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2022年9月24日 (土)

今週の読書は経済所や歴史書をはじめとして計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、経済書、歴史書、教養書と新書の計4冊です。ややボリュームのある本が多かった気がします。ただし、いわゆるシルバー・ウィークでお休みが多かったので、新刊書読書だけでなく文庫本も何冊か読んでいて、葉室麟「いのちなりけり」のシリーズ、すなわち、『いのちなりけり』、『花や散るらん』、『影ぞ恋しき』上下を再読していたりします。
なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~8月で45冊、先週までの9月で16冊、今週が5冊ですので、今年に入ってから172冊となりました。

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まず、河野龍太郎『成長の臨界』(慶應義塾大学出版会)です。著者は、BNPパリバ証券のチーフエコノミストです。とても包括的に金融と経済について論じています。出版社から受ける印象ほど学術書ではありません。一般のビジネスパーソンでも十分読みこなせると思います。著者は、日銀の異次元緩和をはじめとする金融緩和の継続に疑問を呈したり、あるいは、財政では赤字財政を批判して財政再建を目指すべき議論を提起したりと、アベノミクスにはかなり批判的な意見を持っていたエコノミストであり、本書でも同様の議論が展開されています。特に、星・カシャップのラインに沿って、緩和的な金融制作や財政政策が日本のように長期にわたって継続されると、というか、正確には完全雇用を超えて緩和策が継続されると、本来は市場から淘汰されるべき企業がゾンビのように生き残ってしまったり、あるいは、企業単位でなくても本来は採算性の高くない設備投資が実行されたりして、逆に、生産性に悪影響を及ぼして不況が長引く可能性を指摘しています。ですから、日本経済の現状を人で手不足で完全雇用を達成している状態と考えていて、この状態ではむしろ構造政策により生産性を引き上げるべき、との見方が示されています。完全雇用なのに賃金が上がらない理由についてはやや根拠薄弱です。また、利子所得のために金利引上げなども志向しています。私も判らなくもないのですが、明らかにバックグラウンドとなるモデルに混乱を生じている気がします。例えば、自然利子率と潜在成長率の議論が少し判りにくかったりします。加えて、というか、何というか、政策提言がややアサッテの方向になってしまっています。すなわち、3年ごとに社会保障負担を減らすのと同時に消費税を+0.5%ポイントずつ引き上げる、というのが目を引く政策となっています。ゾンビ仮説に立つのであれば金利引上げも選択肢になりそうな気がするのですが、さすがに、日本経済の現状を考慮すれば現実的ではない、ということなのでしょう。そして、経済が停滞しているのは企業の成長期待が低いからであり、企業の成長期待が低いのは消費が伸び悩んでいるからであり、と、ここまでは私も著者に賛成します。そして、何人かの論者は、消費が伸び悩んでいるのは年金が少ないために老後に備えて貯蓄に励んでいるためである、という議論がある一方で、さすがに、著者はこの年金増額論は却下、というか、触れてもいません。私は消費が伸び悩んでいるひとつの要因は非正規雇用という不安定かつ低賃金な雇用にあると考えています。そして、この論点も著者は無視しているように見えます。いずれにせよ、経済に関する流行の議論が網羅されている一方で、日本経済のバックグラウンドにある構造、あるいは、モデルについての理解が少し私と違うと感じました。

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次に、アダム・トゥーズ『世界はコロナとどう闘ったのか?』(東洋経済)です。著者は、ロンドン生まれで、現在は米国のコロンビア大学の歴史学の研究者です。英語の原題は Shutdown であり、2021年の出版です。出版年からも理解できるように、それほど新しい情報が盛り込まれているわけではなく、むしろ、2020年のパンデミック当初の時期に、ワクチンはなく、特効薬もない段階で、隔離を含むソーシャル・ディスタンスを取るしか感染拡大防止の決め手がない段階で、外出禁止といったロックダウンだったり、対人接触の多いセクターごとシャットダウンしたりといった措置と経済活動との間のトレードオフについて、歴史研究者らしくたんねんにコロナ危機に見舞われた世界を経済の面に焦点を当てつつ俯瞰しています。その差異、どうしても国別とか、地域別の記述になっていて、トランプ政権下の米国、さまざまなアプローチを取った欧州、そして、何よりもパンデミックの発祥の地となった中国、加えて、インドやロシアなども加えられています。米国では、何といっても、科学的な見方に対して根拠なく独自路線を取るトランプ政権に対応が危機を拡大させていたと考えるべきです。欧州についてはスウェーデンのように社会的な集団免疫の獲得を目指しつつも、結局、通常対応にせざるを得なかった例もあれば、イタリアのように感染拡大に歯止めが効かなかった国もあります。そして、何よりも、経済活動との関係が焦点とされています。本書では、コロナ危機における経済問題を供給面からのショックと捉えており、対人接触の多いセクターが本書のタイトル通りに「シャットダウン」されることによる経済停滞、と考えています。ですから、日本の例を上げると飲食店とかとなりますが、感染拡大を防止するためにシャットダウンされたセクターの産業としての活動が停止し、経済的な活動が停滞する、というのをどのように解決するか、の観点からの記述が多くなっています。逆に、米国やブラジルのように、感染拡大防止を軽視して経済活動を継続し、危機を深めた例もあったりするわけですから、トレードオフの関係にある感染拡大防止と経済活動の両立が、米国、欧州、中国をはじめとするアジアで、どのように進んだか、に着目されています。そして、アジアについては、中国にもっとも大きな紙幅が割かれており、次いでインド、韓国についても初期段階ではコロナ封じ込めに成功した例として取り上げられていますが、我が日本は経済規模ほど言及がありません。日本国内では日本は感染者も死者も世界的な標準からすれば少なく、何か、xファクターがあるのではないか、という議論を見かけましたが、世界的な視野ではほとんど注目されていなかった、という事実が明らかになった気がします。まあ、そうなのかしれません。

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次に、平野啓一郎『死刑について』(岩波書店)です。著者は、我が母校の京都大学在学中に『日蝕』で芥川賞を受賞した小説家です。本書は、弁護士会での講演録をもとに加筆修正されて単行本として出版されています。そして、著者の基本的な立場は死刑反対、というか、死刑廃止論です。もちろん、被害者感情から死刑存置論にも十分配慮しながら、死刑に反対し廃止する議論を展開しています。その論拠は基本的に3点あります。私なりの言葉で表現すれば、第1に、冤罪があり得るからです。人間が裁判で判断する限り、事実の誤任はあり得ます。第2に、犯罪の結果について自己責任だけを問うことにムリがある可能性です。すなわち、死刑になる犯罪は、少なくとも日本では殺人だけであり、殺人といった重大犯罪に至る経緯については、加害者の生育環境などの考慮すべき事情があり、こういった事情を含めて犯罪の結果をすべて自己責任として負わせることに対する疑問です。第3に、基本的人権との関係で、自然人を殺すということの是非です。著者の主張によれば、人間としての存在を否定されることは絶対的にあるべきではなく、「xxの犯罪を犯した場合」といった相対的な基準で人間存在を抹消されることは許容できない、ということです。私は、ほぼほぼ、この著者の見方に賛成であり、死刑は廃止されるべきであると考えています。ただ、経験はありませんし、あまり考えたくもないですが、もしも、私の身近で大切に考えている人が、殺人事件の被害者として殺された場合、すなわち、私が被害者の遺族となった場合、いかなる心情に達するか、という点では、この死刑反対論を変更しない、という万全の自信があるわけではありません。その点はビミョーなところです。そして、講演録という観点からはムリあるものの、巻末の資料として世界各国での死刑制度の導入につて取りまとめてあります。どうして、世界の多くの国では死刑制度がないのか、についても私は知りたい気がします。最後に、さらに外れた感想で、本書からは完全にスコープ外となりますが、人が死ぬ、ないし、殺されるケース、しかも大量に死者が出るケースとしては戦争があります。戦争については、死刑以上に、というか、死刑と比較するのが論外であるくらいに、絶対に反対と私は考えています。おそらく、死刑存置論者でも、戦争だけは反対、という人が多いのではないか、と私は考えています。日本国憲法第9条はこれを体現している、と考えるべきです。

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次に、ミチオ・カク『神の方程式』(NHK出版)です。著者は、米国の物理学研究者であり、統一理論の有力候補であるひも理論の専門家であるとともに、ポピュラー・サイエンス・ライターとしても何冊かの科学書を出版しています。英語の原題は The God Equation であり、2021年の出版です。ということで、タイトル通りに、物理学の統一理論を物理学史もひも解きながら一般向けに判りやすく解説しています。ただ、統一理論だけでなく、その基礎をなす系の対称性にも焦点が当てられています。西洋の古典古代であるギリシア・ローマから始まる物理学史ですが、もちろん、主としてニュートンの古典力学から始まり、マクスウェルの電磁気学、アインシュタインの相対性理論、さらに量子力学などなど、専門外の私でも名前を聞いたことがある理論が並びます。そして、それらを統一する理論の筆頭としてあげられているのが10次元のひも理論です。宇宙の始まりとされるビッグバン、素粒子やブラックホールとワームホール、あるいは、未だに正体不明なダークエネルギーやダークマター、さらには、宇宙の始まりのビッグバンと最後の姿はどうなるのか、などなど、興味は尽きませんが、ともかく難解です。本書でも前半部分はニュートンやアインシュタインなど、知っている名前が並んで理解が進みますが、おそらく、私だけではなく、量子力学あたりから難解さが増します。ここが経済学とは違うところです。経済や経済学の場合、通常のビジネスパーソンであれば、経済活動に常時接していますし、そうでなくても、お金を払って買い物をするのは小学生でも体験します。しかし、物理学については日常の生活では意識することはありません。ただ、それだけにこういった専門書や教養書で読書する意義はあります。最後に、本書で指摘されている重要ポイントのひとつは、物理学の発展と経済活動が密接に関係しているということです。ニュートン力学の完成とともに産業革命の基礎が築かれ、ファラデーとマクスウェルによって電気力と磁気力をの研究が進むと電気の革命が幕を開け、アインシュタインの相対性理論や量子力学の発展から現在進行中のパソコンをはじめとするコンピュータや通信技術の革新が始まった、などが示されていて、ひょっとしたら、本書でいうところの「神の方程式」によって統一理論が解明されれば、またまた経済活動も新たな段階に進むのかもしれません。

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最後に、週刊文春[編]『少女漫画家「家」の履歴書』(文春新書)です。『週刊文春』に「新・家の履歴書」という連載があるらしいのですが、2004年から2021年までに掲載された連載の中から、少女漫画の黄金期である1970年代までにデビューした漫画家の「家」に関する記事を取りまとめています。もちろん、タイトル通りに「家」の履歴書をメインにしつつも、幼いころからの半生を振り返り、家とともに執筆していた漫画を振り返る形になっています。収録されているのは12人であり、掲載順に、水野英子、青池保子、一条ゆかり、美内すずえ、庄司陽子、山岸凉子、木原敏江、有吉京子、くらもちふさこ、魔夜峰央、池野恋、いくえみ綾となっています。ついつ、敬称略にしてしまいましたが、私なんかからすれば、それぞれに「先生」をつけたくなるような大御所ばかりです。魔夜峰央先生を除いてすべて女性であり、それなりのご年配の方々です。スポットを当てている「家」については、漫画家になる前に家族と暮らしていた家の場合もありますし、漫画家として油が乗り切っていて名作をモノにしていた時期の家、あるいは、現在住んでいる家、といったいくつかのバリエーションがあり、一定していません。しかし、漫画家ですので、間取りや何やをイラストで間取り図として、とても判りやすく美しく示してくれていて、その当時の生活や作品執筆作業などについて想像力をかき立てられます。少女漫画家に限らず、漫画家の「家」で有名なのは、何といっても、手塚治虫先生をはじめとするキラ星のような漫画家が住んでいた「トキワ荘」でしょうが、少女漫画家に限定しても萩尾望都先生と竹宮惠子先生が暮らしていた「大泉サロン」も有名です。収録された12人の中では水野英子先生が「トキワ荘」に住んでいたことがあるそうで、「トキワ荘にいるだけで絵が月ごとに上達しました」ということだそうです。そうかもしれません。単なる住まいとしてだけではなく、漫画執筆の作業、集合住宅での同業漫画家との切磋琢磨、あるいは、アシスタントたちとの共同作業などについても、とてもいきいきと活写されています。私自身はそれほどではありませんが、少女漫画ファンには大いに訴えかけるものがありそうな気がします。

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