつつ、アンバサダーを目指す、という前作と同様の青春小説です。最後は『車輪の下』ほどではないにしても夢がかなわない終わり方をするのですが、前作と比較して、主人公のキャラの造形が弱い気がします。主人公の他には、シニアスタッフの年配男性とディズニー・ランド内のカラスの駆除に猟友会が関係しているとの陰謀論を追求する男性の同僚の2人が主たる登場人物なのですが、この2人のキャラがそれなりに強烈なだけに、逆に、主人公のキャラが弱い気がします。前作と同じで、ディズニー・リゾートのバックステージは謎に包まれていて、どこまでが取材した事実に基づくのか、それとも、完全にフィクションなのか、私には何とも判断がつきかねますが、それなりに納得する部分も少なくありません。そのあたりも読ませどころかもしれません。

|

« 米国雇用統計に見る雇用拡大はどこまで続くのか? | トップページ | 打撃戦を制して逆転で広島にもカード勝ち越し!!! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 米国雇用統計に見る雇用拡大はどこまで続くのか? | トップページ | 打撃戦を制して逆転で広島にもカード勝ち越し!!! »