ニッセイ基礎研究所のリポート「定年後の働き方と幸福度の関係」やいかに?
やや旧聞に属するトピックながら、先週10月27日にニッセイ基礎研究所から「定年後の働き方と幸福度の関係」と題するリポートが明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。何が私の目を引いたのかというと、サンプル数が少ないのは仕方ないとしても、会社員と公務員に分けて定年前後の幸福度を明らかにしている点です。加えて、結論として「定年後も働き続けることによって幸福度が高まるという示唆は得られなかった」という点はとっても強調されてしかるべきだと私は考えます。ということで、リポートからグラフをいくつか引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、上のグラフはリポートから 定年前後の幸福度 を引用しています。「定年前」とは57歳~60歳の定年前の回答者であり、「定年後」とは60歳のうち定年後と61歳の回答者です。それぞれの幸福度の平均を取っていて、見れば判る通り、会社員と公務員で分類しています。どちらも、定年後の方が幸福度が高まっているのですが、会社員の方が+0.5ポイントも幸福度が高まっているのに対して、公務員は+0.1ポイントしか高まっていません。一部には、定年後の働き方、特に、時間的な余裕の違いに起因する可能性が示唆されている、と考えられます。
ということで、続いて、上のグラフはリポートから 定年前後の幸福度/定年前後の時間の余裕 (定年後の働き方別) を引用しています。というか、定年前後の幸福度のグラフと定年前後の時間の余裕のグラフを結合しています。働き方と幸福度/時間的余裕なんかが、いくつかかけているものの、基本的に4次元になっています。もう少しグラフを工夫すればもっといいプレゼンになるのに、と思わないでもないのですが、以下のような次元に分解できます。
(会社員/公務員)×(定年前/定年後)×(同じ企業・団体/別の企業・団体)×(フルタイム/パートタイム/働かない)
ただし、(会社員)×(定年後)×(同じ企業・団体/別の企業・団体)×(パートタイム)の2ケースはなぜか欠けています。それはともかく、私の目から見れば、ほぼ に見えます。無相関に見えますが、(公務員)×(定年後)×(同じ企業・団体/別の企業・団体)×(パートタイム)についてのみ、有意に時間的余裕が増えて、幸福度も高まっているように見えます。誠に残念ながら、私はこのカテゴリーには入りません。というのも、一応、私はフルタイムで大学教員をしているからです。でも、65歳で定年になれば、うまくいけば、特任教授という名のパートタイムになれるかもしれません。まあ、働きが悪いのでダメかもしれませんが。
そして、このリポートの結論として、第1に、会社員については定年を迎えることで定年後の働くにせよ、働かないにせよ、幸福度が高まる可能性がある一方で、第2に、公務員については定年後に働かないことによってしか幸福度が高まらない可能性が示唆されています。私のように公務員としての定年後も働いている場合は、幸福度が高まらないわけです。そうかもしれません。ですので、第3に、定年延長や定年の撤廃によって働き続けることは必ずしも個々人の幸せにつながるわけではない、という点が強調されています。
最後の最後に、リポートではほとんど取り上げられていませんが、最後のpp.7-8にある線形回帰モデルの推定結果、特に、私の関心半位の定年後についてコメントしておきたいと思います。すなわち、通常、経済学で考えられている5%水準で有意な結果は、上のいくつかの次元で示した影響因子の範囲、(同じ企業・団体/別の企業・団体)×(フルタイム/パートタイム/働かない)では、ほとんどありません。そうではなく、金融資産、女性ダミー、結婚している人ダミーで決まっています。一般に男性よりも女性の方が幸福度が高く、性別以外では、当然ながら、金融資産が多いほど幸福度が高く、結婚している人の方が幸福度が高い、という、いわば、当然の結果が統計的に確かめられたというのは、それなりに意味ありますが、このリポートで示された影響因子はあまり関係ない、という結論かもしれません。しかし、ですからこそ、定年後に同じ企業や団体であろうと、別であろうと、あるいは、フルタイムであろうと、パートタイムであろうと、定年延長や定年撤廃で働き続けることは幸福度を高めるわけではない、という点は強調すべきかという気はします。私は授業では「生涯現役社会」には反対で、いつかの時点では引退したい、と正直に表明しています。
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