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2022年10月 1日 (土)

今週の読書は経済書や海外ミステリをはじめとして計6冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り経済書やミステリをはじめとして計6冊です。
来週から本格的に大学の後期授業が始まりますので、これからは読書ペースがやや落ちるかもしれません。なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~9月で66冊、10月に入って今週が6冊ですので、今年に入ってから178冊となりました。10月中か、11月早々には200冊に達することと思います。

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まず、前田裕之『経済学の壁』(白水社)です。著者は、日経新聞のジャーナリストを長く務めています。本書では、第Ⅰ章で大学などのアカデミズムにいる経済学者と官庁や民間シンクタンクなどのエコノミストを比較するという、ハッキリいって、無意味な議論を展開した後、第Ⅱ章で経済学について、これまた、それほど意味があるとも思えない自説を持ち出しています。まあ、こういった思い込みの部分を書きたいのも本書を執筆する動機としてあったのかもしれません。そして、第Ⅲ章から経済学の各流派についての概観が始まります。経済学には経済史と経済学史という学問分野があり、本書は経済学史のような体系的な解説ではありませんし、もちろん、大学での講義の教科書として使えるハズもないのですが、いろんな経済学の流派について、ミクロ経済学とマクロ経済学に分けて並べています。私でも明確に認識していない学派についても詳細に特徴つけていて、その意味では、なかなかに参考にはなります。主流派に属するニュー・ケインジアンと異端とみなされるポストケインジアンなんて、一般には理解されにくい部分もそれなりにキチンと解説がなされています。その意味では、決して学術書ではありませんが、経済学の主流派とそれ以外の学派を概観するのには役立ちそうです。ただ、惜しむらくは、世間一般で注目を集め始めている現代貨幣理論(MMT)が抜け落ちています。理由はよく判りません。最後に、数年前に話題になったところで、ノーベル賞経済学者のカーネマン教授が『ファスト & スロー』を出版した際の目的として、オフィスでの井戸端会議での会話の話題提供を上げていた気がするのですが、本書も同様に、オフィスでの井戸端会議や飲み会の際に経済学の知識をペダンティックに示すためにはとても有益な役割を果たすと思います。

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次に、日本経済研究センター[編]『使える!経済学』(日本経済新聞出版)です。編者、というか、おそらく、日本経済研究センター(JCER)のスタッフがインタビューするか、講演会に招くいた際のお話を取りまとめていて、主として、マイクロな経済学をビジネスに活用している例が収録されています。一部に慶應義塾大学の例がありますが、ほとんどが東京大学です。そうなのかもしれません。因果推論や構造推計、あるいは、マーケット・デザインを基にしつつ、ダイナミック・プライシング、オークション理論、マッチング理論、などなどの経済学がビジネスにどのように応用されているかの実例がよく判ります。繰り返しになりますが、かなりマイクロな経済学の応用がほとんどで、マクロエコノミストの私に理解が難しい最新分野なのですが、それなりに、経済学の応用について理解が深まった気がします。ただし、こういった経済学を活かしたエコノミストのコンサルティング活動について、2点だけアサッテの方向から指摘しておくと、第1に、行動経済学も含めて、こういった分野の経済学は、厳密な再現性を求める科学としての経済学ではなく、ビジネスに応用されることは、ある意味で、本来の目的であり、とても相性がいいと私は考えています。第2に、こういったコンサルティング活動は、基本的に、コンサルタントを雇える大企業に有利な結果をもたらす、という点です。典型的にはダイナミック・プライシングとかで、消費者余剰をすべて企業のものにすることを目指す場合があったりします。もちろん、マッチング理論などはいろんな意味で有益ですし、経済学が保育園の待機児童の解消に応用されている例もあったりするのですが、基本、コンサルタントを雇える大企業にコンサルティング活動は向かいます。ですから、コンサルタントを雇えない消費者にも利益になるような経済学のビジネスへの活かし方も考慮されるともっといいんではないか、と私は考えています。

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次に、ジェフリー・ディーヴァー『ファイナル・ツイスト』(講談社)です。著者は、セカイでももっともうrているミステリ作家の1人ではないかと思います。私もこの作者の作品のファンで、リンカーン・ライムのシリーズ、キャサリン・ダンスのシリーズなどの作品はほぼほぼすべて読んでいます。本書は、新しく始まったコルター・ショウのシリーズであり、『ネヴァー・ゲーム』、『魔の山』に続く第3巻です。邦訳の出版前は、このシリーズはこの第3回で終了、とウワサされていたのですが、どうも、シリーズ第1期の終了、ということらしいです。ということで、本書では、ショウの父親の死の謎に迫ります。1906年のカリフォルニア州法に関する文書、コードネーム「エンドゲーム・サンクション」をショウとともに、ショウの父をしに至らしめた民間諜報会社「ブラックブリッジ」が追います。この文書の桁外れの内容が明らかにされるとともに、この文書に絡んだトリックも、作者のディーヴァーらしいツイスト=どんでん返しで明らかにされます。このショウのシリーズは、ディーヴァーらしいどんでん返しの要素が少なく、特に、前作の『魔の山』にはほとんどなかったのですが、本書では、「アッ」とびっくりのどんでん返しが用意されています。私も読み終えて、「何だ、そうだったのか」と独り言をいってしまいました。このシリーズの先行きは、私はよく知りませんが、この作者のファンであれば本書は必読といえます。

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次に、佐藤千矢子『オッサンの壁』(講談社現代新書)と小島慶子『おっさん社会が生きづらい』(PHP新書)です。著者は、毎日新聞のジャーナリストとTBSアナウンサーからエッセイストやタレントになった女性です。ということで、本日10月1日付けの「朝日新聞」朝刊から天声人語に女性執筆者が初めて加わった、とありました。メディアのコラムでも男性の執筆陣で運営されていたことが明らかなわけです。私なんかはまごうことなくオッサンなわけです。ですから、これらの女性が感じるオッサン社会の生きづらさなんかは、ほとんど感じたことはないどころか、逆に、生きづらさを増幅させているところがあるんではないか、と反省しています。日本のビジネス社会では、おそらく、1990年のバブル崩壊くらいまで男性社会であり、しかも、年功序列が色濃く残っていましたから、年配男性=オッサンの天下だったわけです。女性は明示的に差別され、中年男性=オッサンを中核労働者としてメンバーシップ的に正規職員として雇用され、企業に無限定に奉仕させて働かせつつ、家庭は専業主婦がやりくりする、という世界だったわけです。ここで「家庭」には家事は当然、育児、場合によっては老親の介護まで含まれます。そして、子育てが一定ラクになった段階で、主婦層がパートなどの形で、あるいは、学生がアルバイトとして非正規の縁辺労働者として労働市場に参入するわけです。年功序列は当然のように年功賃金に基づいており、子育て期に年功賃金が支給されることから学校教育の費用については、中央・地方の政府ではなく家庭が学費を負担する、というシステムが出来上がっているわけです。ですから、現在の非正規雇用のように年功賃金でなくなってフラットな賃金プロファイルがドミナントなシステムに移行すれば、教育費は中央・地方の政府が負担すべきです。やや脱線しましたが、オッサン社会の弊害は、単に、女性進出やダイバーシティの推進を阻害しているだけでなく、あらゆるところで見られる気がします。

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最後に、万城目学『べらぼうくん』(文春文庫)です。著者は、私の母校である京都大学出身の小説家です。私自身も著者のデビュー作である『鴨川ホルモー』から始まって、最新作の『ヒトコブラクダ層ぜっと』まで、おおむね読破しているつもりです。独特の「万城目ワールド」といわれる世界観が私は好きだったりします。その小説家がご自分の半生を振り返るエッセイです。なぜか高校時代を終えた浪人時代から書き始めて、京都大学の学生だったころの海外旅行の経験、年齢的にバブル期ではなかったハズですが、海外旅行が通常生活に入り込んでいる世代だという気がします。そして、大学を卒業して就職して工場勤務となった後、離職して『バベル九朔』の作品そのままに、ビル管理人をしたりしています。というか、実体験が『バベル九朔』の作品として結実した、ということなのでしょう。なかなかに、興味ある作家の半生を知ることが出来るエッセイなのですが、最初に書いたように、私はこの作家の作品の世界観が好きなのですが、私の読解力がないせいなのか、このエッセイからは世界観の出どころのようなものは読み取ることができませんでした。私は三浦しをんなどは小説もエッセイもどちらも大好きなのですが、この万城目学の作品、というか、出版物としては、こういったノンフィクションのエッセイよりも、フィクションそのもの、というか、かなりファンタジーも入った小説の方が私は好きです。

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