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2022年11月30日 (水)

2か月連続の減産となった10月の鉱工業生産指数(IIP)の先行きやいかに?

本日、経済産業省から10月の鉱工業生産指数(IIP)が公表されています。ヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲2.6%の減産でした。9月統計に続いて、2か月連続の減産です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、10月2.6%低下 2カ月連続マイナス
経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は95.9となり、前月から2.6%下がった。低下は2カ月連続。中国・上海市でのロックダウン(都市封鎖)が6月に解除されて以降、部品などの供給制約の緩和で回復基調にあった反動が続く。
経産省は基調判断を「生産は緩やかな持ち直しの動き」から「生産は緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」に引き下げた。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は▲1.7%の減産という予想でしたが、実績の▲2.6%減はやや下振れた印象ですが、予想レンジの範囲内という意味では、サプライズではありませんでした。ただし、引用した記事にもある通り、2か月連続の減産ですので、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「緩やかな持ち直しの動き」から「緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」と、半ノッチ下方修正しています。中国の上海における6月からのロックダウン解除をはじめとする海外要因から、7~9月期は季節調整済みの系列の前期比で見て+5.8%の増産でしたので、9~10月の減産は反動の面もあるともいえます。もっとも、欧米先進国ではインフレ対応のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、この要因の方が大きいと私は考えています。例えば、、経済産業省の解説サイトでは「これまでの上昇の反動」に加えて「海外需要の減少等」と減産の要因を分析しています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の11月+3.3%、12月+2.4%と、それぞれ増産の動きが予想されています。産業別に10月統計を少し詳しく見ると、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は自動車工業であり、前月比5.6%の増産により鉱工業生産全体への寄与度は+0.74%に達しています。続いて、汎用・業務用機械工業の前月比+6.1%増、寄与度+0.47%、電気・情報通信機械工業の前月比+2.0%増、寄与度+0.16%となります。減産寄与が大きいのは生産用機械工業の前月比▲5.4%減、寄与度▲0.54%、電子部品・デバイス工業の前月比▲4.1%減、寄与度▲0.25%、化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)の前月比▲4.9%減、寄与度▲0.20%となっています。
鉱工業生産の先行きに関しては、米国の連邦準備制度理事会(FED)をはじめとして、欧米先進国ではインフレ抑制のためにいっせいに金融引締めを強化しており、景気後退まで考えられると私は見ています。この金融引締めに加えて、ウクライナ危機も相まって外需の動向が懸念されます。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大も冬を迎えて第8波に入ったとする向きもあり、政府の「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」の経済効果の大きさは直接のGDP押上げ効果が4.6%と試算されていますが、物価高騰の抑制が主眼だけに何とも評価が難しく、いずれにせよ、生産の先行きは不透明といわざるを得ません。

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2022年11月29日 (火)

8か月連続のプラスが続く商業販売統計と堅調な雇用統計をどう考えるか?

本日、経済産業省から商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも10月統計です。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+4.3%増の13兆820億円でした。季節調整済み指数では前月から+0.2%増を記録しています。また、雇用統計では、失業率は前月から横ばいの2.6%を記録し、有効求人倍率は前月を+0.01ポイント上回って1.35倍に達しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月の小売販売額4.3%増 8カ月連続プラス
経済産業省が29日発表した10月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比4.3%増の13兆820億円だった。8カ月連続で前年同月を上回った。外出機会の増加による売り上げの伸びや商品価格の引き上げが寄与した。
業態別でみると、スーパーは前年同月比2.8%増の1兆2599億円だった。2カ月連続で増加した。前年同月より土日祝日が1日多く、衣料品や行楽用品に改善の動きがみられた。飲食料品は値上げが販売金額を押し上げた。
百貨店は10.7%増の4721億円だった。気温の低下でコートなどが売れた。コンビニエンスストアは6.5%増の1兆577億円。2021年10月の増税の反動で、たばこの売り上げが伸びた。家電大型専門店は0.1%増の3516億円、ドラッグストアは6.0%増の6445億円、ホームセンターは1.9%増の2850億円だった。
小売業販売額の季節調整済みの指数は106.8で、前月比で0.2%の上昇だった。経産省は基調判断を「持ち直している」で据え置いた。
10月の求人倍率1.35倍、10カ月連続上昇 失業率は2.6%
厚生労働省が29日に発表した10月の有効求人倍率(季節調整値)は1.35倍で、前月に比べて0.01ポイント上昇した。10カ月連続で前月を上回った。持ち直しが続くものの、新型コロナウイルス禍前の水準には届いていない。総務省が同日発表した完全失業率は2.6%で、前月から横ばいだった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど職を得やすい状況となる。コロナ禍前の2020年1月は1.49倍だった。20年9月に1.04倍まで落ち込み、その後は上昇傾向にある。
景気の先行指標となる新規求人数は92万4946人で前月比1.4%増加し、新規求人倍率は2.33倍と前月比0.06ポイント上昇した。業種別では、政府の観光喚起策「全国旅行支援」や水際対策の緩和で観光需要の持ち直しを見込んだ宿泊や飲食サービスの伸びが大きかった。
完全失業率は20年8月から21年1月にかけて3%台に達することが多かったが、その後は2%台で推移している。10月の就業者数は6755万人で前年同月に比べて50万人増えた。3カ月連続の増加となった。正規の職員・従業員は3614万人と17万人増え、5カ月ぶりに増加。非正規は2116万人で34万人増えた。

やや長くなったものの、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移しました。上のグラフを見ても明らかな通り、季節調整していない原系列の前年同月比で見た増加率も、季節調整済み系列の前月比も、どちらも伸びを示しています。そして、季節調整済み指数の後方3か月移動平均で判断している経済産業省のリポートでは、10月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+1.0%増となり、基調判断を「持ち直している」で据え置いています。ここ3か月、すなわち、8~10月では前年同月比で+4%を超える増加率となっており、消費者物価指数(CPI)の上昇率がまだ、というか、何というか、+4%には達していませんから、小売業販売額と消費者物価指数のカバレッジが異なるとはいえ、消費は実質で増加していると考えてよさそうです。産業別では、特に、自動車小売業が前年同月比で+10.6%増となっています。前四半期の7~9月期に供給制約を脱して生産が回復したことが大きな要因であろうと私は受け止めています。また、医薬品・化粧品小売業も+10.5%と大きく伸びています。他方、先月の9月統計まで大きな増加を示していた燃料小売業が10月統計では+1.9%増にとどまっていて、やや不思議な気がします。価格はこれ以上に上昇していますから、おそらく、数量ベースでは減少という結果なのだろうと私は考えています。ということで、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。第2に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。ですから、足元での物価上昇の影響、さらに、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。特に、前者のインフレの影響については、10月の消費者物価指数(CPI)のヘッドライン前年同月比上昇率は+3.7%に達しており、名目の小売業販売額の+4.5%増は物価上昇を上回っているとはいえ、実質の小売業販売額はやや過大評価されている可能性は十分あると考えるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は商業販売統計のグラフと同じで景気後退期を示しています。そして、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月からやや低下して2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月からやや改善の1.35倍と見込まれていました。実績では、失業率は市場の事前コンセンサスから下振れし、有効求人倍率は市場予想と一致しました。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。ですので、休業者も10月統計では前年同月から+8万人増と、増加したものの微増にとどまりました。季節調整していない原系列の統計ながら、実数として7~8月ともに250万人を超えていた休業者が、9月には194万人、10月には174万人にまで減少していることも事実です。そういった中で、雇用の先行指標である新規求人を産業別に、パートタイムを含めて新規学卒者を除くベースの前年同月比伸び率で見ると、宿泊業・飲食サービス業(+29.3%増)、卸売業・小売業(+11.7%増)、生活関連サービス業・娯楽業(+10.1%増)が2ケタ増と伸びが大きく、明らかに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージの大きかった産業で新規求人が回復しているのが確認できます。入国規制が緩和されたインバウンドの回復も一因だろうと考えられます。

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2022年11月28日 (月)

インテージによる店頭販売価格の値上げに関する調査結果やいかに?

本日11月28日、ネット調査大手のインテージから全国約6,000店舗より収集している全国小売店パネル調査(SRI+)のデータを基に、食品・日用雑貨など主な消費財を対象として店頭販売価格の値上げについて調査した結果が明らかにされています。まず、インテージのサイトから調査結果のポイントを4点引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  • 大幅値上げの食用油のほか、マヨネーズ(126%)、マーガリン(117%)などの調味料も値上がり幅拡大
  • 主食のスパゲッティや小麦粉が約2割増、加工食品・嗜好品なども約1~2割の値上がり
  • 値上がり実感は食料品8割、飲料5割、飲食店4割と6月時点よりも強まる
  • 食費の節約では、「ポイントカード・クーポンの活用」が3割を超え人気、菓子や外食を減らすも2割

物価上昇、特に、エネルギーと食品価格の値上がりは国民生活を直撃しており、とても注目されているところです。図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、インテージのサイトから スーパーマーケットとドラッグストアでの食品と日用品の平均価格 のテーブルを引用すると上の通りです。2020年費で+10%以上値上がりした品目を赤いフォントで示してあります。食品ではキャノーラ油やサラダ油といった食用油のほか、マヨネーズ、レギュラーコーヒーなどが+20%を超えて
大幅に値上がりしています。また、日用品ではアルミホイルの値上がりが目立っています。私の直感ながら、例えば、レギュラーコーヒーとインスタントコーヒーの値上がり幅の違いなどを見るにつけ、加工度が高いほど生産過程でのコストアップの吸収が可能であるため、値上がりが抑えられている可能性があるような気もします。逆に、食料安平やアルミホイルは素材に近くて加工度がそれほど高くないため、コストアップを吸収できない可能性があるのではないか、と思ってしましまいます。でも、違っているかもしれません。すなわち、競争条件の違いとか、輸入比率の差とか、いろいろな要因があるのだろうとは想像します。

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続いて、インテージのサイトか値上がりを感じているもの のグラフを引用すると上の通りです。やっぱり、生活実感としても食料品とエネルギーが値上がりしていことは明らかです。私の実感としては、最近、ワインの値上げが大きくなっている気がします。また、テーブルは引用しませんが、食費節約の取組みとしては、「ポイントカードなどを活用」(41%)、「クーポンを活用」(34%)、「チラシなどを参考に特売品を購入」(33%)といったところが上げられています。食料品ですから「買わない」というわけにもいかないんだろうと思います。また、なぜか、インテージの調査ではエネルギー値上げに対する取組みがないのですが、やや気にかかるところです。今週の The Economist の特集はエネルギーの供給不安や価格高騰に対する Frozen out ということで、欧州が凍りついたイメージが表紙になっています。一般に、日本は欧州ほど高緯度ではないという見方はありえますが、これから本格化する冬の時期には日本でも暖房需要のためにエネルギーは必要不可欠です。移動に用いる自動車のためのガソリン需要だけではなく、暖房のためのエネルギー節約はどこまで可能なのか、私はとても不安です。

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2022年11月27日 (日)

興味の対象やいかに?

私の授業を受講している経済学部生の中に、GDP統計や消費者物価指数(CPI)統計なんぞにはまったく関心を示されない学生がいます。
はい、私もサッカーのワールドカップにはほぼほぼ無関心です。まあ、ニュースくらいは見ますが、まあ、それだけです。

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2022年11月26日 (土)

今週の読書は国際交渉でのケインズの活躍を収録した経済書ほか計5冊

今週の読書感想文は以下の通り計5冊です。
まず、平井俊顕『ヴェルサイユ体制 対 ケインズ』(上智大学出版)は、欧州諸国を相手に回して、戦間期においてケインズ卿がワンマンIMFの働きを見せる姿が活写されています。道尾秀介『いけない II』(文藝春秋)では、第1作の蝦蟇暮倉市から箕氷市に舞台を替えて、不気味な出来事が連作短編の形で4話収録されています。重田園江『ホモ・エコノミクス』(ちくま新書)では、経済学で前提される合理的な個人について政治社会思想史の観点から跡づけています。渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書)では、物価に関する我が国第1人者のエコノミストが、日本の慢性デフレと急性インフレについて分析を試みています。最後に、ピーター・スワンソン『アリスが語らないことは』(創元推理文庫)では米国東海岸を舞台に殺人事件の謎解きがなされます。最後に、読み通したわけではなく、辞書的に座右においてあるだけで、読書感想文の5冊の外数ですが、ジョン・モーリー『アカデミック・フレーズバンク』(講談社)を買い求めて活用に励んでいます。
ということで、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~9月に66冊と少しペースアップし、10月には25冊、11月に入って先週までで13冊で今週は5冊ですので、今年に入ってから215冊となりました。

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まず、平井俊顕『ヴェルサイユ体制 対 ケインズ』(上智大学出版)です。著者は、上智大学名誉教授であり、ケインズ学会会長ですから、我が国のケインズ研究の大御所といえます。そして、特筆すべきはタイトルであり、まさに、ヴェルサイユ体制にたった1人で孤軍奮闘して立ち向かったケインズ卿の姿が分析対象となっています。もちろん、若き日のケインズから始まって、ケンブリッジでの生まれ育ちやブルームズベリー・グループにも言及されていますが、「平和の経済的帰結」からのあまりにも有名なケインズ卿の慧眼に焦点が当てられています。本書の図コープとしては、対ヴェルサイユ体制であって、第2次世界対戦の後処理である世銀・IMFの創設までは含まれていませんが、ヴェルサイユ体制を相手に回してのケインズ卿の1人国際機関としての活躍が余すところなく活写されています。そうです。まさに、ケインズ卿1人で国際機関の役割を果たしていたといえます。私は劇画の「ゴルゴ13」が好きで、まさに、ゴルゴ13がワンマンアーミーとして20-30人の軍を相手に立ち回るシーンを何回か見てきましたが、本書でのケインズ卿は、現時点での国際機関になぞらえれば「ワンマンIMF」であり、国際金融制度を1人で背負って立っています。対独報復的なフランスの過剰な賠償要求に対して、キチンとした経済計算に基づいて反論し、債務返済の現代流にいえばヘアカットの必要性につき分析しているのがケインズ卿です。歴史がその正しさを立証していて、ヴェルサイユ体制がナチスにつながったのは明らかといえます。しかも、私も経済学者=エコノミストの端くれとして驚愕するのは、戦間期にこういった国際金融制度の中で大きな役割を果たすと同時に、『雇用、利子及び貨幣の一般理論』によりマクロ経済学を確立し、米国のニューディール政策の理論的基礎を打ち立てている点です。私なんぞは、キャリアの国家公務員として経済政策策定の最前線に60歳の定年までいながら、政策策定の実務上も、もちろん、理論展開上も、何らの目立った貢献も出来ませでしたが、まるでモノが違います。国際金融交渉の場におけるワンマンIMFとしての活躍、さらに、マクロ経済学樹立のアカデミックな活躍に加えて、おそらく、ケインズ卿は母国である英国に何らかの有利な方向性も模索していたのだろうと私は想像しています。ただ、そういった英国の国益追求という面は、本書では強調されていません。最後に、出来うべくんば、平井先生に本書の続編を書いていただき、第2次世界対戦の戦後処理のうち、世銀・IMFの創設、特に有名な英国のケインズ案と米国のホワイト案の議論なども取り上げていただきたい、と切に願っております。

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次に、道尾秀介『いけない II』(文藝春秋)です。著者は、中堅どころのミステリ作家であり、やや暗い作風ながら、私の好きな作家の1人です。本書の前編の位置づけであろう『いけない』は海岸沿いの蝦蟇倉市から、本作品では箕氷市に舞台を移します。海は出てこずに山が舞台となる作品がいくつか収録されています。牡丹農家も多いようです。4編の短編を収録しています。第1話「明神の滝に祈ってはいけない」では、1年前に忽然と姿を消した姉のSNS裏アカを発見した妹が、姉が最後に訪れたとみられる明神の滝に向かい、同じように失踪してしまいます。その明神の滝には願い事をかなえてくれる代わりに、大事なものを失うという言い伝えがあったりします。第2話「首なし男を助けてはいけない」では、小学5年生の少年が主人公となり、引きこもりで首吊り人形を作り続けている伯父さんに、ちょっとエバッた同級生に肝試しでいたずらを仕かける人形の工作の相談に行くところから始まります。収録された4編の小説の中では、ストーリーとしては一番怖い気がします。第3話「その映像を調べてはいけない」では、家庭内暴力を振るう子供を殺したと老夫婦が警察に自首するところから始まります。しかし、この第3話の中心は、いかにも怪しい老夫婦の自主内容ながら、その怪しさは次の第4話で謎解きされます。第4話「祈りの声を繋いではいけない」では、第3話の謎解きを中心に、それまでのすべての謎が明らかにされます。ストーリー、というか、小説で語られる事実としては、第2話が一番怖い気がしますが、第1話とこの最終第4話は、ともに、子供を失った、あるいは、亡くした両親の心理描写がとても狂気にあふれるとまではいいませんが、かなり不気味で、このあたりに道尾秀介のミステリ作家としての本来的な能力を感じます。そして、各短編が終了した最後のページに写真が示されています。第3話の写真なんか、ネットでの謎解きを見るまで、感性も頭の回転も鈍い私には理解が進まなかったのですが、第2話の最後の写真は、すぐに理解できました。とても不気味な事実を示唆しています。合わせて、感じるものがある、あるいは、怖がることができたりすれば、さらに本書の、あるいは、道尾作品の読書の楽しみが増えそうな気がします。

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次に、重田園江『ホモ・エコノミクス』(ちくま新書)です。著者は、明治大学の研究者であり、専門は現代思想・政治思想史のようで、フーコー研究者です。ですから、本書の副題は『「利己的人間」の思想史』とされており、経済学的な合理性や限定合理性とか経済哲学的な観点は希薄になっていて、歴史的に経済学がホモ・エコノミクスを前提にする前から、政治社会的な部分も含めての思想史をひも解いています。ですから、逆に、一般ビジネスパーソンには読みやすくなっている気もします。3部構成であり、第1部は富と徳に焦点を当てて、この両者が必ずしも両立せず、古代・中世などの前近代においては、決して「金儲け」が徳ある行為とみなされずに、やや蔑まれていた事実を指摘しています。第2部ではホモ・エコノミクスの経済学を取り上げて、スミスらの古典派経済学から現在までの主流派経済学の中核をなしている新古典派的な限界革命を経て、経済活動だけではなくホモ・エコノミクスが広範な領域に進出し、自己利益の追求が「背徳」的な行為ではなくなって、普遍的な価値観として受け入れられる時代を概観します。そして、最終の第3部ではホモ・エコノミクスの席捲として、シカゴ学派のベッカー教授の経済学帝国主義的な視点などを取り上げています。私の方から、2点だけ指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、本書冒頭で取り上げている公正世界仮説が心理学の学問領域でどこまで認識されているかについて、私は不勉強にしてよく知りませんが、ほかの学問領域は別としても、少なくとも、経済学においてはホモ・エコノミクスを経済モデルの前提にするのは第1次アプローチ=接近としては、十分に合理的であろう、と私は考えています。このホモ・エコノミクスのモデルから、現実に合わせる形でモデルの修正がなされればいいわけです。ただ、従来から指摘している通り、経済学の未熟な点として、モデルを現実に合わせるのではなく、現実の方をモデルに合わせてしまうという欠点は忘れるべきではありません。ですから、ホモ・エコノミクスの合理性のうち、何らかの前提を緩めるという作業が必要なわけです。合理性で前提される完備性、推移性、独立性のうち、ツベルスキー-カーネマンのプロスペクト理論では独立性の前提を緩めているわけですし、そもそも、個人レベルではなく社会レベルではアローの不可能性定理により推移律が成り立たない点は証明されています。限定合理性を含めたモデル化も進んでいます。第2に、ホモ・エコノミクスとは、本書でも指摘しているように、私利私欲を基にした強欲な個人的利益追求主体であるというわけではなく、何らかの効用関数に則って合理的に行動する経済主体と考えるべきです。ですから、「強欲」とかのネガなイメージは効用関数に含まれる説明変数とその偏微係数の大きさによります。かなり説明を端折りますが、結論として、現在、「行動経済学」としてもてはやされているインセンティブによる個人の選択行動へのパターナリスティックな「介入」には、私は大きな疑問を持っています。場合によっては、そういったインセンティブによるナッジなんてものに影響をまったく受けないホモ・エコノミクスの方が、まあ、強くいえば、私には好ましい存在にすら見える場合があります。ひょっとしたら、暗黙裡にそういうホモ・エコノミクスを私自身は目指しているのかもしれません。

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次に、渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書)です。著者は、日銀ご出身の東京大学の研究者であり、物価の研究に関しては我が国の第1人者と見なされています。本書では、現在の世界的なインフレは、従来型の需要の超過によるディマンドプルのインフレではなく、供給サイドに起因するインフレであると結論つけています。そんなことは判りきっていえるというエコノミストも多いかと思いますが、単純にコストプッシュだと分析しているのではなく、供給が不足もしくはミスマッチしており、その背景には新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックに起因する消費者や労働者や企業の行動変容があると指摘しています。すなわち、サービス経済化の逆回転が生じて、旅行や外食やといったサービス需要から、巣ごもり需要のモノに消費者の支出がシフトし、労働者は密な職場に帰りたがらず、在宅勤務できる職種に転職したり、あるいは、縁辺労働者は非労働力化したりし、最後に、企業活動ではグローバル化の逆回転が生じ始めている、といったところです。その上で、世界インフレから日本国内の経済とインフレに目を転じて、日本では慢性デフレと急性インフレが共存していると指摘しています。そして、かつての物価上昇期における賃金-物価のスパイラル、すなわち、企業が製品価格引上げ⇒生計費上昇分の賃上げ要求⇒賃金引上げ⇒コストアップ分の価格転嫁⇒製品価格引上げ、のサイクルが、現在の日本ではまったく同じメカニズムにより製品価格と賃金がともに上昇率ゼロで「凍結」されている、と指摘しています。そして、この「凍結」を賃金を起点に「賃金解凍」する条件として3点上げています。第1にインフレ期待の醸成、第2に賃上げ部分が価格転嫁できるという期待の醸成、そして、第3に労働需給の逼迫、となります。細かい論旨は本書を読むしかありませんが、とても注目すべき分析です。もっとも、私が感銘したのは、世界のインフレと日本国内の「慢性デフレに「急性インフレ」を切り分けて分析を進めている点です。世界が利上げしているのだから円安が進み、円安抑制のために日本も利上げすべき、といった乱暴は議論とは大きく異なります。ただ、金融政策の役割に関して疑問点があり、2点だけ上げておきたいと思います。第1に、現在の世界的なインフレをほぼほぼ実物の需給だけで理解しようと試みていますので、金融政策のインフレに果たした役割がスッポリと抜け落ちています。現在のインフレは大きく緩和されていた2022年初頭までの金融政策が、フリードマン教授のようにすべての原因、とまで私は考えませんが、ひとつの無視できない要因だと考えています。すなわち、あくまで一般論ながら、金融緩和の下で大きく増加した通貨供給は中央銀行の準備預金として「ブタ積み」される部分もありますが、一定の購買力となってフローの財・サービスとストックの資産に向かいます。前者の財・サービスに向かえばインフレとなりますし、後者の資産に向かえば、すぐではないとしても、行き過ぎればバブルになります。そして、今回の世界インフレの元凶であるエネルギー価格の高騰は、おそらく、ドル通貨の過剰供給が資産としての石油に向かったのが一因です。金とか、その昔のゴルフ会員権とか、有名画家の絵画、などであれば実物経済への影響はそれほど大きくありませんが、石油価格は実物経済への影響はかなり大きいと考えるべきです。ですから、商品市況で金などの貴金属、あるいは、非鉄金属や穀物といった商品=コモディティという資産として石油が価格高騰し、その資産価格の高騰がフローの財・サービスに影響を及ぼしている可能性を忘れるべきではありません。ですから、米国の金融引締めによってドル供給が縮小すれば石油価格は落ち着きを取り戻すと考えられます。おそらく数四半期、すなわち、1年から、早ければ来年半ばにも事実として観察されるものと私は考えています。第2に、金融政策は需要のみの管理にとどまる政策ではありません。このあたりは、中央銀行と政府の政策のタイムスパンの考え方の違いで、すなわち、私の理解によれば、中央銀行では景気循環の1循環、すなわち、数年をタイムスパンとして金融政策を考えているのに対して、政府では、極端な例としては「教育は国家100年の計」なんてのがありますが、もっと長いスパンで政策を考えます。景気循環1循環では、確かに、金融政策は供給サイドに大きな影響を及ぼすことは難しそうですが、もっと長いタイムスパンで考えれば、利子率が設備投資に影響し生産や供給に何らかのインパクトを持つことは明らかです。まあ、第2の点は大したことではないかもしれませんが、第1の点の緩和的な金融政策が現在の世界インフレをもたらしたひとつの要因であるという事実を本書ではほぼほぼ無視しており、私の目にはこの点がとても奇異に感じます。ですから、現在の米国における金融引締めは、単に米国の国内需要を下押しするだけでなく、資産価格としての石油の価格を引き下げる効果も十分持っていますし、この米国の金融引締めに日本はフリーライドして、棚ぼたの利益を受ける可能性がある、と私は期待していたりします。

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最後に、ピーター・スワンソン『アリスが語らないことは』(創元推理文庫)です。著者は、米国のミステリ作家であり、私はこの作者の『そしてミランダを殺す』も読んでいます。実は、この作者の作品としては、本書と『そしてミランダを殺す』の間に『ケイトが恐れるすべて』という作品があるのですが、これは未読です。英語の原題は All the Beautiful Lies であり、ハードカバーもペーパーバックもともに2018年の出版です。まあ、この英語の原題と邦訳のタイトルを考え合わせると、いかにも、アリス=主人公の継母が嘘をつきまくっている、あるいは、重要な事実を隠しているのだろうという想像ができてしまいますが、ここまでは読まなくてもタイトルだけから感じ取れる範囲ですので、何らネタバレではなくOKと考えます。2部構成となっていて、第2部に入るとガラッと景色が変わり、謎の解明が大きく進展します。ということで、主人公は稀覯本書店を経営する父親を持ち、大学を卒業する直前の大学生です。舞台はメイン州、典型的なニューイングランド、米国の東海岸です。そして、卒業式を数日後に控えた主人公に父親が海岸から転落死したという知らせが入り、卒業式を欠席して大学から実家に戻ります。稀覯本書店を経営していた父の後妻がアリスなわけです。後に警察の調べが進んで、転落による事故死ではなく殺人の線が浮かび上がります。邦訳本で10ページ前後からなる各章が交互に、厳密ではありませんが交互に、現在の主人公の実家周辺と過去、主として、アリスの過去にスポットを当ててストーリーが進行します。まあ、有り体にいえば、現在の捜査の進展とともに、アリスの暗い過去が明らかにされるわけです。その暗い過去の中には、首を絞めたり銃で射殺したりといった明確な殺人ではありませんが、ミステリでいうところの「プロバビリティーの犯罪」あるいは「可能性の殺人」にアリスが関わっていた事実が含まれます。これ以上はネタバレになりかねませんので、最後に2点指摘しておきたいと思います。第1に、途中で名前を変える登場人物がいます。ノックスの十戒の10番目に "Twin brothers, and doubles generally, must not appear unless we have been duly prepared for them." というのがあり、双子はこの作品に登場しますし、途中で名前を変えるというのは「1人2役」のような気もします。でも、作者が "duly prepared" だと認識している可能性がゼロではありません。第2に、この作品はイヤミスです。欧米ミステリ界でカテゴリとして確立しているのかどうかは、不勉強にして私は知りませんが、明らかに日本でいうところのイヤミスです。したがって、読者によっては読後感が悪いかもしれません。

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ホントの最後の最後に、ジョン・モーリー『アカデミック・フレーズバンク』(講談社)です。著者は、英国マンチェスター大学の研究者です。本書は、最初の1ページから始めて最後まで読み通す、といった通常の読書には馴染まないタイプの本で、それこそ、座右において「辞書的に」必要に応じて参照するという使い方だろうと思います。でも、アマゾンのレビューがやたらと高かったので研究費で買ってみました。私は、今の大学に再就職して毎年1本の論文を書くことを自分に課しているのですが、最初の2020年は日本語で仕上げて、その後、昨年2021年と今年2022年はともに英語で執筆しています。しかも、大学院生の修士論文指導を別にしても、通常の授業で年間2コマは英語の授業を受け持っていたりします。従って、本書のようにアカデミックなフレーズを多数収録した参考文献はとても助かります。論文を書く際には、リサーチなんて英語そのままの用語もある一方で、私は explore とか examine なんて、外来語にすら認定されていない用語もいっぱい使うわけですから、用例や用法について豊富に収録されているようで参考になりそうです。ただ、パンクチュエーションはさすがに通り一遍です。私自身の感触としては、mダッシュとnダッシュの使い分けなんて、ネイティブでも相当に教養なければ難しいと感じていますが、本書では、「一般論としては、フォーマルな学術文書の場合には使用を避け、代わりに、コロン、セミコロン、括弧などを適宜使用すること。」とされています。私でも、コロンとセミコロンの使い分けはなんとか初歩的なレベルながら理解しています。

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2022年11月25日 (金)

20か月連続の上昇を続ける10月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.8%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.5%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、20カ月連続上昇 10月1.8%
日銀が25日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.4と、前年同月比1.8%上昇した。20カ月連続のプラスで、指数は2001年3月以来の高水準。上昇幅は前月から0.3ポイント縮小した。運輸・郵便で昨年の燃料費上昇の反動が出た。リース・レンタルや保険は上昇した。
宿泊サービスは10月に始まった政府の観光促進策「全国旅行支援」による割引がマイナスに効いた。出張などビジネス向けの宿泊も対象になったことが影響した。日銀は宿泊サービスの価格について「割引の影響を除けば、支援策を背景にした稼働率の高まりもあり堅調に推移していると考えられる」としている。
調査対象となる146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは93品目、下落したのは18品目だった。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年2021年3月にはその前年2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の反動もあって、+0.7%の上昇となった後、2021年4月には+1.1%に上昇率が高まり、本日公表された今年2022年9月統計まで、19か月連続の前年同期比プラス、18か月連続で+1%以上の上昇率を続けていて、6月統計以降では4か月連続で+2%以上となっています。上昇率がグングン加速するというわけではありませんが、高止まりしている印象です。基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と私は考えています。ですから、上のグラフでも、SPPIのうちヘッドラインの指数と国際運輸を除くコアSPPIの指数が、最近時点で少し乖離しているのが見て取れます。もちろん、ウクライナ危機の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく10月統計のヘッドライン上昇率+1.8%への寄与度で見ると、土木建築サービスや宿泊サービスや機械修理などの諸サービスが+0.57%、石油価格の影響が強い外航貨物輸送や国際航空貨物輸送や内航貨物輸送などの運輸・郵便が+0.59%、リース・レンタルが+0.39%、テレビ広告やインターネット広告や新聞広告など景気に敏感な広告が+0.14%、損害保険や金融手数料などの金融・保険が+0.13%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+3.0%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。ただし、運輸・郵便の9月の上昇率は+4.2%でしたから、やや上昇率は縮小を示しています。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+5.2%、広告の+2.9%の上昇などは、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいのかもしれません。

最後に、総務省統計局から消費者物価指数(CPI)東京都区部11月中旬速報値が公表されています。生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率で見て、9月の+2.8%から、10月には+3.4%と+3%台に達した後、11月も+3.6%とさらにインフレが高進しています。ヘッドライン上昇率では+3.8%に達しています。+6.1%の上昇だった外食のヘッドライン上昇率への寄与度が+0.32%、上昇率+6.4%だった調理食品の寄与度も+0.22%など、電気代や都市ガス代などのエネルギーの上昇率+24.4%、寄与度+1.23%とともに、食料の価格上昇がじわじわと広がっている印象です。

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2022年11月24日 (木)

リクルートによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

来週火曜日11月29日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、前年同月比で見て、今年2022年8月+2.3%増、9月+2.8%増の後、10月も+3.0%増と順調に伸びています。足元で伸びを高めているとはいうものの、2020年1~4月のコロナ直前ないし初期には+3%を超える伸びを示したこともありましたので、もう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。10月には最低賃金が時給当たりで約30円ほど上昇しましたので、その影響も出た可能性はあります。他方、派遣スタッフの方は今年2022年8月+3.4%増、9月+1.4%増の後、10月も+1.6%増と、着実な伸びを示しています。
まず、三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、10月には前年同月より3.0%、+34円増加の1,151円を記録しています。職種別では、「フード系」(+52円、+5.3%)、「専門職系」(+64円、+5.0%)、「製造・物流・清掃系」(+38円、+3.4%)、「販売・サービス系」(+19円、+1.7%)、「事務系」(+20円、+1.6%)、「営業系」(+10円、+0.8%)、とすべて職種で増加を示しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、10月には前年同月より+1.6%、+25円増加の1,604円になりました。職種別では、「クリエイティブ系」(+63円、+3.5%)、「製造・物流・清掃系」(+45円、+3.5%)、「医療介護・教育系」(+18円、+1.3%)、「営業・販売・サービス系」(+14円、+1.0%)、「IT・技術系」(+12円、+0.6%)、「オフィスワーク系」(+9円、+0.6%)、とすべてプラスとなっています。派遣スタッフの6つのカテゴリを詳しく見ると、「IT・技術系」の時給だけが2,000円を超えていて、段違いに高くなっていて、全体と比べて伸びが小さくなっています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調であり、足元では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の動向が不透明で、第8波に入ったともいわれていますが、全国旅行支援も10月20日には東京都でも始まって全国すべての都道府県で実施されており、同時に、インバウンド観光客の制約も大きく緩和されています。非正規雇用の比率の高い業種をはじめとして、最近までの順調な景気回復に伴う人手不足の広がりを感じさせる内容となっています。ただ、日本以外の多くの先進国ではインフレ率の高まりに対応して金利引上げなどの引締め政策に転じていることから、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、雇用の先行きについては不透明であり、まだ下振れ懸念が払拭されていないと考えるべきです。

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2022年11月23日 (水)

「OECD経済見通し」やいかに?

日本時間の昨日、経済協力開発機構(OECD)から「OECD経済見通し」OECD Economic Outlook, November 2022 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。副題は Confronting the Crisis とされてます。まあ、そうなんでしょう。
国際機関のリポートに着目するのは、この私のブログのひとつの特徴となっています。いくつか、プレスリリース資料から図表を引用しつつ、見通しを中心に簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはプレスリリース資料から Global growth is projected to slow を引用しています。世界の経済成長見通しとその地域別寄与度です。見れば明らかな通り、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの後、2021年はリバウンドによる+6%近い高成長を記録し、2022年も+3.1%成長でしたが、来年2023年にはインフレ高進により成長率が+2.2%にさらに鈍化すると見込まれています。そして、さ来年2024年の成長率も+2.7%と小幅にしかリバウンドしないと予想されています。地域別寄与度については、2021年から2022年、さらに、2023年と、アジアの成長寄与度はそれほど変化していないのですが、特に、来年2023年には欧州や北米の世界経済の成長率への寄与がかなり小さくなると見込まれています。これは、高緯度地域における暖房需要も含めたエネルギー支出が大きいという要因に基づいています。

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続いて、上のテーブル2枚はプレスリリース資料から G20とNon-G20のそれぞれの Real GDP growth projections と Inflation projections を結合して引用しています。成長率見通しの上方改定と下方改定は前回2022年6月の「経済見通し」からの乖離であり、±0.3%ポイントを超える修正がある国です。世界経済の成長率見通しは2022年の+3.1%から来年2023年には+2.2%に大きく減速すると見込んでいます。もちろん、インフレ抑制のための金融引締めによる成長失速です。ただ、日本では他の欧米先進国と比較してインフレの影響が小さくなっています。まあ、長年続いたデフレのひとつの効果なのかもしれません。期待インフレ率が極めて低い水準でアンカーされている、ということなのだろうと思います。加えて、欧州などと比べれば、それほどの高緯度に位置しているわけではなく、エネルギー支出がそれほどかさまない、という点も成長率がそれほど大きく鈍化しない要因のひとつと考えるべきです。

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続いて、上のグラフはプレスリリース資料から The world is coping with a large energy price shock を引用しています。GDPのうちエネルギーの最終消費に費やされる比率を50年ほどのスパンでプロットしています。最近時点では、GDPのうちの18%ほどをエネルギー支出に充てなければならず、逆にいえば、エネルギーへの支出がかさんで、ほかに振り向ける支出が相対的に減少していることになります。特に、このエネルギー支出の増加は高緯度の欧州諸国で厳しい負担増となっています。

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最後に、上の画像はプレスリリース資料から Summing up を引用しています。政策指針として、読めばその通りなのですが、(1) 金融政策は、インフレ抑制のために引き続き引締めを継続し、(2) 財政政策は、サステイナビリティに配慮して、優先順位を絞った支援を行い、さらに、(3) 安全保障に配慮したエネルギー政策、(4) 構造政策としては、①国際貿易の開放性の維持、②女性の労働参加の促進、③COVID-19パンデミックからの回復のためのスキルの再構築、などを重視しています。

繰り返しになりますが、期待インフレ率が極めて低い水準でアンカーされ、また、高緯度の欧州諸国と違ってエネルギー支出の増加が大きな負担にもならない、という要因から日本の成長率は、ほかの先進各国ほどは大きく下方修正されていません。しかし、日本の成長率は先進国の中ではまだまだ低くなっています。もう少し長い目で見て、この成長率をどのように引き上げるかが大きな政策目標となります。ヒントは、最後に引用した画像の貿易の開放性の維持、女性の労働参加の促進、雇用者のスキルの再構築、ということで、ほかの先進各国と大きくは違わない、と私は考えています。

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2022年11月22日 (火)

東京商工リサーチ「想定為替レート」調査の結果やいかに?

一時は1ドル150円を超えるような水準まで進んだ円安が、ようやく11月に入って一段落していますが、東京商工リサーチから2023年3月期下半期の「想定為替レート」調査の結果が明らかにされています。調査対象は上場メーカーですので、輸出や工場などの海外進出をしている企業が多いと考えられます。図表を引用しつつ、簡単に調査結果を見ておきたいと思います。

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まず、東京商工リサーチのサイトから 対ドル想定為替レートの推移 のグラフを引用すると上の通りです。東京商工リサーチが調査を開始したのは2011年3月期なのですが、昨年2021年までの10年間では以降では、2016年3月期初の想定レート1ドル115.8円がもっとも円安な水準でした。しかし、今年に入って、2023年3月期の期初には1ドル119.1円と、この最安値を上回る円安水準の結果となり、さらに、今回調査による2022年3月期下半期には平均1ドル135.3円で、2023年3月期の期初からさらに+16.2円の円安設定だった、との結果が示されています。

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次に、東京商工リサーチのサイトから 対ドル想定為替レート分布 のグラフを引用すると上の通りです。2022年3月期下半期の想定レートは、1ドル135円が28社(26.4%)ともっとも多く、次いで、1ドル140円が27社(25.4%)、1ドル130円が13社(12.2%)となっています。レンジ別では、1ドル130円台が最も多く58社(54.7%)、140円台以上が38社(35.8%)、同120円台以下が10社(9.4%)との結果です。

ものすごく単純化していえば、製造業=メーカーは輸出や海外工場の売上は円安が進めば収益を拡大させる効果を持ちます。もちろん、原材料や燃料の輸入価格は円安により上昇しますが、それ以上に円安メリットが大きいと考えるべきです。ですから、保守的な為替レート想定を前提にすれば、実勢レートよりもやや円高の水準で想定するケースが少なくありません。他方で、非製造業では製造業と違って、原材料や燃料の輸入コストの上昇の方が大きく、円安は収益圧迫要因となります。ですから、実勢レートよりも円安の想定を持って事業計画を立てるケースがよく見られます。本日取り上げた東京商工リサーチの調査結果は、メーカー=製造業だけを調査対象としていますので、ひょっとしたら、円高バイアスがある可能性があります。でも、いずれにせよ、最近にない円安の想定であることは確かだろうと思います。

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2022年11月21日 (月)

今年の年末ボーナスの予想やいかに?

今月11月に入って、例年のシンクタンク4社から今年2022年年末ボーナスの予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほリサーチ&テクノロジーズのみ国家公務員+地方公務員であり、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員ベースの予想、と明記してあります。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研38.8万円
(+1.8%)
63.9万円
(▲2.0%)
賞与の企業間格差が鮮明に。海外展開している大企業では円安の進行により為替差益が発生する一方、中小企業では円安・資源高による原材料コスト増が収益を圧迫。既に今夏の賞与も事業所規模100人以上の企業では前年から増加する一方、100人未満はほぼ横ばいにとどまる状況。7~9月期以降も円安・資源高が中小企業の業績を下押ししているとみられ、今冬の賞与では企業規模間の格差がさらに広がる可能性。
みずほリサーチ&テクノロジーズ38.6万円
(+1.2%)
74.1万円
(+1.1%)
物価高は消費回復の重石になる。原材料価格の高騰等を背景に、値上げの動きは当面続く見込みである。みずほリサーチ&テクノロジーズでは、10~12月期の消費者物価(生鮮食品を除く)を前年比+3.4%、2023年1~3月期を同+2.4%と予想しており、冬のボーナスが増えても、物価高の影響で家計の実質的な所得は前年対比で減少する計算になる。2022年10~12月期、2023年1~3月期の個人消費はサービス消費を中心に回復が見込まれるものの、物価高が下押し要因となり緩慢な伸びにとどまるだろう。
第一生命経済研n.a.
(+2.6%)
n.a.物価上昇も懸念材料だ。足元で物価上昇は加速しており、22年10-12月期の消費者物価指数の上昇率は前年比で+3%台半ば~後半に達する見込みである。今冬のボーナスが比較的高い伸びになるとみられることは好材料ではあるが、それでも賃金の増加ペースが物価上昇に追い付かない状況には変わりがない。今冬のボーナス増加が個人消費の活性化に繋がる可能性は低いだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング39.0万円
(+2.5%)
65.1万円
(▲0.1%)
コロナ禍での業績悪化で支給を取りやめていた事業所での支給が続々と再開され、支給労働者割合は83.4%(前年差+0.9%ポイント)と上昇しよう。同割合はコロナ前の2019年の水準には届かないものの、雇用者数の増加が続く中で、ボーナスを支給する事業所で働く労働者の数は4,291万人(前年比+1.5%)まで増加し、コロナ前を上回る見込みである。

テーブルから明らかな通り、今年の冬のボーナスはそこそこ上がる期待が持てます。ただし、注意すべき点が2点あります。第1に、ボーナスの増加が物価上昇に追いつかなおそれです。日本総研以外のみずほリサーチ&テクノロジーズ、第一生命経済研究所、三菱UFJリサーチ&コンサルティングにヘッドラインで引用しておきました。おそらく、ボーナス増は物価上昇で相殺され、というか、物価上昇がボーナス増を上回って、実質所得の増加はほぼほぼ見込めません。ただ、名目の貨幣賃金が増加しますので、一定の消費促進効果はあるものと私は期待しています。第2に、日本総研のリポートで強調されているところで、ボーナスの企業間格差が大きくなる可能性にも注意すべきです。上のテーブルで取り上げた4シンクタンクのうち、日本総研と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2機関のリポートでは民間企業を製造業と非製造業に分けて示しています。日本総研では製造業が+6.3%増の53.4万円に対して、非製造業が+0.9%増の36.2万円、また、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでも製造業が+5.5%増の53.0万円に対して、非製造業が+1.9%増の36.4万円、と、伸び率でも額でも製造業と非製造業の格差が大きくなっている点が明らかにされています。海外展開が進んでいる大企業では、特に製造業では円安の進行によって為替差益が享受できる一方で、中小企業では円安は資源高とともにコスト増をもたらして収益を圧迫する要因となると考えられます。日本ではもともと企業の規模による格差が大きく、大企業は中小企業と比較して給与水準が高い上に、財務体質などの経営の安定性もあり、学生諸君はこぞって大企業への就職を希望するのですが、今年の円安や資源高はこの企業規模による格差を拡大している可能性が大きく、特に、年末ボーナスにはその影響が現れている、と私は考えています。最後に、地域限定ながら、浜銀総研から「2022年冬の神奈川県民ボーナスの見通し」が明らかにされています。民間企業は+1.4%増、公務員は+7.6%増と予想しています。
最後の最後に、下のグラフは三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートから引用しています。

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2022年11月20日 (日)

今年のベスト経済書のアンケートに回答する

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ある経済週刊誌から寄せられていた今年のベスト経済書アンケートですが、結局、マリアナ・マッツカート『ミッション・エコノミー』(NewsPicksパブリッシング)をトップに上げて回答しておきました。政府が後景に退いて企業の自由な活動を前面に押し出すネオリベラルな資本主義ではなく、政府と企業がミッションを軸にコラボ=共同作業を行う経済の重要性を指摘している経済書です。ネオリベな資本主義に対するアンチテーゼとして推しておきました。もちろん、政府と企業とのコラボ=共同作業の有力な候補はSDGsの推進です。17のゴールすべてというわけにいかないとすれば、何といっても重視されるべきは人類の生存をかけた気候変動=地球温暖化の防止のために温室効果ガス排出削減、いっぱい言い換えがありますが、カーボンニュートラルだけ上げておきます。イノベーションの重視はもちろん必要なのですが、ネオリベな経済観に基づく「スタートアップ信仰」、すなわち、スタートアップがイノベーションを担うという考えは、ハッキリいって、もう過去のものであり、現在では打破されるべきと私は考えています。そして、SDGsのもうひとつとしてはジェンダー平等が経済学的に重要だと私は考えています。実証的に示すことは出来ませんし、定量的な把握は不可能ですが、女性管理職比率を無理やりでも30%に引き上げれば、我が国企業の生産性は大きく向上すると思います。

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また、昨年のアンケートにこういう項目があったかどうか失念してしまったのですが、日本の進路に重要な指針を与える経済書・経営書というのがあり、大門実紀史『やさしく強い経済』(新日本出版社)を強く推しておきました。冷たい=格差拡大、弱い=成長できない、から、結局、岸田内閣が腰砕けになってしまった分配の重視、ないし、成長から分配への経済の流れを戻す試みがいくつか提案されています。賃上げと社会保障の充実による所得の底上げ、また、環境重視の気候変動抑止や、ジェンダー平等の達成による成長力の強化といった方向が明確に示されています。『ミッション・エコノミー』の繰り返しになりますが、気候変動=地球温暖化の防止を政府と企業とのコラボに基づき、特殊日本の財政状況だけかもしれませんが、財源がないなら国債を発行しまくってでも、カーボンニュートラルのための技術開発を進めることによりイノベーションが大いに促進されます。そして、民間企業に強力なインセンティブを与えてでも、あるいは法的に強制してでも、ジェンダー平等に基づいて女性管理職比率を飛躍的に引き上げることができれば、我が国企業の生産性は大きく向上します。生産性が向上すれば、雇用者の賃金引上げも進むことになります。現在の岸田内閣は、企業の内部留保に着目して、外生的に賃上げを促進しようとしており、それはそれで一案と私は考えていますが、もしも、ホントに賃上げが内閣の重要課題であるなら、企業の内部留保に課税すべきです。そうではなく、まあ、何と申しましょうかで、女性の管理職比率を障害者の雇用比率と同列に論じるのは適当ではないかもしれませんが、何らかの法制度により女性の管理職比率を引き上げる制度的な改革がなされることから始め、それによる生産性引上げを賃上げに結びつける、というのも十分に実現可能性があると思います。

経済書アンケートにかこつけて、私自身の経済観、政策観を展開していしまいましたが、現在のネオリベな経済政策を打破するために、引き続き、いろんな主張を繰り返したいと思います。

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2022年11月19日 (土)

今週の読書はウェルビーイングに関する経済書のほか計5冊

今週の読書感想文は以下の通りウェルビーイングに関する経済書2冊と明治史に関する新書、そして、ミステリ小説2冊の計5冊です。
まず、山田鋭夫『ウェルビーイングの経済』(藤原書店)は、あまりウェルビーイングとは関係なく、レギュラシオン学派の観点から資本主義の先行きや調整について論じています。草郷孝好『ウェルビーイングな社会をつくる』(明石書店)は、やや「ユートピア的」なウェルビーイングの考え方ではないかと思えるほどですが、成長モデルからウェルビイングのモデルへの転換について論じています。瀧井一博[編]『明治史講義【グローバル研究篇】』(ちくま新書)は、明治期の日本の歴史についてグローバル・ヒストリーの視点から、黒船来航という外圧による開国、そして、アジア各国が明治期日本を参照するという歴史をひも解いています。ネヴ・マーチ『ボンベイのシャーロック』(HAYAKAWA POCKET MYSTERY)は、1880年代の大英帝国の植民地であったインドを舞台にしたミステリです。最後に、ポール・ベンジャミン『スクイズ・プレー』(新潮文庫)は、ポール・オースターの別名義によるハードボイルドなミステリです。ニューヨークを舞台にしています。
ということで、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~9月に66冊と少しペースアップし、10月には25冊、11月に入って先々週と先週で8冊で今週は5冊ですので、今年に入ってから210冊となりました。

 

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まず、山田鋭夫『ウェルビーイングの経済』(藤原書店)です。著者は、名古屋大学を退縮された研究者です。本書では、レギュラシオン学派の調整理論に基づきつつ、大量生産・大量消費といったフォーディズムがどのように将来にわたってウェルビーイングな価値を重視しつつ、資本主義の調整がなされるか、に焦点を当てています。本書の構成は前編と後編にそれぞれ4章ずつを収録し、前編では内田義彦らの市民社会概念を紹介しつつ、ウェルビーイングの観点からの資本主義像を論じています。中国などの権威主義的な経済社会と市民社会が対象的に議論されます。特に、現在の岸田総理が持ち出した「新しい資本主義」については、分配が後景に退いて成長重視に回帰するとともに、賃上げや「所得倍増」ではなく試算所得の倍増に化けたのではないか、と批判しています。ただ、私の理解不足により、物質代謝については十分には判りませんでした。後編では、レギュラシオン理論に基づく資本主義の調整をテーマとしています。すなわち、資本-労働の関係では、テイラー・システムに基づく科学的管理を労働者が受け入れる一方で、労働需給による賃金決定ではなく生産性に基づく賃金が労働者に支給され、結果として、大量生産-大量消費というフォーディズムが資本主義に好循環をもたらした、というのがおそらく、1970年代の石油危機やニクソン・ショックまでのブレトン-ウッズを支えていました。それが、アマーブルのいうような多様性に富む資本主義がウェルビーイングの概念を軸に、いかに資本主義の新たな方向性として目指されるのか、について議論を展開しています。おそらく、私の目から見て、次の草郷孝好『ウェルビーイングな社会をつくる』と同じで、自由かつ格差が小さいという意味での平等が実現され、さらに、ウェルビーイングな経済社会を、少なくとも短期間で構築することは、ユートピア的・空想的であって、それほど現実性は大きくないと考えるべきです。他方で、こういった大きな方向性について、多様な資本主義の累計を念頭に置きつつ議論することは、単なる「頭の体操」を超えて、現在の日本経済を始めとするいわゆる「閉塞感」、あるいは、欧米経済学のコンテクストでいえば、「長期不況」secular stagnationからの方向転換を考える上でとても重要です。ただ、難点をいえば、内容が難しいです。やや専門外であるとはいえ、私には「物質代謝」を含めて、理解が及ばない点がいくつかありました。一般ビジネスパーソンには難解に過ぎる可能性は指摘しておく必要がありそうです。

 

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次に、草郷孝好『ウェルビーイングな社会をつくる』(明石書店)です。著者は、関西大学の社会学部の教授です。本書では、国連のSDGsなどを引用しつつ、p.40で示した利益拡大の競争社会である経済成長モデル、現在のモデルから、p.115で示している循環型共生社会であるウェルビーイングモデルへの転換について考えています。基本的な方向性としては私は大賛成であって、まったく異論ありません。ただ、2点だけ指摘しておきたいと思います。第1に、一時期にせよ成功していたように見える経済成長モデルがどうしてダメになったのかについては説明を要します。経済成長モデルが経済的格差を構造的に生じさせ、社会的な分断をもたらし、現時点でこのままではよろしくない、というのは、百歩譲っていいとしても、高度成長期の1950-60年代くらいまではこの経済成長モデルで日本だけでなく多くの先進国が成功してきたわけであり、21世紀に入った現時点で、どうしてダメになったのかについては、こういったステレオタイプの紋切り型ではなく、もう少していねいな説明がほしい気がします。第2に、ではウェルビーイングモデルをどう実現するか、については水俣市と長久手市の例が示されているだけで、どこまで一般性あるのか、はなはだ疑問です。当事者主体の地域協働を醸成するための6つのポイントがp.172に上げられていますが、後に、リーダーの存在の必要性などが述べられているとしても、はなはだ不親切であると私の目に映ります。ウェルビーイングについては所得と幸福度の関係についてイースタリンのパラドックスを展開したり、あるいは、センやヌスバウムらの潜在能力アプローチ、あるいは、ヘリウェル-サックスなどの幸福度に関する計測の研究、などなど、しっかりとした理論的な基礎があるだけに、方法論があまりにも貧弱と感じてしまいます。まあ、マルクス主義的な暴力革命からプロレタリアート独裁というのも乱暴な方法論だと大学生のころに感じた記憶はあるものの、本書はどうも科学的な観点が少し不足する「ユートピア的あるいは空想的ウェルビーイング理論」のような気がします。もっとも、現状の幸福度やウェルビーイングの研究はほぼほぼすべてこういった水準にとどまっているのも事実です。ひょっとしたら、経済学以上に未熟な科学なのかもしれません。逆に、私自身はウェルビーイングなモデルを大いに支持していますので、今後の学術的、科学的な発展を期待します。大いに期待します。

 

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次に、瀧井一博[編]『明治史講義【グローバル研究篇】』(ちくま新書)です。編者は、国際日本文化研究センター(日文研)の研究者です。本書は、2018年に明治維新150年を記に開催されたシンポジウムの報告から構成されています。なお、同様の出版物として、同じちくま新書から【テーマ篇】と【人物篇】はシンポジウム直後の2018年に刊行されていますが、なぜか、本書【グローバル研究篇】だけは4年遅れでの出版となっています。私も役所の研究所に勤務していたころにこういったコンファレンスの出版を担当した記憶がありますが、私の担当で大きく出版が遅れたのは最終稿の確認が、おそらくたった1人のために、遅れに遅れたことが原因であったと覚えています。それはともかく、本書では内外の16人の報告を収録しています。出版社のサイトに各報告のタイトルが示されています。大雑把にいって、私の理解として、国家近代化として捉えるべき明治期の日本については、その出発点である明治維新がいわゆる外圧、すなわち、象徴的にはペリー提督による黒船来航によってもたらされ、そして、明治期の日本での国家建設がアジアをはじめとする当時の途上国によって参照された、というのが明治期の歴史をグローバル・ヒストリーの中で位置づけるひとつの視点ではなかろうか、と考えています。明治期の歴史の最終的な仕上げのひとつのエポックは日露戦争であり、日本が大国ロシアに勝利したという事実により、当時の途上国から国家の発展モデルとして大いに注目を集めたことは容易に想像できるかと思います。特に、当時の清-中国あるいは台湾や朝鮮といった近隣諸国への影響は無視し得ないものであったと想像しています。本書では、さらに範囲を広げて、タイ、ベトナム、トルコといった国への影響も報告されています。本書のまったくのスコープ外ながら、私が同様に日本の歴史的な発展がアジアをはじめとする途上国のモデルとなったのは1950-60年代の高度成長期であったと考えています。逆に、20世紀なかば以降の戦後の世界経済において、いわゆる経済開発に成功して先進国の仲間入りをしたのは日本モデル以外には、現時点では、ないものと考えています。韓国についてはかなりの程度に日本モデルを採用して経済開発が進められました。ただ、中国が日本モデル以外の新たな経済発展モデルとなるかどうかは、大いに注目です。激しく脱線しましたが、明治期の日本をグローバル・ヒストリーの視野で捉えるとすれば、国家の近代化≈西洋化の際の発展モデルであろうと私は考えます。そして、本書はそういった明治史について、さまざまな観点を提供してくれます。

 

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次に、ネヴ・マーチ『ボンベイのシャーロック』(HAYAKAWA POCKET MYSTERY)です。著者は、インド生まれで現在は米国在住のミステリ作家です。英語の原題は Murder in Old Bombay であり、2020年の出版でこの作品は作者のデビュー作で、そして、米国探偵作家クラブ賞(エドガー賞)の最優秀新人賞にノミネートされています。ということで、舞台は1892年のインドのボンベイ、今でいうところのムンバイです。インドは大英帝国の植民地として発展を遂げており、時代はまさにシャーロック・ホームズの活躍したビクトリア時代です。主人公はインド人女性と英国人男性の混血として生を受けていますが、父親は不明で、姓はインド系、しかも、カースト最上位のバラモンである一方で、名はジェームズ(ジム)と名付けられています。軍人として大尉まで務めましたが、30歳にして傷痍退役し新聞社に勤務します。そして、数か月前にボンベイで話題となった2人の裕福な若い女性の時計塔からの転落死事件について、その被害者の1人である女性の夫から調査依頼を受けます。被害者やその夫はパールシーです。すなわち、ペルシャ系のゾロアスター教徒であり、同じ宗教の信者としか結婚しません。ということで、主人公が謎解きに挑み、もちろん、成功するのですが、とてもびっくりするような謎でした。ハッキリいって、どうもあり得ないような解決だと私は考えます。一応、何と申しましょうかで、莫理斯(トレヴァー モリス)『辮髪のシャーロック・ホームズ』がとてもよかったので、同じような本ということで借りてみましたが、決してオススメしません。かなりのボリュームある長編ですし、解決は現代の日本人には想像できないような内容です。しかもしかもで、パールシーの結婚観に触れておきましたが、女性に対する興味を示さなかった本家のホームズと違って、この作品の主人公の探偵役は、たぶん、ヒンデュー教徒であるにもかかわらず、パールシーの女性に対して求婚したりします。捜査方法もどこまでホームズを参考にしているのかは不明です。少なくとも、『辮髪のシャーロック・ホームズ』で組織されていたベイカー街イレギュラーズを模した少年たちは登場しません。ただ、米国での評価はそれなりですし、ミステリとしては謎解きの妙は味わえます。評価はビミョーなところです。

 

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最後に、ポール・ベンジャミン『スクイズ・プレー』(新潮文庫)です。著者は、米国の作家なのですが、通常は、ポール・オースターとして理解されている作家であり、本書は別名義で執筆しています。英語の原題は Sueeze Play であり、本書巻末の主要著作リストに従えば、何と40年前の1982年の出版ながら、本邦初訳だそうです。ペーパーバック出版の1984年の翌1985年には米国私立探偵作家クラブによるシェイマス賞最優秀ペーパーバック賞を受賞しています。ということで、主人公はニューヨークの私立探偵なのですが、米国東部アイビーリーグの名門校を卒業し、州の検事局を最近辞職しています。そして、この探偵への依頼者は、これまた、アイビーリーグの名門校出身で5年前まで大リーグのスタープレイヤーであって、キャリアの絶頂期に交通事故で片足を失いながらも、今は政治家として注目され、州上院議員に民主党から立候補するとウワサされている人物です。その依頼者が殺意すら匂わせている脅迫状を受け取り、探偵に事実調査を依頼します。いろいろと調査を進めているうちに、実に、その依頼人は実際に毒殺されてしまいます。ほかにも、死者がいっぱい出ます。作風としては、いわゆるハードボイルドであって、私は大好きです。謎解きについては、今となってはそれほど目新しさもなく、ありきたりな気もします。ミステリですので、これ以上は詳細について触れず、どうでもいい脱線をいくつか書いておくと、第1に、タイトルの「スクイズ・プレー」はまさに、野球、特に、高校野球でよく見かけるスクイズそのものを指しています。主人公の探偵が離婚した妻といっしょに暮らしている9歳の息子と大リーグの試合観戦に行って、日本でいうところのツーラン・スクイズ、すなわち、3塁走者だけではなく2塁走者もホームに生還するスクイズからヒントを得て事件を解決に導きます。なお、私がスクイズ・プレーのある競技として知っているのは、野球のほかはコントラクト・ブリッジだけです。第2に、サム・スペード、リュウ・アーチャー、フィリップ・マーロウというハードボイルド御三家ともいえる探偵は3人とも西海岸カリフォルニアで活動しているのですが、私はハードボイルドにはニューヨークが似合うと常々考えています。本書ではハードボイルド探偵はニューヨークを舞台に事件解決を成し遂げます。その意味でも、いい読書でした。

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2022年11月18日 (金)

10月の消費者物価指数(CPI)上昇率はとうとう+3%台半ばに達するも政府の物価対策は大企業への補助金ばっかり

本日、総務省統計局から9月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+3.6%を記録しています。報道によれば、1982年2月以来40年ぶりに高い上昇率だそうです。ヘッドライン上昇率も+3.6%に達している一方で、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+2.5%にとどまっています。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本の消費者物価、10月3.6%上昇 40年ぶり伸び率
総務省が18日発表した10月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が103.4となり、前年同月比で3.6%上昇した。伸び率は消費増税時も上回り、1982年2月(3.6%)以来40年8カ月ぶりの幅となった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーなど生活に身近な品目の値上がりが続く。
QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(3.5%)を上回った。上昇は14カ月連続。調査対象の522品目のうち、前年同月に比べて上がった品目は406、変化なしは42、下がったのは74だった。上昇品目数は9月の385から増加した。
生鮮食品を含む総合指数は3.7%上昇し、消費増税の影響を除くと91年1月(4.0%)以来31年9カ月ぶりの伸びだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は2.5%上がった。
品目別に上昇率を見ると、食料は6.2%で、生鮮を除く食料は5.9%だった。メーカーが相次ぎ値上げしている食用油が35.6%上がった。あんぱん(13.5%)やチョコレート(10.0%)の伸びも目立つ。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて輸送ルートを変更したサケは28.4%上昇した。
円安や原材料高といった影響は外食にも波及し、ハンバーガーは17.9%上がった。
エネルギー関連の上昇率は15.2%だった。9月(16.9%)から縮小したものの13カ月連続で2桁の伸びとなった。都市ガス代が26.8%、電気代が20.9%上がった。ガソリンは価格抑制の補助金効果もあって2.9%と、9月の7.0%から下がった。

やたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.5%の予想でしたので、ホンの少しだけ上振れた印象です。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、ロシアによるウクライナ侵攻などによる資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルによる物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、10月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は9月統計の+16.9%から少しだけ食傷して、それでも、+15.2%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.18%あります。このエネルギーの寄与度+1.18%のうち、電気代が半分超の+0.74%ともっとも大きく、次いで、都市ガス代の+0.24%、ガソリン代の+0.06%などとなっています。ただし、エネルギー価格の上昇率は3月には20.8%であったものが、ジワジワと上昇率が縮小し続けていて、9月統計では+16.9%、そして、直近で利用可能な10月統計では+15.2%と、高止まりしつつも、ビミョーに落ち着いてきているように見えます。価格抑制のために政府が石油元売各社に補助金を出しているのも、一定の効果があるのかもしれません。逆に、生鮮食品を除く食料の上昇率は拡大を続けていて、4月統計+2.6%、5月統計+2.7%、6月統計+3.2%、7月統計+3.7%、8月統計+4.1%、9月統計+4.6%に続いて、10月統計では+5.9%の上昇を示しており、+1.33%の寄与となっています。特に、10月は年度下期の開始とともに値上げに踏み切ったタイミングでもあったと考えられます。ですから、10月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を細かく品目別に見ると、引用した記事にもある通り、ハンバーガーをはじめとする外食が+5.1%の上昇率で+0.24%の寄与度、からあげをはじめとする調理食品は+6.5%の上昇率で+0.23%の寄与度、あんパンをはじめとする穀類が+8.2%の上昇率で+0.17%の寄与度、チョコレートをはじめとする菓子類が+6.6%の寄与度で+0.16%の寄与度、豚肉(国産品)をはじめとする肉類が+5.9%の上昇率で+0.15%の寄与度、などとなっています。私も州に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は10月統計で、どちらも+3%台半ばですから、ほぼ+2.5%の部分はエネルギーと生鮮食品を除く食料による寄与と考えるべきです。そして、現状ではまだまだエネルギーの寄与度が大きいのですが、毎月の寄与度の差を考えれば、寄与度差という観点ではインフレの主因はエネルギーから食料に移りつつあるように見えます。

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上のグラフは、昨日11月17日に帝国データバンクから明らかにされたリポート「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」から インフレ手当の支給有無 を引用しています。インフレ手当の支給・予定・検討中の企業は26.4%と¼に上っています。また、インフレ手当に取り組む企業からの回答のうち「一時金」がは66.6%、「月額手当」は36.2%であり、平均支給額は一時金が5万3,700円、月額手当が6,500円との回答結果が示されています。岸田内閣の「新しい資本主義」は一向にモノにならず、物価上昇対策として、政府は石油元売や電力といった大企業への補助金ばかりを打ち出す一方で、国民への支援策は一向に検討されず、時限措置としてすら消費税率の引下げも実施されず、企業が従業員の生活支援に乗り出しているのが理解できます。一時金や手当ではなく、インフレに応じた賃上げが進むことを私は期待しています。

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2022年11月17日 (木)

15か月連続で赤字を続ける10月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+25.3%増の9兆15億円に対して、輸入額は+53.5%増の11兆1637億円、差引き貿易収支は▲2兆1622億円の赤字となり、昨年2021年8月から15か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、10月の単月としては過去最大の貿易赤字だそうです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日本の貿易赤字2.1兆円、10月で最大 円安・資源高響く
財務省が17日発表した10月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆1622億円の赤字だった。10月としては、比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。円安と資源高により、輸入額が前年同月比で大幅に増えた。
貿易赤字は15カ月連続で、3カ月続けて2兆円を超える赤字となった。10月以外を含めると、過去5番目に大きい赤字だった。
輸入は11兆1637億円で、前年同月比で53.5%増えた。原油や液化天然ガス(LNG)、石炭などの値上がりが響いた。原油の輸入価格は1キロリットル当たり9万6684円と79.4%上昇した。ドル建て価格の上昇率は37.7%だった。円安が輸入価格の上昇に拍車をかけている。
輸出は25.3%増の9兆15億円だった。米国向けの自動車や韓国向けのIC(集積回路)などが増えた。
輸入は8カ月連続で、輸出は2カ月連続でそれぞれ過去最大を更新した。輸入の増加ペースが輸出を大きく上回り、赤字が拡大している。
荷動きを示す数量指数(2015年=100)は、輸入が前年同月比で5.6%上がったのに対し、輸出は0.3%下がった。中国向けの輸出は16.0%の急激な落ち込みとなった。消費不振や住宅不況による中国経済の減速が響いたとみられる。
10月の貿易統計を季節調整値でみると、輸入は前月比4.2%増の11兆2054億円、輸出は2.2%増の8兆9063億円、貿易収支は2兆2991億円の赤字だった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▱兆6200億円の貿易赤字が見込まれていて、予想レンジの貿易赤字の下限は▲2兆円でしたので、実績の▲2兆円超の貿易赤字は大きく下振れした印象です。加えて、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年9月までの15か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、17か月連続となります。しかも、直近時点まで貿易赤字額が傾向的にだんだんと拡大しているのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回って拡大しているのが貿易赤字の原因です。明らかに、青い折れ線の輸出よりも赤い輸入の方の伸び方の傾きが大きいのが上のグラフから見て取れます。もっとも、私の主張は従来から変わりありません。すなわち、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
10月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。前年同月比で見て、原油及び粗油は数量ベースで+9.9%増なのですが、金額ベースでは+97.1%増と円安を含む価格要因によって大きく水増しされて、輸入金額はほぼほぼ倍増という結果になっています。LNGも同じで数量ベースでは+9.9%増であるにかかわらず、金額ベースでは+150.9%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では+18.2%増となっている一方で、金額ベースでは+81.4%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+9.3%増、金額ベースではこれが大きく膨らんで+74.3%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。目を輸出に転じると、輸送用機器の中の自動車は部品の供給制約が緩和されて、季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+27.6%増、輸出金額でも+81.0%増と大きく伸びています。また、一般機械+17.6%増、電気機器+17.9%増と、我が国リーディング・インダストリーはそこそこ高い輸出の伸びを示しています。ですから、繰り返しになりますが、輸出額の伸びを上回る輸入額の伸び、中でも価格要因が貿易赤字の原因です。

円ドル為替の市場価格は、一時は、150円まで円安が進みましたが、今日の時点では140円近傍の水準で推移しているように見えます。私は為替レートの先行きに関しては特段の見識を持ちませんが、円安は輸出に有利である点は忘れるべきではありません。

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2022年11月16日 (水)

2か月連続で前月比マイナスを記録し基調判断が下方修正された9月の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から9月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比▲4.6%減の8680億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

9月の機械受注、前月比4.6%減 市場予想は0.7%増
内閣府が16日発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比4.6%減の8680億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は0.7%増だった。
製造業は8.5%減、非製造業は4.4%増だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は2.9%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に変更した。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+0.6%増と微増の予想で、予想レンジの下限では▲7.0%減でしたから、実績の+4.6%減はやや下振れた印象です。従って、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直しの動きに足踏みがみられる」と半ノッチ下方修正しています。上のグラフで見ても、増加のトレンドが反転したようには見受けられませんし、受注水準としても決して低くはない、と私は受け止めていますから、大きな判断は「持ち直しの動き」としても、まあ、その動きに「足踏み」というところなのかもしれません。
7~9月期の四半期でみると、コア機械受注の受注総額は前期比1.6%減の2兆7438億円と減少しているものの、足元の10~12月期の見通しを見ると、コア機械受注は+3.6%増の2兆8439億円と増加の可能性が示唆されています。産業別に少しだけ詳しく見ると、製造業が+2.9%増の1兆4419億円、船舶と電力を除く非製造業も+4.6%増の1兆4107億円と、いずれも増加する見通しが示されています。ですから、円安で価格競争力を増しているとはいえ、世界経済が先進国を中心にインフレ抑制を目指して金融引締めを継続し明らかに停滞色を強めている中で、輸出に依存する割合が高い製造業の伸びが内需に軸足を置く非製造業よりも低くなっています。ただし、足元での新型コロナウィルス(COVID-19)の新規感染拡大が第8波に入った可能性を考慮すれば、非製造業の10~12月期見通しが達成できるかどうかは不透明です。

最後に、7~9月期の四半期データが利用可能になりましたのでコア機械受注の達成率をチェックすると、4~6月期の109.4%からやや低下したものの、7~9月期でも99.5%と、景気後退局面入りの経験則である90%はまだ上回っています。最近では、COVID-19の感染拡大により緊急事態宣言が出された2020年4~5月期に85.1%を記録した後、継続的に90%を上回っています。

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2022年11月15日 (火)

7-9月期GDP統計速報1次QEはちょっとびっくりのマイナス成長

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計速報1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.3%、年率では▲1.2%と、4四半期ぶりのマイナス成長でした。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本のGDP年率1.2%減 7-9月、4期ぶりマイナス成長
内閣府が15日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.3%減、年率換算で1.2%減だった。マイナス成長は4四半期ぶり。GDPの過半を占める個人消費は新型コロナウイルスの第7波などの影響で伸び悩み、前期比0.3%増にとどまった。
市場ではプラス成長が続くとの見方が大勢を占めていた。QUICKがまとめたGDP予測の中心値は年率1.0%増だった。
マイナス成長に転落した主因は外需だ。前期比の寄与度はマイナス0.7%。GDPの計算で差し引く輸入が5.2%増え、全体を押し下げた。特にサービスの輸入が17.1%増と大きく膨らんだのが響いた。
内閣府の担当者は「広告に関連する業務で海外への支払いが増えた」と説明した。「決済時期のずれも影響し、一時的だ」との見方を示した。
内需も低調で、寄与度は前期のプラス1.0%から0.4%に鈍化した。柱の個人消費は前期比0.3%増にとどまった。コロナの流行第7波が直撃し、交通や宿泊関連などのサービス消費が伸び悩んだ。
耐久財は3.5%減と2四半期ぶりにマイナスに沈んだ。家電やスマートフォンなどが物価上昇の影響もあって振るわなかった。
内需のもう一つの柱である設備投資は1.5%増で2四半期連続で伸びた。企業がコロナ禍で持ち越した分の挽回も含め、デジタル化や省力化の投資を進めている。
住宅投資は0.4%減で5四半期連続のマイナス。建築資材の高騰が影を落としている。公共投資は1.2%増と2四半期連続で増えた。21年度補正予算や22年度当初予算の執行が進んだ。コロナワクチンの接種費用を含む政府消費は横ばいだった。
名目GDPは前期比0.5%減、年率換算で2.0%減となった。円安で輸入額が膨らんでおり、実質でみるよりマイナス幅が大きくなっている。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比0.5%低下とマイナスが続く。日本全体として輸入物価の上昇を価格転嫁できていない構図が浮かぶ。
家計の収入の動きを示す雇用者報酬は名目で前年同期比1.8%増えた。実質は1.6%減り、2四半期連続でマイナスとなった。物価上昇に賃金が追いついていない。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2021/7-92021/10-122022/1-32022/4-62022/7-9
国内総生産GDP▲0.6+1.0+0.1+1.1▲0.3
民間消費▲1.1+1.8+0.8+1.0+0.4
民間住宅▲1.8▲1.4▲1.3▲1.9▲0.4
民間設備▲2.3+0.3▲0.1+2.4+1.5
民間在庫 *(+0.2)(▲0.0)(+0.5)(▲0.2)(▲0.1)
公的需要+0.2▲1.0▲0.3+0.8+0.2
内需寄与度 *(▲0.7)(+1.0)(+0.5)(+1.0)(+0.4)
外需(純輸出)寄与度 *(+0.1)(▲0.0)(▲0.5)(+0.2)(▲0.7)
輸出▲0.6+0.6+1.1+1.8+1.9
輸入▲1.3+0.7+3.6+0.8+5.2
国内総所得 (GDI)▲1.3+0.6▲0.4+0.2▲1.0
国民総所得 (GNI)▲1.5+1.2▲0.1+0.3▲0.7
名目GDP▲0.7+0.6+0.4+0.8▲0.5
雇用者報酬 (実質)▲0.4+0.2▲0.1▲1.0▲0.8
GDPデフレータ▲1.1▲1.2▲0.5▲0.4▲0.5
国内需要デフレータ+0.6+1.2+1.8+2.6+3.0

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された今年2022年7~9月期の最新データでは、前期比成長率がマイナス成長が示されていて、GDPのコンポーネントのうち、水色の設備投資がプラス寄与している一方で、黒色の純輸出のマイナス寄与が目立っています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+1.0%でしたし、レンジの下限は前期比年率で▲0.4%でしたので、実績の▲1.2%というマイナス成長はややサプライズでした。マイナス成長の要因は大きく2点あると私は考えています。第1に、内需では消費がやや停滞しています。消費は4~6月期の+1.2%から大きく伸びが低下して、7~9月期には+0.4%を記録しています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の大きな感染拡大がなく、行動制限のない夏休みでしたが、それほど消費は伸びませんでした。コロナ要因が小さいとなれば、消費低迷の背景は物価高であることは明らかです。すなわち、上のテーブルでも雇用者報酬(実質)の伸びがマイナスとなっているのが見て取れます。特に最近時点では、4~6月期に前期比▲1.0%を記録した後、7~9月期も▲0.8%となっています。雇用者報酬の伸びがインフレによってマイナスとなり消費が低迷する、というパターンです。もっとも、設備投資がそこそこ増加していますし、内需の寄与度は+0.4%に上っています。第2に、消費低迷を上回ってマイナス成長に寄与した最大の要因は純輸出=外需です。2四半期前の今年1~3月期も同じようなパターンだったのですが、7~9月期も輸出の伸びを大きく上回る輸入の増加により外需が成長にマイナス寄与を示しています。現在の国内物価の上昇は、かなりの程度に輸入物価に起因していて、金額ベースの名目輸入は増加するとしても、数量ベースの実質輸入は価格効果により大きな増加はなかろうと私は予想していたのですが、実は、GDPに対する控除項目である輸入が大きく伸びて成長率を下押しする結果になりました。ただ、詳細は不明ながら、この輸入の大幅増加はサービス輸入の増加であり、海外への多額の支払いが生じた一時的な要因という見方が出ています。もしも、サービス輸入のこの点が事実とすれば、見かけのGDP統計の数字はそれほど景気の現状、といいうか、景気悪化を示しているわけではない、といえます。
ただし、サービス輸入の一時的な増加によるマイナス成長とはいえ、先行きの懸念が払拭されるわけではありません。先行き景気に関する注意点は3点あります。第1に、石油などの燃料や穀物をはじめとして、輸入価格の上昇が大きくなっていて、交易条件が悪化していますから、GDIやGNIがGDP以上の大きなマイナスを記録しています。国民の生活実感として、こういった所得もそれなりの注目点です。第2に、総合経済対策の政策効果の規模と持続性です。経済対策は物価上昇対策の要素もあって、景気に対する効果がどこまであるかが少し気がかりです。第3に、何といっても、金融引締めが継続している海外経済の動向です。私は、少なくとも、米国は景気後退に入る可能性が高い、と考えていますが、デカップリングの要である中国もゼロコロナ政策を継続しており、日本の景気が欧米からデカップリングされる可能性はそれほど高くない、と私は考えています。これも注目点です。

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とういうこで、最後の点については、一昨日11月13日の IMF Blog の Chart of the Week は Slowing Global Economic Growth is Increasingly Evident, High-Frequency Data Show とのタイトルで、世界経済の減速がさまざまなデータで検証されている点を明らかにし、上のスナップショットを示しています。要するに、"readings for a growing share of G20 countries have fallen from expansionary territory earlier this year to levels that signal contraction" ということのようです。

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2022年11月14日 (月)

昨日は近畿地方に木枯らし1号が吹いて今日は寒い

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昨日、近畿地方で木枯らし1号が観測されたウェザーニュースなどで報じられています。今日は寒かったです。
もうかなり前から、私の周囲ではダウンを着込んだ人が増えています。まあ、出かける時間帯にもよりますが、ご高齢の人ばかりでなく学生でもダウンを着ている人はチラホラ見かけます。私の場合、ユニクロのラインナップでいえば、アウターはまだフリースなのですが、今日からインナーはタンクトップからヒートテックに変えました。

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帝国データバンク「コスト高騰による企業への影響アンケート」の結果やいかに?

やや旧聞に属する話題ながら、先週木曜日の11月10日に帝国データバンクから「コスト高騰による企業への影響アンケート」の結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. さまざまなコストの高騰による主要な事業への影響について、「影響はあるが、現時点では余裕がある」とした企業は33.4%だった一方、半数超が「厳しいが事業の継続は可能」(54.3%)としていた。さらに、「すでに限界」とした企業は6.5%となり、うち2.5%が「企業の存続危機」に陥っていることが分かった
  2. 「すでに限界」とした企業の割合を規模別にみると、「大企業」では2.1%、「中小企業」では7.2%、うち「小規模企業」では11.4%と、企業規模が小さいほど高くなっている。内訳をみると、「小規模企業」で「すでに限界であり、企業の存続危機に陥っている」とした企業は約5%に及んだ
  3. 「すでに限界」と回答した企業を主な業種別にみると、「建材・家具、窯業・土石製品製造」が12.5%と全体を6.0ポイント上回った。また、「化学品製造」が12.2%、「不動産」および「飲食料品・飼料製造」がそれぞれ9.4%となった

これだけでもう十分という気もしますが、リポートからグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから コスト高騰の影響 の影響を引用しています。さまざまなコストの高騰を受け、主要な事業についてどのような状況か問うた結果として、「すでに限界」と回答した企業は6.5%に上っています。グラフに見えるように、「別の仕入先を検討中」が2.5%、「主力部門以外の強化・主力部門の縮小/撤退、または業態転換を検討中」が1.5%、「企業の存続危機」は2.5%となっています。ただし、多数派は、「厳しいが事業の継続は可能」であり54.3%と過半を占めています。また、「影響はあるが、現時点では余裕がある」とした企業は約⅓の33.4%となっています。「すでに限界」の6.5%は無視し得ない数字ではありますが、評価の難しいところです。

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続いて、上のグラフはリポートから コスト高騰で「すでに限界」企業割合 を引用しています。評価は難しいながら、「すでに限界」と回答した6.5%の企業の規模は、当然ながら、規模が小さいほどコスト高騰の影響が厳しい、という結果が示されています。すなわち、「すでに限界」計が高い割合を示しているとともに、「企業の存続危機」も高い比率となっています。また、グラフはありませんが、「すでに限界」とした主な業種別については、「建材・家具、窯業・土石製品製造」が12.5%と業界横断的な平均である6.5%を6.0%ポイント上回っています。また、「化学品製造」は12.2%、「不動産」および「飲食料品・飼料製造」はいずれも9.4%と高い比率を示しています。こういった業種でコスト高騰の影響が大きいことがうかがえます。

私はコスト高騰の影響で、企業存続の危機に瀕しているのであれば、コストアップを正当に価格転嫁することが必要だと考えています。コストアップを価格転嫁し、同時に、賃金も引き上げる、というのが望ましい解決です。しかし、先月10月28日に閣議決定された「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」には、「価格転嫁」は現れません。むしろ、物価を抑制するために価格転嫁が進まない方がいいのかもしれないと考えているのか、と勘ぐってしまいます。もしそうならば、価格転嫁を進めたくないのであれば、コストアップの方を抑制するしかありません。その場合は、消費税率引下げが政策オプションになると私は考えます。

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2022年11月13日 (日)

そろそろ紅葉は見ごろを迎えるか?

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本日の日本気象協会のサイトで、上のように紅葉見頃MAPが示されています。関西の京阪神では、大阪府と兵庫県では赤の「紅葉見頃」なのですが、京都府はまだ「色づき始め」ということのようです。ただ、今日の雨で落葉樹はかなり葉を落とした気がします。
サクラの季節は大学も春休みで、学生や院生と花見に行ったりしたのですが、紅葉の季節は後期授業のまっただ中で、今週は私は授業内リポートを予定していたりしますので、なかなか紅葉狩りに出かける余裕はありません。11月の文化の日と勤労感謝の日は、ともに、世間一般ではお休みなのでしょが、私の勤務する大学では祝日授業日で出勤だったりします。あまり、勤労に感謝されていないのかもしれません。

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2022年11月12日 (土)

今週の読書は中国に関する経済書のほか計3冊にとどまる

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、李立栄『中国のシャドーバンキング』(早稲田大学出版部エウプラクシス叢書)はタイトル通り、中国のシャドーバンキングを3分類してその活動の規模や規制当局の方向性などについて取りまとめています。宮本弘曉『51のデータが明かす日本経済の構造』(PHP新書)では、日本の賃金が上がらない理由について、極めて陳腐にも、生産性と結びつけた上で労働の流動性を促すといった的外れな議論がなされているように見えます。小谷賢『日本インテリジェンス史』(中公新書)は戦後日本のインテリジェンス史を概観し、いくつかの興味深い事件についてその裏側を解説しようと試みています。
今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~9月に66冊と少しペースアップし、10月には25冊、11月に入って先週5冊で今週は3冊ですので、今年に入ってから205冊となりました。また、本日の読書感想文で取り上げる以下の3冊のほかに、今週は太田愛『天上の葦』上下(角川文庫)を読んでいます。新刊書読書ではありませんから、別途、Facebookでシェアしたいと思います。さすがに、『ハヤブサ消防団』と『嫌いなら呼ぶなよ』はなかなか図書館の順番が回ってきません。

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まず、李立栄『中国のシャドーバンキング』(早稲田大学出版部エウプラクシス叢書)です。著者は、亜細亜大学の研究者であり、本書は著者が早稲田大学に提出した博士学位請求論文が基になっています。タイトル通りに中国における銀行ならざる金融仲介業を営むシャドーバンキングを分析しています。ただ、博士学位請求論文にしては、仮説の提示とその検証という学術論文ではなく、基本的に、中国のシャドーバンキングに関する情報を網羅的に収集した上で整理しています。ですから、というか、逆に、難解な計量分析などは少なく、一般ビジネスパーソンにも判りやすい内容になっている気がします。ということで、中国におけるシャドーバンキング業者をSB①、SB②、SB③の3種類に分類し、分析を進めています。p.20に簡単に分類が示されていますが、少し詳しく見ると、第1に、SB①については米国のシャドーバンキングや日本のいわゆるノンバンクと同じように、規制当局の監督対象となり、米国ではMMF、あるいは、日本の信託会社や証券会社、保険会社やファンド会社などが該当します。主たる業務は銀行の貸出債権をオフバランス化して理財商品に転換することですから、満期転換機能や流動性転換機能などを発揮します。ただし、預金を受け入れる銀行よりも当局からの規制は緩やかとなっています。第2に、SB②は中国の金融システムが近代化される前から存在する投資組合や質屋などの伝統的な個人間貸借から派生した業態です。そして、第3に、SB③はSB②の逆で超近代的、というか、フィンテックを活用した業態であり、P2Pレンディング、クラウドファンディングなどが該当します。そして、これらの業態ごとに、規模、特徴、性質、金融における役割、などが分析されていますが、SB②とSB③については、本書ではしばしばいっしょくたに議論されている恨みはあります。読ませどころは後半の第5章の潜在的なリスクの分析、さらに、第6章の規制当局の対応に関する現状分析と今後の方向性、などが私には大いに参考になりました。特に、SB②への規制については、その昔の日本における消費者金融の金利上限規制を思わせるものがありましたし、SB③については、逆に、過剰な規制がフィンテック企業の成長を阻害しかねない危惧が示されています。まあ、日本でも同じなのでしょう。米国との比較などは理解を進める点で役立っています。最後に、著者の中国語に関する語学力が大いに生かされています。私はやや専門外なのですが、それでも、これだけの情報に接することが出来るのは有り難く感じます。研究だけでなく、通常のビジネスにも役立てられそうな気がします。ただ、難点を上げれば、シャドーバンキングをシャドーバンキングとして分析しています。すなわち、シャドーバンキングをほかの経済活動との関係性から理解しようとはしていません。ですから、日本でも米国でもシャドーバンキングでは土地や不動産との関係が深く、中国でも同じなわけですので、シャドーバンキングを単なる金融業として分析するだけではなく、不動産との関係でもう少し深く掘り下げて欲しかった気もします。銀行やシャドーバンキングが単独で金融危機を引き起こすことは稀ではないでしょうか。

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次に、宮本弘曉『51のデータが明かす日本経済の構造』(PHP新書)です。著者は、東京都立大学の研究者なのですが、労働経済がご専門と記憶しています。私が役所にいたころにコンファレンスに来ていただいた記憶があります。ということで、賃金や雇用を切り口にして、賃金が下落し続ける日本経済の現状について、その原因を国民が平等に貧しくなる「未熟な資本主義」に求めて、いくつかの、というか、51のデータから解き明かそうと試みています。ただ、結論を先取りすれば、典型的な主流派エコノミストと同じで、個別の労働者の生産性が上がらないから賃金が上がらない、という極めてありきたりな結論で終わっています。この点は残念です。章立ては、物価、賃金、企業経営と労働、そして、「未熟な資本主義」を脱却する方法、と4章構成です。日本経済が低迷し低賃金が継続しているのは、一言でいえば、p.12にあるように、企業が安価な非正規社員や技能実習生などの人件費の安い外国人労働力に頼り、「また、デジタル化などの必要な投資を怠った結果であり、そのために、生産性が低下した、と結論しています。そして、賃金上昇のためには量的な人で不足や失業率の低下などではなく、労働市場の構造的な問題の解決が必要とし、長期雇用や年功賃金といった硬直的な雇用慣行を改革し、労働市場の流動化の必要性を唱えています。しかし、同時に、賃上げが進まない背景として労働組合の役割の低下も視野に入れています。まあ、私から見ればガッカリというしかありません。長期雇用や年功賃金といった「硬直的」な雇用システムを流動化させて、派遣雇用の適用範囲を広くし、安価な外国人労働者を技能実習生という名目で入国させたりして、雇用の流動化をここまで進めたために賃金が上がらない、という現実がまったく見えていないようです。こういった本書のような論調を持ち上げて、非正規雇用の拡大に歯止めをかけなければ、賃金はさらに下落を続ける可能性すらあります。

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最後に、小谷賢『日本インテリジェンス史』(中公新書)です。著者は、日本大学の研究者です。本書の内容はタイトル通りなのですが、ここで、インテリジェンスとは、インフォメーションの情報という中立的な用語ではなく、諜報とか、機密の印象に近く、国家の政策決定のための、特に、安全保障上の情報という意味で使われています。そして、その歴史は本書では終戦後から始めています。ただし、戦前・戦中のインテリジェンス活動にも軽く触れており、交換評価されているほど日本政府や軍はインテリジェンスを軽視していたわけではなかった、と評価しています。実は、私も同じような考えを持っていて、戦前・戦中もインテリジェンス活動はそこそこ行われていて、それが軽視されていた、とする方がホントのインテリジェンス活動には有利だからなのだろう、と解釈しています。ということで、占領期のインテリジェンス活動、組織の創設から始まって、やっぱり、読ませどころはソ連崩壊までの冷戦期のインテリジェンス活動史であることは明らかです。結局、モノにならかった秘密保護法制、ソ連のスパイ事件、ソ連からのベレンコ亡命事件、KAL機の撃墜事件、などなど、私でも聞いたことがあるくらいのエポックをなす出来事について詳しく解説されています。そして、さいごは、第2時安倍内閣での特定機密保護法、国家安全保障会議(NSC)と国家安全保障局(NSS)の創設と活動、米英などとの連携、などなど、これまた、エポックとなるイベントを網羅しています。分析や記述対象がインテリジェンス活動ですから、どこまで明らかにできるか、明らかにするべきか、といった議論はあるとしても、国民の支持がなければこういった活動は成り立ちませんから、少しタイミングが遅れてもかまわないので、インテリジェンス活動についても情報開示が進むことを願っています。

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2022年11月11日 (金)

サトシ世界チャンピオンおめでとう

サトシ世界チャンピオンおめでとう
25年越しでポケモンを見続けてきた甲斐がありました。
ただただ感動しました。

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+9.2%の上昇を記録した企業物価指数(PPI)の先行きを考える

本日、日銀から10月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+9.1%を記録しています。国内物価の2ケタ上昇は9月の+10.2%だけで終りとなるのでしょうか。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数9.1%上昇 10月、電力・ガスで価格転嫁
日銀が11日発表した10月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は117.5と7カ月連続で過去最高を更新した。前年同月比9.1%上昇し、20カ月連続で前年の水準を上回った。ロシアのウクライナ侵攻で資源価格の高止まりが続き、電力やガスを中心に価格転嫁の動きが広がっている。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示している。10月の上昇率は民間予測の中心値である8.8%を0.3ポイント上回った。同日改定された9月の上昇率は10.2%上昇と1980年12月以来の高水準になった。
品目別では、電力・都市ガス・水道(43.2%)、鉱産物(27.5%)、鉄鋼(22.4%)などの上昇が顕著だ。鉄鋼では自動車向けの鋼材が値上がりした。原材料やエネルギー価格の上昇が続いている。半期に一度の価格改定のタイミングが重なったことも全体の押し上げにつながった。
円安による価格上昇圧力も継続している。10月の外国為替市場では一時1ドル=151円90銭台と32年ぶりの安値を記録した。輸入物価の上昇率は、ドルなどの契約通貨ベースでは16.6%だが、円ベースでは42.6%となった。輸入物価に占める為替要因は61%と、高水準で推移している。
公表している515品目のうち、上昇したのは434品目、下落したのは65品目だった。

いつもの通り、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+8.8%と見込まれていましたので、実績の+9.1%はやや上振れした印象です。ただし、
このブログでは何度も繰り返していますが、PPI上昇の要因は主として2点あり、とりあえずの現象面では、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、第1に、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇、さらに、第2に、ディマンドプルの要因も含みつつ、為替レートが減価している円安要因です。また、少し前までの我が国製造業のサプライチェーンにおける半導体などの供給制約については、私も詳しくないのですが、報道ではそれほど見かけなくなりましたので、後景に退いている気がします。品目別には、引用した記事の3パラめにあるように、電力・都市ガス・水道+43.2%、鉱産物+27.5%のほか、大類別では、鉄鋼+22.4%、金属製品+13.0%が2ケタ上昇となっています。消費者の国民生活に強く関連する飲食料品+6.9%も高止まりしています。ただし、注目の石油・石炭製品は9月の+14.5%上昇から、10月にはわずかに+2.6%に上昇率が大きく縮小しています。

政府では物価高対策として石油元売り各社や電力会社などの大企業への補助金を経済対策に盛り込んでいますが、こういった補助金は市場における価格メカニズムに歪みを生じて、化石燃料価格の上昇による地球温暖化=気候変動の緩和効果を大きく減殺します。SDGsに反した政策であると考えるべきです。ですから、消費者や中小企業へのきめ細かな所得支援が代替策として考えられるのですが、ここはさらにシンプルに、時限措置でもOKかと思いますので、インフレ対策としての消費税率の引下げが検討されて然るべき、と私は考えています。

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今日は27回目の結婚記念日!!!

今日は、カミさんと私の27回目の結婚記念日です。
だから、どうだ、というわけではありません。忘れないうちに、ポストしておきます。

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2022年11月10日 (木)

来週火曜日11月15日に公表予定の7-9月期GDP統計速報1次QEに予想やいかに?

先月末の鉱工業生産指数(IIP)や商業販売統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明週火曜日の11月15日に7~9月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。今年2022年の4~6月期には、まん延防止等重点措置が3月21日に解除された後、特段の行動制限もなく前期比年率で+3.5%の高い成長を記録していますが、7~9月期には引き続きプラス成長が予想されています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。なお、今回から PwC Intelligence と明治安田総研の新たなシンクタンクを2機関加えています。それから、ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の10~12月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。いくつかのシンクタンクが7~9月期以降の見通しに言及しています。その中でも特に、大和総研とみずほリサーチ&テクノロジーズが詳細であり、私の方でも意識的に長々と引用しています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.4%
(+1.6%)
10~12月期もプラス成長が続く見通し。新型コロナ感染者数の減少や全国旅行支援の実施などを背景に、個人消費の増勢が高まる見込み。工場新設や機械投資が堅調に推移することで、設備投資も増勢を維持する見込み。
大和総研+0.6%
(+2.4%)
2022年10-12月期の日本経済は、感染状況が落ち着く中で経済活動の正常化が一段と進み、個人消費や輸出などを中心に回復基調が強まる見込みだ。設備投資や公共投資も増加することで、実質GDPは5四半期連続のプラス成長(前期比年率+2.9%)になると見込んでいる。
個人消費は夏場に比べて感染状況が落ち着く中、サービス消費を中心に回復ペースが加速しよう。10月11日に開始された全国旅行支援がサービス消費の回復を後押しするとみられる。他方、食品などの値上げが相次ぐ中で家計の消費マインドが一段と悪化すれば、物価高が個人消費を下押しする可能性がある。
なお、自動車生産は10-12月期に増加するものの、そのペースは緩やかなものに留まろう。トヨタ自動車は半導体不足の影響により、10、11月のグローバルの生産計画を8月に公表した計画からそれぞれ引き下げた。ホンダも10月に国内工場において生産調整を行った。繰越需要に対応した大幅な挽回生産は2023年に発現し、個人消費や設備投資、輸出を後押しするだろう。
住宅投資は緩やかな増加傾向が続こう。引き続き、住宅価格の上昇は住宅投資の重しとなるものの、住宅ローン減税の制度変更に伴う反動減が一巡することで持ち直すとみられる。
設備投資は増加傾向が続くだろう。機械設備への投資は緩やかに増加するとみている。機械設備投資に先行する機械受注は均して見ると増加傾向にある。ただし、米欧中央銀行の利上げ、中国での「ゼロコロナ」政策や不動産投資の低迷などによる世界経済の減速懸念が強まっており、企業の投資意欲に影響を及ぼす可能性がある。他方、グリーン化、デジタル化に関連したソフトウェア投資や研究・開発投資は底堅く推移するとみられ、設備投資全体を下支えしよう。
公共投資は緩やかな回復が続くだろう。前述した「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の執行が下支えするものの、人手不足や資材価格の高騰が影響することで、回復ペースは緩やかなものとなろう。政府消費は、医療費の増加やオミクロン株対応ワクチン接種の進展により緩やかな回復傾向が続こう。
輸出は非常に緩やかな増加基調を辿るとみている。中国では「ゼロコロナ」政策の堅持が景気回復を阻害することで対中輸出の回復ペースを鈍化させるほか、不動産不況が重しとなって鉄鋼や建機などの輸出が伸び悩むだろう。他方、米欧では景気後退が現実味を帯びてきている。とりわけ欧州経済については物価高、金融引締め、エネルギー不足と懸念材料が多く、対欧輸出は伸び悩むだろう。他方、10月11日に水際対策が大幅に緩和されたことを受け、サービス輸出に含まれるインバウンド(訪日外客)消費は回復ペースが加速するとみられる。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.2%
(+0.9%)
10~12月期以降については、後述の物価高が財を中心に個人消費の下押し要因になる一方、政府による「全国旅行支援」が実施されることで対人サービスを中心に個人消費の押し上げが見込まれる。みずほリサーチ&テクノロジーズは、全国旅行支援について1~3月期までの延長を想定した上で、経済効果は波及効果を含めて約1.1兆円(2022年度GDPを+0.2%押し上げ)と試算している。水際対策の緩和を受けてインバウンドの受入が徐々に拡大することも経済活動の押し上げに寄与するだろう。
コロナ禍の影響が長引く中、日本はこれまで欧米対比で経済活動の回復が遅れてきたが、その分回復余地が残されている状況だ。個人消費の15%程度を占める対人サービス消費が2022年度末までに(リベンジ消費とまではいかなくても)コロナ禍前に近い水準まで回復していくことで、GDPを2%以上押し上げることが期待される。インバウンドの本格回復は中国のゼロコロナ政策解除後の2023年後半以降を見込むが、水際対策緩和・円安を受けてインバウンドの受入拡大が進むことで2023年度にかけてGDPを+0.9%押し上げると試算している。
一方で、急速な利上げやロシアからの天然ガス供給縮小等に伴い、欧米は景気後退入りが見込まれる。米国・ユーロ圏とも年末以降マイナス成長に陥るとみられ、輸送用機械、電気・電子、設備機器などの輸出が下振れるほか、設備投資も下押しされる公算が大きい。欧米の景気後退を中心とした海外経済の減速が先行きの日本経済の最大の逆風になるだろう(みずほリサーチ&テクノロジーズは、2022年の世界経済成長率は+2.3%、2023年は+1.6%と一段の低成長に陥ると予測している)。
前述したとおりサービス分野の回復が下支えすることで、2022年度から2023年度にかけて日本経済はプラス成長を維持し、主要先進国が軒並みマイナス成長の中で相対的には堅調に推移するとみているが、回復ペースは緩やかにならざるを得ないだろう。現時点で、10~12月期、2023年1~3月期はいずれも年率0%台半ば程度の低成長が継続するとみている。2022年度の経済成長率は+1.5%(2023年度は+0.9%)と予測している。
ニッセイ基礎研+0.4%
(+1.5%)
2022年10-12月期は、欧米を中心とした海外経済の減速を主因として輸出は低迷することが見込まれるが、高水準の企業収益を背景に設備投資が堅調を維持すること、民間消費が物価高の影響を受けながらも、感染状況の落ち着きや全国旅行支援策によってサービスを中心に伸びを高めることから、内需中心のプラス成長が続くと予想する。
第一生命経済研+0.2%
(+0.7%)
10-12月期については成長率が高まるとみている。水際対策の緩和による外国人観光客の増加、全国旅行支援によるサービス消費の押し上げ等、政策効果による押し上げが見込まれる。諸外国に比べてコロナ禍からの回復が遅れていた分、回復余地が残されていることもあり、欧米と比較すれば底堅く推移する可能性が高い。
一方、今後の下押し要因となるのが海外経済の悪化だ。歴史的な高インフレにより購買力が毀損されることに加え、極めて速いペースで実施されてきた利上げの悪影響が本格化することで、欧米経済への下押し圧力は今後強まるとみられる。日本からの輸出も下振れる可能性が高い。内需が下支えになることで景気後退局面入りは避けられるとみるが、外需の下押しを通じて23年の景気は減速感が強まると予想する。
PwC Intelligence+0.6%
(+2.7%)
実質GDPの成長率を、前期比+0.6%(年率+2.7%)と見込んでいる。設備投資と輸出が成長を押し上げられたとみられる一方、インフレによる実質所得の低下が、COVID-19の落ち着きを受けた消費回復の動きを押し下げたとみている。
その後、2022~2023年度の経済成長率はそれぞれ+1.8%、+0.6%となろう。2023年度の成長率は、市場平均等よりも低いとみられるが、これは①インフレ鎮静化のための利上げの継続・加速による海外経済のマイナス成長、②国内の経済対策の効果が、経済下支えにとどまり、経済の押し上げには不十分であるとみているため。なお、2022~2023年度の物価は、それぞれ+2.5%、+1.4%を見込む。
伊藤忠総研+0.4%
(+1.4%)
10~12月期は設備投資の拡大が続く中、コロナ感染収束を受けて個人消費は持ち直し、インバウンド需要が輸出を下支えするとみられ、成長ペースはやや加速すると予想。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.2%
(+0.7%)
2022年7~9月期の実質GDP成長率は、前期比+0.2%(年率換算+0.7%)とプラス成長は続くものの、伸び率は4~6月期の同+0.9%から大きく鈍化する見込みである。久し振りに行動制限のない夏休みを迎えたものの、感染第7波の拡大の影響があったうえ、物価上昇によるマイナス効果もあったと考えられ、個人消費の伸びが鈍ったこと、輸入の増加を主因として外需寄与度がマイナスに転じたことから、全体の伸びは小幅にとどまった。
三菱総研+0.4%
(+1.8%)
2022年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.4%(年率+1.8%)と4四半期連続のプラス成長を予測する。
農林中金総研+0.4%
(+1.8%)
7~9月期のGDP成長率見通しについては、実質成長率は前期比0.4%(同年率換算1.8%)と、4期連続のプラスと予想する。前年比も2.3%と6期連続のプラスで、成長率は3期連続で高まる見込み。また、名目成長率は前期比0.6%(同年率2.4%)と4期連続のプラスが見込まれる。
明治安田総研+0.2%
(+1.0%)
2022年7-9月期実質GDP成長率は、前期比+0.2%(年率換算: +1.0%)と、4四半期連続のプラスになったと予想する。

ということで、すべてのシンクタンクが7~9月期の成長率はプラスと予想しています。欧米先進各国は2ケタもしくは2ケタ近いインフレの抑制のために金融引締めを継続しおり、かなりの確率で米国や英国は景気後退に陥ると私は考えています。もちろん、市場における価格を資源配分のシグナルとしているわけですので、現在の資本主義経済においてはインフレが高進した場合、景気を犠牲にしてでもインフレを抑制するというのが、いわば、セオリーとなっています。ですから、7~9月期には我が国でも輸出については伸び悩んでいるものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大抑制のための行動制限はありませんでしたし、「リベンジ消費」とまではいいませんが、それなりに消費が伸びた実感はあります。加えて、足元の10~12月期もプラス成長を展望するシンクタンクが多いと感じています。
ただし、先行き景気について注意すべき点は2点あり、まず第1に、4四半期連続のプラス成長とはいえ、成長率はまだまだ高くありません。ですから、アベノミクスの大きな失政というべき2019年10月からの消費税率引上げ直前のピークであった2019年4~6月期のGDPの水準に比べてまだ▲2%ほど低くなっています。単純に+0.5%成長を続けても、その水準に回帰するのはもう4四半期=1年かかるわけで、欧米先進各国のインフレから景気後退の可能性、ロシアのウクライナ侵攻、COVID-19の感染拡大などなどを考え合わせると、下方リスクな決して無視できませんし、たとえ、下方リスクなしでも長い道のりだという気がします。第2に、国政選挙がほぼほぼない、いわゆる「黄金の3年」において、岸田内閣が大きく緊縮路線に舵を切ろうとしているように私には見えてなりません。軍事費をGDP比2%に上げるだけでも、私はどうかと考えていますが、その財源をひょっとしたら増税で調達するなんて説も飛び出していますし、日銀の黒田総裁総裁の任期が切れる来年には引締めに転じるような人事が検討されるかもしれません。私はアベノミクスをそれなりに評価しているのですが、岸田内閣は「逆コース」を志向する可能性なしとはしません。
最後に、下のグラフはニッセイ基礎研究所のリポートから引用しています。

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2022年11月 9日 (水)

3か月連続で改善した10月の景気ウォッチャーと黒字が大きく縮小した9月の経常収支をどう見るか?

本日、内閣府から10月の景気ウォッチャーが、また、財務省から9月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.5ポイント上昇の49.9となった一方で、先行き判断DIは▲2.8ポイント低下の46.4を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+9093億円の黒字を計上しています。まず、NHKと日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10月の景気ウォッチャー調査 3か月連続改善も先行きの指数悪化
働く人に景気の実感を聞く内閣府の10月の景気ウォッチャー調査で景気の現状を示す指数が3か月連続で改善しました。ただ、物価高騰などの影響で景気の先行きを示す指数は悪化しています。
この調査では、働く人たち2000人余りに、3か月前と比べた景気の実感を聞き指数にしています。
今回の調査は10月25日から月末にかけて行われ、景気の現状を示す指数は49.9と、前の月を1.5ポイント上回り、3か月連続で改善しました。
新型コロナウイルスの感染者数の減少に加え、全国旅行支援や入国制限の緩和が後押しとなってホテルや飲食店などから来客数が増加しているという答えが寄せられました。
ただ、2か月から3か月先の景気の先行きを示す指数は前の月を2.8ポイント下回って46.4となり、2か月連続で悪化しました。
家電量販店などからは「商品の値上げが影響し買い控えがしばらく続きそうだ」という声が聞かれました。
調査結果を踏まえ、内閣府は「景気は持ち直しの動きがみられる」と、これまでと同じ基調判断を示しましたが、先行きについては「価格上昇の影響などに対する懸念が見られる」としています。
経常黒字58%減の4.8兆円 4-9月、14年度以来の低水準
財務省が9日発表した2022年度上期(4~9月)の国際収支統計の速報値によると、貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支は4兆8458億円の黒字だった。前年同期から6兆8627億円(58.6%)減り、上期としては2兆8163億円だった14年度以来の低水準となった。円安と資源高でエネルギー関連の輸入額が膨らんだ。
経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。黒字の減少額は下期を合わせた半期として、リーマン・ショックがあった08年度下期に次ぐ過去2番目の大きさだった。
貿易収支の赤字が過去最大の9兆2334億円となり、全体を押し下げた。輸入額は58兆7556億円と47.1%増えた。原油や石炭、液化天然ガス(LNG)の価格上昇が響いた。輸出額は21.3%増の49兆5222億円だった。輸出入額とも過去最大となったが、輸入の増加ペースが輸出を大きく上回った。
第1次所得収支の黒字は25.2%増の18兆2332億円となり、過去最大を更新した。資源関連事業などが好調で、海外子会社からの配当や現地に再投資する内部留保が増えたとみられる。円安・ドル高で円換算額が増えた面もある。サービス収支は3兆1639億円の赤字だった。
9月単月の経常黒字は前年同月比45.0%減の9093億円だった。貿易収支が1兆7597億円の赤字、サービス収支が3431億円の赤字、第1次所得収支が3兆2226億円の黒字だった。

いつもながら、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、ここ半年ほどを見れば、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大にほぼ従う形で、やや荒っぽい動きを示しています。上のグラフの通りです。すなわち、3月21日でまん延防止等重点措置の行動制限が終了した後、4月50.4、5月54.0、6月52.9と50超の水準が続いたものの、COVID-19の感染拡大により7月は43.8へ大きく悪化した後、8月45.5、9月48.4、10月49.9と、緩やかに改善してきているものの、その前の50超の水準には戻っていません。足元では、新型コロナウイルスの感染者数の落ち着きに加え、全国旅行支援や入国制限の緩和が後押しとなってホテルや飲食店などから来客数が増加しているという見方もできます。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いています。ただし、先行き判断DIがやや低下したのは、引用した記事にもあるように、食品の値上げラッシュに加えて、耐久財でも値上げが見られ始めてており、買い控えの影響により売上への影響は避けられない、という見方だろうと思います。現状判断DIに戻って、10月の統計を9月からの前月差で少し詳しく見ると、家計動向関連が+2.6ポイントの改善と、企業動向関連の+0.6ポイントよりも大きく上昇しています。中でも、サービス関連が+6.5、飲食関連が+4.3ポイントの上昇となっています。いかにも、COVID-19の感染拡大に対応した動きと私は考えています。他方で、企業動向関連では製造業の+1.3の上昇に対して、非製造業は▲0.2ポイントの悪化となっています。また、雇用関連が▲4.2ポイントの悪化となっています。インフレと円安の影響であろうと考えています。何度か、このブログでも明らかにしているように、消費は所得とマインドの影響が大きく出ます。マインドは何といってもCOVID-19次第ということですから、エコノミストの手に負えません。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整をしていない原系列の統計で見て、最近の統計で、季節調整していない原系列、季節調整済みの系列ともに、ほぼほぼ経常黒字を記録しています。ここ1年間で経常赤字を記録したのは、原系列の統計の1月統計▲5804億円だけです。ただし、この経常黒字の水準は大きく縮小しています。その要因は貿易収支の赤字です。もっとも、注意しておくべき点があります。すなわち、広く報じられているのでついつい信じ込みやすくなるのですが、今年2022年2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻による資源高、あるいはこれに対応した欧米での金融引締めに起因する円安が原因で貿易赤字になっているわけではない点は理解しておくべきです。正確には、季節調整済みの系列で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から1年あまり14か月に渡って継続しています。サービス収支も合わせた貿易サービス収支ではさらに2か月さかのぼって2021年6月から16か月連続の赤字が続いています。季節調整していない原系列の貿易収支で見ても、昨年2021年11月から11か月連続の貿易赤字となっています。ですから、貿易赤字はウクライナ危機による資源高や円安の半年ほど前から始まっている点は見逃すべきではありません。もちろん、国際商品市況で石油をはじめとする資源価格が値上がりしているのは事実であり、資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然です。消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。

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2022年11月 8日 (火)

4か月ぶりに下降を示した9月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から9月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲3.9ポイント下降の97.4を示し、CI一致指数も▲0.7ポイント下降の101.1を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

9月の景気動向指数、4カ月ぶり低下 自動車関連悪化で
内閣府が8日発表した9月の景気動向指数(CI、2015年=100)の速報値は、足元の経済動向を示す一致指数が前月比0.7ポイント低い101.1だった。4カ月ぶりのマイナスとなった。中国・上海市の都市封鎖(ロックダウン)が6月に解除されて以降、部品不足の解消で回復が続いており、反動が出た。自動車関連の項目で悪化した。
内閣府は指数をもとに機械的に作成する景気の基調判断を「改善を示している」のまま据え置いた。8カ月連続で同じ判断とした。
一致指数を構成する10項目のうち集計済みの8項目をみると、5項目が下落、3項目が上昇要因となった。自動車部品などで、生産と出荷ともにマイナスに寄与した。卸売業の販売額も低下した。
2~3カ月後の景気を示す先行指数は3.9ポイント低い97.4だった。悪化は2カ月ぶり。円安や原材料価格の高騰で物価上昇が続いており、景気の先行きに下振れリスクとなる可能性がある。

いつもながら、コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、9月統計のCI一致指数については、4か月ぶりの下降ながら、3か月後方移動平均も7か月後方移動平均も、ともに、上昇を続けています。したがって、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善」で据え置いています。また、ということで、CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、投資財出荷指数(除輸送機械)▲0.44ポイント、生産指数(鉱工業)▲0.26ポイント、鉱工業用生産財出荷指数▲0.19、商業販売額(卸売業)(前年同月比)▲0.15ポイントなどとなっています。他方、プラス寄与は、大きなものでは有効求人倍率(除学卒)+0.31ポイントくらいです。
景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響については楽観的に私は見ていますが、CI先行指数はやや大きな下降を示しているのは気がかりです。加えて、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大は反転増加した可能性が指摘され、第8波に入っているかもしれません。海外要因についても、欧米をはじめとする各国ではインフレ対応のために金融政策が引締めに転じていて、米国をはじめとして先進国では景気後退に向かっている可能性が十分あります。ですから、全体としては、先行きリスクは下方に厚い可能性を否定するのは難しい気がします。

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2022年11月 7日 (月)

ふたたび、今年のベスト経済書やいかに?

先週の11月3日文化の日にポストしたように、予想通り、というか、何というか、今年も経済週刊誌のベスト経済書のアンケートが来ました。候補書として150冊あまりがリストアップされていましたが、文化の日に私がお示しした10冊のチョイスの中で、漏れていたのは2冊めの福田慎一[編]『コロナ時代の日本経済』(東京大学出版会)だけでした。なぜ漏れたかの理由はよく判りません。純粋に学術書なので、その経済週刊誌の読者層にマッチしない、という判断かもしれません。なお、的外れと指摘しておいた2冊も、ちゃんと、候補書リストに入っていました。まあ、当然でしょう。

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今日のところは、3点だけ指摘しておきたいと思います。第1に、文化の日11月3日に私が10冊リストアップした中で、マリアナ・マッツカート『ミッション・エコノミー』(NewsPicksパブリッシング)が漏れていました。米国1960年代の「アポロ計画」を引き合いに出して、政府と企業がミッションを軸にコラボ=共同作業を行う経済の重要性を指摘しています。送られてきたアンケートの候補書リストを見て、私がこれを忘れていた点に気付かされました。この本は、私の見方からすれば、文句なく今年の経済書トップテンに入るべきです。第2に、候補書リストを見て、ダニエル・カーネマンほか『NOISE』(早川書房)を、私はまだ読んでいない点に気づきました。早速に、大学の図書館で借りました。第3に、前回のポストの直後に、日経・経済図書文化賞が明らかにされ、長岡貞男『発明の経済学』(日本評論社)ほか全5冊に授与されています。少なくとも、この5冊のうち、『発明の経済学』と渡辺努『物価とは何か』(講談社)は私は読んでいます。でも、10冊には入れませんでした。それはそれで、私の考え方です。

最後に、さて、どれをベスト経済書に回答しようかと迷っていると、何と、私が昨年のアンケートに回答した野口旭先生の『反緊縮の経済学』(東洋経済)が候補書リストに入っていました。しかも、「半緊縮の経済学」と間違ったタイトルになっています。改めてこの本の奥付を見ると、2021年8月19日発行となっていて、私は出版直後の9月11日付けの読書感想文ブログで取り上げています。ホントに今年2022年の候補書リストに入れていいのかしらん、でも、許されるなら今年ももう一度、この本で出してみようかしらん、と考えないでもありません。

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2022年11月 6日 (日)

ユーキャン新語流行語大賞のノミネートやいかに?

一昨日、11月4日にユーキャン新語・流行語大賞に30の言葉がノミネートされました。以下の通りです。

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すべてのノミネート語を十分知っているという人は少なかろうと思います。私も全部は知りません。そこで、これらの30語の解説について、NHKのサイトが私が見た範囲では参考になりました。ご参考まで。

来たる12月1日に年間大賞やトップテンが発表される予定のようです。さて、年間大賞やいかに?

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2022年11月 5日 (土)

今週の読書はゲーム論の入門的な解説書をはじめ計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。ゲーム理論に関する入門的な解説書である岡田章『ゲーム理論の見方・考え方』(勁草書房)、経済や教養に関する新書を2冊、すなわち、夫馬賢治『ネイチャー資本主義』(PHP新書)とレジー『ファスト教養』(集英社新書)、そして、海外ミステリの長編であるホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』(創元推理文庫)と短編集のピーター・トレメイン『修道女フィデルマの采配』(創元推理文庫)、となって計5冊です。
今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、夏休みを含む7~10月に66冊と少し跳ねて、10月には25冊、11月に入って第1週の今週は5冊ですので、今年に入ってから202冊となりました。200冊に達したから、というわけでもないのですが、少し経済書をお休みしようかなと考えないでもありません。ミステリを中心とした小説が図書館の予約で届き始めています。今週も2冊が海外ミステリなのですが、こういった読書も進めたいと思っています。

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まず、岡田章『ゲーム理論の見方・考え方』(勁草書房)です。著者は、一橋大学の名誉教授です。本書は、『経済セミナー』2022年10・11月号の新刊書紹介で書評が掲載されていましたので、大学の図書館で借りて読んでみました。冒頭に著者が「ゲーム理論の入門的な解説書」と書いているように、ゲーム理論について私のようなシロートでも判りやすく解説してくれています。一般の経済社会で見られるような実例も豊富に取り入れられています。9章構成なのですが、前半のいくつかの章では、フォン・ノイマン=モルゲンシュテルンの『ゲーム理論と経済行動』から始まるゲーム理論の歴史について、実際のエピソードなどとともに簡単に取り上げています。さらに、そもそも、ゲーム理論とはどういった学問分野であるか、とか、意思決定や効用あるいは利得の考え方なども解説されています。私の解釈では、マイクロな経済学ではすでに基数的な効用という考え方は捨てられているのですが、マクロ経済学では国民所得やGDPといった基数的な計算が用いられていますし、マイクロな経済学の中でもゲーム理論だけは利得=ゲインという考え方で基数的な効用を考えているのではないかと、専門外ながら、受け止めています。もちろん、「社会とは、ルールを守りながら自分の価値や利益を求める人びとがプレイするゲームである。」わけですから、経済に限定せずにさまざまな分野での応用が可能ですし、特に、経済学では成長よりも分配との親和性が高いと私は考えています。また、最近、私は開発経済学のセミナーに参加したのですが、第6章p.151から3人非対称ゲームを取り上げて、コアが存在するゲームは限界生産性が逓増する経済に対応し、存在しないゲームでは逓減する経済に対応する、とされていて、開発初期の段階、日本では高度成長期の時期、また、開発を終えた成熟経済の現在に分析可能だとされていて、それなりに勉強になりました。最後に、基本的に入門的な解説書ですので、それほど複雑な理論は取り上げておらず、例えば、限定合理性などについてももう少し詳細な解説が欲しかった気がしますが、これくらいのボリュームの本で、入門的な解説といえども、ゲーム理論を網羅的に取り上げるのはムリなのか、と考えざるを得ません。出版社こそ、学術書が多い印象ですが、決してそう難しくはありません。その一方で、ここ10年くらいのある程度最新の専門論文にも言及があり、たぶん、それなりの専門知識あるエコノミストでも十分満足できる読書が楽しめるのではないか、という気がします。

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次に、夫馬賢治『ネイチャー資本主義』(PHP新書)です。著者は、いろんな肩書があるのですが、基本的に経営・金融コンサルタントではないか、と思います。本書では、基本的なメッセージとして、機関投資家がESG投資をはじめとしてサステイナブル経済に目覚め始めている現状では、マルクス主義的な社会変革や、あるいは、脱成長による環境負荷軽減に頼らずとも、機関投資家から経営者層に投資の結果としての気候変動=地球温暖化の抑制、あるいは、サステイナビリティへの配慮というシグナルを送れば、その方向でのイノベーションが促進され、成長を維持したままで環境負荷軽減というデカップリングが成立する可能性が大いにある、ということです。長くなりましたが、そういうことです。もう少し詳しく敷衍すれば、環境破壊や環境負荷の増大は、基本的に、資本主義的な経済成長や人口増加からもたらされ、さらに、その大本は強欲で利潤最大化を目的とする19世紀的な資本家の経済活動が根本原因である、という認識が基本にあります。ですから、マルクス主義的な社会変革、あるいは、そこまでいかなくても、何らかの資本主義的な経済活動を規制する脱成長が必要、という認識が広がっていたわけです。しかし、本書では、Glasgow Financial Alliance for Net Zero=GFANZ という機関投資家の活動を紹介しつつ、機関投資家が投資対象企業の経営者にサステイナビリティへの配慮を促すシグナルを送り、経営者がそのためのイノベーションに励むことにより、成長や人口増加と環境負荷増大は絶対的にデカップリングされる、という仮説を提唱しています。繰り返しになりますが、確認された事実を提示しているわけではなく、私はあくまで、本書では仮説を提唱していると受け止めています。ですから、実証の一例として、高収益なESG投資を上げています。専門外の私でも、ESG投資などのサステイナビリティを重視する投資がハイリターンを上げている実証研究が出始めていることは知っています。もちろん、疑問が残らないでもありません。この仮説が成立するには5点の実証的な確認とリンケージが必要です。第1に、ホントにサステイナビリティ重視の投資がハイリターンであるかどうか、第2に機関投資家がそれに気づくかどうか、第3に企業が機関投資家の意向に沿った経営をするかどうか、第4に経営者がサステイナビリティを重視する経営の方向性を決めたとしても実際に環境負荷軽減のイノベーションが可能かどうか、第5にこれらのイノベーションによって経済成長や人口増加と環境負荷軽減が絶対的にでカップリングされるかどうか、の5点となります。もちろん、可能性としては、大いにあると思いますが、第1の点については先進国では実証的に確認されている一方で、途上国や新興国ではどうなのでしょうか。特に、中国の動向が気がかりなのは、私だけではないと思います。この5点がすべて満たされないと、本書のデカップリング仮説は成り立ちません。発明のO-ring理論みたいで、関数はかけ算で示されて、ひとつでも失敗でゼロなら結果もゼロなわけです。ですから、単なるグリーンウォッシュにならないように願っています。

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次に、レジー『ファスト教養』(集英社新書)です。著者は、一般企業に勤務しつつのライター・ブロガーというようです。本書について論じる前に、軽く前口上を述べておくと、今年6月25日の読書感想文ブログで稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』を取り上げましたが、本書でも同じ視点を提供しています。すなわち、本書では、教養がビジネスに直結し、金銭的な利益をもたらす現状の教養欲求について、やや否定的な見方を提供しています。例えば、第5章のタイトルは「文化を侵食するファスト教養」となっていたりします。他方で、本書でも、何も教養的な活動をしないよりはマシ、という視点も示されています。私は、以前の麻生副総理的な表現ですが「民度」について同時に考えるべきではないか、と受け止めています。というのは、岸田総理が今国会冒頭の所信表明演説で用いた「リスキリング」≅学び直し、の反対の言葉として熟練崩壊を使う場合があります。現在の日本では非正規雇用という雇用形態の拡大や賃金上昇の抑制などから、マクロでスキルの低下や、さらに、熟練の崩壊が生じている可能性があります。進んで、こういった経済の下部構造をなす雇用の劣化から、教養や文化活動の劣化につながる「民度の低下」が生じている可能性を憂慮しています。日本人は、その昔から、手先が器用だとか、まじめな性格の人が多いとか、時間に正確であるとか、いろいろと労働者として高い生産性を持つ可能性を示唆する特徴を指摘されてきています。今でも、「日本人スゴイ」論とか、「日本スゴイ」論を取り上げる書籍やテレビ番組が少なくないのは広く知られているところです。他方で、賃金が上がらない理由として、私の目から見て完全な需要不足であるにもかかわらず、生産性が低い点を根拠にする議論も見かけます。スキルと生産性が需要不足によって乖離しているわけです。しかし、この賃金が抑制されていたり、あるいは、かなりの部分が重なりますが、非正規雇用が広がっていたりするために、日本人の「民度」が大きく低下し、この雇用という下部構造が文化や教養といった上部構造の歪みをもたらしている可能性がある、と私は考えているわけです。私の憂慮が杞憂に終わることを願っていますが、私の年齢では見届けられない可能性があるのが心残りです。

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次に、ホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』(創元推理文庫)です。著者は、英国のミステリ作家です。英語の原題は A Good Girl's Guide to Murder であり、2019年の出版です。主人公は、高校最終学年のJKであるピッパ(ピップ)で、英国のグラマー・スクールに通っていますから、日本では進学校の高校といったところです。事実、本書の最後の方で、主人公はケンブリッジ大学への入学を許可されたりしています。ということで、主人公が大学入学のひとつの参考資料となる自由研究で、自分の住む街で5年前に起きたJK失踪事件をリサーチするところから始まります。5年前に失踪したJKはあ同じグラマー・スクールに通っていましたので、まあ、数年先輩に当たるわけです。この失踪事件は、被害者の死体が発見されないながらも殺人事件ということで処理され、被害者の同級生、アルイハ、ボーイフレンドが犯人と目されますが、その同級生は事件直後に自殺します。主人公のJK箱の戸津急性は犯人ではない可能性がある、と考えて調査を始めるわけですが、途中からこの犯人と目された同級生の弟が調査に加わります。関係者へのインタビューから始まって、調査を続けるうちに、動機があったり、アリバイがなかったり、次々と新たな容疑者が浮かび上がります。通常のインタビューだけでなく、なりすましの電話で情報を引き出したり、いくつか倫理的に許容されなさそうな手法で調査を続け、最後に、結論にたどり着きます。もちろん、英国のことですから、高校生であっても、ドラッグや、ポルノまがいの写真や、もちろん、人種差別なんかも出て来ます。日本の読者には名前から人種を想像するのが難しい嫌いはありますが、何となく差別される側であることは理解できるような気もします。そして、あくまで主人公のJKは強気に調査を進めるわけです。最後は、衝撃の結末では決してなく、それなりに論理的なエンディングなので安心できます。ただ、耳慣れな名前が続々と登場しますので、その点だけは混乱する読者もいるかも知れません。他方で、文庫本で600ページ近いボリュームですが、途中で放棄する読者は少ないと思います。なお、続編で同じ主人公の『優等生は探偵に向かない』も図書館に予約を入れてあります。

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最後に、ピーター・トレメイン『修道女フィデルマの采配』(創元推理文庫)です。著者は、英国生まれのけると学者であり、ミステリ小説も数多く執筆しています。英語の原題は Whispers of the Dead であり、2004年の出版です。ただし、原書の15話から5話だけを収録した短編集です。7世紀のアイルランドを舞台にして、タイトル通りに、修道女フィデルマが主人公となるミステリです。英語の原書はいっぱい出ていますし、邦訳も原書の半分までは行きませんが、相当数出ています。私も何冊か読んでいます。というか、大部分読んでいる気がします。私の場合、このシリーズは、エリス・ピーターズ作品の「修道士カドフェル」のシリーズとともに愛読しています。ノルマン・コンクェストの直後の12世紀前半のイングランドを舞台にした「修道士カドフェル」のシリーズは20巻ほどあって、私は全部読んでいると思います。ということで、フィデルマの活躍する7世紀アイルランドは、当時としてはかなりの先進国の仲間であり、法秩序のしっかりと安定した時代と考えてよさそうです。その次代と地理的な背景で、フィデルマはアイルランドにいくつか並立している王国の王の妹という高い身分で、しかも、法廷弁護士にして裁判官の資格を持つ修道女です。本書でも、アイルランドの各地を巡って難事件を解決するとともに、別の本では、キリスト教の総本山であるローマに出向いたこともあると記憶しています。まあ、ラテン語を理解すれば、現在の英語以上に、当時のキリスト教国では広く理解された国際語だったのでしょうから、特段の不便はなかった、ということなのだろうと私は理解しています。繰り返しになりますが、収録されている短編は5話であり、占星術で自ら占った通りに殺された修道士をめぐる事件で訴追された修道院長の無実を明らかにする「みずからの殺害を予言した占星術師」のほか、「魚泥棒は誰だ」、「養い親」、「「狼だ!」」、「法定推定相続人」の計5話となります。ブレホンとか、ドーリィーとか、耳慣れない用語がありますが、ミステリとしては一級品だと思います。このシリーズがさらに出版されれば、私は読みたいと考えています。

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2022年11月 4日 (金)

やや減速する気配の見られる米国雇用統計の先行きやいかに?

日本時間の今夜、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の7月統計では+261千人増となり、失業率は前月から+0.2%ポイント上昇の3.7%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をやや長めに11パラ引用すると以下の通りです。

October jobs report live updates: Economy added 261,000 jobs even as recession fears, inflation rose
Hiring stayed strong in October as employers added 261,000 jobs despite high inflation, rising interest rates and growing recession fears.
The unemployment rate rose from 3.5% to 3.7%, the Labor Department said Friday.
Economists had estimated that 190,000 jobs were added last month. The actual gain was the smallest since December 2020.
In recent months, job growth has downshifted from a robust average monthly pace of more than 400,000 for most of this year to about 290,000 the past three months but stayed resilient. Persistent worker shortages have led companies to avoid layoffs on fears they won't be able to fill openings when the economy bounces back.
Initial jobless claims, a gauge of layoffs, totaled a historically low 217,000 last week.
Health care led October's job gains with 53,000. Professional and business services added 39,000; leisure and hospitality, 35,000, with hotels accounting for the bulk of the new positions; and manufacturing, 32,000.
Federal, state and local governments added 28,000 jobs.
In a sign that worker shortages could persist, the share of adults working or job-hunting edged down to 62.2%, leaving it well below the pre-pandemic level of 63.4%. The labor force participation rate generally had been rising since 2020 as workers returned to a hot labor market after caring for children or staying idle because of COVID-19 fears.
But that share has roughly held steady this year, signaling that most Americans intent on coming back to the workforce have done so. That could maintain upward pressure on wages as employers jostle for a more limited pool of workers.
Last month, average hourly wages rose 12 cents to $32.58, lowering the annual increase from 5% in August to a still healthy 4.7%.
The prospect of continuing labor shortages and elevated wage growth will likely mean more hefty interest rate hikes by a Federal Reserve determined to tame inflation stuck just below a 40-year high at 8.2%, economists say.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加がまだ+200千人をかなり超えているわけですし、失業率も3%台半ばですので、人手不足は落ち着きつつあるものの、労働市場の過熱感はまだ残っていると考えるべきです。もちろん、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が極めて急速な利上げを実行していますので、ひとまず、景気には急ブレーキがかかりつつあり、このままリセッションまで突き進むことを危惧する見方も少なくないようです。なお、どこで見たかは忘れたのでソースは示せませんが、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+200千人程度の雇用増との見通しだったので、実績はやや上振れた印象です。
私がいつも大学の授業で強調しているように、市場経済では価格をシグナルとする資源配分が効率的であるわけですから、インフレで価格シグナルに撹乱が生じるのは効率性を大きく阻害します。ですから、インフレを抑制すべく、極端にいえば、景気を犠牲にして景気後退を招くことをいとわず物価の安定を目指すべき、という経済政策運営上のコンセンサスがあります。ですから、私は、コトここに至っては、米国や英国を始めとする他の西欧諸国のうち、インフレ抑制=物価安定のために景気後退を覚悟の上で金融引締めを継続する国は決して少なくないと考えています。
他方で、日本経済は米国よりも中国経済の影響の方が強くなっていることから、米国のリセッションからデカップリングされる可能性はまだ残されていると期待しています。ただ、中国はゼロ・コロナ政策ですので、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大次第、という面はあります。

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最後に、上のグラフは米国の時間当たり賃金と消費者物価の上昇率をプロットしています。影をつけた期間は景気後退期です。コロナによる景気後退期に少しイレギュラーな動きを示していますが、米国では消費者物価上昇率は+10%近くの2ケタに迫り、賃金上昇率も軽く+5%を越えているのが見て取れます。賃金がほとんど上がらず、消費者物価上昇率も+3%ほどで推移している日本とは違うんです。米国をはじめとする諸外国が利上げをしたからといって、我が国でも利上げすべき、という議論はまったく成立しません。

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2022年11月 3日 (木)

今年のベスト経済書やいかに?

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昨日から11月に入って、そろそろ、経済週刊誌から今年のベスト経済書に関するアンケートが送られてくる季節になっています。昨年は、私は野口旭先生の『反緊縮の経済学』(東洋経済)を推して、確か、この本自体がまったく上位に入らなかった記憶があります。昨年は『監視資本主義』なんかが流行ったんではなかったでしょうか?
今年の読書感想文ブログを振り返って、以下の10冊が私のチョイスとなります。なお、10冊といいながら、実は11冊リストアップしてあるのですが、最後のスティーブン・ピンカー『人はどこまで合理的か』については、心理学の要素が強くて経済書ではないのではないか、という観点からオマケで付け加えてあります。

  1. オリヴィエ・ブランシャール & ダニ・ロドリック[編]『格差と闘え』(慶応義塾大学出版会)
  2. 福田慎一[編]『コロナ時代の日本経済』(東京大学出版会)
  3. ヤニス・バルファキス『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』(講談社)
  4. ロバート・スキデルスキー『経済学のどこが問題なのか』(名古屋大学出版会)
  5. チャールズ・グッドハート & マノジ・プラダン『人口大逆転』(日本経済新聞出版)
  6. カトリーン・マルサル『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』(河出書房新社)
  7. ペリー・メーリング『21世紀のロンバード街』(東洋経済)
  8. 岩田規久男『資本主義経済の未来』(夕日書房)
  9. 小林光・岩田一政『カーボンニュートラルの経済学』(日本経済新聞出版)
  10. 大門実紀史『やさしく強い経済』(新日本出版社)
  11. スティーブン・ピンカー『人はどこまで合理的か』上下(草思社)

まあ、『格差と闘え』で決まりなのかという気はします。

逆に、以下の2冊は、何人かのエコノミストは選定すると思いますが、私が読んだ中では、やや的外れな印象を持った2冊といえます。これは、単なるご参考です。

  1. 中曽宏『最後の防衛線』(日本経済新聞出版)
  2. 河野龍太郎『成長の臨界』(慶應義塾大学出版会)

世間一般は文化の日のお休みながら、私は祝日授業日ですので出勤しています。軽く読書感想文のブログに分類しておきます。

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2022年11月 2日 (水)

ニッセイ基礎研究所のリポート「定年後の働き方と幸福度の関係」やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、先週10月27日にニッセイ基礎研究所から「定年後の働き方と幸福度の関係」と題するリポートが明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。何が私の目を引いたのかというと、サンプル数が少ないのは仕方ないとしても、会社員と公務員に分けて定年前後の幸福度を明らかにしている点です。加えて、結論として「定年後も働き続けることによって幸福度が高まるという示唆は得られなかった」という点はとっても強調されてしかるべきだと私は考えます。ということで、リポートからグラフをいくつか引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 定年前後の幸福度 を引用しています。「定年前」とは57歳~60歳の定年前の回答者であり、「定年後」とは60歳のうち定年後と61歳の回答者です。それぞれの幸福度の平均を取っていて、見れば判る通り、会社員と公務員で分類しています。どちらも、定年後の方が幸福度が高まっているのですが、会社員の方が+0.5ポイントも幸福度が高まっているのに対して、公務員は+0.1ポイントしか高まっていません。一部には、定年後の働き方、特に、時間的な余裕の違いに起因する可能性が示唆されている、と考えられます。

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ということで、続いて、上のグラフはリポートから 定年前後の幸福度/定年前後の時間の余裕 (定年後の働き方別) を引用しています。というか、定年前後の幸福度のグラフと定年前後の時間の余裕のグラフを結合しています。働き方と幸福度/時間的余裕なんかが、いくつかかけているものの、基本的に4次元になっています。もう少しグラフを工夫すればもっといいプレゼンになるのに、と思わないでもないのですが、以下のような次元に分解できます。
(会社員/公務員)×(定年前/定年後)×(同じ企業・団体/別の企業・団体)×(フルタイム/パートタイム/働かない)
ただし、(会社員)×(定年後)×(同じ企業・団体/別の企業・団体)×(パートタイム)の2ケースはなぜか欠けています。それはともかく、私の目から見れば、ほぼ無相関に見えます。無相関に見えますが、(公務員)×(定年後)×(同じ企業・団体/別の企業・団体)×(パートタイム)についてのみ、有意に時間的余裕が増えて、幸福度も高まっているように見えます。誠に残念ながら、私はこのカテゴリーには入りません。というのも、一応、私はフルタイムで大学教員をしているからです。でも、65歳で定年になれば、うまくいけば、特任教授という名のパートタイムになれるかもしれません。まあ、働きが悪いのでダメかもしれませんが。
そして、このリポートの結論として、第1に、会社員については定年を迎えることで定年後の働くにせよ、働かないにせよ、幸福度が高まる可能性がある一方で、第2に、公務員については定年後に働かないことによってしか幸福度が高まらない可能性が示唆されています。私のように公務員としての定年後も働いている場合は、幸福度が高まらないわけです。そうかもしれません。ですので、第3に、定年延長や定年の撤廃によって働き続けることは必ずしも個々人の幸せにつながるわけではない、という点が強調されています。

最後の最後に、リポートではほとんど取り上げられていませんが、最後のpp.7-8にある線形回帰モデルの推定結果、特に、私の関心半位の定年後についてコメントしておきたいと思います。すなわち、通常、経済学で考えられている5%水準で有意な結果は、上のいくつかの次元で示した影響因子の範囲、(同じ企業・団体/別の企業・団体)×(フルタイム/パートタイム/働かない)では、ほとんどありません。そうではなく、金融資産、女性ダミー、結婚している人ダミーで決まっています。一般に男性よりも女性の方が幸福度が高く、性別以外では、当然ながら、金融資産が多いほど幸福度が高く、結婚している人の方が幸福度が高い、という、いわば、当然の結果が統計的に確かめられたというのは、それなりに意味ありますが、このリポートで示された影響因子はあまり関係ない、という結論かもしれません。しかし、ですからこそ、定年後に同じ企業や団体であろうと、別であろうと、あるいは、フルタイムであろうと、パートタイムであろうと、定年延長や定年撤廃で働き続けることは幸福度を高めるわけではない、という点は強調すべきかという気はします。私は授業では「生涯現役社会」には反対で、いつかの時点では引退したい、と正直に表明しています。

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2022年11月 1日 (火)

「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」の経済効果やいかに?

先週金曜日の10月28日に、政府は「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を決定しています。広く報じられているところながら、おさらいとして、この政府の「総合経済対策」については、以下の4本が柱となっています。

  1. 物価高騰・賃上げへの取組 (財政支出12.2兆円)
  2. 円安を活かした地域の「稼ぐ力」の回復・強化 (財政支出4.8兆円)
  3. 「新しい資本主義」の加速 (財政支出6.7兆円)
  4. 防災・減災、国土強靱化の推進、外交・安全保障環境の変化への対応など、国民の安全・安心の確保 (財政支出10.6兆円)

なお、財政支出は上の4本の柱とは別に5番目に「今後への備え」という項目に4.7兆円が積まれていて、それで合計39兆円と私が愛用する電卓ははじき出してくれましたが、メディアではこの「総合経済対策」を裏付ける補正予算は、直前担って4兆円が上積みされて総額29.1兆円と報じられています。もちろん、NHKのサイトのように39兆円と私の電卓と同じ結果を示すニュースもいくつかありましたが、「直前に上積みされて29兆円」というニュースが多かった印象を受けるのは私だけでしょうか。いずれにせよ、私にはこのカラクリはよく判りませんが、いわゆる「真水」部分はもっと少ないのかもしれません。そして、この「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策の効果」の政府による試算として、実質GDPの押上げ効果が+4.6%程度、消費者物価のヘッドライン上昇率を▲1.2%程度抑制、とはじき出しています。消費者物価上昇率の抑制は電気・ガス料金とガソリン・灯油を合わせた効果と見込んでいます。
なお、「経済対策」の大きな眼目は当然ながら第1の柱にあるわけでしょうが、ちなみに、第2の柱から、円安はメリット享受の方向で活用するとして、円安そのものは特に政策対応しない、という方針のようです。為替市場介入はあくまでスムージング・オペレーションという考えなのだと思います。また、第3の柱のタイトルを考慮すると、「新しい資本主義」はすでにかなりの程度に実現化されていて、この「総合経済対策」はそれを加速するだけ、という意味合いが込められていることと思いますが、「新しい資本主義」なんて、まったく始まってもいないと感じているのは、私だけなんでしょうか?

他方で、同じ10月28日に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングから「物価高対策が消費者物価に及ぼす影響」と題するリポートが明らかにされています。タイトル通りの内容で、政府の「総合経済対策」の効果のうち、消費者物価の引下げについて論じています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。そして、このリポートでは、電気代は約20%、都市ガス代は約15%押し下げられ、2023年1月の消費者物価指数(総合)は約▲1%ポイント(うち電気代による寄与▲0.8%ポイント、ガス代による寄与▲0.2%ポイント)下押しされるとの推計結果を示しています。政府の▲1.2%程度の抑制は電気・ガス料金だけでなく、ガソリン・灯油も含んだ効果ですので、このリポートの電気・ガス料金だけの▲1.0%と不整合はありません。

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