やや減速する気配の見られる米国雇用統計の先行きやいかに?
日本時間の今夜、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の7月統計では+261千人増となり、失業率は前月から+0.2%ポイント上昇の3.7%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をやや長めに11パラ引用すると以下の通りです。
October jobs report live updates: Economy added 261,000 jobs even as recession fears, inflation rose
Hiring stayed strong in October as employers added 261,000 jobs despite high inflation, rising interest rates and growing recession fears.
The unemployment rate rose from 3.5% to 3.7%, the Labor Department said Friday.
Economists had estimated that 190,000 jobs were added last month. The actual gain was the smallest since December 2020.
In recent months, job growth has downshifted from a robust average monthly pace of more than 400,000 for most of this year to about 290,000 the past three months but stayed resilient. Persistent worker shortages have led companies to avoid layoffs on fears they won't be able to fill openings when the economy bounces back.
Initial jobless claims, a gauge of layoffs, totaled a historically low 217,000 last week.
Health care led October's job gains with 53,000. Professional and business services added 39,000; leisure and hospitality, 35,000, with hotels accounting for the bulk of the new positions; and manufacturing, 32,000.
Federal, state and local governments added 28,000 jobs.
In a sign that worker shortages could persist, the share of adults working or job-hunting edged down to 62.2%, leaving it well below the pre-pandemic level of 63.4%. The labor force participation rate generally had been rising since 2020 as workers returned to a hot labor market after caring for children or staying idle because of COVID-19 fears.
But that share has roughly held steady this year, signaling that most Americans intent on coming back to the workforce have done so. That could maintain upward pressure on wages as employers jostle for a more limited pool of workers.
Last month, average hourly wages rose 12 cents to $32.58, lowering the annual increase from 5% in August to a still healthy 4.7%.
The prospect of continuing labor shortages and elevated wage growth will likely mean more hefty interest rate hikes by a Federal Reserve determined to tame inflation stuck just below a 40-year high at 8.2%, economists say.
よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。
ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加がまだ+200千人をかなり超えているわけですし、失業率も3%台半ばですので、人手不足は落ち着きつつあるものの、労働市場の過熱感はまだ残っていると考えるべきです。もちろん、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が極めて急速な利上げを実行していますので、ひとまず、景気には急ブレーキがかかりつつあり、このままリセッションまで突き進むことを危惧する見方も少なくないようです。なお、どこで見たかは忘れたのでソースは示せませんが、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+200千人程度の雇用増との見通しだったので、実績はやや上振れた印象です。
私がいつも大学の授業で強調しているように、市場経済では価格をシグナルとする資源配分が効率的であるわけですから、インフレで価格シグナルに撹乱が生じるのは効率性を大きく阻害します。ですから、インフレを抑制すべく、極端にいえば、景気を犠牲にして景気後退を招くことをいとわず物価の安定を目指すべき、という経済政策運営上のコンセンサスがあります。ですから、私は、コトここに至っては、米国や英国を始めとする他の西欧諸国のうち、インフレ抑制=物価安定のために景気後退を覚悟の上で金融引締めを継続する国は決して少なくないと考えています。
他方で、日本経済は米国よりも中国経済の影響の方が強くなっていることから、米国のリセッションからデカップリングされる可能性はまだ残されていると期待しています。ただ、中国はゼロ・コロナ政策ですので、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大次第、という面はあります。
最後に、上のグラフは米国の時間当たり賃金と消費者物価の上昇率をプロットしています。影をつけた期間は景気後退期です。コロナによる景気後退期に少しイレギュラーな動きを示していますが、米国では消費者物価上昇率は+10%近くの2ケタに迫り、賃金上昇率も軽く+5%を越えているのが見て取れます。賃金がほとんど上がらず、消費者物価上昇率も+3%ほどで推移している日本とは違うんです。米国をはじめとする諸外国が利上げをしたからといって、我が国でも利上げすべき、という議論はまったく成立しません。
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