3か月連続で改善した10月の景気ウォッチャーと黒字が大きく縮小した9月の経常収支をどう見るか?
本日、内閣府から10月の景気ウォッチャーが、また、財務省から9月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.5ポイント上昇の49.9となった一方で、先行き判断DIは▲2.8ポイント低下の46.4を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+9093億円の黒字を計上しています。まず、NHKと日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
10月の景気ウォッチャー調査 3か月連続改善も先行きの指数悪化
働く人に景気の実感を聞く内閣府の10月の景気ウォッチャー調査で景気の現状を示す指数が3か月連続で改善しました。ただ、物価高騰などの影響で景気の先行きを示す指数は悪化しています。
この調査では、働く人たち2000人余りに、3か月前と比べた景気の実感を聞き指数にしています。
今回の調査は10月25日から月末にかけて行われ、景気の現状を示す指数は49.9と、前の月を1.5ポイント上回り、3か月連続で改善しました。
新型コロナウイルスの感染者数の減少に加え、全国旅行支援や入国制限の緩和が後押しとなってホテルや飲食店などから来客数が増加しているという答えが寄せられました。
ただ、2か月から3か月先の景気の先行きを示す指数は前の月を2.8ポイント下回って46.4となり、2か月連続で悪化しました。
家電量販店などからは「商品の値上げが影響し買い控えがしばらく続きそうだ」という声が聞かれました。
調査結果を踏まえ、内閣府は「景気は持ち直しの動きがみられる」と、これまでと同じ基調判断を示しましたが、先行きについては「価格上昇の影響などに対する懸念が見られる」としています。
経常黒字58%減の4.8兆円 4-9月、14年度以来の低水準
財務省が9日発表した2022年度上期(4~9月)の国際収支統計の速報値によると、貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支は4兆8458億円の黒字だった。前年同期から6兆8627億円(58.6%)減り、上期としては2兆8163億円だった14年度以来の低水準となった。円安と資源高でエネルギー関連の輸入額が膨らんだ。
経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。黒字の減少額は下期を合わせた半期として、リーマン・ショックがあった08年度下期に次ぐ過去2番目の大きさだった。
貿易収支の赤字が過去最大の9兆2334億円となり、全体を押し下げた。輸入額は58兆7556億円と47.1%増えた。原油や石炭、液化天然ガス(LNG)の価格上昇が響いた。輸出額は21.3%増の49兆5222億円だった。輸出入額とも過去最大となったが、輸入の増加ペースが輸出を大きく上回った。
第1次所得収支の黒字は25.2%増の18兆2332億円となり、過去最大を更新した。資源関連事業などが好調で、海外子会社からの配当や現地に再投資する内部留保が増えたとみられる。円安・ドル高で円換算額が増えた面もある。サービス収支は3兆1639億円の赤字だった。
9月単月の経常黒字は前年同月比45.0%減の9093億円だった。貿易収支が1兆7597億円の赤字、サービス収支が3431億円の赤字、第1次所得収支が3兆2226億円の黒字だった。
いつもながら、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。
現状判断DIは、ここ半年ほどを見れば、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大にほぼ従う形で、やや荒っぽい動きを示しています。上のグラフの通りです。すなわち、3月21日でまん延防止等重点措置の行動制限が終了した後、4月50.4、5月54.0、6月52.9と50超の水準が続いたものの、COVID-19の感染拡大により7月は43.8へ大きく悪化した後、8月45.5、9月48.4、10月49.9と、緩やかに改善してきているものの、その前の50超の水準には戻っていません。足元では、新型コロナウイルスの感染者数の落ち着きに加え、全国旅行支援や入国制限の緩和が後押しとなってホテルや飲食店などから来客数が増加しているという見方もできます。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いています。ただし、先行き判断DIがやや低下したのは、引用した記事にもあるように、食品の値上げラッシュに加えて、耐久財でも値上げが見られ始めてており、買い控えの影響により売上への影響は避けられない、という見方だろうと思います。現状判断DIに戻って、10月の統計を9月からの前月差で少し詳しく見ると、家計動向関連が+2.6ポイントの改善と、企業動向関連の+0.6ポイントよりも大きく上昇しています。中でも、サービス関連が+6.5、飲食関連が+4.3ポイントの上昇となっています。いかにも、COVID-19の感染拡大に対応した動きと私は考えています。他方で、企業動向関連では製造業の+1.3の上昇に対して、非製造業は▲0.2ポイントの悪化となっています。また、雇用関連が▲4.2ポイントの悪化となっています。インフレと円安の影響であろうと考えています。何度か、このブログでも明らかにしているように、消費は所得とマインドの影響が大きく出ます。マインドは何といってもCOVID-19次第ということですから、エコノミストの手に負えません。
続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整をしていない原系列の統計で見て、最近の統計で、季節調整していない原系列、季節調整済みの系列ともに、ほぼほぼ経常黒字を記録しています。ここ1年間で経常赤字を記録したのは、原系列の統計の1月統計▲5804億円だけです。ただし、この経常黒字の水準は大きく縮小しています。その要因は貿易収支の赤字です。もっとも、注意しておくべき点があります。すなわち、広く報じられているのでついつい信じ込みやすくなるのですが、今年2022年2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻による資源高、あるいはこれに対応した欧米での金融引締めに起因する円安が原因で貿易赤字になっているわけではない点は理解しておくべきです。正確には、季節調整済みの系列で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から1年あまり14か月に渡って継続しています。サービス収支も合わせた貿易サービス収支ではさらに2か月さかのぼって2021年6月から16か月連続の赤字が続いています。季節調整していない原系列の貿易収支で見ても、昨年2021年11月から11か月連続の貿易赤字となっています。ですから、貿易赤字はウクライナ危機による資源高や円安の半年ほど前から始まっている点は見逃すべきではありません。もちろん、国際商品市況で石油をはじめとする資源価格が値上がりしているのは事実であり、資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然です。消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。
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